ずっと貴方が好きでした(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 貴方がその手紙に気付いたのは、任務帰りにラーメンを啜っていた時でした。
 ぽつんと見覚えのない封筒が、貴方のパートナーの荷物に紛れていたのです。
「なぁ、あの封筒、さっきまでは無かったと思うんだけど」
 手紙を指差すと、パートナーが箸を置いて瞬きします。
「確かに見覚えないな……」
 二人顔を見合って、その手紙を手に取りました。
 宛先には貴方のパートナーの名前。差出人の名前は──知らない名前です。
「知ってる奴?」
「いや、知らない……」
 パートナーがゆっくりと手紙の封を切りました。
 そして、広げられた手紙に、貴方は息を飲みます。

『貴方が好きです。
 本日、16時──グルーンヒル公園の東屋で待っています。
 そこでお返事を下さい。』

 簡潔だけれども、一文字ずつ丁寧に書かれた分かる文字。
「なんだ、これ……」
 驚いた様子でパートナーが呟きます。
「……なんだって……ラブレター、だろ?」
 自分でそう言いながら、貴方の胸はドキリと大きく跳ねました。
 そうだ。これは何処からどう見ても、パートナーに宛てられたラブレター。
「どうするんだよ?」
 無意識に不機嫌を滲ませ出た声に、パートナーが店の時計へと視線を向けました。
 時計の針が差す時刻は、14時半。

 どうする?

 パートナーの手の中で、手紙がくしゃりと音を立てました。

解説

突然のラブレターにどう対処頂くか、というエピソードになります。

プランには以下を明記して下さい。

・ラブレターを貰ったのは、神人か精霊か。

・ラブレターを貰った後、手紙の指定場所へ行くか、行かないか。

・指定場所へ行った場合、どうやって告白を断るか。
 その時、パートナーはどうするか。(パートナーと告白相手のやり取りを妨害する行動もOKです)

・指定場所へ行かない場合、パートナーとどのように過ごすか。

また、指定場所へ行く場合は、どのような人物に告白を受けるか、こだわりのある方はプランに明記をお願いします。
※ウィッシュプランへの記載でも構いません。
※記載がない場合は、雪花菜のアドリブが炸裂します。
※文字数の都合上、描写は薄めになりますこと、あらかじめご了承ください。

こだわりはないけれど、大まかに指定したいという場合は、以下テンプレをご活用下さい。
(テンプレにない項目も、自由に足して頂いて問題ありません)

1.性別 男性/女性/性別不詳
2.年齢 同年/年上/年下/年齢不詳
3.貴方への執着度 ライト/普通/ヘビー

<場所情報>
グルーンヒル公園
タブロス市にある小さな公園です。
この土地を所有していたグリーンヒル男爵の趣味がサボテンで、彼が集めたサボテンコレクションが公園全体を覆っています。
ちょっとした迷路になっており、男爵が使っていた東屋やベンチなどがそのまま残っています。入場は無料です。
公園の南半分は巨大な温室となっており、温室に入るのは、別途『40Jr』のチケットを購入する必要があります。

手紙の差出人は、公園の北半分にある東屋の一つで待っています。

なお、グルーンヒル公園への移動代などで、一律「300Jr」消費しますので、あらかじめご了承下さい。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『ラブレターと日記、どちらが黒歴史かは迷う』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。
ラブレターは書いた事なく、日記は三日坊主の私に隙は無かったのですがね!(ドヤァ)

そんな事を思って…ではないのですが、突然ラブレターが来たらどうする?なエピソードです。
男女共に見たいので、両方で出してみました。
皆様がどのように行動されるのか、ドキドキです!

皆様のご参加と、素敵なアクションをお待ちしております♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  あら、まあ…何時の間に手紙入れたのかしら
悪戯じゃなくて?(まさか自分にと驚き)
知らん振りするのも悪いし断る為に行ってみるわ
イルドは…どうするの?
分かったわ。おっさんなら心配いらないわよ?
(心配され嬉しい)

(公園に行き)この手紙、貴方が…?
こんなおっさんに好意を持ってくれたのにごめんね
もうもったいないくらい素敵な恋人がいるの
まだ若いんだし、これからもっといい人が見付かるわよ
…(分かってくれて)ありがとう

(合流。お互い了解の上だが
やはり全部きかれていたと思うとバツが悪く苦笑)
…無事に終わったわ
ねえ、せっかくだから公園をまわってみない?
(サボテンにさわれるなら
怪我しないよう気をつけながら棘をつつく)


スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
  手紙を見つけた時は面倒だなと内心感じた
でもひらがなの書面に毒気を抜かれたよ
「これは無視する訳にはいかないね」

●公園
保護者同伴なものと思ってたのに、彼女一人きりだ
妙に表情が暗いのも気にかかる

返事の前に君のことをよく知りたいな
散歩でもしながら話さない?

ほなみちゃんはお父さんとお母さんが大好きなんだね
二人の話ばっかりしてるもん
ねえ、ほなみちゃん。本当に俺でいいの?

謝らなくていいから、今度は本物のラブレターを書くんだよ

ああ、たぶんうちの精霊です

●事後
やっぱり藍子ちゃん(彼女)に似てたよ
俺を好きになる人は、みんな…
ところで心配して公園まで着いてきてくれたんだね!?
ああんミスト大好きぃ!!!(がばっ)



カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  (手紙見て)イェル、こいつやばくねぇか?
勤務先に迷惑掛かるから行くって…何かあったらやべぇし、俺も近くに待機しとく

遠目で様子確認
(思わしくなさそうだな。話が通じてるように見えねぇ)
助けに行くか

(登場し)悪ぃな、俺のだ
手ェ出されると、俺が困る
(イェルクの腕を引き寄せ)
「いい子にしてろよ?」
(耳元で低く囁いた後、キス)
牽制で睨みつつ

イェル気づいてねぇが、俺もそうだから、実は本気
俺も同じ事件で嫁も娘も逝ったから、心境は理解出来るし今は演技にしとくが

(誰が譲ると思ってんだよ)
※男相手なら殴る程度に立腹

帰ったぞ(解放)
過激?
(演技でも)帰ったならいいだろうが
腰が抜けた?
ホント、可愛い奴
(荷物担ぎで帰る)



信城いつき(ミカ)
  もちろん俺はレーゲンを選ぶけど、会ってきちんと断ろう
…ミカが楽しげな顔してる。ついてくるのダメ!

俺には好きな人がっていっても、じゃあご飯だけでもとか…
どうしよう、何を言ってもあの手この手で解放してくれない。

ミカと……そう思われてたの?
確かに今は契約したばかりのミカと一緒にいること多いけど、
レーゲンへの気持ちにぶれたことはないよ。

ミカが来てくれた。ものすごく怒ってる
殴るのダメ!ミカのアクセサリーをそんな風に使うのダメっ!!

俺そんなに浮ついてるように見えたのかな
ねぇミカは信じて。本当だよ俺はレーゲンが大好きなんだよ…

泣いてないよ!
でもミカが「分かってる」っていってくれたのは嬉しかった…ありがと



西園寺優純絆(十六夜和翔)
  ☆貰う人神人

☆行く

1.男
2.3歳年上(同じ私立
3.普通

☆心情
「ん?お手紙…?
『貴方が好きです。本日、16時──グルーンヒル公園の東屋で待っています。そこでお返事を下さい。』?
(どうしよう、ユズ初めて貰っちゃったのだよ…)」

☆公園
「あの、お手紙の人?
初めましてなのだよ
それで、ユズに何の用で…
っ!?
ユズは女の子じゃないし男の娘だしウィンクルムだし…
誰かと間違って…
本当にユズなの?
でも恋愛とか分からないし
カズちゃんっ!?
ごめんなさい!ユズ今はカズちゃんが(友達として)一番だから!
気持ちだけ受け取るのだよ!
好きになってくれて有難う」

☆その後
「カズちゃん有難う、友達兼家族として此れからも宜しくね(微笑」



●1.

 手紙を発見した瞬間、スコット・アラガキは『面倒だな』と感じた。
 けれど──。

『こなかったら しんでやる』

「だってよ。どうする、色男?」
 ミステリア=ミストが便箋を見つめ、一瞬停止した後、スコットを見遣った。
 視線が合い、二人は同時に噴き出す。
 クレヨンで書かれた、たどたどしい平仮名の筆跡に、微笑ましさが込み上げた。
 手紙の差出人は、『ほなみ』。
(平仮名の書面に毒気を抜かれたよ)
 スコットはうんと小さく頷き、
「これは無視する訳にはいかないね」
「そーだな」
 行って来いとミストに背中を押され、公園を目指して歩き始めた。

「……あれ? 一人なの?」
 公園の東屋の中、己を見上げて仁王立ちするツインテールの幼い女の子に、スコットは何度も瞬きした。
 てっきり保護者同伴だと思っていたのに。
「ほなみ、ひとりでなんでもできるもん!」
 頬を膨らませ睨んでくるほなみに、スコットは眉を下げる。
 ほなみの瞳に何処か仄暗い色を見つけて。
(気になるなぁ)
 スコットは身を屈め、ほなみを見下ろした。
「返事の前に君のことをよく知りたいな。散歩でもしながら話さない?」
「しかたないから、つきあってあげるわ!」
 スコットはほなみと手を繋ぎ、サボテンが並ぶ道を歩き出した。
「サボテンだらけだねー。ほなみちゃんはサボテンは好き?」
「とがってるところ、きらいじゃないわ。てまがかからないところも」
「サボテンって、手間いらずで育てやすい種類があるもんね」
「パパとママも、おうちにはサボテンがいいって。ほうっておいてもいいからって……」
 あたしみたい。
 呟かれた声を、スコットは聞き漏らさなかった。
「お父さんとお母さん、忙しいんだ?」
「うん、おしごとばっかり。ちっともほなみにかまってくれなくて……きらいよ」
 肩を落とすほなみを横目にスコットは話題を変える。
「ほなみちゃん、好きな食べ物は何?」
「ママのハンバーグ! すごくおいしいの!」
「特技ってある?」
「いちりんしゃにのれるわ! パパにおしえてもらったの」
「凄いんだね」
 瞳を輝かせるほなみに、スコットは足を止めて彼女を見つめた。
「ほなみちゃんはお父さんとお母さんが大好きなんだね」
「えっ?」
「だって、二人の話ばっかりしてるもん」
 パチパチとほなみが瞬きする。
「ねえ、ほなみちゃん。本当に俺でいいの?」
 スコットが優しく問い掛けた時だった。

「ほなみー!!」

 走ってくる若い夫婦。ほなみに似ているのは一目瞭然で──。

「パパ、ママ!」
 ほなみも真っ直ぐに夫婦の元へ駆けていき、親子は抱き合った。
(どうやら、無断で外出してたみたいだね)
 スコットは瞳を細め、親子のやり取りを見守る。
 やがて、落ち着いた両親がスコットの予想通りの事情を説明し、謝罪してきた。
「ごめんなさい……」
 涙を零し謝るほなみに、スコットは笑う。
「謝らなくていいから、今度は本物のラブレターを書くんだよ」
 何度も頷くほなみの頭を撫でてやっていると、両親が少し不安げに、スコットへ声を掛けてくる。
「不審なスキンヘッドの男がこの辺をうろついていたそうです」
 大丈夫でしょうか?と、眉根を寄せる二人に、スコットはこれまでで一番の笑顔を見せた。
「ああ、たぶんうちの精霊です」

「なあどんな子? どんな子だった??」
 戻るなり、にやにや笑顔で尋ねてきたミストに、スコットはうんと頷く。
「やっぱり藍子ちゃんに似てたよ」
「やっぱりってなんだよ」
 『藍子』というのは、スコットの彼女である。小柄でちょっと引っ込み思案な可愛い子。
「俺を好きになる人は、みんな……」
 そこでスコットは首を振ってから、にんまりと満面の笑みを浮かべた。
「ところで! 心配して公園まで着いてきてくれたんだね!?」
「えっ?」
 ギクギクゥ!とミストの肩が跳ねる。
「ああんミスト大好きぃ!!!」
 がばっと抱き着く大きな身体に、ミストは蹈鞴を踏んだ。
(何で出歯亀バレたんだー!?)
 頬擦りしてくる顔を押し遣りながら、思う。
(にしても相手が子供でよかった)
 スコットの人生は何もかも順調なんだ。
 害虫に食い荒らされたら堪ったもんじゃない。
 誰にも彼の邪魔はさせない。させたくない。


●2.

「店に迷惑掛かるかもしれませんし、行きます」
 手紙を手に、決意の眼差しを見せたイェルク・グリューンに、カイン・モーントズィッヒェルは眉根を寄せた。
「イェル、こいつやばくねぇか?」
 手紙に書かれた言葉は、どれもイェルクへの執着と思い込みが見て取れる。
「……何かあったらやべぇし、俺も近くに待機しとく」
 いいよな?とカインが視線を向ければ、イェルクは有難う御座いますと、微かに微笑んだ。
 かくして、イェルクの後をカインが尾行するような形で、二人は公園へと向かう。

 手紙の主は、ティーブレンダーであるイェルクが勤める専門店に、足繁く通ってきている女性だった。
 東屋に予想通りの人物を発見し、イェルクは小さく息を吐き出す。
「こんにちは」
 声を掛ければ、イェルクと同年代の女性は嬉しそうな笑顔を見せた。
「月倉様──でしたよね」
「そうよ、月倉ファリス。名前、覚えててくれたのね」
「よくお店に来て下さってますから……」
 イェルクはあくまでお客としてと強調した。
 ふふっとファリスは微笑むと、イェルクとの距離を詰める。
「知ってるの。貴方にとって、私はタダのお客じゃないって」
「どういう意味でしょう?」
「私がお店に行ったら、貴方が店のドアを開けてくれるわ」
 イェルクは瞬きした。驚いた。店員が客に対し行う当然な行為を、そんな風に受け取るなんて。
「素直になっていいのよ?」
「申し訳ありませんが……貴方にお客様以上の感情を持った事はありません」
「嘘。照れ屋なのね」
「本当に違うんです」
 近寄ってくる彼女から身を引き、イェルクは拒絶の言葉を何度も口にするが、彼女は理解しない。

 カインは遠目で東屋の様子を確認し、眉間に皺を刻む。
(思わしくなさそうだな。話が通じてるように見えねぇ)
 イェルクが心底困っている様子が、この距離でも分かった。
(助けに行くか)

「どうして愛してるって言ってくれないの?」
「私は──」
 迫るファリスから後退した時、温かい手がイェルクの肩に触れた。
 この手は──。
「あ……カインさん」
「貴方ダレよ?」
 睨んでくるファリスを、カインは一瞥する。
「悪ぃな、俺のだ。手ェ出されると、俺が困る」
 目を見開くファリスを横目に、カインはイェルクの腕を引き寄せた。
「いい子にしてろよ?」
 耳元に低いカインの声。身体に染み渡るようで、ゾクリと背筋が震える。
 以前と、違う。
 回る思考の中、次のカインの行動に、イェルクの思考は完全停止した。
 顎に手が添えられたと理解する前に、唇を塞がれている。
 熱い。
 知っている感触。
 不治の毒に侵された夢を見たあの時、熱い涙と共に、触れた愛おしい感覚と同じ。
 ああ、今はそんな事を考えている場合ではなくて──。
「ん……」
 触れているだけ、なのに。全身の力が抜けて行く。
 溺れるようにカインの服を掴めば、大きな手が支えてくれた。

(イェルは気づいてねぇが、俺も『そう』だから、実は本気)
 腕の中で震える愛おしい体温を、カインは繋ぎ止めるように唇を重ねる。
(俺も同じ事件で嫁も娘も逝ったから、イェルの心境は理解出来るし……今は演技にしとくが──)
 譲る気は、微塵もない。
(誰が譲ると思ってんだよ)
 心に渦巻くこの憤怒も、きっと彼は気付かないだろうが。
 カインは女を睨む。女はぶるぶる震えた後、踵を返して走り去った。
 最後、もう少しだけ唇を触れ合わせて、カインはイェルクを解放する。
「帰ったぞ」
「……過激過ぎませんか」
 目元を赤く染め睨んでくるイェルクに、カインは肩を竦めた。
「帰ったならいいだろうが」
「立てません……」
 しっかりカインの上着を掴んだまま、イェルクが瞳を伏せる。
「腰が抜けた? ホント、可愛い奴」
 ひょいと、荷物のようにカインがイェルクを肩に担ぎ上げた。
「可愛くないです! 下ろしてください!」
「暴れたら落ちるぞ」
 カインは口の端を上げながら、そのまま歩き出す。
(でも、悔しいけど嬉しい)
 イェルクは顔が見えなくてよかったと、熱い吐息を吐き出した。


●3.

「ん? お手紙……?」
 西園寺優純絆は、鞄に入っていたシンプルな封筒を取り出し、小首を傾げた。
「ユズ宛てだ」
「まさかラブレターだったりしてな」
 茶化すように十六夜和翔が言えば、まさかと優純絆は笑い、手紙の封を切る。
「えーっと……『貴方が好きです。本日、16時──グルーンヒル公園の東屋で待っています。そこでお返事を下さい。』?」
「!?」
 和翔の肩が大きく跳ねた。
「これって……」
 優純絆の瞳が見開かれ、頬が紅く染まる。
(どうしよう、ユズ初めて貰っちゃったのだよ……)
「ふーんラブレター……」
 和翔は落ち着きない動きで、チラチラと優純絆と手紙を交互に見た。
「カズちゃん、ユズ行ってくるね」
「え?」
「だって、待ってるって書いてあるから。ごめんね、先に帰ってて」
「お、おい、ユズ……!」
 優純絆は一目散に走っていってしまった。
 わきわきと行き場のない手。和翔はぐぐっと拳を握る。
(ってなんで俺様はこんなにイライラしてるんだ!? 別に関係ねぇのにっ)

 公園はサボテンの緑で溢れている。
「サボテンだらけなのだよ」
 きょろきょろと辺りを見渡しながら、優純絆は東屋を目指した。
「あ、あそこみたいなのだよ」
 サボテンに囲まれた壁がない小屋が見える。そこに、優純絆と同じ私立学校の制服を着た少年が立っている。
 リボンの色で上級生だと分かった。
「あの、お手紙の人?」
 恐る恐る近付いて声を掛ければ、少年は爽やかな笑顔を見せる。
「初めまして、俺はフェンリル。来てくれて有難う」
 優しそうな雰囲気に少し安堵しながら、優純絆は少年を見上げた。
「それで、ユズに何の用で……」
「俺と恋人になってくれないか?」
「っ!?」
 直球な言葉に、優純絆は目を見開く。
 目の前に立つ少年は、相変わらずの爽やかな笑顔で、彼は何かを勘違いしているのではと思った。
「ユズは女の子じゃないし、男の娘だし、ウィンクルムだし……誰かと間違って……」
 もじもじと少年を見上げれば、彼はきっぱりと首を振る。
「性別とかウィンクルムとか関係無い。君自身が好きだ」
 優純絆は顔が熱くなるのを感じた。
「本当にユズなの?」
「西園寺優純絆くん。君が好きだ」
 カーッと顔から火が出そうで、優純絆はぶんぶんと首を振る。
「でも恋愛とか分からないし……」

「ちょーっと待ったぁ!!」

 小さな影が、優純絆と少年の前に滑り込んだ。
「カズちゃんっ!?」
 それが和翔と気付き、優純絆は目を丸くさせる。
(何故俺様はこんな所にっ!?)
 訝し気にこちらを見てくる少年を見て、和翔は汗が噴き出るのを感じた。
(そうだ。父さんに頼まれて……)

『何処の馬の骨共分からない奴にユズをやれますか』
 にっこり。

(って、笑顔で言われちゃ従うしかないだろ……)
 和翔はキッと少年を睨み付けた。
(まっ、まぁ俺様も気になって……なんかねぇのに、何でモヤモヤするんだ!?)
 気付けば、和翔は少年に指を突き付け叫んでいた。

「おい、コイツは俺様のなんだよ!」

 優純絆の手を掴む。
「ほら行くぞ」
「カ、カズちゃん!?」
 引っ張られながら、優純絆は紅い頬で少年を振り返った。
「ごめんなさい! ユズ、今はカズちゃんが一番だから! 気持ちだけ受け取るのだよ! 好きになってくれて有難う」
 少し寂しそうに手を振る少年を後に、二人は東屋から離れる。

(ユズが『俺様が一番』って……! ってなんで俺様は『俺様の』って言ったんだ!?)
 優純絆の手を引きながら、和翔の思考はぐるぐる回っていた。
「カズちゃん、有難う」
 後ろから優純絆の声が聞こえて、和翔は足を止めて振り向く。
 ふわりと微笑む優純絆は、とても可愛かった。
「友達兼家族として此れからも宜しくね」
 友達。
 ズキッと胸が痛んで、和翔は左胸を押さえる。
「お、おう……」
(なんで、ユズにダチと言われて胸が痛んだ……っ)
「カズちゃん、どうかした?」
「何でもない」
 二人は手を繋いだまま、公園を歩く。


●4.

 手紙を眺め、信城いつきはふぅと小さく吐息を吐き出した。
「この前のパパイヤの求愛に続いて、モテ期到来だな」
 いつきがパパイヤに抱えられ、木の上にご案内されたのは、記憶に新しい。
 ニヤニヤこちらを見てくるパートナー、ミカを見遣り、いつきは眉を下げた。楽しそうだなぁと思う。
(もちろん俺はレーゲンを選ぶけど、会ってきちんと断ろう)
 手紙を鞄に収めて立ち上がれば、ミカも一緒に立ち上がってきた。
「ついてくるのダメ!」
 めっと睨むと、ミカはおどけて肩を竦める。
「おー、ダッシュで逃げられた」
 脱兎の勢いで店を出たいつきを見送り、クスッとミカは笑みを漏らした。
(でもへんな虫がつかないよう様子は見に行くか)
 ミカもまた会計を済ませ、店を出たのだった。

 指定の東屋が見えて、いつきは僅か緊張に息を飲んだ。
 年上の男性が一人、立っているのが見える。
「あの……」
 近付いて声を掛けると、男性は満面の笑顔を見せた。
「待ってたよ。いつき君」
「手紙をくれたのって……」
「ああ、僕だ。早速だけど、僕達、付き合わないか?」
 性急すぎる相手の言葉に、いつきは戸惑って瞬きする。
「すみません。俺、貴方とは付き合えないです」
 ふるっと首を振ると、男は不思議そうに首を傾けた。
「俺には好きな人が居ますから」
「なんだ、そんな事か」
 男はにっこりと微笑む。
「じゃあご飯だけでも」
 異星人と話しているような噛み合わない会話に、いつきは眉を寄せた。
「ですから、俺には恋人が」
「ご飯くらいいいじゃない」
「お断りします」
「じゃあさ、映画観に行こうよ」
(どうしよう。話が全く通じない……)

「遠目から見てもしつこい男だな」
 サボテンに隠れて東屋の様子を伺っていたミカは、眉間に皺を滲ませた。
(さすがに止めに入るか)

「いいじゃない。いつき君、最近新しいカレが出来たよね?」
「……え?」
 男がニヤニヤ笑って言った言葉に、いつきは凍り付いた。
「ミカ、だっけ? 最近、べったりだよね」
「……!」
(ミカと……そう思われてたの?)
 手が震えた。
 確かに今は、契約したばかりのミカと一緒にいること多い。けれど──。
(レーゲンへの気持ちがぶれたことはないよ)
 いつきは震える唇を必死で開いた。そんなひどい勘違い、許せない。
「ミカとは、そんなんじゃ……俺はレーゲンのことだけ……」
 声は酷く掠れた。
「いーっていーって。二股でも何でも、僕は全部受け止めるからさ」
 へらへら笑う男の声が、とても怖い。

「なにふざけたこと言ってんだ……お前、こいつの何見てたんだ」

 怒りに滲んだ声が、割り込んできた。
「み、ミカ……!」
 顔を上げれば、ミカがいつきを守るように立っている。眼鏡の奥の瞳が怒りで燃えていた。
「お前なんか……」
 ミカが指輪を嵌めた手を振り上げる。
「!? 殴るのダメ!」
 咄嗟にいつきはミカに背後から抱き着いて、彼を止めた。
「ミカのアクセサリーをそんな風に使うのダメっ!!」
「……」
 元々脅すだけのつもりだった。ミカは振り上げた拳を下ろし、勢いに飲まれて呆然としている男をきつく睨む。
「さっさと帰れ。俺がお前をズタズタにする前に!」
 地を這う声で促せば、男は一目散に逃げて行った。
「チビ、もう大丈……」
「俺、そんなに浮ついてるように見えたのかな……」
 ミカの背中に手を添えたまま、いつきが呟くように言った。声には涙が滲んでいる。
「ねぇ、ミカは信じて。本当だよ、俺はレーゲンが大好きなんだよ……」
「分かってる、そんなのとっくの昔から知ってる」
 ミカはいつきの手を取ると向かい合い、いつきの瞳を覗き込む。
「どう見てもチビちゃんはあいつにメロメロだろうが」
 ニカッと笑えば、いつきは瞳を伏せた。
「……だから、泣くな」
「泣いてないよ!」
 いつきはぐいと目元を手で拭う。
「でもミカが『分かってる』って言ってくれたのは嬉しかった……ありがと」
「どういたしまして」
 ニッと笑みを浮かべ、さてとミカが伸びをする。
「帰るか」
「うん」


●5.

「あら、まあ……何時の間に手紙を入れたのかしら」
 可愛らしいギンガムチェックの封筒をしげしげと眺め、スウィンは瞬きした。
 気になって仕方ないイルドも身を乗り出して、封を切り取り出された便箋に視線を落とす。
「……あら」
「……!」
 スウィンが片頬を押さえ、イルドが瞳を見開いた。
 便箋には、スウィンへの愛の言葉が綴られている。
 手紙の差出人は、公園で返事を待つという。
「悪戯じゃなくて?」
「どうする……行くのか?」
 低い低いイルドの声。顔を見なくても彼が不機嫌なのが分かって、スウィンはふにゃりと頬を緩める。
「知らん振りするのも悪いし、断る為に行ってみるわ」
「……そうか」
 断る──その言葉に、イルドは安堵の吐息を吐き出した。
「イルドは……どうするの?」
 便箋を畳んで封筒に入れながら、スウィンが首を傾ける。
「俺も行く」
 本当は、自分が行って相手を追い返したい。けれどそれは問題アリと自覚しているため、我慢だ。
 それに、他人からスウィンへの告白等、聞きたくはないが──断られた相手がスウィンを害する心配もある。
 隠れて聞くのはマナー的にどうかと思うが、一人で行かせたくない。
「近くに待機してるから、何かあったら呼べ」
 きょとんと瞬きしてから、スウィンはほんのり頬を染めた。
「分かったわ。けど、おっさんなら心配いらないわよ?」
「分かってる」
 スウィンが強いのも十分に分かっている上で、それでも。
「うん、一緒に行きましょ」
 二人は連れ立って、公園へと向かった。

 公園に入る前に、イルドはスウィンから距離を取った。
 あくまでこっそり見守るだけだ。相手が問題行動を取らない限り、イルドが妨害に入る事は無い。
 指定された東屋では、一人の青年がスウィンを待っていた。
 スウィンの姿が見えるなり、礼儀正しくお辞儀をしてくる。年下のようだ。
「この手紙、貴方が……?」
 鞄から手紙を取り出して見せると、青年は頷く。
「わざわざ来て下さって、有難う御座います」
 青年の頬は紅潮し、緊張した眼差しがスウィンを捉えた。
「こんなおっさんに好意を持ってくれたのにごめんね」
 スウィンが眉を下げて言うと、青年は、
「スウィンさんはおじさんなんかじゃないです!」
 思い切り拳を握ってそう返した。その言葉に、ますますスウィンは困った笑顔となる。
「あのね、もうもったいないくらい素敵な恋人がいるの」
「……知ってます。でも、どうしても伝えたかったんです」
「そう……有難う」
 ふわりとスウィンは微笑む。
「まだ若いんだし、これからもっといい人が見付かるわよ」
「きちんと告白出来て、すっきりしました。きっぱり、諦めます」
「ありがとう」
 スウィンは青年と握手を交し、青年は手を振って東屋を去っていった。

 隠れて成り行きを見守っていたイルドは大きく息を吐き出す。
 居心地悪く固まっていた身体を伸ばし、スウィンの元へと歩いていった。
「……無事に終わったわ」
 全部聞いていたと思うけど。スウィンは少し複雑そうな表情で笑う。
 頷き返して、イルドは改めて安堵した。
 大切な恋人、誰にも奪われたくはない。
「ねえ、せっかくだから公園をまわってみない?」
 二人は東屋を出て、少し公園を散歩する事にした。

 公園は見事にサボテンだらけだった。
 色んな種類の、見たことないような形のサボテンが所狭しと並んでいる。
 日が傾き始めた時間帯、人の姿は疎らだ。
 大きなサボテンの傍、ここなら人目が無い。そう考えた瞬間、イルドは湧き上がる独占欲のまま、そっとスウィンの手を握った。
 ぎこちなく、けれど優しく、しっかりと繋ぎ止めるように。
 小さくスウィンが笑った気配がした。
 顔は見れない。イルドは照れ臭くてそっぽを向いているから。
「ね、このサボテン、ゴムみたいよ」
 つんつんとサボテンの棘を突き、スウィンが楽しそうに言う。
 イルドは少し悩んだ後、まだ紅い顔をスウィンに向けて、一緒にサボテンに触れたのだった。
 

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:カイン・モーントズィッヒェル
呼び名:カイン
  名前:イェルク・グリューン
呼び名:イェル

 

名前:信城いつき
呼び名:チビ、いつき
  名前:ミカ
呼び名:ミカ

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: ひなや  )


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月19日
出発日 09月26日 00:00
予定納品日 10月06日

参加者

会議室

  • [7]信城いつき

    2015/09/26-00:00 

  • [6]スコット・アラガキ

    2015/09/25-23:30 

    また挨拶忘れるところだった…。スコットとミストだよ、よろしくねー。

    >優純絆・和翔
    ユズと顔合わせるのは初めてだから突っ込んだことは言えないけど
    物好きどころかすごく趣味いいと思うよ?
    気が合うなら付き合っちゃいなよ(羽根よりも軽い調子で)

  • [4]信城いつき

    2015/09/22-13:06 

  • [2]西園寺優純絆

    2015/09/22-00:23 

    優純絆:
    お久しぶりの人も、初めましての人も宜しくなのですよ!

    ユズ、初めてラブレター?をもらったのだよ~
    そしたらカズちゃんが不機嫌になっちゃった…
    なんでだろう?

    和翔:
    初めましてな奴が多いな
    取り敢えず宜しくと言っといてやる

    ユズにラブレターとか物好きがいるんだな(無自覚に好きなに自分の事は棚に上げ←
    べっ別に気にしねぇけど?
    うん気になってねぇし!!

  • [1]スウィン

    2015/09/22-00:08 


PAGE TOP