プロローグ
『あなた』達は、必死に逃げていた。
ここは、マシナリーファンタジア。
セレネイカ遺跡の施設及び巨人ナミーカの制御に関係する区画だ。
この区画には施設のリミッター解除の為、オーガが数多く徘徊している。
リミッター防衛するには、オーガの討伐は必要だろう。
しかし、どの程度の規模が投入されているのか、上位種であるギルティ、デミ・ギルティがどの程度関わっているか分からない。
A.R.O.A.本部は、『あなた』達に威力偵察を行う任務を下した。
威力偵察と言えど、油断は出来ない。
『あなた』達は慎重に慎重を重ね、区画内を進んでいた。
しかし───オーガが揃って、同じ方向へ進んでいることが判明し、リミッターに関連する動きかもしれないと目的を見極める為に少し先へ進んだのが拙かった。
オーガ達は自分達を誘い込む為に同じ方向へ進み、包囲していたのだ。
劣勢であると判断し、『あなた』達は分散して逃げ、今に至る。
オーガ達は、まるで狩りをするように追いかけてくる。
追い立てる者、伏兵として潜む者……その狩りに無駄はない。
いずれもDスケールのオーガのようだが、彼らの知性でこれらを考えることは出来ない。
つまり、このオーガを指揮する存在は確実にいる。
それを確かめる時間も余裕もない。
今は、一刻も早く離脱しなければならない。
幸い、インカムの連絡手段は生きている。
バラバラに逃げている仲間と連絡を取り合い、時として協力し合えば、包囲網を突破することが出来るだろう。
今は、無事に生き残ることを考えろ。
解説
●状況整理
・威力偵察の任務でマシナリーファンタジアを訪れていた。
・Dスケールオーガの動きが不審である為追った所、包囲網に入ってしまった。
・ウィンクルム単位で散り散りに逃亡している。
有事を考慮して全員に支給されたインカムの通信は生きている。
・ギルティまたはデミ・ギルティがオーガに指示をしていることが予想されるが、確認する時間・余裕はない。
●目的
・安全区域までの離脱
※敵を全て倒す必要はありませんが、離脱に必要な戦闘は発生する場合もあります。
●敵戦力
・ヤックドーラ、ヤックドロア・アスのいずれかが小隊長クラス(1体のみ)
・ヤックアドガ、ヤグナム、ヤグズナルが伏兵(複数)
・ヤグアート、ヤックハルスが追っ手(複数)
※小隊長クラスは伏兵サイドにおりますが、派手に立ち回らない限りは姿を見せません。
A.R.O.A.資料より
ヤックドーラ
比較的知能高め、回復手段あり。
ヤックドロア・アス
力場形成能力があり、防御力が高い。
ヤックアドガ
突進からの一撃必殺攻撃注意。
ヤグナム
カウンター攻撃・支援能力注意
ヤグズナル
射撃攻撃注意。
ヤグアート
機動力注意。
ヤックハルス
追跡能力注意。
●注意・補足事項
・トランスは任意のタイミングでOK(既にしていてもOK)
・基本個別戦闘ですが、連絡手段が生きている為、プラン内容によっては合流や協力し合うことも可能です。
・追っ手については、各ウィンクルムのレベルで判断されます。絶対に離脱出来ない戦力差もなければ、余裕で離脱出来る戦力差もありません。
・ただし、派手に活躍するウィンクルムがいた場合、他ウィンクルムを追っているオーガが応援戦力として投入される為、合流せずとも味方の離脱支援を行うことは可能です。
・一定区域まで逃げる・敵を一定数倒すと、指示があるのかオーガ達は撤退しますので、そこまでが勝負です。
・危険を伴う威力偵察任務であった為、A.R.O.A.より高めの報酬が支払われます。
ゲームマスターより
こんにちは、真名木風由です。
今回は、ちょっと緊迫した撤退戦の話です。
敵を倒すことが主題ではなく、安全区域まで逃げ切ることが重要です。
戦力のバランス調整を行いますので、絶対無理も凄く余裕もありません。包囲網として成立する程度なので、離脱が絶対不可能ということはありません。
レベルが高い人もまだ始めたばかりの人も追加精霊の人も問題なく参加可能ですし、作戦で全員の意思統一がすごく必要というものでもないので、難易度は難しいですが、身構えなくて大丈夫です。
無事に安全区域まで離脱出来ますよう。
それでは、お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
☆トランス ・作戦開始直前に済ませる。 ・【愛の女神のワンド「ジェンマ」】の力でエミリオの攻撃力を増強させる。 ☆仲間と合流 ・インカムで連絡を取り合いつつ、銃声を頼りにハル(ハロルド)やディエゴさん達と合流し、殿の役目を務めます。 ・私は前衛のエミリオとハル、後衛のディエゴさんの中間地点にいて、【古文書ウィクネス】を使って皆の戦いのサポートをします。 それ以外の時は回避や防御に徹します。 ・エミリオが傷を負い、MPが切れそうになった場合は【羅針盤「宿命の羅針盤」】や【ディスペンサ】を使い援護。 ・自分を含む仲間の誰かが致命傷を負ってしまった場合は【宝玉「伊焚荷ノ勾玉」】の力で防御の大失敗判定を無効化する。 |
かのん(天藍)
急襲に備えトランス済み 戦闘が生じそうな場合先にハイトランス 偵察任務開始時にN2―Mから聞き取り記録した区画内の間取りと偵察時の記憶を頼りに可能な限り最短距離で安全区画を目指す 伏兵・追っ手を回避し進行方向を変えた都度現在の場所と安全区画の位置を確認し進行方向を検討 伏兵がいない事を確認し追っ手と距離がある場合、相手も問題がなければインカムを通じ移動ルートと現在地、遭遇したオーガの種類や数等情報交換 移動は壁に背を向け死角への攻撃を防ぐ 足音等なるべく立てないように進む 天藍と違う方向の存在に気を配る 分岐、見通しの悪い場所はオーガ・ナノーカで進行方向及び周辺状況確認後に移動 護符にて飛び道具の不意打ちを防ぐ |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【役割】 殿として敵をひきつけ 他の組が安全圏到達するまで支援 【序盤】 注目を集める為に敢えて一歩包囲へと踏み込み戦う この時点では普通のトランス 攻撃もMPを極力使わず、防御や余力温存に専念 護符による防御展開と、鞭で敵をけん制し精霊に攻撃させる為の隙を作る アドガや小隊長クラスに撤退路を塞がれないよう、敵の動向に注意し不審な動きがあれば少し退く 【終盤】 他の組の撤退がわかり次第、撤退開始 体力が消耗していれば運命(宿命)の羅針盤で回復 ハイトランスに移行し、撤退路の敵を移動しながら攻撃(精霊が攻撃した敵に追撃) 【心情】 殿一気って知ってますか? 競馬用語で、自分の好きな勝ち方です 劣勢であるほど気張るべきですよ。 |
菫 離々(蓮)
安全区域への早期離脱を最優先に考えます 基本、元来た方角への進行です。 インカムで仲間と連絡を取り 現在位置、発見・遭遇した敵等を情報共有します トランスは逃亡当初はしていませんが 何者かの気配を察知次第行います ハチさんの背を追い、移動や戦闘中は彼のサポートに徹します 灯りが必要なら私が照らし、MP切れにはディスペンサを。 また、戦闘が起こった際、真っ先に周囲の地形を確認し 敵の攻撃が及ばぬ位置を確保します 戦闘はやむを得ない場合に限り。 ハチさんはシンクロサモナーなので連戦となると消費が心配です 彼の状態を見て、戦闘回避のためオ・トーリ・デコイを使用。 使った場合は仲間へ報告 離脱後、その場の安全確保を行い合流します |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
威力偵察なので最初からトランス状態で。 偵察は得た情報を持ち帰るのが任務です。 安全地域への離脱を優先に行きましょう。 来る時に地図を作りながら進んでいた場合その地図から敵に奇襲されにくいルートを選んで進みます。 ヤックハルスは嗅覚が鋭そう。出来れば浅く水の流れる場所を横断し匂いの追跡を振り切りたいです。 インカムで他の人達に自分達がどのルートを進むか知らせます。 ヤグアートの飛来も警戒します。 敵との遭遇時は避けられない戦闘のみ行い、なるべく交戦を避けて敵を振り切るようにします。 遭遇した敵の種類と数、場所をインカムで随時皆さんへ通知。 交戦時はミュラーさんの後ろでサポートします。 絶対に無事に戻りましょう。 |
●離脱支援開始
『こちらディエゴ、離脱支援を開始する』
ディエゴ・ルナ・クィンテロの声が、インカムに響く。
現在、同じように包囲網に在るウィンクルム達の通信状況は分からないが、引き返しさえしなければそれでいい。
ハロルドが護符「水龍宮」を展開し、ウィップ「ローズ・オブ・マッハ」を構える。
(包囲網を敷いてきているなら……)
ディエゴは、心の中で状況を考察する。
撤退する自分達を純粋に追撃してくる者、その自分達の行く手に潜む者……射線を考慮すれば彼らの同士討ちも狙えるとガン・アサルトも発動させ、自身の位置を決めた。
「ディエゴさん、仕上げはお任せします」
ハロルドが襲い掛かるヤグアートへ鞭を振るう。
突撃してきたヤグアートの顔面を強かに打ちつけ、その瞬間を狙ってディエゴがムーン・アンバー・ガーズの引き金を引いた。
動かなくなったヤグアートに念の為もう1発撃っている時には、ヤグズナルの射撃攻撃が開始され、ハロルドが護符を操作し、防御に入る。
いずれ撤退する必要があるのだ、防御を考慮し、余力を考えないといけない。今はトランス状態のみで戦わなければ。
(こちらの余力が残っていないと誤認が誘えればいいが)
ディエゴも出し惜しみを余力がないという誤認に置き換えられればと心の中で呟く。
離脱支援は、射撃攻撃が向いているとされている。
というのも、敵に距離を置いて攻撃を行うものだからだ。
近接攻撃系は敵に接近する必要があり、それ故に戦闘状況によっては自身が離脱出来なくなる危険性を伴う。
包囲網が優秀であり、後背の安全保障がない為、こうした話が適用されるかどうかはディエゴも断言出来ないが、鞭も銃も接近されると対応が厳しくなる武器である分敵との距離を常に頭に入れる必要があり、離脱支援には向いていると言えた。
「殿一気って知ってますか?」
ハロルドがふと、そう言った。
「競馬用語で、自分の好きな勝ち方です」
「好きな勝ち方を楽しめる状況かどうか……」
ディエゴはハロルドの言葉に応じつつ、彼女が隙を作ったヤックハルスを仕留めていく。
それには目もくれず、ハロルドが息を吸い込む仕草を見せたヤグナムへ鞭を振るった。
奇怪な雄叫びを上げようとしていたヤグナムは雄叫びではなく、悲鳴を上げる。
すかさずディエゴが追撃し、ヤグナムが沈黙した。
「劣勢である程気張るべきですよ」
「まあ、その意気って所だな」
ディエゴは軽く口の端を上げ、銃の引き金を引き続ける。
●合流開始
ディエゴの通信を聞いて撤退の足を止めたのは、ミサ・フルールとエミリオ・シュトルツだ。
「合流した方がいいね」
ハロルドもディエゴも経験豊富なウィンクルムだが、敵の数の暴力を振るわれると人数的な部分で厳しくなる場合もあるからだ。
「こちらエミリオ。そちらへ急行、離脱支援の援護をするよ。動ける状況じゃないと思うけど、動かないで」
エミリオが通信を入れている間、ミサは銃声の方角、それから自身が記憶している周辺区画を思い浮かべ、彼らの現在位置を推測しにかかっていた。
本来ならインカムで連絡を取り合うのが1番確実であるが、彼らは戦闘真っ只中、オーガ達へ完全に集中しなければならない。
状況によっては、自分達への返答の一瞬が致命的な隙になることもありえることより、ミサは負担を軽減することを選んだのだ。
「エミリオ、こっち!」
「振り切るよ!」
ミサが走り出したのと同時にエミリオも走り出す。
足を止めた2人が諦めたと思って間合いを詰めていたオーガ達が虚を衝かれたらしく、怒声を上げた。
聞いている暇はないと走り出し、エミリオは気づく。
「伏兵がいない……?」
今まで入口に向かって離脱しようとしていた時は、物陰という物陰、曲がり角、全て伏兵がおり、波状に攻撃しようとしてきた。
彼らの知能で行うことは難しく、デミ・ギルティ、ギルティのいずれかが関与しているのだろうと走りながら思っていた、が……。
「私達が逃げそうなルートが分かってるってことなのかな……?」
「かもしれないね。だから、合流する為に逆ルートを走る今、伏兵がいないのかもしれない」
ミサに応じながら、エミリオは双刀「ジューンクウォーツ」を握り締めた。
既にトランスしているのだから、すぐに戦闘へ加わることが出来る。
銃声が近づいてきている……。
「ここから直線距離の場所にいると思うよ!」
「後背にも回り込まれてるね」
ミサに応じながら、エミリオも戦況確認。
彼らと離脱支援を行えば、敵は自分達を潰す為に応援を呼ぶ、そうすれば皆へ向かう敵が減り、より離脱し易くなる。
「ハルの鞭が見えた!」
「ミサ、力場展開して。突っ切る!」
エミリオが彼らの後背へ陣取るオーガを斬り捨てながら先へ進む。
オーガの反撃はあったが、ミサは宝玉「魔守のオーブ」で展開した魔法力場に守られ、エミリオはユニゾンの反撃で返り討ちにして合流を果たす。
「状況は?」
「見ての通りです」
エミリオの言葉にハロルドが軽く肩を竦めた。
まだいつもの彼らを失っていないようだ。
「後ろ頼めるか? 撤退の際に障害となる」
「分かった。───行こう、ミサ」
「目は任せて」
ディエゴの言葉を受けたエミリオがミサを見ると、古文書ウィクネスを手にしたミサがまっすぐな瞳で前を見据えた。
殿の状況は整った。
あとは、全員離脱まで支援するだけ。
●包囲網の裏を
(包囲され追われるなんて、以前に見た夢を思い出して嫌な感じがするけど……)
フェルン・ミュラーはフィヨルネイジャで見た悪夢を頭に過ぎらせたが、すぐにこんな時だからこそ冷静である必要があると思考を切り替えた。
威力偵察であった為、瀬谷 瑞希とは既にトランス状態、交戦になったとしても問題はないだろうが、数の上での不利を考えれば、偵察任務で最も重要な情報を持ち帰るということを優先して包囲網を突破した方がいい。
「クィンテロさん達が離脱支援をしてくださるみたいですね。無事だといいのですが……」
「ミサとエミリオが合流に向かうみたいだけどね」
瑞希と共に走るフェルンがそう呟く。
威力偵察任務であり、区画情報も重要だった為、周辺区画を記憶していた瑞希が撤退ルートを選んでいる。
しかし、奇襲され難い筈のルートにも伏兵は存在しており、フェルンの目論見である物陰を使った移動は不可能だろうと早い段階で諦めた。
「追跡してくるオーガは2種程度だけど、伏兵は最低でも3種だよね……。連係も取れてるし、伏兵のタイミングにも無駄がない。彼らの知能じゃ無理だろうから、ギルティかデミ・ギルティは絡んでいるんだろうね」
まだ戦闘に発展していないが、振り切ることが出来るかの断言が難しい。
遭遇した敵の情報を随時連絡しているが、相手の通信状況まで把握し切れない為、聞こえ難く拾い切れないこともあるだろう。
「……ミュラーさん、ルートを変えます」
瑞希がその言葉と共に急に横の脇道に走り出した。
入口とは異なる方向、そちらに行っては最終的に入口に行けなくはないがかなり迂回路になる筈だ。
「どうしたの、ミズキ」
「デミ・ギルティにしろギルティにしろこの包囲網を敷いている指揮官は優秀です」
瑞希はミサとエミリオの会話も踏まえ、迷いなく走りながらそう言った。
『予想通り』、伏兵がいない。
「ならば、私達が逃走に適しているルートを読んで、そこに伏兵を配置していることもありえます。私達が逃走に向かないと判断したルートこそ、実は安全なルートです」
瑞希はインカムで自分の考えと逃走ルートについて他のウィンクルムへ話す。
これが確かならば、情報共有が何よりも必要である。
伏兵の心配がなくなったとは言え、追撃してくるオーガがいなくなる訳ではない。
「ヤグアートの機動力は、ヤックハルスの嗅覚で活きると思います」
滑空するタイミングを計る為に活用する筈。
なら、その嗅覚の活用を阻む必要がある。
「どうやって阻むの?」
「この先、工業用水が流れていると聞きました。流れはさほど速くなく、足首程度の深さらしいですから、そこを突っ切ります」
区画入口でN2-Mより聞いた情報を瑞希は、忘れていなかった。
水を利用して、自分達の匂いの痕跡を断つ。
まずは、嗅覚の追跡を妨害し、連係させない。
(流石ミズキ)
フェルンは瑞希の背後を守るように走りつつ、後ろを見る。
見ると、少しずつ追跡するオーガが減ってきていた。
(一部、応援に向かっているのかもしれないね)
2組の経験豊富なウィンクルムが離脱支援の為に積極的に打って出ているのだ。
こちらへの戦力を一部回している可能性はある。
彼らの為にも振り切らなければ。
工業用水を突っ切り、振り切るべくスピードを上げるにも彼らとの距離を見る必要がある為、フェルンがもう1度振り返ると、オーガ達はぴたっと足を止めていた。
「……? ミズキ、待って。彼らの様子がおかしい」
フェルンの言葉で瑞希も足を止めて振り返った。
オーガ達はどういう訳か背を向けて、来た道を引き返す。
工業用水を突っ切るのを躊躇ったという様子ではなく、これは───
「包囲網を抜けたという意味だと思います」
瑞希が、小さく呟いた。
「目的が達成された、或いは困難であれば、求めない。……本当に優秀な指揮官のようですね」
その存在を確かめるような余裕はなく、瑞希とフェルンはその後も用心しながら入口まで戻った。
●入念な包囲
蓮の背を追う形で菫 離々は包囲突破の為に走っていた。
基本、来た道を引き返しているが、オーガの追跡に無駄がない。
「最優先はお嬢の無事です」
蓮の声が聞こえる。
当初は威力偵察任務であったが、包囲網を突破するならその目標は変更するべき。
蓮は思考をそうシフトしたらしく、離々の手を引き、出来るだけ物音を立てないようにして走っている。
インカムよりディエゴからハロルドと共に撤退支援を行う旨、エミリオがミサと共に彼らと合流して対応する旨を聞いている……彼らの実力を考えれば、追っ手はじきに応援に向かわざるを得ず、結果として自分達への追撃が甘いものとなる。
「物理的な罠は今の所ないみたいですね……」
「油断は出来ません」
それ程、敵の追撃は理に適っている。
来た道を引き返しているのに、それを把握しているように見受けられる。
一本道で構成されている遺跡ではない、自分達が来た道に通じる道を通れば敵は先回りが可能だ。
幸いにもトランス継続時間を考慮してトランスしていなかった為、向こうは見つけ難い筈……ならば、追っ手を撒く為に物陰に身を隠し、物陰から物陰へ移動すれば安全に離脱出来るかもしれない。
蓮がそう思い、見つけた物陰へ向かおうとしたその時だ。
「ハチさん、下がってください」
異常を察知した離々が蓮を踏み留める。
ほんの僅か……石が転がる音が耳に届いたのだ。
伏兵の存在は既に知れている、状況を考えれば伏兵である可能性が高い。
懐中電灯「マグナライト」の灯りを向けると、物陰にはオーガが潜んでいた。
「手折る由を」
離々がインスパイアスペルを唱え、蓮に唇を寄せる。
同時に、蓮が離々の手を離し、日本刀「黒龍」を構えた。
(連戦になる訳にはいかないのですが……)
離々がインカムで状況を連絡し、蓮が立ち回りやすいよう立ち位置を変える。
敵に支援能力もあるヤグナム、一撃決まれば大きいヤックアドガ、その一撃が決めやすいよう援護するヤグズナルとバランス良く揃っており、蓮が自分に気を取られないよう注意する必要があった。
追跡していたヤグアート、ヤックハルスはどうやら撤退支援を行っている2組のウィンクルム達への応援戦力となったようだが、伏兵と戦闘することになったのに変わりはない。
「全部撒ければ良かったんですが、仕方ないですね」
単純に止むを得ない状況なら、攻撃重視のタイガークローⅡで押していくが、純粋に遭遇地点が悪い。
タイガークローⅡを連続で使用し、戦っても敵が全て倒れるのが先か自分が倒れるのが先か予測出来ない。
「ハチさん、耐えて貰っていいですか」
離々が声をかけた。
「応援が来ます。それまではどうか」
耐えれば、突破可能のチャンスが出来る。
●最短とは
かのんと天藍は、N2-Mから確認していた区画情報と実際に歩いた記憶を頼りに入口まで最短距離で迎えるよう走っていた。
「伏兵の配置が的確だな。物陰は逆に危険だ」
「私達を単純に追っている訳ではないようですね」
追っ手の距離を測る天藍の横でかのんもそれに気づいていた。
伏兵、追っ手を回避する為に進行方向を考慮しているが、その進行方向にも伏兵がいいタイミングで潜んでいる。
ハロルドとディエゴが撤退支援を開始し、ミサとエミリオが合流に動いたようなので、追っ手はじきに減ると思うが、伏兵はそのまま待機している可能性が高い。
全速力で走れる区画がなく、安全が確保されるまでは油断出来ないだろう。
その時だ。
同時に2つの通信が入った。
1つは離々より物陰にいた伏兵と戦闘が避けられなくなったというもの、もう1つは瑞希より撤退ルートが想定されており、そのルート全てに伏兵がいる可能性、安全に逃走するには自分達が向いていないと思うルートを選ぶ必要があるというものだ。
「……これは、計算外でしたね」
「最善を知っているなら、包囲網も敷きやすい、ということのようだな。……今は、離々と蓮の応援を優先すべきだろう」
「ええ」
天藍に頷いたかのんは、死角からの攻撃に気をつけつつ、場所の特徴を聞き出す。
幸い、自分達が今いる場所より離れておらず、すぐに向かうことを約束して通信を切った。
瑞希曰く優秀な指揮官なら、こちらの最善を知っている。
身を潜ませつつ、やり過ごせるような状況ではなく、アヒル特務隊「オーガ・ナノーカ」で安全確認を行っている余裕がない。追いつかれない為には走る必要があり、壁を背に様子を窺うことも出来ない。
走る以上、物音はある程度諦めねばならないが、それが逃亡不可能を意味する訳ではないのだ。
かのんも天藍もまずは合流を最優先と判断し、駆ける。
「灯りをつけているそうなので、それが目印になると思います」
「まだ囲まれていないみたいだが、数が多いなら急いだ方がいいな」
並走する形のかのんと天藍は到着まで短いやり取りで作戦を立てる。
戦闘が発生しているなら戦闘場所を選ぶことも出来ず、数も多いなら不利としか言いようがない。
が、それは敵を全滅させる目的があればの話だとも天藍は言う。
「横にも伏兵はいるな。……が、直進時程じゃない」
「それに、無理に追ってきませんね」
入口へ向かう最短ルートであればある程伏兵を効果的に配置していたということか。
指示を遵守しているのか、無理な追撃をしてこないのは助かるが、指揮官がそれだけ優秀な頭脳を持っていることも意味する。
指揮官を確かめるような時間も余裕もなく、今はただ、合流して共に離脱しなければ。
●強行離脱
奇怪な雄叫びの影響を受けながらも、蓮は離々に攻撃が至らないよう立ち回っていた。
ヤックアドガの突撃攻撃を食らえばひとたまりもない為警戒していたが、それ以上にヤグズナルのこちらの機動力を封じるような援護射撃が面倒である。
(間に合わなかったら、気を引くしかないようですね)
離々の手にはアヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」がある。
最悪は、これで気を引いて逃げるしかない。
が、その時だ、アヒル特務隊「オーガ・ナノーカ」の映像を見、離々はほっと息をついた。
「ハチさん、間に合いました」
離々が言った時には、彼女のアヒル特務隊「オーガ・ナノーカ」を回収したかのん、天藍が駆けてきた。
「防御はお任せください」
「ヤグズナル中心に対応した方がいいな。離脱の際足を狙われたくない」
「……助かりました」
距離があった為奇怪な雄叫びの影響をかのんも天藍も受けていなかったのも確認し、蓮は安堵の言葉を漏らす。
「お嬢、ヤックアドガの動きを注意して見ていて貰っていいですか?」
離脱する際特に厄介なヤグズナルへの対応を提唱した天藍と共にヤグズナル対応へ向かう分、自分が警戒していたヤックアドガへの注意が甘くなることを見越し、蓮はそう言った。
「分かりました」
防御はかのんが護符「水龍宮」で請け負うこともあり、離々も愛の女神のワンド「ジェンマ」を構えつつも自分の役目に徹することにした。
天藍もそうだが、蓮も愛の女神のワンド「ジェンマ」で攻撃力を増強して貰っている為、後れを取ることはないだろう。
「全滅させる必要はないが」
「ですね」
天藍が床を蹴ると、蓮も続いた。
天藍が流れる舞を思わせる優美な動きで攻撃を回避しながら間合いを詰めていくと、高度に洗練されたステップのような動きと共に繰り出される攻撃は鮮やか。他のヤグズナルが立て直すよりも早く急接近し、目を中心に斬撃を浴びせれば、蓮が息を吸い込もうとしたヤグナムを猛獣の大爪を思わせる刃へ変化した日本刀「黒龍」で斬り伏せる。
「攻撃は許しません」
かのんが防御に専念している為、攻撃の脅威はない。
「離脱するなら今です!」
敵が間合いを取ったことに気づいた離々がヤックアドガの突撃攻撃を予測して叫べば、全員、躊躇せずに走り出す。
ヤグズナルの射撃攻撃はあったが、追い掛けてこようとはせず、そのことを不審に思いながらも無事に入口まで離脱、先に離脱した瑞希とフェルンに出迎えられることとなった。
●包囲網突破
派手に立ち回ったからか、徐々に敵の数が増えてきた。
恐らく、その分他のウィンクルムへの追撃が甘くなっている筈。
「出ずにいられなかったのでしょうね」
ハロルドの視線の先には、ヤックドーラの姿が見える。
治癒手段を持っている為に厄介な相手だが、1体しかいない所を見ると、指揮官の意を汲んでいる小隊長クラスと見ていい。
「近寄ってくるまでは無理に相手取らない方が良さそうだけどね」
「同じことを考えてました」
エミリオはハロルドの武器のリーチに注意し、互いに枷にならないよう振舞っているが、ミサからのディスペンサも既に終わるレベルで戦っている。
敵の数がそれ程多いのだ。
「あのヤックアドガ、ハルの攻撃が当たった時に傷めてる箇所があるみたい」
「了解」
ミサが神の目線もあってか、ヤックアドガが鞭からその箇所を庇う動きを看破し、伝えると、ディエゴは容赦なくその箇所を狙って撃った。
突撃攻撃の態勢が一転して、崩れ落ちていく。
「離脱が完了すれば、俺達も離脱……全滅を考える必要はない」
「その時こそハイトランス・ジェミニの出番でしょうね」
敵を倒しながらの撤退になるだろうが、体力回復を行えば突破自体は行えるだろう。
劣勢ではないが、エミリオの消耗具合によっては離脱を待たずして撤退する必要はあるだろうが───
「誰か、奥にいるの?」
ミサが、思わずそう声を漏らした。
ヤックドーラが後方を見て、何かに応じたような仕草を見せたのだ。
「そこにいるのは誰?」
「ヒクゾ!」
しかし、返答はなく、ヤックドーラの指示で全てのオーガが攻撃を止め、自分達を見ることもなく撤退していく。
突然のことに理解出来ず、皆互いの顔を見合う。
「これ以上は続けても意味がないと思ったかもしれないね」
エミリオが見回す周囲には、オーガの死骸がある。
Dスケールオーガを戦わせ続けても意味を感じなければ、退くように指示を出すだろう。
それを見極めることが出来る頭脳を持っている存在がいる。
暗くて見えなかったが、ヤックドーラに指示を出した者がいたのだから。
「意味は分かりかねますが、皆と合流しましょう」
「無事に離脱完了したようだ。慎重を期する必要はあるが、速やかに離脱した方がいいな」
ハロルドとディエゴがそう見解を出し、ウィンクルム達は合流を目指す。
全体に指示があったのかどうかは知らないが、入口までオーガと遭遇することもなく、彼らは合流を果たした。
こちらの最善を知り、包囲網を仕掛けた優秀な指揮官がいる。
正体は掴めずともぞっとする思いで、ウィンクルム達はマシナリーファンタジアを後にした。
依頼結果:成功
MVP:
名前:ハロルド 呼び名:ハル、エクレール |
名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ 呼び名:ディエゴさん |
名前:瀬谷 瑞希 呼び名:ミズキ |
名前:フェルン・ミュラー 呼び名:フェルンさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 真名木風由 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 難しい |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 多い |
リリース日 | 09月22日 |
出発日 | 09月29日 00:00 |
予定納品日 | 10月09日 |
参加者
会議室
-
2015/09/28-21:17
まだ時間があるので、この後も状況確認はするようにするが、ひとまずプランは提出してきた
どの位のオーガがいるのかわからないが、皆、無事に安全区域まで離脱できると良いな -
2015/09/28-20:35
-
2015/09/28-19:37
-
2015/09/28-18:18
>ディエゴさん
了解です、プランにそのように書いておきますね。
私は皆さんのお邪魔にならないよう、前衛と後衛の中間地点にいて古文書を使いますね。 -
2015/09/28-17:15
>ミサ
プランの修正は完了した
撤退時だが、エミリオは前方の敵を攻撃してくれないか?
ハロルドも前方の攻撃に参加し、俺は後方のオーガを撃つ形にしたいんだが。 -
2015/09/28-08:06
>ディエゴさん
ありがとうございます。
ではディエゴさん達に合流する方向でプラン書いておきますね。 -
2015/09/28-06:24
>ミサ
わかった、手伝ってくれ
プランの修正はあとからやっておく -
2015/09/28-01:27
蓮:
うちも現状報告は随時入れます。
もたもたしてても足引っ張るだけなんで、とにかく安全区域目指しときますね。
ということで基本合流無し、離脱最優先、戦闘は最小限。
方針ですが、何かあればギリギリまで覗いてますんでご指示ください。
離脱支援してくださる場合は本当お世話になります。
よろしくお願いします。 -
2015/09/28-00:26
私達はそのまま安全区域への脱出をしたいと思います。
途中遭遇した敵とは戦闘が避けられない場合のみ戦闘し倒すつもりです。
インカムで自分達の脱出ルート(現在位置)や発見した敵情報を随時皆さんに報告します。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。 -
2015/09/27-23:32
今の状態だと、ディエゴの組にエミリオ達が合流して、殿が敵を引き寄せるってとこか?
過半数が残っていたら殿の意味がなくなりそうだから、俺達は当初の予定どおり安全区域までの退避を目指そうかと思う
退避中に出会う追っ手と伏兵のオーガの全てが倒せるとは思っていないんで、めぼしい所に牽制兼ねた攻撃しつつ移動する事になりそうな気はするが
インカムが生きてるんで、遭遇したオーガの数などを状況が許せば流すつもりだがどうだろうか?
あとはそうだな、先のミサのアイディア借りる形になるが、安全区域付近まできたらその場で待機して後続の追っ手への対応を考えていた方が良いか -
2015/09/27-22:55
>ディエゴさん
依頼書でいうところの『合流せずとも味方の離脱支援を行う』作戦ですね。
もしよければ私達の組も殿のお手伝いをしたいなと思うのですが、どうでしょうか?
大騒ぎするほど敵がわらわら寄ってくるなら前衛のエミリオの力がお役に立てないかな、と思って。
もしご一緒させていただけるならば、今回こちらはジェンマ+ディスペンサで連戦にも耐えられる装備でいこうかと。後は古文書ウィクネスの敵の弱点を見抜く力で戦うエミリオやディエゴさん達をサポートできたらな、と思います。 -
2015/09/27-22:43
明後日が出発なので仮のプランを提出しておいた
これからの話し合いで随時変えていくつもりだ -
2015/09/26-22:14
まず俺の組が殿の役割で良いと言う前提で話すぞ
離脱を最優先とするミュラーと蓮の組が早く安全圏へ到達することができる方法を考えよう
この2組が合流し安全圏へ行くか、それぞれが天籃、エミリオ組と合流し安全圏へ行くか…
後者は俺の組が少し、きついかもしれない。
他の組が安全圏に到達するまでは普通のトランスと攻撃で時間を稼ぐつもりだ
突破の時にハイトランスとMPを使用するつもりではある…が
離脱する途中にある程度は敵を倒してもらいたいと考えている。 -
2015/09/26-18:48
ああ、メンバーが増えていたんだな
改めてよろしく
それからこちらの問い掛けに回答をありがとう
全員が探索の途中でバラバラになってインカムが生きてる状態なんで、逃走中に連絡を取り、今まで進んできた途中の目印になりそうな所へ、ある程度同時に到着しそうなら、合流してそこで追っ手に対応する場合もあるんだろうかと思ったんで聞いておきたいと思った
皆、逃走優先って話なので、俺達もその方向で考えようかと思う
さて、どうするかな -
2015/09/26-12:38
蓮:
顔出し遅くなってすみません。
スミレ・リリ嬢と、俺はシンクロサモナーのハチスです。
よろしくお願いします。
合流した場合むしろ足手纏いになりそうなのはうちな予感がひしひし。
今のところ離脱を最優先、戦闘はやむを得ない場合に限定して考えてます。 -
2015/09/26-01:19
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはロイヤルナイトのミュラーさんです。
ベテランさん達の中で足手まといになりそうで不安ですが、
ご指導、よろしくお願いします。
私達は戦力的に余力に乏しいので、安全区域までの離脱を主にしたいです。
皆さんの負担にならないように頑張ります。 -
2015/09/26-00:15
よろしくたのむ
俺もミサと同意見で、撤退を主として動いたほうが良いと思う
(PCの視点からも、敵の規模は不明瞭なのでまず撤退を目指すのが自然かなって)
俺は発砲するなりなんなりして敵の注目をひきつけつつ、ほかの組の撤退支援をしようと考えている
持久戦であればある程度は持ちこたえられる、と思う。
それか、合流するにしても全員合流ではなく三組・二組で合流を目指すほうが時間もさほどかからず良いんじゃないかと。 -
2015/09/26-00:07
-
2015/09/25-22:53
こんばんはー!
よろしくお願いします(ぺこり)
後々脅威になるものはできるだけ数を減らしておきたいところですけど、依頼書には安全区域まで逃げ切ることが重要とあるので、今のままの人数なら、敵の全体数も不明なことですし、合流優先よりかは逃走優先がいいんじゃないかな、というのが個人的な意見です。
それか一番早く安全地区に辿り着いた組が苦戦している組にヘルプに入る、という案が思い浮かびました。 -
2015/09/25-07:28
ひさしぶり
神人かのんと精霊の天藍だ、よろしく頼む
さて、厄介な状況だよな
追っ手躱しつつ、伏兵の対応も考えないとか
……これから人員増える可能性がある中で悪いんだが、お互いの連絡手段が生きていて合流できる余地もあるみたいだが、その辺皆はどう考えている?
個別で対応って事なら、それなりに数がいる分各自一定区域まで逃げる手段が主になるだろうし、
合流優先するなら、一定数のオーガ倒して撤退させる事もできるのかと思った
これから話し合い進めるにしても、逃げるか倒すかで方向性が大分変わると思うので、この辺の皆の考えを聞きたいと思っている
俺達はというと、聞いておいて悪いんだがこうとは固まっていない
人数少ない内は逃走、これから人数が増えたら合流後の討伐も有りかなと思っている
まだ時間はあるし、今の所はどちらの場合になっても良いように、どう動くか考えようかと思っている所だ