プロローグ
A.R.O.A.から呼び出しを受けた君。
指定された会議室の扉を開けると、そこには既に一人の精霊がいて君を待っていた。
「こんにちわ、はじめまして」
精霊らしい美しい顔でにこやかに笑いながら挨拶をする彼。
同席していたA.R.O.A.職員の説明によれば、彼こそが、あるいは彼もまた、あなたに適合する精霊なのだという。
そして君は今日、この彼と契約をするために、ここに呼び出されてきたそうだ。
「今日から僕が君のパートナーだ。よろしくね」
君の手を取り、その手の甲に口付けをしようとする彼。
それが神人である君と、精霊である彼との契約。
ウィンクルムとして歩み出す二人の、最初の一歩である。
その精霊は君にとってはじめてのパートナーだろうか?
それとも君にはすでにパートナーがいて、彼は二人目の精霊となるのだろうか。
彼は一体どんな精霊なのだろう?
初対面だろうか?あるいは前からの知り合いだろうか?
そして君は、相手となる精霊にどんな気持ちを抱くのだろう?
ウィンクルムとしての物語の第1ページ。
そこには契約する精霊それぞれのドラマがあるだろう。
君と彼との、ウィンクルムとしての初顔合わせ。
その瞬間は一体どんな光景となるのであろうか。
解説
今回は各ウィンクルム個別でのお話となります
他のウィンクルムとの絡みはありません
●目的
神人である君と、パートナーとなる精霊
ウィンクルムとして契約するために顔を合わせた、その時のことを教えてください
状況によって多少変動はあるとは思いますが
顔合わせから契約が完了するまでくらいが描写範囲になると思います
●精霊について
追加精霊との顔合わせでも構いませんし
一人目の精霊との顔合わせの時のことを思い出していただいても構いません
●契約の場面
神人として顕現するより前に面識のあった方もいらっしゃるとは思いますが
今回は、契約のために顔を合わせた時のお話とさせてください
プラン内で「お前はあの時の!」などと過去を語っていただく分には構いません
●消費Jr
A.R.O.A.までの交通費として一律300Jrいただきます
●その他
神人と精霊の適合は、
基本的には神人が顕現すると、A.R.O.A.が独自のシステムによりその神人に適合する精霊を探し出してくる
という形で行われています
世界観を大きく逸脱するプランを頂いてしまった場合、描写しかねる可能性も出てまいりますので
念のため、今一度ワールドガイドのご確認をお願いいたします
ゲームマスターより
プロローグを読んで下さってありがとうございます。
追加精霊きましたね!
GMとしても、これからどんな展開が待ち受けているのか楽しみです。
追加精霊との契約でも、元からの精霊との契約でも、
皆様のウィンクルムとしての物語の始まりを教えてください。
よろしくお願いします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
A.R.O.A.さんに保護していただいてからまだそんなに立っていないのですが…もうパートナーになる精霊さんが見つかったんですね。 契約をすれば私もウィンクルム…私なんか務まるでしょうか…と言うかパートナーさんの足手まといにならないかも心配です(溜息) この方が私のパートナー…とっても素敵な人。 私なんかがパートナーで申し訳ないくらい。 (手を取って跪く姿に驚く …今の…契約? えっ?えっ?そんなまだきちんとお話もしてないのに…いいんですか? この人はまっすぐ私を見てくれる…ならば私も…この人と共に歩もう。 この人のことを知って私のことを分かってもらって…素敵なウィンクルムになろう。 これからよろしくお願いします |
月野 輝(アルベルト)
適合した精霊さんってどんな人かしら いい人だといいな ■顔合わせ あの、初めまして、月野輝と言います ぺこりと頭を下げてから顔を上げて その時初めてちゃんと顔を見たの ちょっと不思議そうに、どこか寂しそうな表情でこちらを見てたのに気づいて一瞬ドキッ その表情はすぐに消えて、にこやかな笑顔に変わったけど 私、何か変な事言ったかしら? いけない、ボロが出ないようにいつもより気を引き締めないと 大人の女性に見えるように 「敬語は無し。名前も呼び捨てで」と言われて、いい人そうでホッとしつつアルと呼ぶ事に でもアルは敬語使ってるのよね…? 契約の手の甲への口づけは緊張して 口づけた後アルがクスッと笑った気がしたんだけど…気のせい? |
ユズリア・アーチェイド(ハルロオ・サラーム)
私が顕現したのは父母を落盤事故で失った後でした 先日オーガが暴れた時トンネルが弱くなっていたそうです 詮無いことですが私に何か出来たのではないか誰かを守る力がほしいと泣き暮らしながら思った時、紋章が浮かんだのです AROAの方に連れて来られた会議室にハルロオがいました 身なりも仕草も粗暴で今まで付き合ったことのない階層の人に少々戸惑いました 「それももちろん嘘ではありませんが、私の願いはアーチェイド家の再興ですわ。誰かを守りたいという祈りを叶えている間に当家の評価が上がればと考えています」 確かに打算かもしれません…… それでも私にはどちらも叶えたい強い願いなのです! 「ユズリアで構いませんわ、ハルロオ」 |
Elly Schwarz(Hein)
・精霊と初対面時:兄に酷似の衝撃で、思わず兄ですかと聞いてしまっていた ・A.R.O.A.からの突然の通達にどんな精霊か緊張しながら本部に到着 ・以前会っていた事を思い出し羞恥心に浸る ・が、心情的には本当に兄ではないのかとまだ疑っている (どんな精霊の方が新たな仲間になるのでしょうか) あ、あああー!(よ、よりによってあの方!?) ああの!い、以前は大変失礼な事を!ほ、本当に似ていて! (兄さんが精霊だなんて聞いた事は無いけど…でもやっぱり似てるんです) ・彼からの忠告 僕は…僕はもっと強くなりたい。 ですから、何度でも立ち上がる覚悟です! 改めて、あなたの力を僕に貸して下さい! (僕は皆の為に強くならなくては!) |
八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
もう騙されません ウィンクルムの契約はお見合いじゃない 通された部屋で新しい精霊の資料を読む 蒼龍って、もしかしてそーちゃん? 再会して硬直 こんなにかっこよくなってるなんて もうそーちゃんって呼ぶのは失礼かな ええと、久しぶりです、蒼龍…さん 約束、したのは覚えてるんだけど…私あの時、なんて言いました? うっ、怒ってる…よね、ごめんなさい 気を取り直して、ちゃんと契約しなきゃ って、手!痛いです…! あの、私そーちゃんとお別れするのが悲しくて そのショックで約束の内容忘れちゃったみたいで… とにかくその、ごめんなさい ちゃんと思い出すから、もう許して… うう、この人こんなに意地悪だったかな? 振り回される未来しか見えません… |
●海に飛び込む君
一番最初に目に飛び込んできたのは澄んだ蒼だった。明るくて懐の深い、南国の海を思わせる色合いの瞳。
打ち寄せる波の音すら聞こえてきそうな気がして、イヴェリア・ルーツは軽く頭を振って目の前に立つ少女、淡島 咲に意識を戻した。
A.R.O.A.から事前に知らされていた情報によれば、神人であるという以外特長の無い女の子であると思われたが、それは大間違いだったようだ。
「この方が私のパートナー……?」
首を傾げながら、おっとりと呟く咲。その声音の何と心地よいことか。
それは彼女がイヴェリアのパートナーとなる相手だからだろうか?
理由は定かではないものの、言葉にできぬ胸のうずきは、イヴェリアが今までに感じたことのないものであった。
人はそれを一目惚れと呼ぶ。
子犬の毛のように柔らかそうな長い黒髪に触れる代わりに、イヴェリアは咲の細い手を取った。
咲の驚いた様子には構わずに、咲の前に跪きその手の甲に口付ける。
「……今の……契約?」
半ば呆然と呟く咲の声音を味わいつつ顔を上げるイヴェリア。契約は完了した。
「えっ?えっ?そんなまだきちんとお話もしてないのに……」
立ち上がるイヴェリアを追う咲の視線。
「いいんですか?」
首を傾げ、上目遣いに訊ねる咲にイヴェリアは答えた。
「俺は初めて愛しいと思える人に出会った」
だからそれでいいのだ、と。
イヴェリアに引き合わされる直前、咲は連れてこられた部屋の中で溜息をついていた。
A.R.O.A.に保護されてから日も浅いというのに、もうパートナーになる精霊が見つかったのだという。
保護してもらえた事には感謝しているものの。
「私なんかにウィンクルムが務まるでしょうか……」
契約をしてしまえば咲もウィンクルムとなる。
自分がおっとりマイペースであることは自覚している咲としては、ウィンクルムとしてオーガと戦う自分の姿を上手く想像することができない。
「……と言うかパートナーさんの足手まといにならないかも心配です」
神人である自分とパートナーとなる精霊。
長く深い付き合いになることは容易に想像できるだけに、足手まといになって迷惑をかけてしまうような事態は避けたいのだ。
胸の中に溜まった重苦しい空気を少しでも吐き出すかのように、溜息を繰り返す咲。
そしてついに扉が開かれ、イヴェリアが咲の目の前へと現れたのだ。
「とっても素敵な人。私なんかがパートナーで申し訳ないくらい」
それは、咲の中にわだかまっていた不安を一瞬で吹き飛ばすほどに鮮烈な、イヴェリアとの出会いだった。
驚くほどにあっさりとした契約を済ませた後、咲は改めてイヴェリアの顔を見上げた。
真面目そうな琥珀色の瞳が、どこまでもまっすぐに咲を見下ろしている。
(この人はまっすぐ私を見てくれる。ならば私も……この人と共に歩もう)
一方イヴェリアは、先ほどまでは戸惑いの色を浮かべていた咲の瞳に、強い意志の光が生まれつつある様子を興味深く見つめていた。
(神人、精霊、ウィンクルム……興味はあったし今も興味は尽きない)
イヴェリアにとって『神人』というのは特別な存在だ。『神人のことを知る』という事は、彼の人生の目的でもあり仕事でもある。
(ウィンクルムだから惹かれあう?そんなことは関係ないむしろ利用してやる)
初めて愛おしいと思った咲という神人を知るためならば、惹かれあうのはむしろ都合が良い。
運命に全く怯むことのないイヴェリア。
言葉は交わさずとも、どことなく伝わってくる強い意志の気配に、咲はこの運命の海に飛び込むことを決意した。
(この人のことを知って私のことを分かってもらって……素敵なウィンクルムになろう)
保護してくれたA.R.O.A.に恩を返すためにも。
「これからよろしくお願いします」
律儀に頭を下げた咲に、イヴェリアが「よろしく頼む」とうなずいた。
●16年ぶりの君
アルベルト・フォン・シラーが自分に適合する神人が現れたと聞かされたのは、つい先日のことだった。
告げられたその神人の名にアルベルトの眼鏡の奥の瞳がわずかに見開かれる。
(まさか……)
それはアルベルトの両親がまだ生きていた頃の、幸せな子供時代の記憶そのもの。
すでに遠い過去へと過ぎ去った当時の温かさが再びこの手に戻るのかもしれないと、アルベルトは柄にもない淡い期待を胸に神人と引き合わされるその時を待っていた。
一方の月野 輝は、適合したという精霊の名を聞かされても『彼』のことを思い出すことはできなかった。
代わりに輝の頭に浮かんだのは、ごくごく当たり前の疑問。
(適合した精霊さんってどんな人かしら?)
パートナーとして共に歩まなくてはならない相手なら、いい人だといい。輝はそう思う。
そしてそれは相手もまた同じであるだろうと輝は考えた。
聞くところによると適合する精霊は輝よりも8歳ほども年上であるらしい。
まだ若さを残す自分と違い、十分な大人な相手。
その相手を失望させぬよう、少しでも大人に見えるように……。
輝は緊張と共にそのドアを開ける。
「あの、初めまして、月野輝といいます」
名乗りと共に、輝はまず深く頭を下げる。
おじぎに従いその顔が伏せられるまでの一瞬で、アルベルトは確信した。
(やっぱりあの子だ)
けれども、期待が現実になる喜びと同時に湧き上がる寂しさがある。
輝は今「初めまして」と言った。つまり彼女の中には自分の顔も名前も残っていなかったということだ。
「初めまして」
平静を装って無難に返すアルベルト。
だが輝の言葉は思いの他深くアルベルトの胸に突き刺さったらしい。
顔を上げ、改めてアルベルトを見た輝が、そこに寂しさの影を認めて驚きの表情を浮かべる。
(私、何か変な事言ったかしら?)
口元に手を当て心配そうにアルベルトを見遣る輝に、アルベルトは自分がどんな顔をしていたかを悟った。
(私らしくもない)
何食わぬ顔で笑顔の仮面を被ってしまえば、もう先程の表情は幻のように隠れてしまう。
(覚えてないなら好都合かもしれない)
彼女が知っているはずの、シラー家に養子に行く前の幸せなアルベルトはもうどこにもいない。
ここにいるのは、目の前で殺されゆく両親に何もできなかった自責の念を、罪人の枷のようにまとうアルベルトだけなのだから。
そんな事を思うアルベルトの視線の先。
一見、礼儀正しい態度で控えめにアルベルトを見ている輝だが、アルベルトはその肩に緊張を見て取った。
こんな緊張感を持たれたままの関係では困ると、アルベルトはある提案を口にする。
「敬語はいりませんし、名前も呼び捨てで結構ですよ」
言葉には力がある。言葉を変えれば、また気持ちも変わってくるだろうと踏んだのだ。
アルベルトの申し出にほっとした表情を見せる輝。
「それならアルと呼んでも?」
「ええ、構いませんよ」
笑って頷くアルベルトの胸を刺す、切ない思い出。
そう、3歳の輝にアルベルトは「アルお兄ちゃん」と呼ばれていたのだ。
(彼女は変わってない)
懐かしさを感じながら輝の前に跪いてその手を取れば、輝の身体が再び強張るのが分かった。
その手に浮かぶ青い紋章に口付けるアルベルト。
紋章の色が鮮やかな赤へと変わる。
これで二人はウィンクルムとなった。
立ち上がり、改めて輝の顔を見たアルベルトの口元に微かな笑いが浮かぶ。
アルベルトが『アルお兄ちゃん』だと気づかない輝は、アルベルト笑みの訳をまだ知る由も無かった。
●ギャップの君
A.R.O.A.の会議室で引き合わされた、ユズリア・アーチェイドとハルロオ・サラーム。
2人が最初に感じたものはギャップだった。
ハルロオの手入れの行き届いていない身なり、粗暴な仕草、油断なく光る目。
それらは全て、ハルオロがユズリアにとって、これまでに付き合ったことのない階層の者であることを示していた。
そしてユズリアの細部まで手入れの行き届いた身なり、優雅な仕草、おっとりとした優しげな目。
それらは全て、ユズリアがアルオロとは全く違う世界の人間であることを示していた。
同じ世界にありながら、2人が生きてきた世界はまるで異世界のように交わることのないものだった。
ユズリアが最初に感じたのは戸惑い。
ハルロオが最初に感じたのは嫉妬と苛立ち。
だが二つの平行世界の均衡を最初に崩したのはハルロオであった。
「あんた、願いとかあるのか?いい子ちゃんだしオーガから皆を守りたーいとか?」
ハルロオがわざと意地の悪い物言いを選びつつもユズリアの心情を訊ねてみたのには訳があった。
どうみても大金持ちの令嬢なユズリアとパートナーになれば、成り上がるチャンスを掴むことができるのではないかと考えたのだ。
そうすれば、生き馬の目を抜くようなスラムの泥水をすする生活から抜け出すことができる。
ハルロオの問いに含まれていた棘には気づいていないのか、ユズリアは相変わらずおっとりと首を傾げて言った。
「それももちろん嘘ではありませんが……」
そしてユズリアは、つい先日我が身に起こった出来事について語り出した。
少し前にトンネルでオーガが暴れたこと、それにより被害を受けたトンネルで、後日落盤事故が起きたこと、その落盤事故にユズリアの両親が巻き込まれ不帰の客となったこと。
その事故はいわば不可抗力とでもいうものではあったが、その時ユズリアは心の底から誰かを守る力が欲しいと願った。
そうすれば自分にも何かができたのではないか、涙に暮れる日々の中でそう思った時、ユズリアの手にウィンクルムの青い紋章が浮かんだのだという。
その言葉に、ユズリアを何の苦労も知らない小娘だと思っていたハルロオは軽く眉を上げた。
だがスラムでは両親を失った子供の話など掃いて捨ててもなお余るほどゴロゴロと転がっている。
ありがちな不幸話だな……とハルロオが鼻で笑おうとした時だ。
それまでは哀しみの色を浮かべていたユズリアの瞳に不意に強い意志の光が差した。
「でも……私の願いはアーチェイド家の再興ですわ」
ユズリアの変化に驚くハルロオに、相変わらずおっとりと、けれども確固たる決意をもってユズリアは言う。
「誰かを守りたいという祈りを叶えている間に当家の評価が上がればと考えています」
当主を失い幼い少女だけを残した一家が没落の道を辿っていくのは誰の目にも明らかだ。
だが、例え幼くとも新しい当主の功績が世間に知れ渡ってゆけば、それはまた話が変わってくるだろう。
「おいおい、そりゃー打算的だな。御家再興のために人助けなんて」
皮肉っぽく返しながらも、ハルロオの胸の中には一つの変化が生じていた。
ユズリアはハルロオが最初に思ったような、イイコな能天気娘なだけではないのかもしれない。だとすれば……。
(……面白いじゃん)
一方のユズリアはハルロオの皮肉めいた言葉に寸分も動じる様子はない。
確かに打算も含むかもしれないが、誰かを守りたいというのも家を再興したいというのも、ユズリアの心からの願いなのだ。
口元をふっとほころばせたハルロオがユズリアの前に跪いてその手を取る。
生まれた世界は違えど、打算を抱く者同士、もしかしたら上手くやっていけるのかもしれない。
「よし、これからよろしく頼むぜ、嬢ちゃん」
ハルロオがユズリアの紋章に口付けると、ユズリアが花のように笑って言った。
「ユズリアで構いませんわ、ハルロオ」
●まさか君は……
それは今より少し前のこと。
エリーことElly Schwarzはウィンクルムとして、パートナーであるクルトと共にある案件を引き受けていた。
依頼のため、指定された場所まで赴こうとしたエリーとクルト。
その2人に案内役として付いたのがA.R.O.A.で働くハインと名乗るポブルスだったのだが、ハインを一目見た時、エリーはそのすみれ色の瞳を大きく見開いた。
「に……兄さん?」
思わず漏れてしまった疑問の声にハインが不思議そうに首を傾げる。
「いえ……あの。兄、にすごく似ているんです。……兄ではないですよね?」
そんなはずはない。エリーの兄は人間でハインはポブルスだ。
ポブルスの見た目は人と変わらないが、人間と精霊は違う。兄が精霊だったなどと聞いたことはない。
そして何より、エリーの兄は既に他界しているのだ。この場にいるはずなど、ある訳がない。
分かってはいても、あまりによく似た外見に、ついそんな疑問を口にしてしまったエリー。
そんなエリーに、ハインが穏やかな声音で答える。
「違います。自分はハイン・ディ・グレゴリオと言います」
A.R.O.A.職員という立場からウィンクルムに対する丁寧さと、他人に対する優しさを兼ね備えたきれいな返答。
だが、その腹にはイライラとした感情が渦巻いていることに、その時のエリーは気づかなかった。
そして今、A.R.O.A.の見慣れた会議室の中で待たされているハインは思っていた。
(ついにこの俺もウィンクルム行きか。この仕事は嫌いではなかったんだがな)
契約をすれば、ハインは今までと同じ働き方が難しくなるだろう。
全ての精霊が適合する神人を持つ訳ではないが、精霊として生きる以上、こういうこともある。
ハインがもう何度目か分からない溜息をついた時、部屋の扉が開いてハインに適合するという神人が入ってきた。
「……!」
その神人がエリーであると気づいたハインが思い切り顔を引きつらせる。
(この間の勘違い女!!)
一方のエリーはハインの姿を見るなり大きな声で叫んだ。
「あ、あああー!」
どんな精霊が新たな仲間になるのかと胸を高鳴らせてはいたが、まさかよりによって、あのハインとは!
「ああの!い、以前は大変失礼な事を!ほ、本当に似ていて!」
腰を直角に曲げて、コメツキバッタのようにお辞儀を繰り返すエリーにハインは苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「いや……気にするな。だが、次は無い」
エリーの様子を見るに嘘をついているようには見えない……ということは、自分とエリーの兄とはそんなに似ているのだろうか。
面倒なことになりそうだと、ハインはこっそりと溜息をついた。
いまだ心のどこかにハインが兄なのではないかと疑いを残している様子のエリーに、ハインは硬い口調で言い放つ。
「俺は他人には気配り出来るが、如何せん身内には厳しい質だ。優しくは出来ん」
実際に、A.R.O.A.職員として会った時と今ではハインの口調には天と地ほどの差がある。
「だが俺の神人はお前だけ、立ち上がって来てもらうぞ」
エリーの覚悟を見てやろうと、敢えて強い言葉を選ぶハイン。
そんなハインをエリーは全く怯むことなく見返して言った。
「僕は……僕はもっと強くなりたい。ですから、何度でも立ち上がる覚悟です!」
かつてオーガに家族も村も滅ぼされたエリー。他の人にはそんな思いをさせたくないという思いが今のエリーを突き動かしている。
(だから僕は……皆の為に強くならなくては!)
「改めて、あなたの力を僕に貸して下さい!」
頭を下げるのではなく、真っ直ぐに見つめてくるエリーの瞳に、ハインはエリーの芯の強さを見た。
(危なっかしいが、根性はありそうか)
「……ふん」
鼻を鳴らし、エリーの前に跪くハイン。そしてハインはエリーの左手を取るとその甲に口付ける。
それがハインの答えだった。
●いじわるな君
かつて、まるでお見合いのような雰囲気の中でアスカと契約を交わした八神 伊万里。
両親から「契約の時はこうするものだ」と言われ、言われるがままに従った伊万里だが、今はその両親の言葉が偽りだったと分かる。
(もう騙されません。ウィンクルムの契約はお見合いじゃない)
決然たる意思をあらわにした伊万里は、今A.R.O.Aの会議室で、前もって手渡されていた資料に目を通していた。
手元の資料には、伊万里に適合すると言われている新たな精霊に関する情報が記されている。
淡々と文字を追っていた伊万里の碧眼が、ふとある場所で止まった。
そこに書かれているのは『蒼龍・シンフェーア』という文字。
伊万里の新たなパートナーとなる精霊の名である。
「蒼龍って、もしかして……そーちゃん?」
伊万里の脳裏に浮かぶのは、年上の幼馴染の顔。
幼心に抱いた淡い恋心が不意にその存在を主張しはじめ、伊万里はしばらくの間黙ってその名前を見つめていた。
「こんにちはー」
そんな声とともに、だしぬけに引き開けられた扉。
伊万里が驚いて振り返れば、扉を開けた青年蒼龍・シンフェーアその人が笑いながら言った。
「ほら、やっぱりイマちゃんだ」
黒曜石のような輝きを湛えた目を細めて、人懐っこく笑う蒼龍。
適合者が見つかったとA.R.O.Aから連絡を受けた時から、蒼龍の胸中には相手は伊万里だという確信があったのである。
そして予想通りに相手が伊万里であると気付くや否や、蒼龍は伊万里に駆け寄ってその細い身体を抱きしめた。
「イマちゃん、久しぶり!約束通り契約しに来たよ!」
ぎゅっと引き寄せた身体を一旦離し、伊万里の顔を覗き込みながら言う蒼龍。
だが伊万里はというと、驚きと戸惑いの入り混じる固い表情で蒼龍を凝視している。
「ええと、久しぶりです、蒼龍……さん」
伊万里の記憶にある蒼龍はまだ幼さを残す少年の顔立ちだったのだが、今ここにいる蒼龍はいつの間にかすっかり大人びていて、伊万里は咄嗟にはそのギャップを乗り越えることができなかったのだ。
しかも大人になった蒼龍はとてもかっこよくて、昔のように気軽に「そーちゃん」と呼ぶことが憚られてしまう。
それで先の様な固い挨拶を返す結果となったのだが、蒼龍にはそれが少し気に入らなかったようだ。
「……あれ?もしかして覚えてない……?」
先ほどまでよりトーンを下げた蒼龍の言葉に伊万里はあわてて首を振る。
「覚えてます『そーちゃん』ですよね?」
「違うよ、僕のことじゃなくて約束のこと」
「ええと。約束、したのは覚えてるんだけど……私あの時、なんて言いました?」
「内容?自分で思い出すまで教えてあげない」
「うっ、怒ってる……よね、ごめんなさい」
「それは置いといて、とりあえず契約だよね」
気を取り直すように肩をすくめ、跪いて伊万里の手を取る蒼龍。
だが、伊万里の左手の文様が既に赤いことに気づくと、思わずといった様子で動きを止めた。
「ねえ、何これ?もう他の男いんの?」
蒼龍の口元にサディストめいた酷薄な笑みが浮かぶ。
「僕との約束も忘れて、悪い子だね」
そうして蒼龍が握る手に少し力を込めてみせると、伊万里は驚いたような声をあげた。
「って、手!痛いです……!」
蒼龍がその様を見上げながら観察していると、伊万里がポツポツと語りだす。
「あの、私そーちゃんとお別れするのが悲しくて。そのショックで約束の内容忘れちゃったみたいで……。とにかくその、ごめんなさい」
そして伊万里は請うような目で蒼龍を見て言った。
「ちゃんと思い出すから、もう許して……」
その言葉に、蒼龍が堪えきれないという様子で吹き出した。
いきなり笑い出した蒼龍に、伊万里がポカンとした表情になる。
「なーんてね、ごめん、ちょっといじめすぎちゃったかな」
そうして蒼龍はまた先程と同じ人懐っこい笑みを浮かべ、伊万里の手の甲に口付けた。
「先任の奴に負けないように頑張るからよろしくね」
蒼龍の手にも現れる赤い紋章。
それを見ながら、伊万里は心中密かに嘆きの声を上げた。
(この人こんなに意地悪だったかな?振り回される未来しか見えません……)
伊万里の憂いが現実になるか否か、答えが分かるのはまた後日の話である。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 白羽瀬 理宇 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月18日 |
出発日 | 08月24日 00:00 |
予定納品日 | 09月03日 |
参加者
- 淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
- 月野 輝(アルベルト)
- ユズリア・アーチェイド(ハルロオ・サラーム)
- Elly Schwarz(Hein)
- 八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
会議室
-
2015/08/23-16:39
-
2015/08/21-17:34
-
2015/08/21-17:33
こんにちは、初めましてとお久しぶり。
絡みはないけど、皆さんどうぞよろしくね。
追加精霊さんと契約した方も増えてるみたいだけど、私のところは
まだアルだけなので、アルとの思い出が描かれることになるわ。
皆さんのお話も楽しみにしてるわね。 -
2015/08/21-11:51
-
2015/08/21-11:51
初めましての方ははじめまして。淡島咲です。
私はイヴェさんと出会ったときのお話になりそうです。
皆さんがどんな風に精霊さんと出会ったのかとても興味深く思っています。 -
2015/08/21-08:30
はじめまして皆様。ユズリアと申しますわ。
今後とも宜しくお願い致しますわね。
私の方はまだ駆け出しですので、一人目の精霊ハルロオとの話をしたいと存じます。
お互い素敵なお話になりますように……! -
2015/08/21-00:31
-
2015/08/21-00:30
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はご無沙汰しております。
改めて、僕は Elly Schwarz、エリーと言います。
Hein:
自分は皆さんと初めましてになりますね。
Hein Di Gregorio、ハインと言います。以後お見知り置きを。
……と言っても今回は絡みが無いようですが
今後ともよろしくお願いしますね。 -
2015/08/21-00:30
-
2015/08/21-00:30
お久しぶりの方も初めましての方もよろしくお願いします。
八神伊万里です。それと今回は…
蒼龍:
やっほー♪イマちゃんの新しいパートナー、ディアボロの蒼龍だよ。
今回はイマちゃんとの再会のお話になるんだね…楽しみだなぁ~。
それじゃみんな、改めて…