星空を映し咲く(櫻 茅子 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 綺羅輝夜。きらかぐや、と読むその花は、星空を映したかのように煌めく花びらが特徴で、日の光ではなく綺麗な夜空、星々の輝きを栄養に育つ不思議な花だ。
 そんな綺羅輝夜を育てている公園で、ある企画が動きはじめていた。といっても、大掛かりなものではない。綺羅輝夜が特別美しく咲くこの季節にあわせ、来場者にちょっとした贈り物をする、というものだ。
 公園であることを踏まえ、片手でも気軽に食べられるものと考えた結果、贈り物はクレープという結果に落ち着いた。「いちご&クリーム」「チョコ&バナナ」の2種に加え、甘いものが苦手な人、お腹を満たしたい人のために「ハム&チーズ&レタス」、全3種を用意する予定だ。
 綺羅輝夜は、昼に見れば夜空と青空に挟まれたかのような不思議な世界が楽しめ、夜に見れば夜空の上に立つような幻想的な時間を楽しむことができる。
「お客さん、いっぱい来てくれるといいですね兄さん~」
「そうだね妹ちゃん~」
 クレープを作ることになった兄妹はのんびりと準備に向かう。二十歳過ぎとは思えないほどおっとりした二人に、周りは「大丈夫か……」とちょっと不安になったものの、仕事はきっちりこなす彼らだ、大丈夫だろう。きっと。うん。
「じゃ、妹ちゃん、今日からクレープの練習でもしようか~」
「そうだね~。おいしく作れるようにがんばろうね~」
「ね~。おいしかったし花は綺麗だったしって、そう言ってもらえるようにしないとね~」
 和やかすぎるのは変わらないが、彼らの言葉は企画をたちあげた全員が思っていることだった。
 笑顔をこぼし、企画の成功を祈りながら準備へと向かうのだった。

 さて、着々と準備が進んでいる公園で、『妹ちゃん』と呼ばれる女性が「あら~?」と首を傾げた。というのも、青い鳥が空を駆けていったその直後、「妹ちゃんもそろそろ独り立ちする年かぁ」と、そんな声が聞こえたのだ。声は、すぐ前を近くで休憩している兄のもので……。
「ん、どうしたんだい妹ちゃん~?」
「ん~……。兄さん、私、まだしばらく兄さんのお世話になりますからね~」
「それは嬉しいなぁ。でも、急にどうしたの~?」
「え~? だって、兄さんが『妹もそろそろ独り立ちするのかぁ』って言ったんじゃないですか~」
「言ってないよ~?」
「え~?」
 たしかに、妹としても兄がこの状況でそんな話をするようには思えないのだけれど、たしかに聞こえたのだ。お互いに首を傾げていると、企画のまとめ役である男性がずんずんと大股に近づいてきた。
「なんだなんだ、ぼんやり兄妹! 喋ってないで手を動かせ、手を!」
「あ、イインチョさん~」
「聞いてくださいよ~イインチョさん~」
「シャチョサンみたいなノリで言うのやめろや。……で、何があったってんだ?」
「それがですね~」
 なんだかんだ、この男性――委員長さんと呼ばれる彼は、話を聞いてくれた。妹ちゃんの話を聞き終えると、彼は「青い鳥に会ったんじゃないか?」と質問する。
「あ、そうです、見ました~。それにしても、なんでそのことを~?」
「なんだ、知らなかったのか」
 委員長さんはがははと笑うと、この公園にまつわるちょっと不思議な話を教えてくれた。
「この公園に住む……いや、住んでいるのかはわからないが、とにかくここで青い鳥を見ることができると、大事な相手の心の声が少しだけ聞こえるって噂があってな。だから、お前は兄の心の声が聞こえたってこった」
 他にも動物が住み着いているみたいだから、機会があったら会えるだろう。
 そう続けた委員長さんに、兄は「その子たちも不思議な力を持ってたりするんですかね~」と聞いてみる。だが、それぞれ甘えにくるだけで、青い鳥のような力はないとのことだった。
「なるほど~。つまり私は、兄さんが大切なんですね~」
「それは嬉しいな妹ちゃん~。青い鳥さんには感謝しないと~」
 そこまで言って、兄は「あっ」と何か思いついたようだった。
「今の話、宣伝に使えませんかね~?」
「たしかに~。興味を持ってくれるお客さんもいそうですね~」
 その言葉に、委員長さんは数秒閉口した後。
「……今から、追加でポスターでも作るか!」
 と膝を打った。
「よっ、さすがイインチョさん~!」
「男前~!」
「持ち上げ方雑すぎんだろ! ほら、さっさと仕事に戻れ! ポスターはお前らに作ってもらうからな!」
「「え~!!」」

 そして、彼らの準備が実を結ぶ日がやってくる――

解説

●クレープについて
希望者はプロローグにある通り、

A:いちご&クリーム
B:チョコ&バナナ
C:ハム&チーズ&レタス

上記3種の中から一人一つ、無料でもらうことができます。
プランに記入する際は、A~Cのアルファベットで指定していただいて構いません。

●公園に現れるという動物について
6面ダイスを2つ振っていただき、その結果で会える動物が変わります。詳細は以下。

2つの数字を足した数が偶数の場合:犬
 クレープの香りに誘われたのか、それとも何かおいしそうな匂いがしたのか、単純に惹かれたのか……理由は定かではありませんが、神人と精霊、二人の口元をぺろぺろして去ります。犬を介しての関節キス、になるのかもしれません。

2つの数字を足した数が奇数の場合:猫
 いい雰囲気になったところを邪魔しに行きます。
 告白? そんなことより私を可愛がることの方が重要でしょう。

ゾロ目の場合:青い鳥
 パートナーの本音を聞くことができます。ただし、一言二言程度と短めです。
 普段、彼が秘めている想いを覗けるので、狙って訪れるお客さんも多いようです。

●プランについて
・希望の時間帯がある人は何時頃に訪れたか
 特にないようであれば、こちらで設定します。

・公園を訪れた経緯
 偶然訪れたのか、青い鳥の噂を知って来たのか、それともクレープにつられてか教えていただければと思います。

・ダイスの結果(会えた動物)

上記3点の記載をお願いいたします。
※親密度によってはアクションが不成功になる場合もございます。ご了承くださいませ。

●消費ジェール
交通費として『500ジェール』消費します。

ゲームマスターより

こんにちは、櫻です。男性側では少しお久しぶりになるのでしょうか?
今回のエピソードには花と動物と食べ物と、好きなものを詰め込んでみました。ジャンルはハートフルになっていますが、コメディでもロマンスでも構わないのですよ…!

では、よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)

  時間帯:夜

経緯:クレープにつられて来た

ダイス結果:ゾロ目・青い鳥

クレープ:B

タダでクレープ食べられて、綺麗な花が見れるなんて最高だ
花より団子状態だったけど…広がる光景に息を飲む
星空の中を歩くような…
フィン、凄いな!
振り返って、綺羅輝夜に囲まれたフィンが綺麗で息を飲む
…何というか、俺が隣に居ていいのかな等と思ってしまう
ついとフィンの袖先を掴んで

「何となくフィンが迷子になりそうだから」と誤魔化した
その時、青い鳥が…

『フィンが何処かに行ってしまわないように…』

何てタイミングで来るんだ…恥ずかしくて顔を上げられない
子供っぽい独占欲じみた本音…フィン呆れてないか?

ああ、絶対に離してやらない

花、綺麗だな…


ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  アドリブ可


想い
頭では分かってるが、まだお前との距離感が掴めない

サーシャの誘いで公園へ
多少サーシャとわだかまり有
香水つける
青い鳥の噂は知らない

人生初のクレープを食べて目を瞠る
思わず子供らしい反応を取り顔背けて照れ隠し
話逸らす為に綺羅輝夜を見る
物珍しい色に目が吸いこまれる
自分が知らない世界や物に触れるのを素直に楽しいと思えるようになったのは故郷襲撃前以来か

その時青い鳥の影響で想いが洩れる
サーシャの突然の行動に驚く
問いには無言
サーシャの温もりに酷く落ち着いている自分がいて軽く目を閉じる

確かな繋がりと安心感
無条件の信頼を互いに寄せて

目を開ければいつもの己へ
心の靄が晴れてイイ顔に
帰って鍛練の続きをする



新月・やよい(バルト)
 

●来た理由
光る花とクレープに誘われて
夜に来てみる


見て下さい、天之川の上を歩いてるみたいですよ!
叱られたら、えへへと笑う
「君にとっては小さな散歩でも、僕にとっては大きな旅ですので」
クレープが美味しくて幸せです

でも外は少し肌寒かったかな
暗いなら外しても平気かな、と背伸びして
僕の付けてたマフラーを君に
似合うと思いましてね、なんて照れ笑い

あ、バルト。鳥が来ましたよ!
青い鳥…童話が懐かしいですね
「好きですよ。君はよく僕の好きなものを聞きますね」
質問に頭真っ白
「…あ!もちろん君の事好きですよ。親友のように思って…」

“何かしたかな?君のことで頭がいっぱいでした…”

なんでしょうか
この恥ずかしさは

死にたい






カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  21時頃

綺羅輝夜…仕事でこれモチーフの指輪頼まれてな
写真も貰ったが、実物見ておいた方がいいだろ
違和感殺人事件は名探偵の解決に期待しておく

この時間だとデザートだな
※夕飯は食べてきた
※いちご&クリーム選択

へー見事だな
依頼主の指定も分かる
※素直に感心

『何でカインさんはそんなに察しがいいのか』

今の何だ
※宣伝知らない
青い鳥?そんなのいたのかって…あれがそうか
へー本音…
俺の察しがいいんじゃなくて、てめぇが分かり易いだけだろ
俺の本音?
そうだけど、それがどうかしたのか?
別に隠してはねぇし、不都合はねぇな
てめぇは何か不都合でも?
※やたらイイ笑顔で頭を抱き寄せ撫でる
(…ピャアアアレベル2。可愛い奴だ)と内心で評価



葵田 正身(うばら)
  うばらを誘い昼下がりの公園へ。
男一人クレープ片手に花見は寂し過ぎるので付き合ってくれ、と
何とか同行を頼みました

綺羅輝夜の美しさに思わず溜息。
近付けるなら手の平を花に翳してみたりなど。
陽射しの加減で煌めきが変化して趣深いです
葉等、花弁以外も観察します

花と云うか植物全般好きだな。家でも色々育てている
……所で、小腹が空かないか?

クレープはハム&チーズ&レタス。
うばらも同じもの――おや、陽が翳りましたね
あれは青い鳥でしょうか

『俺、いちごがいいな……』

思わず笑いを堪えて。鳥の噂は聞いています
何食わぬ顔で「彼にはいちご&クリームを」
抗議するうばらには「其方も食べたかったんだ。一口くれ」と
尤もらしい弁解を。


●空に挟まれて
「男一人クレープ片手に花見は寂し過ぎるので付き合ってくれ」
 と、『葵田 正身』から誘いをうけた『うばら』は、一瞬その顔に戸惑いの表情を浮かべた。けれどすぐに、「たしかにお花畑お一人様は辛いもんがあるな」と納得し、「仕方ねぇから一緒に行ってやる」と承諾した。
 そして――穏やかな陽光が心地よい、ある日の昼下がり。
 二人は綺羅輝夜が咲いているという公園へと訪れていた。
 今が見頃だという花に、正身は感嘆の息をもらす。
 頭上には透き通った青空が、足元には夜空が広がっている――そんな、不思議な空間。
(あれが噂の花か。キラなんとか)
 絵本に出てきそうなその光景に、うばらも少なからず衝撃を覚えていた。
 正身は花の傍に屈みこむと、そっと手のひらを花に翳す。
(陽射しの加減で煌めきが変化して趣深い)
 夜空を切り取ったかのように煌めく花弁もだが、葉もまた、興味深い。色は緑とありふれたものなのだが、不思議な輝きを持つ花弁を支えるだけあって、いつまでも見ていられるような透明感を持っている。作り物みたいだ、と正身は感動を覚えた。
 そんな神人の姿を、うばらは意外なものを見る目で見つめていた。
(俺を連れ出す口実かと思ったら)
 それだけではなかった。
 あまりにも真剣に花を見つめているから、ちょっと驚いたのだ。
「本気で花、好きなんだな」
 何とは無しに聞いてみる。と、正身は立ち上がり、質問に答えるべく口を開いた。
「花と云うか植物全般好きだな。家でも色々育てている」
「ふうん」
 育ててるって観葉植物とか、家庭菜園とかか?
 内心そんなことを考える。うばらはまだ、葵田の家行ったことがない。神人と精霊という絆を結んだわけだけれど、プライベートなことはまだ訊きづらいのだ。
「……ところで、小腹が空かないか?」
 ふいに問われ、けれどうばらは反射的に頷いていた。
 正身はふと表情を和らげると、クレープを配っている屋台へと向かう。
「お一人様一個まで無料ですよ~」
「メニューの中から選んでくださいませ~」
 ……と、語尾がふわふわしている男女……顔立ちや髪色を見る限り、兄弟、なのだろうか? の案内に従い、ラミネート加工されたメニューを覗く。
「私はハム&チーズ&レタスで」
(クレープといったら甘いもんだと思うんだけど……葵田、もしかして甘いの苦手なのか?)
 ちら、とうばらはメニューに目を落とす。他にも、定番といえる味もあるけれど――子供だと思われんのも嫌だしここは同じにしとくか。「俺も同じもので」と呟き、正身が店員に伝えようとした、そのとき。
「うばらも同じもの――おや、陽が」
 ふいに落とされた影に、正身が顔を上げる。
(あれは、青い鳥……?)
 気持ちよさそうに滑空していく影の正体を視界に捉えた、その瞬間。
 
 本当は、
『俺、いちごがいいな……』

 聞こえて来たその不思議な声音に、正身は思わず笑いかけ――必死に押さえる。
 綺羅輝夜が咲く公園に現れるという、青い鳥の噂は聞いていた。今のはうばらの本心なのだろう。
「彼にはいちご&クリームを」
「って、何で勝手に注文変更してんだよ」
 何食わぬ顔で注文を変えた正身にうばらは食ってかかるも、「其方も食べたかったんだ。一口くれ」という反論には強く出れない。……なんて、それは正身が用意した尤もらしい弁解に過ぎないのだが。気づかないうばらは、ぷいと視線を逸らして言う。
「自分が食いたかったからって……し、仕方ねぇな。一口だけだからな」
 クレープを受け取った正身は、それぞれ注文したものを手に、喜色が滲んだその言葉を微笑ましく思いながら、ゆっくりと歩き出した。
 
 こんな穏やかな日もいいものだ。
 そんなことを考えながら。


●秒針は止まらない
 空が燃えている――そう錯覚しそうなほど、美しい緋に包まれた夕暮れ時。
『ヴァレリアーノ・アレンスキー』が本調子でないことに気付いた『アレクサンドル』は、綺羅輝夜が咲く公園に彼を誘い、訪れていた。
(青い鳥も、運が良ければ巡り会えるだろう)
 二人の間に、会話はあまりない。わだかまりがあるような、そんな空気だ。
 途中、二人はクレープを受け取った。ヴァレリアーノはいちご&クリーム、アレクサンドルはハム&チーズ&レタスだ。
「……これはなんだ」
「薄く焼いたパンケーキ、といったところか」
 かみ砕いた説明を受け、ヴァレリアーノはじっとクレープを見つめたかと思うと、かぷりとかみついた。
「っ!」
 初めて食べたクレープに、ヴァレリアーノは目を瞠った。
 甘酸っぱいいちごと甘いクリームそれぞれの味を、キツネ色の皮がうまい具合にまとめている。
 どこか冷めた態度が常だった彼にしては珍しい、子供らしい反応だった。ヴァレリアーノ自身、自分がそんな反応をするとは思っていなくて、たまらず顔を背けてしまう。
 拙い照れ隠しだ、とアレクサンドルは微笑を浮かべた。
 そんな精霊に気付いて、ヴァレリアーノは綺羅輝夜へと目を向ける。
 夜空をそのまま切り取って花にしたかのような、そんな不思議な花が一面に広がっている――
(美しいな)
 近頃、自分が知らない世界に、物に触れるのを素直に楽しめるようになったと思う。故郷を襲撃される前に戻ったような、そんな気さえする。
 アレクサンドルも、花の予想以上の美しさに驚いた。けれどそれ以上に、花を映すヴァレリアーノの瞳が綺麗で――そそられる。
 無意識のうちに小さな神人へ手を伸ばしかけて、しかしすぐにハッとした。そして、精霊の整った指は、神人の頬ではなく足元に咲く花へと伸びる。
(この花の花言葉を知りたい)
 そんなことを考えて――ふと、視界の隅に何か……真昼の空のように鮮やかな水色が見えて、アレクサンドルは眉を寄せた。
(今のは……)
 鳥の形をしているように見えたが。だが、既にその何かは移動してしまったようで、姿は見えない。
 と。
 
『頭では分かってるが、まだお前との距離感が掴めない』

 アレクサンドルの耳に、ヴァレリアーノの声が届いた。しかし、神人が口を開いた気配はない。
(青い鳥、だったのか)
 ということは、今の言葉がヴァレリアーノの本心なのだろう。
 吐露された想いに、アレクサンドルは吐息した。絶妙に開いた距離を詰め、ヴァレリアーノの細い腕を軽く引き寄せる。ふわりと鼻孔をくすぐった香りに、アレクサンドルはなんともいえない気持ちになった。
 驚いているな。すぐにわかったけれど、アレクサンドルは気にせず口を開く。
「我が前に言った言葉を覚えてるかね?」
 ヴァレリアーノは何も言わない。だが、アレクサンドルは静かに続ける。
「信じられない訳ではないのは分かっている。だが、言わずにはいられない。――汝は一人で抱え込みすぎなのだよ」
 落とされた言葉が――サーシャの温もりが、胸に落ちる。
 酷く、落ち着く。
 ヴァレリアーノは軽く目を閉じた。
「歳は関係無い。『相棒』が目の前に居るのだから、寄り掛かるといい」
 それは悪い事ではない。
 続けたアレクサンドルに応えるように、ヴァレリアーノはふっと身体から力を抜いた。

 確かな繋がりは、安心感へと姿を変え。
 無条件の信頼を互いに寄せているのだと、言外に伝えている。

 ヴァレリアーノは目を開けた。
 心の靄が晴れたような、そんな清々しい気持ちだった。感じていた不調はなくなり、アレクサンドルに感じていた重い気持ちもなくなっている。
 いつもの己に戻ったと、ヴァレリアーノは理解する。
「ふ……いい顔になった」
「ふん。――帰るぞ」
 そして鍛錬の続きをするぞと、ヴァレリアーノは歩き出す。
 来た甲斐があったかと、アレクサンドルは口角を上げた。
 懐中時計を一瞥する。時計の針は――止まっていない。
 止まることなど、振り返ることなど許さないというように、前へ前へと進んでいる。

 二人の影が寄りそって。
 やがて一つに溶けるのに、そう時間はかからなかった。


●離してやらない
 空が藍色に染まりきった時間。『蒼崎 海十』と『フィン・ブラーシュ』の二人は、綺羅輝夜の花が咲く公園へとやって来ていた。
 おっとりした印象を受ける兄妹から受け取ったチョコ&バナナのクレープにかぷりとかじりつきながら、海十は上機嫌に足を進める。
「タダでクレープ食べられて、綺麗な花が見れるなんて最高だ」
 そんなことを言う海十を微笑ましく見ていたフィンは、地面にも夜空のような煌めきが広がっていることに気付く。
「海十、見て」
「……っ」
 花が――綺羅輝夜が咲き誇る区画へと辿り着いたのだ。
 花より団子状態の海十だったけれど……広がる光景に息を呑む。
 星空の中を歩くような、そんな感動があったのだ。
 
 クレープから風景に。興味の対象がわかりやすく変わった海十に、フィンはこそりと、口元を隠して笑った。
(可愛いな)
 自分も足元に目を落とした。頭上に広がる夜空を切り取って、そのまま花弁にしたかのような花々は、本当に美しい。
(星空は海十の瞳の色。海十に包まれてるみたい……なんて言ったら、海十は困るかな)
 優しく吹く風も心地よくて、フィンはす、と目を細めた。

「フィン、凄いな!」
 振り返った海十は、ぴしりと身体を固くした。
 綺羅輝夜に囲まれたフィンが――すごく、綺麗で。
 フィンの整った容姿も相まって、何か、この世のものではないような、そんな存在に思えたのだ。
(……何というか、俺が隣に居ていいのかな、なんて思ってしまう)
「来て良かったね」
 と、フィンは頷いた。けれど、海十がじっと、何か言いたげにこちらを見ていることに気付き、首を傾げる。
「どうかした?」
 尋ねると、海十の腕がそろりと持ち上がり、……ちょん、と。控えめに、フィンの袖を掴んだ。
 甘えるようなその仕草に、フィンの頬が緩む。
「何となくフィンが迷子になりそうだから」
 海十はそう誤魔化す。
「あ……」
 と、丁度そのとき。夜だというのに、青空をそのまま鳥の形にしたような。そんな鳥がフィンの視界に映った。彼につられた海十も、その姿をばっちり捉える。
(青い鳥……確かこれって……)
 海十はちらりと聞いた噂を思い出した。そして――

『フィンが何処かに行ってしまわないように……』
 そんな、海十の心の声が聞こえたフィンが。
『可愛いなぁ』
 そう思ったのと同時に、言葉となって海十の耳に届く。

(何てタイミングで来るんだ……!)
 恥ずかしくて顔を上げられない。
 きっと、子供っぽい、独占欲じみた本音が彼に聞かれてしまったのだろう。
(……フィン、呆れてないか?)
 不安になっていると、フィンの柔らかな笑い声が落ちてきた。
「そうだね、迷子にならないように海十が掴まえててよ」
 そう言って、フィンは海十の手をそっと握る。愛しくて仕方ないというような、甘い笑みとともにこぼされた言葉に、海十はカッと頬を染めた。
 けれど。
 きゅ、と握られた手に力をこめて、口を開く。
「ああ、絶対に離してやらない」
「うん、離さないでね」
 手のひらから伝わる熱が心地よい。
(海十が俺を必要としてくれる事がどんなに嬉しい事か、繋いだ指先から伝わればいいのに)
 言葉はいつも、どれだけ尽くそうと想いの半分も伝える事ができない。
 フィンは繋いだ手に力をこめた。
「少し歩こうか」
 そして、二人でゆっくり歩き出す。
「花、綺麗だな……」
 思わず、というように、海十は小さくそう零した。
「うん。凄く綺麗……」
 でもそれは、花だけじゃなくて……。
 囁くように応えたフィンの目は、花ではなく――海十へと向かっていて。
 夜空を歩きながら、フィンは海十と出会えてよかったと、心の底からそう思う。この気持ちすべてを伝えられる言葉があればいいのに、なんて想いながら――けれど、それを見つけていけたらいいとも思う。

 きらきらと星が輝いている。
 ぱた、と。
 鳥の羽音が聞こえた気がした。


●あなたの本音に
 深い紺色の空に、星々が瞬いている。
 そんな時間、『カイン・モーントズィッヒェル』は『イェルク・グリューン』とともに、綺羅輝夜が咲き誇る公園を訪れていた。というのも、カインに「綺羅輝夜モチーフの指輪を作ってほしい」という依頼があったのだ。写真を貰ったが、実物を見ておいた方がいい。
「カインさんの仕事の為とは言え、また違和感殺人事件……」
「違和感殺人事件は名探偵の解決に期待しておく」
「は? 名探偵の解決? 何でそこで私を見るんですか」
 なんて、数度目となるやりとりを交わしながら花が咲いているという区画へと向かう。
 道中、のほほんとした兄妹からクレープを受け取って、更に足を進める。
「この時間だとデザートだな」
 既に夕飯は済ませている。ということで、カインが選んだのはいちご&クリームだ。
「違和感が連続殺人されてます」
 と呟くイェルクの手にも、しっかりクレープが握られている。
(いちご&クリームとか……凄まじい。だが、私もチョコ&バナナ……同罪か……)
 他愛のない会話をしていると――着いた。
 夜空をそのまま、花弁に写し取ったかのような。そんな煌めきを持つ花が、優しい風にあわせてゆらゆらと揺れている。
「へー、見事だな。依頼主の指定も分かる」
「夜空の上に立っているみたいですね」
 カインもイェルクも、素直に感嘆の息を漏らした。
 イェルクはカインの横顔を盗み見て、どきりとする。
 花を見ているからなのか、カインの表情が柔らかなものになっていたのだ。そしてふと、彼の隣で様々なものを見てきた――なんて思い出す。その度に新たな一面を見つけて……。
 と。カインは花の中をぴょんぴょんと跳ねる何かを見つけた。公園に住んでる猫か何かだろうか。そう思ったけれど、一瞬。ほんの一瞬だけ、青空のように澄んだ羽を持つ鳥の姿が見えた。
 同時に。
『何でカインさんはそんなに察しがいいのか』
 と、イェルクの声が聞こえてきた。
「今の何だ」
「何がです?」
 カインとの思い出を振り返っていた、なんて口が裂けても言えない。わずかに動揺しながら首を傾げたイェルクに、カインは起きた現象について話した。すると、「青い鳥をみませんでした?」と聞かれる。
「この公園に現れる青い鳥を見ると大切な相手の思ってることが聞こえるとか」
「青い鳥? そんなのいたのかって……あれがそうか。へー本音……」
 何やら考えだしたカインを横目に、イェルクも鳥の姿を探してみる。幸福の象徴を見てみたい、そしてあわよくばカインの心を覗いてみたい。そう思ったのだ。
 そして、イェルクもかさかさと動く花を見つけ――青空を切り取ったかのような見事な羽を持つ鳥を捉えた、瞬間。
『喜ぶイェルが見られるわ仕事に役立つわ……綺羅輝夜には感謝だな』
「!?」
 カインの声が聞こえてきて、イェルクの肩が跳ねた。(え……本音!?)と驚いていると、カインが「そうだ」と口を開く。
「俺の察しがいいんじゃなくて、てめぇが分かり易いだけだろ」
 分かりやすいと言われたのは初めてだ。というか普通にスルーしていたけれど、カインにはイェルクの心の声が聞こえていたらしい。
 そして、気付く。
「……あれ、本音ですか?」
「俺の本音?」
「その、喜ぶ私が見れて、とか」
「綺羅輝夜に感謝だな、って? そうだけど、それがどうかしたのか?」
 なんてことないように返されて、イェルクはさっと目をそらした。
(じゃあ今までのは……)
 カインが頬を緩めていたのは、花に見惚れていたからだけではない。自分が喜ぶ姿を見てだったのか――と、思い当たってしまったのだ。
 はくはくと口を開けては閉じるイェルクに、カインはニッと笑ってみせる。
「別に隠してはねぇし、不都合はねぇな。てめぇは何か不都合でも?」
 そして、そんなことを言いながら頭を抱き寄せ、艶やかな髪に指を滑らせる。
 やたらといい笑顔に、イェルクの顔はぼっと赤く染まり――
(嬉しいけど恥ずかしい……)
 うつむいた。
(……ピャアアアレベル2。可愛い奴だ)
 内心そんな評価をくだしながら、イェルクとの時間を堪能する。
 次はどこに行くか、なんて考えながら。


●想いが向かう先は
 深い紺色に染まった空には、きらきらと星たちが瞬いている。
 光る花とおいしいクレープがある公園がある。
 そんな話を聞いた『新月・やよい』は、『バルト』と共に件の場所を訪れていた。
 ほっと肩から力が抜けるような、独特な喋り方の兄妹からクレープ――やよいはチョコ&バナナ、バルトはハム&チーズ&レタスだ――を受け取り、花が咲き乱れる区画へとやって来る。
 と――
「見て下さい、天之川の上を歩いてるみたいですよ!」
「わかったから、少しは落ち着け」
 バルトの注意にやよいは「えへへ」と笑い、「君にとっては小さな散歩でも、僕にとっては大きな旅ですので」なんて返してみる。
 そして、改めて風に揺れる綺羅輝夜の花へ目を向けた。
 足元に、美しい夜空が広がっている。
 そんな錯覚を起こすほど、花たちは美しかった。
(クレープも美味しくて、幸せです)
 
 クレープを頬張り、ふにゃりと嬉しそうに頬を緩める神人に、バルトもふ、と身体から力を抜いた。
 ここまで喜ばれては、悪い気などしないものだ。
 ウィンクルムとして行動をともにするうちに、バルトはやよいが子供っぽい人だということを身をもって知ることになった。
(新月の笑顔は嫌いじゃない)
 花と一緒に、俺まで歓迎されてる気がする――。
 だが、気がかりなこともあった。
(新月は、俺と来てよかったのだろうか)
 前に、やよいは誰かに恋しているとほのめかしているのだ。
(けどそれが本当か、相手は誰なのか俺はわからないままで……)
 本当はその人と此処に来たかったのでは、と考えてしまう。

 花々の中を歩きながら、小説に活かせるかもしれない――なんて構想を練っていたやよいは、ひゅう、と吹いた風が冷たくて、ぶるりと身を震わせた。
(でも外は少し肌寒かったかな)
 そして、ジャケットとパンツを着こなしてはいるけれど、首元は寒そうなバルトを見る。
(暗いなら外しても平気かな)
 やよいはマフラーを外すとバルトの隣に立ち、少し背伸びしてマフラーを巻いてやった。何か考え事をしていたのか、驚いた様子のバルトに「似合うと思いましてね」と照れ笑いを浮かべる。
 バルトはやよいにお礼を言いながらも、どう切り出そうか、そもそも切り出していいものか悩んでいた。
 こんなとき、不思議な力を持つという青い鳥が来てくれたら――
「あ、バルト。鳥が来ましたよ! 噂の青い鳥ですかね?」
 童話が懐かしいですね、なんてはしゃいだ声につられ、バルトも顔をあげた。たしかに、鳥の影が見える。こちらに向かっているようだ。
「青い鳥、好きか?」
「好きですよ。君はよく僕の好きなものを聞きますね」
「なら、……好きな人は?」
 突然の質問に、やよいの頭は真っ白になる。
「……あ! もちろん君の事好きですよ。親友のように思って……」
「そうか」
 静かに返答を待っていたバルトは頷いた。思っていた答えとは違うが、悪い気はしない。
 そのときだ。
 二人の頭上近くを通りかかった鳥の影が――夜にも関わらずはっきりと、青空のように澄んだ色を見せた。
『何かしたかな? 君のことで頭がいっぱいでした……』
 聞こえた心の声に、バルトは苦笑する。
(そういう意味じゃなかったんだが)
 と、バルトがやよいの心を覗いた時、やよいも彼と同様、相棒の心の声が聞こえていて。
『凄く恥ずかしい事を聞いた気がする……』
 そんな気持ちが聞こえてきて、やよいは思わずうつむいた。まさか、好きな人に好きな人はいるのかと聞かれるなんて。
(なんでしょうか、この恥ずかしさは)
 死にたい、と思ったやよいが気持ちを持ち直していると、バルトが口を開いた。
「新月、あの、相棒として……恋の悩みとか、何時でも聞くから」
「え、あ……はい、よろしくお願いします」
 ぎこちないやりとりを交わして、二人は歩き続ける。
 
 優しい風が花々を揺らす。
 夜空を映した花たちは二人を応援するように、そっとその身を揺らしていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月08日
出発日 10月15日 00:00
予定納品日 10月25日

参加者

会議室

  • [10]蒼崎 海十

    2015/10/14-22:35 

  • [9]蒼崎 海十

    2015/10/14-22:14 

    フィン:
    皆、青い鳥って凄く素敵な偶然だね!
    素敵な一時を過ごせますように

  • アレクサンドル:

    挨拶が遅れてしまってすまないのだよ。
    我はアレクサンドル、パートナーはアーノだ。
    カインと正身はお初にお目にかかるかね。宜しく頼むのだよ。

    様子を見れば青い鳥に遭遇率が高いようだな。
    では我達はどの動物に出会えるかゆるりと楽しみにするとしようか。

    【ダイスA(6面):5】【ダイスB(6面):5】

  • [6]蒼崎 海十

    2015/10/11-13:27 

    あらためまして、蒼崎海十です。
    パートナーはフィン。
    皆様、よろしくお願いいたします!

    さて、どんな動物に遭遇するでしょうか?
    よっと…!(ダイス振り)

    【ダイスA(6面):6】【ダイスB(6面):6】

  • [5]葵田 正身

    2015/10/11-01:09 

    葵田と申します。宜しくお願い致します。
    日中、花を観賞に公園を訪れる予定でいます。クレープも美味しそうですね。
    ……さて、どんな動物と遭遇するでしょうか。

    【ダイスA(6面):6】【ダイスB(6面):6】

  • [4]新月・やよい

    2015/10/11-00:39 

    こんばんは、新月と相棒のバルトです。
    よろしくお願いいたします。
    クレープにつられてきましたが、何にしようか悩みますね。

    【ダイスA(6面):1】【ダイスB(6面):1】

  • カイン:
    カインだ。
    パートナーはイェルク・グリューン。

    ちょっと仕事の研究も兼ねて来た。
    クレープは何にするかな。
    (リストじーっと見つつ)

    ああ、俺達は、青い鳥遭遇っぽいな。
    青い鳥ねぇ……(案外モチーフにいいかもな)

    イェルク:
    ご紹介に与りましたイェルクです。
    し、仕事熱心なカインさんのお供って所です。

    青い鳥さんにはお手柔らかにお願いしたく。



  • 【ダイスA(6面):6】【ダイスB(6面):6】

  • [1]蒼崎 海十

    2015/10/11-00:15 


PAGE TOP