プロローグ
●まんまるなのは月だけじゃない
月世界・ルーメンも今年は一足早く収穫祭を開催、夏の収穫物を使った料理が出店を募って賑わせていた。
「お二人共、ウィンクルムですか?去年はホントに助かりましたよ! ヴァーミンにうちの作物もやられちゃってさぁ……」
とある出店を構えていたブラックラビットの青年から屋台料理を受け取ると左手の紋章に気づいて身を乗り出してくる。
「あ、そうそう! いい事教えてあげるよ、このルーメンから……君達の世界が見える場所があるんだよね。興味ある?」
片手を口に添えてヒソヒソと内緒話でもするような仕草を見せる青年の話……地上からルーメンを見ることがあっても、ルーメンから地上を見ることはなかったかもしれない。
青年の話に興味を示すキミ達に、青年も嬉しそうに笑みを浮かべる。
「実は地上に向けて巨大な展望鏡を出してる観測所あるんだけど……フェスタ・ラ・ジェンマ開催に合わせて特別開放してるんだって! ルーメンから見る地上もすごく綺麗だと思うよ、入場料はかかっちゃうみたいだけど折角だから見に行ってみたらどうかな?」
青年は簡単な地図を手書きでササッと書いてみせると、行き方を教えてくれた。
「月世界から天体観測、面白そうだなぁ……行ってみるか?」
乗り気な精霊の言葉に頷くと、出店で買った食べ物を手に観測所へと向かった。
解説
●目的
ルーメンの観測所から天体観測を楽しもう
※入場料として300Jr消費します
出店で買った飲食物がある場合は追加で200Jr消費します
描写は基本的に個別となります
●ルーメン天体観測所
巨大な天体望遠鏡からプラネタリウムのように天井一面にスクリーンが出されています。
地上を中心に星空が見えています、地上は現実の地球に似た姿で見ることができます。
展望鏡は撮影器具と接続中のため直接観測することは不可とします。
飲食は可能、ソファやテーブルなど置かれています。
施設外で観測する行動は不可とします。
●諸注意
・警備員や観測所の所員が出入りしております
・公序良俗は守ってもらえると嬉しいです
・『肉』の1文字を文頭に入れるとアドリブを頑張ります
ゲームマスターより
木乃です、滑り込みセーフでしょうか!?
フェスタ・ラ・ジェンマにギリギリ参加しようとぶっこんでいきます!
今回はルーメンからの天体観測です、地上の様子が見えますぞ。
しっとりしたムードで晩夏のデートをお楽しみくださいませっ
相談期間は短めですので、お気を付けください!
それでは皆様のご参加をお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
ふふ、なんだかイヴェさんと一緒にいるのがすごく心地いい…新しい精霊さんの事とかでごちゃごちゃしてたから。 こうやって一緒に過ごせるのは嬉しいです。 月から地上が見えるなんて素敵ですね。 月から見ると地上はどんな風に見えるんでしょうか? あの青い星…あれが地上ですか?すごく綺麗…。 私の目に似てる…?ありがとうございます…ちょっと恥ずかしいですが嬉しいです…。 知っていますか?イヴェさんの瞳はお月様の色の色なんですよ。とっても綺麗なんです。 月が綺麗ですね…普段見上げるしかないルーメンで過ごすのすごく嬉しい。 誰が来ても私の一番はイヴェさんです。 だから不安になんて思わないでください。 お月様を滲ませないでください |
篠宮潤(ヒュリアス)
他の人の妨げにならないよう常に小声で 「わ。すごいっ」 「…ヒューリ、星、好き…なの?」 「誰かと見たり、は…友達、とか…」 ↑さり気なく過去の人間関係調査する、最近片思い自覚した神人 (う、ん??ヒューリもしかして友達、『彼女』以外いなか…っ?) いや自分棚上げだよ僕…! すぐ失礼思考追いやって 「えと…僕、もう…ヒューリ、大事な友達だと、思ってる、よ?」 「…ヒューリ、多分、ね。必要だったのも勿論、あるんだろうけど」 ヒューリ自身が星好きなんだと思うよ?と嬉しそうに ヒューリがいつもより話してくれる(暗闇に隠れ照れ笑い 星が、瞬いて…背中押してくれてたの、かな 一層神秘的な光に見えて。最後は心地よい沈黙で眺める |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
肉 壮観ですね 皆で協力してルーメンを守ったからこそ これを見られるのは嬉しさもひとしおです。 ディエゴさんいつになく雄弁ですね? でも、感動っていうのは同意です 契約してから、ずっとオーガだけを見ていたから こんなにまじまじと宙を見るのは久しぶりなんじゃないですかね。 わかっていますよ ディエゴさんが、ただ単に自分の仕事の姿勢を示したわけじゃなくて私を心配して言ってくれたってことは。 だから、応援してくれたのがとても嬉しかったんです 今、同じ気持ちだとも言ってくれたので2倍で嬉しいですけどね。 ただ、私からも言わせてもらいますけど無茶はしないでくださいね 貴方が私を心配するように、私も貴方を心配していますから。 |
菫 離々(蓮)
肉 はい、お祭りらしいですねとハチさんに相槌。 どうぞ好きなだけ食べてくださいと彼を見守ります 花より団子と言いますが今のハチさんにも当てはまりますね 星より、でしょう? ……では私も頂きます。と 差し出された一口ではなく容器ごと手に取り。 そうですね。ここからの眺めでは小さく見えますが あの小さな中に、人も物も目一杯詰まっています 興味が無い……そう見えましたか。すみません けれど、今現在見えている地上には 心惹かれる物はたしかに無いと言えるかもしれません だって、と。首を傾げるハチさんに笑んで。 あそこにハチさんは居ませんから、とまっすぐ告げましょう ……食べ終わりました? そろそろお暇しましょうか さあ。どうでしょう? |
真衣(ベルンハルト)
ここね。お邪魔しまーす。(小声 わあ。(天井を見て、ハルトの袖をくいくい引く ハルト、ハルト。 あれが、私たちがいつもいるところなのね。 今いる月みたいにまんまるよ。 あそこにママとパパがいるのよね。 人もいっぱいいて。他にも。ふしぎね。(天井に手を伸ばして触るふり 星もきらきらしていっぱいで、宝石みたい。 えへへ。(掴まれた手で、そのまま手を握る ハルトと見れてうれしいの。 同じものを見れるってうれしいことなのよ。 そうね。(嬉しそうに笑う はーい。ハルトは何を食べるの?(並んだ品物を見て 私は焼き鳥にしようかな。 でも、焼きそばも少し食べたいかも。(口に人差し指を当て考える そうだ、半分こしてもいい? ありがとう。(笑顔 |
●金の月と青い星
(ふふ、久しぶりにイヴェさんと一緒にいる……すごく心地いい)
淡島 咲は心の中で笑みをこぼす、ここ最近は新たな精霊との契約などごちゃごちゃと多忙な時間を過ごしていたこともあり恋人であるイヴェリア・ルーツとの時間をなかなかとることが出来なかった。
今日はフェスタ・ラ・ジェンマで特別開放されているという天文観測所まで足を運んでおり、聞いた話によると月世界ルーメンからスペクルム連邦やパシオン・シー、バレンタイン地方などの地上の様子が見られるのだという。
「イヴェさん。最近は忙しくしててごめんなさい、こうやって一緒に過ごすなんて久々ですね……私、嬉しいです」
「……ああ、俺もサクと同じ気持ちだ」
咲が久々に時間を共有できると嬉しそうに笑みをこぼすとイヴェリアも同じ気持ちであると伝えて僅かに瞼を細める。
(しかし、まさか昔の知り合いに会うとはな。あいつは純粋に『神人』としか見てないと思うが……不安だ、実に不安だ)
イヴェリア本人はそんな多忙にしている咲と新たに契約した精霊に危機感を覚えていた、自分が密かに一目惚れしていた咲にかつての知人でもある新たな精霊も心を奪われてしまうのではないのかと。顔には出さないようにしているものの胸中は不安で一杯である。
そんな風に雑談しながら所内を進んでいくと『特別観覧室』と札の書かれた部屋が見えてくる。
「ルーメンから見ると地上はどんな風に見えるんでしょうね?」
「ああ、どう見えるんだろうな……こうして地上を見るというのも貴重な体験だ」
イヴェリアは観覧室に入ろうと扉に手を伸ばす、中に入るとプラネタリウムのような薄暗い室内にオルゴールの繊細な音色が流れており神秘的な印象を深めていく。天井のスクリーンには一面の星空、中央には薄い青色に白い雲と黄土色の大陸で出来たマーブル模様で彩られた惑星。
「あの青い星……あれが地上ですか?」
すごく綺麗、咲の口からぽろりと感動の言葉がこぼれていく。青い星を中心に星達が瞬く姿は地上から見上げるルーメンともまた違う輝きを感じさせた。
「……サクの瞳の色によく似ている」
「え?」
唐突にイヴェリアの呟いた言葉に咲は驚いて咲は横顔を見やる。
「海や空をそんな風に思うこともあったが、あの青は今まで見た中で一番サクの瞳の色に近い気がする。とても綺麗だ」
紡がれる言葉のひとつひとつに、どれだけ自分を見てくれていたのか伝わってくるような気がして咲の頬は熱くなり赤らんでいく。
「ありがとうございます……ちょっと恥ずかしいですが、嬉しいです」
ドキドキと高鳴る胸の音、隣で見ているイヴェリアに聞こえてしまうのではないかと思うと鼓動の音はさらに大きくなっているように感じる。
(そういえば)
「……知っていますか? イヴェさんの瞳はルーメンと似た色をしているんですよ」
今立っているこの場所を地上から見ると金色に輝いているように見えますよね、と咲が伝えるとイヴェリアは僅かに目を見開いた。
「ルーメンが俺の瞳に似ているか……考えたこともなかった」
地上の色は咲の瞳に似ていて、ルーメンの輝きは自分の瞳の色に似ている。偶然とは言えなんとなく気恥かしさを感じてイヴェリアは頬を掻く。
「……誰が来ても私の一番はイヴェさんです」
咲の言葉にイヴェリアは驚いて視線を向けると青い瞳を細め笑む咲の表情が視界に入る。
「だから不安になんて思わないでください」
そう言って咲は眉を寄せて目を逸した、イヴェリアは心中を察していた咲に自身の心情を伝えようと口を開く。
「……誰が来ても俺がサクの一番だと思っている、だからサクの方こそ不安な顔をしないでくれ」
密儀が世に出たのはまだほんの少し前、互いに不安を感じることは無理からぬことで……咲は小さく頷くと再び青い星を見つめた。
●友達とは
「わっ……」
篠宮潤は天井に広がる星空と丸く映し出された青い惑星に思わず感嘆する、ヒュリアスも感心したようにほう……と息を吐く。
「すごいっ」
「見え方はやはり違うが……うむ……」
他の人にも迷惑をかけぬようにと声を潜める潤、隣で見ていたヒュリアスのどこか懐かしそうに呟く横顔を見つめると潤は首を傾げる。
「……ヒューリ、星、好き……なの?」
「好き、というか……」
ヒュリアスは少し思案して言葉を探し、再び口を開く。
「無我夢中で学んでいる頃、必要不可欠であるとはいえ多くの人間と接していると、時に疲れてな」
当時のことを思い出しているのか、苦笑をこぼしながらヒュリアスは目を伏せる。
「夜に一人で何も考えず星を見つめる時が休めたのだよ」
潤の問いに『そうしているときだけ、煩わしい人間関係など気にしなくても良いような気がした』と……ヒュリアスの表情からなんとなく心境が伺える。
「……誰かと見たり、は……その、友達、とか」
「友?いや……そういった者は認識していなかったが」
潤はさりげなくヒュリアスの交友関係……というより人間関係に探りを入れてみたものの、特に目立って関係した人は居ないらしい。片思いを自覚してしまった故に気になるところなのだが少し引っかかる。
(う、ん?? ヒューリもしかして、友達って、『彼女』以外いなか……っ?)
潤はそこまで考えてハッとして首を左右に振る、自分を棚に上げて何を考えているんだ! と失礼な思考を頭の中から追いやる。ヒュリアスはその間も星を眺めていたのだがふと潤に視線を向ける。
「……そもそも、何をもって『友』と感じるものなのかね?」
ヒュリアスは不思議そうに首を傾げてみせた、どうにも彼の中で『友』という定義は曖昧なだけによく解らないらしい。
「えと……」
潤は考えた、自分にとって友というのはどのような対象に当たるのか。思考を巡らせた末に潤はヒュリアスの目を見る。
「僕、もう……ヒューリ、大事な友達だと、思ってる、よ?」
潤の言葉にヒュリアスは驚いたのか目を丸くした。気を悪くしたのだろうかと潤は不安に思ったがすぐに杞憂だとわかった。
「そうだな……『ただのパートナー』と言われるより、しっくりくる」
潤の言葉が腑に落ちたのか、ヒュリアスは感心したように何度も大きく頷いた。
「それに……ヒューリ、多分、ね。必要だったのも勿論、あるんだろうけど」
ヒューリ自身が星好きなんだと思うよ?と嬉しそうに言うとヒュリアスも静かに笑みを返す。
(今日は、ヒューリが、いつもより……たくさん、話してくれる)
潤は顔を俯かせて照れ笑いを浮かべる。嬉しくも恥ずかしくもあり、緊張で顔が火照ってしまう。
(星が、瞬いて……背中を押してくれたの、かな)
顔を赤くする潤の隣でヒュリアスはふと顔を上げて星空を映すスクリーンを見つめる。
(ウルが……『俺』という個を形作っていくようだな……)
自分という存在に『個性』を求めているヒュリアスにとって形作られていく感覚はとても大きな意味を持つ。潤と出会ってからもたらされる芽吹くような小さな感動をヒュリアスはなんという表現の言葉が相応しいか解らない。
見つめる先……スクリーンに映る薄い青色の惑星、地上の詳細な様子は解らないもののあの中で何億人の人間が暮らしていると思うととてつもなく大きな場所に思える。
(あれに比べたら……己の『個』にこだわるのは小さな事なのかね……)
自分という個性を追求してきたヒュリアスにとって地上の広大な全容の前では些細な悩みのように思えてきた。
(……もしや、俺の中で答えが出つつあるのだろうか)
それはきっと、隣にいる『友』が知っているかもしれない。ヒュリアスはなんとなくそんな気がした。
●一緒に見ること
「ねぇねぇハルト、すごく広い建物ね」
真衣はキョロキョロと見渡しながら長い廊下を進んでいく、ベルンハルトも物珍しそうに視線を巡らせていた。
(巨大と言っていただけあって、立派な造りをしている)
ルーメンは機械化された場所も多く、天文観測所の設備もさすがの科学力で構成されていると感じた。
「あった! ここね、お邪魔しまーす」
『特別観覧室』の札を見つけた真衣はベルンハルトを手招きすると一緒に観覧室へ入っていく、小声で一言断りながら入っていくと……。
「わあ……!」
「天井がスクリーンになっているのか」
真衣は瞳に星空を移したように目を輝かせ、ベルンハルトも天井一面を映す星空の様子に感心して感嘆の息を漏らす。
「ハルト、ハルト。あれが、私たちがいつもいるところなのね」
くいくい、と真衣がベルンハルトの袖を引いている。視線を向けてみると真衣は楽しそうな笑顔を浮かべていた。背伸びしたい年頃とは言え中身はまだまだ幼い。
「あそこにママとパパがいるのよね……人もいっぱいいて、他にも」
不思議そうに天井のスクリーンに映る地上の様子を見つめていた真衣は手を伸ばしてみる、触れるふりをして手が届きそうなほど近くに感じる青い惑星を見つめる。
(星もきらきらしていっぱいで、宝石みたい)
すっかり気に入った様子の真衣の姿にベルンハルトは微笑ましく思いながら手を握る。
「真衣、伸ばしたままでは腕が疲れるだろう」
あっちにソファがあるから座って見ようとベルンハルトは手を下げさせながら嬉しそうに笑う。真衣が嬉しそうに頷くとソファまでの短い距離、手を繋ぎながら歩いていき隣り合って座るとお互いの体温を間近に感じられる。
「……えへへ」
「どうかしたか?」
はにかむ真衣の様子にベルンハルトは不思議そうに顔を覗き込む。
「ハルトと見れてうれしいの、同じものを見られるって嬉しいことなのよ」
それは滅多に帰ってこなかった隣の家のお兄さんとなかなか会えずに寂しかった記憶があるから。こうしてベルンハルトが遠くへ行かなくて良くなったことが真衣は純粋に嬉しい。
「そこまで喜んでもらえたなら、共に来た甲斐がある……これからも同じものは一緒に見られるさ」
「そうね」
真衣の気持ちを知ってか知らずか、ベルンハルトも柔和な笑顔を浮かべて真衣の頭を撫でる。ベルンハルトの大きな手で撫でられると真衣も嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ああ、そうだ。ずっと眺めているのもいいが折角買ったんだ」
冷めないうちに食べてしまおう、ベルンハルトは出店で買ってきた焼き鳥と焼きそばをテーブルに並べる。ふわりと広がる濃厚なソースと秘伝のタレの甘い香りが食欲をそそる。
「真衣はどれにする?」
「私は焼き鳥にしようかな……でも、焼きそばも少し食べたいかも」
口に人差し指を当てて真衣はうーんと唸りながら考え……ぽんっ、と手を合わせた。
「そうだ、半分こしてもいい?」
「構わないよ、じゃあ半分移そうか」
店主が気を利かせてくれたのだろう。2本の割り箸が入っていたので焼き鳥の入っているパックに焼きそばを半分移し、焼き鳥を一本焼きそばのパックに移す。
「ありがとう、ハルト」
真衣は笑顔で受け取り「いただきます」と小さく呟きながら両手を合わせてから焼き鳥を頬張り始める。濃厚な甘さに絶妙な塩気があり、鶏肉のジューシーな肉汁とよく合う。ベルンハルトも同じように所作を済ませて焼き鳥を頬張っていた。
「美味しいね、真衣」
「そうね……えへへ」
真衣は嬉しそうに返事をするとニコニコと顔をほころばせる。
(こうしてずっとハルトと一緒に居られたらいいな……)
見上げる先の青い惑星、地上でも同じものを見られるよね?と真衣は期待に胸を膨らませた。
●守りたい気持ち
「壮観ですね」
ハロルドは短くも自身の感動の言葉を口にする、皆で協力してルーメンを守ったからこそ見られる光景に嬉しさもひとしおだ。ディエゴ・ルナ・クィンテロもスクリーンに映る星空と青い惑星に目を奪われていた。
「ルーメンから見る地上か……滅多に体験できないことだ」
有難い、純粋にそう思うと同時にふとした疑問が口を突いて出る。
「初めにこの宙を見た者はどんな感想を抱いたのだろうな」
ディエゴはうっすらと瞼を細めて懐かしげに遠い記憶へと思いを馳せる。
「俺は、あの地上には嫌な思い出も悲しい思い出も沢山あった」
過去にディエゴは所属していた軍で嫌気がさすあまり汚職に走り、汚名を受けた自身を庇ったが為に上司やかつての恋人を失ったことが脳裏をよぎる。
「けど、それ以上に嬉しいことや大切だと思えるものもある」
記憶を無くしていたハロルドとの出会い、彼女と過ごしていくうちに過去と向き合い、乗り越え……今は最高のパートナーとなれた。
「そんな場所を守りたいと、改めて思った」
「……ディエゴさん。いつになく雄弁ですね?」
ハロルドはいつもより多く語るディエゴに視線を向ける、感情に出さずとも言葉に驚きが混じっていることは容易に感じられた。
「コホン、単純に言うと感動してるってことだな」
ディエゴは一つ咳払いした、それは照れ隠しなのだろうとハロルドは思った。
「でも、感動っていうのは同意です」
契約してから、ずっとオーガだけを見ていたから……前しか向いていなかった気がする。
「こんなにまじまじと宙を見るのは久しぶりなんじゃないですかね」
「……そうだな」
ハロルドの言葉にディエゴは短く返すと、しばしの沈黙が流れる。
「前にお前が『動物を守るためにウィンクルム活動を続けていきたい』という決意を」
再びディエゴはハロルドに言葉をかける、それはかつて彼女が口にした決意。ハロルドは動物のオーガ化や住む場所を守る為に戦うとディエゴに告げたことがある。
「俺は『感情をこめて仕事するな』と一回は否定しはしたが……俺も、同じというか、気持ちがわかったような気がする」
あの青い星には人間の他に何億何千もの動物達が住んでいるのかと、そしてその動物達がどれだけの瘴気の脅威にさらされているのかと。そう思うとその為に力を使いたいと願ったお前の気持ちも今ならわかる気がするとディエゴは言う。
「……わかっていますよ」
ハロルドは星空を見ながら短く返事して、それからディエゴに横目で視線を向ける。
「ディエゴさんがただ単に自分の仕事の姿勢を示したわけじゃなくて、私を心配して言ってくれたってことは」
心を酷く傷つけられた私の姿をディエゴさんは何度も見ているから……そう言ってハロルドは目を伏せる。
「だから、応援してくれたのがとても嬉しかったんです……今、同じ気持ちだとも言ってくれたので2倍で嬉しいですけどね」
ハロルドはうっすらと瞼を開いて小さく微笑を浮かべる。
「これからも一緒に戦ってくれますよね?」
「一緒に、そうだな……勿論だ。どちらが庇うとか守るとかではなく、肩を並べ支えあって戦おう」
互いの視線がまっすぐ交わるとディエゴも僅かに口角を上げて口元に弧を描く。
「ただ、私からも言わせてもらいますけど無茶はしないでくださいね? 貴方が私を心配するように、私も貴方を心配していますから」
「わかった……頼りにしてるぞ」
そう言ってディエゴはもう一度スクリーンの星空に浮かんだ青い球体に目を向ける。
(とは言ったものの、俺より近接向きなのが少し複雑だが)
言葉とは裏腹なディエゴの複雑な心境はこっそり胸に秘めておくことにした。
●興味の向く先
「祭りの醍醐味といえば食い物です」
「はい、お祭りらしいですね」
菫 離々と蓮は出店での紹介を受けて大量の食べ物と共にやってきた。香ばしいソースの香り立つ焼きそば、ほくほくに焼けたじゃがバターに青色シロップのかき氷……いずれもお祭りならではの出店料理。蓮の力説に離々は相槌を打ちながら観覧室の端にあるソファに腰掛ける。
「どうぞ好きなだけ食べてくださいね」
にっこり微笑して離々は蓮に食べるよう促す、蓮は溶けないうちに食べてしまおうとかき氷に手を伸ばす。
「ありがとうございます、それじゃあ頂きます……そういえば地上も青色に見えるんですね」
しゃくしゃくとかき氷を頬張る手は止めずに蓮はスクリーンに視線を向ける。
「花より団子と言いますが、今のハチさんにも当てはまりますね……正確には星よりでしょうか?」
星空に目を向けながらも食べる手を休めない蓮に離々はくすっと笑みをこぼす。蓮は指摘されて気恥ずかしそうに頬を掻く。
「あ、俺だけ食ってるのもアレなんでお嬢も如何です?」
食べるの大好きとはいえ、一人で食べるのは流石に偲びない。蓮は掬ったかき氷をそのままに離々に食べるかと差し出して尋ねる。
「……では私もいただきます」
離々は掬ったかき氷を受け取る。
(え!? も、もしかして『あーん』な展開クルー?)
蓮はお嬢が手ずから食べさせてくれるご褒美なシチュエーションが来るのか!? と驚き半分期待半分に胸を膨らませた……
が、離々は容器も一瞬遅れて手に取りかき氷をぱくり。
「美味しいですね、青いシロップはソーダ風味でしょうか」
(……安定のお嬢でした、ありがとうございます)
蓮は心の中で男泣き……いや、ある意味お預けプレイとも考えられるので悦んでもいいのかもしれないと心境は変わらず複雑である、口直しにほどよくとろけたバターが染み込むじゃがバターに手を伸ばし心の涙と共に噛み締める。
じゃがバターをぺろりと食べきり焼きそばも頬張る蓮はスクリーンを再び見上げる、地上はルーメンに似て丸い形をした青い星に見える。人はおろか建物すら地表の黄土色に溶け込んでいた。
……ふと、離々の方を向いてみると起伏無く静かな様子。
(も、もしかして退屈なさってる? ……ロマンチックな状況台無しですもんね)
「地上、小さく見えますけど、あそこに人がいっぱい居るんですよね」
慌てて星空の話題を出すと離々もつられて見上げる。
「そうですね。ここからの眺めでは小さく見えますが……あの小さな中に、人も物も目一杯詰まっています」
離々の表情は変わらず静かであまり面白みを感じているようには見えなかった。
「お嬢、もしかして星とか興味なかったですか?」
すみませんと申し訳なさそうに耳を垂れる蓮、尻尾も項垂れてしまった。
「興味が無い……そう見えましたか。すみません」
離々は落ち込む蓮を見るやおかしそうに笑みをこぼす。
「けれど、今現在見えている地上には……心惹かれる物はたしかに無いと言えるかもしれません」
改めて星空を見上げる離々の言葉に蓮は首を傾げながら横顔を見つめると、穏やかな微笑を浮かべていて。
「だって」
離々の微笑は星空から蓮に向き
「あそこにハチさんは居ませんから」
まっすぐと見つめられて告げられた。
「……え?」
今、自分は何を言われたのだろうか? 蓮の思考は驚きのあまり一時停止。
「……食べ終わりました?」
そろそろお暇しましょうか、そう言いながら離々は空になった容器を手早くまとめると席を立つ。
「かかか、からかわないでください、冗談ですよね」
気づくと数メートル先に離々が居て蓮は慌てて後を追う。
「さあ、どうでしょう?」
振り向いた離々は変わらず、いつものように控えめな笑みを浮かべるだけだった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 木乃 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月10日 |
出発日 | 09月16日 00:00 |
予定納品日 | 09月26日 |