プロローグ
あなたは何気なくそのポスターに目を留めた。
タブロス市内の和菓子店で、季節の企画が催されているようだ。
店のポスターに書かれた文字は「二人で作るウサギ大福」。
イベントの流れはこうだ。
まずお客が二人一組になり、こね手とつき手に役割分担し、協力して餅をつく。使う道具はオーソドックスな木製の臼と杵。こね手は素手の他に、任意で木べらを使える。
そうして二人がついた餅の生地を使い、店の和菓子職人がウサギの形を模した可愛らしい大福を作る。
イベントの期間中は、和菓子屋の一部を薄暗くして夜のような演出にしてある。
満月を思わせる丸行灯のほのかな明かり。
ススキをさした壺や、秋の花々をいけた竹筒。
和の風情がある空間で、緋毛氈が敷かれた腰掛けに座り、精霊と一緒にゆったりと大福とお茶を味合う……。
そんな落ち着いた時間がすごせそうだ。
大福の中身は次の六種類から選べる。
こし餡。
粒餡。
白餡。
栗餡。
生クリーム。
チョコクリーム。
定番のものから、洋風にアレンジしたものまで多種多様。
追加で10jrが必要になるが、イチゴや栗の甘煮を入れることもできる。
ウサギ大福には簡単な顔が描かれている。
さらにこだわりがあれば、追加サービスで食用の色素で指定の表情や模様を描いてもらうよう職人に注文することも可能だ。
解説
・必須費用
大福作り参加費:1組300jr
・プラン次第のオプション費用
イチゴ追加:1つ10jr
栗の甘煮追加:1つ10jr
図柄指定:1つ30jr
・ウサギ大福作りについて
神人と精霊で息を合わせ、美味しくなるように餅の生地をつきましょう。
二人がついた生地から、お店の和菓子職人がウサギ大福を作り、お出しします。
・お店の空間
和風の月夜を思わせる演出がされています。
薄暗いですが、特に他人の視線を遮ってくれるようなものはありません。
ゲームマスターより
山内ヤトです!
月! ウサギ! 餅つき!
ウサギ大福はそのままでも可愛いウサギの顔が描かれていますが、追加サービスで神人や精霊に似せたウサギにしたりとお楽しみいただけます。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【中身:栗餡】 テレビでこういうの見たことあります 本当に息が合っている方は凄く早くつくことができるらしいですね。 私達も是非そのスピードに挑戦してみましょう 私はこね手に回りますのでディエゴさんは杵をお願いしますね 彼は心配しているようですが大丈夫 手を怪我してしまうかもなんて不安はありません だって息が合わないなんて考えたことなかったもの。 でもディエゴさんの不安を取り除かないことには 安定してつけないでしょうし そうですねぇ、短く言葉で合図を送りあうのはどうでしょうか。 美味しくなると良いですね それに心配してくれて嬉しかったです 【図柄指定】 1個だけ兎の目を青色と黄色にしてもらう それをディエゴさんにプレゼント |
アマリリス(ヴェルナー)
これがどんな出来になるか楽しみですね うまく形にできるよう頑張りましょう ではわたくしはこね手をやってみます 木べらをお借りしますわ わたくしの手をつくことのないよう、くれぐれも気をつけてくださいませ 昔なら杵なんてとても持てないとか弱い演出でもしたかもしれないけど… 今ならわかるわ あの人はきっと、軽々と杵を持って任せなさいと胸を張るほうが さすがです、と目を輝かせる事を どんどん理想が崩れていくけと… 何でか嫌いにはならないのよね あまり食べた事ないので白餡選択 あれがこんなに可愛らしくなるなんてね 食べてしまうのが勿体ないと思いつつぱくりと あら、食べないの? いい年して、と思いつつも少し可愛いかもしれないと思う |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
こし餡 苺×2 栗の甘煮×2 図柄指定×2(歌菜と羽純の顔) 私がこね手を素手で 羽純くんと息を合わせ、掛け声「はい!」 一回つく度に一回返す ぬるま湯で手を湿しながら、お餅を折り畳むように中心に集めよう 美味しくなれと願いを込めて! 図柄は二人で生地を作ったから、二人の顔にしたいなって お店の中、凄く良い雰囲気 ここはお淑やかに、大人っぽくしなきゃ…と思ってたけど、出て来た大福に思わずはしゃいでしまいます 凄く可愛い! あらゆる角度から観察 食べる前に写真撮ってもいい? 記念に撮っておきたくて 羽純くんの顔の大福、食べるのが勿体ないな… それに何だか少しイケナイ気分… 羽純くんも同じ事を考えてくれてるのが嬉しくて 美味しく頂こう |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
柔らかいお餅がつければ美味しい大福になると思います。 …多分?(首かしげ) 杵と臼でお餅をつくのは初めてです。 お餅を返すのは結構重いですね。そして熱いです。 木べらも試してみますけど…やっぱり素手の方が良い感じ。 お餅がむにむにっとして、柔らかい猫を触っているみたいです。 イチゴがあるのてすね。 白餡と組み合せて、イチゴ入りウサギ大福がいいです。 眼の色も赤色にして白うさちゃんにしてくださいとお願い。 ウサギを作ってもらったら、じっくりと眺めて。 せっかくだから写真撮っておきましょう。 こんな可愛いウサギさん、食べると無くなっちゃうのもったいないです。姿を残しておきたい。 ミュラーさんのウサギと一緒に撮りますね。 |
紫月 彩夢(神崎 深珠)
ねぇ深珠さん。あたし、おもち搗いてみたい これでも結構力あるよ。いけるいける あ、でも、手、気を付けてね 流石に責任までは取れないから! ぺったーん うん、楽しかった。大福の味はこし餡に苺追加でいい? 今回はやらせて貰ったけど、またこういう機会あったら、深珠さんが搗いてるのも見てみたいな ほら、ウィンクルムとしての仕事も、一応あたしの方が慣れてるから、 基本的に一緒に前に出るじゃない? だから、まだ深珠さんの格好良い所って、喫茶店の店員やってる姿しか知らないし …?格好いいと思ってるわよ?流石の精霊よね そんなに意外だったかしら …咲姫はあれ、格好いいじゃなくて綺麗だから まだまだあたしにとっては、目標よ …そ。ありがと |
●今度は本物の月で
「柔らかいお餅がつければ美味しい大福になると思います」
と言い切った後で、『瀬谷 瑞希』は少し首を傾げ。
「……多分?」
と小声でつけたした。彼女の謙虚さと、自分はあまり料理上手ではないという認識の表れだろうか。
「杵と臼でお餅をつくのは初めてです」
「ミズキ。俺もお餅をつくのは初めてだよ」
瑞希をフォローするように、『フェルン・ミュラー』がそう声をかけた。
単純な理屈で考えれば、初心者同士ならいっそう苦労するはずだ。しかしフェルンの言葉は冷淡な論理ではなく、温かな感情と優しい共感に基づくものだった。
餅を返すのは瑞希の担当。餅をつくのはフェルンの役目だ。
「お餅を返すのは結構重いですね。そして熱いです」
木べらを持って、ちょっと使い心地を試してみるが、どうも瑞希には合わないようだ。
「……やっぱり素手の方が良い感じ。お餅がむにむにっとして、柔らかい猫を触っているみたいです」
「でもミズキ、お餅が熱いから気を付けて?」
二人は餅つきを再開する。
フェルンは、美味しくなーれ、と思いをこめながらぺったんと餅をつく。繊細でキレイな瑞希の手の動きには、よく注意して。うっかり叩いてしまったら大変だ。瑞希の安全を第一に、ゆっくりと杵をおろす。
初心者同士の二人だったが、瑞希の工夫とフェルンの配慮で、ハプニングなく無事に餅生地が完成した。店の和菓子職人に好みのウサギ大福を作ってもらえる。
「ミズキがケーキ好きだから洋風もいいかな。白い体に中身がチョコ、も可愛いよね」
フェルンの言葉に相槌をうちつつ、瑞希はあるものを発見した。
「イチゴがあるのですね」
どんな大福にするのか、決まったようだ。
「白餡と組み合せて、イチゴ入りウサギ大福がいいです。眼の色も赤色にして白うさちゃんにしてください」
フェルンも和菓子職人にリクエストをする。
「それと栗餡タイプも二つ作ってもらって、ミズキと一羽ずつにして」
和菓子店の一部は、月見をイメージした薄暗い内装になっていた。そこでしばらく待っていると、瑞希とフェルンがついた餅生地から作られたウサギ大福が運ばれてきた。
瑞希はじっくりと赤い眼の白ウサギと、栗餡がほんのり透けてごく淡く黄味がかったウサギを見比べる。
「せっかくだから写真撮っておきましょう。こんな可愛いウサギさん、食べると無くなっちゃうのもったいないです。姿を残しておきたい」
フェルンはさり気なく和菓子店の人に声をかけ、店内で撮影しても良いか確認する。瑞希よりもフェルンの方が、こういう時に段取り良く動くことが得意だった。
「写真を撮ったら、お茶と一緒に美味しくいただこう」
「ミュラーさんのウサギと一緒に撮りますね」
「ミズキの白ウサギは可愛いね。瞳の色が違うだけで可愛さ倍増だよ」
ほのぼのとした雰囲気でウサギ大福の記念撮影。
「ゆっくりと月見の気分に浸れるのは良いね」
お茶を飲んで一息ついた後、フェルンがつぶやく。
「今度また夜に、本物の月でもお月見を一緒にしよう」
現在、本物の月には異常事態が起きていて月食に似た状態に陥っている。今、瑞希とフェルンの姿を照らしているのは月ではなく丸い行灯だ。
今度は本物の月で。フェルンからの誘いに、瑞希はコクリと頷いた。
「うさぎ達が美味しくて良かったね、ミズキ」
白餡にイチゴ入りのウサギ大福と栗餡のウサギ大福は、どちらも美味しくて優しい味がした。
「君の笑顔で判るよ」
そんなに笑みがこぼれていたのかと、瑞希はちょっと驚いたようにそっと自分の口元に手を当てた。
その仕草を見て、フェルンは穏やかに微笑んだ。
●小粋なプレゼント
「テレビでこういうの見たことあります。本当に息が合っている方は凄く早くつくことができるらしいですね」
『ハロルド』はそんな感想を述べてから、『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』に意味ありげな視線を向ける。その眼差しは雄弁に彼女の願望を物語っている。
「私達も是非そのスピードに挑戦してみましょう」
「素人で素早く餅をつくことは可能なのか?」
思慮深いディエゴは少し考えこんだ。
「まあ、やってみようって言うことなら別に断りはしないが」
スピード重視ということなので、こね手は自分が引き受けるつもりでディエゴは同意したのだが……。
「私はこね手に回りますのでディエゴさんは杵をお願いしますね」
ハロルドがこね手をやりたいと宣言。
「もし俺がタイミングを間違ってしまったら大変なんだぞ」
心配心から、ディエゴはハロルドを説得しようとする。
だが、ハロルドは右から左へ言葉を流す。パートナーの気遣いを軽視しているわけではなく、自分たちならきっと大丈夫だという確固たる自信があるからだ。
ディエゴの目を見据えて言う。
「大丈夫。手を怪我してしまうかもなんて不安はありません。だって息が合わないなんて考えたことなかったもの」
その言葉はディエゴの心に優しく響く。
「息が合わないなんて考えたこともなかった、か」
二人の間には、とても深い信頼関係が築かれていた。
「でもディエゴさんの不安を取り除かないことには安定してつけないでしょうし。そうですねぇ、短く言葉で合図を送りあうのはどうでしょうか」
絆の強さだけに頼りきらず、具体的で現実的な方法もちゃんと提案するハロルド。ハロルドは一方的に自分の要求や願望を精霊につきつけるのではなく、しっかりディエゴの心情や立場を考えている。
そんな彼女の姿勢が、ディエゴを安心させることに繋がった。
「……仕方ない、気を付けて、合図の掛け声をよく聞いてつこう」
そう言ってディエゴも納得する。
はじめてディエゴがハロルドと会った時、彼女はとてもひどい状態で……そう、廃人も同然だった。あの時点から比べて、ハロルドがここまで心の成長を遂げたのだと思うと、なんだか感慨深い気持ちになるディエゴだった。
「美味しくなると良いですね」
餅つきの道具を借りて、準備を整えるハロルドの表情は穏やかだ。
「それに心配してくれて嬉しかったです」
ハロルドとディエゴの視線が合い、どちらからともなく微笑む。
そして二人は、掛け声を出し真剣な態度で餅つきに挑んだ。
出来上がった餅生地は、和菓子職人が賞賛するほど素晴らしいものになった。ハロルドもディエゴも活発性が高く、息を合わせるための工夫もこらしたためだろう。
「中身は栗餡で。それから……」
ディエゴに聞かれないよう、こっそりと和菓子職人に注文を入れる。
「一個だけ、ウサギの目を青色と黄色にしてくれませんか?」
職人はハロルドの青と金色の目を見て、合点がいったというように黙って頷いた。
月見をイメージした店内で待っていると、複数のウサギ大福が皿に乗せられやってきた。
「ディエゴさん。プレゼントです」
「食べろって……」
差し出されたウサギ大福の目が他のものと違うことに、ディエゴはすぐに気づいた。嬉しいと同時に、食べてしまうのがもったいない気がしてくる。
しかし、ハロルドは期待の眼差しをディエゴに向けている。
「わかった、食べるよ」
青と黄色の目をしたウサギ大福の顔を大切そうに眺めた後、ディエゴは丁寧にそれを口に運んだ。
●可愛いのは騎士かウサギか
臼の中に入れられた真っ白な餅を『アマリリス』は興味深そうに眺めている。
「これがどんな出来になるか楽しみですね。うまく形にできるよう頑張りましょう」
「頑張ります」
と、やる気に満ちた様子で返事をしたのは『ヴェルナー』だ。
「これで餅をつくんですね」
真面目な顔で、しげしげと杵や臼を観察する。
「わたくしはこね手をやってみます」
アマリリスは上品な所作で木べらを手にする。
「では私はつき手ですね」
杵をしっかりと持ち、ヴェルナーはアマリリスを見て微笑んだ。
アマリリスは彼に優美な笑顔を返しつつ……。
「わたくしの手をつくことのないよう、くれぐれも気をつけてくださいませ」
「はっ、はい!」
しっかりとヴェルナーにプレッシャーをかけていく。
間違ってアマリリスの手を付いてしまったら、と若干不安に襲われるヴェルナーだが、すぐにその恐れを振り払った。アマリリスなら、きっとすんでのところで華麗に回避できるはず、という謎の期待があったからだ。ヴェルナーは心置きなく餅つきに集中することにした。
そんな期待を密かに寄せられているアマリリスはといえば、心の中で軽くため息をついている。昔なら、杵なんてとても持てないとか弱い演出でもしていたかもしれない。だが、今ならよくわかる、ヴェルナーのことが。
彼はきっと、軽々と杵を持って任せなさいと胸を張る方が、さすがです、とその目を輝かせる。
なんだかそれは、アマリリスが思い描いていた理想とは違う関係で。
ヴェルナーと様々な行動を共にしていく内に、どんどんと理想が崩れていくけれど。
そんな彼のことをなんでか嫌いになれずにいる自分に、アマリリスは気づいていた。
それぞれ必要な道具を手にし、二人は臼のそばに陣取る。
最初は、お互いにタイミングをはかりつつ餅をついていく。特に具体的に示し合わせたりといったことはしなくても、次第に呼吸がぴったり合っていく。
これまで親密な関係を築いてきた二人だからこそ可能な、スムーズな流れだ。
自然な空気感の中で息が合ったことで、ヴェルナーは確信に似たある思いを感じる。やはりこの方こそが、理想の相方であると。
阿吽の呼吸で仕上げた餅を見て、ヴェルナーは満足そうに頷いた。
「中身が選べましたね。何にします?」
「そうですね……。あまり食べたことがないので、わたくしは白餡にしようかと」
こし餡派のヴェルナーは、もちろんこし餡を選んだ。
月夜を思わせる内装で飾られた店内で、ゆったりと待つ。
店の人が白餡とこし餡のウサギ大福を持ってきた。
「あれがこんなに可愛らしくなるなんてね」
ひょいとウサギ大福をつまみ上げ、食べるのがもったいないと思いつつ、アマリリスはぱくりと食べた。
「……」
その横で、ヴェルナーは何やら葛藤するような難しい表情を浮かべていた。
気になったアマリリスが声をかける。
「あら、食べないの?」
「……顔があるので、ウサギと目が合ってしまうと食べにくいです」
その返答に、アマリリスは少しだけ呆れたような顔をする。
「ヴェルナー……」
「いえ、生き物ではないのはわかっているのですが……」
弁解したり躊躇したりした後、ヴェルナーはウサギ大福の目としばし見つめ合い、やがて覚悟を決めて、目をつぶって食べた。
そんなヴェルナーの様子を見て、まったくいい年して……、と思う反面、……少し可愛いかもしれない、という複雑な感想を抱くアマリリスだった。
●今はまだ知らない部分が多いけれど
餅つきの道具を眺めていた『紫月 彩夢』は、杵の方へと手を伸ばしながら『神崎 深珠』に話しかける。
「ねぇ深珠さん。あたし、おもち搗いてみたい」
「……搗くのは構わないが」
そこまで言いかけて、深珠は少し驚いたように顔を上げた。
「……いや、大丈夫か?」
彩夢が希望したのはつき手役。重い杵を持ち上げる必要がある。
「これでも結構力あるよ。いけるいける」
深珠の心配を明るい言葉でサラリと流す。杵の柄に手をかける彩夢。それなりに重みがあるが、持てないほどではない。腕にグッと力をこめて、しっかりと杵を構える。その姿はなかなか様になっていた。
「あ、でも、手、気を付けてね。流石に責任までは取れないから!」
「俺の手は気にしなくてもいい」
危なっかしい彩夢の発言にも、深珠は涼しい顔をしている。
「こう見えてテンペストダンサーだ。避けるのには、自信があるぞ」
深珠の受け答えで、彩夢は安心して餅つきに専念することができた。
ぺったーん、と小気味良い音を立てて、二人は餅をついていく。
「楽しかったか」
「うん、楽しかった」
率直な返事に、深珠は軽く口角を上げた。喫茶店で働いている時に見せるような営業スマイルではなくて、自然にこぼれた笑みだった。
「それなら何よりだ」
「ねえ、深珠さん。大福の味はこし餡に苺追加でいい?」
彩夢からの質問に、深珠はごくあっさりとした調子で答える。
「味は何でもいい。どれも美味しそうだから彩夢に任せる」
「ふーん。じゃあそうさせてもらう」
出来上がった生地は和菓子職人に引き渡し、ウサギ大福を作ってもらう。中身は彩夢の好みで、こし餡に苺入だ。
完成を待つ間、緋毛氈の腰掛けに彩夢が座り、やや間隔をおいて隣に深珠が座る。離れすぎずくっつきすぎずの絶妙な距離感で。
彩夢は出来上がったウサギ大福を眺めながら、隣の深珠に話しかけた。
「今回はやらせて貰ったけど、またこういう機会あったら、深珠さんが搗いてるのも見てみたいな。ほら、ウィンクルムとしての仕事も、一応あたしの方が慣れてるから、基本的に一緒に前に出るじゃない?」
餅つきからウィンクルムの仕事へと話題が移った。深珠は食べていたウサギ大福を腹に収め、お茶で口の中を整えた後で静かに話した。
「……ウィンクルムとしての経験の差は、まだ埋めようもないな」
先に契約をしていた精霊と後から契約した精霊の間に、経験の差が生じるのは当然だった。
「だから、まだ深珠さんの格好良い所って、喫茶店の店員やってる姿しか知らないし」
彩夢が発したその言葉は、深珠にとって意外なものだったようだ。
「だがまぁ……彩夢、俺の事を格好いいと思っていたのか」
「……? 格好いいと思ってるわよ? 流石の精霊よね」
基本的に精霊は通常の人間よりも外見が整っている。ファータである深珠も、クールな空気を漂わせた秀麗な顔立ちをしている。
「そんなに意外だったかしら」
「意外というか……彩夢にとってのそれは、紫月さんだとばかり」
それはこの場にいない精霊の話。
「……咲姫はあれ、格好いいじゃなくて綺麗だから。まだまだあたしにとっては、目標よ」
「目標、か。……確かに紫月さんは綺麗な人だが、その人にはその人の良さが……なんて言うとありきたりか。まぁ、要するに好みの問題だな。俺は、容姿だけで言うなら紫月さんよりは彩夢の方が、好ましい」
「……そ。ありがと」
「……中身も好ましく思ってるぞ? まだお互い、知らない部分が多いだけで……」
これから起きる色んな出来事を通して、彩夢と深珠は理解を深めていくのだろう。
●胸の中のウサギ
『桜倉 歌菜』と『月成 羽純』はテキパキと役割分担を決めていく。
「俺はつき手」
「私がこね手を素手で」
大福の中身は好みで選べる。歌菜と羽純は話し合って、こし餡をベースに苺と栗の甘煮の両方を入れたウサギ大福を作ってもらうことにした。
「……両方食べたかったし、好きなものを好きなように入れられるって機会は貴重だからな」
という、甘党の羽純の意見を取り入れる形となった。
歌菜と羽純は掛け声でタイミングを合わせて餅をつく。
「行くぞ」
杵の重さを利用し、自然な動作で餅をつく羽純。
「はい!」
ぬるま湯で適度に手を湿らせて、歌菜は餅を返す。一回つくごとに、一回返すリズムで。
歌菜が折り畳むように餅を臼の中心に集めてくれたので、杵を扱う羽純も作業がしやすかった。
二人の気持ちは共通している。美味しくなるように、願いと祈りをこめて。
そうやって協力して作った餅の生地は、とても質の良い仕上がりになった。店の和菓子職人も、歌菜と羽純のコンビネーションに感心しているようだ。
「そうだ。中身だけじゃなくて図柄も指定できるんだったよね」
「図柄は歌菜に任せる。中身は俺の好きにさせて貰ったからな」
羽純の言葉に歌菜は嬉しそうに笑った後、和菓子職人にウサギの顔について頼み事をした。
「何を注文したんだ?」
「図柄は二人で生地を作ったから、二人の顔にしたいなって」
ほんの少し照れて、はにかみながら歌菜が答える。
ウサギ大福が出来上がるまで、店内で待機する。
「お店の中、凄く良い雰囲気」
月見の夜をイメージした内装を見渡して、小さな声で歌菜がつぶやく。
場の空気に影響され、ここはお淑やかに、大人っぽくしなきゃ……、と緊張する。
やけに静かにしている歌菜に、羽純はちゃんと気づいていた。いつもは明るく朗らかな歌菜が静かなのは妙な感じだが、多分、場の雰囲気に合わせようとか考えてるんだろう、というところまで羽純はお見通しだった。
ただし、歌菜のお淑やかモードはそう長続きしなかった。店の人が、ウサギ大福を持ってやってきたからだ。
「凄く可愛い!」
皿の上にちょこんと乗せられたウサギ大福を見て、思わずはしゃいでしまう歌菜。
彼女のそんな反応に、羽純もつい笑ってしまう。
「やはりいつも通りの歌菜が良い」
いつもの調子を取り戻した歌菜は、あらゆる角度からウサギ大福を観察している。普通のウサギ大福も可愛らしいが、このウサギ大福は歌菜と羽純に似せて顔を描いてもらった特別なものだ。
「食べる前に写真撮ってもいい? 記念に撮っておきたくて」
「ああ、写真撮っておくか」
気のきく羽純は、食べ物の写真を店内で撮影して良いか、店員に確認してくれた。問題ないとのことで、二人は携帯を取り出して和やかな空気の中、大切な思い出を残す。
「羽純くんの顔の大福、食べるのが勿体ないな……。それに何だか……」
少しイケナイ気分になってしまう歌菜。
「歌菜の顔の大福、食べるのが勿体ないな。けど、誰かに譲る気はない」
ぱく、とウサギ大福を口にする羽純。
「二人で作った大福、甘くて美味い」
「羽純くんたら」
食べるのが勿体ない。羽純も自分と同じ事を考えてくれていたのが、歌菜には嬉しい。
「私も美味しく頂こう。いただきます!」
もちもちのウサギ大福を食べる歌菜。贅沢に入れた苺と栗が、こし餡とよく調和している。
味の余韻に浸っていると、横からスッと羽純の手が伸びてきて……。
「頬に餡が付いてるぞ」
「!」
胸の中でウサギが飛び跳ねているのかと思うほど、歌菜の心臓がドキッと強く脈打った。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月21日 |
出発日 | 09月26日 00:00 |
予定納品日 | 10月06日 |
参加者
会議室
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2015/09/25-23:53
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2015/09/25-23:53
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2015/09/25-23:21
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2015/09/24-22:31
紫月彩夢と、深珠おにーさん。
甘い物は二人とも好きだし、おもちつきが出来るなんて凄く新鮮で楽しみ。
味、何にしようかしら。ゆっくり考えてみる。
どうぞ、よろしくね。 -
2015/09/24-22:23
-
2015/09/24-00:31
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
皆さま、よろしくお願いいたします。
かわいいウサギ大福さんを作れるように、頑張ります。 -
2015/09/24-00:28
-
2015/09/24-00:15