誰かを想う優しさと楽しさ(真名木風由 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「チャリティーマーケット?」
 『あなた』達は、思わず声を揃えていた。
 用があって訪れたA.R.O.A.本部に貼り出されていたのは、ハト公園で開催されるチャリティーマーケットのお知らせだ。
 次の休みの日だ、とその内容に目を通す。

 そのチャリティーマーケットは、タブロスにある複数の会社が開催するものらしい。
 物品の販売だけでなく、食べ物を売ることも出来るようだ。
 それだけでなく、音楽や踊りといった見せ物の類もある、と書いてある。
 立ち並ぶ店を見るだけでも楽しそう。
 チャリティー目的である為、その売り上げは全額孤児院へ寄付されるのだという。

 次の休みの日は、特に予定はない。
 顔を見合わせる『あなた』達は、行ってみようかという会話を交わす。
 チャリティーマーケットなら、色々なものがあるかもしれない。
 こうしたマーケットの種類には、時折、手作りの石鹸やアロマキャンドルといった香りを売りにしたものがあったりして、大量生産ではない個人製作だからこそ行き届いたものを入手することも出来る。
 ちょっとした日用品も個人目線で好みに合うものが売られていることもあるから、掘り出し物があるかもしれない。
 そうした品々は見ているだけでも楽しいものになるだろう。

 もっとも───『あなた』達は、広告をもう1度見る。
 自分で店を出したら、また異なる楽しみがあるかもしれないけど。

解説

●出来ること
・店を出す

マーケットへ店を出します。
下記であれば、売り物として提示可能。

・料理全般
『調理』・『菓子・スイーツ』・『コーヒー・紅茶』・『濃縮還元ジュース』・『パン作り』の範囲内の食品。

・物品
『裁縫』・『日曜大工』・『アクセサリー』等を使用して作る自作の雑貨・植物全般。

・見せ物・即興で提供出来るもの全般
『歌唱』・『演奏』・『ダンス』・『撮影』・『手品』・『腹話術』・『占い』・『絵画』の範囲内のものとします。
(『撮影』・『絵画』は準備期間の都合上、その場でお客様を題材にしたもの(本人写真・即興似顔絵)限定)

・店を巡って楽しむ

来場して普通に買い物を楽しみます。
店のジャンル指定(参加者が出店すれば参加者の名等)いただければこちらで対応します。

●消費ジェール
・出店する場合
出店料300jr+売り物準備費用500jr

他、ジュース販売等当日機材が必要な物を販売する場合、機材レンタル料金として200jr発生いたします。

・出店しない場合
マーケットでは金銭トラブル防止の為、チケット制を導入しています。
50枚綴りのチケットを購入する為、300jr消費します。

●出店ルール
出店する参加者は下記手順を遵守してください。

1:会議室で出店宣言

2:販売リスト提示

記入例
クッキー チケット3枚
パン チケット5枚
アップルパイ(1カット) チケット4枚
店主の歌(リクエスト制。どんな感じかを書いてください) チケット2枚

3:プランに販売リスト記載の記事番号を明記

●注意・補足事項
・提示した範囲内のものであれば販売OKとしますが、歌・演奏等で版権にお応え出来ません。
・執事・メイド喫茶といった、接客を売りにした店を出すことは出来ません。あくまで販売のみです。
・大勢の人が来ておりますので、TPOにはご注意ください。
・マーケットに迷惑が掛かる行為全般は採用出来かねますので、ご了承ください。
・購入品のアイテム配布はありません。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は、男女両方でマーケットものを扱います。
純粋にマーケットを楽しみに来場してもいいですし、マーケットに店を出してもいいです。
店を出す方は、特に解説をよく読んでご参加いただけますようお願いします。
(プラン文字数節約の為、今回は販売リストのみ例外的に記事番号を確認して対応しますが、普段は会議室参照と記載いただいても対応しません)

絶対ではありませんが、会場内でどなたかと出会えれば、絡みが任意で発生することもあります。
店を出している出していない関係なく、お互い楽しく過ごしていると分かればいいのではないでしょうか。

店を出される方は、安値で沢山用意するか拘りのものを少量用意するかは準備費用の範囲内であれば自由ですので、ご参考までに。
見せ物であればステージ形式でも個別で出すのも個人の自由……頑張ってください。

店を巡って楽しむ方も素敵な日を。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  【出店】
できるなら戦隊ものっぽいコスチューム実費調達

というより、ステージ披露ですが
子供が楽しめるように戦隊ものや特撮もののテーマソングとダンスを披露します。

…ディエゴさんの趣味ですね
仕方ないです、彼の指示通りに踊ります
お子さんと一緒に楽しめるようにおどりのおねえさんとして頑張ります

歌の締めにステージを広く使って派手にするために
ロンダート→バク転→宙返りの大技を見せたいですね。
ヒーローみたいに見えますよ!

最後に…男の子ものばかりでは寂しいですし
総勢40人の魔法少女がいるアニメの踊りを踊っちゃいます!
(戦隊コスチュームを脱いだら魔法少女風コスチュームとかできないものでしょうか)



クロス(オルクス)
  ☆掲示3

☆調理スキル

☆心情
「俺、出店してみてぇ!
あぁ、料理なら少し自信あるし、食べてもらいたい!」

☆準備
「ブラクロ弁当屋って名前で良いか
この日の為に前の日から沢山作っておいたんだ
オルクー、並べるの手伝ってくれ
おにぎりはこっちで、サンドイッチはここ
後は弁当がこことここにあそこな」

☆開店
「いらっしゃいませ!
小腹が空いたらサンドイッチやおにぎりは如何ですかー!
お弁当もあるので買って下さーい!
あっお買い上げありがとうございます(微笑」
・笑顔で接客
・オススメがあるならそちらを勧める

☆閉店
「わぁ全部売り切れたよ!
凄い凄い!
オルクのおかげだよ、サンキュ♪
えへへ(照笑
オルクの為に腕にヨリをかけて夕飯作るな!」



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  販売リスト記載の記事番号「8」

羽純くんと一緒に頑張りますっ
揚げもちも揚げじゃがバターも、注文を受けてから調理
出来立てをお届け
拘りは、外はカリカリ、中はホクホク!

接客は主に羽純くんにお任せして、私はひたすら調理に集中しよう

揚げもちは、油の温度に注意して(高過ぎるとカリカリになり過ぎる)、一口サイズのお餅を揚げます
よく油を切って、お好みのトッピングをし完成

揚げじゃがバターは、蒸篭でじゃがいもをふかしておき、小麦粉を水で溶いた衣を付け、油で揚げます
切れ目を入れて塩を振った後、バターを乗せて完成
お好みでトッピング

美味しかったと一言貰えたら、それだけでとっても幸せ!

可能なら屋台巡りもしたい(チケット購入


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  会議室[6]
飲み物はホットでもアイスでもご要望に応じて。

プロ的な味は無理だけど、各店舗廻っている人が少しひと休みできる場所を作りたくて。
気追わないコーヒー、紅茶を用意。シュガーはお好みで。
以前お茶会したのが楽しかったんです。
それでもっと美味しく淹れたくて、練習したの。
読書の時飲み物をお共にすることも多くて、それで。
店の傍に椅子と小さなテーブルを置いて。
テイクアウトの人には断熱加工の紙コップで持って行って貰いますね。
「熱いので気を付けて」と声をかけて。
ミュラーさんと色々な体験をしたので接客もあまり怖くなくなりました。喜んでもらう姿を見れるのが嬉しいです。これもミュラーさんのおかげですね(笑顔)。



レイナス・ティア(ルディウス・カナディア)
  ル、ルディウスさ…(敬称は禁止と言われている)…と、チャリティ、です!

まず…食べ、ます!
ツナマヨ(クロスさん)と、紅茶2つ(瀬谷さん)と、揚げじゃがバタ…(桜倉さん:精霊が醤油希望)…『しお』…! しおじゃなきゃ、嫌、です…!!
(世界に絶望して涙目になったような表情)

(ハロルドさん達のお店を見ながら上記を貪っていたが、途中から食べるのを忘れて子供向けでも自分に出来ない事もありじぃっと見つめる)

チケットが…まだ、こんなに(ほくほく)
おみやげ、買いましょう…。ケーキ細工の、アロマキャンドル…
バニラ、の香り…が、美味しそうです……
そうです…!2個買って1個を、プレゼント…

お、お揃いです…受け取って…



●細かいこたぁいいんだよ
(その場で調理は美味しそうだな)
 月成 羽純は、店の設営をしながら心の中で呟く。
 チャリティーマーケット、折角だから店を出そう。
 桜倉 歌菜は、その瞳を輝かせて羽純へ提案してきた。
 歌菜が提案したのは揚げもちと揚げじゃがバターの2つ。
(スイーツはこれから勉強するらしいな)
 歌菜の料理の腕はかなりのものと羽純は思っているが、スイーツの腕は発展途上らしい。
 甘いものではないが、これも十分美味しそうだ。
 店を巡って購入するだけでは寂しいと思っていたから、売る側になるのは嬉しい限り……サポートしたい。
(それに、今は少しでも傍にいたいからな)
 先日、歌菜は辛い過去を思い出した。
 今明るく笑っているからこそ、あの時の涙が忘れられない。
「羽純くん、販売リスト出来たよ」
 歌菜がひょこっと顔を出した。
 その場で調理するとは言え、すぐに調理に取り掛かれるよう準備をしていたのだ。

『 』
揚げもち チケット4枚
トッピングは『大根おろしとポン酢』『出汁しょうゆとかつお節』『きな粉』からどうぞ。

揚げじゃがバター チケット3枚
トッピングで、『塩』、『胡椒』、『醤油』、『マヨネーズ』、『味噌』、『コーン』のいずれかをどうぞ。

「この空白何だ?」
「お店の名前なんだけど、思いつかないんだよね」
 羽純に問われ、歌菜は羽純へ案を求めるように見つめる。
 あと少しでスタッフが確認に来るし、店の名前を決めないと。
「よし!」
 歌菜は店の名前にさらさら書き始めた。
『細かいこたぁいいんだよ』
「ちょっと待て」
 羽純が歌菜にツッコミを入れる。
 何故それを書いた。
 歌菜は、フッと笑う。
「細かいこたぁいいんだよ」
 だって、食べたら美味しいもん。

●お弁当屋さん、開店
 クロスとオルクスも出店準備に追われていた。
「間に合って良かったぜ」
「昨日からずっと準備に追われたからな」
 ほっとした様子のクロスへオルクスも安堵の声をかける。
 昨日までは、本当に大戦争だったのだ。

『俺、出店してみてぇ!』
 広告にある出店者募集の文字を見、クロスは自分もと声を上げる。
『クーの料理は美味いし、弁当屋で出店してみるか?』
『あぁ、料理なら少し自信あるし、食べてもらいたい!』
『サポートとかアシスタントなら任せろ。絶対売り切れさせてみせる!』
 そうして出店申し込みをしてから、自分達が売る弁当は何にしようか、コストを抑えつつ、美味しくお腹一杯になるようにするにはどうすればいいか、あれこれ考えて決め、前日は買い出しでタブロスのあちこちを巡った。
 今朝は早起きして調理とお弁当詰めを頑張り、やって来たという訳だ。
 ハト公園へ向けて出発する頃には、起きた時間の早さを考えれば、遅かったかもしれない。

 手早く設営をし、販売物をテーブルに並べる前に余裕あるスペースで販売リストを書こうという話になった。
「チケット枚数どうする?」
「んー」
 販売リストを書くオルクスに問われ、クロスが考える仕草をする。
 コストを抑えることを考えた為、1個単価は結構安値になった。
 数自体もあるし、チケット枚数を抑えても大丈夫だろう。
 それにチャリティーマーケットなのだから、来場者は1つでも多くの店で買い物が出来るようにしたい。
「唐揚げ弁当と鶏肉の野菜炒め弁当はチケット3枚かな。味や量は落とさず、コストは出来るだけ抑えたし」
「サンドイッチ、おにぎりは?」
 思案しながらクロスがまず2種類のお弁当のチケット枚数を設定すると、オルクスがリストへ書き込んでいく。
「サンドイッチとおにぎりは1枚ずつ、種類や個数なんかあった方が分かり易いよな」
「サンドイッチが『卵』、『ツナ』、『ハム』、『エビカツ』だったよな。で、おにぎりが2個入りだったか。これが『ツナマヨ』、『梅』、『明太子』、『鮭』か…あ、クー、ひとつ質問」
 クロスの言葉を聞いてリストを書いていたオルクスが、その手を止めた。
「おにぎりの方は、2個とも同じ種類? それとも1個ずつ違う種類?」
「断面を見せて包装しているサンドイッチと違うからな。パッケージに分かるように書いてあるとは言え、リストにも書いておいた方がいいな」
 クロスは実際の販売物を見せ、2個とも同じ種類もあれば1個ずつ違う種類もあるのだと教えてくれた。
 オルクスはそのことも踏まえ、リストに書き記す。
「リスト見て混乱しないよう並べないと。オルクー、手伝ってくれ」
 クロスが弁当2種、サンドイッチ、おにぎりを分かりやすく並べ始めると、オルクスもクロスの指示に従ってテーブルの上に並べていく。
「心して売りに掛からないとな! 絶対に売り切れにしてみせる!」
 意気込むオルクスは、最後に販売リストに自分たちの店の名を書き連ねた。

●ひと息入れてほしくて
 瀬谷 瑞希とフェルン・ミュラーも出店準備を進めていた。
「ミズキ、テーブルと椅子、こんな感じでいい?」
「ありがとうございます、ミュラーさん」
 フェルンが瑞希に確認を取ると、瑞希は準備の手を止めた。
 2人は、ジューススタンドならぬティー&コーヒースタンドを出店するのだ。
 その場で淹れるものもある為機材を借りる必要はあったものの、それでも食品販売よりはスペースを取らないことより、瑞希はテーブルと椅子も準備費用の範囲内でレンタルし、飲む場所も作ることにしたのだ。
 実際の力仕事はフェルンが担当し、瑞希は紙コップにせっせと青い小鳥のシールを貼っている。
 チャリティーマーケットなのだから、ささやかな幸せをイメージしてほしい───フェルンの提案は、瑞希の発想にはないものだ。
「ミュラーさん、代わっていただけますか? アイスの方は予めストックを作っておいて、借りてきたアイスボックスの中に入れておこうと思います。氷を後で入れるとは言え、冷やしていた方がいいと思うんです」
「ホットはその場?」
「いいえ。こちらもストックを作ります。淹れたものを適温で保存しておく機械があるので」
「そうしておけば、飲むまでに時間掛かるってこともないものね」
 瑞希がそう言うと、フェルンはこのスタンドの趣旨が歩き回っていた人が少しひと休み出来る場所というものであることを思い出す。
 シールを貼る役目をフェルンに代わって貰った瑞希はストック分を作り始める。
 既に出来上がっている販売リストには、コーヒー、カフェ・オ・レ、紅茶(ダージリン)、ミルクティー(アッサム)の名が店の名前と共に書き連ねてあり、いずれもチケット2枚となっている。
 いい茶葉・豆を仕入れた為、実際の値段を考えたら破格なのだそうだ。
(コーヒー・紅茶の淹れ方を研究してたのは知っていたけど……)
 フェルンは、予想以上に上手くなっているのではないかと瑞希の手つきを見る。
 以前、瑞希は他の神人達と共に自分達精霊へ感謝を伝えるお茶会を開いたことがあり、その時、飲み物担当だった。
 皆凄いと口にしていた瑞希が頑張ることが増えたと話していて、羨ましがるだけが彼女じゃないと思っていたから、その後、練習していると聞いて、らしいと思っていたのだが。
「凄いね」
「プロが淹れるような味はまだ無理かもしれませんけど、でも、前よりは美味しいと思います」
 フェルンが褒めると、瑞希は手を止めずに微笑んだ。
 が、耳が僅かに赤くて、彼女が照れているのだということが分かる。
(やっぱり可愛いよね)
 以前のお茶会が楽しかったのだろう。
 だから、より美味しくを願って練習したのだろう。
 彼女のことだから、読書の友人にしたいと願った部分もあるだろうし。
 きっと、一生懸命練習していたのだろうな。
「そういえば、カフェ・ラ・テはないんだね」
「コーヒーとは別にエスプレッソを用意しないといけなくなっちゃうので」
「そうなんだ」
 瑞希が苦笑を返すと、そういう区別があるのかとフェルンは用意していない理由を知った。
「ラテアートリクエストが無理だからかなって思っちゃった」
「違いますよ」
 フェルンがくすりと笑うと、瑞希は小さく吹き出した。

●歌うおにいさんおねえさん
 ディエゴ・ルナ・クィンテロは、着替え終わったハロルドを見た。
「やはり俺のと色使いが違うな」
 2人はステージ形式での出店だ。
 子供向けのショーを行う為、衣装も戦隊物のヒーローを連想させる衣装だ。(歌の為にマスクはしていない)
 実費が実質衣装代だけであった為、主催側にレンタル申請はせず、個別にラジカセやマイクを安くレンタルしてきている。
「実は、中に女の子向けヒロインの衣装も着込めるタイプだったんですよ」
 ハロルドが前開きのスーツを指し示して言う。
 戦隊物はどうしても女の子より男の子の方が興味を持つ。
 が、女の子にも楽しんで貰いたい思いもあることより、魔法少女の衣装も用意して着込んでいたのだ。
「そうなのか。色使いだけではないんだな」
「ディエゴさんも可愛い色使いが好みなら、中に」
「着ない」
 ディエゴはハロルドに即答した。
 回答自体は予想通りだが、回答を発するまでのスピードが速い。
「腕を上げましたね、ディエゴさん」
「そういう腕は上げたくなかった」
 ハロルドが妙な褒め言葉を投げると、ディエゴは溜息をひとつ。
 さて、開場まで時間が迫っていることもあり、2人はステージの入念な打ち合わせだ。
「特撮ヒーローのテーマソングをメドレー、歌うのは俺がメインでいい。エクレールは歌に合わせ、アクロバティックなダンスを披露してほしい。ラストに大技があると盛り上がるかもしれないな」
「大技……ロンダート(側転の際4分の1ひねりを入れて着地する技のことを言う)からバック転、宙返りだと子供達は勿論、親御さんも喜びそうですね」
 ダンス指導は自分が行うというディエゴにハロルドが大技を提案する。
 アクロバティックなダンス内容にもよるが、安全性への配慮の観点からダンスに専念した方がいいだろう。ここにはマットや体操の床演技の床のような特別な床もなく、何かアクシデントがあると思わぬ怪我に繋がりかねない。
「これは家族連れや買い物で忙しく子供にあまり構えない人の為のステージでもある」
「ディエゴさんの趣味とも言います」
「いや、決して自分の好みが入っている訳ではないぞ」
「なら、ひとつ提案があります」
 ディエゴの指示通りに、おどりのおねえさんとして子供達に喜んで貰えるダンスをしようと思うハロルドは、ディエゴへにっこり笑みを浮かべた。
「変な提案はしてくれるな」
 そう言いながらも、ディエゴはハロルドからある提案を受けた。
 提案内容にディエゴは驚いたが、ステージで映えることを考慮し受け入れる。
「2人で協力して最高のパフォーマンスに完成させるんだ」
「ええ。子供達に喜んで貰いましょう」
 ディエゴの言葉にハロルドは頷く。
 ステージは1回、お1人様チケット2枚……それ以上のステージを見せることが出来るように。
 運動神経抜群のハロルドがダンス担当、曰く軍楽の関係で上手に聞かせるコツは知っているディエゴが歌担当……どんなステージになるだろう?

●マーケット入り口にて
「ル、ルディウスさ……、ルディウス」
「……よく出来ました」
 ルディウス・カナディアは、レイナス・ティアが自身に敬称をつけて呼ぼうとしたのを止めたのを見て、瞳を細めた。
 敬称禁止。
 ルディウスは、契約して日も浅いレイナスへそう言っている。
 レイナスも、敬称で呼ぶのに拘ったら嫌われてしまいそうな気がすると頑張って敬称をつけずに呼ぼうとしている状態なのだ。
 真意は分からないが、契約した以上パートナーであるから対等を望むのかもしれない、とは思っているものの、まだその真意をルディウスから聞く機会がない。
(……き、聞ける日が来たら、いいですね……)
 まだ、聞くにはちょっと勇気が足りないかもしれない。
 と、ルディウスがチケットを購入してきてくれた。
「25枚ずつ、お互いが買えるよう半分にしましょう」
「あ、ありがとうございます……」
 ルディウスからチケットを半分渡され、レイナスはお礼を言う。
「どこから巡りましょうか」
「ウ、ウィンクルムの方も店を出しているみたい、ですから……そ、そちらは……」
 ルディウスの問いにレイナスが出店情報を見て、そう提案する。
 視線を移すと、食べ物関係とステージ関係に出店があるようだ。
「ステージは時間が決まってますね」
「ま、まず……食べに行くのは……どうでしょう?」
「いいですね。では、どちらから行きましょう?」
 ルディウスは微笑み、レイナスと共に歩き出していく。

●心遣いを込めて
 レイナスとルディウスが来たのは、瑞希とフェルンの店だ。
 店の位置的にこの店を1番に訪れた方が効率が良かった為である。
「あ、こ、紅茶で……アイスでお願い、します……」
 レイナスはテイクアウトであることも考慮してアイスの紅茶を選ぶことにした。
「結構本格的なんですね」
「まだまだですよ。……一応、飲み易さを考慮して淹れてはいますけど」
 ルディウスがちゃんとした茶葉で淹れていると聞いて驚きを見せると、瑞希はそう言いながら、テイクアウト用の紙コップに紅茶を注いでいく。
「はい。これから回るのかな? 小さな幸せが沢山見つかるといいね」
「あ、ありがとうございます」
「頑張ってください」
 フェルンから紅茶を渡され、レイナスとルディウスはそれぞれ受け取る。
 見ると、長時間の持ち運びを考慮した紙コップには青い小鳥のシールがワンポイントで貼られてあった。
 飲み易さを重視という心遣い以外にも細かい部分で心遣いがされている。
 ほっこりとした様子のレイナスを見、ルディウスは少し口元を綻ばせた。

 レイナスとルディウスが立ち去った後も瑞希とフェルンは忙しい。
 ストックがある内は瑞希も接客もしていたが、人が増えてくると、特にアイス系の補充が必要となってきた。
「砂糖やシロップは別添にしてるけど、それでもミルクの甘さがあるからってストレート頼む人も結構多いんだね」
「食べ物が甘い分飲み物は、という人もいるみたいですよ」
 人の切れ目でフェルンがストック状況を確認しそう言うと、瑞希はそうした見解を出す。
「カフェ・オ・レもミルクティーも好きという方も多いですけど、今日は天気もいいので、アイスコーヒー、アイスティーの売り上げはある程度予想してました」
「流石ミズキ」
 フェルンが賞賛していると、また客がやってくる。
 ストックも人の切れ目で余裕が出た為、瑞希も接客に戻った。
「熱いので気をつけてくださいね」
 年配の夫婦に微笑しながら、断熱用の紙コップへカフェ・オ・レを注ぎ、瑞希が微笑む。
「ありがとう。あら、青い小鳥が可愛い紙コップね」
「ええ。小さな幸せを皆さんに見つけてほしくて」
「そりゃあいい。私の大きな幸せは妻だが、小さな幸せは今日も見つけたいものだ」
「まぁ」
 年配の夫婦と笑顔で会話する瑞希を見ていると、フェルンまで嬉しくなってくる。
(そういう意味では、俺も青い小鳥に小さな幸せを貰っているのかな)
 フェルンはそう思いながら、別の客に向かってアイスコーヒーが入った紙コップを差し出した。
 皆幸せがいい。
 青い小鳥が誰の元にも舞い降りますように。

●愛情のお裾分けであって
「いらっしゃいませー、美味しい美味しいお弁当はいかがっすかー!」
 オルクスの呼び込みの声が響く。
「サンドイッチやおにぎりもありますよー!」
 クロスがオルクスとは内容を重複しないよう声を張り上げると、見るだけ見ようという者が店へやってくる。
 そうすれば、こちらのもの。
 クロスの料理の腕は店に出しても恥ずかしくないレベルだからだ。
 味だけでなく、見た目も良い。
 それがチケットの枚数も抑えられ、ボリュームも保障された状態で売られていたら、購入しようと思う者は少なくないだろう。
「お買い上げありがとうございます」
 笑顔を心がけるクロスが微笑と共に唐揚げ弁当と鶏肉の野菜炒め弁当を差し出す。
 隣ではオルクスが小さい子を連れた若い夫婦へお勧めを聞かれ、「どれも美味しいですが」と前置きをした上で、ボリュームあるならお弁当だが、小分けに出来るのはサンドイッチやおにぎり、おにぎりは組み合わせが違うものもあるから、家族で仲良く食べるなら、サンドイッチやおにぎりと相手を考慮したお勧めを笑顔で答えている。
「やっぱり、小さい子連れてると、気軽に食べられるサンドイッチやおにぎりの方がいいみたいだな」
「その辺り、計算して正解だったな」
 おにぎり2個入りを2つ買っていった若い夫婦を見送ると、オルクスがそう漏らす。
 クロスも休日のハト公園が会場なら子供連れも多いのではと考えて作っていたらしく、小さく笑う。
 クロスもオルクスも子供が好き(単純に好きではなくあやす能力も持っている)なだけあり、そうした点は見落としていなかった。
「すまない、サンドイッチを2つ」
 と、クロスとオルクスとは面識がある羽純が購入にやってきた。
「どの味がいいんだ?」
「食べ易い方がいいな。俺はともかく歌菜はその場で調理するから」
「その場で調理か、美味しそうだな」
 クロスが尋ねると、羽純が「歌菜だと慌てそうだから」と付け加えた上でそう言った。
 オルクスは自分達とは違うアプローチの仕方に感心しながらも、合間を縫って歌菜の為に買い物をする羽純へ卵やツナはどうかと勧める。この2つはマヨネーズで和えてあることもあり、ハムやエビカツに比べてパンから具が落ちにくいのだ。
「ありがとう。そちらも頑張ってくれ」
 羽純が軽く笑って、去っていく。
 飲み物調達もあるのか、最初に来た方角(店の方角)に歩いていっていない。
「俺達も張り切って売らないとな!」
「そうだな。クーが心を込めて作ったんだしな」
 改めてやる気を出すクロスへオルクスも笑みを向ける。
 昼に近づくにつれ、徐々に昼食を求めた客が店へとやってきた。
 すると、中には───
「わ、こんな美人の君が作ったの? おっし、それなら、買うしかないねー。その代わり」
「その代わり……どうした?」
 ドサクサに紛れてクロスの手を取る若い青年にオルクスの絶対零度の視線が突き刺さる。
 俺のクーにそんなことする奴は敵、敵に冷徹冷酷……独占欲強いオルクスはクロスが反応するよりも早く容赦しなかった。
「油断も隙もない」
「……あ、あの……お、おにぎり2個……」
 低く呟くオルクスを我に返らせたのは、目の前に立っていたレイナスである。
 並んでいた為、やっと前に来たらオルクスがクロスへの虫払いしていたので、ちょっとびっくりしたらしい。
「あ、すみません」
 オルクスはお客様認識のレイナス相手にはさっきの視線など嘘のような笑顔を浮かべる。
 ちなみに、笑顔も視線も彼の本心からである。
「ツナマヨ2個のものはどれでしょうか?」
「これですね」
 ルディウスが列が出来ていることも考慮し、事前に決めていたメニューを聞くと、オルクスはすぐにツナマヨおにぎり2個入りのパッケージを取ってくれた。
「あ、2人はウィンクルムか」
「は、はい。ま、まだ、なって日も浅いのですが……」
 レイナスにも手の甲に文様があることを確認した上でクロスが接客の合間に声を掛けてくる。
 緊張しながらもレイナスがそう答えると、「そっか。なら、任務で会ったら、よろしくな」とクロスが笑い、ほっとした気持ちを覚えた。
(……そうではないでしょう)
 ルディウスはほっとするレイナスを見て自分もほっとしたことに気づき、緩く首を振った。
 見ていたオルクスにはよく分からなかったが、ツナマヨおにぎり2個を受け取ったルディウスがレイナスを促して去っていく。
「ありがとうございましたー!」
 見送る暇もない2人は、繁盛する店で声を揃えた。

●青い小鳥は絶え間なく飛んでいく
「月成さん、お疲れ様です」
 羽純が店へやってくると、瑞希は労いの声をかけた。
 先日のお茶会には歌菜も羽純を労いたいとのことで共に準備していたといった以外にも縁は幾つもあるし、主催側へ機材レンタルを申し込む際にたまたま双方店を出すことを知っていたのだ。
「こちらはどうだ?」
「見ての通り、大忙し」
 羽純の問いにフェルンがくすくす笑う。
 アイスティー、アイスコーヒーと注文を聞いたフェルンはシロップとストローを添えるのを忘れない。
「特にストローが助かるな。それじゃ」
 歌菜が調理を行う為、接客は羽純が請け負っているのだろう。
 いない間は歌菜がやってくれるだろうが、あまり長く店を空けてられないらしく、フェルンの心遣いで零れないようサンドイッチとまとめてくれたのを受け取った羽純は急いで店の方向へ去っていく。
「実演販売だから忙しいだろうね」
「桜倉さんの料理ですから、口コミでも広まるでしょうしね」
 見送るフェルンが零すと、瑞希が食べたことがある歌菜の料理の味を思い出して頷いた。
 が、会話している時間はあまりある訳ではない。
 天気も良く、喉が渇いた来場者。
 食事時に飲み物を求める来場者。
 共に多く、ストックを作る為にフェルンのみで接客する時間も多くなった。
 飲み易さ重視で淹れた為か、喉が渇いたからまた飲みに来たという来場者もいる位だ。
「ハト公園だから、椅子とテーブルが埋まってても問題ないのが助かるよね」
 椅子もテーブルも人がいない時がない状態だが、場所が場所だけに飲む場所がないと困ることはない。
 マーケット主催側がゴミ箱を増設している為、ゴミを捨てるマナーのない来場者はいないようだ。
 マーケットが終わった後ゴミだらけでは小さな幸せも飛び立ってしまうだろう。
「そうですね。小さな幸せは一瞬だけじゃないからいいと思います」
 瑞希が答えながら、アイスボックスへストックを補充する。
 接客しながら、状況判断でストックを作らなくてはいけないのは大変そうだ。
 すると、フェルンの視線に気づいた瑞希が微笑む。
「忙しいですけど、これもひとつの経験ですよね。ミュラーさんと色々な体験をしたからでしょうか、接客もあまり怖くなくなったって思っているんですよ。喜んだ姿を見られるのが嬉しいです」
「それが自分の淹れた飲み物なら、尚更だよね」
 人見知りがなくなってきたという彼女自身の内面的な成長を喜ぶようにフェルンがそう言うと、瑞希は「はい」と頷いた。
「これもミュラーさんのお陰ですね。ありがとうございます」
 瑞希が、笑顔を浮かべる。
(今、大きな幸せを貰ったかも)
 フェルンは、瑞希の笑顔が嬉しくて「俺こそありがとう」と笑みを返した。

●幸せを揚げるように
 時間は少々前に遡る。
 開場直前に歌菜はチケットを購入していた。
「買いに行く暇あるのか?」
「なせばなる……筈」
「分かった。忙しくなりだす前に俺が買いに行く」
 羽純は、歌菜が何か無理しそうな気配を感じ取って軽く溜息。
 開場して暫く様子を見ていたが、売り物が売り物だけにまだ足を運ぶ人も少ないこともあり、羽純は急いで買い物へ走った。

 そして、時は現在。

「歌菜は専念していいぞ」
「ありがとう、羽純くーん!」
 フェルンが纏めてくれたサンドイッチと飲み物を置きながら、羽純が言うと、1人で頑張っていた歌菜は安堵の声を上げた。
「揚げもち、揚げじゃがバター、共に注文を受けてから調理ですから、外はカリカリ、中はホクホクの美味しさが楽しめますよ」
 羽純が歌菜の拘りを説明し始めると、客からトッピングに迷うという声が上がる。お勧めは何かとも。
 すると、羽純は客の味の好みを聞き始めた。
「甘党なら、揚げもちのきな粉がお勧めです。乾燥大豆から作った手作りですよ」
 トッピングも大きな武器、ハートを掴むアピールをと羽純は予め考えていたセールストークを口にする。
 すると、揚げもちできなこトッピングの注文が入る。
(油の温度は、大丈夫だね)
 揚げもちを揚げる油の温度は重要だ。
 高過ぎるとカリカリになり過ぎてしまうからだ。
 既に準備してある一口サイズの餅を絶妙なタイミングで揚げていくと、よく油を切ってきなこをまぶしていく。
 その時には、羽純が別の説明をしていた。
「揚げじゃがバターのお勧めは味噌でしょうか。他のものと違ってあまり聞かないと思いますが、味噌とバター、じゃがいものバランスがいいんですよ」
(羽純くん、凄い。私より説明上手)
 ひたすら調理しようと思っていた為、セールストークを考えていなかったというのもあるが、羽純は客に合ったものを勧めているように見える。
(……トッピングで味の印象変わるものね)
 蒸篭で蒸かしたじゃがいもへ小麦粉を水で溶いた衣を付けて油へ揚げた。
 当然だが、揚げもちの鍋とは別のものを使用し、細やかな心配りを見せている。
 包丁で切れ目を入れ、塩を振っている最中も羽純は年配の婦人へ「こちらの出し醤油は手作りなんです。濃厚で香りも良く、鰹節とも相性がいいんですよ」と誇らしげに説明しており、婦人がそれを注文するだろうなと思った。
(聞き取り易い声だよね)
 バターを乗せながら、ふと、溶けるバターが流れる様に先日蘇った過去の出来事が重なった。
 あの人の声は羽純くんと同じように───
「歌菜?」
「あ、これ!」
 羽純が声を掛けてきたのを振り払うように歌菜が差し出す。
 背後では、羽純が「大根おろしとポン酢は、大根おろしの辛さとポン酢のさっぱり感のバランスが絶妙です」と説明しているのが聞こえる。
 振り払い切れていない歌菜の耳に「美味しいね」と言葉を交わす小さな女の子の声が届いた。
 見ると、両親に買って貰ったらしいその子は嬉しそう。
(……そうだね。私も、祈って貰ったね)
 歌菜は、ひどく幸せな気分になった。
 私を想ってくれた祈りは、小さな幸せとして毎日『ここ』に舞い降りている。

「盛況ですね」
 ルディウスがやって来た時も店は大繁盛。
 レイナスとルディウスの手の甲からウィンクルムと判断した羽純が「今度そっちの功労者を労ってやってくれ」と笑う。
「あ、それでは、揚げじゃがバターを……」
「おにぎりもありますし、半分こにしましょうか」
「は、はい」
「トッピングは醤……」
「……『しお』……!」
 ルディウスが言い切るより早く、レイナスが自己主張した。
「いや、醤油でしょう」
「しおじゃなきゃ、嫌、です……!!」
「彼女の勝ちだ」
 ルディウスが意見するも、そんな世界に絶望するとでもいうような涙目でレイナスが反論する。
 目を少し見開いたルディウスへ羽純がそう笑って助け舟を出すと、根負けしたらしい彼は情けなさそうに微笑み、「そのようですので、塩で」と注文した。
「あ、ありがとうございます……!」
「美味しい内に食べてね!」
 レイナスへ歌菜が手を振ると、2人はもうすぐ始めるハロルドとディエゴのステージの方へ歩いていった。
 見送る間もなく、2人は繁盛の店を切り盛りしていく。

●子供達のヒーロー
 レイナスとルディウスはチケットを回収ボックスへ入れ、ベンチへ腰を下ろした。
「ツナマヨ、具が少な過ぎることもなく味も美味しいですね。チケット1枚とのことでしたが、良心的です。レイナスはいかがですか?」
 ルディウスは半分この揚げじゃがバターを先に食べていたレイナスへ視線を移す。
 涙目で勝ち取った塩トッピングの揚げじゃがバターは美味しいらしく、どこかほっこりした表情のレイナスは咀嚼した後、「しおで良かったです……」と嬉しそうに感想を述べた。
「それなら、良かったです」
 応じるルディウスは、自身が先程自覚して首を振ったのに、再度レイナスを温かく見守る眼差しをしていることに気づいていない。
「急いで食べてもしゃっくりが出ますし、紅茶も忘れずに」
「あ、ありがとうございます……」
 ルディウスがタイミング良く瑞希が淹れたアイスティーを差し出せば、レイナスはお礼を言って受け取った。
 紙コップに口をつけ、飲み易さを重視したという味わいを実感していると、ステージが始まった。

 ハロルドとディエゴは頷き合って、ステージへと出た。
 ステージと言っても、そんな大層なものではないが、ステージはステージ。
 流れる音楽と共にディエゴが歌い始め、ハロルドが踊り始める。
 所謂、特撮のメドレーだ。(勿論この中にはディエゴも大好きなドラゴンライダーもある)
 ヒーローの衣装を身に纏った2人が登場してきただけでも子供達は喜んでいたが、ディエゴの歌とハロルドのダンスはその熱気を更に煽るものだった。
 やがて、子連れの大人達の間から手拍子が出て、それが会場内へ浸透していく。

歴史を壊すなら過去へ遡り
今を台無しにするなら未来へ往く
現在を生きるから戦うのさ

 ディエゴの歌に合わせるハロルドのダンスは、単純なダンスではない。
 より正確に言うと、メドレーの歌詞部分に該当するそのストーリーを表現した演舞に近いもの、迫力が違うのだ。
 並外れた運動神経、それを十二分に活かすことが出来るハロルドだからこそ、表現出来る世界である。
(専念で正解ですね)
 ハロルドは、心の中で呟く。
 可能ならコーラス部分だけでも歌をと思ったが、迫力ある本物を見せる為に集中を要する。歌へ意識を割いている場合ではない。
(流石エクレール、通しで練習したのは1回だけだというのに)
 ディエゴも歌いながら、ハロルドへ感心している。
 準備や選曲、そこから踊りの構成などを考える必要があった為、パート単位での練習は今日までにも出来た。
 が、通しでの練習は1回だけ、それもステージではない。
 しかし、ハロルドは練習以上の完成度を見せている。
 この辺りは、勝負強さがあってのことだろう。
(だが、最後の一瞬まで気は抜かない)
(ですが、最後まで気を抜く訳にはいきません)
 ディエゴが同じことを思う頃、ハロルドも同じことを考え、2人はステージの世界を作り上げていく。

「歌、ここまで聞こえてくるね」
 客の切れ目で歌菜がディエゴの歌声に感心したような声を上げた。
 ここからではハロルドのダンスは見えないが、彼女のことだ、きっと見事なダンスを見せているだろう。
「今ディエゴさんが歌っている歌、覚えてるかも」
 時空を駈ける竜に跨るヒーローが仲間と共に敵を倒していく話だったような。
 まだ、お父さんもお母さんもいた───
「歌菜」
 歌菜の思考を遮るように羽純が彼女の名を呼ぶ。
「今度、一緒に観るか? 案外新しい発見があるかもしれないぞ」
「うん!」
 悲しさを呼ぶ懐かしさも嬉しい予感に変えることが出来る。
 今は、思い出させてくれた歌声に感謝しよう。

 メドレーは単純に主題歌だけで構成されていない。
 時には、エンディングテーマや挿入歌、ヒーロー達の決意を歌った歌も入っている。
(好きなだけありますよね)
 自棄になって抹茶アイス頬張ってましたけど、一緒に観に行くと言ったら、途端に嬉しそうで……そこが、可愛いと思う。
(本人認めませんけど)
 ハロルドは熱唱するディエゴをちらっと見、くすりと笑う。
 さて、もうそろそろ終わり……大技披露の瞬間が近づいている。
 ハロルドはダンスを敵との戦闘をモチーフにしているようにステージ裾へ徐々に移動していく。
 ディエゴも演出に見せるような形でハロルドとは対になるよう反対側のステージ裾へ移動していく。
 歌が、終わる───しかし、音楽は終わらない。

 ハロルドとディエゴが、それぞれステージ中央に向かって走る。

 相手のタイミングは知っている、呼吸を合わせ、ロンダート。

(いける!)

 バック転の着地もほぼ同じ、助走の勢いが落ちないままステージ中央で交差するように宙返り、そのまま見事着地した。

 ハロルドは当然であるが、ディエゴも自身の運動神経を活かす術が高い。
 この為、ハロルドは自身の大技をディエゴも可能であると判断、ダブルで行おうと提案したのである。
 ヒーローの競演のような大技に子供達は大喜び、アンコールが当然のように起き、ディエゴが1曲披露している間にハロルドはステージ裾で急いで今までのスーツを脱ぐ。
 歌い終わったディエゴと同時に女の子に人気の魔法少女のような衣装のハロルドが戻り、軽やかなダンスの後、ディエゴがハロルドをフィギュアスケートを思わせるツイストリフトすると、子供達は一層はしゃぐ。
「大成功ですね、ディエゴさん」
「練習以上のものが出来たしな。良かった」
 子供達に大人気とあり、2人はその充実感へはしゃいだ声を上げずにはいられなかった。

●マーケットはまだ楽しくて
「おみやげ、買いましょう……」
「そうですね。お腹一杯ですし」
 レイナスの提案にルディウスも同意する。
 ウィンクルムの店は大体回ったが、まだ他にも店がある。チケットも余力があることより、回ろうという話になったのだ。
 店を巡る2人の目に留まったのは、手作りのアロマキャンドルの店だ。
「香りだけではなく、見た目も違うのですか……」
 ルディウスはそういう感想で、買う目的ではなく観るのが目的というように売り物を眺めていく。
 レイナスは逆で、観る目的ではなく買うのが目的というように売り物を眺めている。
「ケーキ細工の、アロマキャンドルも沢山……」
 ぱっと見間違えてしまいそうな位、よく出来たアロマキャンドルだ。
 レイナスは観ているルディウスをちらっと見た後、幾つかの種類を吟味する。
 手に取ったのは、ケーキ細工の中では比較的シンプルなカップケーキのようなアロマキャンドル。
 顔を近づけてみると、甘いバニラの香りが鼻腔を擽り、美味しそうだと思う。
(そうです……!)
 レイナスは、意を決した。
 ルディウスが見ていない間にこっそり買ってしまおう。
 こそこそしたからか、ルディウスが気づく前にレイナスは購入に成功した。

 やがて、閉会時間を案内するアナウンスが流れてくる。

「このマーケットも終了のようですね」
「そ、そうです、ね……」
 ルディウスの言葉にレイナスが頷く。
 最初に足を運んだ瑞希とフェルンの店はあれからどうなっているだろう。今日は天気も良かったし、飲み易かったから繁盛しただろう。
 クロスとオルクスの店は、既に売れ行き順調だった。案外全部売り切れたかもしれない。おにぎり、美味しかった。
 歌菜と羽純の店も売り切れていそうだ。揚げじゃがバター、美味しかった。『しお』で良かった。
 今頃、ハロルドとディエゴはどうしているだろう。お疲れ様を言って飲み物を差し入れしたい位。

 そして。
 無事に、マーケットが終わった。

●誰かを想う優しさと楽しさ
 チャリティーマーケットも終わり、レイナスとルディウスは帰路に着いていた。
 話題になるのは、やはり今日巡った店の話。
 特にウィンクルムの店の話題になるのは仕方がないことだろう。
「それでは、私はこちらの方向ですので」
「あ、ま、待ってください……」
 ルディウスが会釈して別れを告げようとすると、レイナスが慌てて引き止めた。
 レイナスが差し出したのは、先程買ったカップケーキのアロマキャンドル。
「2個買ったので、1個を、プレゼント……です……。お、お揃いです……受け取って……ルディウス様」
 気づいていなかったルディウスは、いつの間にと内心少し驚いた。
 だが、言葉にしたのは違う言葉。
「……また敬称」
「あ、あ、す、すみま、せん……っ」
 レイナスが慌てて頭を下げる。
 顔を上げようとしないレイナスが、少し震えているのが分かった。
 その彼女へ届くようにルディウスは声を掛ける。
「……なしで呼べたら受け取りますよ?」
 レイナスが顔を上げると、ルディウスは「もう1度、言って貰っていいですか?」とレイナスを促す。
「……受け取って……、ル、ルディウス……」
 再び差し出されたカップケーキのアロマキャンドルは、レイナスが不安に思うよりも早くルディウスが受け取った。
「……はい、よく出来ました」
 ルディウスの言葉に釣られるようにしてレイナスが顔を上げると、ルディウスは幸せそうな笑顔を浮かべていた。

「全部売り切れたな!」
「売り切れて良かったな」
 クロスとオルクスは閉会よりも前に全ての売り物を売り切ってしまっていた。
 店仕舞いの準備があった為、友人のハロルドとディエゴのステージは観に行けなかったが、歓声がかなり上がっていたので、成功したのだろう。今度どのようなステージであったのか聞いてみたい位だ。
 その店仕舞いも終わり、後は帰るだけ。
 綺麗に片づけが終わった店の跡地で2人は「お疲れ様」と互いを労い合った。
「今日全部売り切れたのは、オルクのお陰だよ。サンキュ♪」
「オレは何もしてねぇよ」
 全品売り切れの瞬間は「凄い凄い」と喜んでいたクロスはまだ喜びが継続しているらしい。
 はしゃいだ笑顔を見せるクロスを可愛らしく思いながら、オルクスはクロスの頭を撫でる。
「全部クーが頑張ったお陰さ」
 何を売るか、どんな内容にするか、どんな風に売りたいか。
 喜んで貰えるようにと考え、その腕を振るったからこそ。
 誰よりもそのことを知っているオルクスは、頑張ったクロスを労うことを惜しまない。
「さぁて、マーケットも終わった。今晩はオレもクーの美味い飯食うかな」
 えへへと嬉しそうなクロスへオルクスが笑みを向ける。
 皆の為に料理の腕を振るう時間は終わったのだから、夕飯は自分の為だけにその腕を振るってほしい。
 そんな願いが込められているかのような言葉だ。
「オルクの為に腕にヨリをかけて夕飯作るな! 何食べたい? 好きなの作るぜ!」
 嬉しそうなクロスが、帰りに買い物もして帰ろうかと提案する。
 オルクスは何をリクエストしようか考え始める。
 どんな料理でも美味しいのだけど、今、何が食べたいだろう。
(酒、甘い物は別腹として……何をリクエストするかな)
 スーパーに行くまでに決めておかなければならないが、オルクスにとっては贅沢な悩みになりそうだ。

「思ったより、目立ってたんですね」
「そうみたいだな」
 ハロルドが周囲を見回しながら呟くと、ディエゴが頷く。
 着替え終わったハロルドとディエゴが出てきた時にはマーケットはもう終わりの時間に近く、買い物をすることもなかったのだが、思った以上に子供達の認知度が高かったのだ。
 帰り道でもマーケットに足を運んだ子供がはしゃいでいるので、ステージを頑張った甲斐もある。
「子と一緒になって喜んでいる親もいたな」
「ディエゴさん、知らないんです?」
 歌っている最中に珍しいと思ったらしく、ディエゴが口にすると、ハロルドが首を傾げた。
「私が以前俳優さんについて口にした通り、若いお母さんの中には俳優さん目当てでお子さんと一緒に特撮見る人もいるんですよ」
「俳優ではなく、ストーリーを見るべきだ」
 ハロルドの言葉にディエゴが大変真面目な顔でそう言った。
 可愛い、と思いつつ、ハロルドがこう言う。
「今日の子が大人になればそうなりますよ」

「無事に終わったね! 最後までお疲れ様!」
 歌菜は、やり遂げた笑顔を浮かべている。
 最終的に閉会待たずして全ての材料がなくなり、売り切れとなった。
 が、クロスとオルクスと異なり、歌菜と羽純は実演販売である。
 しかも売り物は揚げ物だった為、店仕舞いの手間は他の店よりも掛かるのだ。
 それも何とか終わり、やっとひと息つけた頃には多くの者が既に帰路に着いている。
「歌菜もお疲れ様。全部売り切れになったのは、美味かったからだろうな」
「羽純くんが美味しそうな紹介してくれたからだよ!」
「そういうことにしておくか」
 羽純が笑って、歌菜の頭を撫でる。
 笑いつつ、歌菜が羽純の隣を歩く。
 少し長い影が、帰る2人を見送っていた。

「ミズキ、お疲れ様」
「ミュラーさんもお疲れ様です」
 フェルンの労いに瑞希は微笑を向ける。
 2人の店は閉会までずっと開いていた。
 飲み物関係であった為、多少いいものであっても大量に仕入れていた為、最後まで茶葉も豆も尽きなかったのだ。
「残っていた分で、乾杯しない?」
「コーヒーと紅茶で乾杯というのも変ですけど」
 フェルンの提案に瑞希は笑うも拒否はしない。
 瑞希は自身の紙コップにミルクティー、フェルンの紙コップへカフェ・オ・レを注ぐ。
「お疲れ様」
 乾杯のように紙コップを付き合わせる。
 出会った青い小鳥が、今日の小さな幸せを喜んでいるように見えた。

 誰かを想う優しさを忘れないでいられるのは、きっと、自分を包んでくれる優しさがあるから。
 皆、優しさに包まれて幸せになれるといいね。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月14日
出発日 09月20日 00:00
予定納品日 09月30日

参加者

会議室

  • [12]ハロルド

    2015/09/19-23:52 

  • [11]クロス

    2015/09/19-23:38 

  • [10]桜倉 歌菜

    2015/09/19-23:36 

  • [9]桜倉 歌菜

    2015/09/19-23:36 

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/09/19-00:23 

    皆様の販売リストを眺めていたら、マーケットが楽しみ過ぎてワクワクします♪

    『出店』するという単語を使っていませんでしたのと、
    「じゃがバター」を「揚げじゃがバター」に変更しますので、改めて宣言しますね!

    【出店】させていただきます。

    以下が販売リストです。

    <販売リスト>
    揚げもち チケット4枚
    …トッピングは「大根おろしとポン酢」「出汁しょうゆとかつお節」「きな粉」から選べます。

    揚げじゃがバター チケット3枚
    …トッピングで、「塩」、「胡椒」、「醤油」、「マヨネーズ」、「味噌」、「コーン」から好きなものを付けれます。

  • [7]ハロルド

    2015/09/18-19:28 

    Σ ああ、チケットの必要枚数を書いてなかった

    <販売リスト>
    子供向けの歌と踊り チケット2枚

  • [6]瀬谷 瑞希

    2015/09/18-19:10 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    レイナスさんは初めまして。
    クロスさんはお久しぶりです。
    ハロルドさんと桜倉さん、またご一緒できて嬉しいです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    先日のお茶会がとても楽しかったので
    私達も出店する事にしました。
    飲み物をお出ししようと思います。

    ≪販売リスト≫
    コーヒー チケット2枚
    カフェ・オ・レ チケット2枚
    紅茶(ダージリン) チケット2枚
    ミルクティー(アッサム) チケット2枚

    よろしければ、どうぞ。

  • [5]ハロルド

    2015/09/18-18:54 

    レイナスたちは初めましてだな

    方向性が固まったので改めて宣言するぞ

    出店する

    売り物は『歌唱』・『ダンス』を用いた見せもの
    主に子供や家族連れの客が狙いのステージだな

    歌は子供向け番組のものをうたう

  • [4]レイナス・ティア

    2015/09/18-18:29 

    レイナス:
    は、は…は、初めまして…!
    レ、レイナス・ティアと言います! み、皆さんの──!

    ルディウス(精霊):
    皆さん、初めまして。ルディウス・カナディアです。
    こんなにも、皆さん楽しそうなお店を出しておられるので、私たちは是非皆さんのマーケットを見て回りたいと思います。
    ダンスと歌唱のお店もありますし、昼食も皆さんのお店の品でいただけたら素敵ですね。レイナス。

    レイナス:
    (言う事がなくなった)

  • [3]クロス

    2015/09/17-22:18 

    クロス:
    皆久し振り、かな?
    今回も宜しく!

    俺達も【出店】するぜ!

    俺の『調理』スキルを活かしてお弁当屋さんをやるんだ♪
    オルクは俺の手伝いかな

    料理は

    唐揚げ弁当 チケット3枚
    サンドイッチ各種(卵・ツナ・ハム・エビカツ) チケット1枚
    おにぎり二個入り各種(ツナマヨ・梅・明太子・鮭) チケット1枚
    鶏肉の野菜炒め弁当 チケット3枚

    大体こんくらいかな
    良かったら来てくれよな♪

  • [2]桜倉 歌菜

    2015/09/17-22:17 

    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い致します!

    私と羽純くんは、『調理』を活かして、食べ物の屋台を出そうかなって思っています。

    今のところ、考えているメニューは以下のものとなります。
    (文字数に余裕があれば、増やすかも…!)

    <販売リスト>
    揚げもち チケット4枚
    …トッピングは「大根おろしとポン酢」「出汁しょうゆとかつお節」「きな粉」から選べます。

    じゃがバター チケット3枚
    …トッピングで、「塩」、「胡椒」、「醤油」、「マヨネーズ」、「味噌」、「コーン」から好きなものを付けれます。

  • [1]ハロルド

    2015/09/17-21:19 

    ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロだ
    よろしく

    出店する

    内容は神人の【ダンス】と俺の【歌唱】を活かしたもの
    歌…はまだ考え中
    はっきり決まったら改めて発言しようと思う
    『歌唱』・『演奏』・『ダンス』のスキルを活かした出し物をしたい者がいるなら、良ければユニットを組まないか?


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