プロローグ
「ショコラコンクール?」
『あなた』達は、思わず声を揃えてそう言っていた。
フェスタ・ラ・ジェンマで各地の祭りを楽しむウィンクルム達は、祭の一環として開催されるイベントに足を運ぶこともある。
今日は、バレンタイン地方にあるバレンタイン伯爵領、バレンタイン城周囲に広がる城下町へ足を運んでいた。
スペクルム連邦内でも自治色が特に強く、伯爵家に敬意を払うのがお約束とも言える地域だが、温暖な気候もあり、カカオを中心にスイーツの原材料の生産地としても名高い。
ウィンクルムであるならば、バレンタイン城の裏にあるショコランドの木よりショコランドへ赴くことも出来るが、俄然、この催し物に興味を持った『あなた』達は会場へ足を運ぶことにした。
会場は、城下町にあるホテルの広間で行われるらしい。
曰く、夏の野外では不向きとのことで。
なるほど、と納得する『あなた』達。
確かに、夏にショコラはあまり馴染みがない。
アイスクリームやパフェといった形で食べはするが、ショコラそのものを食べるかと聞かれると、冬の方が多い気がする。
冬にはクリスマスやバレンタインのようなイベントもあるから、ある意味、機会に恵まれているとも言えるが、やはり、夏の日差しだと溶けてしまうというのも大きな理由だろう。
実際、会場内はショコラコンクールの為にクーラーはやや強めだ。
ショコラコンクールに名乗りを上げるのもいいだろう。
ショコラティエ部門にエントリーして自ら作ってもいいし、アイディア部門にエントリーし、自分のアイディアを基にショコラティエに作って貰うのもいいだろう。
部門優勝者には賞品があるらしいが、それよりも、夏に馴染みがないショコラを主役にしたコンクールを楽しみたい。
いや、審査員として、色々なショコラを堪能するのも悪くない。
ウィンクルムと名乗った為、責任者側がどれであっても便宜してくれるというのだから、どれかには参加したい。
さて、どうしようか。
解説
●出来ること(各組1つしか選択出来ません)
・ショコラティエ部門にエントリーし、夏にも食べたいショコラ(ショコラ菓子含)を作成する
ショコラは、下記の種類を使っていいそうです。
・ビター
力強さと香りの高さが印象的。
・ミルク
濃厚なミルクの風味がし、甘い。
・コーヒー
コーヒーのほろ苦さとショコラの甘さのバランスが絶妙。
・キャラメル
とても甘いかと思いきや、キャラメリゼを感じさせる大人の甘さ。
※全てノーマルな茶色。
提示されているショコラを使うというコンクールのルールよりホワイトショコラは使用不可です。
・アイディア部門
若手ショコラティエ(任意で選出)へショコラ(ショコラ菓子含)のアイディアを出します。
ショコラティエ部門と同じショコラ使用が前提となります。
こちらもルール上の問題よりホワイトショコラの使用は不可です。
・審査員
ショコラを試食し、感想を伝えます。
後に協議して部門優勝者の決定に携わることになります。
会場内には多くの人がいらっしゃいますので、否定的な意見を述べ過ぎないようご配慮ください。
●会場
・城下町にあるホテルの広間
●消費ジェール
・イベント参加費用として、300ジェール。
●注意・補足事項
・1組単位での選択となります。神人はショコラティエ部門に参加、精霊は審査員として参加は出来ません。(分かれていてもどちらか一方の参加となります)
・ショコラティエ部門に参加した場合、神人(精霊)は出来るがパートナーはという場合も手が回り切らない箇所の手伝いやアイディアを出してフォローをするという形で応援してあげましょう。
・アイディア部門に参加した場合、それぞれショコラティエにアイディアを出すということは出来ません。2人で相談し、1つの案にしてショコラティエへ提出しましょう。
・基本個別描写ですが、所によって絡み描写を任意で行う場合もあります。
・部門優勝者に賞品はありますが、アイテム配布はありません。
ゲームマスターより
こんにちは、真名木風由です。
今回は、フェスタ・ラ・ジェンマの一環で開催されるショコラコンクールとなります。
デートというよりはコンクールを楽しむ色合いが強いものですので、まずはパートナーとコンクールを楽しんでみてはいかがでしょうか。
材料となるショコラ自体は試食可能ですので、2人で食べて意見を出し合うといった協力もコンクールでは重要かもしれませんよ?
それでは、お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
審査員部門で参加します ディエゴさん、目に光が無いですけど… すみません、甘いもの苦手なんでしたっけね 配慮が足りませんでした、そうですね… 苦いお茶をおともに頼んでみてはどうでしょう? チョコと苦いお茶って意外と合うんですよ コメントの仕方…それも悩んでるんですか。 じゃあいっそのこと比喩表現のオンパレードにしちゃいましょう。 私は真面目に審査しますけどね( 皆さん心を込めて作ったものでしょうし、辛口ではなく甘口で行きます、ショコラだけに。 ですけど夏ってイメージでなので…濃厚な甘さはちょっとって感じです 軽めの甘味で、食感にもこだわりがあると私としては嬉しいです。 ディエゴさんに座布団をあげてください。 |
水田 茉莉花(八月一日 智)
やっぱりそんなことだろうと思いました(ハリセンアタック) ショコラティエ部門にエントリーすれば チョコの試食し放題だと思ってたんでしょう、このバカチビ! はぁ、そう言うことにしておきます! で、夏にも食べたいショコラはどうするんですか? …それは試食って事ですか(溜息) あ、ビターならあたし食べられるかも コーヒーもいい味ね ご名答、キャラメル味の方が食べられます キャラメルマキアート? うーん 審査員受けを考えるなら甘めが良いですけど あたしはビターブレンドがいいです 盛りつけるならマグカップかカプチーノカップが良いかな プリッツェルにビターチョコをかけたお菓子も 盛りつけるのはどうです? ストローみたいに見えて可愛いかも |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
アイディア部門 羽純くんとショコラを全種類食べつつ、アイデアを練る どんな季節でもショコラは美味しいけど…夏らしく美味しく食べれるもの… ショコラドリンクはどうかな? チョコレートパフェみたいなフローズンタイプのチョコレートドリンク ドリンク部分はコーヒーショコラの小さな粒とショコラソース、氷を混ぜてシェイク状に トッピングに生クリームとキャラメルショコラのアイスクリーム、細かく砕いたビターショコラ フルーツと南国の花を飾って見た目も華やかに 羽純くんの感想にドキッ …どうせなら、チョコ好きの羽純くんの好きなものにしたかったの よろしくお願いします!と若手ショコラティエさんにアイデアを託し、ワクワク完成を待ちます |
オデット・リーベンス(テオ・シャンテ)
テオがどうしてもというので審査員にしようかな 譲ってあげるとか…大人!私、大人の女! ショコラは確かに冬のイメージかも どんなのに出会えるのか楽しみ! 食べるぞー わくわくしながら待機 いざ前に着て、さあ審査だと意気込むも これは…やばい やばい、本当にやばいよ なんていうかこう…やばい どれもやばい(=おいしい)し、難しいね どれだけテーマに合っているかとかが重要かな 夏っぽいフルーツ使ってるとか、アイスがあるとか 見た目でも涼しくなるようなのあったら得点高く上げたい とりあえず私はミルク味が好きなのでそれ贔屓したい 女の子が甘いもの好きってきっとポイント高い いやあ…美味しかった あ、参加者のお店チェックしとこ |
かのん(朽葉)
アイディア部門 この前のお出かけが何だか討伐依頼になってしまったので改めて 朽葉おじ様、甘い物お好きでしたよね? 最初にお会いした時は、何かの折にお菓子頂いていた気がするのですけど 今もポケットの中にはお菓子が常駐していますか? 朽葉の態度に首傾げ もしかしたら、まだ子供だった私用のおやつとして用意してくれていたのかもと少し思う 夏のショコラのアイディアという事ですけれど何が良いでしょうね …溶けない、ですか おじ様それは無茶ぶりのような(苦笑) あ、でも甘いミルクチョコに少し塩気があるチョコ菓子は食べてみたい気がします 提案 甘さの中に塩味のアクセントがあり、要冷蔵ではなく常温でも溶けない(手につかない)チョコ菓子 |
●何事も意外というものはありまして
「クーラー、結構強めだから待っている間膝掛けがあるのはありがたいわね」
オデット・リーベンスは、貸して貰った膝掛けに目を落とす。
「動いてれば気にならなかったかもしれないけど……テオがどうしても審査員がいいって言うから」
ちらりと見た先には、テオ・シャンテの姿が。
テオはショコラティエ部門で猛威を振るうのもアイディア部門でショコラティエに無茶振りするのも避ける為に審査員と主張しているのだが、オデットは気づいておらず、
「譲ってあげるなんて、私は大人の女ね」
と、ドヤを決めている。
テオは、「そうだなー」と棒読みしつつ、というか、オデットの方なんか見ておらず、何故かハロルドと話すディエゴ・ルナ・クィンテロを見ている。
「ディエゴさん、目に光が無いですけど……」
「…ハロルド。俺は甘いものが苦手だ」
ハロルドの隣のディエゴは、既に魂がどこか放浪の旅へ出ているかのようだ。
「すみません、甘いもの苦手なんでしたっけね。配慮が足りませんでした」
※甘いものが苦手なことを逆手にとってコーヒー味があると言いながらもイチゴ味しかないかき氷早食い勝負を持ちかけた過去は、この際置いておく。
テオは、光を失ったディエゴの目に、自分だけではないかもしれないという救いを見出していたのだ!
オデットに言わせると、「図々しいわね。テオはあそこまでイケてる訳じゃない」ということらしいが。
「苦いお茶をお伴に頼んでみてはどうでしょう?」
「お茶か……良いかもしれない。苦手だから食べない、というのは作ってくれた者に対しても失礼だしな。できるだけ味わって審査するとしよう」
「おや、甘いのは苦手ですかな?」
ハロルドとディエゴの会話に審査員長がショコラを差し出しながら加わる。
「ショコラは茶やコーヒー以外にも酒にも合いましてな。今日は酒はありませんが、私はウィスキーと伴にミルクチョコレートを選んでおる位です」
「ウィスキーボンボンなんてある位ですからね」
ハロルドがそういえばと口にすると、審査員長が良い組み合わせを教えてくれる。
甘いものもあるだろうが、飲み物の組み合わせで印象も変わると聞きながらビターチョコを食べるディエゴは、ふと、テオの視線に気づいた。
何故見ているのか分からなかったが、オデットが「ショコラティエから見初められちゃったらどうしよう」と言うのをテオが棒読みで応じているのを聞いて色々察する。
(強く、生きろ)
ただし、エクレールの方向性と違うから、俺もそれ以上アドバイス出来ない。
●刺激ある試行錯誤
ショコラティエ部門にエントリーした八月一日 智は、材料として使うショコラを見てこう言った。
「おっし、滅多に食えない高級チョコ食い放……」
「やっぱりそんなことだろうと思いました」
言い終える前に水田 茉莉花のツッコミが綺麗に決まる。
「いってぇ、何すんだでかっちょ!」
「ショコラティエ部門にエントリーすればチョコの試食し放題だと思ってたんでしょう、このバカチビ!」
智は、茉莉花へビシッと指を突きつけた。
「おれは、マジな話でここへ参加したぞ!」
「マジな話?」
茉莉花は指差すなとばかりに指を払いつつ、智を見る。
「おれの腕前でどんだけ出来るかチャレンジしようと思ってんだ。おれの腕前もプロ並とは思うが、ここには一流のショコラティエもいるみたいだしな」
「はぁ、そう言うことにしておきます!」
まずは特徴を確認しようと味見する智を見て、茉莉花はわざと溜め息。
「で、どんなショコラ菓子を作るんですか?」
特徴確認という名の試食ではと思いつつ、茉莉花が本題を口にする。
全ての味を確認した智は並ぶショコラを見て、ふと呟いた。
「コーヒーを使ってキャラメルでトッピングした……キャラメルマキアート、ざっつらーいっ!」
茉莉花に智はサムズアップ。
「うーん。審査員受けを考えるなら甘めが良いですけど、あたしはビターブレンドがいいです」
「ミルクはみずたまりにゃ甘すぎだろな」
智がげらげら笑ったので、(ビター、コーヒーは食べられる、キャラメルも食べられる……ミルクは甘過ぎる)と試食していたのを当てられたような気がして、茉莉花は無言で智の頭に拳を落とした。
頭の中でレシピを考案しながら、智は準備を整える。
「夏らしさはどうすっかな。バニラアイスあるし、コーヒーのショコラでコーティングして、削ったキャラメルのショコラを掛け、ナッツ撒いて出来上がり」
コーヒーとミルク使用のチョコアイスを作った次善策は使用しなくてもいいようだ。
「マグカップよりもタンブラーへ盛りつけかな」
「マグカップやカプチーノカップじゃなくて?」
「涼しげな見た目のがいいだろ」
智はそう言うが、少々可愛さはないかもしれない。
「プレッツェルにビターチョコをかけたお菓子も盛りつけるのはどうです? ストローみたいに見えて可愛いかも」
「お、みずたまり! たまには言いこと言うじゃん!」
一言余計と言われた智はまたも茉莉花からツッコミを受け、痛む頭で作業を本格的に始めた。
●煌け、アイディア
かのんと朽葉は、ショコラ菓子提案の為に各ショコラの味見を行っていた。
「朽葉おじ様、甘い物お好きでしたよね?」
「嫌いではないがの」
先日の外出はデミ・オーガ率いるマントゥール教団の横槍が入ったこともあり、かのんは外出を改めたいと思って朽葉を甘い物も多いバレンタイン伯爵領へ誘ったのだ。
その矢先にショコラコンクールの話を聞いてやってきたのだが。
「最初にお会いした時は、何かの折にお菓子いただいていた気がするのですけど、今もポケットの中にはお菓子が常駐していますか?」
「今は入っておらんわ」
かのんの問いに答えながら、朽葉はキャラメルのショコラを齧っている。
嫌いではない……好きと同義ではないだろう。
今も味を確かめる色合いが強い味見の仕方で、かのんは首を傾げた。
(もしかしたら……私の為?)
朽葉が知っているのは、子供だった私。
隠れて泣いている私の為に用意してくれていたかもしれない。
朽葉はショコラを味見しながら思案するかのんを横目で見、
(今は、不要じゃろうて)
10年程前と違い、かのんには涙を拭ってくれる存在がいる。
お菓子を渡さずとも乗り越えるだろう。
男親みたいな気持ちでいるから、娘の成長の実感とはこんなものかとは思うが。
「ショコラはやはり冷えて固いのが美味いんだよな」
「融けちゃうのは、違うよね」
桜倉 歌菜は、月成 羽純と共にショコラを味見しながらアイディアを模索する。
参加人数分だけショコラティエがいるのだが、早く考案すればそれだけお願いするショコラティエの選択肢が増える。
どのショコラティエも腕が良いそうだが、やはり得意分野はショコラティエによって異なるらしい。
「どんな季節でもショコラは美味しいけど……夏らしく美味しく食べれるもの……」
「冬に向いているのは間違いないだろうな。クーラーで温度を保っているのがその証拠だ。ショコラティエの店も温度管理は徹底している」
「流石羽純くん、私より甘いものに詳しいね」
歌菜からとても真面目に言われたので、羽純は「今度ショコラティエの店に行ったら、よく確認しろよ」と苦笑した。
(1人で行かせた方がいいかもしれないが、1人で行かせたら気が気じゃない)
温度管理には気づいてくれるだろうが、お前を見初める視線にお前が気づくとは思えないから、俺は心配でならない。
……独占欲もいい所だ。
「羽純くんは、何かいいアイディアある?」
「そうだな……。冷たい状態で食べたい。融けるとどうしても風味が落ちる」
すると、歌菜がぱっと顔を輝かせた。
「ショコラドリンクはどうかな? チョコレートパフェみたいな、フローズンタイプの!」
「冬はホットショコラってのもあるし、その路線、いいかもな」
路線決定した2人はアイディアを詰めていく。
かのんと朽葉もアイディアを出し合っていた。
「何かアイディアあります?」
「そうじゃな、甘い中に少し塩味があっても良いんじゃないかの。夏は熱中症だ何だと話題になることじゃし。後は、外でも融けんようになると良いんじゃがのう」
「おじ様、それは無茶振りのような気もしますが……あ、でも、甘さの中に少し塩気があるものは食べてみたいですね」
朽葉のアイディアに苦笑するもかのんは、ミルクのショコラが向いているかもと意見を出す。
朽葉もキャラメルも向いているのではないかと意見を出し、最終的に甘さの中に塩味のアクセントがある、常温でも融けないといった方向性を決めた。
「どなたにしましょうか?」
方向性を決めたこともあり、ショコラティエを選ぼうとかのんが視線を巡らせる。
すると、同じように視線を巡らせていた歌菜と目が合った。
「決まりました?」
「はい! かのんさん達も決まりました?」
「ええ、何とか」
競う相手とは言え、火花を散らすようなことはしない。
「得意分野が異なるみたいですから、アイディアに沿う方にお願いしようと思って」
「なるほどの。得意分野で勝負依頼は鉄板じゃのう」
朽葉も基準を持って選ぶのは定石と会話に加わる。
「歌菜、あの男性ショコラティエはどうだろう?」
「あ、いいかも」
リストを読んでいた羽純が声をかけ、それを見せると歌菜が賛成の意を示す。
まだ誰の声もかかってないけど、取られちゃうかもと歌菜が走り出すと、羽純が苦笑して肩を竦める。
「元気じゃのう。もうショコラティエに話しかけておる」
「歌菜は、自分のアイディアがショコラティエの手で形になるのが嬉しくて仕方ないんだと思いますよ。滅多にある機会ではないですから、勝負は後回しでしょうね」
羽純が朽葉に応じた後、会釈して歌菜とショコラティエへ向かっていく。
遠くからでも、はしゃぎ過ぎるなと羽純が歌菜を嗜めているのが分かる。
「羽純さんは、歌菜さんが本当に大事なんですね」
いても認めてくれるだろう感想を漏らし、かのんがくすくす笑う。
(すっかり大人じゃの)
まだまだあどけなかったあの頃を思い出し、感慨深くなった朽葉であった。
●その味は
制限時間が終了し、審査する時間となった。
「こういうのはどう言うべきものなんだろう」
「コメントの仕方……それも悩んでるんですか」
ショコラを前に悩むディエゴへハロルドがやれやれと溜め息。
「いっそのこと比喩表現のオンパレードにしちゃいましょう。(私は真面目に審査しますが)」
「(面白がられている気がする)比喩的表現って……それって伝わるのか?」
ディエゴの疑問を軽くスルーしたハロルドは、キャラメルマキアートに目を留める。
公平を期する為にエントリーナンバーしか表示されていないが、智の作品だ。
審査用の為、個別のタンブラーに注がれてある。
「ショコラが掛かったプレッツエルが盛り付けられているのはいいですね」
心を込めて作っているだろうし、ショコラだから甘口審査を心掛けたハロルドはそう言って得点をつける。
「甘さ控えめの部類だな。俺は好みだ」
ショコラ=甘いイメージがあったが、そうではないようだ。
ビターやコーヒーといった類の方が好みの味、単品で食べるならばビターかと思っていただけあり、ディエゴにも問題なかったらしい。
「夏ですから、濃厚な甘さよりも軽やかさ、食感などの考慮もあると、私としては嬉しいですし、ポイント高いですね」
さて、次のショコラ菓子はとハロルドが次の試食へ行く。
「苦みのあるお茶と一緒にするなら、ある程度の甘みや香りもあった方が良いのだろうな」
飲み物で印象が変わると聞いた通りだとディエゴは漏らし、彼女の後を追った。
「これは……やばい、やばい、本当にやばいよ。何て言うかこう……やばい」
「お前の語彙の少なさがやばい」
わくわくしていたオデットが審査と意気込んで試食し、漏らす感想は、本当に美味しいからこそそれしか出ないものだろうが、テオは容赦しなかった。
甘いものは嫌いじゃないが詳しくはないので、オデットの説明をそういうものかと聞くつもりだったが、説明になっていない。
「何が、どういった風に、やばいのかを詳しく」
美味しいという意味だと気づいたテオがフォローに入り、オデットは何とか審査シートへ点数を書き込んでいる。
「難しいね。どれだけテーマに合っているかとかが重要かな」
テオがハロルドとディエゴのすれ違いに気づいて会釈する間もオデットは悩んでいる。
「テーマとは違うかもしれないが、俺はコーヒーが好みだった。甘さがちょうど良かったし、そこまで好きじゃなくても食べ易そうだった」
「私はミルクかな。贔屓したいレベル。でも、夏っぽいフルーツ使ってるとか、アイスがあるとか、見た目でも涼しくなるようなのあったら得点高く上げたい」
「真面目にやれば……」
「今の発言女子力高くてやばい」
甘い物好きの女の子もきっとポイント高い。
テオは評価を初期位置に戻し、ショコラを手にする。
「焼きショコラか。これなら、常温でも融けないな。夏だと融けるのは怖い」
「それに、甘さの中に塩味あるよね。塩キャラメルみたいでいい感じ!」
食べ易いのはポイント高いと2人は感心した。
ハロルドとディエゴが試食待ちをしていると、オデットとテオもやってくる。
「随分人気なのね」
「遠目で見ましたが、見た目も綺麗なんですよ」
オデットがハロルドへ声をかけると、ハロルドはそう語った。
それは、アイディア者を伏せた上でショコラティエが作っているフローズンドリンク。
「華やかだな」
ディエゴが感想を漏らした通り、フローズンドリンクは生クリーム、ショコラで出来ていると思われるアイスクリーム、細かく砕かれたショコラだけでなく、パイナップル、マンゴー、オレンジといったフルーツに色鮮やかなハイビスカスと見た目も華やかだ。
「思ったより甘くないですね」
テオが意外そうに呟く。
ドリンク部分は甘いかと思いきや、コーヒーショコラを使用しており、甘さは控えめ。
コーヒーショコラの砕いた粒とソースが氷とのバランスも良い。
「トッピングで甘さを調整出来るよう配慮しているのかもしれませんね。アイスはキャラメルショコラですし、振りかけられているのもビターです」
「やば過ぎる……」
「見た目も豪華で美味しそうという意味です」
ハロルドに続いたオデットの言葉をテオが訳す。
「どちらが欠けてもバランスが保てないならば……どちらが欠けてもいけないウィンクルムのようなショコラ……というと、比喩的だろうか」
「ディエゴさんに座布団あげてください」
ディエゴの感想にさらっと答えたハロルド。
すると、オデットが審査員席にあったクッションを「座布団の代わり」として持ってきた。
ディエゴが何とも言えない表情でテオを見たが、テオは視線を合わせない。
そいつは、彼女とは違う方向性なんで、そういうことするんです。
●結果発表
試食時間も終わり、審査結果が発表となった。
「やっぱ優勝じゃなかったかー。入賞はしてるけど」
智が茉莉花の隣で残念そうに言う。
「この発想をケーキにしてみれば違ったかもしれませんね」
「え? そうなんです?」
審査員の1人から声を掛けられ、茉莉花が首を傾げる。
「手つきはとても慣れてらっしゃいましたが、飲み物は飲み物でまた勝手が違ったと思います。その辺りが多少味にも出てしまった形でしょうか」
「ああ、そっか。それはあった」
智は、その言葉に納得する。
料理や菓子については店で出せるレベルの腕があると思うが、飲み物、例えばキャラメルマキアートのようなものはやはり勝手が違った。
「なら、そっち方面の腕を磨いた時にまた勝負したいですね」
「おう、次はちゃーんと優勝取りに行くぞ」
茉莉花の言葉に智は屈託なく笑った。
「優勝は、歌菜さんと羽純さんでしたね」
「我らも良い成績ではあるがの」
かのんと朽葉は、優勝賞品として最高級のチョコレートフォンデュのコース招待券を受け取る歌菜と羽純を見た。
2人の結果は、僅差で準優勝だ。
歌菜と羽純は、見た目の華やかさという着目が特に評価されていた。
材料として使われたショコラは、会場のクーラーがきつめと温度管理もされていた通り、普段食べるというより、ちょっとした贅沢で食べるもの……コンクールとして、その贅沢を彩れるようなものに対し、得点が集中したようだ。
「製菓会社のアイディアコンペであれば、お2人の優勝であったかと思いますよ」
女性審査員が、2人へそう声を掛けてきた。
「季節を問わず、誰にでも気軽に食べていただける点は1番優秀でしたから」
「今回は競うものが違ったということじゃったか」
「ですが、今のお言葉を聞けて良かったです」
納得する朽葉の隣でかのんが微笑む。
少しの贅沢を大切な人と楽しむというのも好きだけど、より多くの人が美味しいと言ってくれるものを考案出来て良かった。
壇上では、歌菜と羽純の声が聞こえる。
「お願いした後、ワクワクして待った甲斐がありました♪」
「もっと勢い良く依頼してただろうが」
「それはここで言わなくてもいいじゃない!」
けれど、依頼された若手のショコラティエが笑いながら羽純に同意すると、歌菜は真っ赤な顔で沈黙した。
●コンクールの終わり
「思ったより甘くなくて助かった」
ディエゴは、安堵の溜め息を漏らす。
「飲み物次第で変わるというのも分かった。酒の伴になるとは知らなかった」
「今度試します?」
ハロルドが尋ねると、ディエゴは首を振った。
「エクレールに任せると、ミルクチョコを用意されかねない」
だから、用意されるのに。
「いやあ……美味しかった。参加していたショコラティエのお店はチェックしとかないと」
「桜倉さんと月成さんが選んだショコラティエ、ホテルのレストラン所属らしいな」
真面目に評価していたテオは聞いた情報をそう教えるが───
(あ、これ自分だけじゃ入り難いって俺も連行される)
テオの予感的中は、この数秒後。
「アイディアの方も凄かったな」
「どれも美味しそうでしたね」
優勝した歌菜と羽純は勿論、かのんと朽葉のアイディアも凄いと思ったし、他の参加者だって自分達にはない発想があった。
「アイディア……。おれも何か新作考えてもいいかもな」
「それはいいですけど……」
智が今後作るお菓子にも生かしたいと言うと、茉莉花は智を見た。
「パスタにだけは応用しないでくださいね」
「その応用があったか!」
「聞いてました?」
智が手を打つと、茉莉花が溜め息をつく。
「ショコラパスタ……帰ったらすぐにでも」
「あたし、それ作る日は山登りにでも行ってきますね」
智が反論の声を上げるが、茉莉花は綺麗に無視した。
「惜しかったですけど、楽しかったですね」
かのんは朽葉の隣で微笑んだ。
今度はちゃんとしたお出かけになって良かったと思っているのだろう、微笑には嬉しさも感じ取れた。
「大事なのは楽しむことじゃからの。その意味では全員優勝じゃろうな」
「そうですね。皆楽しそうでした」
かのんは朽葉の言葉に微笑を深める。
朽葉としてはかのんが楽しそうであればそれでいいのだが、かのんは自分だけではなく、と考えるだろうことより、触れた形だ。
「今日のことは、直接会ってお話ししたいです」
話す彼を思い浮かべ、幸せそうに微笑するかのん。
(さて、どのように煽ろうかの)
朽葉の思惑に気づかないかのんは、帰宅後に発生する火花をまだ知らない。
「美味しかったね」
「自分達のアイディアが形になったというのもあるだろうな」
コンクール後、2人もと作って貰ったフローズンドリンクは、美味しかった。
「完全に俺の好みになったような気もするが」
「そんなことないよ? ほら、フォンデュ食べに行こうよ!」
歌菜が羽純の手を引く。
(だって、羽純くんの好きなものにしたかったんだもん)
恥ずかしくて言えない歌菜の心臓はドキドキしている。
(俺好みで考えたのか)
気づいた羽純は、握られている手を握り返す。
「あまりはしゃぐな、少しは落ち着け」
こうして、ショコラコンクールは終わりを告げた。
次の優勝者は誰だろう?
依頼結果:大成功
MVP:
名前:桜倉 歌菜 呼び名:歌菜 |
名前:月成 羽純 呼び名:羽純くん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 真名木風由 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月31日 |
出発日 | 09月06日 00:00 |
予定納品日 | 09月16日 |
参加者
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- 水田 茉莉花(八月一日 智)
- 桜倉 歌菜(月成 羽純)
- オデット・リーベンス(テオ・シャンテ)
- かのん(朽葉)
会議室
-
2015/09/05-21:45
-
2015/09/05-20:15
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2015/09/05-19:58
-
2015/09/05-00:50
-
2015/09/05-00:49
-
2015/09/05-00:49
こんなアイデアで大丈夫かな?とドキドキしつつ、
プラン提出済みです!
どんなショコラが出てくるのか、とっても楽しみですよねっ♪
あらためて、皆様、宜しくお願い致します!
良い一時になりますようにっ -
2015/09/04-22:58
オデットです。よろしくお願いしまーす。
私達は審査員で参加予定かな。
どんなお菓子がでてくるのかすっごく楽しみ! -
2015/09/04-07:15
こんにちは、皆さんよろしくお願いします
私達はアイディア部門に参加してみようかなと思っている所です
プロの方に自分のアイディア反映していただける事って滅多にないかなと思って
どんなショコラができあがるのか楽しみです -
2015/09/03-23:52
桜倉歌菜と申します!
パートナーは羽純くんです。
皆様、よろしくお願いいたします!
私達はアイディア部門で参加しようかなって考えてます。
お料理は得意なんですが、お菓子作りって余りした事ないかも…というのもあり、
プロの方にアイデアを元に作っていただけるって、貴重な体験と思いまして…!
えへへ、ワクワクしますねっ! -
2015/09/03-00:39
皆さんよろしくお願いします。
あー、あたしたちは作る側で参加かな?
ほづみさんがとんでもなく乗り気になってるし(たふり) -
2015/09/03-00:17
よろしくお願いします
私たちは審査員の方で参加したいなって思います