華やぎの姫君達(真名木風由 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「モデル?」
 神人達は、思わずA.R.O.A.の女性職員へ聞き返していた。
「そうなの。私の友人が実はイベント会社に勤めているのだけど、明日のファッションショーのモデルが急遽足りなくなったらしくて。一般モデルを探しているそうなのだけど、あなた達どうかなと思って。浴衣ドレスらしいんだけど」
 浴衣ドレス。
 普通の浴衣とは異なり、ドレスの要素も併せ持つものだ。
 ちょっと興味があるかもしれない。
 女性職員の話によれば、報酬らしきものはレストランの割引券(スポンサーにいるらしい)位だが、明日は時間があるし、浴衣ドレスを気軽に着ることが出来るかもしれない。
 一般モデルということで、モデルならではの歩きなどもする必要はないらしい。
 大勢の人の前に立つのは恥ずかしいが、後ろで聞いている精霊達に普段着ないような浴衣ドレス姿を見せて驚かせるのもいいかもしれないと神人達は顔を見合わせる。
「明日、この時間にこの紹介状持って行けば大丈夫よ。よろしくね」
 モデルを引き受けた神人達は女性職員から紹介状を受け取ると、精霊達へ振り返る。
 彼らの表情はそれぞれ異なるが───さて、明日はどんな表情をしてくれるだろう?
 引き受けた自分も、どんな浴衣ドレスを着られるか楽しみで仕方ないのだけどね?

解説

●プランの書き方
神人
・浴衣ドレス希望
浴衣ドレスの布の色
白 黒 赤 ピンク 青 紺 水色
上記からひとつ選択してください。
浴衣ドレスの柄
小花 花(大柄) 蝶 鞠
上記からひとつ選択してください。
デザイン
可愛い(ふりひら多め)・大人っぽい(やや浴衣寄り)・ゴージャス(アレンジ強)
上記からひとつ選択してください。
今回はコンセプト的にセクシー系統のデザインはありません。

上記を基にこちらで浴衣デザインをお選びします。
これ以上のデザイン希望をプランにいただいても反映出来ません。
逆に、お任せいただいてもOKです。(その場合は全てか一部か分かるように明記してください)

・ショーへの心構えやショー最中の心境

メイクは自分でしてもスタッフに依頼してもOKです。
ショーの演出そのものはこちらで自由設定等を基にこちらで行わせていただきます。

・終わった後、面会に来た精霊に対して

・その他、ショー後の食事やショーの最中にやってしまいそうなことなどがあれば

精霊
・神人の出番前、登場した瞬間やショーの振る舞いを見ている時の心境

精霊達は紹介状もある為、関係者として見易い場所で見ていることになっています。
モデルにはなれません。
また、ステージに上がることや撮影関係の行動はNGです。

・ショーが終わった後神人に掛ける言葉

ここでなら撮影OKです。

・その他、ショー後の食事など。

●消費ジェール
・報酬で貰ったレストラン割引券で高級ディナーを食べに行き、300jr消費

食べに行くのは確実になります。
個別・グループどちらでも。
料理のジャンル指定もある程度ならお応えします。

●注意・補足事項
・一般企業主催のイベントです。TPOにはいつも以上に注意してください。
・ディナーをグループで食べに行く場合は共通タグをウィッシュプランへご明記ください。
・帰宅する描写は基本的に行いません。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は、神人が浴衣ドレスのモデルとなります。
比較的自由度が高いと思いますが、解説をよく読んでプラン作成いただくようお願いします。
特に神人の浴衣ドレスデザイン関係は、詳細記載されても解説の範囲を逸脱した場合はお応え出来ませんので、ご注意ください。
モデルにならない精霊の皆さんは、普段とは違う彼女達の装いを楽しんでください。

後のディナーが和やかなものとなりますように。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆浴衣ドレス
布の色:ピンク
柄:花(赤薔薇)
デザイン:可愛い(ふりひら多め)
メイクとヘアメイクはスタッフさんにお任せ

☆心情
き、緊張する…!
でもエミリオさんが見ていてくれるんだもの、頑張らなくちゃ
来てくれた人達が笑顔になるようなそんなショーにしたいな

☆本番
お客さんの歓声に励まされて緊張なんてどこかにいっちゃった
笑顔で手を振りながら歩くよ
あ、エミリオさんと目が合った…エミリオさん、大好き(満面の笑顔)

☆ショー終了後
お姫様って…!(赤面)
う、うん、いいよ、私もエミリオさんと写真撮りたい!

☆ディナー
私20歳の誕生日を迎えたら決めていたことがあるの
あ、あのね、エミリオさんのこと…エミリオって呼んでいいかな


水田 茉莉花(八月一日 智)
  色:お任せ
柄:花(大柄)
デザイン:大人っぽい

…何でこんな事になったかなぁ
うるっさいなぁバカチビ!余計なお世話っ!

<うう、あたしこういう女の子女の子した状況って苦手なのよねー…どうしたら良いかわかんないって言うか…>

あのー…メイクとかお任せしていいですか?
<メイクったって、社会人として恥ずかしくない程度しかできないし…>

…やったわよ、ステージ
ちゃ、ちゃんと歩けてたでしょ?
褒めてるんだか貶してるんだかわかんない言い方しないでよ、ほづみさん

で、ご飯はどうするの?
和洋中って選べるみたいだけど
…って、パスタ専門店の名前で目が止まってる(苦笑)

ほづみさん
背が高い女の子って、どう、思います?(おそるおそる)


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  浴衣ドレス
布の色:白
柄:花(大柄)
デザイン:ゴージャス

メイクはスタッフに依頼
髪型は結い上げる(項見えるよう!重要)

心構え
ドレスを着れる事が嬉しくてドキドキ
普段と少し違う大人な私になれたらいいな…!
落ち着いて…でも元気よく行こう

最中
緊張するけど…何より楽しみたい
だってこんなに素敵なドレスなんだもん
皆に見て貰いたい
羽純くんも見ててくれてる
彼が見守ってくれてるってだけで、こんなに心は弾んで笑顔になれるの

終了後、面会
羽純くん、見ててくれた?
ドレス、すっごく綺麗でしょ?

ショーの時よりドキドキしてる
え?今?ちょっと待って、顔が…

食事
一緒に撮った写真を飾りたいから、写真立てを買って帰らない?と
美味しくて幸せ



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  ・浴衣ドレス希望
布色:青
柄:蝶
可愛い(ふりひら多め)

・メイクはスタッフさんにお願いします。
舞台に出るのだし、だからこそ色々と普段と違う事って多いのでは。ドレスに合った素敵なメイクをしてくれると思うので。こういう事は専門家に勝るものは無し、と思います。

・何よりこんな大勢の人の前でモデルとか…!
お話を聞いた時はミュラーさんの「大丈夫、ミズキなら出来るよ」という言葉につい引きうけてしまったのですが、舞台に立つ前に緊張してきました…。
周りは美人さんばかりですし。
私、場違いかも…と不安になってきました。
いえ、普段と全く違う格好だから何も気追う事は無いのです。深呼吸して気を落ち付かせて。
いざ舞台へ出ます!



オデット・リーベンス(テオ・シャンテ)
  ドレス:白
柄:小花
デザイン:可愛い
メイクお任せ

モデルなんて緊張しちゃうけど、素敵な浴衣ドレスが着れるのはすごく楽しみ!
思ってたより人が多いけど…女は度胸と愛嬌だよね
笑ってればなんとかなる!

あ、テオだ
精霊の姿が見えて思わず手を振る

どきどきしたけど楽しかったな
どう?似合ってる?
馬にも衣装とかいうのかと思った
何言いかけたのかすごい気になるんですけどー

微妙な事だろうなと予想は付いてむくれつつも
カメラ向けられたらにっこり笑ってポーズ取る
後で私にも送ってね!

綺麗な浴衣も着れたし美味しい料理も食べれるし最高だね!
ウィンクルムっていい事尽くめかも
ところで男の人ってああいう服は好き?
どうよ、そこんとこはっきり


●変化する姫君達
(何でこんなことになったかなぁ)
 水田 茉莉花は浴衣ドレスを着付けられつつ、心の中で呟く。
 茉莉花はこうした女の子女の子した状況はどうしたらいいのか判らない為得意ではないのだが、乗り掛かった船を途中下船ということも性格的に出来ず。
 茉莉花の浴衣ドレスは、大人っぽさ重視の為大人しいらしい。
 が、ファッションショーに出展されるようなものである為、一筋縄ではいかない。
 まず、布は夜空色を意識している。
 それ自体は普通だが、グラデーションカラーの布である為、目を引く。
 大柄の花は牡丹、赤とピンクの2種類が咲き誇るが、こちらも花弁の先に近づくにつれて色合いが濃くなるグラデーションのものだ。
 色合いが異なる白のレースを組み合わせつつ、スカート丈を長めにし、牡丹の色を組み合わせたような色合いの帯が浴衣ドレスを華やかなものとしていた。
「すらっとしてるから、こういうラインのものがよく似合うわね」
「ありがとうございます」
 スタッフに褒められて、受け答えに困りつつ応じる茉莉花。
(メイクったって、社会人として恥ずかしくない程度しか出来ないし……)
 茉莉花は自身の女子力へ素朴な疑問を抱きつつ、メイク・ヘアメイクを全てお願いした。

 桜倉 歌菜は、鏡に映った自分の姿に目を輝かせた。
 白の浴衣ドレスは、白とは思えない程華やかだ。
 色とりどりに咲き誇るハイビスカスは、浴衣ドレスでなければ見られるものではないだろう。
 白を引き立たせるような水色のレースは色違いを重ね合わせており、涼やかな印象がある中にも豪華さがある。
 ふんわりした印象のスカートはレースではなく、スカートを重ね合わせるタイプでアレンジが細かい。
(きっと驚くよね)
 ふふ、と笑う歌菜はこの浴衣ドレスの1番のアレンジを頭に過ぎらせて笑う。
 浴衣ドレスなんてあまり馴染みがないものを着られるなんて、嬉しくてドキドキするけど、普段と違う印象、大人っぽく見られたらいい。
 スタッフに頼んだメイクもバッチリ、髪型は浴衣ドレスに合うようアレンジはして貰っているけれど、ひとつだけリクエストした。
『うなじは、見えるようにお願いします!』
 妙に力を込めて言ってしまったせいか、スタッフがくすくす笑ったのを思い出した。
 でも、うなじを見せるのは大事。
 だって、1番見せたい人がうなじフェチだから。
 齧りたいとからかわれたことを思い出し、うなじを触る歌菜。
 でも、そのフェチもちょっと誤解入ってる。多分。

(青と言っても色々あってビックリ)
 瀬谷 瑞希は鏡の中の自分を見て、青という色は奥が深いと感心する。
 そう、瑞希の浴衣ドレスは、青だ。
 が、青という幅の広さを最大限に生かしたものとなっている。
 碧に近い青、紫に近い青、空の青、水の青……同じ青なのに皆違うのだ。
 空の青を意識した浴衣には多くの蝶が舞っている。
 けれど、水辺を意識した袖口付近では蝶が翅を下ろして休んでおり、浴衣ドレスの中にも世界があった。
 その水辺ですらレースを組み替えて、単調さを出していない。
 レースやフリルが多めのデザインを生かしており、レースには蝶の刺繍さえ施されていた。
(専門家のメイクは流石としか)
 瑞希は自分の化粧もしっかり見ていた。
 ショーに出るのだし、華やかな浴衣ドレスを着用するのだからと瑞希はスタッフにメイクもお願いした。
 普段とは異なるメイクを施されているのに、違和感を感じないのはやはりドレスに合うメイクであるからだろう。
(不思議な感覚……)
 瑞希は、鏡の中の自分を観察してしまう。
 普段と違うメイク、馴染みがない浴衣ドレス。
 鏡の前でくるりと回ってみると、浴衣ドレスのフリルはそこに描かれている世界のように軽やかな舞を見せた。

(モデルなんて緊張しちゃうけど……こんなに素敵な浴衣ドレスが着られるなんてラッキーよね)
 オデット・リーベンスは、上機嫌だ。
 鏡の前で散々楽しんだ彼女の浴衣ドレスは、白。
 レースとフリルが使用されたそのデザインは、可愛いのに子供の印象を与えない。
 浴衣には、色とりどりのカスミソウが束ねられて咲き誇っている。
 淡い色使いである為、薄くなりがちな印象は黒のレースが引き締めるように使用されており、そのバランスが子供過ぎる印象を与えない。
 浴衣ドレスである為、その帯も華やかなものであるが、オデットの帯はレースと同じ黒ではないが、引き立たせるように深い色合いを使っている。
 可愛いという言葉は幅広いが、色の組み合わせひとつでその幅広さを実感出来るような気がした。
(メイクもバッチリして貰ったし、笑ってれば何とかなる!)
 ファッションショーには大勢の人が来ると聞いたけれど、女は度胸と愛嬌とオデットはうん、と頷く。
 笑顔を浮かべていたら、もしかしたら、この姿に心を奪われる素敵な男性が現れるかもしれないし!
 自分に対して非常に正直なオデットは、大変ポジティヴにそう考えた。
 私のモテ期、ここで掴まなきゃいつ掴むの。今でしょ!

(悪いことしちゃったかな……)
 ミサ・フルールは、まだ着替えていない。
 というのも、ミサは色合いやデザインの方向性の他、どうしても赤薔薇を使用した浴衣ドレスがいいと詳細な希望を出した為だ。
 出展する浴衣ドレスは、フルオーダーとは異なる。神人達が引き受けた前日時点で既に決まっていたのだ。
 他の神人達は大体の方向性でOKと希望し、すぐに希望に副う浴衣ドレスの打診があって着つけ、メイクまで終えている。
 が、ミサは提示した条件全てに一致するものを探し、かつ、モデルの着用が決まっていたら交渉する必要が生じた為、時間が掛かっているのだ。
 やっと打診が来た浴衣ドレスは、希望したピンク(と言っても白に近い薄い桜色であるが)で、希望した赤薔薇がリースになったものが散りばめられており、白と赤のレースが組み合わさったものだった。これしかなかったらしい。
「すみませんでした。これでお願いします」
 ミサがOKを出すと、急いで着つけが始まる。
 全てが終わる頃には、ショー開始まで時間がかなり迫っていた。
(希望を沢山出してスタッフさんにご迷惑を掛けたんだから、しっかりしなきゃ)
 仕上がった自分を見て、ミサは改めて意気込んだ。

 全員着付けも終わり、スタッフから演出について説明がされる。
 神人達が来るとあり、ショーの構成を一部変更して神人達はシチュエーション付の主役級で登場するらしい。
「特別扱いして貰って何だか申し訳ありません。出させていただけるだけでも光栄ですのに」
 瑞希は自分達が神人だから主催が特別待遇していることに気づき、頭を下げる。
「いつも我々の日常の為に戦っていただいてますから」
「でも、他のモデルさんが気を悪くされてないかちょっと心配です」
「ご配慮ありがとうございます。彼女達もプロですから」
 茉莉花が案じると、スタッフの1人がその気遣いに感謝した。
「これだけお膳立てして貰ってるなら、尚のこと頑張らないと失礼よね」
「うん。皆で頑張ろう?」
 オデットがそれぞれに渡された演出の内容を見ながらそう言うと、ミサもそれぞれ頑張ろうと演出を読み込む。
「ステージ前、皆で円陣を組みましょう!」
 熱血属性の歌菜が拳を握り締め、全員の気合こそが成功に繋がると熱く主張する。
 ここまでしてくれたのだから、頼むんじゃなかったと思わせることがないように。
 神人達は演出を読み込み、自分達の出番が来るまで控え室で軽く練習して、お互いチェックし合う。
 女は、度胸と愛嬌!
 それを合言葉にして。

●姫君を待つ者達
 神人達が準備を整えている頃、精霊達も席に腰を落ち着けていた。
「前に女装ファッションショーなんてものにおれを出したから、こうなるんだ」
 八月一日 智は、とても機嫌が良い。
 以前、智は女装ファッションショーに強制参加させられた。
 それも大変ショックだ。
 ついでに参加者の中でダントツに背が低かったのもショックだ。
 報いを受けたに違いない!
「というか、女装ファッションショーになんて出たの?」
 フェルン・ミュラーが、思わずツッコミを入れる。
 神人達がモデルである為、関係者として良い席に招かれている彼らは、当然だがその席は並んでいるのだ。
「ぐ! それはおれが改造前だから、きっと」
「改造?」
 墓穴を掘った形の智の発言にフェルンは首を傾げる。
 智はマキナは改造すれば外見年齢自由自在と信じ切っている為に出た発言だが、最初の発言者さえ不明なこの発想、フェルンが何も知らないのは無理もない。
「今におれは……!」
 力強く拳を握り締めている智を見、テオ・シャンテが隣の席の月成 羽純へ「何を言ってるか解らない」と言い、羽純が「大丈夫だ。世界には解らないことのひとつやふたつある」とさらっと返していた。
 同じクールでもウィンクルム経験の差で、悟りレベルも違うのだろう。
 尚、エミリオ・シュトルツは様子見なのか介入せず、知らない人枠カウントされている。
(俺もそこまで背が高くないからな……)
 テオとも同じ位の背は、低くはない。
 が、高いかと言われると、フェルンや羽純と比較すれば、高いとは言えないだろう。
 ……智は、低いと言い切れる部類だが。
(マキナは改造出来るのか?)
 初耳と思うし、普段なら遠慮なく言っているが、ショー間近で人が多く、発言の先に智が精神的な死亡の際に発する断末魔が絶対迷惑になると思ったので、エミリオはやめておいた。
 いつしか、話題は準備をしている神人達へ移っていた。
「ミズキは自分の魅力を少し理解していないと常々思っていてね。控え室に向かう前も大丈夫かなんて不安だったみたいだから、大丈夫って言っておいたんだ」
 フェルンは瑞希にこの体験を通して自分の魅力を再発見して欲しいらしく、瑞希の華やかな姿を楽しみにしているらしい。
「フェルンは、彼女のフェチだからな」
「そう、俺はミズキフェチ」
 羽純が少し驚いている様子のテオへそう言うと、フェルンは恥ずかしがることもなくはっきり肯定した。
「歌菜は送り出した時、ちょっと緊張していたな」
 羽純はやり取りを思い出したのか、そう言って笑う。
 落ち着いて、転ばないように。
 羽純がそう言うと、歌菜は「任せて!」と胸をどーんと叩いて歩いていき、「頑張れよ」と背中を叩いた送り出した羽純が見える範囲で場所を間違えたのか、スタッフに案内されていた。
(転ばなくとも、色々間違えないといいが……それも歌菜だしな)
 遠くからも判る赤面が逆にらしいと羽純は思い出して笑い、智から「思い出し笑いはすけべえ」とツッコミを受けたので、切り返す。
「『ファッションショーの経験者』として、どう思ってるんだ?」
 殊更強調した言い方に智は、「おれの話はいいじゃん」と言いながらも、これから登場する茉莉花を想像してこう言った。
「みずたまりは心配してないなー。あいつ度胸あるし」
「度胸……」
 途端にテオのテンションが急降下した。
 何事と精霊達の視線が集中すると、テオの溜め息は魂も一緒に吐き出しているんじゃないかと思うレベルで重い。
「オデットは、度胸については特に心配してない、です。出たいなら出ればって感じでしたし。ただ───」
 テオが、オデットの罪状を並べ始める。
 幼馴染だが、契約適合の連絡を受けて行ってみれば、膝から崩れ落ちるありえない対応。
 外見に反する性格は超がつくポジティヴかもしれないが、色々残念。(残念と思う出来事が幾つか語られたが、オデットの為に伏せておこう)
 緊張しているとは全く思ってないが、浮かれる余り裾を踏んだり転んだりのうっかりをして主催に迷惑を掛けないか心配でならない。
 そこまで話し終えたテオに対し、エミリオがさらっと言った。
「普通に仲がいいようにしか聞こえないけどね」
 明らかにショックを受けた様子のテオを見、エミリオは「そうじゃなかったら、そもそも子供の頃の付き合いなんかしてないし、心配もしないよね」と続ける。
(少なくとも、俺には───)
 眉間に皺が寄るのを自覚する。
 テオのような子供時代など、少なくとも自分にはなかった。
 何故、今それに関する感情が一言で語れないかは───やめよう、『あの男』のことを思い出しているような場合ではない。
(ミサの奴、緊張で震えていないかな)
 エミリオは、やがて現れるであろうミサへ想いを馳せる。
 他の精霊もそうだと思うが、終わったら労おう。

「そろそろショーが始まるね」
 楽しみな様子のフェルンの声が弾む。
 やがて、照明が落ち、ファッションショーが始まった。

●特別を目指す演出に不要な特別
 ショーが終盤になる頃、神人達の出番はやってきた。
 最初にステージへ出るのは、オデットだ。
「行って来るわね」
 円陣も組んで気合も入れたオデットはここからは自分の度胸と愛嬌が勝負とステージへ出た。
 ステージはプロジェクトマッピングでライトアップされた遊園地が映し出されてある。
 遊園地で行われる花火大会でのデート、待ち合わせというのが、オデットに依頼されたシチュエーションだ。
 この演出に合わせるように、音楽は明るく楽しさを感じさせるものとなっている。
(私も彼氏が出来たら、こんなデートがしたいな……)
 その為には、まず、モテ期到来が重要だ。
 この姿を見て、心惹かれる男性募集中である。

(いっそ清々しいまでに自分の願望に忠実だな)
 テオはステージ上のオデットが何を考えているのか、何となく察した。
 シチュエーションも分かり易い為にすぐに分かったから、思うが───
(待ち合わせているんじゃなくて、逆ナンパの相手を探しているように見えるぞ)
 しっかりしろと言いたくなるが、シチュエーションがオデットに合っている(とテオは思っている)為か、変に緊張した様子もなく、堂々とした振る舞いで安心した。
(外見通りの清楚可憐な奴をやるとなると、変な気合でうっかりしそうだよな)
 案外問題ないとテオが安堵の溜め息を吐き出す。
 エミリオの言葉を認める訳ではないが、オデットがうっかりしたのを見て笑える性格でもない。
 彼も外見通りではなく、中身は案外面倒見が良くて、まめなのだ。

 待ち合わせ相手を探し、見つけたように顔を輝かせる。
 ステージ終盤に頼まれた演技に関して、オデットは特別を意識する必要もない。
(あ、テオ、はっけーん)
 オデットは、関係者席にテオを見つけた。
 彼氏には程遠いが、自分を知るテオを見つけて手を振れば、演技をする必要なんてない。
 テオがちゃんと見ていると分かり、オデットは思わず幼馴染の気安さで手を振った。

(待ち合わせ相手に手を振ってどうする。そういうシチュエーションなんだろ?)
 テオが心の中でツッコミしつつも、軽く手を振って応じる。
 こちらをはっきり見たオデットの浴衣ドレスは、子供の印象はないのに可愛いデザインだった。
 が、オデットはその浴衣ドレスに負けないメイクをしていたし、カスミソウを編み込む形で結い上げられた髪も綺麗なものだと思う。
(見た目は結構いい線行ってるのにな……)
 中身と外見のギャップがあり過ぎて、それが彼氏出来ない(年齢と一致して彼氏いない状態とテオは推察している)のではと思うが。
 とりあえず、分かり易い欲望はしまえ。

 ……などという、テオの考えを知らないオデットは出てきた方角とは逆の方向に待ち合わせの相手を見つけたように歩いていく。
 スポットライトが当たる裾で、まるで相手に見せるかのようにくるりと回ってから、これから楽しい時間を過ごすだろうという想像の余地を残してステージから去っていく。

●ありえないからこそ
(リーベンスさん、凄い……)
 次の番となる瑞希はステージ裾で想像以上に大勢の人がいることに気づき、オデットの度胸に賞賛していた。
 大丈夫だろうか。
 次に出ると言うこともあり、緊張してきた。
『大丈夫、ミズキなら出来るよ』
 頭に過ぎったのは、フェルンの笑みと言葉。
 引き受けたけれど、やっぱり不安だと漏らした自分をそう送り出してくれた。
 周囲には美人のモデルが沢山いるし、一緒にモデルする神人達だって皆綺麗な姿となっている。
(こういう時は、発想の転換)
 場違いかもと不安になるのではなく、普段とは全く違う格好をしているのだし、自分だって綺麗にメイクして貰ったのだから、気負う必要なんてない。
 深呼吸し、落ち着いて───
「行って来ます」
 瑞希は、ゆっくりステージへと出た。

 遊園地を思わせる明るく楽しい音楽が、やがて川のせせらぎの音へ変わる。
 瑞希のステージに浮かび上がるのは、夜の川だ。
 蛍を思わせるような光がぽつぽつとステージに浮かび上がり、緩やかに舞う。
 瑞希はゆっくりめに歩き、置いていかれる状況が想定されている。
(ミュラーさんは歩調を合わせてくれるだろうから、想像するのが難しいけれど)
 瑞希は所々足を止め、光の行方を見たり、せせらぎに耳を傾ける仕草をし、浴衣ドレスを全体的に見られるように動いた。
 その様は浴衣ドレスに描かれる蝶を思わせるが、瑞希は気づいていない。
 蛍の演出もせせらぎの音も見事で、それらの感心に演技は要らなかったから。

(やっぱりミズキは可愛いよ……)
 フェルンは、瑞希の姿に釘付け状態だ。
 ステージに現れた瑞希の装いも可愛らしいものだが、それは瑞希自身を可愛いと思うからそう思う部分もあるだろう。
(こういう機会でもないと着てくれないだろうし、感謝だよね)
 そうでないと、保守的な所もある瑞希が浴衣ドレスを着てくれるかどうか分からない。
(それに、一生懸命だ)
 いつものことだけど、ステージの上でそう振舞っていると、走っていって「待った?」と声を掛けたくなってしまう。
 蛍狩りでいつの間にか距離が離れてしまった、というシチュエーションを想定した演出かもしれないが、自分ならそんなことしない。
 羽純にも言ったが、ミズキフェチは伊達ではないのだ。
(ミズキなら、蛍の光のメカニズムやせせらぎの音を聞いた癒し効果の実績について考えて、足を止めそうな気はする)
 想像し、フェルンは小さく笑う。
 彼女の隣で足を止めて待つ自分の姿も隣にはいる。
 やがて、声を掛けられたように瑞希がステージ裾へ少し歩調を速めて歩いていく。
 ステージを去る直前、瑞希がステージ中央へ振り返る。
 蛍を楽しんだかのように笑みを見せ、それから去っていった。
(緊張していたみたいだけど……)
 フェルンは瑞希の登場が終わり、ほっとする。
 ショーに出たり、笑顔を頑張って見せたり……瑞希の人見知りは随分緩和されたかも?
 あとは、その笑顔をどうやって増やそうか。

●祈りの花
(き、緊張してきた……!)
 ミサは、もうすぐ出番だと思うと緊張が高まってきた。
(でも……スタッフの人のお陰で着られたんだよね)
 どうしてもと思い、頼み込んだ希望。
 それは、エミリオが見ていてくれるから、という想いがあってのもの。
 これで頑張らなかったら、エミリオにもスタッフにも申し訳が立たない。
(来てくれた人達が笑ってくれるように)
 自分だけが主役のファッションショーではないけれど、自分が原因で嫌な気持ちを感じてしまうことがないように。
 ミサは何度も深呼吸し、せせらぎの音が遠ざかってから、スタッフの指示を受けてステージへ出た。

 夜を印象づけていたステージの上から、光が射し込む。
 周囲の照明は射し込む光以外全て落とされると、中央には射し込む光よりも明るい光がスポットライトのように浮かび上がっている。
 敢えて、なのか。
 ミサのステージには何も映し出されていない。
 だからだろうか、エミリオはミサの光をより強く感じた。
(やはりミサは光のある場所で笑っているのが1番似合うな)
 中央に向かって歩いていくミサの姿に見惚れるエミリオは、自分の口元に自嘲の笑みが刻まれているのを自覚した。
 胸に秘める『真実』があるからこそ、今終わりのない悪夢に放り込まれている。
 この『真実』を告げないまま隣にいることなど許されはしない。
 だが、『真実』を告げた時の変化、今のミサを失うことが怖い。何よりもそれが怖い。
 けれど、それが枷となり、身動き出来ない自分を見て愉しまれていることも知っている。
(……俺が真実を告げても、変わらず笑顔を向けてくれるかい……?)
 言葉に出来ない問い。
 自分は、テオのような気軽さを持つことなんて出来ない。
 愛しいから、苦しい。

 ミサは光が印象的なステージを歩いていく。
 音もないステージだからか、照明が落ちた観客席がよく見えた。
 が、中央に行くまでミサは見ないようにし、より明るい中央に立つ。
 そこで膝をつき、祈るように手を組み合わせた。
(エミリオさん、見てる……?)
 私は、ここにいるよ。
 瞬間───全ての照明が輝く。
 プロジェクターには赤薔薇の花園が映し出され、清らかなピアノの調べが花園が祈りで再生したかのように響き渡る。
 一斉に歓声が上がると、ミサはそれまでの緊張が完全に消えたような気がした。
 立ち上がり、視線を感じて顔を向ける。
 そこには、誰よりもこの姿を見て欲しい人がいて。
 どこか、眩しそうに自分を見ている。
 視線が……結びつく。
(エミリオさん……大好き)
 ミサは心からの笑顔をエミリオへ向ける。
 愛しいから、ずっと傍にいたい。

 咲き誇る薔薇の花園の向こう、愛しい人を迎えに行くようにミサが駆けていく。
 見送るエミリオは手を伸ばそうとし、これはショーだと思い直して踏み止まる。
 自分の心を蘇らせてくれたミサは、『真実』を知っても変わらずにいてくれるだろうか。
 エミリオの問えない問いは、答えが見えず、心は先程のようなミサだけを願う。

●交錯する想い
(緊張するけど……楽しまないと勿体無いよね)
 歌菜は、心の中で呟いた。
 こんなに素敵な浴衣ドレスを着て、演出も凝って貰って……皆にも楽しんで貰いたい。
 それなら、まず自分自身が楽しまないとダメだと歌菜は思う。
(羽純くんも、きっと待っててくれてる)
 歌菜は背中を叩いて送り出してくれた温もりを思い出すように、自身をぎゅっと抱きしめる。
 羽純が見ていてくれる、見守ってくれている……それだけで、心は期待に弾む。
 弾む心は勇気になり───前へ進む力となる。
「よし!」
 歌菜は笑顔で、ステージの向こうを見つめた。

 一方、歌菜とは反対側のステージ裾へ茉莉花の姿はある。
 単独でステージに立たないのはほっとするが、同時に失敗は出来ない責任がより強いものとなった。
(いいわよ、やってやるわよ。ほづみさん、ニヤニヤしてるのも今の内なんだからね)
 驚かせてやろうじゃないの!
 頭に過ぎる智のにやにや顔に言い放つと、茉莉花は気合を入れるように前を見据える。
 もうすぐ、ミサの出番が終わる。
 そうすれば、歌菜と同じタイミングでステージに上がるのだ。
 歌菜は背が低い方ではない為、茉莉花もそういう意味では安心出来る相手でもある。
(それでも、年齢差は結構あるのが……)
 気にする要素が多いかもしれないけど、と茉莉花は小さく溜め息をついた。

 ミサがステージを去る僅かな余韻のひと時。
「みずたまり次かなー」
 智は3人まで登場したと言い、茉莉花がラストはないから次ではないかと言い出す。
 曰く、自分の嫁はヒロイン枠ではないらしい。
「次は歌菜かもしれないが?」
 茉莉花が知ったら怒るんじゃないだろうかと思いつつ、羽純が口を挟んでみる。
 会場内で飲食は遠慮するよう言われている為、少々手持ち無沙汰なのか、智は頭の後ろで手を組み、「みずたまりがトリだったら、後でどうからかおうかな」なんて言い出す。
「歌菜はトリでも楽しみそうな気がするな。俺としても演出が凝っているから、楽しみだ」
「凝ってるからなー。どういう演出でおたつくのかも楽しみにするか」
 なんて、2人で会話を交わしていたら、ピアノの音色が雨の音へ変わった。
 ステージの両端から、2つの傘が現れる。
 スポットライトの下には、歌菜と茉莉花がいた。
 単独ではなく、2人で出たということは、これがトリということだ。
 智も羽純も会話を止めて、ステージを見つめる。

 プロジェクトマッピングは、街の雑踏を映し出している。
 歌菜が雨を楽しむ歌を歌い、華やかな傘をくるくる回して中央へ向かって踊るように歩いていく。
 正反対にいる茉莉花は歌は歌わず、シンプルな傘を差し、時折足を止めて上を見上げ、雨を憂うかのように中央へ歩いていく。
 中央で2人が交錯すると、ふと、傘が重なる。
 歌菜のシンプルな傘が正面に向かってくるくる回されると、茉莉花が不思議そうに周囲を歩く。
 演出である為、観客から見えないようになっているが、舞台上の茉莉花は歌菜の『タイミング』の為の時間稼ぎで歩いているのだ。
(OKです!)
(了解!)
 歌菜がサインを送ると、茉莉花が華やかな傘を正面に向け、2人の姿を隠す。
 雨の音が一際大きくなる、1秒、2秒、3秒───
 ぱっと傘が閉じられ、上へ舞った。
 同時に、雨音が消え、晴れを象徴するような明るいライトは上から射し込む。
(成功!)
 歌菜と茉莉花は、歓声を聞いて笑みを交わす。
 アレンジが強い歌菜の浴衣ドレスは、サマードレスに切り替えることが出来たのだ。
 最初、歌うことでゴージャスな浴衣ドレスの印象をより強いものとし、中央まで歩く。
 そして、簡単に切り替えられる浴衣ドレスを傘の向こうで切り替え、その上着を閉じた傘へ仕舞い、一瞬にして変身したように見せ掛けるという演出だ。
 年頃の女の子の目まぐるしい変化を歌菜が、大人の女性の落ち着いた安定を茉莉花が担当したという訳だ。
 浴衣ドレスのアレンジに差があるからこそ、映える演出とも言えよう。
 晴れになった街角、交錯した2人は笑みを交わす。
 やがて女性になる女の子。
 かつて女の子だった女性。
 けれど、変わったと思っても、自分は何も変わらない。
 変わらないと思っても、確かに変わっている。
 閉じた傘を開くことなく、けれど、異なる方向へ去る2人の手には先程とは違う傘がある。
 まるで、互いの想いを交換したかのように。
 ステージに残された音楽は、まるで2人の心境を表すように軽やかな響きを残していた。

(また、知らない女性がいた)
 羽純は心の中で、そう呟く。
 眩しくて、まるで手が届かないかのように輝いていた。
 特に、浴衣ドレスとは印象が全く違うサマードレスに切り替わり、観客が拍手喝采をした瞬間の笑顔は、少し遠いものを感じた程だ。
 はっきりと実感した。
(……そうか、これが独占欲か……)
 自嘲の笑みが口元に浮かぶ。
 はっきり言ってしまえば、どんなに楽だろうか。
 そうした意味では、智が少し羨ましかった。

「タッパがあるから、すっげー似合うよな。みずたまりは」
 その智は、演出以上に茉莉花の装いに感心していたようだ。
 アレンジこそ他の神人達より大人しいと言えたが、茉莉花は女性扱いに苦手意識が働く方だ。
 ふりひらが控えめなものがあれば、そちらを希望するのは予想の範囲だ。
 ひらひらした要素が控えめでも見劣りしないのは、茉莉花が着こなしているからであり、その要因として背丈の高さが挙げられるだろう。
「きちんとそういうの着れば、ちゃんと見られる……というか。おれの嫁だ。何着たって似合う筈だ、当然とも言えるな」
 ドヤ顔で言い放つ智。
 早くお金を貯めて改造し、背が高いナイスミドルにならなければ。
 そして、フェルンのような如才ない一言で茉莉花を翻弄せねば。
 低身長、童顔を悩みとする智は、より一層お金に対してしっかりしなくてはと心に誓う。
 人は、それを守銭奴に磨きを掛けると言うのだが、智は気づかない。

 交錯する想いは人それぞれ。
 天気のように目まぐるしい変化に満ちている。

●姫君達を労って
 ファッションショーも終わり、精霊達は神人達の控え室へと案内された。
「……やったわよ。ちゃんとしてたでしょ?」
「うむ、素晴らしい出来じゃった、褒めて遣わす。……こういうの、何て言ったっけ。馬子にも衣装?」
「それ、いい意味じゃないけど」
 智の言葉に茉莉花が呆れたように言い放つ。
 最近では意識されていないが、身分が低い者も高価な衣装を着ればそれなりに見えるという意味が元々である為、背丈諸々で気にするだけあり茉莉花はちゃんと知っていた。
「褒めてるんだか貶してるんだか判らない言い方しないでよね、ほづみさん」
「え、でも、このまま着て帰ってもいいんじゃないかって位似合ってんじゃね?」
「着替えるに決まってるでしょ」
 何言ってるんだと言わんばかりの茉莉花に智も「まぁ、そうだよな」とうんうん頷いた後、携帯電話を取り出した。
「まさか……」
 記念撮影って言うんじゃないだろうか。
 茉莉花の嫌な予感は、的中した。
「自撮り2ショットイエーイ」
 写真撮影断るのも何か自意識過剰みたいだし、けど、写真に残すのかと言う気持ちもあったり。
 悶々した茉莉花だったが、滅多にない機会だという主張を断りきれず、記念撮影に応じた。

「羽純くん、見ててくれた? 浴衣ドレス、すっごく綺麗だったでしょ?」
 羽純に駆け寄ってきた歌菜は、羽純もよく知る歌菜の姿だ。
 深い安堵を覚えるが、歌菜には内緒だ。
「お疲れ様」
 遠くへ行ってしまうのではと感じてしまった歌菜は、いつもの歌菜ですぐ傍にいる。
 手を伸ばせば、確かな感触となるように。
「羽純くん?」
 歌菜の声で羽純は我に返る。
 思わず、手を伸ばしていた。
 が、何もない振りも出来ず、アップにしている髪に飾られた華やかな花飾りを直す。
「曲がっていたぞ」
「本当? 傘の時に引っかかっちゃったのかな」
 もうすぐ取るけど、ありがとうと歌菜が笑う。
「……綺麗だった」
「え?」
 ぽつりと呟いた言葉に歌菜が目を瞬かせた。
「ドレスもだが……歌菜も、な」
 少し迷った末に告げた素直な観想を言うと。
 歌菜の顔が、一気に赤く染まった。
「え、今、何て?」
「もう1回言おうか?」
「いい!」
 ちょっと待ったと言った歌菜にそう言うと、ますます真っ赤で微笑ましい。
「記念に1枚お願いしたいな」
 ショーでは隣にいられなかったが、せめて写真では隣に。
 その想いを口には出さず、スタッフへ2人一緒の写真撮影を依頼する。
 ショーの時より緊張したとは、歌菜の言葉。

「花のように可憐な俺のお姫様、お疲れ様。よく頑張ったね」
「お、お姫様って……」
 エミリオの言葉にミサは顔を赤くしたが、エミリオが手を伸ばして労うようにその頭を撫でると、嬉しそうにミサが笑う。
 その笑みは、大輪の薔薇ですら敵わないとエミリオは思った。
「俺だけのお姫様、その姿をカメラに映しても?」
「う、うん、いいよ。私もエミリオさんと写真撮りたい!」
 エミリオの申し出を断るようなミサではない。
 歌菜と羽純の記念撮影をしてくれていたスタッフに声を掛けると、ミサとエミリオも記念撮影をする。
(薔薇……ありがとう、ミサ)
 きっと、自分の為に選んでくれたのだろう。
 聞かずとも、確信出来る。
 そんなミサが愛しい。
 だから、今は───
「ありがとう。また1ついい想い出が出来た」
「私もエミリオさんと一緒に撮れて嬉しいよ!」
 エミリオの言葉にミサは心からの笑顔でそう言う。
 どんな花よりも可憐な俺だけのお姫様。
 この笑顔を、俺は失いたくない。
 ミサ、愛しいから苦しい。
 でも……傍にいたい。
 言えぬ言葉を微笑に閉じ込め、エミリオはミサの頭をもう1回慈しむように撫でる。
 安らぎを覚えるのは撫でた方か撫でられた方か───それは誰にも分からない。

「とても素敵だったよ、お疲れ様」
「ありがとうございます、ミュラーさん」
 フェルンが笑顔で瑞希を褒めると、照れくさいらしく瑞希は頬を染めた。
 そういう素の瑞希もフェルンにとっては可愛く、愛しい。
 ……というのを、先日アイスを食べて叫んだばかりだが、アイスがなくとも言うのがフェルンクオリティである。
「演出が凝っていたよね。瑞希にはいい体験だったと思うし、こういう嬉しい経験は望んでも中々詰めるものじゃないからね」
「そうですね。こんな風にファッションショーのモデル経験出来たのは運が良かったと思いますし」
 瑞希自身は当たり前だが、演出も神人の為に変更しただけあり、素晴らしいものであった。
 嘘やお世辞を言う必要もなくフェルンはそう思うからこそ、瑞希を十分に褒めたいと思うのだ。
「あまり演技を考える必要はなかったのですが、少し想像する必要はありましたね」
「そんな必要あったの?」
 瑞希なら、足を止めそうだと思ったのに。
 そう思ったフェルンへ、瑞希は彼自身も思った当然を爆弾のように投下した。
「ミュラーさんは、私を置いて行く方ではないですから。そういう方を知らないので、苦労しました」
 フェルンが悶絶したのは言うまでもない。

「ドキドキしたけど、楽しかった!」
「だろうな」
 オデットにテオはその表情見れば分かるとばかりに言葉を返す。
 気にした様子もなく、オデットはテオの前でくるりと回った。
「改めて見て、どう? 似合ってる?」
「似合ってるぞ」
 聞かれるだろうと思っていたので、特に照れることもなくテオがそう言うと、オデットが「普通だった!」と驚きのリアクションを取る。
「まともな褒め言葉を予想してなかった!」
「まともじゃない褒め言葉って何だよ」
 テオは失礼な言い草だとばかりに呆れた表情を浮かべる。
「見た目は問題ないけどさ……」
「何か引っかかる物言いだよね」
 どうせ微妙なことだろうと予想し、テオの言葉にむくれるオデット。
 暈してるんだから合わせろと思うテオはこの会話を続行すると、控え室が賑やかになりそうだと判断し、携帯電話を取り出す。
「折角だし、撮るぞー」
「あ、本当? なら、後で私にも送ってね!」
 顔を輝かせたオデットは、テオに携帯電話を向けられてにっこり笑顔のポーズを取る。
 何枚か撮ってみて、オデットに見せてみた。
「思ったよりいい感じね」
「最近の携帯電話も侮れないな」
 携帯を覗き込む2人は、芸術的な1枚でなくとも中々の出来に感心した。

●姫君達のその後
 フェルンは、着替え終わった瑞希と共にレストランへ足を運んだ。
 報酬という言い方も変だが、協賛のレストランへの割引券を貰った為、折角だし、打ち上げしようかとなったのである。
 ここは、コース料理が気軽に食べられるレストラン。
 このレストランにした理由は、ここには専用のパティシエがおり、手作りのスイーツを持ってきて、好きなだけ選ばせてくれるというサービスがあったからだ。
「コースなんて緊張すると思ったけど、気軽にっていう触れ込みだけあって、あまり堅苦しくなくて良かったね」
「そうですね。完璧なマナーとなると、難しいですしね」
 フェルンの笑みに瑞貴も頷いて応じる。
 2人は今、コースを堪能し、最後のスイーツを選び終えたばかり。
 季節のフルーツの魅力を引き出したケーキや手作りのアイスが労ってくれるような気がする。
「美味しいです……」
 ほっこりしてスイーツを堪能する瑞希。
 嬉しそうな笑みはショーで見せた笑みとは違う。
 けれど───
(こういう時の笑顔は、最高に可愛いと思うよ)
 今言ったら、動揺してスイーツ楽しめなくなるだろうから、後で言おう。
 フェルンは心の中で呟き、アイスを味わうようにして食べるのだった。

 茉莉花は、智と共にやって来た店は、ある種予想通り。
 生パスタが売りの専門店だ。
(高いお店だから普段入れないからいいか)
 茉莉花は、苦笑を零す。
 自分の報酬である為、実は智に選択権はない筈なのだが、記載されてある協賛の中にこの店もあり、智がじっと見ていたから、まぁいいかと茉莉花はここにした。
「豊富だなー。ソースだけじゃなく、パスタの種類も豊富だし」
「パスタの種類?」
 意識したことがないと茉莉花が言うと、智はパスタについて色々教えてくれた。
 そうした説明を聞いている間にオーダーが決まって、2人でパスタの到着を待つ。
 窓際の席だからか、近くには従業員もおらず、周囲の席も運良く空いている。
「あの、ほづみさん」
 茉莉花は、恐る恐るといった調子で声を掛ける。
「どうかしたのか、みずたまり」
「背が高い女の子って、どう、思います?」
 お世辞にも背が低いとは言えない自分。
 今日、一緒にした神人達は背が低いと思う子はおらず、瑞希などは自分とあまり変わらない。
 が、瑞希はフェルンのように可愛いと言ってくれる存在がいる。
 なら、あたしは?
「おれは女子の背は気にしねぇぞ」
 事も無げな智の一言。
 それこそ、1番嬉しい労いだったかもしれない。

「綺麗な浴衣ドレスも着られたし、こうして美味しい料理も格安で食べられるし、最高だね! ウィンクルムっていいこと尽くめかも」
(……不純な動機で顕現したくせに)
 上機嫌で本日の肉料理である牛ヒレ肉のステーキにナイフを入れるオデットの向かいで、適当に相槌を打ちつつ、テオはツッコミを忘れない。
 マナーは馴染みがないので苦戦するが、格式高いレストランだけあり、料理は美味しい。
「ところで、男の人ってああいう服は好きなの?」
 ステーキを口に運びながら、オデットが問い掛けてくる。
(これが俺の好みを確認しているとかなら可愛げがあると思えるんだが……)
 テオは、長い付き合いで分かっていた。
 分かりたくはないけど、分かっていたのだ。
「どうよ、そこんとこはっきり」
 確信した通り、男受けのチェックだ。
 まだ見ぬ未来の彼氏の為の調査である。
 欲望に忠実な幼馴染殿は、いっそ清々しく、感心するばかりだ。
「……好きだな」
「そう、こういう路線もありなのかしらね」
 テオの返答にオデットはモテ期到来の武器にしようか考え出す。
(悪いな、顔も知らない誰か)
 現れるかどうかさえ分からないが、テオは『まだ見ぬ未来の彼氏』殿へとりあえず謝っておいた。

 ミサとエミリオは、夜景が綺麗なレストランを選んでいた。
 窓から見える夜景は、宝石のように煌いて美しい。
 夜景を楽しみつつ、ゆっくりコース料理を味わうように食べる時間は穏やかで優しくて。
 ファッションショーの話題が主体であるが、それ以外の他愛ない話にも話題は及んだ。
「あと、ね……」
 デザートの段階になり、ミサが意を決したように切り出してくる。
「私、20歳の誕生日を迎えたら決めていたことがあるの」
 つい、先日……ミサは誕生日を迎えた。
 そのことに触れ、頬を染めて決めていたことを口にする。
「あ、あのね、エミリオさんのこと……エミリオって呼んでいいかな」
 口にしてより照れてしまったのか、その赤がより鮮やかさを増す。
 ドキドキして答えを待っているミサへエミリオは微笑んだ。
「いいよ。お前との距離が縮まったみたいで、嬉しいな」
「本当?」
「……ねえ、もう1度、俺の名前を呼んで?」
 エミリオの幸せそうな微笑を嬉しそうに見つめたミサが「エミリオ」とその名を呼ぶ。
 ただ、それだけなのに……エミリオの心が震えた。
 どうか、どうかその名を呼んでくれ。
 笑って、傍にいて。
 手を離さないで。
 全ての想いを込め、彼は言う。
「ありがとう、ミサ」

「美味しかったね!」
 歌菜は、店を出た所で羽純へ笑顔を見せた。
 ゆったりと出来る和食の店を選び、種類豊富なコース料理を堪能してきたばかりだ。
 幸せオーラを放出して食べていた歌菜を見て、自分も幸せを貰った気分の羽純は「来て良かったな」と笑みを返す。
「あ、まだ時間ある。───羽純くん、お店寄って帰ろうよ」
「何か買う物でもあるのか?」
 時間を確認した歌菜がそう提案してきたので、羽純は首を傾げる。
 今日は慣れないことをしているのだから、早く帰って休んだ方がとは思うのだが。
「一緒に撮った写真を飾りたいから、写真立てを買って帰りたくて」
 すると、羽純は事も無げに歌菜へこう返した。
「なら、俺も買って帰るか」
「羽純くんが?」
「何だ? 俺が写真を飾ったらおかしいか?」
 羽純は、予想通りの反応に思わず笑う。
「言ったろ? 綺麗だった……って」
「羽純くん、ズルイ!!」
 耳まで真っ赤になった歌菜の写真も出来れば欲しいが、それは無理そうだろう。
 早く行かないと店が閉まると促せば、歌菜は羽純の隣へ追いついてくる。
 この後、2人で選んだ揃いの写真立てには同じ写真が飾られる。
 それもまた、いい想い出。
 写真を見る度に思い出すだろう。

 尤も……彼女達の姿は、それぞれの心に深く刻まれているだろうけど。



依頼結果:成功
MVP
名前:オデット・リーベンス
呼び名:オデット
  名前:テオ・シャンテ
呼び名:テオ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月15日
出発日 08月21日 00:00
予定納品日 08月31日

参加者

会議室

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/08/20-23:58 

  • [7]桜倉 歌菜

    2015/08/20-23:58 

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/08/20-23:58 

    ギリギリのご挨拶となりました!
    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。

    浴衣ドレスが楽しみすぎて、ゴロゴロしてますっ
    良い一時になりますように!

    皆様、よろしくお願いいたします♪

  • [5]瀬谷 瑞希

    2015/08/20-23:46 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    よろしくお願いいたします。

    プランは提出出来ています。
    皆さんの浴衣ドレス姿、とても楽しみです!

  • オデットです。
    よろしくお願いしまーす。

  • [3]水田 茉莉花

    2015/08/20-21:55 

  • [2]ミサ・フルール

    2015/08/20-11:39 

  • [1]桜倉 歌菜

    2015/08/18-00:16 


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