色は匂えど?(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 香りの専門店『香り紡ぎ』は、A.R.O.A.に出入りする業者の一つだ。
「最近はオーガ除け、デミ・オーガ除けの香りが出来ないものかと開発を進めてるんですが、なかなか難しいですねぇ」
 言いながら『香り紡ぎ』の女店主は、幾つかの商品をA.R.O.A.職員の前に置く。
「ウィンクルムの皆さんは本当に色々な所へ出向かれますから、うちの商品が役に立ってるといいんですが」
 机の上に置かれたのは、虫除け、逆に虫寄せ、気付け、等、香水と言うよりは薬に近いものばかりだった。
「いつもありがとうございます。じゃあこれとこれをいつも通り購入させてもらって、こちらはいつもの倍購入させていただきます」
「ありがとうございます。ところで、実は今度、飲める香り玉『アロマキャンディ』というものを売り出そうと思っていまして」
「へぇ、どんなものなんですか?」
「はい、飲む事によって体の内側から香りがするようになる、というものです。それで、ウィンクルムの方にモニターとして協力していただきたいんですが」
 女店主の言い分はこうだった。
 新商品アロマキャンディの狙いは、恋人同士や夫婦で楽しめる香り、なのだという。
 店に来る客にも試供品を渡してはいるが、必ずしも恋人や伴侶がいるわけではない。いたとしても、その恋人や伴侶から感想を聞くのは難しい。
 その点、A.R.O.A.を介してウィンクルムに頼めば、必ずパートナーがいるし、感想も聞き易いだろう。
「お店へ来ていただければ、神人の方のご希望に沿った香りのアロマキャンディを作りますから。どうでしょうか? ちなみに今の時期、お勧めは朝露薔薇、霧沈丁花、ちょっと面白いのは星蜜砂糖の香りかしら」
 この春に取れたばかりの、様々な花の香料は店に揃っている。勿論、花以外の香りも作り上げる事は出来る。
 よっぽど珍妙な希望ではない限り、望みの香りは作られるだろう。
「あ、勿論お代は無しで。その代わり、必ず精霊の皆さんに感想を聞かせてください」
 だから、絶対にお二人で来てくださいね。
 女店主は悪戯っぽく笑った。

解説

アロマキャンディは食べてすぐ香りが広がります。

普通の香水と同じように、トップノート・ミドルノート・ラストノートがありますが、キャンディなのでちょっと違います。
・トップノート → 口に入れてから終わるまでの香り
・ミドルノート → 食べ終わってから十分ほどの香り
・ラストノート → その後の香り
希望する香りがある場合、漠然とした希望でも構いませんし、トップ、ミドル、ラストノートを細かく決めていただいても構いません。

希望する香りがない場合、
・朝露薔薇(瑞々しい薔薇の香り)
・霧沈丁花(柔らかな沈丁花の香り)
・星蜜砂糖(甘い蜂蜜の香り)
以上のどれかになります。
勿論、この三つの中から一つ選んで希望する、という事でも構いません。


ゲームマスターより

香りは時に気持ちを落ち着かせることも盛り上げることもあります。
貴女はどんな香りを身に纏って、パートナーをどんな気持ちにさせるのでしょうか。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アリシエンテ(エスト)

  トップノート→星蜜砂糖
ミドルノート→霧沈丁花
ラストノート→朝露薔薇

どうせなら、3種類全て確かめられるようなアロマキャンディを作ってもらいましょう。
それぞれのノート毎に、エストに感想を求めるのっ。
好奇心掻き立てられるわねっ。楽しそうっ、きっと楽しいわっ!
アロマキャンディを口に入れたら、傍に立って都度感想を求めるわっ!

いつも傍にはいるけれども、そこには一定の距離がある。それは私達にとってウィンクルムの関係は利害の一致に過ぎないから。
縮める事なんて考えた事無かったけれども、戦闘に出て少し思ったの。この距離がほんの少しでも縮まっていく事があるとしたら、その時こそ、心から安心して戦えるんじゃないかって。



かのん(天藍)
  アロマキャンディがどのような物か、好奇心から参加
天藍が乗り気ではないように感じたので、モニターとして協力する事を主目的にし天藍を説得

香りの選択は自分の好みよりも天藍の好みを優先したかったが、参加までの経緯もあり既製品の中から朝露薔薇を選択(霧沈丁花は香りが強そうに感じ、星蜜砂糖は甘過ぎる香りのイメージを持ち回避)

食べた所普通のキャンディと変わらないように感じたので、その後の天藍の思わぬ行動に硬直

両親を早くに亡くした経緯から、大切な人を失う事態を二度と招きたくないと思っている事もあり、天藍に対してはあくまでも神人のパートナーという位置に留め、それ以上の対象と意識しないようにしていた気持ちが揺れる



マリアベル=マゼンダ(アーノルド=シュバルツ)
  ……かおりのする、キャンディ……ですか?
それは、甘くておいしいですか…?

えっと…ですね、アルさまは、紅茶がお好きなんです……。わたくしも、大好きですけども……紅茶の香りのキャンディを、作っていただけますか……?

時間によって、香りがかわるのですか…?
紅茶をベースに、どんな香りがすると、いいでしょうか……。
やさしい香りがいいですね…。

アルさま、どうですか…?わたくし、いいにおいしますか?


普段アーノルドの後ろに隠れがちだが、しどろもどろしつつ懸命に店主と話をする。
アルの好きな銘柄の紅茶葉を持参して、こんな香りにしてくださいとお願いする。
香水の仕組みは分からないので、トップ・ミドル・ラストは店主と相談


クロス(オルクス)
  ☆心情
最近、忙しくてまともに休んでいない気がする。
でもオーガを殲滅するにはこれくらいでへこたれちゃダメだ!
そうだ、任務で事前に作ってもらたったアロマキャンディがあるから食べよう♪

☆行動
(飴を舐めながら)オルクもこの時間休憩だろうし、逢いに行こうかな。
(ノックをし部屋へ入る)オルク、お疲れ様。
(ソファーに座り紅茶を頂く)あぁこの香り?
モニター任務で作って貰ったキャンディだよ。
最初は蜂蜜で次が柑橘系、最後に桜の香り。
なんかリラックス出来るだろ?
アロマにはそういう効果があるから。
後でお店に行って感想言いに行こうな。

トップ→星蜜砂糖
ミドル→月光柑橘(柑橘系の香り)
ラスト→夜桜美人(桜の香り)



■アロマキャンディ、お試しあれ
「いらっしゃいませ。アロマキャンディのモニターの方ですね」
 カランとドアベルを鳴らし、香りの専門店『香り紡ぎ』にやってきたのは、モニター参加者だ。
「この度はご協力ありがとうございます。まずアロマキャンディの説明をさせていただきますね」
 女店主は見本や広告を見せながら説明を始める。
「香水と同じようにトップノート・ミドルノート・ラストノートとありますが、香水と違って長時間香りを持続させます。基本的に一粒で一日から三日ほどでしょうか」
 女店主は説明しながら苦笑する。
「一日と三日じゃ大分違うと思われるでしょうけど、申し訳ございません、こればかりはご本人様の体質によります」
 色々な説明と注意を全て終えると、それでは、と姿勢を正してモニター参加者に向き合う。
「どんな香りをご所望ですか?」


■贅沢に楽しみましょう
「トップノートは星蜜砂糖、ミドルノートは霧沈丁花、ラストノートは朝霧薔薇! どうせなら三種類全部確かめられるようなアロマキャンディをお願いするわっ!」
 わくわくとした表情で『アリシエンテ』は店主に告げた。
「さ、三種類全部、ですか……ッ?!」
 対して、店主は営業スマイルを凍りつかせて聞き返した。
 そんな店主の反応に、アリシエンテもまた表情を凍らせる。
「もしかして、難しいのかしら?」
「……ッいえ! 私もプロです! 作ってみせましょう!!」
 どうやら三種類全部を、というのは厳しい注文だったらしいが、その厳しさが店主のプライドを刺激したらしい。
 アリシエンテはほっと一息ついた。
「けれど、それぞれ大分趣が違いますが、パートナーの方はご承知ですか?」
「いいえ、秘密よっ! このモニターの事もまだ言ってないものっ! それぞれのノート毎に『エスト』、あそこの入り口で立ってる精霊よ、彼に感想を求めるのっ。ふふ、どんな反応かしら、好奇心を掻き立てられるわねっ。楽しそうっ、きっと楽しいわっ!」
 目を輝かせるアリシエンテに、店主は笑いながらアロマキャンディを作り始める。
 悪戯を仕掛けるような二人の様子を、アリシエンテに付き添って店にやってきたものの、入り口付近で待機しているだけのエストは小さく溜息をつく。
(アリシエンテがまたおかしなことをやっているようですね。いつもの事ですが)
 自分も関わる事とは知らないエストは、ただ彼女の用事が終わるのを待っている。


■癒しを求めましょう
『クロス』もパートナーの『オルクス』も、送っている毎日はなかなかに過酷だ。
 ウィンクルムとしてA.R.O.A.からの依頼に応えながら、オーガ殲滅の為に動いているブラッドクロイツに所属しているのだから、仕方がない。
 そして、そんな彼女が、こんな香りのモニターを引き受けるとなれば。
(……癒されたい。リラックス、したい……! オルクだってきっと疲れてるだろ!)
 なんて思ってしまうのも、仕方がない。
「リラックス、ですね」
 お任せください。店主はそう言って、幾つかの香りのサンプルを出す。
「星蜜砂糖をトップにして、まずキャンディそのものの味を甘くするのはいかがですか? その後は柑橘系の香りや、そこまで強く主張しない花やハーブの香り。どうでしょう」
 並べられたサンプルの香りを確かめ、クロスは「じゃあ……」と選ぶ。
 選ばれたのは、柑橘系では人気のある月光柑橘と、この春作られたばかりの桜の香料である夜桜美人。
 そうしてリラックス効果の高いアロマキャンディが作られた。


■相手を想いましょう
『……かおりのする、キャンディ……ですか? それは、甘くておいしいですか……?』
 モニターの話が持ち込まれた時、『マリアベル=マゼンダ』はそう問いながらも、考えたのはパートナーである『アーノルド=シュバルツ』の事だった。
 引っ込み思案な少女は、しどろもどろだが店主に香りの相談を始めた。
 付き添ってきたアーノルドは少し離れ、会話が聞こえない程度のところで様子を見守る。
「アルさまは、紅茶がお好きなんです……わたくしも、大好きですけども……紅茶の香りのキャンディを、作っていただけますか……?」
「はい、喜んで」
 お人形のような少女が、相手を想って一生懸命お願いしてくるのだ。店主はふやけた笑顔になって対応してしまう。
「これ、アルさまが好きな、紅茶葉、なんですけど……こんな香りが、よいのですが……」
 言って、持ってきた紅茶葉の入った缶を渡す。
「いい香りですね。ではこちらの香りを作るとして、どう変化させましょう?」
「時間によって、香りがかわるのですか…?」
 香水の知識はあっても実感としてその変化がわからず、頭を捻ってしまう。
「紅茶をベースに、どんな香りがすると、いいでしょうか……」
 困り果てて店主に言うと、「イメージでもいいですよ」と助けが出る。
「やさしい香りがいいですね……」
 それはマリアベルの香りそのものへの希望でもあり、マリアベルから見たアーノルドのイメージでもあった。
「そうですか、では……」
 店主は思いつく。可愛らしい少女にふさわしい香りを。


■自分の好みもいいでしょう
 アロマキャンディはどのような物なのか。
『かのん』は純粋に好奇心からモニターに参加したが、パートナー『天藍』は香水等に興味が無く、気が進まない様子だった。
 人によって興味の対象は様々だ。まして男性は女性よりも香りへの興味が薄い人が多い。天藍の反応は予想の範疇でもあった。
 あくまでも依頼で、モニターとして協力する為と説得して、ようやく参加する事になったけれど、相談などは乗ってくれそうにない。
(本当は自分の好みよりも天藍の好みを優先させたかったけど、あの様子じゃ無理ですね)
 少し残念そうに息を吐くと、改めて香りのサンプルから自分の好みのものを探してみる。
「お勧めはこの三つでしたっけ?」
「はい、どうぞ香りをお確かめ下さい」
 勧められ、かのんはまず霧沈丁花を手に取る。甘い香りは好ましかったが、どうにも香りが強そうに感じた。
 次に星蜜砂糖。こちらは手にとって、けれど嗅がずに手放した。名前からどうにも甘すぎる香りのイメージを持ってしまったのだ。
 最後に朝霧薔薇。薔薇の香りはガーデナーをしているかのんには馴染みのものだった。それに霧沈丁花より香りが優しい気がする。
「じゃあ、これで」
 朝霧薔薇の香りをベースに、変化は店主に任せる事にした。


■星蜜砂糖と霧沈丁花と朝霧薔薇
 香り紡ぎから帰ろうとした時、アリシエンテはくるりとエストの方を向き、さぁ今から悪戯を仕掛けますよ、と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。
「アロマキャンディのモニターっ! 付き合ってもらうわよっ!」
「はい?」
 ここでようやく、エストは今日の外出の目的を知った。
 モニターの事、アロマキャンディの事、それらを歩きながら聞いて協力する事に承諾すると、さっそくアリシエンテは作ったばかりのアロマキャンディを口に含んだ。
 そして普段よりもエストに近づいて「どうかしらっ」と瞳を輝かせて顔を覗き見る。
 するとそこには。
「……」
 無言で眉を顰めるエストがいた。
「……も、もうわかったから、何も言わなくていいわ」
 口の中に広がる甘さと香りを楽しんでいただけに、ここまで露骨に不快そうな顔をされるとは思っていなかったアリシエンテは、残念そうに口内のキャンディを噛み砕いていく。
(甘い。甘すぎる。当人に似合わないにも程がある)
 星蜜砂糖の香りはそれ単体ならいい香りだろう。しかし、アリシエンテには甘すぎて似合わなかった。
 けれど、アリシエンテがキャンディを噛み砕き終わると、ふわりと別の香りが漂ってきた。霧沈丁花だ。
 先ほどの香りよりはいい。たおやかなイメージの花の香りだ。けれど……。
(彼女には物足りません)
 そう思ったエストは、アリシエンテにはっきりと「似合いません」と言い放った。
「そ、そう……」
 変化した香りを楽しんでいたアリシエンテは、二度目の駄目出しに落ち込んでしまう。
 何だか想像していたよりも楽しくない。
 これをきっかけに、少し距離を縮められたら、と思っていたのだ。
 私達はいつも傍にはいるけれども、そこには一定の距離がある。
 それは私達にとってウィンクルムの関係は利害の一致に過ぎないから。
 今まではそう思って、そこに疑問はなかった。よいパートナーだと思っていた。
 縮める事なんて考えた事無かったけれど、A.R.O.A.の依頼で戦闘に出て、少し思ったことがある。
 この距離がほんの少しでも縮まっていく事があるとしたら、その時こそ、心から安心して戦えるんじゃないかって。
(そう思ってこのモニターを引き受けたんだけど、駄目だったかしら)
 つまらなそうに寄り道をして何とか時間を潰していると、ようやく最後の香りが顔を出す。
 そこで、ふとエストがアリシエンテをじっと見る。
「何?」
「薔薇の香り、ですか?」
 瑞々しくも、それでも存在を誇示する薔薇の香り。甘さよりも気高さを思わせる。
 ようやく彼女に相応しい香りになったと、胸がスッキリしたエストは無意識にアリシエンテに微笑んでいた。
 その反応に気付き、アリシエンテは頬を紅潮させて笑顔になる。
 そしてその場でくるりと回り、波打つ金色の髪と香りを広げてエストに問いかける。
「エスト! どうかしらっ!」
 日差しを受けて光が踊る。髪が、瞳が、いや、その存在が輝いて見えるのは、纏っている香りの効果だろうか。
「似合います」
 金色の薔薇のようだ。
 エストはそう思ったけれど、口には出さずただ微笑み続けた。


■星蜜砂糖と月光柑橘と夜桜美人
 最近、忙しくてまともに休んでいない気がする。
 クロスは「う~」と唸って肩を回す。オーガを殲滅するにはこれくらいでへこたれちゃダメだ! と自分に言い聞かせながら。
「そうだ、任務で事前に作ってもらったアロマキャンディがあるから食べよう♪」
 リラックス効果を狙って作ってもらったのだ。こんな時にふさわしいだろう。
 ころり、とキャンディを口に含めば、蜂蜜の甘い味と香りが広がる。
「……ッ癒される……!」
 甘さに和んでいると、思い浮かぶのはパートナーのオルクスだ。
 このキャンディはパートナーに感想を聞かなければいけないのだ。
(オルクもこの時間休憩だろうし、逢いに行こうかな)
 モニターとして意見聞かなきゃいけないし、などと心の中で誰にともなく言い訳をして、クロスはオルクスの部屋へと向かった。
「オルク、お疲れ様」
 ノックをして部屋に入れば、紅茶を入れているオルクスが振り向いた。
「クー、いらっしゃい。お疲れ様。丁度紅茶を入れたとこなんだ、座って寛ぐといい」
 疲れた様子だったのに一気に笑顔に変わり、嬉しそうに言ってクロスの分の紅茶も入れ始めた。
 尻尾を振らんばかりのオルクスのご機嫌さに、クロスはむず痒くなりながらもソファーに腰を下ろす。
 クロスの動きに合わせて空気が動き、そこでオルクスはいつもと違う事に気がつく。
「ところで……この甘い匂いは?」
 入れた紅茶を差し出しながら、オルクスはクロスの対面のソファーに座る。
「あぁこの香り? モニター任務で作って貰ったキャンディだよ」
 そういえば、とオルクスも頼まれていた事を思い出す。
「最初は蜂蜜で次が柑橘系、最後に桜の香り。香りが変わるんだ」
「そうだったのか。とてもいい匂いだ、クーに似合っている」
 微笑んで言いながら、オルクスは立ち上がり移動する。
「そろそろ舐め終わるから柑橘系の香りに変わるな。甘くて爽やかな香りって、なんかリラックス出来るだろ? アロマにはそういう効果があるか、ら……」
 クロスが言いよどむ。それもそのはず。オルクスが自然な動作でクロスの隣に座ったのだ。
 そのまま、するり、と、クロスの真っ直ぐな髪を一掬いすると、まるで髪に口付けをするかのように顔へと持っていく。
「……本当に、いい匂いだ」
 きっとクーだからこんなにいい匂いになるんだろう。
 オルクスはそう確信していた。
「凄くリラックス出来るよ。今までの疲れが吹き飛んだ感じがするな」
 満足気に微笑んでいるオルクスに対して、クロスは顔を赤くさせて恥ずかしさと悔しさと嬉しさを混ぜた変な顔になってしまう。
 ―――こっちは、全然、リラックス、出来ない!!
 そう叫びたかったが、裏返りそうな声で言ったのは「あ、後でお店に行って感想言いに行こうな」という事務的ともとれる内容だった。
「そうだな、仕事が一段落したらお店に向かうとするか」
 けれどオルクスは、それを大切な約束、そう、デートの約束のような心地で受け止めた。


■ミルクと紅茶とミルクティー
 マリアベルとアーノルドは店の近くの公園のベンチに座り、さっそくアロマキャンディを試してみる事にした。
「食べる香水……ですか」
 女性は面白い事をお考えになりますね、と感心して言いながらも、アーノルドはマリアベルの小さな両手の中にあるアロマキャンディを見てクスリと笑った。
 虹色のセロファンに包まれたそれは、完全に普通のキャンディだ。だからこそ、子供のマリアベルが持っても違和感がない。
 それでも、うっとりと眺めるマリアベルは、少女が初めてアクセサリーを手にしたような、少し大人びた雰囲気だった。
「男の私は些か香りという物に鈍感な方だと思いますが……ふふ、マリーは小さくても立派なレディーですからね。そうゆうものには敏感なのでしょう」
 アーノルドが微笑みながら言うと、マリアベルは「そんなこと……」と恥ずかしそうに呟き、誤魔化すようにセロファンを広げて小さなキャンディを口にふくんだ。
 同時に、蜂蜜を溶かしたミルクの香りが広がる。
「どうですか、マリー。お味の方は……いや、味を聞くのもおかしな話ですが」
「香りと、おんなじ……ハニーミルクです」
 優しく甘い香りに、やっぱりまだまだ子供ですね、とアーノルドもまた笑みを零す。
 その笑みが小さな驚きに変わったのは、そこから数分後。
「ほう、これは……紅茶の香りがしますね」
 香りがアーノルドが好んで飲む紅茶のそれに変わった。マリアベルを見れば頬を赤らめている。
 アーノルドは店で店主に一生懸命話していたマリアベルを思い出す。
「……優しくてリラックスできる香りです。不思議なものですね。こんなにしっかり香りがする物なのですね」
 アーノルドは心が温かくなってマリアベルの頭をそっと撫でる。
「ありがとうございます。でも、私は普段マリーから香る柔らかい、砂糖菓子のような甘い香りが好きですよ」
 そういう意味では最初のハニーミルクの方がマリアベルには合っていただろう。
 けれどこの香りは意味合いが違う。マリアベルがアーノルドを考えて選んでくれた香りなのだ。
「もちろん、今のこの香りも好きですけどね」
 優しいその声に、マリアベルは顔をさらに赤くして俯いてしまう。
「あの、アルさま……もう少し、待ってください」
 消え入りそうな声でマリアベルが言った、その三十分後。
 アーノルドは再度の変化にまた驚く。
 紅茶の爽やかな香り、だけではない。
 最初の甘い香り。それが混じって、違う香りを作り上げている。
 甘く爽やかな、ミルクティーの香りだ。
「……わたくし、香水は、詳しくなくて……相談したら……」
『紅茶をベースに、ご自分の香り、相手の香り、そしてその二つを足して二人の香りをイメージしてみるのはどうでしょう』
 店主は楽しそうにそう言ったらしい。
 マリアベルは純粋に、それは素敵な事だと思った。
 自分とアーノルドの二人の香りだなんて、とても素敵な事だと、そう思ったのだ。
「アルさま、どうですか……? わたくし、いいにおいしますか?」
 頬を赤らめながらも、マリアベルはアーノルドを見つめて微笑む。春の陽気に起こされた小さな花のように、可愛らしく。
『小さくても立派なレディー』
 言ったのは確かに自分だが、そこには子供をあやす様な意味合いと思いを込めていた。
 けれど。
「……本当に、レディーですね」
 アーノルドは小声で呟いて苦笑する。
「アルさま?」
 どうかされましたか? と小首を傾げる少女に、アーノルドは優しく微笑みかける。
「何でもありません、マリー。ええ、いい匂いです。とても合っていますよ」
 二人の間を二人の香りが満たしていく。
 今はまだ守るべき子供で、自分の後ろに隠れているばかりの少女だけれど、いつの日か、砂糖菓子のような少女は、誰をも魅了する花となるのかもしれない。
 その時、隣にいるのは。


■甘露と朝霧薔薇と夜露薔薇
「終わったのか」
 店の外で待っていた天藍は、壁に寄りかかっていた身体を起こしてかのんに近づく。
「はい、お待たせしました」
「もう食べてるのか?」
「まだです。ちょっと待って下さいね」
 いかにも興味がなさそうに早く終わらせようとする天藍に、かのんは興を削がれたような気分になりながらも貰ったばかりのキャンディを取り出す。
「こんな小さな飴が香水、ねぇ」
「薔薇の香りがするんですよ、途中で香りが変化して……」
「悪いが本当に興味がないんだよ……」
 天藍にとってかのんは、好みが服を着て歩いている、という状態に近い。
 だからウィンクルムのパートナー以外でもお近づきになりたいのだが、いかんせん、趣味嗜好まで捻じ曲げられない。
 天藍は困った顔でがりがりと頭をかく。
 ともすれば少年のようなその態度に、かのんは苦笑してキャンディを口にした。
「ん、美味しい」
 キャンディはほのかに甘いミント水のようだった。
 店主が考えた香りの変化は、まず甘さのある水の香りの甘露、次に瑞々しい薔薇の香りの朝霧薔薇、そして最後は薔薇の香りに夜の妖しさを一滴垂らした夜露薔薇。
 その配合だから最初は薔薇の香りは弱い、というよりほとんどしない。
 しかし、その事実を天藍は知る由もない。
 だから、かのんが『薔薇の香りがするんですよ』と言ったのに、少しも薔薇の香りがしない事に首を捻った。
 確かにキャンディを取り出した時には甘い香りが微かにした。しかし、今は隣にいても薔薇の香りなど無い。
 かのんは笑顔でキャンディを楽しんでいるのだから、きっと本人には香るのだろう。
 そこでふと、恋人や夫婦で楽しめる香り、という説明を思い出す。
(普通の香水よりも範囲が狭いのか?)
 となれば、もっと近づかなければ。
 そう、モニターなのだから、ちゃんと体験しなければ。
「あ、溶けた。天藍、今から薔薇の……」
 笑顔で報告しようとしたかのんの声が止まる。
 ゆっくりと、天藍が身を屈めてかのんの肩口に顔を寄せる。
 その思わぬ行動に、かのんは目を見開いて硬直した。
 ほぼ同時に、柔らかな薔薇の香りが広がり始める。
 ようやく届いたその香りを、天藍はそのままの姿勢で楽しんだ。
「……成る程、悪くないな」
 動けないかのんの耳元で、天藍は笑いを含ませた低い声で囁いた。
「―――ッ」
 かのんがびくりと肩を震わせると、天藍はもう一度ふっと笑い身体を起こした。
「どうした? かのん」
 にやりと笑いながら問う天藍に、かのんは顔を真っ赤にさせて睨むだけだった。
 両親を早くに亡くした。そんな過去があるから、大切な人を失う事態を二度と招きたくないと思っている。
 だからこそかのんは、長く付き合うであろう天藍に対して、あくまでも神人のパートナーという位置に留め、それ以上の対象と意識しないようにしていた。
 それなのに、気持ちが揺れ始めた。
「……馬鹿……!」
 かのんの中で、ゆっくりと花が開こうとしている。


■アロマキャンディ、ご報告お待ちしております。
 香り紡ぎの女店主はそっと微笑む。
「いつ言いましょうか……」
 実はアロマキャンディの効果が一日から三日とばらつきがあるのは、個人の体質が理由ではない。
 パートナーと一緒にいる時間の長さで、効果の長さも変わるのだ。
 一緒にいればいるほど香りを相手に移し、移し返され、また移し、と繰り返して香りを長持ちさせるのだ。
「皆さんはどれ位香りを身に纏ったのかしら」
 店主が楽しげに呟いた時、店のドアベルが軽快にカランと鳴る。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。アロマキャンディ、いかがでしたか?」



依頼結果:成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

名前:マリアベル=マゼンダ
呼び名:マリー、マリアベル
  名前:アーノルド=シュバルツ
呼び名:アルさま

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 04月09日
出発日 04月16日 00:00
予定納品日 04月26日

参加者

会議室

  • [5]クロス

    2014/04/13-11:52 

    こんにちは。
    アリシエンテさん、かのんさん、マリアベルさん改めて宜しく!

    どんなのにしようか迷うが、リラックス効果ある奴にしようかと考えてんだ。
    ホント楽しみだ!

  • [4]アリシエンテ

    2014/04/12-23:02 

    うんっ、出遅れたわねっ。(一人納得)
    皆さん、初めまして。
    アリシエンテと言うわ。どうか宜しくお願いするわね。

    他の皆はどの様なアロマキャンディを選ぶのかしらっ。今から楽しみだわっ。

  • [3]かのん

    2014/04/12-21:16 

    こんばんは、かのんと申します。
    マリアベルさん、シリア湖の依頼の際はお世話になりました。
    クロスさん、アリシエンテさん、はじめまして。よろしくお願いします。

  • [2]クロス

    2014/04/12-13:04 

    こんにちは
    俺はクロス、こっちはパートナーのオルクスだ。
    宜しくな(微笑)


  • こ、こんばんは……。とりあえず、みなさまにごあいさつだけでも……。

    マリアベル=マゼンダともうします。よろしくおねがいします……っ!


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