プロローグ
●髪型、いじってみませんか?
ウィンクルムの皆さんへ。
そんなありきたりな文章で始まった手紙を読み進めていた職員は、「へえ」と楽しそうな笑みを浮かべた。
「ヘアセットを格安でしてくれる、かー。いいなぁ、あたしもやってもらいたい!」
そう、その手紙は、任務で忙しい日々を送っているウィンクルムのヘアセットを格安でしてくれるという案内だったのだ。
いつもと違う髪型にしてみるのはもちろん、希望によってはメッシュを入れたり、カットも引き受けてくれるという。
職員は早速、告知をすることにした。
「せっかくだし、この機会に目一杯おしゃれして息抜きできるといいね!」
●実際に利用したとあるウィンクルムのワンシーン
「遅れてごめんね!」
「ったく、おせえよ……。……!?」
ある精霊は、やって来た神人を見て目を見開いた。彼女の変貌ぶりに驚いたのだ。
神人はいつも、長い髪を雑にまとめているだけだった。それが、今日はどうだ。なんだかふわふわしているし、かわいらしい髪飾りをつけているし、そういえば服も気合いが入っているようだし――正直言って、めちゃくちゃかわいい。
固まる精霊に、神人はへちょりと眉を下げた。
「……やっぱ変?」
そんなことない。
そう言いたいけれど、言葉が出てこない。精霊は首を横に振るのが精いっぱいだ。
だが、神人はほっとしたようだった。
「良かった。じゃ、行こう」
見慣れた笑顔も、なんだかきらきらして見える。
(なんだこれ……!?)
こいつってこんなに女らしかったのか。心臓がうるさい。今日、俺は無事に過ごせるのだろうか。
そんな不安を抱えながらも、彼と神人の一日は始まるのだった――。
解説
●やれること
・髪型を変える
ロングの方はウェーブをかけてみたりまとめてみたり、ショートの方は編み込みを入れてみたりといろいろアレンジしてもらうことができます。
髪飾りもつけたりできます。(※アイテム配布はありません)
自分ではうまくできない、いつもと違う髪型を体験してみたい、という方はぜひ。
・メッシュを入れる
エクステで一時的にメッシュを入れることができます。描写には入れませんが、後ほどきちんと元に戻しますのでご心配なく。
・カット、カラー
こちらも可能ですが、神人・精霊設定に影響が出る内容だと思いますので、ご注文の際は十分考慮の上お願いいたします。
希望する場合はどれくらいの長さにしたいのか、何色にしたいのか等の記載もあわせてお願いいたします。
●描写について
ヘアセット~メイク等、すべて済ませた状態から描写はスタートします。プロローグをイメージしていただけると良いかと。
いつもと違う姿になって彼(または彼女)とどんな時間を過ごすのか教えてください。
●プランについて
・髪型を変えたのは神人か精霊か、それとも両方か
プロローグだと神人ですが、精霊、二人ともセットしてもらうというのも可能です。
以上の記載があれば、ヘアセット後カフェに出かけたでも買い物しに行ったでも「お前を見せたくない」とかでお家に連れ込んだりでも、お好きにどうぞ!
●消費ジェールについて
ヘアセット+お出かけの際の費用として一律『300ジェール』消費します。
●他
親密度によってはアクションが不成功になる可能性もございます。ご了承くださいませ。
また、アドリブが発生する可能性もあります。アドリブ絶対NGな方はプランの頭に「×」を入れていただくか、神人・精霊設定のどこかに一文足しておいていただければと思います。「アドリブOK!」な方は神人・精霊設定に一文入っていると助かります。プランに特に記載がなければ、適度に入れる可能性が大きいです。
ゲームマスターより
こんにちは、櫻です。
ふわふわのハーフアップも好きですが、お団子とかうなじが見える髪型も好きです。そんな感じです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
篠宮潤(ヒュリアス)
サイドヘアー編込(他お任せも可) カフェで待合わせ ● こんなにちゃんと、メイクって初めて…だ 変じゃない、といい、な… 「え!?ヒュ、ヒューリ…だよ、ねっ?」 驚くも、そっかそれが本当の色なんだ…とまじまじ とりあえずカフェの席について 「その…どうし、たの?」再び髪見つめ恐る恐る 「え?」きょとん ○ 「ど、どっちも似合う、と思うけど…えーと」 『彼女』が言ったから染色したんだよね…と思ったら 一瞬複雑な気持ち湧いてそんな自分が何か嫌 もやもや払うよう首振った後 「前も言った、けど…僕は、空の色似合うな、って思うよ」 ● 「…それが、ヒューリの『好み』なんだ」 聞けて嬉しそうに 「!?」 ふ、不意打ち、だよ…(カップで顔隠した |
リヴィエラ(ロジェ)
リヴィエラ: あの、ロジェ。髪がとても伸びてきたので、毛先だけでも切って貰ってきますね。 (二人で買い物中、リヴィエラが美容室へ) (普段はストレートロングだが、 ふわふわのロングウェーブにハーフアップの髪型で出てくる) はわわっ、あの、その、毛先を切って頂くだけで良かったのですが… あああああのっ、へ、変…ですよね? (ふええ、恥ずかしい…毛先を切ってくださいとだけお願いしたのに…っ) (わたわたと慌てるリヴィエラの元に、数人の男達が絡んでくる) あの、貴方達は…? 痛っ、離してください…! わ、私はこの方と一緒に買い物へ来ていただけで… ロジェ? ロジェ、どうして怒っているのですか…? |
アマリリス(ヴェルナー)
髪型変更 アップスタイル 折角ですし自分では難しいものでも 三つ編みも編みこんで纏め髪に セット後、待ち合わせ場所へ 今、見ていたとは思うのだけれど… 元々精霊の性格上期待はしてなかったが案の定特に反応を示さなかったので少し不満 別に貴方の為にお洒落をしてきた訳ではないですけれども 感想の一つくらい口にしてくれたら、とは思う まあヴェルナーだから仕方ないと何とか諦めつつ買い物へ あら、何かいいものでもありました? 精霊の目線を追い見ている物を覗き込み 素敵な意匠ね、色もデザインも申し分ないわ でも珍しいですわね、ヴェルナーがこういったものを見るなんて 時間差でくるのは、ちょっと… 心の準備する前の不意打ちに思わず目を逸らす |
アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
ユークに告白された…。 でも、だからって今すぐ恋人になるとかそーゆー気持ちはぜーんぜん無いんだからね! と、とにかく!髪型変えてちょっと気分転換! ストレートにして、ユークに会ってやろうじゃないの。 いつものがいいですーとか言って、寂しがればいいんだわ! そのはず…そのはずだったのに…。 なにご機嫌にお茶してるのよ! そりゃユークが買ってきたケーキもお茶も美味しいけど、そんな満面な笑み向けないで…。 ドキドキしすぎて、胸が破裂しそう…。 あーもう!アンタがあたしに告白なんてするせいよ!バカ! って!ちょっとなにくっついてるのよ! あたしもなんで…抵抗しないのよ…。 これじゃ、好きだって言ってるもんじゃない…! バカ…。 |
言堀 すずめ(大佛 駆)
神人のみ 髪型:シニヨン タータンチェックのシュシュ 髪、やってもらってたらちょっと遅くなったかな? 駆くん待ってるだろうなぁ… ・待ち合わせ場所 (やっぱり駆くんはいつも早いなぁ) 駆くんごめんね、色々支度してたら遅くなって… …あれ? 駆くん、どうかした? なんだか…ぎこちないね? ……ダーイーブーツーくーん(目の前で手をひらひらと うん、大佐じゃないよ? 髪? あ、これ?(嬉 えぇと、これ、どう? 似合う? …あまり、似合わ、ない? そっか。…良かった あまりおしゃれしないから、たまにはこうやってヘアアレンジも良いなぁって思ってね それじゃあ、お買い物して、その後カフェにでも寄ろっか …よし、行こう駆くん(歩く |
●抵抗できない
(ユークに告白された……)
ヘアセットを格安でしてくれるという美容院がある。A.R.O.A.でそんな情報を仕入れた『アメリア・ジョーンズ』は、件の店へ向かう道中、あの日を――射抜くような青い瞳を思い出し、ぼっと頬を紅潮させた。
(でも、だからって今すぐ恋人になるとかそーゆー気持ちはぜーんぜん無いんだからね! と、とにかく! 髪型変えてちょっと気分転換!)
ストレートにして、『ユークレース』に会ってやろう。そして。
「いつものがいいですーとか言って、寂しがればいいんだわ!」
「エイミーさんの家に上げてもらうのは久しぶりですねー」
ユークレースは、お土産に持ってきたショートケーキと紅茶を渡しつつ、ちらりとアメリアの様子をうかがった。
今日の彼女はいつもと違い、髪がさらさらのストレートになっていた。それだけでなく、化粧もしているようだ。見慣れた姿もいいけれど、今のように、大人っぽい雰囲気もいいな、なんて思う。
(なんとゆーか……あれですね。女性は好きな人の前では綺麗に保とうと、髪型変えたり化粧するんだと聞いたことあります。つまり……エイミーさんも僕のこと……って駄目だ駄目だ)
ユークレースは小さく頭を振った。そして、「いつまでそこにいんの」と不機嫌そうなアメリアの背を追う。
(仮にも僕は大人なんだ。ポーカーフェイスで、いつも通りに接しないと)
ユークレースは深く息を吸った。
そうじゃないと……手を出してしまいそうだ。
やっと見つけた、心から愛しいと思う人。その人に嫌われるなんてまっぴらごめんだ。ユークレースは大きく息を吐き出し、心を落ち着けるのだった。
『いつものがいいですーとか言って、寂しがればいいんだわ!』
――そのはず……そのはずだったのに……。なにご機嫌にお茶してるのよ!
向かい合って座ったユークレースがにこにこと上機嫌に笑っているのを見て、アメリアは眉間にしわを寄せた。
告白したとは思えないほど、彼の言動はいつも通りだった。「髪型変えたんですね」とか、そんな一言すらない。
意識しているのは自分だけ、なのだろうか。
そう思うと、なんだか……悲しい気持ちになる。
「あれ、もしかしてお気に召しませんでした? ここのケーキ、女性に人気らしいんですけど」
「そりゃ、ユークが買ってきたケーキもお茶も美味しいけど」
「良かった」
アメリアの言葉に、ユークレースは顔をほころばせた。心の底から嬉しいと思っているに違いない、その満面の笑みを――私に向けないで、と思う。
(ドキドキしすぎて、胸が破裂しそう……)
最近の自分は変だ。彼といると、いつもの自分でいられない。
そう、ユークレースといると。
(そこらへん、わかってるのかしら)
考えているうちに、イライラしてきた。
「あーもう! アンタがあたしに告白なんてするせいよ! バカ!」
突然声を張り上げたアメリアに、ユークレースは目を丸くする。だが、彼女は止まらない。止まれない、といった方が正しいのかもしれないが。
「あたしが変になったのは全部全部、アンタが悪いんだからね!」
と。
その言葉を聞くなり、ユークレースは立ち上がり――アメリアを強く、抱きしめていた。
いきなりこんなことしたら、まずいかもしれない。ユークレースは頭の隅でそんなことを考えたけれど、(抱きしめるくらいは、いい、かな?)と思い直す。それだけでなく、ちょっとした欲が頭をもたげるのがわかった。
(耳元で囁いたら、どんな反応するのか……気になりますね)
硬直していたアメリアも、現状を理解したのかハッとしたように声をあげる。
「って! ちょっと、なにくっついてるのよ!」
「すみません。でも、エイミーさんがあまりにも素敵なことを言うものですから。……もう少し、こうしていたいです」
ユークレースの囁きに、アメリアは硬直した。
だけど――抵抗、できない。
「……抵抗しないんですね。嬉しいです」
彼の指が、整えられた髪に差し込まれる。けれど、文句を言う気は起こらない。
(これじゃ、好きだって言ってるようなもんじゃない……!)
心臓がどきどきと痛いくらいに鳴っている。だが、ユークレースも同じなようで。
「バカ……」
そう言いながらも、アメリアはそっと、身体から力を抜いた。
窓の外、晴れやかな空の下で、小鳥の鳴き声がちちちと響く。
軽やかで優しいそれは、祝福の唄のようだった。
●今日の君も、
「髪、やってもらってたらちょっと遅くなったかな?」
『大佛 駆』との待ち合わせ場所に急ぐ『言堀 すずめ』は、ぽつりと呟いた。
言葉通り、すずめの髪はいつもと違って一つにまとめられていた。シニヨンと呼ばれるまとめ方だ。動きやすそうだけれど花のようにふわふわとしたその髪型は、タータンチェックのシュシュと相まって、女性らしく可愛らしい。
「駆くん待ってるだろうなぁ……」
あのしっかり者な幼馴染のことだ、時間よりも早く着いているに違いない。
すずめの予想通り、既に待ち合わせ場所へと着いていた駆は、なかなか現れない神人の到着をそわそわと待っていた。
(俺が待ち合わせより早いのはいつものことだけど、それにしても今日は遅いな……どうかしたのか?)
と、丁度そのときだ。左右で色が違う駆の瞳が、すずめの姿を捉えたのは。
「……あ、やっと来た。今日はいつもより遅かったね、すず、め……」
そこまで言って、駆は彼女の姿がいつもと違うことに気付き目を瞠った。「えっ、……え!? す、すずめ…!?」なんて、本当に自分の幼馴染かと一瞬でも疑ってしまうほどに動揺する。
だが、すずめは彼の動揺には気づかず、相変わらず駆くんは早いなぁなんて考えながら、しゅんと眉を下げた。
「駆くんごめんね、色々支度してたら遅くなって……」
「え、あ……ああ、うんいや遅くなった分は問題ないが……」
いつもと違う姿に戸惑っている、なんて、すずめが知る由もなく。
「……普段あまりおしゃれなんてしないのに……どうしたんだろ」
ぶつぶつと呟きだした精霊に、きょとりと首を傾げてみせた。
「……あれ? 駆くん、どうかした? なんだか……ぎこちないね?」
だが、駆の反応はない。思考の海にどんどん溺れていっているようだ。
「……ダーイーブーツーくーん」
目の前で手をひらひらと振ると、駆はやっと我にかえったようだった。
「はッ! 申し訳ございませんでした大佐殿ッ!?」
「うん、大佐じゃないよ?」
「あ……ご、ごめんッ……!」
ビシッと敬礼まで決めてみせる駆に、すずめは冷静だ。
こんなことで動揺してしまうなんて情けないと、駆は小さく頭を振る。
(もう、俺……いったい何を)
だが、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかないだろうと気を取り直し、ストレートに聞いてみることにした。
「すずめ、その髪……どうしたんだい?」
「髪? あ、これ?」
駆が髪型について触れてくれたのが嬉しくて、すずめはぱっと笑顔を浮かべた。
「えぇと、これ、どう? 似合う?」
そう尋ねるも、駆の反応は芳しくない。どう返せばいいのかわからない、といった様子だ。
すずめは自分だけはしゃいでいる現状が恥ずかしくて、顔を伏せてしまう。
「……あまり、似合わ、ない?」
「い、いやっそんなことは決して!」
否定する駆の勢いが予想以上で、すずめはぱちりとまばたきをした。そんな彼女の様子に、駆も気付いたらしい。ごめんと小さく謝ると、「えーっと」と目を泳がせた。
「あ、あぁ……よ、よく……似合う、よ」
「そっか。……良かった」
駆の言葉に、すずめはほっと胸をなで下ろした。
「あまりおしゃれしないから、たまにはこうやってヘアアレンジも良いなぁって思ってね」
「たまには……髪型、変えるのも良いかもね」
楽しそうに話すすずめに、駆はこくりと頷いた。
駆も見慣れた、艶やかな髪を下ろしているのも似合う。けれど今の髪型も、とても似合っている。心からそう思う。
「またその髪型、してくれる?」
駆のお願いに、すずめはきょとんとした後――ふわりと笑って、「ダイブツくんに言われたら、やらないわけにはいかないわね」なんて言ってみせた。
「それじゃあ、お買い物して、その後カフェにでも寄ろっか」
心なしか早口で告げられたその提案に、駆は「そうだね」と同意する。
「……よし、行こう駆くん」
歩き出したすずめの背中を、駆は慌てて追いかける。
向けられた笑顔がいつもより可愛く見えた気がして――けれどそれは髪型のせいかと思い直して、駆はこれからの時間に想いを馳せるのだった。
●不意打ちなんて
いつもと違う髪型はうきうきするけれど、同時に少し恥ずかしくもある。
『アマリリス』はそんな気持ちを抱えながら、精霊である『ヴェルナー』との待ち合わせ場所に向かっていた。
そして、見慣れた彼の姿を視界に捉えると、ぱたぱたと小走りでその場に向かう。
「お待たせしました」
「いえ、時間通りですので」
事実のみの、気が効いたとはいえない返事はヴェルナーにとっていつも通りだ。けれど、神人が『いつも通り』でないと気づいたのは、対面してから数秒後のことだった。
何か違う。
ふとそう思ったヴェルナーは、神人を注視した。
(ああ、髪型が違うんですね)
普段、アマリリスは髪を下ろしていることが多い。けれど今日は、すっきりとまとめているのだ。アップスタイル、というんだったか。
編み込まれた三つ編みも相まって、なんだか雰囲気が変わった――なんて、ヴェルナーが考えるわけもなく。(あれなら風が強くても邪魔にならないし、動きやすそうだ)と、色気も何もない、実用的だなという程度の感想しか抱かなかった。
(今、見ていたとは思うのだけれど……)
ヴェルナーが髪型に触れる気配はない。アマリリスは小さくため息をついた。
精霊の性格から、期待しても無駄だろうことは察していた。だが、案の定反応を示されないとなると、やはり不満にも思ってしまう。
(別に、貴方の為にお洒落をしてきた訳ではないですけれども)
感想の一つくらい口にしてくれたら。そう思うのは我儘だろうか。
まあ、ヴェルナーだから仕方ない。
アマリリスは何とか諦め、予定していた買い物に行こうと促した。
とはいえ、特に目的の店があるわけではない。ぶらぶらとタブロスを歩いていると、ヴェルナーが足を止めた。
「あら、何かいいものでもありました?」
アマリリスの問いかけに、ヴェルナーは何も言わずに止まってしまったことを謝罪しつつ、けれど道中目に入った髪飾りから視線を逸らせずにいた。
精霊の目線を追ったアマリリスは、「あら」と嬉しそうな声をあげる。
「素敵な意匠ね、色もデザインも申し分ないわ」
「ええ。いい品ですね」
二人が目を奪われたのは、上品な雰囲気の髪飾りだ。花をモチーフに作られたそれは白一色でありながらも、細やかな模様と上質な光沢を放っている。
――アマリリスの髪色に合いそうだ。
「でも珍しいですわね、ヴェルナーがこういったものを見るなんて」
不思議そうなアマリリスに、ヴェルナーは「あまりこういったセンスはないのですが」と前置きをして口を開いた。
「あれなら今のアマリリスの髪型に似合うのではないかと思いまして」
思わぬ形、タイミングで髪型に触れられ、アマリリスは目を丸くした。だが、そんな神人の様子に気付いてか気付いていないのか、ふわりと優しい笑みを浮かべる。
「いいですよね、その髪型」
ヴェルナーからしたら、それはなんてことのない、日常会話の一つに過ぎないのだろう。けれど、アマリリスにとっては――彼に想いを寄せている自分にとっては、とんでもない破壊力を持ったそれになる。
(時間差でくるのは、ちょっと……)
心の準備をする間もない不意打ちに、アマリリスはたまらず目を逸らす。
けれど、嬉しいことは変わらなくて――ふふ、と。
小さく、けれど鈴を転がしたような軽やかさを持って、心からの笑みをこぼすのだった。
●もとのいろ、そらのいろ
格安でヘアセットを。A.R.O.A.でそんな情報を手に入れた『篠宮潤』は、件の美容院でお世話になった後、『ヒュリアス』との待ち合わせ場所――カフェへと向かっていた。
今日の潤はいつもと違い、サイドヘアを編み込んでいる。また、それだけだと味気ないからと、店員さんが小さな髪飾りをさしてくれた。淡い黄色の花を象ったそれは、潤の紫苑の髪によく映える。嬉しいけれど、自分にはもったいない気もして、胸のあたりがそわそわと落ち着かない。
それに。
(こんなにちゃんと、メイクって初めて……だ。変じゃない、といい、な……)
そんなことを考えている間に、カフェへと辿り着いていた。そして、見慣れた彼のシルエットを見つけ、潤はぱっと顔を輝かせた――のだが。
「え!? ヒュ、ヒューリ……だよ、ねっ?」
「ああ」
思わぬ変貌を遂げた彼の姿に、潤は目を丸くした。というのも、ヒュリアスの空色の髪が耳と同じグレーに染まっていたのだ。
がらりと変わった印象に、けれど潤は怯むことなく(そっか、それが本当の色なんだ……)とまじまじと見つめていた。
ヒュリアスも、潤と同じように彼女のことを見つめ返していた。今日の彼女は、なんだかいつもより女性らしい印象を受ける。なんて考えて、ヒュリアスは小さく頭を振る。
「……とりあえず中に入るか」
そして、努めて冷静にそう促すのだった。
カフェの席に着いた潤は、改めてヒュリアスの髪を見つめ、恐る恐る口を開いた。
「その……どうし、たの?」
「何、ただの気分転換だ」
なんていうのは建前で、本当の理由は『潤に本来の姿を知っておいてもらいたくなった』というものだ。
(やれやれ、これ以上進行してほしくは無いのだが……)
恋の病とはよく言ったものだ。ヒュリアスは心からそう思う。
まったく、なんと厄介な病気にかかってしまったのか。
「ウルの反応も面白そうだったんでな」
「え?」
きょとんとした潤に、ヒュリアスは誤魔化すように微笑を浮かべ、口を開く。
「どちらがいいと思うかね?」
「ど、どっちも似合う、と思うけど……えーと」
『彼女』が言ったから染色したんだよね。
そう思った瞬間、潤は胸のあたりに黒いもやがかかったような感じがして――そんなことを考えた自分が嫌になる。もやもやを払うよう首を振ると、
「前も言った、けど……僕は、空の色似合うな、って思うよ」
そう、素直な気持ちを零した。
ヒュリアスとしても、グレーでいるのは長くても数日程度と考えていたのだが――彼女の言葉を聞いて、心の中でため息をつく。
今すぐに戻してもいいかもしれない、なんて思ったからだ。
「そうだな。俺もそちらが気に入ってはおるよ」
口元和らげ、優しくそう言うヒュリアスに、潤はふわりと笑顔を浮かべる。
「……それが、ヒューリの『好み』なんだ」
聞けて嬉しい。潤の笑みは如実にそう語っていて、ヒュリアスの胸が温かなもので満たされていく。
(これが……『俺』の好み……)
反芻して、胸に刻みつける。
自分が『自分』らしくなるためのピースが一つ埋まったような、そんな満足感を覚える。
潤と出会わなければ、このピースを手に入れることはなかったらだろう。
「言い忘れていたが。似合うのではないかね、そういった髪も」
口紅も。
「!?」
そう言うヒュリアスは、柔らかな微笑を浮かべていて……
(ふ、不意打ち、だよ……)
潤は顔を真っ赤にすると、カップで顔を隠し――けれど、隠しきれていないその姿に、ヒュリアスはまた笑い。
穏やかで、幸せな。
温かな光に包まれた、そんな時間を共にするのだった。
●少女じゃなくなるきみ
『ロジェ』は腕を組み、己だけの神人であり、大切な恋人でもある『リヴィエラ』が帰ってくるのを待っていた。
「あの、ロジェ。髪がとても伸びてきたので、毛先だけでも切って貰ってきますね」
そう言って、彼女が美容院に入ってからどれくらいの時間が経っただろう。
買い物中、リヴィエラがそわそわしていたので、せっかくだから行ってくるといいと促したのは自分なのだが……。
(リヴィーの奴、遅いな……カットだけでそんなに時間がかかるものなのか?)
何かトラブルにでも巻き込まれたのだろうか。そんな考えが頭をかすめた、そのときだった。
「ロジェ、お待たせしました」
耳に心地よい、リヴィエラの声が耳の届いたのは。
急いで振り返ったロジェは――目を丸くする。
普段、彼女は手入れが行き届いた美しい髪を下ろしている。けれど今はどういうわけか、ふわふわとウェーブがかかり、かつハーフアップにしていたからだ。
髪型が変わるだけで、こんなに雰囲気も違うのか――。
ロジェは思わず息を飲む。
何も言わない彼に、リヴィエラの赤らんでいた頬は更に赤くなった。
「はわわっ、あの、その、毛先を切って頂くだけで良かったのですが……あああああのっ、へ、変……ですよね?」
せっかく整えてくれたところ申し訳ないけれど、元の髪型に戻してもらおう。そう考えて、リヴィエラはくるりと身体の向きを変える。
(ふええ、恥ずかしい……毛先を切ってくださいとだけお願いしたのに……っ)
そう、彼女はロジェに言った通り、毛先を整えてもらえればそれで充分だったのだ。が、店員側は「せっかくですし」と彼女を言い包め、こうしてセットしたのである。A.R.O.A.で「格安でヘアセットを~」と宣伝していたお店だったのも、きっと関係しているのだろう。
だが、ロジェはリヴィエラの手首を掴み、引き止める。
「なっ……べ、別に可愛いとか水の妖精のようだとか思ったわけじゃないんだからな! 君は俺の神人で、恋人だ。その……美人に決まってるだろ!」
「ロジェ……」
そう言いながら、ロジェは内心「クソッ」と舌打ちしていた。こうして見るリヴィエラは、『女性』と言って何も違和感はない。
(まだまだ少女だと思っていたのに)
わたわたと慌てる彼女の手首を離し、ロジェは買い物の続きを促そうとする。けれど、リヴィエラは、「なあ」と見知らぬ三人の男に声をかけられ、足を止めざるを得なかった。
「あの、貴方達は……?」
「キミさぁ、そんな頼りない奴と一緒じゃつまんないっしょ?」「せっかく遊びに出たんだからさ、オレ達と楽しもうぜ?」「さ、こっちこっち」
男たちはそう言って、リヴィエラの腕を力任せに掴む。
「痛っ、離してください……! わ、私はこの方と一緒に買い物へ来ていただけで……」
痛みに顔を歪める愛しい人を見て、ロジェは腹の底から灼熱の炎が燃え上がるような、そんな激しい怒りを覚える。
「何だ貴様らは? 俺の恋人に馴れ馴れしく触るんじゃない!」
捻じ伏せるべき相手を見つけた、獣のような紫の瞳――ロジェの迫力に圧された男たちは、ひ、と小さく悲鳴をあげる。
「これ以上触れたら……斬る」
武器を持っていないにも関わらず、その言葉には真実味があった。男たちは舌打ちすらもできずに、早足でその場を後にする。
だが、それでもロジェの苛立ちは収まらない。リヴィエラの手を掴むと、買い物に――ではなく、まっすぐに家への道を歩きはじめる。
「ロジェ? ロジェ、どうして怒っているのですか……?」
「どうして怒っているのかだと?」
リヴィエラの問いに、ロジェは前を向いたまま声を荒げた。
「自分の姿を見てみろ! 君は無防備すぎるんだ!」
自分の魅力をわかってくれと、ロジェは心の底からそう思う。
リヴィエラは反射的に「はい」と頷いてみせ――けれど、彼が心配してくれているのは伝わってきて、思わずふふ、と笑みをもらした。
いつだって、ロジェは自分のことを気にかけてくれるのだ。
そんな彼の隣に、ずっと立ち続けていたい。リヴィエラは強くそう願う。
帰ったら、温かい飲み物を入れよう。そして、彼とゆっくりとした時間を過ごそう。
買い物やデートも嬉しいけれど、彼がいればなんだっていいのだ。
そんな小さな計画を立てながら、リヴィエラはロジェとともに家への道を歩くのだった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 櫻 茅子 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月27日 |
出発日 | 10月04日 00:00 |
予定納品日 | 10月14日 |
参加者
- 篠宮潤(ヒュリアス)
- リヴィエラ(ロジェ)
- アマリリス(ヴェルナー)
- アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
- 言堀 すずめ(大佛 駆)
会議室
-
2015/10/03-07:25
アマリリスと申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
どう変えてみようか考えるのも楽しいですね。
どんな髪型にしようかしら。 -
2015/10/01-13:22
と、飛び込みで、失礼…シマス…っ(びくびく)
篠宮潤(しのみや うる)、と、パートナーはヒュリアス、だよ。
どうぞよろしく、だ。
僕、この髪型からほとんどいじったことない、から、ちょっと楽しみ…かも…♪
なんだか、ヒューリも何か悩んでる…みたい?
(神人・精霊共、髪お世話になる予定) -
2015/09/30-21:31
アメリアよ、よろしく。
えーっと…なんか最近、ユークのバカが調子乗ってるのよ。
だから、ちょっと髪型変えて、驚かしてやるんだからね!
そうねぇ…天パだから、ストレートとか…うん…。
って、アイツの為なんかになに悩んでるのよ私!
と、とにかくヘアセット、よろしく…! -
2015/09/30-10:28
ことぼり・すずめです。精霊はダイブツ…あ、ではなくて。おさらぎ・かけるさんです。
どうぞよろしくお願いしますね。
ヘアセットは私の予定です。
普段は髪の毛は結わないのでたまにはシニヨンが良いなって思ってます。
駆くん、驚いてくれる、はず(わくわく -
2015/09/30-09:47
(ヘアアレンジ本を読みながら)
リヴィエラと申します。どうぞ宜しくお願い致します。
ええと…髪型は、元々ストレートなので、今回はふわふわのウェーブで
ハーフアップにしてみようかしら、なんて…(もじもじ)