【月幸】言の葉を翼に乗せ(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「今日は素敵なものをご用意したんですよ!」
 ミラクルトラベルカンパニーの職員は、意気揚々とA.R.O.A.職員に輝く笑顔を向けました。
「これです!」
 ミラクルトラベルカンパニーの職員が取り出したのは、色とりどりの紙──折り紙です。
「あ。今、唯の折り紙じゃないか?って思いましたね?」
 キラーンと職員が瞳を光らせると、チチチと人差し指を立てて横に振りました。
「これは唯の折り紙ではないんです! 紅月ノ神社特製、不思議なおまじないが出来る折り紙なんです!」
 不思議な? おまじない?
 傾くA.R.O.A.職員の首を満足そうに見つめ、ミラクルトラベルカンパニーの職員は胸を張りました。
「この紙にお願い事を書き、飛行機を折って空に飛ばせば……何と!その願いが叶うらしいんですよ、素敵でしょう!?」
 フフフと得意げに、ミラクルトラベルカンパニーの職員は白い歯を見せます。
「しかも、それだけじゃないんです。伝えたい言葉を書いて飛行機を飛ばせば……それを伝えたい相手の元に飛行機が届くんです!何時の間にか!」
 A.R.O.A.職員の視線が、色鮮やかな折り紙に注がれました。
 どうやら掴みはバッチリです。
 ミラクルトラベルカンパニーの職員はぐっと拳を握りました。
「この紙は天然素材。地面に落ちた後は、自然に土に還りますのでご安心下さい。そして、今なら、何と!100Jrで!この折り紙をお譲り出来ます!」
 ──ウィンクルムさん達のネイチャーヘブンズ観光のお共に!
 ずずいっと前に出て来たミラクルトラベルカンパニーの職員を見つめ、A.R.O.A.職員はくいっと眼鏡に指を添えて上げました。
「……いいでしょう」

 かくして、ネイチャーヘブンズにピクニックにやってきた貴方達の手に、お弁当と折り紙が握られていました。
 目的は勿論、月の力を増幅させる能力を持つ『月幸石』を探す事です。

 目の前には豊かな木々に池。近くに川も流れています。
 現地ならではの生物──燕に似た紺色の鳥、ウライや、尻尾の代わりに白い大きな花を咲かせた黒猫、ペタルムの姿も見えます。
 月幸石が好きなウライが居るという事は、近くに月幸石が潜んでいるのは間違いないようです。
 月幸石は、神人の楽しい、嬉しいといった感情に反応して変質し、そうなれば一目瞭然に見つけられるといいます。

 ならば。
 貴方達は開けた場所の原っぱの上にレジャーシートを敷いて、まずは折り紙で飛行機を折る事にしました。

 貴方はどんな願い事、または伝えたい事を書いて、飛行機を飛ばしますか?
 飛行機を飛ばした後は、のんびりとランチを楽しむでしょうか?

解説

おまじないの折り紙で飛行機を折り飛ばしてみようというエピソードです。

プランには以下を明記して下さい。

1.折り紙の色
2.折り紙に書く事(願い事、もしくはパートナーに伝えたい事)
3.どんな飛行機を折るか

なお、2で『パートナーに伝えたい事』を書く場合、追加で以下もご記載をお願いします。

a.受け取り方(飛行機が飛んできたのが頭に当たった、いつの間にか服のポケットに入っていた等)
b.メッセージを読んだ感想
c.パートナーに飛行機を受け取った事を伝えるか、伝えないか

※『願い事』を書いた紙飛行機は、風に乗って森の奥へと飛んでいくこととなります。

飛行機作りと空に飛ばす作業が終わった後は、お弁当を食べてのんびり出来ます。
お弁当の中身なども、拘りがあれば明記をお願いします。
(ただし、食事場面はプランや文字数によっては描写薄めとなります。あらかじめご了承下さい)

<場所情報>
ネイチャーヘブンズの自然豊かな森の一角。近くに池と川があります。
開けた原っぱにレジャーシートを広げている状態です。
参加者はすべて同じ場所に居ますので、グループアクションも歓迎致します。
希望する場合は、掲示板ですり合わせの上、プランに分かるように明記して下さい。

なお、折り紙とお弁当代などで、一律「300Jr」消費しますので、あらかじめご了承下さい。

また、『月幸石』は、帰りに見つけて持ち帰る事が出来ますので、プランに記載は不要です。(持ち帰る描写も入りません)

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『折り紙マイブーム、未だ継続中』な方の雪花菜 凛(きらず りん)です。
折り紙って時間泥棒!となる事が多々ある今日この頃です。

以前、女性側で出したチョコレートな折り紙に続いて、今回はおまじまいの出来る折り紙です。
皆様がどんな紙飛行機を飛ばすのか、ワクワクします!

皆様のご参加と、素敵なアクションをお待ちしております♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  今回も無事に石を発見できるよう頑張ろうな
弁当は2人で作ったサンドイッチ色々に野菜ジュース(楽しみだ


飛行機は金色(ランスの瞳を連想
形は定番
こっそりと「ランスとずっと一緒に生きていけますように」と書く

「楽しそうだな、けどどこかに消えちゃうからなあ」苦笑
何を書いたかは内緒だ
ランスの野菜嫌いが治るようにって書いたなんて冗談を言う

ランスこそ何を書いたんだよ(チラ
でも互いの内容は知りたくて、飛ばす時に叫び合う流れに(似た者コンビ
その結果、1人の部屋だったら床でのたうつ自信あるくらいのモダモダ状態に!

悪かったよ!
自業自得だよ!(脳内でゴロモダ

ドキドキが静まらないまま弁当を食べる(←

もう…お前って奴は(撫で



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  願いが叶うってのは良いな!
紙飛行機は飛距離を伸ばしたい。
良く飛ぶように折る。
縦長のシャープな形の飛行機に折るぜ。
で、折り紙に書く内容は願い事だ。
ラキアに伝えたい事はさ、直接言えばいいし!
危険な任務の時は、最善を尽くすけど。運の良し悪しもこれ大事!
幸運も降ってくるなら。ラッキー。
お願い事はこうだ―!
『オレ達2人とも任務で無事に戻って来れますように』だ!
危険な任務も増えたし、デミ・ギルティなんでヤバイ奴も出てきたし。
危険だからこそオレ達が行かなきゃ、って任務もあるじゃん。お互い無事に帰れなきゃ駄目だからさ。
待ってる家族も居るんだし(猫やレカーロ)。

ラキアの作る弁当は美味しくて大好きだ。食べて幸せ。



新月・やよい(バルト)
  願いごとかぁ。さっぱり思いつきません
おや、バルト。何かあったのですか
話を静かに聞いて、笑っちゃう
それで真面目に悩んだのですか。君らしいですね
願い事は叶いましたか?なんて興味本位

ん?もしかして1つ目は叶っていないのかな?
思いながら、僕のために使ってしまうなんて勿体ない
って落ち着いた声で言う

よし、君のおかげで僕の願い事は決まりました
内容なんて直ぐわかりますよ
それに僕は神頼みしたことが無いので、きっと叶いますしね
なんて、青い折紙を君に渡して
懐かしい、青い紙飛行機を一緒に空に飛ばした

お弁当は洋食です

片付ける際に鞄に君の紙飛行機をみつける
でも、中身は見ないでおこう
君の大切な想いが詰まっていそうだから



カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  色は葉っぱみてぇな緑
イェルの目の色だ
書くこと…『Idocrase』
普通のを普通に折る

飛ばす直前にイェルの紙飛行機が後頭部直撃、即読む
…覚えていたとは予想外だ
なら、紙飛行機は本人へ投げ、読ませる
「まだ待つつもりだったがな」
耳元で黙ってた答えを教える
秘蔵の落下写真も見せる
※EP16

その後食事
「久し振りに家で呑みてぇな。風呂入ってから…」
…イェル、分かり易いな
絶対自覚してねぇ
「分かった。作戦会議だ。ティエンを寂しがらせないで済む方法考えるぞ」
俺達だけじゃねぇから、耳打ちな
「作戦成功したら、いい子にしろよ?」
答えたら、「…いい子だ」と耳にキス
額の訳ねぇだろ
※額は何度かした

「離さねぇから覚悟しろ」(囁き



日暮 聯(エルレイン)
  …やけに楽しそうだなお前
……学校でさえマジ嫌で投げてんのにエンジョイって(理由はEP3)

色、色ねェ……アイツ(精霊)のイメージっつーと…ピンク

書くこと……フツーに言えねぇし、「ありがとう」とでも
五文字だけでも思ってることは伝わるはず

普段…折り紙折らねェし、地味にいびつ……
まぁ…そんでも形だけはなってんじゃね?

って…!?(頭に紙飛行機が激突
白い、折り紙……(読む
……ははっ………ぶぁーか(バカって言った

…これは自分の中にしまっとく
あいつに言ったら言ったでゼッテー調子に乗るし?

 お弁当
…こっち見てニヤけんな。きもちわりぃな
……って言ったらなんでまたニヤけんだよ意味わっかんねぇんですけど(笑



●1.

 色鮮やかな折り紙の束を持ち微笑むエルレインに、日暮 聯は僅かに眉を上げた。
「……やけに楽しそうだな、お前」
 エルレインが菫色の双眸をキラリと輝かせる。
「そりゃあ、楽しいよ! レンたんがいるからっ」
 身を乗り出して主張する彼──見た目は彼女にしか見えないけれど──から身を引きつつ、聯はレジャーシートの独特な感覚を掌で撫でた。
 ビニールとその下にある芝の感覚。
「ほらほら、むすっとしてないでもっとエンジョイしよーよ!」
 紙の束を押し付けてくるエルレインの手を眺め、聯はハァと息を吐き出す。
「……学校でさえ、マジ嫌で投げてんのに……エンジョイって」
 ぽつりと呟いた声は、爽やかに吹き抜ける風に溶けて。
 胸の底に沈めている不快感が湧き上がる。何考えてるんだか。どうでも良いのに。
 どうでも良い事は、考えないに限る。
「色、色ねェ……」
 聯は押し付けられた折り紙の束をパラパラ捲った。
(アイツのイメージっつーと……)
 エルレインに視線を戻せば、彼も真剣に折り紙の束を見つめている。
(レンたんの色って言ったら、白)
 エルレインは心で呟くと、純白の紙を一枚選んだ。
 聯は無言で目線を下ろして、一際明るく鮮やかなピンクの折り紙を手に取る。
「レンたん、決まった? じゃあ、これ! 早速メッセージを書こう」
 ウキウキとエルレインが差し出してきたペンを受け取り、聯は思案した。
 こちらに手元が見えないようにしながら、エルレインは鼻歌混じりにペンを動かしている。
(……フツーに言えねぇし)
 けれど、いつも胸の中にはある言葉。

『ありがとう』

 たった五文字。されど五文字。

 思っている事は伝わる筈。
 確認めいた予感を胸に、聯はピンクの折り紙を折り始めた。
 エルレインもまた、純白の紙を半分に折り、丁寧に折り目を付けていく。
(普段……折り紙折らねェし、地味にいびつ……)
 出来上がった飛行機を見つめ、聯は口元を少しだけ歪ませた。
(まぁ……そんでも形だけはなってんじゃね?)
 手に持てば、ピンクの翼が陽の光にキラッと光る。
「できたー! レンたん、一緒に飛ばそう♪」
 エルレインが華やいだ声で促せば、二人一緒に立ち上がり、雲一つない青空を見上げた。風は力強く、遠くまで飛ばせそうな気がする。
「それ~っ!」
 気合の入ったエルレインの掛け声に合わせ、二人同時に飛行機を青空へ投げた。
 ピンクと白。二つの飛行機は、あっという間に風に攫われて、遠くへ遠くへ飛んでいく。
 その姿が見えなくなるまで見送り、エルレインは聯を振り返った。
「じゃあ、お弁当食べよ♪」
 レジャーシートに座り直し、持ってきたお弁当を広げる。
(あれ?)
 聯に紅茶を入れた紙コップを手渡して、エルレインは鞄の隅にピンク色の物体を見つける。
(これって……紙飛行機?)
 紅茶のカップに息を吹き掛けている聯から隠れて、こそこそと紙飛行機を観察した。
 『ありがとう』
(文字小さいし、いつもより字、乱れてるけど……)
 エルレインの顔に笑みが広がっていく。
(なんか、素直に嬉しいなぁ。お礼言うの、レンたん嫌がるだろうし、うん。黙っておこ……)
 そんなエルレインの変化に気付いていない聯は、飲みやすい温度になった紅茶を一口。
 コツン!
「……?」
 瞬間、後頭部に何かが当たったのに振り返る。そこには白い紙飛行機。
 手に取ってみれば、エルレインが飛ばしていた紙飛行機だと気付く。そこに書かれていたのは──。

『レンたんが笑顔になれる日がきますように』

「……ははっ………ぶぁーか」
「え? レンたん何か言った?」
「別に」
 本当に、バカ。
「……こっち見てニヤけんな。きもちわりぃな」
 じーっと突き刺さる視線にそう返せば、エルレインは益々頬を緩ませた。
「え、笑ってないでしょ?」
「なんでまたニヤけんだよ。意味わっかんねぇんですけど」
 ハハッと聯が喉を鳴らして、確かに笑う。
(……あ、レンたんが笑った……! お願い、届いたんだ……!)
 あの子は笑わないことが多いから。
 願いを込めて飛ばした紙飛行機。
 温かな陽射しの中、君の笑顔が眩しい。


●2.

 新月・やよいは、折り紙を手に悩んでいた。
「願いごとかぁ。さっぱり思いつきません」
 吐息を吐き出せば、隣で同じく折り紙を眺めていたバルトが視線をこちらに向けてくる。
「願い事、か。昔はよく悩んだもんだ」
 ふ、と笑うバルトの言葉に、やよいはパチパチと瞬きした。
「おや、バルト。何かあったのですか」
 首を傾ければ、バルトが青い空を見上げる。雲一つない空に、金色の髪が映えた。
「名も知らぬ爺さんに言われたことがある」

“神はいる。けれど、神は忙しいから、願い事は3つしか叶えてくれない。”

「幼かった俺は真に受けてな」
 懐かしむ表情で語るバルトが何だか可愛く見え、やよいは笑みを漏らす。
「それで真面目に悩んだのですか。君らしいですね」
「……だろ? でも、その時は本気だったんだよ」
 肩を竦めて笑う彼を見つめ、やよいは好奇心が湧き上がるのを感じた。
「願い事は叶いましたか?」
 尋ねれば、バルトは青い空を見つめ、考えるように瞳を細める。
「1つ目はどうかな……2つ目は叶ったよ。行方不明の新月の無事を祈った」
「え?」
 驚いて目を丸くするやよいに笑い、バルトの紅い瞳が陽の光に光った。
「3つ目はまだ願ってない」
「そう、ですか……」
 やよいは跳ねた心臓を抑えるよう、胸元に手を添えた。
「僕のために使ってしまうなんて勿体ない」
 落ち着いた声で言えば、バルトは首を振る。
「いいんだよ、後悔していないから。……自分の為の願いは叶わなかったし」
 やよいは瞬きしてバルトを凝視した。
(もしかして1つ目は叶っていないのかな?)
 バルトの黄金色の狼耳と髪が風に揺れている。
「よし、君のおかげで僕の願い事は決まりました」
 一つ頷いて、やよいは青色の折り紙を手に取った。
「一体何を書くつもりだ?」
 驚いたように目を丸くするバルトに、やよいは口元に人差し指を立てて笑う。
「内容なんて直ぐわかりますよ。それに僕は神頼みしたことが無いので、きっと叶いますしね」
 はい、君も。
 差し出された青い折り紙を、バルトは受け取った。
「ならば俺は、もう一度1つ目の願いを願ってみようか」
 暫し、二人無言で。紙飛行機にメッセージを書き込み、飛行機を折った。
「いい風が吹いていますね」
「遠くまで飛びそうだ」
 二人手に持った青い飛行機を見合ってから、青い空へ向けて飛行機を飛ばす。
 空に溶けるように、二つの青は並走して彼方へと飛んで行った。
「見えなくなりました」
「……飯にするか」
「そうですね」
 レジャーシートの上に、やよいがお弁当を広げる。
 バスケットに詰まったサンドイッチと、添えられた苺とオレンジが目にも鮮やかだ。
 バルトが水筒から紅茶を紙コップに注ぐ。
 二人は軽くコップを触れ合わせて乾杯した。
 心地良い風に吹かれながら、昼食を楽しむ。
 和やかな一時は瞬く間に過ぎ去った。
「少し名残惜しいですね」
 お弁当を食べ終えて、微笑むやよいに、そうだなと頷いたバルトは、視界の端に寄り添うように着陸した二つの紙飛行機を見つけた。
 やよいは気付いていない。お弁当箱の片付けを始める彼に気取られぬよう、バルトはそっと紙飛行機の片割れを手に取る。

“1つ目の願い事が、叶いますように”

 丁寧に綴られているやよいの文字に、自然と口元が上がった。
 元通りに飛行機を置いて、バルトは鞄と格闘しているやよいの背後へ歩み寄る。
『ありがとな』
 想いを込め、ぽんぽんと優しく頭を撫でれば、やよいの身体が跳ねた。その事にまた笑みを深める。
「レジャーシートは俺が畳む」
 ひらっと手を振り、バルトはシートを綺麗に畳み始める。
 彼の温度が残る髪を押さえ、やよいは何となく視線を落として、気付いた。青い二つの紙飛行機。
(中身は見ないでおこう)
 君の大切な想いが詰まっていそうだから。

“愛を、ください”

 密かな願いは再び風に煽られて、二人一緒に青い空を飛ぶ。


●3.

 セイリュー・グラシアは、真剣に折り紙と向き合っていた。
 出来るだけ飛距離を伸ばしたい。
 そのためには、紙選びの段階から気は抜けない。
 同じ折り紙といえども、多少の個体差はある。
「これに決めた!」
 菫色の瞳を輝かせると、僅か厚めの翠色の折り紙を選んだ。
「随分と悩んだね、セイリュー」
 その様子を見ていたラキア・ジェイドバインが、クスクスと笑う。
「少し厚めの折り紙がいいんだぜ」
「だったら、俺もそうしようかな」
 ラキアは紫色の折り紙を数枚取り出し、厚さを見比べ一枚を選び出した。
 セイリューは鞄からペンを二本取り出し、一本をラキアへ手渡す。
「有難う。何を書くか迷うね」
 ラキアは口元にペンを当てて少し考えた。
「オレは願い事を書くぜ」
 セイリューは迷いなくペンの蓋を開ける。
「ラキアに伝えたい事はさ、直接言えばいいし!」
 きっぱりと言い切るセイリューに、ラキアは瞳を細めた。真っ直ぐなセイリューの言葉はキラキラと降り注ぐ太陽のように眩しい。
「危険な任務の時は、最善を尽くすけど。運の良し悪しもこれ大事! 幸運も降ってくるならラッキー!……ってことで」
 セイリューのペンが翠色の折り紙に、力強い文字を書き入れていく。
「お願い事はこうだ―!」
 じゃーん!とセイリューが広げた折り紙には。

『オレ達2人とも任務で無事に戻って来れますように』

 ラキアがふわりと微笑む。彼らしい元気で温かい文字。
「危険な任務も増えたし、デミ・ギルティなんでヤバイ奴も出てきたし。でも、危険だからこそオレ達が行かなきゃ、って任務もあるじゃん」
 セイリューはふと真剣な瞳で、ラキアの手を取った。
「そんな時でも、お互い無事に帰れなきゃ駄目だからさ。待ってる家族も居るんだし」
 二人で暮らす家には、猫達やレカーロ(狼に似たころんとした生物。可愛い)が居て、二人の帰りを待っている。
「セイリュー……」
 ラキアはそっとセイリューの手に己の手を重ね、微笑んだ。
「俺も願い事、決まったよ」
 今度はラキアがペンを取り、丁寧に折り紙に文字を書き入れていく。

『皆が平和に幸せに過ごせますように』

 折り紙をセイリューに見せて、ラキアが笑った。
「これは自分で何とかできる事でもないからね。手の届く範囲では出来る限りの努力をするけれど」
 ラキアは青い空を見上げる。
「及ばない部分でも、争いが少なくなって幸福が皆に降り注ぐと良いね」
「すっげーラキアっぽい……!」
 風に靡く赤いラキアの髪が陽の光に輝いて、セイリューは瞳を細めた。
「ラキアはさ、今幸せ?」
「今? 嬉しい事とか幸せを感じる事は多いよ」
 ラキアの答えに、セイリューの瞳が輝く。
「心配事も多いけど、ね」
 つんとラキアの指がセイリューの肩を押した。
「飛行機を折ろうか」

 セイリューが折ったのは、縦長のシャープな形の飛行機。
 ラキアが折ったのは、翼の幅の広い飛行機。
「ラキアのは、滞空時間が長い奴だな」
「真上に投げると、長い間宙を舞うんだって」
 出来上がった飛行機を見せ合う。
「紙飛行機も色々な形があるよね。折り方も様々なら、飛ばし方も色々……セイリューはこういうの、得意そう」
 折るのも手慣れてたし。
 ラキアの言葉にセイリューは白い歯を見せて笑った。
 二人で一緒に青い空へ向けて飛行機を飛ばす。
 ラキアの紫の紙飛行機は優雅に風に乗って、セイリューの翠の紙飛行機は真っ直ぐに勢いよく風に乗り、青空を飛んで行った。
「セイリュー凄いね。随分遠くまで飛んで行ったみたい」
「ラキアのも上手く風に乗ってるぜ!」
 見えなくなるまで飛行機を見送って、二人はお弁当を囲む事にする。
「今回はセイリューの好物揃えてお弁当作ったよ。肉系多めにしてみた」
 レジャーシートの上、ラキアが開いたお弁当の中身に、セイリューはパァと顔を輝かせた。
 もし彼に尻尾があれば、高速で振られている事だろうとラキアは思う。
「ラキアの作る弁当は美味しくて大好きだ!」
 唐揚げを頬張って幸せそうなセイリューを見つめ、ラキアもまた幸福感に包まれたのだった。


●4.

「な、どっちが遠くまで飛ぶかやってみねぇ?」
 原っぱに敷いたレジャーシートの上、ヴェルトール・ランスは満面の笑みで、色んな色の折り紙の束を眺めた。
 紙飛行機といえば、何処まで遠くに飛ばせるか競う、それが漢の浪漫である。
「楽しそうだな」
 どの色の紙にするか悩んでいたアキ・セイジは、ランスの声に瞳を上げた。
「けど、どこかに消えちゃうからなあ」
 何処に行ったか分からないとなると、競いようがない。
 眉を下げるセイジに、ランスの狼耳もしゅんと下がった。
「そっか……特別な折紙だもんな」
 そこで、はたと気付く。
「ってことは、願い事を書くのか?」
 突き刺さるランスの視線に、セイジはギクシャクと目を逸らした。
「べ、別にいいだろう」
「何を願うんだ?」
 じーっ。
 訴えてくる金色の瞳に、セイジは金色の折り紙を束から抜き出す。
 ランスの瞳と似ているこの色が、書き込む願いには相応しい。
「ほら、ランスも早く選べよ。弁当を食べる時間が無くなるぞ」
「む」
 それは大変によろしくない。
 ランスは赤の折り紙を選んだ。
「情熱の赤っていうジャン?」
(なんて、セイジの瞳の色と似てるからなんだけど……)
 心で解説して、ランスは再び気付いた。その間、セイジが隠れて折り紙に何かを書き入れている事に。
「あー! やっぱり願い事書いてる!」
「ら、ランスも書くだろ? ほら、ペン!」
 セイジはささっと折り紙を隠し、ランスにペンを押し付けた。
「むー。それは書くけどサ」
 チラチラとセイジが隠した金色の折り紙を気にしながら、ランスはペンの蓋を取る。
「何書いたんだよ?」
「ランスの野菜嫌いが治るようにって書いた」
「……本当に?」
 じーっ。
 再びセイジが視線を逸らし、ランスはその答えが嘘である事を確信した。
「ランスこそ何を書くんだよ?」
「セイジが教えてくれたら教える」
 メッセージを書き入れたランスは、セイジに倣うように隠す。
 お互いむむっと眉が寄った。教えるのは照れ臭い。けれど、何を書いたかは知りたい。
「兎に角、飛行機を折らないとな」
「ん」
 二人はお互いの手元を気にしながら、定番の形の折り紙を折った。
 完成した飛行機を手に、爽やかに吹く風を感じながら、空を仰ぐ。
「飛ばす時に同時に言うのでどうだ?」
 赤い飛行機を構え、ランスが提案した。
「……わかった」
 セイジが頷き、金色の飛行機を構える。
 せーの!

「俺の願いは『セイジとずっと一緒に生きていけますように』だ!」
「ランスとずっと一緒に生きていけますように」

 赤と金、二つの飛行機が風に乗って、青い空へ吸い込まれるように飛んで行った。
(悪かったよ! 自業自得だよ!)
 ふるふるとセイジの肩が震える──1人の部屋だったら、床でのたうつ自信があるくらい。
「セイジ!」
 その肩にランスの手が伸びて、抱き着いてきた彼に押し倒される形で二人はレジャーシートに倒れ込む。
「2人共同じ願いなら絶対実現するな、これ!」
 何するんだ!と言い掛けたセイジの唇は、輝く笑顔に言葉を失った。
「なんだろう、すげぇ嬉しい!」
 ドキドキドキ。
 重なる胸から伝わる鼓動は、お互いに速い。
(セイジが悶えてるのは羞恥と嬉しさ──伝わってくる)
 ランスは笑みを深め、そっとセイジの熱い頬に触れた。
「俺も同じ気持ちだし」
 優しい唇が降りてくる。重なる熱にセイジは瞼を閉じた。

 お弁当は二人で作ったサンドイッチに野菜ジュース。
「早起きして頑張った甲斐があったな!」
 セイジの作ったチキンのサンドイッチを頬張るランスを見つめ、セイジは口元を緩めた。
 まだ鼓動は速いけど、ランス作のツナのサンドイッチは美味しい。
「ぷはーご馳走様! しあわせーっ」
 野菜ジュースを飲み干し、ランスはレジャーシートに転がった。
 座るセイジに甘えるように、その膝を枕にしてみたりする。
 視線でお伺いを立ててみれば、セイジがふっと笑みを零した。
「もう……お前って奴は」
 髪を撫でてくれる手は優しくて。ランスは幸せそうに瞼を閉じた。


●5.

 丁寧に折り目を付けてから、慎重に折る。
 イェルク・グリューンは、白の折り紙でスタンダードな形の折り紙を折っていた。
 ちらっと視線を上げれば、目の前でカイン・モーントズィッヒェルの武骨な、でも綺麗な長い指が、同じように折り紙を折っている。
 器用に動く彼の指に、イェルクは思わず一瞬見惚れてから、慌てて己の手元への視線を戻した。
 葉っぱみたいな緑の折り紙。何となく見たことがある色と思ったのは何故?
 カインは折り紙に何を願い、何を書いたのだろうか。
 考えれば、既に緊張に震えていた胸が、更に早鐘を打った。
 ──この紙飛行機で、カインに確かめたい事がある。
 出来上がった紙飛行機を手に、一瞬迷う。知りたい、でも知る事が……怖い。
 けれど……。
 イェルクは決意を緑の瞳に称え、紙飛行機を構えて青い空へと放った。
 果たして、白い紙飛行機は風に乗って──。
 コツン!
 完成した紙飛行機を構えようとしていたカインの後頭部へと直撃した。
(折り紙の効果は本物だったようです……)
 早鐘のような胸を押さえ、イェルクはカインの様子を見守った。
 カインは自分の折った飛行機を一先ず置いて、白い紙飛行機を手に取る。

『あなたに何かされるのは、心臓に悪いですけど好きです。
 あの夢でキスもしましたよね?
 意味が知りたいです』

「……覚えていたとは予想外だ」
 カインの瞳がこちらを見遣り、イェルクの肩が僅か震える。
 フィヨルネイジャが見せた夢の中、命を散らすイェルクへ口付けた。それを覚えているとは。
 カインは緑色の飛行機を手に取ると、イェルクへ向けて軽く投げた。
 飛行機はイェルクの胸元に当たって、その手の中に落ちる。
 これを見ろという事?
 イェルクは震える手で紙飛行機に触れた。

『Idocrase』

「まだ待つつもりだったがな」
 何時の間にか傍に来ていたカインの低い声が、イェルクの耳朶を擽った。
「……え?」
 どういう、事?
「これは……宝石の名? イベリンでのお祭りの時の吾亦紅といい、何の意味……ですか?」
 問い掛ける声は震えていた。イェルクの眼差しに、カインはゆっくりと口を開く。

「吾亦紅の花言葉は愛慕。アイドクレースの石言葉は約束、二人の愛」
 つまりは。
「好きだ。ずっと傍にいる。その罪悪感も一緒に背負うと約束する。……って意味だ」

 イェルクの緑の瞳が見開かれた。

 カインは懐から一枚の写真を取り出す。
 階段から落ちたイェルクをカインが受け止めた場面が映された写真。
「これ……!?」
 イェルクが首まで真っ赤に染まる。恥ずかし過ぎる。
 イベリンでのお祭りの時、階段から足を踏み外してカインに支えられた。
 カメラを手にした少年が居たから、カインが撮影の邪魔をした事を謝った筈だが──。
「良く撮れてるだろう?」
 まさか、こんな写真を隠し持っていたなんて。
 カインの言葉がイェルクの全身を巡って、すとんと、漸くその意味を飲み干した。
 ──カインはずっと知っていて、ずっと待っていてくれたのだ。
 同じ気持ちを抱いて。

 サンドイッチの味は、イェルクにはよく分からなかった。
「久し振りに家で呑みてぇな。風呂入ってから……」
 紅茶を飲みながら、カインが口を開く。
 家呑みだけ?
 イェルクがカインを見ると、彼はクッと喉を鳴らして小さく笑った。
(……イェル、分かり易いな。絶対自覚してねぇ)
「分かった。作戦会議だ」
 耳元で囁かれ、イェルクは頬が熱くなるのを感じる。
 これでは、落胆が期待みたいだ。
「作戦会議、ですか?」
「ティエンを寂しがらせないで済む方法考えるぞ」
 ティエンは、狼に似たころんとしてる二人の家族だ。
「作戦成功したら、いい子にしろよ?」
「……ハイ」
 私はどこの乙女だ。
 イェルクは頷きながら眩暈に似た感覚を覚える。
 ああ、けれど。
 ──亡くなった彼女への罪悪感はまだあるが、この人に愛されてると分かって嬉しい。
「……いい子だ」
 耳の付け根に触れる彼の唇が熱くて。
「好きです」
 小さく小さく気持ちを言葉に乗せると、カインが笑う気配がした。
「離さねぇから覚悟しろ」


Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:カイン・モーントズィッヒェル
呼び名:カイン
  名前:イェルク・グリューン
呼び名:イェル

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 糸巻茜  )


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月03日
出発日 10月09日 00:00
予定納品日 10月19日

参加者

会議室

  • [7]アキ・セイジ

    2015/10/08-23:06 

    折紙は今でも紙容器を作るのに重宝している背後です。
    鶴とか風船とか折り方は不思議と今でも覚えているものですね。

    セイジ:
    プランは提出できたよ。
    なんだか、こっぱずかしいことになりそうで、今から心がもだもだしている。
    紙飛行機を折って飛ばすだけのはずなのに、なんだこのもだもだした恥かしさと嬉しさと照れは…
    あいつは、何を書いたんだろう

  • [5]新月・やよい

    2015/10/07-22:45 

    お邪魔しております。
    新月と、相棒のバルトです。
    よろしくお願いいたします。

    お願い、飛行機、お弁当
    やりたいことが沢山ですね。
    お互い楽しみましょう。

  • [4]日暮 聯

    2015/10/07-17:37 

    神人は日暮聯で、私は精霊のエルレインといいます。あ、聯でレン、と読みます!
    ご一緒したことのある方も初めましての方も宜しくお願いします~

    折り紙のおまじない、素敵ですねっ(目きらきら

  • [1]アキ・セイジ

    2015/10/06-00:06 


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