プロローグ
タブロス市内A.R.O.A.本部の掲示板に、ポスターが貼られている。
『夏のバカンスを楽しみ損ねたアナタ!!安心してください、今からでも楽しめます!!!』
デカデカと書かれた見出しが目に入り、足を止めるウィンクルム。ミラクル・トラベル・カンパニーが提供するバスツアーの告知ポスターだ。
流れるプールではしゃぐ若い男女のグループや家族連れ、ウォータースライダーを楽しそうに滑り降りる子供、古風な檜風呂にゆっくりとつかる老夫婦、幻想的な雰囲気の洞窟の中、地底湖にみたてた温泉につかるカップル。年齢はバラバラだが、共通しているのは全員が水着姿であること。
そんな写真がレイアウトされたポスターである。その下にはこんな説明文が書かれている。
『タブロス市の外れにあるスパリゾート “スパランド”では、季節に関係なくバカンスをお楽しみいただけます。施設内の温泉は全て水着を着用してご利用いただくため、どなた様も安心してお楽しみいただけます。
また、施設内にはフードコートが設置されており、いつでもご休憩・お食事をとっていただけます。
スパランドまでのバスツアーは只今ペアでのご参加が大変お得です!
1名160Jrのところ、ペアでご参加いただきますと、2名で300Jrとなります』
そういえば、夏に水着でバカンスなんて行けなかったような……と、ポスターを眺めていた神人はふと思う。
傍らの精霊に目をやれば、彼も興味を持っている様子。誘って行ってみようかと神人が考えていると、彼がこちらを見た。どうやらあちらも考えている事は同じようだ。
2人は申し込み方法を確認するのだった。
解説
●消費Jr
ツアー参加費として300Jrを消費します。
●利用できる温泉について
それぞれの温泉へは徒歩で行き来が可能な距離です。温泉は全て混浴ですが、水着を着てるから恥ずかしくない!
また、各温泉はそれなりの広さがあります。ウィンクルムと2人きりで楽しむもよし、他のウィンクルム達とグループで楽しむもよしです。
スパランド内には以下の温泉があります。
・流れる温水プール:施設内で1番大きなプールです。温泉を使用した温水プールです。温度は一般的な温水プールと同じです。
・ウォータースライダー:子供(身長120cm以上)も滑れるレベルのウォータースライダーです。多少のカーブがあります。
・檜風呂:古式ゆかしい檜風呂です。
・洞窟風呂:洞窟の中に温泉があります。洞窟の奥にはとても小さな滝があり、洞窟上部から静かに温泉へと流れ落ちています。滝から流れ落ちる水も温泉ですので、温かいです。
●フードコートについて
ツアー参加費に飲食代が含まれており、追加料金無しで自由に利用できます。
メニューは以下の通りです。
・たこ焼き
・やきそば
・かき氷(イチゴ/レモン/ブルーハワイ)
・ソフトドリンク(オレンジジュース/コーラ/アイスティー/アイスコーヒー)
・アルコール(ビール/カクテル)
※未成年のアルコール注文はご遠慮ください。
●プランについて
スパランド内で自由に楽しんでください。
ただし、他のお客様もいっらしゃいますので、はしゃぎすぎないようご注意ください。
他のウィンクルム達と一緒に楽しむ場合は、会議室でご相談の上、プランの作成をお願いします。
なお、描写はスパランド内のみで、水着に着替え終わったところからはじまります。
ゲームマスターより
はじめまして、りょうと申します。ご覧頂きありがとうございます。
お気に入りの水着を着て、愛しのあの人とラブラブバカンス!というのをしてみたいものですね。いや、やりましょう。今ここで!
ということで、秋の気配を感じる季節ですが、水着バカンスしちゃいましょう。
皆様のご参加をお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リヴィエラ(ロジェ)
※檜風呂にて リヴィエラ: まぁっ! 檜の良い香り…私温泉て大好きです。早く入りましょう、ロジェ! え、温泉とは、先に体を流してから入るものなのですか? (ロジェが他の客からリヴィエラを隠すように体を寄せてくる) あ、あの、ロジェ…? あの、そんなに近づかれると肌が密着して 恥ずかしい…です…。それに、そんなに怖いお顔をして、どうなさったのですか? もしかして…お父様が私を連れ戻そうとしている事を気になさっているのですか? (真っ赤になってもじもじしながら)それなら、その…貴方の体にだったら、 隠されても構わない…もっと隠して欲しい、です… (どうしよう…胸の鼓動が聞こえてしまいそう…) |
アオイ・リクア(キミヒデ・カーマ)
心情 ・洞窟風呂に興味があったが、 カーマに反対され、檜風呂へ行く事に少し不満気味。 行動 ・ラッシュガードを羽織り、檜風呂の入口近くでカーマを待つ。 合流後は、入る手順のガイドがあるか探し回る。 ・檜風呂へ入る準備も済み、静かに浴槽へ足を入れる。 浴槽内では最初こそ静かにしていたが、 段々構ってとばかりにカーマに話しかけながら時間を過ごす。 ・お風呂上がりはフードコートで飲食し、 たこ焼き、焼きそば、レモン味のかき氷を注文。 黙々と食べるカーマの気を惹こうと、 自分のたこ焼きの半分を差し出したり、 カーマのかき氷を勝手につまみ食いする。 ・食べ終わる頃、カーマを気遣うかのように、 檜風呂も楽しかったよ、と笑いながら呟く。 |
紫月 彩夢(神崎 深珠)
白のタンキニにホットパンツ 他のウィンクルムにも会う機会あれば、雰囲気的に邪魔じゃなければ挨拶したいな 結構広いのね…まずは…無難に温水プールいこっか 温かい水で泳ぐって、お風呂で泳いでるみたいでちょっとわくわくする 遊んだ後、洞窟風呂でゆったり 結構遊んだから疲れたわ 温水も良いけど、今度の夏には、海にも行けたらいいわね あたしこう見えて釣りとか得意なんだから …深珠さんはさ、契約、乗り気じゃなかったでしょ 別に唐突でもないわよ 前から結構妬いてたの 深珠さんがあんまりにも咲姫の事ばっかりだから どっちに? さぁ、どっちかしら 咲姫は、兄だから お互いが大切で大好きなのは、当たり前よ ふふ、深珠さんの本音聞けて、良かった |
御神 聖(御神 勇)
最初に 勇には迷子になったら、すぐに大人の人に声を掛けるように言っておくよ ウォータースライダーの混雑状況も調べておこう 途中、ウィンクルムの皆に会ったら挨拶と軽い会話が出来たらいいな 温水プール ごく普通に楽しむよ 遊具の貸し出しあれば借りるけど、ないなら泳いだり ウォータースライダー 人気で混雑し易い場合、最初に楽しんでおきたいかな そうでもないならお昼前 勇の身長も問題ないしね ナンパ へー(棒) 男(勇)連れだわ 悪いね、他当たりな 昼食 焼きそば、たこ焼き、ソフトドリンクかな? カキ氷は3時 3時 午後も温水プールで遊んだ後、カキ氷 「ママはイチゴ」 舌を見せて笑う 帰り これだけ楽しんでると、勇も帰りは寝てそう おんぶして帰るか |
エリー・アッシェン(モル・グルーミー)
心情 さあ、遊びましょう! と思ったら、モルさんがいない!? 行動 スパランド内を大捜査。 顔を合わせた方には、不気味な笑顔でフレンドリーにご挨拶。恋人たちの邪魔になりそうな時はソッと引っ込む。 モルを探すという大義名分のもとに、各施設でちゃっかり遊ぶ。 温水プールでラッコのように流される。 ウォータースライダーを滑る。 檜風呂で百まで数える。 洞窟風呂にてモルを発見。 何故かトゲトゲしい言葉を向けられる。 陰険な対応に戸惑いつつも、素直な思いを口にする。 「モルさん、大げさですよ……。たかが、いい歳して迷子になったぐらいで!」 捜索のついでにスパランドを一人でエンジョイしたことも話す。 まだいってないフードコートに誘う。 |
●笑顔と明るい声で溢れるスパランド
スパランドは温泉を利用した屋内リゾート施設である。季節や天候に関係なく楽しめるため、ツアーに参加したウィンクルム達以外にも客は多い。多くの人々の笑い声や話し声、水を打つ音や施設に流れるBGMなど多くの音が混ざり合っている。
エリー・アッシェンの精霊であるモル・グルーミーは人の多さに緊張せずにはいられなかった。
エリーと共にここまできたものの、もっと静かで落ち着ける場所に移動したくて仕方が無かった。傍らのエリーを盗み見れば、彼女はこの雰囲気も含めて楽しそうで声をかけ辛い。
モルは周りを見渡した。よくよく見れば、流れるプールの右手側は少し落ち着いた雰囲気で人も少なそうだ。賑やかな空気に耐えられず、彼はふらりとそちらへと足を向けた。
それに気づかず流れるプールや、その左手に見えるウォータースライダーに眼を輝かせるエリー。
「さあ、遊びましょう!ってあれ?」
自分のパートナーに向けた台詞がむなしく響く。先程まで傍らにいたモルの姿はそこにはなかった。
「モルさんがいない!?」
●プールは緩やかに流れる
流れるプールで泳ぎを楽しむのは紫月 彩夢と神崎 深珠だ。
この流れるプールは温泉を利用しており、プールといえども温かい。いわゆる温水プールだ。冷たいプールとは異なる温かさに、彩夢は頬を綻ばせる。
「温かい水で泳ぐって、お風呂で泳いでるみたいでちょっとわくわくする」
白のタンキニにホットパンツという比較的動きやすい水着姿の彼女は、他の客のざわめきの間を軽やかに泳いで行く。
その傍には白地に柄の入ったサーフパンツ姿の深珠。彩夢とは違い、彼は常とは異なる水温に少々眉根を寄せている。
「冷えずに済むのは、良いが……泳ぐだけなら普通の水の方が好きだな」
深珠さんは海の方がいいのかもね、と彩夢は心に留めておくことにした。
●檜風呂にて
(本当は洞窟風呂に行きたかったんだけどなぁ)
檜風呂の入り口で一人佇むアオイ・リクアは溜め息をついた。彼女の精霊であるキミヒデ・カーマに反対され、渋々檜風呂へとやってきたのだ。
水着の上にラッシュガードを羽織り、カーマの到着を待っていると、彼が現れた。彼もまた、ラッシュガードを羽織っている。
アオイは手を振った。
「ゴンちゃん!」
「待つくらいなら先に行っててよ」
子供のようにはしゃぐアオイに対し、毒づくカーマ。邪険にしたいわけではない。こんな所で待っていないで中でゆっくりしていれば良いのにという思いを口にすることが出来ないのだ。
二人は連れ立って檜風呂へと向かう。
浴室への重たいガラス戸を開けると、湯気と温泉独特の臭いと檜の香り、そして熱気があふれてきた。
100人は優に入れるであろう、巨大な檜風呂が設置されている。浴槽だけでなく、床材も檜だ。磨かれた檜の床板が、浴槽からあふれた水に濡れて輝いている。
「アオイ、滑らないように気をつけてね」
「大丈夫ですよ」
本当に大丈夫だろうかとカーマは心配になる。濡れた床は非常に滑り易いのだ。
アオイの動きに気をつけながらも、カーマは周りを見渡した。ラッシュガードを着たまま入浴できるのか気になったのだ。往往にして、温泉の入り口には入浴の注意書きなどが書かれているものだ。
「どうしたんですか?」
「入浴ガイドがないか探してるんだよ」
そう応えた彼の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「まぁっ!檜の良い香り……私温泉って大好きです。早く入りましょう、ロジェ!」
「リヴィー、はしゃぐのも良いが、入る前には体を流すんだぞ」
「え、温泉とは、先に体を流してから入るものなのですか?」
声の方へ近づくと、思った通り、ウィンクルムの姿があった。
「こんにちは」
こちらに気づいたリヴィエラとロジェが挨拶をする。アオイとカーマもそれに応えた。
先程の会話から察するに、ロジェは温泉の作法に詳しいのだろうかと、カーマはロジェに問いかけた。
「いや、詳しいというか、ここに書いてある」
彼が指し示す先を見れば、そこにはカーマが探していた入浴ガイドが設置されている。
カーマが礼を言うと、ロジェは気にするなというように片手を上げた。
それじゃと室の奥へと向かうリヴィエラとロジェを見送った後、アオイとカーマは改めて入浴ガイドを一通り確認する。そこには『水着またはそれに準ずる物を着用して入浴すること』との記述がある。ラッシュガードは水着に準ずる物だろうと判断し、そのまま入浴することにする。
ガイドに従い、かけ湯をしてから静かに浴槽へと足を入れた。
浴槽の中は小さな段差があり、そこに腰掛けて湯に浸かることが出来る。並んでそこに腰掛た。
カーマはゆっくりと息を吐いた。隣ではアオイも静かに湯に浸かっているようだ。
ゆらめく湯気を眺めながら、カーマは物思いに耽る。任務のこと、今までのこと、これからのこと、そしてアオイのこと。多くのことが頭に浮かぶが、その思考はアオイの声で中断された。
「あのね、ゴンちゃん」
アオイがおずおずと声をかけてくる。先程まで静かにしていたと思ったのだが、あまり長続きしなかったようだ。
ため息を一つつくと、渋々ながらもカーマは徐々にヒートアップするアオイの質問攻めに答えるのだった。
●檜風呂の片隅で
広い浴槽の奥、入浴している人が比較的少ない場所へとロジェはリヴィエラを導いた。
できるだけ入り口からは遠い位置へリヴィエラを座らせ、彼女の姿を隠すようにロジェは湯に浸かる。その胸中は穏やかではない。
(いくらここが温泉施設だとしても、どこかに追手がいないとも限らない。彼女をできるだけ他の客から隠さなければ)
自然とロジェの顔は険しくなる。
リヴィエラは、彼女を屋敷に連れ戻そうとする彼女の父親に追われている身だ。その追手がいつ現れるか分からない。
ここは湯気で視界が悪い。それはリヴィエラの姿を隠す手助けになるが、逆に、追手の姿も隠してしまうのだ。加えて湯船の中は動きが制限される。
最善はリヴィエラが追手に見つからないことだろう。身を隠す道具など無い今は、ロジェ自身の身体で彼女を隠すしかない。
自然と二人の距離は詰まる。
「あ、あの、ロジェ……?そんなに近づかれると肌が密着して恥ずかしい……です……」
たまらずリヴィエラが声を上げる。その頬はほのかに赤みを帯びている。
水着を着ているとはいえ、身体の大半は露出しているのだ。近づけば、肌と肌とが直に触れ合う。
「それに、そんなに怖いお顔をして、どうなさったのですか?」
その声はどこか不安そうだ。言われてロジェは慌てて眉間に寄せていた皺を消した。
「……っ、怖い顔をしていたか……?すまない、怖がらせてしまって」
ロジェがリヴィエラの眼を真っすぐに見る。
「大丈夫だ。例え追手がきていたとしても、君は俺が守る」
追手という言葉にリヴィエラは合点がいった。
「お父様が私を連れ戻そうとしている事を気になさっているのですか?」
そうだと頷くロジェ。
彼の行動の全てが自分のことを思ってのことだと思うと、嬉しくてたまらない。
先程から密着するロジェに戸惑い気味のリヴィエラだったが、今度は自らロジェへとほんの少し身を寄せた。頬をさらに赤く染めながら、もじもじと途切れ途切れに言葉を発する。
「その……貴方の体にだったら、隠されても構わない……もっと隠して欲しい、です……」
「……!」
リヴィエラの申し出にロジェは驚いたが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。一層リヴィエラに身を寄せる。
「君がそんなに大胆な事を言うなんてな。わかっているさ。君の水着姿を見て良いのは俺だけだ」
濡れたリヴィエラの髪をそっと払い除ける。露になった首筋へロジェは己の顔を近づけると、噛み付くように口づけた。
リヴィエラはびくりと身体を震わせる。
(どうしよう……胸の鼓動が聞こえてしまいそう……)
密着するロジェの体温と唇の感触に、鼓動が速まるのを感じずにはいられない。
唇を離し、リヴィエラの様子をうかがうロジェの中に新たに悪戯心が芽生える。しかし、ここは公共の施設。湯気で視界が悪いとはいえ、人目に着くことには変わりはないのだ。
(本当はもっと悪戯してやりたいが、他の客の視線が……)
少々歯がゆい思いをするロジェである。
●小さなナイト
御神 聖は息子であり自身の精霊である御神 勇とウォータースライダーへやってきた。
施設のスタッフに確認したところ、客がフードコートへ流れる昼前から昼時が空いているとのことだった。
流れる温水プールを楽しんだ後、ここへやってきたのだった。
勇には迷子になったらすぐに大人の人に声をかけるように言い聞かせてあるが、あまり心配はいらなそうだ。
ウォータースライダーは一人で滑り降りるタイプだ。10mほどの高さから蛇行を繰り返し、水面へと滑り降りて行く。
「一人で滑れる?」
「大丈夫だよ。ママは先に滑って下で待ってて」
「わかった。待ってるよ」
聖は一足先にウォータースライダーを滑り降りる。それなりのスピードが出るが、恐いというほどではない。勇も大丈夫だろう。
勇が滑り降りるのを、プールサイドで待つことにする。
スライダーを見上げれば、勇が手を振っているのが見て取れた。手を振り返そうと思ったところで、背後に人の気配を感じる。
「お姉さん一人?」
声をかけられ振り向くと、いかにもな男が二人。
「お姉さん美人だね。よかったら俺らとご飯でもどう?」
「へー」
聖はナンパ男に冷めた眼差しを向けた。
——同時刻。
勇はウォータースライダーを滑り降りた。左右に何度か蛇行し、最後は直線。スピードは落ちないまま、プールへと放り出される。水しぶきがあがる。
「面白いー!」
プールからを顔を上げ、勇は満面の笑みを浮かべる。それから、母である聖の姿を探した。
(ママ目立つからすぐ見つかると思うけど……)
きょろきょろと小さな頭を動かしていると、すぐに聖の姿を発見する。彼女に絡む、見知らぬ男の姿と共に。
(ママがナンパされてる!?)
察しのいい勇はプールサイドへと上がると、急いで聖の元へ向かった。
「ママ!」
ナンパ男と聖の間に小さな身体を割り込ませ、精一杯ナンパ男を睨みつける。
(ぼくがママをナンパ男から守らなきゃ!)
小さなナイトの登場に、聖は一瞬頬を緩ませた。しかし、元の冷めた眼差しでナンパ男を一瞥する。
「悪いね、男連れだわ。他当たりな」
そう言い放つと、軟派男に背を向けて歩き出した。勇も続く。
「ママ大丈夫?」
「ありがとう。勇のおかげだね」
勇は得意げに笑う。すると、安堵したからなのか、彼のお腹がぐーと鳴った。聖は思わず笑い声を上げる。
「あははっ。ご飯食べようか」
「うん!お腹ぺっこぺこ!」
「何食べたい?焼きそば、たこ焼きがいいかな?」
「どれも美味しそう!」
「でもかき氷は3時になってからね」
3時のおやつの約束をしながら二人はフードコートへと向かった。
●洞窟風呂
プールで泳ぎ疲れた彩夢は、深珠を洞窟風呂へと誘った。
洞窟の中は薄暗い。入浴している人もさほど多くはないようだ。
わずかな灯りと湯気が生み出すコントラストにより、幻想的な雰囲気である。
ゆっくりするには丁度良さそうだと二人は腰を落ち着かせた。お湯につかり、彩夢は伸びをする。
「結構遊んだから疲れたわ」
そうだ、と先程のプールでの会話を彩夢は思い出す。
「温水も良いけど、今度の夏には、海にも行けたらいいわね。あたしこう見えて釣りとか得意なんだから」
そう提案してみると、深珠は少し驚いたように眼を見開いた。
「釣りが得意……正直意外だ」
しばし考える様な仕草をする。
「まぁ、そうだな、来年は少し気の長い話だが、その時にはきっとな」
そう穏やかに応えた。彩夢は約束ね、と笑顔を向ける。
そこにバシャバシャと水を蹴り上げる音が近づいてきた。
「あら、紫月さん、神崎さんこんにちは〜」
現れたのは、モルを捜索中のエリーだった。フレンドリーに挨拶をする彼女。しかし、その態度とは裏腹に顔に浮かぶ笑顔は不気味だ。だが、彩夢はあまり気にした様子も無く、自然に挨拶を返す。
「こんにちは。一人?」
彩夢の問いに、モルが行方不明だとエリーは事情を説明した。
「モルさん見かけませんでした?」
彩夢は首を横に振り、見かけていないと応えた。
「この奥はあたし達も見てないから、行ってみたら?」
「ありがとうございます。そうしてみますね」
礼を言ってエリーは洞窟のさらに奥へと進んで行く。パートナーを一生懸命捜索する彼女の後ろ姿を彩夢は見送った。
エリーの姿が見えなくなると、辺りは静寂に包まれる。穏やかな時間が流れている。
微かに揺れる水面を見つめながら、彩夢は静かに切り出した。
「……深珠さんはさ、契約、乗り気じゃなかったでしょ」
「……待て。待て彩夢。唐突すぎる。どういう意味だ」
思わず深珠は彩夢を見つめた。
「別に唐突でもないわよ」
「俺は別に渋々お前と一緒に居るわけじゃ……」
深珠の言葉を遮るように彩夢は言う。
「前から結構妬いてたの。深珠さんがあんまりにも咲姫の事ばっかりだから」
「妬いた、か」
こちらを見ようとしない彩夢の本心を探るように、深珠は静かに問いかけた。
「それは、どっちにだ?」
「どっちに?さぁ、どっちかしら」
彩夢は自嘲する。そんな彼女を見つめ、深珠は言葉を選びながら言う。
「紫月さんに申し訳なくはある。あの人がお前の事を心から愛して……あえてシスコンというぞ。そしてお前はブラコンだ。そこに割って入る事になって、正直気が重い」
気づけば彩夢の視線は深珠に向けられていた。深珠はこの続きを言うか、一瞬考えてから、言葉を発した。
「けどな、お前が、俺を選んでくれてるんだろう」
「咲姫は、兄だから。お互いが大切で大好きなのは、当たり前よ」
でも、と彩夢は満足そうに笑う。
「ふふ、深珠さんの本音聞けて、良かった」
「真面目な話だ。笑うな」
「あれ?深珠さん顔赤いよ?」
「温泉に浸かっているからだろ」
言ってそっぽを向く深珠の姿に彩夢はまた笑った。
(まったく……隙あらば踏み込んでくるな、お前は)
恥ずかしさを紛らわすためか、深珠は胸中で毒突いた。
●迷子の精霊さん
洞窟風呂の奥にある小さな滝。洞窟上部から静かに温水が流れ落ちている。その落下地点に一人の男の姿。
(何も言わず、独りで来てしまった……神人は呆れているだろうな……)
ネガティブな物思いに耽っている男はモルだった。肩に滝の水流を感じながら、じっと己の爪先を見つめる。
一つ大きなため息をついたときだった。
「モルさん発見です!探しましたよ!」
顔を上げるとそこにはエリーの姿があった。彼女の言葉から、自分のことを探してくれていたのだと自覚する。と同時に、迷惑をかけてしまったのだと改めて思い知らされた気分だ。
目の前に迫った彼女から視線を外し、モルは吐き捨てるように言う。
「楽しい時間になるはずが、偏屈な精霊のせいで台無しだな」
「え、モルさん?」
「我ではなく、先に契約した精霊と過ごしていれば、充実した時間になったろうに」
「ちょっと待ってください」
戸惑うエリーの姿に、モルはまた自己嫌悪に襲われる。さらに毒を吐こうとしたが、エリーがそれを遮った。
「モルさん、大げさですよ……。たかが、いい歳して迷子になったぐらいで!」
「ま、迷子……!?」
予想外の言葉にモルは言葉を失った。
(わ、我は迷子になっていたのか!?)
ショックを受けるモルをよそに、エリーは彼を捜索しながらスパランド内を楽しんだことを嬉々として話している。
「流れるプールではラッコみたいにぷかぷか流れましたし、ウォータースライダーはくねくね曲がりながら滑り降りて楽しかったです!檜風呂ではちゃんと100まで数えて浸かりましたよ。どこもすっごく楽しかったです!この洞窟風呂も素敵な雰囲気ですし」
にこりと笑みを浮かべるエリー。いや、灯りの関係か、ニヤリに見えたような気もする。
「あっ。でも、まだフードコートには行ってないんですよ。一緒に行きませんか?」
モルは沈黙した。神人は迷惑だとか不快感だとか思ってはいないようで、自分を捜してくれていた。そして、一緒に行こうと誘ってくれている。
モルは、静かに頷いた。
●フードコードにて
フードコートには幾人かのウィンクルム達の姿がある。皆、それぞれのパートナーとの時間を楽しんでいるようだ。
檜風呂からフードコートに移動してきたアオイとカーマは料理を注文するためカウンターへと向かう。
「えーと、たこ焼きと焼きそば……あと、かき氷のレモンください!」
注文した品々を乗せたトレーを持って、アオイは席を確保する。遅れてカーマも同じくトレーを持ってやってきた。
カーマのメニューは焼きそば、アイスティー、アオイの物より量が少ないかき氷が二つ。味はレモンとブルーハワイだ。
席に着くなり、カーマは黙々と焼きそばを頬張る。
「たこ焼きも美味しいですよ」
少しでも彼の気をひこうと自分のたこ焼きを半分さし出してみるが、見向きもされない。
アオイはおとなしくたこ焼きと焼きそばを胃に収め、レモン味のかき氷を頬張った。
そして、自分のとは異なるカーマのかき氷に眼をつける。つまみ食いをしようとそれに手を伸ばしたが、その手は虚しく空を切った。カーマが徐に二つのかき氷を混ぜ合わせたのだ。どうやらかき氷の量が少なかったのは、混ぜ合わせるためだったらしい。
ミックスされたかき氷を黙々と食べる彼を見つめながら、アオイは自分のかき氷を口へと運んだ。
彼が食べ終わるのを見計らって、アオイは声をかけた。
「ゴンちゃん、今日は楽しかった?」
アオイは檜風呂でたくさん話しをしたことを思い、笑いながら呟いた。
「私は檜風呂も楽しかったよ」
「……そう」
カーマは俯きながらそう応えた。アオイには見えないだろうが、彼の顔には笑みが浮かんでいる。
——別のテーブルでは。
「3時のおやつ!」
嬉しそうに声をあげる勇に聖は笑顔を向けた。食事の前に約束したおやつの時間だ。
温水プールで目一杯遊んで喉が渇いている。二人はかき氷を頬張った。火照った身体に、かき氷の冷たさが心地よい。
しゃくしゃくという小気味よい音を立てながらかき氷を口へと運ぶ。その口の周りが徐々に色づいてきていた。
「勇、舌出して」
「え?」
言われるがままにべーっと舌を出すと、聖が笑う。どうして笑われているのかわからず、勇は小首をかしげた。
聖が小さい手鏡を差し出したので、勇は自分の舌を確認する。
「あ、ぼくの舌まっさお!」
ブルーハワイのかき氷を食べていた勇の舌と唇にはその青色が着いてしまっていた。
「ママは?」
「ママはイチゴ」
聖が舌をだすと、勇が笑う。
「ママは真っ赤!」
お互いの舌を見せ合い、二人で笑い合った。
けれど、さすがに一日遊んで疲れたのだろう。かき氷を食べ終わる頃には勇は少し眠たそうで、うつらうつらとし始めていた。
(さすがにお疲れかしらね。おんぶして帰るか)
そんな息子の姿を見て、また笑顔になる聖である。
ツアーの終了時間までウィンクルム達は笑顔で時を過ごすのだった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | りょう |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 10月05日 |
出発日 | 10月12日 00:00 |
予定納品日 | 10月22日 |
参加者
会議室
-
2015/10/11-00:48
あたしもすれ違ったらご挨拶って感じで書いておくね。
勇にも挨拶はちゃんとするように言っておくよ。
さって、ウォータースライダーはどういうのなんだろうなぁ(スパランドの施設調べつつ) -
2015/10/10-20:47
キミヒデ:
俺達もウィンクルムの誰か一組とは、すれ違うかもしれません。
だから視線が合わなくても、会釈程度はさせていただきます。
アオイ:
挨拶する事は、プランにも書きますねー。
何となくですけどー、パッと見、良い雰囲気だなーと思ったら、
お見かけしても声をかけない事もありますのでよろしくお願いしまーす。 -
2015/10/09-19:12
わかりました~。
各自好きなように遊んで、同じ場所で顔を合わせたらご挨拶する感じですね。
モルさんは気難しい性格ですが、お会いした方に失礼なことをしでかさないよう、私の方でしっかりと注意しておきますね! -
2015/10/09-14:30
ロジェ:
ああ、もし見かけたら挨拶させて貰うよ、彩夢。
皆も、もし一緒の場所で見かけたら挨拶させて貰おうと思ってる。
改めて宜しく頼む。
リヴィエラ:
(ぽかぽか肩を叩きながら)
もうっ、彩夢様とお呼びしないと失礼ですよ、ロジェ! -
2015/10/09-12:18
改めて、宜しくね。
えっと、何となく予定の決まってる人もいるっぽいし、
最初から一緒って感じじゃなくて、同じ場所で逢ったらよろしくね、
くらいの方が、お互い動き易そう…かしら。
あたしたちはまだ行き先とかもそんな決めてないけど、
見かけたら挨拶ぐらいは、お邪魔な雰囲気じゃなければさせて貰おうかな。 -
2015/10/08-23:47
あ、全員はじめましてだね。
あたしは御神 聖。
今回のパートナーは息子の勇だよ。
行き先希望は温水プールとウォータースライダーかな。
勇がそっちで遊びたいみたいだから。
うちのは小学生なんで、ご迷惑じゃなければ&行き先が同じなら一緒OKって感じかな。
そんな訳でよろしくね。 -
2015/10/08-17:04
皆さん、はじめまして!
って事でー、自己紹介しますね!
神人のアオイとー、精霊のゴっ……じゃなくてカーマです。
よろしくお願いしまーす。
個別の場合、
アオイ達は檜のお風呂か、洞窟のお風呂に行く予定でーす。
檜でのーんびりするか、洞窟の温泉を探険したいなーって思ってー。
>紫月さん
アオイ達はどこでも行けますし、どう絡んでも絡まれてもOKです。
お客さんもいるので、アクション映画みたいな事(例:バタフライ、水中宝探しなど)は出来ないですけど……。
キミヒデ:
……。
(※子供じみた発想に呆れている)
-
2015/10/08-08:46
リヴィエラ:
リヴィエラと申します。皆さまどうぞ宜しくお願い致します。
うふふ、スパランドだなんて色々あるようで楽しそうですね。
私はええと…以前流れるプールで溺れた事があるので、
温泉に行ってみたいなと思っています。
ロジェ:
俺はロジェという。皆宜しくな。
俺はこいつが無茶をしないか、ずっとついて回る事になりそうだ(ため息) -
2015/10/08-02:08
エリー・アッシェンと、こちらは皮肉屋で威張り屋で色々と残念な感じの中年精霊モル・グルーミーさんです!
モルさんは、洞窟風呂の小さな滝を打たせ湯のようにして肩こりをほぐしたいそうです。
私は具体的に何をするかは未定です。スパランドには色々なものがあって楽しそうですね! -
2015/10/08-00:52
紫月彩夢と深珠おにーさんよ。
リアル兄貴とは海に行ったし、おにーさんとも遊びに行きたいなって思って。
全員一緒か全員バラバラかの二択ってわけでもないみたいだし、
誰かと遊びたいって人がいれば、ご一緒するのも楽しそうだなって思ってるけど…
希望次第、かな。あたしは絡みばんばんおっけーだし、個別でもいいし、
皆がどんな予定でいるのかちょっと聞きたいなって思ってるところよ。