【月幸】水面に咲く(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 月幸石を集めるべくネイチャーズヘブンズへ向かおうとする君達。
 どこか良い場所は無いだろうか、情報を求め管理システムのN2-Mに問いかけようとしたところ――
「今日ハ、月ガ咲キマスヨ」
 浮かび上がったN2-Mの、白猫のアバターが開口一番、そう言った。
「月が咲く?」
 君達は首を傾げる。
 月見を指しているのだろうかとも考えたがここは屋内だし、そもそもルーメンもテネブラも今は本来の形で見ることは出来ない。
 N2-Mが尻尾を一振りすると、その隣に地図が浮かび上がった。あるポイントで、ちかちかと赤いマーカーが点滅している。
 この泉の底で群生している白い花が咲くのだN2-Mは言う。
 その花は一年で一晩の間しか咲かない。しかし、開花すると淡い光を放つので水面に満月のような円が見えるのだとか。
 元々は竹を栽培用に品種改良を重ね、そこから野生化やらあれやこれやでこうなったらしいのだが、きちんと説明すると長くなるので、と割愛された。
「ペタルム達モ集マッテキマスヨ」
 ペタルムとは尻尾の代わりに白い花を咲かせた大きな黒猫のネイチャーだ。好奇心旺盛な性質の為、泉の近くに集まってくるのだ。
 変質前の月幸石の収集癖を持つウライが近くで飛び回っているので、月幸石もあると見ていいだろう。
 本物の月は見えないし、一年に一度しか見ることが出来ない月なら見てみたい。そんな想いに君は駆られたのであった。

解説

●参加費
飲み物含む軽食代300jr
ペタルムと遊ぶ場合は餌代+50jr
お酒を持参する場合はお酒代+100jr
(ペタルムとお酒両方、というのはご遠慮ください)

●すること
水面に浮かんできた光でお月見という夜のピクニック
ペタルムと遊んでもいいですし、月見酒としゃれ込んでも構いません

・ペタルム
好奇心旺盛な黒猫で、いっぱいいます
大型犬くらいの大きさ
水面の月が気になるのか、わりと大人しくしてます

●注意
プロローグでちょろっと出しているウライとは遊べません
また、飲酒に関しましては下記の点に触れる場合、描写出来ませんのでご了承ください
・外見年齢が未成年で、自由設定内に実年齢表記が無い、もしくは未成年設定
・自由設定での実年齢が未成年で、外見年齢は成人
・成年ではあるものの外見年齢が幼すぎる

●その他
グループ参加でも個別参加でもお好みで
グループ参加の場合、どの組と参加するか、どう絡むかをしっかり明記してください

トラブルさえなければ月光石は入手できますので、探す必要はありません

ゲームマスターより

お酒に飢えると飲酒エピを出したくなります

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ひろの(ルシエロ=ザガン)

  「光ってる……」本当に丸い。
(泉の淵にしゃがみ、月を見る

!?(驚いて硬直
「ルシェ……?」(困惑
「落ちないよ」(少しむくれる
そう言われると、自信なくなる。

花生えてる。ぺタルム、だっけ?
前に見た月下美人に、似てる。
あの時ルシェ、泣いてた。(思い出し、様子を伺う
今は、泣いてない。(少し安堵
(ルシェも泣くことあるなら。私はやっぱり、しっかりしないとダメで)
でも、まだ足手まとい。(戦闘で

(少し迷い、そっとルシェに凭れる
大丈夫、かな。(嫌がられないか不安
怒ってない。良かった。(安堵
「なんでもない」(小さく首を振る
(もう少しくっつきたかった、とか。言えないし)(恥ずかしい

光ってきれいで。ルシェみたい。(月が



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  ペタルムと遊ぶ

私は月見酒…という訳には行かないので、のんびりお茶しながら、羽純くんと水面の満月を楽しもう

水に浮かぶ月…水面に映る月とは違った雰囲気…水底から光る光って不思議な色だね

ふふ、ペタルムさん達もじっと見てる
一緒にお月見しない?
餌を手に手招き
来てくれたら餌をあげて、その様子を観察
少し触ってもよい?(わきわき
背中をそっと撫でてみて、喉を撫で…猫ちゃんみたいにゴロゴロ言うかな?
可愛い♪
羽純くん、見て見て!ぎゅっと抱きしめ嬉しい♪

羽純くんと二人、可能ならペタルムさんを膝枕して撫でつつ水面を眺める

一年に一度しか見ることが出来ないんだよね…
今日が終わったら明日は見れない
でも…またきっと会える…ね


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  湖の底で群生している花が光を放つのはとても不思議な光景ですね。浴びていた光を1年分その身に溜めて、花開いた時に放出したりするのかもしれません。
地域特有種として非常に興味深いですけれど、今宵はこの幻想的な光景を楽しみましょう。
池の奥底から光が浮き上がってとても綺麗です。
きっと、忘れられない光景になります。
「凄く素敵ですね」ミュラーさんに笑顔を見せます。
竹のように千年に一度の花じゃなくて良かった。
また来年も見に来たいです。一緒に。

ペタルムが意外と大きくてきゅんと来ました。
人懐っこい黒ヒョウみたい。
撫でると毛が凄く滑らか。さすがネコ科。格好可愛い。
手が大きいのもキュート。
餌もあげます。「美味しい?」



紫月 彩夢(神崎 深珠)
  深珠さんはお酒飲める人?
あたしは、飲むけどそんなに強く無い人
一緒、ね。じゃあ、今日はほろ酔い気分でのお月見にしましょ

月が咲くのを眺めつつ、嗜むお酒はサングリア
いつかはね、ワイングラスが似合うような美女になりたいのよ
似合うドレスもデザインして貰ったし
…何よ。あたしはいたってふつーの女子よ?
綺麗な兄にコンプレックス過多の、ね

あたし、ウィンクルムだからって、結構慌ててたけど、根本は変わってない
知りたいし、知ってほしい
一年に一度の機会を見る相手に選ぶくらいには、興味あるよ

今更だけどさ
お友達から初めてみませんか?
だってほら、月が綺麗な夜には、そういう告白めいた言葉が似合うでしょ?
一度言ってみたかったの


エリー・アッシェン(モル・グルーミー)
  心情
適度な飲酒にはリラックス効果があると聞きました。
泣き上戸とか笑い上戸とか、意外な一面が見られるかもしれませんね。

行動
出だしからモルさんの嫌味が炸裂!
ええと、神人と精霊が絆を深めることでオーガに対抗する力になります!
それに私も……オーガへの闘志を忘れたわけではありませんから。

悪酔いしないようにマイペースで飲みます。

月の話をするモルさんに耳を傾ける。

おや、モルさん。あまりお酒を飲んでませんね。お口に合いませんでしたか?

精霊から他人呼ばわりは地味に傷つく。
そして心の中で反省。
軽いノリでお酒を利用して親睦を深めようとしたのは、モルさんへの配慮が足りませんでしたね。

うふふ。今は月見を楽しみましょう。



●耀
 眩い光を放つ水面。水を介するがゆえか、目を刺すようなものではなくどこかおぼろげで優しい光に、瀬谷 瑞希は目を見張った。
「綺麗……」
 唇から零れたのは飾らない、率直な感想。
 フェルン・ミュラーは瑞希の様子に満足気な笑みを浮かべる。
「ミズキがここをとても気に入ったようで良かったよ」
 二人並んで泉の側に座る。芝生のように柔らかな草がクッションの代わりだ。ほのかに香る緑が心地良い。
「湖の底で群生している花が光を放つのはとても不思議な光景ですね」
「一年に一度きりというだけあるね」
「光を1年分、その身に溜めていたのかもしれません」
「この遺跡はずっと地下にあったそうだから、どうだろうね」
 ああ、そういえば、と瑞希は頷く。次の論を構築しようとするも、用意しておいたお茶を一啜りすると同時に止めた。
 地域特有種として興味はあるが、これ以上は無粋というもの。今宵はこの幻想的な光景を楽しむのがいいだろう。
 二人でサンドイッチをつまみながらも、柔らかな光は視界の隅に必ずある。
 この光景はきっと忘れないだろう、そんな予感が瑞希にはあった。
「凄く素敵ですね」
 嬉しそうに笑う瑞希にフェルンは頷きを返す。
 どちらともなく、お茶のカップで乾杯した。
「竹のように千年に一度の花じゃなくて良かった。また来年も見に来たいです。一緒に」
「そうだね、また来年も一緒に見に来よう。その時には、ここがもっと平穏な場所になっているように。色々と頑張らなきゃね」
 穏やかに笑いあう二人のもとに一匹のペタルムがやってきた。食べ物の匂いに釣られたのかもしれない。
 猫というには大きなその姿に瑞希の瞳が輝く。
 水面が放つ光に照らされたペタルムの黒い毛皮は艶やかで、尾となる白い花は柔らかく光を反射している。
 瑞希がそっと手を伸ばし、頭を撫でてやるとペタルムは心地良さそうに目を閉じた。
 滑らかな手触りを堪能しながらも、瑞希は空いた手で鞄を探る。目当ての包みを引っ張り出し、開いてみせた。
 中身はほぐしたささみ。ペタルムはご機嫌でささみを平らげていく。
「美味しい?」
 にゃあ、と返事をするようにペタルムは鳴き声をあげた。
 夢中でささみを食べるペタルムだが、瑞希の視線は一点を捉えている。その先にあるものが何か気付いたフェルンは苦笑いを零す。
「ペタルムの大きな手、というかぶっとい足も気になるの?」
「え?」
「だってさっきからじーっと見ているし」
「……大きな肉球、ぷにぷにしてみたいです」
 恥ずかしいのか、瑞希はフェルンから視線を逸らして遠慮がちに呟いた。その様子がフェルンには眩しくて、思わず深まる笑み。
「ペタルムに怒られない程度に触らせてもらえば? 頭は撫でさせてくれるし、喉もOKなので、そのままナデナデと移動させていけばいけるかも?」
「なるほど……」
 ペタルムを熱心に撫で始める瑞希。あまりにも熱心な様子に、気付かれないようにフェルンはこそり、笑い声を逃がす。
 ちら、と視線をペタルムの尾に向ける。大きな白い花は擬態などではなく、花そのもののように見えた。
 興味はあるが、探ろうとすればペタルムが警戒してしまうかもしれないので見るだけに止める。
 再び視線を瑞希へと戻せば、一生懸命喉の下を撫でている。ペタルムは気持ち良さそうに喉を鳴らしているが、未だ肉球には辿り着けていない様子。
 フェルンは笑みをかみ殺しながら、肉球を目指す瑞希を見守り続けた。



●輝
「深珠さんはお酒飲める人?」
 神崎 深珠は月見の準備を止め、紫月 彩夢を見た。
 じっくり腰を据えて楽しむ為にも先ずは準備、そう言ったのは彩夢だ。
現に彼女は手を止めることなく、それどころか手際良く準備を進めている。顔は向けずに、瞳だけで深珠の返事を待っていた。
「あたしは、飲むけどそんなに強く無い人」
「………彩夢と一緒だ。飲めるが、そんなに強くはない」
 返事を聞いた彩夢はふっと小さな笑みを零す。
「一緒、ね。じゃあ、今日はほろ酔い気分でのお月見にしましょ」
「そこでじゃあペタルムと遊ぼうって言わない辺り、お前は俺の意見を聞く気があるのかないのか」
「嫌?」
「嫌では、ないが」
 もしかして深珠はペタルムと遊びたかったのだろうか。彩夢は首を傾げ、深珠の様子を窺う。
 けれども深珠は、喫茶店の店員らしく手早く準備をするだけでペタルムを気にする素振りは見せなかった。

 水面に咲いた月を見ながら彩夢はグラスを傾ける。グラスの中身はオレンジが香る赤ワイン、サングリア。舌に乗せて、時間をかけて嚥下する。
 グラスの中で丸い月が淡く、光る。
「いつかはね、ワイングラスが似合うような美女になりたいのよ。似合うドレスもデザインして貰ったし」
 シャンパンゴールドの大人っぽいドレスだ。細いワイングラスがとても馴染むデザイン。
「正直、意外だな」
 泉へ視線を向けたまま、ぽつり、深珠が零す。
 意味を問うべく彩夢が深珠を見れば、彼は舌を湿らすようにグラスに口を付けた。
「彩夢はもっと負けん気が強くて、どちらかというと突拍子もないくらい大きな夢でも抱いてる印象だった」
「……何よ。あたしはいたってふつーの女子よ? 綺麗な兄にコンプレックス過多の、ね」
「女子、か……」
 過去の報告書から受けた、無鉄砲という印象は間違いないだろう。けれど、確かに彩夢は女の子だ。
 いや、だからこそと言うべきか。彩夢が言う『ふつーの女子』という枠の中にいるようには思えない。
 勿論、それを口にはしない。代わりに、深珠は気になっていたことを問い掛けることにした。
「……そう言えば、紫月さんと一緒でなくて良かったのか。一年に一度の機会だと言うのに」
「あたし、ウィンクルムだからって、結構慌ててたけど、根本は変わってない。知りたいし、知ってほしい」
 言いながら、彩夢はグラスの中の月へと視線を移す。少し揺らしてやれば波打つ月は赤みを帯びている。自分と兄の瞳の色と似た色の、仮初の月。
 今知りたいのは赤い月ではなく――
「一年に一度の機会を見る相手に選ぶくらいには、興味あるよ」
 言って、彩夢はグラスを傾けた。オレンジとアルコールの香りが広がる。
「知りたいし、知ってほしい、か……」
 深珠はテイスティングするようにグラスをぐるり、ぐるりと揺らす。やはり赤い月は波打ち、円を歪なものに変える。けれども変わることなく、赤い月はそこにある。
「その気持ちが分かると言う事は、俺も一緒なんだろうな。彩夢に、興味がある」
 素直な気持ちだった。
 彩夢は倒れないよう、慎重にグラスを置いた。バスケットに支えられるように、気をつけて。
 そして、手を差し出す。
「今更だけどさ、お友達から初めてみませんか?」
 彩夢へ視線を向ければ、二つの赤い月はまっすぐに深珠を見ていた。
 差し出された手は揺らぐことなく、しっかりと伸びている。
「何だか初々しすぎてむず痒くなりそうな台詞だな。さては酔ってるな?」
「だってほら、月が綺麗な夜には、そういう告白めいた言葉が似合うでしょ?」
 そう言って彩夢が笑えば、釣られるように深珠も笑みを零した。さらに彩夢の真似をして、深珠もグラスをバスケットに添わせる。
 自分は酔っているのだろう、と深珠は思う。
月に? 酒に? 
いや、この際、なんだっていいだろう。
「こちらこそ」
 深珠は無防備に笑い、差し出された手を取り握手する。
 その手は、水面の月に優しく照らされていた。



●灼
 適度な飲酒にはリラックス効果がある、エリー・アッシェンはそう聞いたことがあった。
 だから、泣き上戸や笑い上戸といった、パートナーの意外な一面が見られるかもと期待していたのだが――
「オーガの暗躍で本物の月が消えているというのに、仮の月見に我を誘うとは。ずいぶんと余裕だな、神人よ」
 用意した清酒を見て、モル・グルーミーが鼻を慣らすと共に繰り出された痛烈な嫌味。
「ええと、神人と精霊が絆を深めることでオーガに対抗する力になります! それに私も……オーガへの闘志を忘れたわけではありませんから」
 言葉に詰まりかけたものの、どうにかエリーは正当性を持った反論をして見せた。……それでモルが納得するかどうかは別問題ではあるが。
「ふん、まあ良い。神人と言い争ったところで利益はない」
 これ以上やりあう気はないということか。安堵し、エリーは月見の支度を整えた。
 モルはエリーが差し出した杯を受け取る。何も言わぬまま、杯に鼻を近づけて匂いを嗅いでいる
 この様子から見ると、モルは完全に矛を収めたようだ。再びエリーは安堵する。
「これが清酒か。はじめて口にする」
 そういってモルは杯を傾けた。口内に広がった香りを確認するように堪能してから喉に落とす。
 嫌いではない。むしろ気に入った。けれど、それはモルの表情には出ない。
「花の光の見立ててとはいえ、こうして月を見下ろすのは不思議な気分だ」
 湖面の月は淡く光っている。春の月――朧月とよく似ているが、天にある月とは異なるもの。
 エリーは悪酔いしないよう気をつけ、自分のペースで飲みながらも、モルの言葉にしっかり耳を傾けていた。
「我が高き山の頂にいた時でさえ、月は見上げるものだった」
 山岳で暮らしていたモルは、平地に生きる人々よりも月に近い場所で生きてきた。
 けれど、月は高き山の上にあっても遠いもの。どれだけ高い山であっても、平地よりも僅かに近いだけだ。
 かつての暮らしに思いを馳せ、モルは舐めるように酒を口に運ぶ。
 見ていたエリーは、彼の杯の中身があまり減っていないことに気付いた。
「おや、モルさん。あまりお酒を飲んでませんね。お口に合いませんでしたか?」
 特別いい酒とは言えないが、味の悪い酒を用意したつもりは無い。しかし、酒とは好みが分かれるもの。
 モルの好みに合わなかったのだろうか、とエリーは懸念した。彼の態度から好みを察することはまだ出来ない為、酒量だけがエリーの判断材料なのだ。
「……酔って醜態をさらしたくないだけだ。酒の魔力で、自分でも認めたくない本心がこぼれ出ることもあろう。他人に弱みは見せたくない」
 声音同様、冷えた言葉だった。
 エリーの眉間にぴくり、小さな皺が寄る。契約を交わした精霊に『他人』と呼ばれたことが小さな傷となったのだ。
 それを切欠に、エリーは反省する。軽いノリで酒を利用して親睦を深めようとしたことは、モルへの配慮が欠けていた、と振り返る。
 けれど、そのことは態度に出さない。そんなことをすれば興醒めだ。エリーは水面の月を見つめながら杯に口付けた。
「うふふ。今は月見を楽しみましょう」
「ああ。そうしよう。辛気臭い神人よりも水面月の方が、見ていて気分が良いからな」
 おぼろげで柔らかな光を放つ水面の月。
 その月は、手中にある白い杯のようにどこかひんやりして見えた。



●光
「光ってる……」
 思わず呟いてしまった、いや、自身が呟いたことにもひろのは気付いていないのかもしれない。
 水面から放たれる光は、確かに月のように丸い。
「月が咲く、か。なるほど的確だな」
 よくいったものだ、とルシエロ=ザガンは感心したように言う。
 けれど、実際は少しばかり嘆息したい気分だ。ひろのは水面の月に完全に見入ってしまっていて、ルシエロを見ることもない。
 泉の縁にしゃがみこんだひろのが見ているのは細波で揺らめく月だけ。ひろののトルマリンの瞳は月だけを映していた。
 それでもルシエロが不平を口にすることは無かった。それくらいならば行動するのが彼だ。
 ルシエロはひろのの背後に回りこむと、そっと抱え込んだ。力を加えてしまえば驚きのあまり飛び上がり、泉に落ちてしまうかもしれなかったから。
 とはいえ、ひろのが驚くには充分過ぎる。驚きと困惑のあまり、ひろのは石のように固まってしまった。
「ルシェ……?」
 固まった唇をどうにか動かし、名を呼んで意図を問う。
 ふっと、耳に掛かった吐息でルシエロが笑ったのだと察した。
「落ちたらどうする」
「落ちないよ」
 そこまで子供じゃない、とひろのは少しむくれる。その子供っぽい、かつては見ることもなかった表情にルシエロは再び笑みを零した。
「どうだかな」
 ひろのは自信を無くして、言い返すのを止めた。確かに自分は反射神経が鈍く、挙動ものんびりしている。あり得ない話では無い、そんな気さえしてきた。
 腕の中から逃れるつもりは無いのだと察すると、ルシエロの唇が満足気に吊り上がる。
 居心地が悪い気もするのに、いつも居心地良く感じてしまうルシエロの腕の中。
 どこか気まずく感じ、周囲に目を向けてみれば、大きな黒猫が毛づくろいしていた。
 白い花を尾の代わりに持つ猫――ペタルムと言ったか。
 あの花は月下美人に似ている。イベリンで見た、甘く香る、涙を誘う花。
 ひろのは耳をすまし、意識を背後へと向けた。月下美人を見て、涙を流したルシエロを思い出したから。
「月に水面、か」
 ルシエロが呟くと、ひろのは首だけで振り返った。その頬に涙の跡が無いことに、ひろのはほっとする。
 彼も泣くことがあるなら、自分はやはりしっかりしなければ、とひろのは思う。でも現実は、まだ足りていない。それどころか足手まといになっているようにも感じる。
 ひろのは迷った末にルシエロの胸にもたれかかった。嫌がられないかと不安ではあるものの、近くにある温もりに触れたかった。
「どうした?」
 ルシエロの声音には驚きこそあれど、嫌がっている色は欠片も無い。そのことに安堵し、ひろのはそっと目を閉じる。
「……なんでもない」
 本音は恥ずかしくて、とてもではないが言えない。ひろのにはこうやって誤魔化すのが精一杯だ。
「そうか」
 先程までは固まっていたというのに、今ではこれだ。分からんやつだ、などと呟くも愛おしさが込み上げてくる。
 ひろのは猫のようだと、ルシエロは思う。
 周囲に溶け込むように、存在を薄く感じる事がある。偶に足音が小さく聞こえる時は、尚更。
 その妙な癖を知ったのは共に暮らし始めてからだが、その度に消えやしないかと不安になる。
 けれど今、ひろのは腕の中にいる。思わず腕に力が入ってしまったが、ひろのが痛がっている様子はない。
 ただ、ひろのには少し硬さが残っている。この硬さが無くなればいいと、ルシエロは思う。早く自分に慣れろとも思う。
 ひろのに視線を向けると、泉に来たとき同様、彼女はじっと水面の月を見ていた。
 腕に抱いているというのに、ひろのが見ているのは自分では無い。そのことにルシエロはもどかしさを感じる。
 ルシエロは知らない。
 ひろのが水面の月を誰に見立てているか。綺麗な光を、背後に感じる男に重ねているのだということを――



●煌
 月見酒というものに憧れはある。というよりも、酒というものに憧れがあると言った方が正しいかもしれない。
 というのも桜倉 歌菜のパートナーである月成 羽純は、平時はシェイカーを振るっている。元より好奇心旺盛な歌菜が、いつか羽純のカクテルを飲んでみたいと思うのも当然といえば当然。
 けれど、歌菜はまだ成人では無い。そのことをしっかり弁えている為、今日は月見酒ならぬ月見茶を楽しむつもりで来た。
 水筒から紅茶を注げば湯気が立ち上る。二人分を注いで、片方を羽純へ渡す。
 羽純の好みに合わせて、ミルクと砂糖は予め落としてある。甘い香りに頬を緩めながら、歌菜は、ふーっ、と紅茶に息を吹きかけた。
「水の中から溢れる光は幻想的で美しいな」
「水面に映る月とは違った雰囲気……水底からの光って不思議な色だね」
 どう例えればいいかは分からないが、優しい光だと歌菜は思う。
 手の中にある紅茶のように、隣にいる羽純のように、ほっとする温もりのある光。
 ふいに、猫の鳴き声が聞こえた。声の方へと視線を向ければ、二匹のペタルムが水面を見ていた。
「ふふ、ペタルムさん達もじっと見てる」
「ペタルム達もこの光を綺麗だと思ってるんだろう」
 ゆらゆら揺れる水面にあわせ、ペタルム達の白い花もゆらゆら揺れる。
 その様を二人で眺めていると、視線に気付いたのだろう。ペタルム達が振り返った。
 目が合った瞬間、歌菜の笑みが深まる。
「一緒にお月見しない?」
 ちょいちょい、と手招きする歌菜の横で、羽純はバスケットからささみを取り出す。
 その間に少しずつペタルムとの距離を縮めていく歌菜を見て、羽純の唇は柔らかな弧を描く。
 用意しておいた小皿を二枚取り出してささみをほぐすと、羽純もペタルムへと近付く。
 少し離れた位置に小皿を置けば、ペタルム達がゆっくりと歩み寄ってきた。パッ、と歌菜の瞳に期待の色が煌く。
 警戒する様子も無く、ささみを食べ始めるペタルム達。わきわき、歌菜の手が蠢く。
「少し触ってもよい?」
 返事の代わりにぱたり、二輪の花が揺れた。
 やった、と歌菜の表情が語る。けれど、驚かさないようにそっと背中へと手を伸ばす。
 同じように羽純も黒い毛皮を撫で始める。ふかふか、滑らかな手触りに羽純と歌菜は目を細める。
 羽純が喉を撫で始めれば、ごろごろ、猫らしく喉を鳴らし始めた。心地良さそうに目を閉じている。
「歌菜、ここを撫でるのが好きそうだぞ」
「え、どこどこ?」
「喉だ」
教えられた通りに喉を撫でると、もっと、と強請るようにペタルムは歌菜の白い手に顔を擦り付ける。
ぐいーーーーん。歌菜の心の『可愛いゲージ』が一気にMAXへ。
「可愛い♪ 羽純くん、見て見て!」
 喉を撫でてやりながら、歌菜はぎゅっとペタルムに抱きついた。
幸せの頂点にいるように笑う歌菜の横顔は、見るだけで笑みを誘う。当然、羽純の頬も緩むというもの。
「そうだな、可愛いな」
 歌菜が、と胸中で付け加える。
 勿論、歌菜がそれに気付くことはない。
「でしょ♪」
「ああ」
 分かっていない歌菜。そのことを分かっている羽純だが、指摘はしない。
 指摘してしまえば、歌菜は真っ赤にして硬直してしまうだろう。それはそれでいいのだが、折角の笑み。堪能したいという気持ちが勝る。
 撫でているうちに、二匹のペタルムは歌菜の膝の上に頭を乗せて寝そべり始めた。
 ゴロゴロ、鈴虫の声の代わりにペタルムの喉の音が秋の夜に響く。
 音のある静寂。けれど、それは柔らかな光に包まれた穏やかなもの。
「一年に一度しか見ることが出来ないんだよね……。今日が終わったら明日は見れない」
 寂しげに、歌菜は呟く。水面を見つめる瞳に寂しさが佇んでいる。この時が過ぎ去るのが惜しい、と思っているのは明白。
「一日たりとも今日と同じ明日は無い」
「……うん」
「しかし、今日はこれで終わりでも……また一緒に見に来よう。俺とお前、二人で」
 なぉん。二つの鳴き声が羽純の声に重なる。
 抗議するような声に、歌菜がクスクス、笑った。
「……いや、ペタルム達も一緒に……な」
「うん。またきっと会えるね」
 羽純が小指を差し出す。歌菜は少し驚いたように目を丸くするが、すぐに小指を絡めた。
 子供のような約束の儀式。浮かぶ笑みは月光のように柔らかで温かい。冷たい秋の風でも覚ますことの出来ない、うちに宿る温もりだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ひろの
呼び名:ヒロノ
  名前:ルシエロ=ザガン
呼び名:ルシェ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月27日
出発日 10月02日 00:00
予定納品日 10月12日

参加者

会議室

  • [9]桜倉 歌菜

    2015/10/01-23:47 

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/10/01-23:47 

  • [7]エリー・アッシェン

    2015/10/01-00:43 

    全員個別ですね、わかりました~。

    では、各自楽しい時間を過ごせますように!

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/10/01-00:36 

  • [5]桜倉 歌菜

    2015/10/01-00:35 

    ご挨拶が遅くなりました!
    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い申し上げます!

    気付けば締め切りまで時間がありませんでしたねっ
    今回は個別で行動させて頂きますね。

    のんびりペタルムさん達と遊ぶ予定です♪
    楽しい一時になると良いですね!

  • [4]紫月 彩夢

    2015/10/01-00:12 

    紫月彩夢と、深珠おにーさん。
    幻想的な雰囲気の予感に惹かれて遊びに来てみたわ。どうぞ宜しく。

    …あたし達も、個別の予定。
    一緒に楽しむって言うのも好きなんだけど、
    今回もおにーさんの人となり探訪記?で行く感じになりそう。

  • [3]瀬谷 瑞希

    2015/09/30-21:20 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    相談の時間がとれそうにないので、個別の予定です。
    ペタルムと遊ぶのも良いですね。

  • [2]ひろの

    2015/09/30-07:18 

    ひろの、です。
    よろしくお願いします。

    え、と。個別の予定です。

  • [1]エリー・アッシェン

    2015/09/30-01:45 

    エリー・アッシェンです。
    ご一緒される皆さん、どうぞ宜しくお願いします!

    水中月を見ながら飲酒する予定です。
    個別かグループかは、どっちにするか考え中です。


PAGE TOP