【月幸】邂逅の水鏡(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

光と影 陰と陽 表と裏……
万物の理であり、人の心にも存在するそれは
ウィンクルムの絆にも深く関係することでしょう ――

●分かたれた2人
 月の光を取り戻すべく、任務外時もウィンクルムたちは各々の判断と都合で
セレネイカ遺跡を訪れておりました。
神人の楽しい・幸せな心に反応し見つけることが出来る『月幸石』。
ネイチャーヘブンズにおけるデート、気分転換や気晴らし、ちょっとしたお散歩の間に、1個でも見つかるならと。

 そんなふうに考えて今日もウィンクルム数組が、唯一『月幸石』が見つかるというネイチャーヘブンズの中の
とある小さな森を探索していた時でした。
瘴気の影響か、はたまた孤立してしまった月の神による必死の啓示か……
先程まで隣を歩いていたはずのパートナーが、神隠しにあったかのように忽然と姿を消したのです。
まだ沈む気配も見せない太陽の光を、紅葉してきた葉たちが木漏れ日に変えて控えめに降り注ぐその森。
美しいとさえ感じるこの景色の中で、見えなくなるような暗い場所などありはしないのに。
パートナーを探して歩き回っている貴方の視界に、小さな池が見え始めました。

●表と裏の水鏡
 ―― ここはどこだろう……先程まで森の中をパートナーと歩いていたはずなのに。
突然あたりが真っ暗になり、どんなに歩いても微かな灯火すら見えず障害物に当たる気配もありません。
異次元空間。黄泉の国。そんな単語が過ぎった頃。
ふとその耳にピチョンという水の音が聞こえた気がしました。藁にもすがる思いで、水音がした方へ足早に向かいます。
その時、暗闇に覆われていたはずの視界に、ゆらりと揺れる陽炎のような淡い光が現れました。
近づいてみると、それは丸く縁どられた水面に見えました。
闇に穴を開けるようにぽっかりと浮かんだ水面を覗き込んでみます。
するとそこに映ったのは……――

「え!?」

 ―― 落葉が浮かぶ池のほとりで貴方は声を上げました。
なんとなく覗いてみた池の中に、消えたパートナーの姿が映ったのです。
向こうも驚いた表情でこちらを見ています。そして自分の名前を呼んでいるのも聞こえました。
パートナーの後ろは真っ暗で何も無いように感じました。貴方は尋ねます。どこにいるの?と。
水面のパートナーは首を振って答えます。分からない、と。

 どうすればいいだろう……、そう貴方が考えを巡らせようとした時でした。
吹き抜けた優しい秋の風に頬なでられているうちに、何とかなるんじゃないか、きっと大丈夫、そんな高揚した気持ちがふと湧いてきたのです。
その胸の内からは、楽しい、幸せな思い出も次々と浮かんできます。
それは幼き日の思い出だったり、パートナーと歩んできた過去だったり。

 2人でならすぐ解決できるよ。
そう水鏡越しに伝えようとして、話していたパートナーの表情が変化していることに気付きました。
それは不安そうな、困惑したような、落ち込んだような、そんな影を纏っていました。
具合が悪い?大丈夫?心配する旨を伝えてみます。
すると水面のパートナーは首を振ります。
暗いせいか、何故か嫌な記憶ばかり蘇ってくるんだ、と言葉が返ってきました。
もう逢えないのかもしれない……次第に声も弱々しくなって。

 貴方は伝えます。
絶対大丈夫だから。ほら、覚えてる? あの時すっごく楽しかったよねっ、なんて。
闇に呑まれてしまわないように、幸せな気持ちをお裾分け。
どんなに闇が大きくても、どんなに自分の言葉が些細で小さなものでも、
いくつも振りまけば、そこに光は溶け込んで微かな道が照らせるようにと、祈りを込めて。

 揺れるパートナーの表情が次第に明るさを取り戻していきました。
笑顔に笑顔で応えた時、池は、闇に浮かぶ水面は、強く光を放って語りかけるでしょう。

飛び込みなさい と。

 動いたのはどちらが先だったでしょうか。
水鏡を通って、大切なパートナーと再び出会えるのはもう間もなくのこと……
出会ったウィンクルムの傍らには、きっと月幸石が瞬いていることでしょう ――

解説

●はぐれたパートナーと、水鏡越しに会話
水鏡:水面を通じて相手の姿と声が届く。
互いの思いが何かしら繋がって水面が光るまでは、顔をつけても手を入れてもただの水中。

【明】側:
木漏れ日射す森の小さな池にて。楽しい・幸せな気持ちや思い出が溢れてきます。
それを、向こう側のパートナーに分け与えて励ましてあげて下さい。

【暗】側:
まるでブラックホールの中にいるような闇が広がる一帯に、ぽかりと浮かんだ丸い水面前にて。
傷ついた過去、思い出したくない記憶など負の思い出が押し寄せます。
それをパートナーへ語るか語らないかは自由です。

●プランについて
・神人、精霊のどちらが【明】【暗】かご記載下さい。片方が書いてあれば良いです。
 アクションプランに【明】とあれば、ウィッシュに書いてなくとも自動的に精霊さんが【暗】と受け止めます。
・どんな楽しい思い出を語るか、どんな辛い思い出が蘇るか等から始まり
 【明】側が【暗】側の気持ちを浮上させるような会話やリアクションをお書き下さい。
 最終的に【暗】側の心が復活しないと水鏡が光らず、お互い出会えないままになってしまいますのでご注意。

 個別描写の心情中心となる予定。
プラン次第で、【明】【暗】どちらかの側が主体になったり、同じくらいだったり、
場合によっては意外とすんなり出会えて、なんか大変だったね……なんてその後の感想言い合ったりと
各々参加者様によって描写箇所の比率は異なるかと思われますので、ご了承下さいませ。

●セレネイカ遺跡までの交通費で一律<300Jr>使ってます。

ゲームマスターより

ちょっと雨に濡れて水性がしっとりしちゃったしじゃあエピソードもしっとりにしよう!な流れで参上!
蒼色しっとりクレヨンです(台無し)

1つの辛い記憶を上塗りするのには、たくさんの幸せな気持ちが必要かもしれないけれど
でもきっと、時間をかけていけばそれだけの幸せな気持ちに出会えると信じてます☆
ウィンクルムの皆様の、個性溢れる物語をお待ちしております。

…………(/◇\) ←語っちゃってハズカシイ

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  【暗】

物心ついた時にはもう両親はいなかった
みんな言うの「輝ちゃんは両親いなくて可哀相」
でも私は泣いちゃいけないの
お爺ちゃんとお婆ちゃんが心配するから

だけど
頑張れば頑張る程、可愛げが無いって言われたわ
可愛い物が好きって言うと「似合わない」って言われた
周りからの評価でがんじがらめになって動けなくなって

良かれと思ってやった事で頬をひっぱたかれた事もあった…
私のやる事なんていつも、そう
誰の役にも立たなくて迷惑ばっかりかけて
私なんていない方が良かったんじゃないかって


アルは…契約で会った時からずっと変わらない、ね
私……アルの役に立ってたの?
ほんとに?
私、アルの傍に戻りたい…!
私が一番私らしくいられる場所に



ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  【明】
アルヴィンどうしたの、そんな顔するなんて珍しい…みず?鏡…?そこはどこ?(そっと水に手をいれる)

りよう…?何の事?
私は貴方が居ないと何もできないけど助けて貰ってばかりだけど、そんな風に考えた事ないわよっ!
そりゃ確かに最初は義務とか…仕方ないって気持ちもあったわ
でも、一緒に色んな所へ行って同じモノを見て、大変な事もあったけど、楽しいって思える事も沢山あったわ
海にやお祭りやクルーズ、月にも行ったわね

なに、何で笑ってるの!?
いえ笑うのはいいわよ、だって沈んでる顔なんて似合わないじゃないっ!

あーもう変な事いわせないで(自己嫌悪
…ホント迷惑な紋様だけど、貴方に会えたから
少しだけ、感謝するわ(小声



アマリリス(ヴェルナー)
 

とりあえずは無事なようで安心いたしました
ほっと息を付く

それにしてもここは暗い所ね…
ふと幼い頃の記憶が浮かぶ

幼い頃は親の事業も細々としたもので普通の幸せな家庭
徐々に仕事が軌道にのり両親共に多忙になり帰宅減る
良い子で待っていてねの言葉を信じて勉強も礼儀作法も頑張った
でもそれは自分らしくない気がして、いつまで良い子でいればいいのだろうと悩んでいた

ヴェルナーには、関係ありません
精霊には不安を伝えられず言葉を濁す
正直に胸の内を伝えたら幻滅されるのではないかと不安

…それを、素でいえるのがすごいわ
似合うのならもう少し、頑張ろうかしら
こんな自分も悪くないって、思い始めた所よ

ええ、早く迎えにきて
待っているから



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  【明】
ミュラーさんにそんな過去があったなんて知らなかった。
でも、私はミュラーさんに沢山楽しい事を教えてもらったもの。大丈夫だよ、って安心感も。
任務の時も2人で力を合わせれば、きっと大丈夫。
怖さを忘れない事が大切だと、教えてくれたのはミュラーさんじゃない。(エピ50『花、暴く』)

それにミュラーさんが大切に思っていた親友なら、手招きをせず、むしろ来るなって言うでしょう。それはミュラーさんの恐れの具現化。恐れは自覚しているからこそ気をつけられるのだと、教えてくれたでしょ。
他にも沢山の嬉しいこと楽しい事を教えてくれたのはミュラーさんですよ。と笑顔。
過去を教訓に、未来に向かって進みましょう。一緒に。




●映える光 揺れる影

 神人を見失うなど何たる不覚、と後悔の念に駆られるヴェルナーでしたが
池越しにアマリリスの姿を捉えた瞬間、安堵の表情を浮かべました。

「よかった、ご無事ですね」

 その言の葉にアマリリスの心の声も被ります。
―― とりあえず無事なようで安心致しました。
口にはされないけれど、ほっと微かに綻んで、そう桜色の瞳で語る思いはヴェルナーにも伝わったのでしょう。
強く頷けば銀糸がさらりと水面に触れそうになりました。
まるで鏡のように一度近づいた己の前髪を映した水面に、常に現れるはアマリリスの姿。
ヴェルナーは思案しながら、試しに池の中へ手をつけてみます。
一瞬左手を映し出した水面はその手を受け入れたところで、ゆらり静かに波打ちアマリリスの姿を揺らしました。
まさか消えてしまうのでは、と過ぎって慌てて手を引っ込めるヴェルナー。
水面が落ち着けば、変わりなく映るアマリリスにすぐ不安は消えたものの、その手には冷たい水の中の感触しか残っておらず。
どうすれば……とヴェルナーを悩ませます。

「それにしてもここは暗い所ね……」

 思考に耽りそうになったヴェルナーの耳に、あまり聞き慣れない、アマリリスのどこか心細そうな声が届きました。
ヴェルナーは首を傾げます。
まだ日も高く、爽やかな風がさやさや木の葉の音を立てるこの場所。何より、まだ居場所は判明しないけれど
アマリリスの無事な姿も確認出来る。ヴェルナーにとってはとても居心地の良い所にすら感じていたのでした。
池によぉく目を凝らし、アマリリスと、他に映るものを見定めようとします。
確かにこちらより暗そうな場所に見える。けれど、それだけであのアマリリスがこのような不安そうな表情を浮かべるだろうか――。

◇ ◇ ◇

 アルヴィン・ブラッドローは広がる深淵の中に身を置いていました。
いつもならこういう時、勝手に怒って、怖がって、それでも最後には前を進む彼女がいるはずなのに。
今見渡しても、あたりには誰もおらずシンと静まりかえっています。
あてもなく歩いた先に水面に浮かぶ彼女、ミオン・キャロルの姿を見つけるとどこかホッとしている自分に気づきました。
一人の状況には慣れていたはずなのにな……
水鏡の向こうで、アルヴィン!?と叫ぶミオンに、曖昧に肩をすくめ片手上げながら
大丈夫、といつも通り笑おうとした時、アルヴィンの脳裏を闇が覆いました。

『貴方の笑顔が好きよ』

遠い、亡き母の声が響きました。
それはアルヴィンの笑顔の根本にあるモノ。
幼き頃、最初は本当に楽しかったから笑っていたはずなのに、何時からだろう……人形のように自動的になっていったのは。
喜ぶ母がいたからだろうか、その母がいなくなった時からだろうか。

 次には寂しい気持ちがアルヴィンの胸に溢れていきます。
それは幼少時から年月を経て、青年になりたての頃の感情でしょうか。
そう、何もしなくても傍にいてもらえると思っていたのに……付き合おうと言われて嬉しかったのは本当だったはずなのに。
一様に彼女たちは最後言うのです。「精霊」で「一緒にいると自慢できるから」「でもつまらない」と。
勘違いだったんだ。傍にいてもらえると思ったのも、嬉しい気持ちが傷ついたのも、そう、みんな。
寂しい 寂しい 寂しくない
笑えばいい。そうすればとりあえず人はまた寄ってくるだろう――。

◇ ◇ ◇

(ここは暖かいな。幼い頃、輝と遊んだ道場の裏の森に似ている)
池の中に消えてしまった大事な人、月野 輝の姿を見つけとりあえず息をついたアルベルトは
思案しながら見つめた周囲の景色に、ふと心が和むのを感じていました。
彼女と出会えたから、彼女との思い出があったから今の自分があるのだと実感出来て。
きっと自分は、彼女が笑っていてくれればどんなことが起こっても大丈夫なのだろうと
再び水面に映った輝へと向き直った時、その愛しい笑顔が彼女から消えているのに気付いたのです。

「輝? どうかしたのか?」
「あ……その、なんでもな、」
「輝」

 昔からの我慢強さは、輝の長所でもあり短所でもあるとアルベルトはとうに知っていました。
水面に反射する太陽の光を受け、一層強く輝くアルベルトの見透かすような金色の瞳に一度びくりと固まってから。
輝の口は自然と動き出します。
それはもうずっと、輝の心に押し込められていたもの。

「みんな言うの。『輝ちゃんは両親いなくて可哀相』って」

 物心ついた時にはもう両親のいなかった自分にとっては、当たり前のように受け止めていたはずのことだったのに。
可哀想と言われる度に、悲しさや寂しさが湧いてきて……
紡ぐ輝の唇が微かに震えているのを見つめ、それでもアルベルトは促すように静かに見守ります。

「でも私は泣いちゃいけないの。お爺ちゃんとお婆ちゃんが心配するから」

 だけど、と続けようとした声が掠れそうになったのを、輝はグッと堪えました。

「頑張れば頑張る程、可愛げが無いって言われたわ。可愛い物が好きって言うと『似合わない』って言われた。
周りからの評価でがんじがらめになって動けなくなって」

 こんなことをアルに言うなんて……呆れられたらどうしよう。
そう思うものの、闇を隠そうとする輝をアルベルトは見逃してはくれません。
自分へと注がれる視線から目を逸らせないまま、輝はいつの間にか堰を切ったように言葉を続けていました。

「良かれと思ってやった事で頬をひっぱたかれた事もあった……私のやる事なんていつも、そう。
 誰の役にも立たなくて迷惑ばっかりかけて。私なんていない方が良かったんじゃないかって……」

 全てを吐き出して、輝は浅く息つぎを繰り返しました。
それをみとめてから、アルベルトは一度溜息をつきます。水面の向こうのアルベルトのその姿に
輝は不安そうな表情を浮かべます。
が、その不安はアルベルトの呟かれた一言ですぐに溶けることになるのでした――。

◇ ◇ ◇

「昔の事を思い出したよ」

 合わせ鏡のこちらと向こうで暫く互いを励まし合っていた 瀬谷瑞希 と フェルン・ミュラー でしたが
最初に違和感に気付いたのは瑞希でした。
いつも見ている彼の力強い空色の瞳の光が、弱々しくなっていることに。
ミュラーさん、大丈夫ですか? と尋ねられたミュラーは、いつもなら余計な心配をかけないように
でも誤魔化すことはせずに、笑顔で語り出したでしょう。
―― どうしてだろう。上手く笑えない……
蘇る暗い思い出が、ミュラーから体温を奪っていくようでした。
それでも瑞希にはちゃんと向き合って話さなきゃいけない気がして、ミュラーは張り付きそうになる声を押し出したのです。

「親友を亡くしたんだ。彼は先に適合する神人が見つかって。でも何度目かの任務で、亡くなったのだと話に聞いた」
「え……?」

 ミュラーさんにそんな過去があったなんて知らなかった……
突然の告白に、瑞希は僅かに動揺しました。
いつだって前を向いて笑顔を絶やさずにいてくれたから。
でもこれが、今彼の光を陰らせてしまっている事なのだとしたら。
瑞希はすぐに自分を落ち着かせると、ミュラーへ優しく相槌を打ちます。
何の任務だったんですか? と、ミュラーが話し続けられるように、そっと添えて。

「詳細は聞かせて貰えなかった。神人がどうなったのかも。危険な任務も多いから、そういう事は起こりうる。
 判っていたけれど。でも感情的に納得は出来かねて」

 一度区切ってから、勇気を絞り出すようにミュラーは続けました。

「彼は君と同じ名前」

 瑞希の目が見開きます。
そういえば契約した頃から、もう彼は自分のことを『ミズキ』と呼んでいたことを思い出します。
それがミュラーの性格であり、まだ他人と距離を置いてしまう自分へ歩み寄る為の、彼なりの方法なのだと思っていたけれど。
事実それもあったのでしょう。
そうしてミュラーは、もう一つの理由を押し隠しただけで。

「だから君を苗字では呼べないんだ。彼の事を呼ぶようで。
 任務に出るたびに彼の事が心をよぎるんだ。同じように俺は君を護りきれないかもしれない」

 耳を傾けながら瑞希は思います。
優しい人。優しすぎてきっと自分自身を傷つけてしまう人。

「『フェルン、君もこちらにおいでよ』と暗闇の奥底から彼が手招きをしてくるようで、とても怖い」

 闇に吸い込まれるように最後囁かれた言葉に、瑞希は閉ざしていた口を開くのでした ――。

●映せしキミへ

 闇がアマリリスに与えたのは、幼い頃の記憶でした。
最初はきっとごくごく普通の幸せな家庭。事業を営んでいても、必ず家族で食卓を囲み笑顔が絶えないような。
いつからだったでしょうか。浮かぶ思い出に、親の姿が無くなっていくのをアマリリスは感じました。
徐々に仕事が軌道にのるのに比例して、両親共に帰宅しない日々が増えていって……。

『良い子で待っていてね』

幼いアマリリスは、親からのその言葉を信じて勉強も礼儀作法も頑張っていたのです。
―― でもいつまで?
自分らしくないと気がつき始めてから、幼いアマリリスの胸の内に影が生まれていきました。
いつまで良い子でいればいいのだろう……見てくれる人がいないのに……
大人になってから上手にそっと隠していた思いが、どうしてか今、溢れてきたのです。

「アマリリス? 顔色が優れないようですが……どうされました?」
「……ヴェルナーには、関係ありません」

 沈みそうになった顔が、水鏡の向こうから響いた声でつと止まりました。
でもアマリリスには不安を素直に伝えることは出来ませんでした。
もし、正直に言葉にしたら、ヴェルナーに幻滅されるのではないか……
闇がアマリリスの言葉を濁させてしまいました。
こんなにハッキリと拒絶された記憶は無い気がして。ヴェルナーは僅かにショックを受けます。
何故彼女が暗い表情なのか、どんなに考えてもヴェルナーには見当もつきません。
つかないけれど。
ヴェルナーの瞳が捉えるアマリリスに、思い出の中のアマリリスが重なりました。
自分を見上げてくる時の意思の強い瞳。
時々戸惑わせられる言動もあるけれど、そういう時程美しい横顔を讃えている、そんないつものアマリリスの笑顔。

「私では頼りないかもしれませんが」

 前置きの後、ヴェルナーは力強く紡ぎました。
貴方の力になりたい、と。
俯いていた桜色の瞳が再び合わせられました。少し驚いたように。

「貴方には暗い顔より笑った顔の方が似合います。その場所が貴方を不安にさせるのなら、すぐにそちらに参ります。だから……」

 ヴェルナーはアマリリスへ微笑みました。

「会えた時は笑顔で出迎えてくれませんか」
「……それを、素でいえるのがすごいわ」

 ほんの微か、面食らったように間をおいてから、呟いたアマリリスでしたが
その表情からはみるみると影が消えていきます。
―― 似合うのならもう少し、頑張ろうかしら。
例え仮面を付けたように本当の自分を隠しているのだとしても。
まるでそれも私の一部と認めてくれるパートナーの存在を、確かに感じた気がしました。
自分にとって大事な言葉に限って、いつもはぼかされた言い方だったけれど今回はちゃんと主語があったようだし、なんて。
アマリリスの瞳に凛とした光が灯りました。

「アマリリス?」
「何でもないわ。こんな自分も悪くないって、思い始めた所よ」

 アマリリスが笑顔を浮かべた時、双方の水面が淡く光り輝き出しました。
今ならきっと出会える。
ヴェルナーはふとそう確信して、池の淵へと手をつきます。

「今参ります」
「ええ、早く迎えにきて。待っているから」

 静かな池のほとりに、大きな水音が響いたのでした ――。

◇ ◇ ◇

「アルヴィンどうしたの、そんな顔するなんて珍しい……」
「あ、悪い。ちょっとこの水鏡の……いや、暗闇のせいだ」
「みず?鏡……?そこはどこ?」

 闇に浮かぶ水面の前で、いつの間にか視線を下げ表情を無くしていた自覚をして
ミオンの呼びかけにアルヴィンは顔を上げました。
それでも、その表情は普段の飄々とした笑みとは違って見えて、ミオンは無意識にその頬へとそっと手を伸ばします。
ぱしゃり。
池の水面に映るアルヴィンの姿が揺れました。
彼の頬の温もりでなく、ただ冷たい水の感触にミオンは眉を下げます。
そんなミオンの顔をぼんやり見つめ、アルヴィンの口が闇に流されるように自然と開きました。

「俺、ミオンを利用してんだよな」
「りよう……? 何の事?」

 聞き捨てならない、とばかりに先程まで下がっていた眉が上がっていくミオンの変化に、可笑しそうに、自嘲気味にアルヴィンは紡ぎます。
契約してしまえば例え義務でも傍にいてもらえるだろう。
誰かが傍にいれば俺は人形のような自分を忘れていられるかもしれないと思ったから、と。
ミオンの眉間に皺が寄ったのを見てふと思い出します。
契約に抗えないなら笑っていよう。それでスムーズにウィンクルムになれるならと思ったことを。
計算通り、ミオンは自分を受け入れてくれた。
予想していなかったのは、怒られたことだったけれど。
そう、今のように眉間に皺を作って。
意外すぎる反応に吃驚した感情がふと、アルヴィンの頬を緩めました。
そこへ唐突に響く、あの時のようなミオンの声。

「私は貴方が居ないと何もできないけど助けて貰ってばかりだけど、そんな風に考えた事ないわよっ!」

 アルヴィンはきょとんと水面を見つめます。

「そりゃ確かに最初は義務とか……仕方ないって気持ちもあったわ。
 でも、一緒に色んな所へ行って同じモノを見て、大変な事もあったけど、楽しいって思える事も沢山あったわ。
 海やお祭りやクルーズ、月にも行ったわね」

 アルヴィンの肩が震え出しました。

「なに、何で笑ってるの!?」

 思わず怒った声を上げるものの、無表情にすら見えたアルヴィンの瞳に、いつもの光が戻ったように見えて
ミオンは内心安堵しました。
いえ笑うのはいいわよ、だって沈んでる顔なんて似合わないじゃないっ!
そう心の内も口にしていたら、更に彼は声を出して笑ったかもしれません。

「あーもう変な事いわせないで」

 怒っていた顔から一転、今度は自己嫌悪でがっくり肩を落としているのが目に見えて
アルヴィンは温かな土色の瞳を細めます。
――何時からだろう。本当に「笑ってる」自分に気づいたのは。
コロコロと変わる表情。そんな彼女がまるで分けてくれたように、自然と綻ぶ自分を少し前からアルヴィンは意識していました。

「……ホント迷惑な紋様だけど、貴方に会えたから」

 ぽそり。水面に波紋が広がるようにミオンが呟きます。
少しだけ、感謝するわ。
そっぽを向いた囁きも、アルヴィンの心にはしっかりと届きました。
利用してると言われて、こんなこと言えるのミオンくらいだろうな……
慣れない気まずい思いが湧いて苦笑いを漏らし、しかしもうアルヴィンは俯くことはしませんでした。
……多分、嘘偽りはなく心配してくれている。
彼女の素直な感情はそう伝えてくれているから、疑わずにいられる。
彼女を考えると少し暖かい、そうアルヴィンが感じた時、水鏡がアルヴィンを手招くように優しく光り出しました。

「俺……ミオンのとこに戻ってもいいか?」
「……言ったじゃない。意志があれば選べるって」
「だな」

 水鏡に、ミオンの笑顔に、誘われてアルヴィンは光の中へと飛び込むのでした。

◇ ◇ ◇

「溜め込むなと言っただろう」
「あ……」

 以前に言われた言葉が、輝の脳裏に思い出されました。そういえばその時もこんな暗闇だったことも。
水面の彼は、その時と全く同じ優しい瞳を自分に向けてくれていました。
――いいえ。もっとずっと前から。

「アルは……契約で会った時からずっと変わらない、ね」

 不思議そうに囁いた輝へ、アルベルトは語りかけ始めます。

「輝? 本当に自分が役に立たないと?」
「……」
「今の私が在るのは、輝のおかげだと言っても?」

 輝の沈んでいた両の目が丸く見開かれました。
――私が今の両親に引き取られた後、グレもせずにまともに育ったのは輝のおかげだと言ったら更に驚くだろうか。
苦笑いをそっと浮かべてから、そんな胸の内も含んだ言葉をアルベルトは輝へと紡ぎます。

「養父が厳しい人でね。おまけに精霊を引き取る事になったのが気に入らなかったらしくて」
「そんな」
「だけど、辛い目に遭っても輝の笑顔を思い出すだけで私の心は和んだ。覚えてるか?
輝に貰った玩具のネックレス。今でも私の宝物だ」

 引き取られたアルには何も落ち度なんてないはずなのに、と思わず返そうとした輝に被さるように続いた言葉に
輝は今度こそとても驚いた表情で、まじまじとアルベルトを見つめました。
忘れるはずなんてない。
私にとって心から笑顔でいられた、お兄ちゃんとの大事な思い出なのだから。
そんな自分の支えになっていた思い出が、今、アルベルトにとってもそうだったのだと伝えられて
輝の表情に温度が戻っていきます。

「私……アルの役に立ってたの?」
「輝は役立たずなんかじゃない」

 頷いてきっぱりと告げられて。輝は水面へと顔を近づけました。

「生きてれば多少は失敗もあるし迷惑掛ける事もあるだろう。だけど、少なくとも私は、今でもそれ以上の物を輝から貰ってるよ」
「ほんとに?」
「戻っておいで、輝。私の所に」

 私の大事な『Liebe Leute』。
水面の輝の顔に、触れるか触れないかまでアルベルトは手を伸ばして、最後に温かな囁きを届けました。
切なさが、愛しさが、輝に勇気を取り戻させます。

「私、アルの傍に戻りたい……!」

 そう叫んだ瞬間、暗闇の水鏡は輝を導くように光り出しました。
私が一番私らしくいられる場所に。
そう祈りを込めて。輝は光の中へ、アルベルトの元へと飛び込むのでした ――。

◇ ◇ ◇

「話してくれてありがとう」
「……ミズキ?」

 ミュラーにとっては予想外にかけられた言の葉に、不思議そうに水面の瑞希を見つめ返しました。
こんな弱音を吐いてしまったのに。呆れたりしないのだろうか。
まだ沈んだままの空色の瞳がそう告げてくるのを見てから、瑞希は小さく微笑みました。

「怖さを忘れない事が大切だと、教えてくれたのはミュラーさんじゃない」

 それは瑞希を支えてくれた言葉。
カップの中で揺らいだ花が開くのに呼応して、瑞希の心の恐怖が解かれた時に捧げられたミュラーからの言霊。
任務の時も2人で力を合わせれば、きっと大丈夫。私はミュラーさんを信じてるから。
そう響く声が水面を伝ってミュラーに届けられます。

「それにミュラーさんが大切に思っていた親友なら、手招きをせず、むしろ来るなって言うでしょう」

――そうだね、彼なら「来るな」と言うね。
どうしてそんなことにも気付かなかったんだろう。
頭にかかっていた霧が晴れていくのをミュラーは感じました。
(それはミュラーさんの恐れの具現化……)
自分も体験したことをきっかけにし、瑞希はすぐに察したのでしょう。
瑞希の耳に淡く映える満月の灯火が目に入ると、瑞希の言葉が温かく胸に広がるのをミュラーは感じました。

「恐れは自覚しているからこそ気をつけられるのだと、教えてくれたでしょ。大丈夫だよ、って安心感も」

大事なのは、自分を見失わず、最後は自分に負けず自分を乗り越えることでしょう?と。
以前に瑞希へ届けたはずの言葉が、今度は自分へと伝えられます。
瑞希は笑顔を絶やさずに紡ぎ続けました。
他にも沢山の嬉しいこと楽しい事を教えてくれたのはミュラーさんですよ、と2人が歩んできた思い出を振り返って。

 君の笑顔が幾つも希望を与えてくれてきたことに、自分は何かを返せているのかなと思っていたけれど。
今、瑞希自身が教えてくれたのでした。自分の言葉が瑞希をちゃんと励ませていたのだと。

「彼の進めなかった未来へ進まなきゃいけないね」
「はい。過去を教訓に、未来に向かって進みましょう。一緒に」

 月のように控えめに美しく微笑む瑞希へ、ミュラーが瞳に光を宿して本当の笑顔を返した時
水鏡は二人を優しく引き合わせるのでした ――。


 表と裏の水鏡。
隣に並んだ光と影は、笑顔を交わしてこれからも共に歩んでいくことでしょう。



依頼結果:大成功
MVP
名前:月野 輝
呼び名:輝
  名前:アルベルト
呼び名:アル

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 10月05日
出発日 10月11日 00:00
予定納品日 10月21日

参加者

会議室

  • [5]瀬谷 瑞希

    2015/10/10-23:53 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    プラン提出、できています。

    皆さまの絆がより一層、深まりますように。

  • [4]ミオン・キャロル

    2015/10/10-21:41 

    皆さんお久しぶり、ミオンです。

    森って虫がいるし汚れるし好きじゃないのよね。
    でも、ここは何だか楽しいわ。木漏れ日が綺麗だからかしら?
    …あら、そういえばアルヴィンがいない(きょろきょろ)

  • [3]月野 輝

    2015/10/10-20:56 

  • [2]アマリリス

    2015/10/10-17:55 


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