精霊単独追跡戦(真名木風由 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 その日、神人達は皆で出かけていた。
 ショッピングモールを歩いていると、新しい店が入っていることに気づく。
 アクセサリーショップらしく、見るだけでもと思って入ってみると、結構本格的なアクセサリーがお手頃価格で沢山並んでいる。
 しかも、ちゃんとしたジュエリー物であるから驚きだ。
 あまり高いのは購入出来ないけど、と神人達はそれぞれ気に入ったアクセサリーを1点購入することにした。
 任務で着けていくことは出来ないだろうけど、ちょっとお洒落したい時に身に着けたらいい。
 この後、カフェで購入したアクセサリーを見せあいっこしたりして楽しく過ごし、家へ帰った。

 それから、1週間が経過したのが今日である。

 精霊は、神人の様子が最近おかしい気がしている。
 心ここにあらずといった様子で、声を何度もかけてやっと気づくことが増えてきた。
 悩み事、というようなものではない。
 上手く説明出来ないが、何かが彼女の身に起こっている。
 幸い、今日は休日───彼女に話を聞いてみてもいいかもしれない。
 そう思い、彼女を訪れたのだが。

 彼女が、倒れていた。

 抱き起こしてみると、虚ろな目でブツブツ何か言っている。
 明らかに尋常な様子じゃない。
 ふと、精霊は彼女がやけにアクセサリーを身に着けていることに気づいた。
 見た所、アクセサリーには同じ石が使われている共通点がある。
 休日、外出の予定もなく、そして、同じ石を使ったアクセサリーを身に着けているのはひどく不自然に思えた。
 ブレスレットへ手を伸ばそうとすると、彼女が暴れだす。
 これは、当たりだ。
 精霊は直感的にそう思い、何とかブレスレットを外してみると、彼女が悲鳴を上げて気を失った。
 このアクセサリー、どこで手に入れた。
 精霊が視線を巡らせると、目の端にジュエリーケースが映る。
 飛びつくようにして見ると、先日神人同士で遊びに行ったショッピングモール内の店の住所が記された会員カードが傍に置いてあった。
 精霊は武器だけ手に取り、ショッピングモールへ急ぐ。
 この店、ただの店ではない。

 ショッピングモールへ向かう最中、同じように異常を察したらしい精霊達と次々に出会い、そして、店へ踏み込んだ。
 精霊達の姿に気づいた店員達が店の奥へ逃げ出す。
 逃すものかと後を追うも、店員達はバラバラになって逃げ出した。
 やむなく、それぞれ手分けして追うことにした精霊達。

 店員達を捕まえろ!

解説

●目的
・事件解決

●敵情報(PL情報)
・店員(マントゥール教団員)x1

単独でもちゃんと捕まえられます。
基本、ショッピングモールから飛び出て市街地逃走ですが、逃げ足は普通なのでごくごく普通に捕まえられます。
抵抗はしますが、一般人の範囲です。
逮捕となりますので程ほどに。
尋問は可能、答えるかどうかはプラン次第です。
※上記の敵以外は登場しません。

●プランの書き方
・神人
下記宝石のいずれかのジュエリーがついたアクセサリーを幾つも収集し、家で身に着けていました。
ブレスレットを強制的に外されたショックで気を失っています。
描写は精霊が見ている前で気絶から回復する所からとなります。
異常を加速すべくアクセサリーを購入していたループ状態も既にアクセサリー処分により解除されていますので、精霊から説明を聞いた感想などをどうぞ。

ピンクサファイア(可愛らしさ)※恋愛運を呼び込む石です
アレクサンドライト(秘めた想い)
アイオライト(初めての愛)
ルビー(愛の炎)
アメジスト(真実の愛)※別名愛の守護石

( )内は代表的な宝石言葉です。

・精霊
店員を追跡、捕縛します。
その後、神人の元に戻り、ジュエリーショップで購入したアクセサリーによって異常を来たしていたことを話します。(この時、マントゥール教団が絡んでいたことも話す形です)
彼女を慰めてあげましょう。

●注意・補足事項
・今回はほぼ個別描写となります。双方同意があった場合のみ精霊同士が連係して捕縛に入ります。
・武器以外のバトルコーディネートの適用はありません。一般品も休日に持ち歩くのに不自然ない範囲のものとなります。また、神人が気絶している為トランス状態にもなれません。
・開始時点でA.R.O.A.に精霊は報告しており、更に同じ事例が一般人からも報告が寄せられた点より、今回はマントゥール教団が絡んでいることも踏まえ、任務としての扱い、報酬が発生しています。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回はお洒落の落とし穴に嵌った神人を精霊が救う話です。
精霊は店員を(死ななければ、ボコボコにしてもいいので)速やかに捕縛してください。
後で全てを知る形となる神人は、自分の為に頑張った精霊を労うことを忘れないでいただければと。
勿論、「私が殴りたかった(ギリィ)」「そんなことになってたなんて(しょんもり)」等の感想も大歓迎です。
お洒落心につけこんだ悪い教団員を頑張って捕まえてください。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  【アクセサリー】
アメジスト

【覚醒後】
ディエゴさんが何やら焦って私に話しかけているので
少しの間目を閉じたままにしています
彼から優しいもしくは甘い言葉が聞けたら起きますね

そうですか…
流石ディエゴさん、説得して逮捕なんて冷静ですね!
私がディエゴさんの立場なら教団員を4分の3殺しにしてました
悪いことをしたらディエゴさんみたいな人が来る
そう思い知らせるだけでも十分です、誇りに思いますよ。

だけど…神人の皆さんと一緒に買ったアクセサリーが…
嬉しかったので少し残念です
皆さんに、今度は違うところでアクセサリー買いにいこうってメールしておきます。

また同じことが起きたら?
ディエゴさんが助けてくれますよね!



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ★アレクサンドライトのアクセサリを収集


ふっと意識が浮上して…目の前に、心配そうにこちらを見ている弓弦さんが居て驚くよ
あ、あれ?弓弦さん…?どうしたの?

弓弦さんから事の詳細を聞くよ

あのアクセサリはそんな、危ない物だったんだね…
弓弦さん、助けてくれてありがとう
…あんな物に引っ掛かっちゃうなんてね、情けないやら、悔しいやら…申し訳なくて弓弦さんの顔をちゃんと見れないや

しょんぼりしていたら、いきなり痛みに声を上げ出した弓弦さんに、慌てて大丈夫か聞くよ

…普段通りの彼を見て、思わず笑みが零れるよ

本当に、助けてくれてありがとう弓弦さん
それと…お疲れさま
ふふっお礼と言ってはなんだけれど、湿布貼りなら任せて!



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  ピンクサファイア(恋愛運上昇の為)

私…どうしてたっけ…?
何で羽純くんがここに…

羽純くんから事情を聞いて、青ざめる
私、羽純くんに何て迷惑を…
それに、他の皆は…!?

本当にごめんなさい…
(可愛いアクセだったのにな…羽純くんに可愛いって言って貰えたら嬉しいって思ったのに…きっと、呆れてるよね)

羽純くんの言葉が嬉しくて…
有難う、羽純くん(大好き)
今後は騙されないように気を付けてお洒落するね

フツフツと怒りも湧いてくる
私も一発殴りたかった!
歌菜の分も殴ったって…羽純くん、私を喜ばせる天才なの?
本当に、有難う
あ、でも殴った手、痛めたりしてない?
彼の手を取って思わず確認
…って、はわわ、手を握っちゃってごめん…!



シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  アレクサンドライト

…グルナ
え? あ…ええ。なんともないけど…
教団……そう

当たり前でしょ、殴りたかったわよ
けど、あんたが代わりに殴ってくれたんでしょ
それなら、それで良いわ。それ聞いて、私の気も済んだから

(お礼、言わないと…)心の声
ねえ、ちょっと体ごとあっち向きなさい
…そんなの、なんでも良いでしょ。ほら

 私のために動いてくれたのよね
その…ありがとう……
それから心配させて、ごめんなさい

 秘めた想いももちろんだけど、アレクサンドライトの宝石言葉ってそれだけじゃないのよね
沈着、それから勇敢

へえ……あんたはそう思うのね
あんたが思うなら、そうなのかもしれない



オンディーヌ・ブルースノウ(エヴァンジェリスタ・ウォルフ)
  わたくしとしたことが、あの程度の輩にしてやられるだなんて…

ショップのウィンドウに、それは大きなアレクサンドライトが飾ってありましたの、カットも素晴らしくて…
だからきっとカラーチェンジも、それは見事なものだろうと思ってしまったんですわ
それでつい、店員に促されるまま…
実際に、カラーチェンジも美しかったわねぇ

けれどそれが、このような大事になるだなんて
エヴァンにもみっともない所を見せてしまったわね

けれど、わたくしのために働いてくれたことは感謝いたしますわ
エヴァン…ありがとう

けれどまぁ…『店員に罪あれど、宝石に罪なし』ですわ


●市街地追跡上の注意
 グルナ・カリエンテは、店員を追跡していた。
 とにかく捕まえないことには話にならない。
「おい待ちやがれッ!」
 人通りが多くはないが全くいない訳ではない場所。
 逃げ足自体は普通なら捕まえるのはそんなに難しくはない。
 が、信号が切り替わる直前に店員が横断し、逃げ遂せようとする。
「逃すかッ!!」
 当たらないように注意しながら、グルナは大剣「テーナー」を投げた。
 瞬間、一般市民から悲鳴が上がる。
 周囲に注意はしていたが、捕縛の為、逃さない為であり、当たらないように注意して投げたものの、大剣を投げれば、人は何事かと思う。
 が、グルナは舌打ちしながらも店員を取り押さえ、道端へ引き摺っていく。
(……これは、普通に引き渡した方がいいな)
 尋問するには、人がこちらを見過ぎている。
(ただの宝石じゃないなら、教団の連中が絡んでるだろう……が、それを周囲に証明することが出来ないっつーのが)
 店員自身が教団員だと声高に主張でもしない限り、周囲はその正体を知ることはない。
 ここでグルナが教団員と言ったとしても、大剣を投げた後だけに、それでどうにかしようとするつもりかと見られてしまうこともある。
 殴りたい、普段ならもう手が出ている。
 けれど、相手が強くもない相手で、抵抗もしない為、逆に手が出せない。
 やがて、大剣を投げたこともあり、警察が職員と共にやってきた。
「殴っていたら、拙かったと思います」
 職員がグルナの表情を察し、そう言った。
「大剣も脅すだけなら大丈夫だったと思いますが」
 投げれば、必ず着地点がある。
 店員に当たらずとも、突然ぽっと出てきた一般人に当たることが全くない訳ではない。
 注意をしても、完全に予測出来る訳ではなく、想定外はある。
「誰もいなくて良かったと思ってるぜ」
 それだけ言ったグルナは腹は立っているので、連行される店員に足を引っ掛けて転ばし、シャルティの元へ戻ることにした。

(無理をしてでも必ず捕まえる)
 降矢 弓弦は、市街地へ出た店員を追いかける。
 日向 悠夜にしたことを許せるものではない、と確実に捕まえる為、見失わないよう注意を心掛け、追い掛けると、片手銃「レジェンド・グルラー」を構えた。
 普段であれば、穏やかな性質の弓弦も『それ』に気づけただろう。
 だが、許せない、無理をしてでも捕まえるという思い、言ってしまえば、悠夜への想いが『それ』を見落とさせてしまった。
(今だ)
 射線が通ると弓弦は、『発砲した』。
 足を狙った銃撃は、相手が走っていたこと、弓弦自身もパルパティアンのような技もなく、ごく普通に走りながらであった為、道路に着弾した。
 だが、それだけで、自分の失策に気づくには十分である。
 片手銃「レジェンド・グルラー」は、所謂魔法のビームが出るような銃ではない。
 サイレンサーがついている訳でもなく、撃てば、銃声が響く。
 タブロスのような街中で銃声が響いた場合、それに対して無関心な一般人はいない。
 注目を集める上、ウィンクルムらしき精霊が人間へ発砲したことに対して恐怖し、悲鳴を上げる。混乱する。
 それも、銃声であるが故に広範囲に。
「……!」
 一般人の目に、この行為がどう映るかまで考えが及んでいなかった。
 何も知らない一般人の目こそ、注意しなければならなかったのに。
 弓弦がそう思った時には、銃声による混乱が起きていた。
 その隙を衝き、店員が逃げ遂せる。
「銃声が聞こえましたが!」
「あちらへ逃げました」
 警察が職員と共に来たので、弓弦が指し示すと、後は自分達がと追いかけていく。
「当たっては、いないようですね。良かった」
 職員がほっとした顔をし、こう続けた。
「普通の人間に当たったら、間違いなく即死です」
 弓弦は、心の底から当たらなかったことに感謝した。
 そのようなことを望む悠夜ではないと、彼は知っていたのだ。
 後を職員に任せ、弓弦は悠夜の元へ戻ることにした。
 捕まえることよりも、大事なことがある。

 ディエゴ・ルナ・クィンテロは、冷静に状況を分析していた。
(発砲するのはご法度だ)
 ハロルドの状態を見た時には激情に駆られていたが、激情が真の目的達成の判断を狂わせる可能性に気づいていたディエゴは、鍛え抜かれた精神力で感情を抑えた。
 コントロールに成功したのは、彼がその方面を鍛えていたからだろう。
 それ故に、発砲はパニックを呼ぶ、発砲すれば確実に射殺となることを見落とさなかった。
「ウィンクルムです! 任務遂行にご協力ください!」
 ディエゴが手の文様を見せながら、店員を捕まえるべくスピードを上げる。
 マキナ特有の耳、手の文様が何よりもの説得材料、人々がディエゴを邪魔しないよう道を開け、ディエゴは苦もなく店員を捕まえ、路地裏へ店員を引き擦り込む。
「知りたいのは、宝石の影響を受けて無事であるかどうかだけだ」
 ディエゴは店員の腕を捻転し、肘を極める。
 お手本のようなアームロックは抜け出すことなど出来ない。
「答えないようなら、俺と同じ立場に立って貰う、それだけだ」
 話し合いは、お互いの事情を理解するのが大事。
 ディエゴはそう言っているが、実質脅しである。
「さもなくば、お前の利き腕と利き足、銃のグリップで叩き潰す」
 自分と違う所は、話す話さないの選択権があるということ。
 権利行使をして貰いたい。
「それでは権利行使する気にはならない」
 沈黙の後、店員はこう言った。
 ディエゴのアームロックは完璧に決まっている、痛くない訳がない……顔を歪ませながら、続けられたのだ。
「利き腕と利き足を叩き潰したことが露見した場合、A.R.O.A.のウィンクルムがどう見られるか想像した方がいい」
 オーガ専門のコンサルタントを個人的に行っているディエゴは、その影響の大きさは知っている。
 一息吐き、殴り飛ばす。
「高説痛み入る。今後の参考にしよう」
 後は、引き渡しとアクセサリーショップの封鎖依頼か。
 ディエゴは、自分がすべきことを呟いた。
 尚、連行の警官が店員の状態を見て驚いていたのは別の話。

●交渉術のススメ
 エヴァンジェリスタ・ウォルフは、店員の1人に見定めて追走する。
(どのような輩であろうと、我が半身を貶めたとあらば、容赦はせぬ)
 相手は人間であるが、知ったことではない。
 全力で潰すのみ───人気のない方へ追い込めば、一般人の目に留まることはないだろう。
 そこまで計算していたが、思った以上に店員の能力は低かった。
 ごくごく普通の一般人の走力しかなかった為、ごくごく普通に追いついてしまったのだ。
 已む無く、捕縛後、路地裏へ連れ込む。
「言いたくないと言うならば無理にとは言わんが、自分にとっては『借りは倍返し』が常識なのだ」
 エヴァンジェリスタは、店員を見下ろす。
 が、店員は沈黙を貫く。
「あぁ、確か……ディーナが身に着けていたのは、耳飾り、指輪、腕輪、首飾り、であったか。耳、指、手首、喉……ふむ、順に『借りを返す』というのもあり、と」
「やってみれば?」
 凄みを利かせて笑ってみた返答は、そうしたものだった。
「ウィンクルムが拷問をする、是非見たいものだ。痛くて絶叫するこの声が市民にどう聞こえるのかも実に興味深い。やってみたらいかがだろう」
 エヴァンジェリスタは、舌を打った。
 パートナーであるオンディーヌ・ブルースノウを貶めた、容赦はしない……その為に今言ったことを実践した場合、リスクが大きい。
 端的に言えば、ウィンクルムの立場が悪くなる。それをオーガやギルティは見逃さない……最終的に利益が出るのはあちらだ。
 エヴァンジェリスタは、尋問の仕方を間違えたことに気づく。
 店員は警察によって逮捕され、駆けつけた職員からは「尋問のプロではないのだから仕方ないですよ」と言われたが、情報を引き出すことが出来なかった。
 何か分かったら連絡するように職員へ依頼したエヴァンジェリスタは、今は、オンディーヌの元へ戻ることにした。

 エヴァンジェリスタと同時刻、月成 羽純も店員を取り押さえていた。
(体育会系ですらなかったか)
 羽純は、心の中で呟く。
 桜倉 歌菜をあのような目に遭わせたのだ、絶対に許す気はなく、逃すつもりはなかった。
 市街地へ逃走した店員を捕まえる為、歌菜来訪の際に持っていた飲みかけのペットボトルをぶん投げた所、当たった店員が転倒、その隙に取り押さえたのだ。
 逃げないよう体重をかけて押さえ、小剣「リーンの棘」を突きつけながら拘束する。
 まだ、相手の正体は断定出来ない。
「何が目的だ。言え、首をへし折られたくないならな」
 店員が羽純をじっと見る。
「そうか、精霊……ウィンクルムか」
 武器を手に追走してきている為、隠しようもない。
 が、羽純はその言葉でマントゥール教団関係者と確定させた。
「歌菜を……神人達をどうするつもりだった? 首が無事でいたいだろう?」
「ここで無事ではなくなる首、というものはどのようなものかな?」
 羽純は問い返されて、驚く。
 脅し文句へ、そう返されることを予想していなかった。
 恐らく、本気でやるつもりではないことを気づいている。
 ここは市街地……追いかける際にそのことを念頭に置き、追いつく手段も考えた羽純だからこそ、気づいていることに気づけた。
「なら、話したくなる相手に引き継ごう。専門家ではない俺の手腕で満足していただけないようだからな」
 羽純がそう言った時には、警察が駆けつけてきていた。
 殴りたい。
 自分の分と歌菜(歌菜の性格からして真相知ったら殴りたいに決まってる)の分、思い切り殴りたい。
 だが、羽純はそれを堪えた。
 歌菜を害された怒りのまま殴っては……歌菜から両親を、俺から両親を奪ったオーガと何の違いがある。
 だから、殴りたい気持ちを必死に抑え、店員にこう言った。
「専門家の手腕に感動してくればいい」
 連絡の算段を整えた羽純も、歌菜の所へ戻るべく身を翻した。

 けれど、周囲に被害を出さず、そして、人前で『殴らずに取り押さえた』羽純が一般市民に好意的に映ったのは、後に知ったことである。

●お、おう
 ハロルドは、誰かが呟いている気配を察した。
(ディエゴさん……?)
 何か焦った様子だと思ったハロルドは、少しの間目を閉じたままにしていようと思った。
「エクレール、すまないが、買ってきたアメジストのアクセサリーは全て処分した」
 まず、聞こえてきたのは謝罪だ。
 アメジストのアクセサリーを全て処分した?
 ハロルドが疑問に思う中、ディエゴが言葉を続ける。
「お前がこの前神人と遊びに行った際に購入したアクセサリー、それはマントゥール教団がオーガの瘴気で変質させていた宝石を使っていたらしい」
 ディエゴが、ハロルドが倒れた後A.R.O.A.へ報告したこと、あの日一緒だった神人のパートナーと共に店へ踏み込んだこと、取り押さえたこと、自分で口を割らせることは出来なかったが、今しがた連絡があって、マントゥール教団が絡んでいたと判明したこと、この為任務扱いになったことが告げられる。
「が、お前からそれを奪ったことに変わりはない。俺が今度代わりになるものを見つけよう。俺の趣味がお前に合うかどうかは分からないが……、だから、それで目を覚ましてくれないか」
 ハロルドは、目を覚ました。
「お前、まさか……」
「流石ディエゴさん、冷静(彼女基準)でしたね! 私がディエゴさんの立場なら4分の3殺しにしてました!」
 起きてたのか、というディエゴを他所に、ハロルドは彼を褒める。
「悪いことをしたらディエゴさんみたいな人が来る。そう思い知らせるだけでも十分です、誇りに思いますよ」
「お、おう」
 ディエゴ、ハロルドに気圧され始めた。
「だけど、皆さんと買ったアクセサリーは、嬉しかっただけに残念です。今度違う所で買いに行きましょうと後でメールします」
「同じことが起きたら……」
「ディエゴさんが助けてくれますよね!」
 ハロルド、とてもイイ笑顔。
「お、おう」
 そう言うしかないディエゴ、プレゼントのアクセサリーは別腹なので、購入は忘れないであげてほしい。

●お礼の湿布
「あ、あれ? 弓弦さん……? どうしたの?」
 目覚めた悠夜は、心配そうな顔で自分を見ている弓弦に驚いた。
 起き上がろうとして、「大丈夫?」と無事を確認するかのような弓弦が手を差し伸べてくる。
「実は……」
 弓弦は、隠しておくことは出来ないと全て話した。
 失策であったことを話すのは情けない気持ちであったが、悠夜へ隠しておくことは出来ないと何もかも。
「あのアレクサンドライトのアクセサリー、そんな危ない物だったんだね……」
 事態を理解した悠夜は、弓弦の手を包むように握った。
「弓弦さん、助けてくれてありがとう」
「え? 僕は、何も……」
 弓弦は悠夜の礼にそう言うが、彼女は首を振った。
「私の為に怒ってくれたでしょ? それで結構助かってるよ?」
 あんな物に引っ掛かり、情けなくて悔しくて。
 ループに入る前に気づけなかったと落ち込む気持ちもあるけど、弓弦が自分の為にそこまで怒ってくれた。
 申し訳なくて、ちゃんと顔が見られないのに、ありがとうが言えるのは、弓弦のお陰だろう。
「僕こそありが……」
 言い掛けて、弓弦が急に腰を押さえた。
「弓弦さん? だ、大丈夫?」
「こ、腰が……悠夜さんが目覚めたから、気が抜けたみたい。無理してたのかな」
 慌てる悠夜へ弓弦が「格好つかない」と言って、困ったように笑う。
 その笑みに、悠夜が微笑を零した。
「本当に助けてくれてありがとう、弓弦さん。お疲れ様」
 ようやく、いつもの優しげな笑みが戻った。
 弓弦は日常が戻ったと安堵し、先程とは違う笑みを浮かべる。
「お礼と言っては何だけれど、湿布貼りなら任せて!」
「あはは……、情けないけれど……お願いするよ」
 弓弦が悠夜の申し出に応じると、「待ってて」と悠夜が立ち上がる。
 救急箱から湿布を取り出すと、うつ伏せになった弓弦の腰に湿布を貼っていく。
(格好つかないと弓弦さんは言うけれど……)
 私は、私の手を引き、共に歩いてくれるあなたがいいよ。
 呟き、湿布をもう1枚ぺたり。

●似合った言葉
 気づいたシャルティは、グルナから一部始終を聞いていた。
「教団……そう」
「あー……その、大丈夫だったか?」
 アクセサリーは処分したが、影響はあるかもしれないとグルナが尋ねてみる。
「え? あ……ええ。何ともないけど……」
「なら、いいけどな」
 教団の連中もロクなことしない。
「殴りたかったか?」
「当たり前でしょ、殴りたかったわよ。けど、あんたが足を引っ掛けて無様に転ばしてくれたんでしょ」
 本当なら、殴りたかった。
 が、大剣を投擲した為に人の目が集中してしまい、断念せざるを得なかった。……とは言え、足を引っ掛けて転ばせておいたのだが。
 シャルティは「それなら、それで良いわ」と言った。人前でコテコテに差し出された足に蹴躓いて無様な転倒姿を晒したなら、気が済んだ、と。
「気が済んだならいいけどよ」
 グルナは相手が相手だった為、熱くなれず仕舞いの感はあるようだ。
(お礼、言わないと……)
 シャルティは、グルナの横顔を見て思う。
「ねえ、ちょっと身体ごとあっち向きなさい」
「は? 何で?」
「そんなの、何でも良いでしょ。ほら」
 グルナはよく分からなかったが、言われた通りにした。
 すると、シャルティが呟く。
「私の為に動いてくれたのよね」
 小さな声で、「ありがとう」と言ったシャルティは、「心配させてごめんなさい」と謝ってきた。
「次、引っ掛からなきゃいいだろ」
 グルナがそう言うと、シャルティは「そうね」と言った。
「私が買っていたアレクサンドライトってね、秘めた思いって宝石言葉があるんだけど、それだけじゃないの」
 沈黙、勇敢。
 そうした意味もある。
「その言葉、お前に合ってると思う」
 グルナは宝石言葉に興味を感じないが、思ったことを伝えた。
「へえ……あんたはそう思うのね」
 あんたが思うなら、そうなのかもしれない。
 その言葉に思わずシャルティへ振り向いたグルナへ、シャルティがまだ戻していいと言ってないと怒ったのは言うまでもない。

●罪は全て宝石になく
「わたくしとしたことが、あの程度の輩にしてやられるだなんて……」
 目覚めたオンディーヌはエヴァンジェリスタから全てを聞き、嘆息した。
「倒れ伏した時には肝が冷えましたぞ」
 オンディーヌからブレスレットを取り上げたエヴァンジェリスタは、その時をこう振り返っていた。
 オーガの瘴気の影響を受けたアクセサリーは既に処分しているが……。
「ショップのウィンドウに、それは大きなアレクサンドライトが飾ってありましたの。カットも素晴らしくて……」
 オンディーヌは、既に封鎖されたであろうアクセサリーショップにあったアレクサンドライトを思い出す。
「だから、カラーチェンジも、きっと見事なものだろうと思ってしまったんですわ」
 それ故に、店員のトークに流された部分はあるだろう。
 実際、カラーチェンジも美しいものであった。
 自身が購入したアレクサンドライトのアクセサリーも、何もなければ本当にお手頃価格で見事なものだったから。
「それが、このような大事になるだなんて……。エヴァンにもみっともない所を見せてしまったわね」
「いや、怪我などがなく、何よりではありますが、どうか、御身を大事にしていただきたい」
 エヴァンジェリスタの生真面目な言葉を聞き、オンディーヌは彼らしいと思った。
 テイルスと聞いた時には自分に合わないのではと不満に思ったが、テイルスも色々なタイプがいると接していく内に分かってからは、契約当時の不満はない。
「わたくしの為に働いてくれたこと、感謝いたしますわ。エヴァン……ありがとう」
「今回はこれにて終着でありますが、怪しい宝石など買わないでいただきたいのが本音ではあります」
 オンディーヌのお礼にお礼を返すエヴァンジェリスタがそう言うと、オンディーヌはこう言った。
「『店員に罪あれど、宝石に罪なし』ですわ」
 宝石も、オーガの被害者。
 オンディーヌはそう言うと、今度はよく見定めて買うことを約束してくれた。

●効果あり?
「私……どうしてたっけ……?」
 歌菜は、何で自分がベッドに寝ているのだろうと思った。
「気がついたか、歌菜」
「え、何で羽純くんがここに……」
「実はな……」
 羽純が事情を話す内に、歌菜は顔を青ざめさせていった。
「私、羽純くんに何て迷惑を……。あ、でも、皆は? 皆は無事!?」
「アクセサリーを全て処分すれば問題ないようだ。今頃目覚めてると思うぞ」
 歌菜は安堵したが、同時に、気持ちが落ち込んでいく。
 羽純がすぐにフォローした。
「別にお前が悪い訳じゃない。そんなに凹むな」
「でも……」
 ごめんなさい、と歌菜は羽純へ謝る。
(可愛いピンクサファイアのアクセで、羽純くんに可愛いって言って貰えたら嬉しいなって思ったのに)
 それ所か、心配と迷惑を掛けてしまって……きっと、呆れてる。
 が、羽純はふと、横を見た。
「俺だって、綺麗に着飾る歌菜を見るのは嫌いじゃない。あの時だって言っただろ?」
 歌菜も羽純の視線を追うと、そこには写真立て。
 ファッションショーのモデルをした時の写真を飾る為、2人で購入したものだ。
「今度はちゃんとした店に連れて行ってやるから、一緒に似合う物を買おう」
「ありがとう、羽純くん……」
 その言葉が嬉し過ぎるから、これからは気をつけよう、と心に誓う歌菜。
「殴りたかった」
 同時に怒りが湧いてくる歌菜。
 やっぱり、と羽純は思った。
「でも、羽純くんが殴らなかったのは、意味があるよね?」
「あー……」
 歌菜の問いに、羽純は頭の後ろをかいた。
「細かいこたぁいいんだよ」
 真相は言わず、手を伸ばして歌菜の頭を撫でて言った。
「殴って問題なかったら、2発思い切り殴っていたのは確かだな」
「羽純くん、私を喜ばせる天才だよね」
 本当にありがとう。
 歌菜はそう言いながら、撫でてない手を取った。
 羽純の手は、きっと、優しさをくれる手……大好き。
 自分から手を取って握ったと歌菜が気づくまで、羽純には戻ってきたその温もりを実感して貰うとしよう。

 人の目には、ご用心。



依頼結果:普通
MVP
名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 10月05日
出発日 10月12日 00:00
予定納品日 10月22日

参加者

会議室

  • [10]日向 悠夜

    2015/10/11-23:36 

  • [9]桜倉 歌菜

    2015/10/11-23:12 

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/10/11-23:12 

  • [7]ハロルド

    2015/10/11-16:24 

    ディエゴ・ルナ・クィンテロだ
    …宜しく頼む

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/10/11-00:11 

    羽純:
    あらためまして、月成 羽純です。
    パートナーは歌菜。
    皆様、宜しくお願いします。

    歌菜をあんな目に遭わせた礼は、たっぷりしないといけないだろう。
    速やかに捕まえようと思っています。

    お互い、頑張りましょう。

  • [5]シャルティ

    2015/10/10-17:10 

    グルナ・カリエンテ。シャルティっつーのが神人。…よろしく。

     元凶が人ならとっ捕まえてぶん殴ってやる。
    …あの口煩いのがいねぇからか、なんか釈然としねぇし。

  • 【エヴァン】
    このような事態になるとは…
    あぁ、申し遅れました、自分はエヴァンジェリスタ・ウォルフと申します
    どうぞお見知り置きください
    皆様と同じく、半身(パートナー)のため
    可及的速やかに解決できるよう全力で臨む所存であります

  • [3]日向 悠夜

    2015/10/09-21:54 

    弓弦:
    どうも、降矢 弓弦です。
    初めましての子も、そうでない子もよろしくお願いするよ。

    いやあ…まさかこんな事が起こるなんてね…。
    彼女達の為にも、共に頑張ろう。

  • [2]ハロルド

    2015/10/09-09:53 

  • [1]桜倉 歌菜

    2015/10/09-00:14 


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