【例祭】太陽の花の迷路(真名木風由 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ムーン・アンバー号から降り立つと、夏の日差しが降り注ぐ。
 いい天気、と思わず目を細める『あなた』達。
 今日は、イベリン王家直轄領へとやってきた。
 フェスタ・ラ・ジェンマ───4年に1度の大祭は、ここも賑わいを見せている。

 祭で賑わう雑踏は、どれもこれも目を引くもの。
 『あなた』達も祭の空気を楽しみつつ、次はどこへ行こうかと相談し合う。
 ふと、目に留まったのは、公園で開催されているという『ヒマワリの迷路』。
 広い公園に見渡す限りのヒマワリが植えられており、それが迷路になっているという。
 2人1組で迷路に挑戦し、タイムアタックするのだとか。
 優秀な成績を収めれば、何か賞品が貰えるらしい。
 賞品がどうとかよりも見渡す限りのヒマワリには興味があるし、それが迷路になっているのは面白そう。
 何より、開花時期の関係で本日が最終日となれば、今日を逃す手はない。
 『あなた』達は言ってみようと言葉を交わし、公園へと歩いていく。

 公園の敷地一杯にヒマワリの花が見える。
 背の高いヒマワリは、なるほど、植え方に配慮すれば迷路になるのだろう。
 申し込みをすると、係員から説明のパンフレットを受け取る。
 別々の、パートナーが見えない位置にある入り口からスタートし、途中合流してからゴールを目指すというヒマワリの迷路。
 ヒマワリを楽しみながら、パートナーとも迷路を楽しもう。

解説

●ルール説明
・神人、精霊共に別々の入り口からスタートします。
入り口地点はそれなりに離れており、また、角度もあってどこから入っているのか分かりません。

・内部はスタンプラリーになっており、スタンプを見つけ、それぞれ所持する台紙に押します。
途中、係員によるチェックポイントがあり、そこまでで2つ集めることが出来、そこで2つのスタンプと合流がされていない場合は通過が出来ません。

・チェックポイント通過後、3つスタンプを集めつつ、ゴールを目指します。
スタンプが全て集まっていないとゴールチェックでアウトになり、集まり終えるまでゴール出来ません。

・ゴール時点でタイムチェックが行われ、タイムに応じた賞品が貰えます。
優秀だと、ちょっと豪華かも?

●消費ジェール
・参加料として、300jr支払います。

●注意・補足事項
・他の方も迷路に挑戦し、楽しんでいます。2人きりではない為、TPOにはご注意ください。
・携帯電話で連絡を取り合う行為やヒマワリの花の壁を押し退けて突き進むといった行為は反則行為とされ、場合によっては弁償料金が発生します。
・ウィンクルム同士の絡みは迷路内で遭遇した場合のみ行われますが、タイムアタックをしている為挨拶程度の軽いものとなります。
・賞品はどのようなものであれ、アイテムとしての配布はございません。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は、お祭りの一環として開催されているヒマワリ迷路への挑戦です。
パートナーと合流し、規定スタンプを集めてからゴールを目指しましょう。
デートよりも楽しさ重視となっております為、まだ精霊と絆を築き上げていない方などもお気軽にご参加いただけると思います。
勿論! 既に絆を築き上げている方同士、楽しい時間を過ごしていただいても問題ありません。

協力して、迷路を解いてくださいね。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  ヒマワリの花って見てると元気になれるわよね
この迷路をクリアしたら、ひまわりの元気を分けてもらえそうだわ
頑張りましょうね

出入り口、別々なのね
どうやって合流したらいいのかしら
そういえば小さい頃「お兄ちゃん」が教えてくれた事が
アルが覚えてるかどうかは判らないけど、でもたぶん……ううん、きっと

進む先は「ヒマワリの花が向いてる方向」
ヒマワリは太陽の花だから
二人で花が向いてる方向へ進めば同じ方向へ進む事になるものね

合流するまでの間にチェックポイントやスタンプの場所を通りかかったら
記憶スキルでしっかりその場所を覚えておかないと

合流できるまではハラハラ合流できたら安心して
とても楽しかったからタイムは気にしない



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  タイムアタックとか、レースとかいう単語を聞くと無意識に熱くなってしまうんですよね…頑張ります。
できるだけ今まで通った道を【記憶】しておいてロスタイムを無くしたいところですよね。

ディエゴさんと合流して早速スタンプラリーの進捗を聞いたんですが
全く進んでないのにびっくりしました、なにやってるんですか、もう!
私との合流しか考えてなかったって…はぁ、別に良いですけど。

…貴方がここを気に入ったんなら、二人でゆっくり散策しましょうか
上を見てください
向日葵の黄色と空の青色が一面に広がってて、なんだか幻想的な景色ですよ。

【他の組と遭遇した時のリアクション】
スタンプラリーの進捗具合を聞いて闘志を燃やす



レベッカ・ヴェスター(トレイス・エッカート)
  賞品って金一封とか…まあないわよね

左手法って聞いた事あるし試してみようかしら
スタンプを見つけたら押してエッカートさんにはまあその内会えるでしょうぐらいの心構えで

ここまでヒマワリが揃うと見事よね
誰かと一緒に見れたらとは思うけど…
…いや、エッカートさんに本が絡まない時の対応は期待できないわね
いつも通り相槌はあるけど何か結局私しか喋ってないって様子が目に浮かぶようだわ

独り言聞かれてたんじゃと慌てるけどこの様子ならセーフ?

じゃあチェックポイント探さないとね
時間もおしてるし急ぎましょうか

いや、これ一応タイムアタック…
見るからに急ぐ気はないわね
…やっぱり聞こえてたんじゃない
まあ、いっか
たまにはのんびりでも


神祈 無色(ミリュウ)
 
・序盤は軒並みあるひまわりに興味津々、迷路なんてなかったんや。
・しかししばらくたってミリュウが居ない事を再確認。
急に心細くなったらしく涙目になりつつっていうか泣きながら迷路をうろうろうろうろ。
・さらに時間経過で怖くなってきたらしく、逃げる様になりふり構わず走り出す。

『…………せんせ?せんせ、ない…………せんせ、どこ、せんせ……』(´・ω・`)

・当然スタンプの事なんて頭にないのでチェックポイント通過できず!(どいひ
・係員に止められてパニック起こしてあーあー泣いてたら迎えに来たミリュウの赤いマントが見えて突進。
・ミリュウに抱えられたらちゃんと泣き止んで大人しくなる。

『ひまーり?……ひまり……』


八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
  そーちゃ…蒼龍さんとは初めてのお出かけ
また昔みたいに仲良くしたいけど、どうしても緊張してしまう
それになんだか意地悪されそうだし…
ううん、ここは迷路に集中です
やるからには全力で!

とはいったものの、相手は植物なので位置や目印として覚えづらいです
成果の程はあまり芳しくありません…仕方ない、少し休憩しましょう
ふと目の前のヒマワリをじっと見る
これ、今の蒼龍さんの背丈と同じくらいだ
昔は…このくらいだったかな…(手で自分の腰あたりを指し

えっ、わっ!?
びっくりした…そーちゃんかぁ
ふふっ、昔もこんなことがあった気がして…ありがとう、なんだか緊張も解れたみたい

ねえ、そーちゃん…また昔みたいに仲良くしてくれる?


●楽しめなくとも
 ミリュウは、神祈 無色と共にヒマワリの迷路へとやってきた。
 見渡す限りのヒマワリには無色も興味津々、迷路という催し物すら知らずに眺めている。
 ミリュウはヒマワリの迷路へ申し込みを行う間も無色はヒマワリを眺めており、係員の説明を聞いていない。
「では、これからスタート地点へ案内しますね。お嬢ちゃんはこちらへどうぞー」
 男性の係員が無色の手を引き、案内しようとする。
 ミリュウは、無色に背を向けて正反対の方向へ───
「せんせ……せんせ……!!」
 無色が引き離されると声を上げる。
 双方、『それなりに離れた』『見えない角度にある』別々のスタート地点へ移動する必要があるのだ、その移動の為に案内される時点で無色がミリュウが自分の傍を離れるという『異常』に気づかない訳がない。
「む……」
 別のスタート地点へ移動するミリュウが、後方の騒ぎに気づいて振り返る。
 涙目の無色が男性の係員の手を振り解き、なりふり構わず突進するようにこちらへ走ってきた。
 無色が、まるでタックルするかのようにしがみついてくる。
「いく、いや……! せんせ、いいこ、する。いかないで……ひとり、いや!」
 無色は大泣きと言っていいレベルで泣いており、収まりそうにない。
 ミリュウは離れない様子の無色を見る。
(スタート地点への移動を失念したか)
 無色は、特殊な事情を持っている。
 ミリュウの元でのほほんと暮らしているとは言え、その過去は無色の中に息づいている。ミリュウの元で安息を得ていればいる程、ミリュウがいなくなるかもしれない不安は人一倍敏感なもの……自分の背を向けていなくなると思ってしまったら、その反応は言うまでもない。
 無色は、目の前のヒマワリの迷路よりもミリュウを選んだ。
 離すものかとばかりにミリュウに泣きながらしがみつく姿は、自分がミリュウに捨てられると恐怖しているかのよう。
「お嬢さんがお可哀想ですし、迷路はお取り止めになった方が……」
「そうするしかあるまいな」
 見かねた係員に声をかけられ、ミリュウは無色を抱き上げた。
 子供騙しの迷路のタイムアタックの助手は、そうか、この天才の傍を離れる方が嫌か。
 栄光よりも自分がいいと言う辺り、自分の人を魅了する才覚の何と恐ろしいことだろう。
「とりあえず、貴様の顔は今とても酷い。顔を拭け」
 ミリュウがそう言うと、無色はハンカチを探そうとごそごそして、見つからないことに落胆した後、何を思い立ったのかくたくたになって、おもむきが出始めているその帽子を手にすると、それで顔を拭き出した。
「無色、物にはそれぞれの役割というものがある。帽子は顔を拭く役目にあるものではない」
「せんせ、きれい、なった?」
 溜め息混じりのミリュウの言葉など聞いていない様子で無色が笑う。
(後で帽子は洗濯するしかあるまい)
 ミリュウは、抱え上げている無色を肩の上へ乗せる。
「あれがヒマワリという花だ。折角だ、覚えて帰れ」
 迷路の中に入れずとも迷路の外周を回れば、ヒマワリの美しさは無色に教えられるだろう。
「ひまーり? ……ひまり……」
 すっかり大人しくなった様子の無色はミリュウの肩の上でヒマワリをじっと見ている。
 遊戯の趣旨も解っていない無色は、国語は勿論、まだまだ学ぶことが多そうだ。
 何から教えてやろうかと考えていると、無色のお腹が自己主張の声を上げた。
 沢山泣いたから、空腹にでもなったのだろう。
「飯にするか。今日は貴様の好きなものを選ぶがいい」
「ぱすた! せんせ、ぱすた! みーと……?」
「ミートソースか。殺人鬼の口元にならぬようにな」
 先日、突発的に発生した任務で褒められたり、美味しく食べたからだろうか、無色はあの時と同じパスタを希望してくる。
 ミリュウは事前にそう言いつつも、きっとあの時と同じ口元になるだろうと確信している。
 入れなかった迷路と同じ位の出費になりそうだが、不思議と不快ではなく、ミリュウはヒマワリの迷路を振り返ることなく後にした。

●もえる瞳
 ハロルドは、スタート地点で燃えていた。
(タイムアタックとか、レースとかいう単語を聞くと無意識に熱くなってしまうんですよね……頑張ります)
 が、別場所からスタートするディエゴ・ルナ・クィンテロとの合流も鍵だ。
(出来るだけ今まで通った道を記憶しておいてロスタイムをなくしたい所ですよね)
 自身の記憶力もしっかり活用せねばとハロルドはスタートの合図と共に迷路の中へ入った。

 同じ時刻、ディエゴもスタートしていた。
(エクレールと合流せねば……)
 とは言え、どうしたものか分からない。
 イベントで作られているものだから、実戦の敵拠点とは訳が違う。
(エクレールがいそうな方向……)
 勘頼りにはなるが、ディエゴはスタート地点へ歩いていったハロルドの方角とヒマワリが植えられている法則性を確認し、当たりをつけて歩き出す。
 最優先は、ハロルドの合流!!
 ……ディエゴ、その行き止まりにスタンプあるけど、通過。
 すると、程なく───
「ディエゴさん、こちらでしたか!」
 ハロルドと合流した。
 既に彼女は担当のスタンプを押して……スタンプ?
「しまった、スタンプラリーをすっかり忘れてた。いや、何となく……早く合流したいと思って、それしか考えてなかった」
「……別に、いいですけど」
 スタンプを押してないと聞いて、ハロルドが「何やってるんですか、もう!」と言いながらも、ディエゴの言い分を聞くと許さざるを得なくなる。
「真面目にやるよ、悪いな」
 一瞬不機嫌になったのに、彼女は何故か嬉しそうだ。
(あと、少し照れている?)
 今までの経験から指摘すると、迷路のタイムアタックが俺の気絶へのタイムアタックになるかもしれないから、黙っておこう。
 それに、本人も気づかないものを自分だけが知っているのも悪くない。

「あなたがここを気に入ったのなら、2人でゆっくり散策しましょうか」
「そう言いながらも、攻略に無駄がないよな」
 ディエゴが通過したスタンプ(何で通過するんですかというツッコミは入った)を押し、チェックポイントをクリアしたハロルドとディエゴは、周囲を楽しみながらも先へ進む。
「上を見てください。ヒマワリの黄色と空の青色が一面に広がってて、何だか幻想的な景色ですよ」
 上を見上げるハロルドの横顔を見て、ふとディエゴが漏らした。
「如何にも夏の景色なのに、静かで不思議な雰囲気があって……どうやらここを気に入ったようだと思っていたが、納得した」
「何がです?」
「近くにあった色だった」
 だからかと納得するディエゴの隣のハロルドが顔を伏せ沈黙。
「どうかしたか?」
「……ディエゴさん、無自覚でクリティカル繰り出さないで貰えますか?」
「??」
 ディエゴにはよく分からなかったが、さっきよりも照れたハロルドが嬉しそうに見えたので、それでいいということにした。

 散歩のつもり、と言っても、ハロルドが最初にガチだったことや迷路を記憶したこともあり、2人は優秀な成績で迷路を突破した。
「ヒマワリのオイルが入ったシャンプーですか」
 ハロルドはシャンプーを見、ヒマワリの迷路らしい賞品だと口にする。
「あれだけ燃えてれば、優秀賞になるだろうな」
「途中からディエゴさんに萌えたので、燃えたのとは違う気もしますが」
「ちょっと待て」
 聞き捨てならないとディエゴがヒマワリのオイルが入ったシャンプーを手に顔を引き攣らせると、ハロルドが少し可哀想な子を見る目でディエゴを見た。
「ご自分の可愛さに気づかないなんて、何てあざといんですか」
「えくれーる……おれたちははなしあいがたりないんじゃないか」
「そうですね、それではかき氷でも食べながら話し合いましょうか。ダーリン?」
 感情の行方を知らない声音でしか言えなくなったディエゴへハロルドが笑う。
 今日見た中で、1番嬉しそうな笑顔だった。

 尚、賞品のシャンプーでディエゴの髪を洗おうかというハロルドの申し出は、謹んでお断りしたのが、この後の話し合いのダイジェスト。

●笑顔と共に
 月野 輝は、迷路の入り口に立っていた。
(ヒマワリの花って、見ていると元気になれるわよね)
 隣にアルベルトの姿はない。
 別々の入り口だから、それは仕方がない。
(どうやって合流したらいいのかしら?)
 本能的に理解出来なかったから、無色は取り乱してミリュウと共に去っていったと思うが、輝にも分からない。
(小さい頃『お兄ちゃん』が教えてくれたことがあったわね)
 そのことを憶えてくれているかどうかは分からない。
 けれど……多分、いや、きっと。
「この迷路をクリアしたら、ヒマワリの元気を分けて貰えそうだわ」
 頑張りましょう、と呟き、輝スタート。

 同時刻、アルベルトもスタートしていた。
(まずは合流しないといけない、か)
 迷わないよう右手の壁に沿うよう動くかとアルベルトは右側に寄った。
 周囲には、自分のように合流していない者や合流したけれどスタンプを求めて彷徨っているペアの両方いる。
(昔、輝が迷子になった時に教えたことがあったような気がする)
 ヒマワリは太陽の花だから、花が向いている方向で方角が解る、と。
 ならば───
(輝が憶えているかどうかは分からないが……意識して向かってみよう)
 出来る限りにはなるだろうが、と心の中で呟くアルベルト。
 ふと、少し前をディエゴが足早に歩いていることに気づく。
 曲がり角もあるようだが、ディエゴは直感的に曲がり角には見向きもしないで歩いていった。
 アルベルトは一応、覗き込んだ。
(……後で、彼は怒られるな)
 何となくそう思いながら、アルベルトはその先にあったスタンプを押した。

 さて、その頃、輝はヒマワリの花が向いている方向を意識して進んでいた。
(2人で花が向いている方向へ進めば同じ方向に進むことになるものね)
 輝はそれならば逢えると確信して、歩く。
 途中、ハロルドに会い、彼女が既にスタンプを押していることを知る。
 輝もスタンプは押したと言うと、ハロルドは「お互い早く合流出来るといいですね」と歩いていくが、その背中に闘志が漲っていた。
 曲がり角を曲がった所でディエゴに合流したらしく、彼ららしいやり取りに吹き出しながら、(私も早くアルと合流したい)と太陽の花を見上げて思っていたら───
「輝?」
 曲がり角をちょうど曲がってきたアルベルトが、そこにいた。
 アル、と輝が名前を呼ぶ前に、アルベルトがいきなり笑い出す。
「ど、どうかしたの?」
「ヒマワリの迷路の効果について考えてて」
 不思議そうな輝にアルベルトはその理由を教えてくれた。

 まだ幼かったあの頃、輝はヒマワリの花の下にいた。
 迷路のような作りではなかったし、こんなに数多く咲いている場所ではなかった。
 けれど、小さな輝の笑顔は、まるで太陽のようだった。
(懐かしい)
 この曲がり角を曲がったら、輝がいる……なんてことは───

 あったので、笑った。

「それは私も笑いそうね」
 輝も懐かしそうに笑う。
「思ったより早く合流が出来て良かった」
「同じ方向に進めば逢えるのは早いと思ったの」
 アルベルトへ輝が笑う。
 輝も、憶えてくれていた。
 少し目を瞠り、同じことを考えてくれていたとアルベルトは笑う。
「合流出来るまでは心配だったけど、合流しちゃうと安心してしまうものね」
「楽しむこと重視も悪くない?」
「もう、私の言葉を取らないで!」
 アルベルトは、それを聞いて笑う。
 今日の自分は、よく笑う。
 仮面ではない笑顔は、輝がいるから浮かべられるのだろう。

「とても楽しかったから、タイムは気にしなかったのだけど」
「合流が早かったから、だろうね」
 ゴールした輝とアルベルトの手には、ヒマワリのオイル入りシャンプー。
 と、先にゴールしたハロルドとディエゴもヒマワリのオイル入りシャンプーを手にしたようだ。
「(特にディエゴさんが)楽しそうですよね」
 会話は聞こえずともディエゴが手玉にされている空気を察知したアルベルトが先程と違う『腹黒眼鏡』で微笑ましそうだったので、輝は後日のディエゴの心の平和を思った。

●それも贅沢
 スタートを待つトレイス・エッカートは、スタートの仕方を係員から説明されながら、どこか上の空でヒマワリの花を見ていた。
(なるほど、ヒマワリにはこういった使い方もあるのか)
 背の高いヒマワリならば、計算して植えればこういうことも出来るだろう。
 一応聞いていた手順でスタートしながらも、トレイスの歩調はのんびりしたものだ。
 別に急がなくとも、パートナーであるレベッカ・ヴェスターがその分頑張ろうだろうからその内会えるとマイペース思考でゆっくりと。
 途中、同じムーン・アンバー号に乗った輝とすれ違い、トレイスは軽く会釈する。
(……何を見ているのだろう)
 輝が上を見上げがちだと気になったトレイスはその視線の先を見る。
 ヒマワリの花の方向を確認しているようだ。
(確か、ヒマワリは……)
 トレイスは本で読んだことを思い返しながら、それでも歩調を速めずのんびり歩いていく。

 さて、レベッカはトレイスの割と予想通りに動いていた。
(賞品が金一封とか……まあ、ないわよね)
 賞品があるとなり、レベッカもやる気がある。
 そういうイベントではないのが残念だが、賞品があるならばと以前聞いたことがある左手法を実践しており、自身のスタンプは押した。
 途中、右手法を用いている様子のアルベルトとすれ違い、「考えていることは同じみたいね」と挨拶だけし、アルベルトが見上げているようにレベッカもヒマワリを見上げる。
「ここまでヒマワリが揃うと見事よね」
 誰か隣にいたらいいと思うけど……隣には誰もいないのが現実。
 今日はトレイスと来たが───
「……エッカートさんに本が絡まない時の対応は期待出来ないわね」
 レベッカの脳裏に過ぎるのは、トレイスの『本が絡まない時の姿』だ。
 本が絡むと饒舌になるが、普段は……適当の一言で説明していいんじゃないだろうか。
「いつも通り相槌はあるだろうけど、何か、結局私しか喋ってなさそう」
 ああ、目に浮かぶ。

「あ、レベッカ」

 思考を遮るようにトレイスが声を掛けてきた。
「やあ、どうしたんだ?」
 やけにレベッカがびくっとしているとトレイスは首を傾げる。
(独り言聞かれてたかもしれない……けど、この様子ならセーフ?)
 なんて、レベッカは考えていたからびくっとしたのだが。
「その内会えるでしょう位の心構えだったから、思ったより早かったと思っていたのよ」
「そう? でも、そんなに急ぐことはないんじゃないか?」
 取り繕うレベッカへトレイスがそう言うと、レベッカは「いや、これ一応タイムアタック……」と呆れた溜め息を漏らす。
 スタンプも揃っているし、チェックポイントを探して急ごうという気持ちもあったが、トレイスに急ぐつもりが全くないと分かったからだろう。
「偶然とは言え、折角最終日に滑り込めたヒマワリの迷路……後でじっくり見ておけば良かったと後悔するより、後悔のないようにすればいいんじゃないか? 金一封でこの景色はどうにもならないし」
 レベッカはそう言うトレイスの隣を彼の歩調に合わせてのんびり歩く。
 彼の言う通り、この景色は簡単に見られるものではないだろう。
「それに、ヒマワリ見たいんだろう?」
「……やっぱり聞いてたわね」
「歩いてたら、レベッカらしき声がぶつぶつ何か言ってるから行ったら、レベッカがそう言ってただけとも言うが」
 周囲に誰もいないと思っていただけあり、小さい声で呟いてはいなかった。
 が、ヒマワリの壁の向こうにも人がいた可能性はあるし、トレイスものんびりでも歩いているなら聞くかもしれない。
 それは、そうだ。
 トレイスが特に気にした様子ではないのは、自覚はしているということか。
「まあ、いっか」
 レベッカは、軽く肩を竦めた。
 たまには、のんびり楽しんでもいい。

 ヒマワリを楽しみつつ、何だかんだでそこそこ優秀な成績でゴールしたらしく、公園の屋台の無料引換券を2人で貰った。
 屋台攻略に戦略的になるレベッカの隣で、トレイスはのんびり相槌を打っている。

●初めてのお出かけ?
『やるからには全力で!』
 蒼龍・シンフェーアは、そう言った八神 伊万里の横顔を思い出した。
(イマちゃん、気合入ってたよね……)
 長い間会っていなかった幼馴染。
 彼女がタブロスへ引っ越す際に交わした約束は宙へ浮き───知らない間に自分がいた場所には知らない猫がいた。
(一杯遊んでまた昔みたいに仲良くなる……警戒しているみたいだし、今の距離を縮める為には僕も本気を出した方が好印象かもしれない)
 よーし、頑張ろう!
 蒼龍は伊万里とは違う方向の気合と共にスタートした。

 同時刻にスタートした伊万里は、ヒマワリの迷路に少々戸惑っていた。
 ヒマワリという植物で作られた迷路だからか、位置や目印を把握し難い。
 途中で会ったレベッカも同じような見解だったが、レベッカはその内会える位の心積もりらしい。
「……仕方ない、少し休憩しましょう」
 成果があまり芳しくないと焦っても仕方がない。
 最終的にクリアする為には適度な休息も必要───伊万里は生真面目にそう考えて休息の為に設置されているベンチへ腰を下ろす。
(あのヒマワリ……今の蒼龍さんの背丈と同じ位だ)
 昔は、自分の腰の辺りだっただろうか。
 8年の月日は自分が憶えている彼の姿を大きく変えてしまった。
 また昔みたいに仲良くしたいのに、どうしても緊張してしまう。
 よく分からないが、少し怒っているように感じることもあるし、何だか意地悪されそうな気がして……。
 けれど、それでも、今日は蒼龍と出かけてみたのだ。
 いつも隣にいる甘味好きの彼ではなく───
「ここは迷路に集中しましょう」
 一休みしたと伊万里は立ち上がり、歩き出そうとしたその時だ。
「わっ!」
「えっ、わっ!?」
 突然、手前にあったベンチから蒼龍が飛び出してきた。
「ビックリした……」
 そーちゃんかぁ。
 伊万里の最後の言葉を聞き、蒼龍が嬉しそうに瞳を細める。
 8年の年月は、何もかも変えてしまった。
 そーちゃんと笑っていた女の子は、蒼龍さんとどこか警戒した顔で自分を呼んでいたから。
 それが、最も時の隔たりを実感させてくれた。
 ……伊万里がどれだけ自覚しているか判らないけれど。
「イマちゃん発見したのに、何もないって言うのもね? 気合入れるのもいいけど、ずっとだと疲れちゃうよ?」
 驚かせ作戦成功に笑う蒼龍は、伊万里が同じように笑っているのを見た。
 見たかった笑顔だ。
「昔もこんなことがあった気がする。……ありがとう、何だか緊張も解れたみたい」
「それなら、良かった。肩の力抜いて、2人で探せばゴールなんてすぐだよね!」
 伊万里の言葉には、迷路以外の意味があるかもしれない。
 けれど、今、聞くべき時ではない。
 蒼龍は、それが分かるから、迷路のことだけを言った。
「左手法、右手法……簡単なのだとそういう攻略方法があるよ? 使ってる人結構いたし」
 攻略に手間取っていると伊万里が言うと、蒼龍は伊万里とすれ違ったレベッカだけでなく、アルベルトもそうした方法(彼は右手法らしい)で攻略していると教えた。
「壁伝いに進んでいけば、辿り着ける……と」
「中には直感ちっくに進んでいたり、よくヒマワリを観察しているような人もいたけどね」
 伊万里の脳裏に思い当たる人物がリストアップされたが、とりあえず、今は迷路を楽しむことにした。
 蒼龍の提案で壁伝いに歩き、2人でスタンプを押す。
 合流してから、チェックポイントまでとてもスムーズだ。
「ねえ、そーちゃん……また昔みたいに仲良くしてくれる?」
「僕は最初からイマちゃんともっと仲良くなりたいって思ってるよ。さあ、一緒にゴール目指そう!」
「うん!」
 2人は、ゴールを目指して進んでいく。
 きっと、参加賞しか貰えないけど、大事なのはまた仲良くしようと思えたこと。
 伊万里は、そう思っている。

 だから、伊万里は知らない。

(イマちゃんは、返して貰うからね)
 蒼龍が自身がいる筈の場所にいた猫へそう呟いたことを。

 太陽の花の迷路。
 太陽を想う花の先には誰がいる?



依頼結果:成功
MVP
名前:月野 輝
呼び名:輝
  名前:アルベルト
呼び名:アル

 

名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月22日
出発日 08月28日 00:00
予定納品日 09月07日

参加者

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