タッチ de ゴー!(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●それは幸か不幸か…

「いやあああーーーーー!!」

 バチーンッ

公共の場に、盛大な破裂音が響き渡った。
何事かと振り返る通りすがりの人々を余所に、競歩っぷりな足早にその場を立ち去ろうとする女性が一人。
その後ろを慌てたように男性が追いかけてくる。
左頬に見事な紅葉模様をかたどって。

「おい待ってくれ!今のはどう考えても不可抗力だろ!?」
「分かってるわそんなこと!……私が気に入らないのは、その後の、可哀想なものを見る目つきよ!」
「誤解だ!!」

 確かに、触ったけども……!
男性の、手の甲を見るにどうやら精霊さんの言い分はこうである。
階段から足を踏み外した女性、つまりパートナーの神人が落ちるのを食い止めようと手を掴むも
すでに傾いた角度からして2人共落ちるのは免れず。
せめて、丈夫な自分が下敷きになろうと体を反転させた。
先に仰向けに地についた自分の上に神人がまさに落ちてこようとしたので、反射的に両手を伸ばした。
が、
それ程高さが無かったせいか神のきまぐれか、両の手のひらには柔らかな感触と重みがやってきた。

 そう。神人の両のふくよかな山をがっしりと押さえている状態だったのだ。

これが僅か数秒の奇跡、もとい、軌跡。
必死に神人を宥めようとする精霊の背後から、無情な声がかかった。

「探していました! 本部にお戻り下さい! 任務です!」

 ………まさかオーガ?
こんな気まずい空気の時に?
トランス、してもらえるのか……? いや仕事だそこは割り切ってくれるはずだ……っ
瞬時に様々な思考がよぎった精霊だが、振り返った神人が無言で自分の前を横切り
本部職員のあとに続いた様子を見て、今は何も考えないようにしようと足を踏み出すのだった。


 - - - - - - - - - >8 - - - - - - - - (チョキチョキ) - - - - - - - - - >8 - - - - - - - -


「お二人には無駄足を踏ませてしまいましたね。でも良かったです、オーガじゃなくて」
「ハハハ……まったくだ」

 無事任務から戻った先程のウィンクルム。
迅速に向かったものの、結局オーガの影というのは依頼主の目の錯覚だった。
トランスせずに済んでホッとしたような、肩透かしくらって神人の機嫌を取るタイミングを奪われ複雑なような。
精霊から乾いた笑い声が漏れている。

しかしまた、何時任務が舞い込むかもしれない。
すでにヒヤヒヤした思いを味わった後なのだ。

神人、精霊共に、どう仲直りしたものか……と頭悩ませる。
『気にしないで。小さいのは自分が一番知ってるし……』
『悪かった。大丈夫、責任は取る』
浮かぶフォローの言葉が、今はまだ虚しく心の内に響くのだった。

解説

●ラッキー!じゃなかった、不幸な事故に見舞われ、大変気まずい雰囲気な状態で、任務舞い込むウィンクルムたち

前半:
 どんな神の悪戯か、うっかりと神人の胸を触ってしまった精霊。それはもうがっしりと。
 しかし事故です。この上なく事故です。
(どんな事故だったかも設定頂いてOK。
 例:海辺の砂浜に足を取られて・バーゲン会場で人波に揉まれてる内に・等。どこにしても公共の場となります)
 触ってしまった方、触られた方の思いはこれ如何に?
 各々の気まずい、または複雑カオスな心情や会話をプランにお書き下さい。

後半:
 突然の任務(戦闘)から無事帰った後の描写。
 プロローグをご参考頂き、どんな任務だったかも設定いただいて構いません。
 それをきっかけにお互いの空気は元に戻ったでしょうか? トランスはしてもらえたでしょうか?
 仕切り直して、どんな仲直りが成されるかお書き下さい。
(例1:ネイチャーだったからトランスしてもらえず……いや倒せたから良かったけれど……ちょっと、あんまりじゃないか!?という会話切り出し。
 例2:べっ、別にアナタの為じゃないわ! デミ・ワイルドドッグに囲まれて仲間がピンチだったから!
    仕方なくトランスしてあげたんだからっ許したわけじゃないんだからね!)

●頑張れおとこのこ
色々な理由で精霊さんのお財布から300Jr羽ばたいた(=1組一律<300Jr>消費)

●描写(某単語の扱い)について
「胸」、「ふくよかな小山」、「ビート板な感触」などなどの書き方になります。
「OPPAI☆」とはひらがなでもカタカナでも書かれません。ご了承下さい。
(当GMはあくまでピュア担当なのでピキューンッ(ウィンク) ※殴っていいトコロ)
ただし、キャラ様の台詞としてあった場合は、そのまま反映させて頂きます。
(扱う言葉によっては、マスタリング対象となりますのでお気を付け下さい)


ゲームマスターより

いつも大変お世話になっております、蒼色クレヨンです!

ハピかアドか悩んだ末、
「ハピのようなアドのようで結局ハピ」、なエピソードとなりました。

個別描写予定ですが、
「〇〇さんのピンチだったからトランスしてあげたのよっ」など、他の方と同じ任務設定(帰ってきてからも絡み)ご希望の場合、
会議室内でご相談下さい。分かるように会話・明記して下されば、『〇〇さんと一緒』などをプランに入れずとも結構です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  交差点で信号待ちしてたら誰かにぶつかられたの
道路に倒れるっ!?
と思ったら後ろからアルが支えてくれて……Σ!?
ててて手がっ!?

判ってる、判ってる、これは事故!
アルに悪気はないし、むしろ助けてくれたんだから

必死に自分に言い聞かせ、恥ずかしいのを押さえ込み取り繕う
こんな事で怒る程子供じゃないもの
だけど次の瞬間アルの口から発せられた言葉に思わずバチン!!
思いっ切りやっちゃった
だってだってだって(頭の中ぐるぐる

こんな時に仕事…
トランスは仕事と呪文のように唱えて何とかしてきたわ

謝罪されて
アルも動揺なんてするのねと微笑み

私も殴ってごめんなさい
怒ったって言うか恥ずかしかっただけなの
あの時支えてくれてありがとう



夢路 希望(スノー・ラビット)
  手櫛で髪を整えながら小走りで待ち合わせ場所へ
「ご、ごめんなさい!お待たせしま…きゃっ」
慌てていたせいで靴紐が解けていることに気付かず踏んでしまい
目を瞑ると同時に何故か胸元に違和感が…
「~っっ!?」
思わず手を振り払い
恥ずかしさと申し訳なさで彼の顔を見れず
…ど、どうしよう

気まずいまま任務へ
凄く恥ずかしかったけどお仕事だから、頑張ってトランス
報告後
謝りたいのになかなか話しかけられず
…あ…い、いえ…!
私の方こそごめんなさい、大人げない態度を取ってしまって…
恥ずかしかったのもあるけど
「…小さい、から…」
今度こそ、本当にがっかりされたと思って
…よかった…ユキに嫌われたら、私…
ホッとしたけどよくよく考え赤面



ソノラ・バレンシア(飛鳥・マクレーランド)
  別に胸触られるぐらい…平気ではないけど、まぁ単なる不幸な事故だし?
別に気にしてないってのに…そう気にされたら逆に気まずいわ!
「えぇい男なんだからぐじぐじするな!据え膳食わぬは何とやら!」
あれ意味違う?


とりあえず任務は無事に終わったけど…あーもうまだ気にしてるよ全く…
「だーかーらー、私はもう気にしてないっての!」
どうせなのでそのほっぺをむにっと掴んでやる。
「アンタのそういう生真面目なところは嫌いじゃないけどさー、あれが単なる事故だってのはよく分かってるし、別に気にしてないってのホント」
そんな事言ってたら飛鳥がようやく笑顔を見せてくれたから、一安心、かな?
ってひょっと、ほっぺつまむのひゃめてよぉ!



向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
  ◆転ぶ所を助けようと、がっしりと

まさか…まさかだったわ…
サキサカサカサ一生の不覚よ…
こんな事が…まだワタシの胸は成長段階なのに…!
ぐるぐる考えてしまうわ…

◆依頼主の見間違いだったのでトランスせず気まずいまま

できること……それなら、カルさん
カルラスさんのも、揉ませて?
それでおあいこでしょう?
ワタシだけされたのはズルいわ

ワタシがされたのと同じ様に片手で思いっきり揉むわ
…やっぱり、カルさんの方が大きいのね(しょんぼり
でもサキサカサカサは挫けないわ!お母さんのお胸は大きいし、牛乳をいっぱい飲んでいるからワタシも将来性はあるのよ!
だからカルさん、今回の小さな胸はぜんぶ忘れて、おっきくなるまで待っててね!


●幸より不憫勝る状況中

 カルラス・エスクリヴァは途方に暮れていた。
日頃はお嬢さん、向坂 咲裟 が放っておいてもあれこれ好きに会話してくれているわけだがそれが今は違う。
大通り脇の歩道に立ちすくみ、完全にカルラスへ背中を向けてしまっており一言も発しようとしない。
咲裟が転びかけたのを見て、咄嗟に手を伸ばし助けようとしただけ、のはずなのだが。
そこにまさか神の悪戯が待っていようとは。
(事故とはいえ、お嬢さんの胸を触ってしまった……これは不味いぞ……完全に犯罪……)
そう。お腹にしては柔らかすぎるなとは思ったのだ。しかしすぐに気付ける程の感触では恐れ多くも無く。
『大丈夫か? 気をつけろお嬢さん』なんて、掴んだ(実際は支えていたつもりの)まま呑気に注意喚起なんぞしていたらば
咲裟が硬直したままワナワナ震え出したのだ。その普段と違う反応に首を傾げた所……オジサマは気付いたという顛末だった。

(まさか……まさかだったわ……サキサカサカサ一生の不覚よ……)
手を離したカルラスが脳内整理をし始め固まった隙に、自分も身を翻し距離を置いた咲裟。
それもそうであろう。お年頃の娘が乙女のヴェールに包まれた場所をがっしりと触られてしまったのだ。
例え前向き思考な咲裟でもショックは大きい。

(お嬢さんの様子、いつもより可笑しい。やはり嫌で嫌でショックだったか……)
小さく震え、両腕で守るように自分の体を抱きしめている咲裟を見つめれば見つめる程、罪悪感が大波のようにカルラスに押し寄せる。
こんなにサキサカのお嬢さんを思いつめさせてしまうなど、今まで経験が無かった。

その思いつめたお嬢さん、気の毒に唇をきゅっと引き結んで俯いて
(こんな事が……まだワタシの胸は成長段階なのに……!)
可哀想な乙女の思考が、……、…………
(ぐるぐる考えてしまうわ……これが、サキサカサカサの限界値だなんて思われたかもしれない、なんて……っ)
………思考は、カルラス氏が想像していたのとは明後日な方向のようだった。
触られた事よりも、大きさの方へ比重が置かれている様子。いや、確かにこれも乙女の一大事問題。

 そんなすれ違い空気中、駆けてきた本部職員に突然の任務を言い渡されてしまった2人。
当然、カルラスは頭を抱えた。心の中で。
(ああ、困った事になってしまった……)
こうなってくると気の毒な方はオジサマになってきたかもしれない。

◆ ◆ ◆

 ショッピング街の目立つ街灯の下で、どこかソワソワとしているのはスノー・ラビット。
お月様に背中を押されるように想いは伝えた。後は愛しい人、夢路 希望 にも同じ気持ちになってもらうだけ。
その為の努力の下、スノーは彼女をデートに誘った。
『お出かけ』と言葉を軽いものにしたのは、あまり希望に意識させ過ぎても申し訳ないと思ったから。
―― 負担をかけたいわけじゃないからね。
照れて俯きつつも、お出かけにOKの返事をしてくれた様子を思い出し、どうしても表情が緩んでしまうのを取り繕う。
そうしてから時計を見ると、少々約束の時間が過ぎているのに気付いた。
(何かあったのかな……)
性格的に遅刻するようなタイプではない希望を思い浮かべれば、ソワソワをハラハラに変えて辺りを見渡してみる。
すると、ちょうど向こうから希望が駆けてくるのが見えた。
手櫛で必死に髪を整えながら小走りしている姿を見ただけで、スノーの胸は高鳴った。
(急いでくれてるんだ。嬉しいけど転んだら危な……あっ)

「ご、ごめんなさい! お待たせしま……きゃっ」

 まさにスノーが心配した瞬間だった。
慌てていたせいで靴紐が解けていることに気付かず、自分で踏んでしまった希望の体が大きく傾く。
同時にスノーは地を蹴っていた。
ぎゅっと目を瞑る希望。しかし一向に痛みはやって来ず、代わりに何故か胸元に圧力のような違和感が。
その違和感の正体は、スノーの両の掌。
支えようと伸ばした手には、ふにっという柔らかな感触と重みが訪れていた。
――……え?

「~っっ!?」

 希望は声なき声を上げ、思わずその手を振り払ってしまった。
恥ずかしさと申し訳なさでしゃがみ込む。
……ど、どうしよう。ユキに、ユキに……
希望の様子と、手の平に収まるほどのそれが何なのかようやく気付き、スノーも一気に赤面した。
(は、早く謝らなきゃ)
当然そう思うものの男子の悲しきサガかな、先程の光景が、感触が残っていて、脳裏に何度もリピートされる。
精一杯の謝罪の言葉がピンクの妄想色に染まって見えなくなるようで、上手く言葉が出てこない。

そんな2人の下にも、空気を読まない本部からの指令は容赦なく下りることとなった。

◆ ◆ ◆

 不運な事故は、交差点で信号待ちをしていたウィンクルムも襲った。
先頭の方で信号を見つめていた 月野 輝 の背中に、急いでいたらしい一般人が強引に前に出ようとした勢いでぶつかってきたのだ。
(道路に倒れるっ!?)
不運な事故とはこの後からのことである。
隣に居て、輝が前に倒れ込もうとしていることにすぐに気付いたアルベルトは、咄嗟に両腕を輝の背後から前へと回す。
ふかっ。
不可思議な擬音がアルベルトの手を伝い、脳に達した。
(妙に柔らかいな?)
輝が車に轢かれかけるのを助けるのに夢中で、普段は回転の早いアルベルトもその柔らかな感触の正体に気付くまで数秒を要する。
かくいう輝も、わっしりと掴まれた当人であるためすぐに気付くも、此方はあまりの出来事に衝撃を受け
完全に固まっていたわけで。
(!? ててて手がっ!? 手でっ、これアルの手よね……!?)
確認すればする程、頬へ熱が集中する。
一向に動かない輝を不思議に思い横顔を覗き込んだアルベルトの瞳に、すっかり熟れ切った輝の真っ赤な表情が飛び込んできた。
――…………
アルベルト、おもむろに、ゆっくりと、支えていた両手を放す。
自分の手をジッと見つめ……。メンタルヘルス、起動。

(判ってる、判ってる、これは事故! アルに悪気はないし、むしろ助けてくれたんだから)
信号待ちしていた雑多も消えた路上脇の電柱に身を寄せ、輝は必死に自らへ言い聞かせていた。
当然、この上なく恥ずかしい。しかしアルベルトとてわざとではないのは分かっている。
(こんな事で怒る程子供じゃないもの)
そんな輝の心の平穏努力を打ち破ったのは、他でもないアルベルトだった。
あろう事か、彼の口から放たれた第一声……

「輝、意外とあるんだな」

 バチ―――ンッ

その一言から、メンタルヘルスが役立たない程彼の動揺が如何にメーターを振り切っていたかが窺い知れるわけだが
そんなこと輝には分かるはずもなく。
気づけばアルベルトの頬に、立派な紅葉が完成していた。
(お、思いっ切りやっちゃった……)
だってだってだって、と叩いた張本人も頭の中がぐるぐる渦を巻く。
意外とって何!?とか、初めて触ったくせに感想がそれ!?とか、完全に混乱に陥っていた。
強烈な一撃(腕力:60の平手打ち)のおかげで、アルベルトも我に返ることが出来た。
ものの……もはや何と言ったらいいのか分からない。とてもフォローを入れられる状態でない状況を、自ら作り出したのだ。
いつものようには言葉が出ずに戸惑っていたアルベルトの背中に、容赦ない声がかかる。

「に、任務ですー!!お戻り下さいー!」

◆ ◆ ◆ 

(別に胸触られるぐらい……平気ではないけど、まぁ単なる不幸な事故だし?)
意外と淡々と身の内に起こった事を受け止めていたのは、ソノラ・バレンシア。
それはほんの数分前の出来事。
ちょっと買い出し頼まれてくれない?、とソノラが勤める店の隣、煙草屋の店先でふかしていた飛鳥・マクレーランドに、ソノラが声をかけた。
『何故俺が……』『今更固いこと言わないでよー。ちょっと今日は人手が足りなくてさ』というやり取りを店の扉前で行っていた所、突如その扉が開いた。
その扉は見事に飛鳥の背中を押す。不意のことに受身を取ろうと手を伸ばした先にはそういえばソノラがいるのだった、と気付いた時には倒れ込んだ体を支えた後だった。
そう。自身の手と、とりあえず踏ん張ってみたソノラによって。言い換えれば、がっしりと押し当てられたソノラの胸によって。
(直後『あっ、失礼しました!』と扉を勢いよく開けてしまったバーテン仲間の声が虚しく響いていた)

 そして数分後となる今である。

「すまん……」

何度目か分からない低音の謝罪言葉が聞こえ、ソノラは疲弊の表情になってくる。

「故意ではないとは言え……悪いことをした」

 飛鳥からすれば、ソノラの性格からして直ぐに許してくれるであろうとは思ってはいた。それだけの腐れ縁があるのだ。
―― それでも謝るのは自分で自分を許せないからだ。
芯に隠れていた熱さを何度も垣間見せる飛鳥に、最初は『気にするな』と返していたソノラだったが、
さすがにそろそろげんなりし始めてくる。
(別に気にしてないってのに……そう気にされたら逆に気まずいわ!)
サラシを巻いているのも知っているだろうにっ。
言ったことがあったかどうか、は現在ソノラの思考から飛び立っていた。

「えぇい男なんだからぐじぐじするな! 据え膳食わぬは何とやら!」
「………」

 飛鳥の微妙な表情のアイコンタクトで気付くソノラ。あれ意味違う? 違った? 頷く飛鳥。
さすが昔も今もパートナーである。
そうして遠くから聞こえてくる、本部職員の声に同時に振り返るのだった。

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●綻んだ絆の結び直し

 オーガが出た、というのは依頼主の見間違いだった。
トランスせず帰路についたのは、カルラスと咲裟にとってはある種きっかけを奪われ、未だに気まずいままにさせていた。
任務に向かう最中は、何とか表情を引き締める努力をしていた咲裟だったが、オーガがいなかった安堵感もあってか
すっかり元の沈んだ表情に戻ってしまっている。
そんな咲裟の表情に耐えかねて、カルラスは重い口をようやく開いた。

「すまない、お嬢さん……こんなおじさんに触られてショックだっただろう?」

 男らしく直球に謝罪を述べる。
紳士ならもう少しオブラートに包んでもとは言わないでおこう。それだけまだ動揺しているのだ。
が、まだ咲裟がこちらを振り向こうとしない。

「……贖罪になるか分からないが、何か私に出来る事があれば言ってくれ」

 できること……。
そこで咲裟の足がピタリと止まった。

「それなら、カルさん」

 ようやく聞けた咲裟の声に、今度は安心と緊張が同時にカルラスを襲う。
ゴクリと息を飲み、判決を待つ。
しかして、咲裟から飛んだ言葉は予想の遥か上をいっていた。

「カルラスさんのも、揉ませて? それでおあいこでしょう? ワタシだけされたのはズルいわ」

 まさかの要求に一瞬呆気にとられたカルラスへ、平然と歩み寄って掌を持ち上げスタンバイする咲裟。わきわき。
一瞬にして発言を後悔するオジサマがいたわけだが、これを受けいれなくては紳士の名が廃る。
そう名乗った記憶があるかはさておいて。
微動だにしないのを了承と受け取ったのか、咲裟はこれでおあいことばかりに容赦なくカルラスの胸板へ触れた。
そして揉む。揉みしだく。おあいこをすでに通り越しているとはこの時点もはや気づかずに。

「……やっぱり、カルさんの方が大きいのね」

 しょんぼり。
自分と比べられてもとか、男のそれは女性のそれとは似て非なるものだとかの、平常突っ込みが追いつかないカルラス。
……もしや、お嬢さんが受けていたショックの理由とは……
どこかで何かに行き着いたが、若いおなごに胸を揉まれる羞恥と、咲裟はやはり咲裟だった、なテンションに持って行かれ
何を言えば良いのか判断がつかない。

「でもサキサカサカサは挫けないわ!お母さんのお胸は大きいし、牛乳をいっぱい飲んでいるからワタシも将来性はあるのよ!」

 順調にいつもの調子を回復する咲裟。
反面、動揺から混乱へと移行し始めるカルラス。

「だからカルさん、今回の小さな胸はぜんぶ忘れて、おっきくなるまで待っててね!」
「そ、そうか……楽しみにしている……?」

 頑張った。オジサマ頑張った。
その一言で、もう咲裟は笑顔を取り戻していたのだから。
ちなみにこの咲裟の発言、つまり大きくなったら私にどうしろと……? と最たる疑問にカルラスが行き着くのは
もう数十分後の話 ―― 。

◆ ◆ ◆

(こんな時に仕事……)
道中の心の声に限り、息ピッタリに紡いでいた輝とアルベルトだったが。
いざトランスとなった際にはやはり視線は絡むことはなく、一方は『これは仕事、これは仕事……』と呪文のように、
一方は黙りこくったまま事務的に、どうにかこうにか済ませ戦闘は終了した。

―― あの時は、気持ちが繋がったように感じたのに……
淡い月の光で照らされた小道でのことが、ついこの間のように思い出されて。
やや後ろを歩くアルベルトを振り返ることが出来ないのがもどかしい。
そんなあっさり流せちゃうことなの? 年上だから?
アルが何を考えてるのかわかればいいのに……
家を出る時、近くでやっていた小さなお祭りの雰囲気に便乗して被ってきたとんがりシルクハットが
揺れ動く心に反応してかコトリと傾いだのを、輝はそっと深く被り直した。

心が離れた状態を久しぶりに味わって、苦しさに身を置いていたのはアルベルトも同じだった。
―― これは想像以上に堪えるものだな……
自然と足が早くなる。『輝』と声をかけ、その正面に回り込んだ。俯いた顔は、帽子と前髪でまだハッキリとは見えない。
アルベルトの口から、素直な謝罪の言葉が紡がれた。

「デリカシーのない事を言って悪かった。少し動揺してしまって」

 例え格好悪くとも、取り繕うことをせず正直に伝える。
反応するように、輝が顔を上げた。それは少し驚いたように。

「アルも動揺なんてするのね」
「相手が輝だから、だろうな」

 気まずそうに苦笑いを浮かべた、あの時とよく似た月色の瞳を見上げた。
すれ違っていた視線が交差すればどちらからともなく、微笑み合った。

「私も殴ってごめんなさい。怒ったって言うか……恥ずかしかっただけなの」
「良い威力だった」
「もうっ」

 今度は手加減して、笑いながらアルベルトへ拳を振り上げる。
誤魔化すことなく言ってくれたのが嬉しかった。

「あの時支えてくれてありがとう」

 拳と一緒に温かな声色を受け止めた月色の瞳は、三日月のように細く形を変え和らいだ。
真っ直ぐ帰るのが名残惜しくなる。もう少し、このいつもの雰囲気に安心していたい。
そう思ったのはどちらからだっただろうか。
「食事でもして帰ろう」というアルベルトの誘いに、輝は目を丸くした後満面の笑顔で応える。
寄り添うように肩を並べ、2人は歩き出すのだった。

◆ ◆ ◆

(任務が終わったらちゃんと謝ろう……)
そう決意して気合の任務に挑んだスノー。
正直トランスは諦めていた。しかし希望は仕事だからと顔を真っ赤にしたまま、頑張ってくれたのだ。
そのおかげで手こずることなく、早いうちに戦闘を終えることが出来たことにスノーは感謝に耐えなかった。

 本部へ報告を済ませた後の道すがら。
あくまで自分を助けようとしてくれたのに、恥ずかしさと驚きのあまりに手を振り払ってしまったことが
希望の中でずっと後悔となっている。
早く謝らなきゃ……なのに、中々声が出ない……
自己嫌悪でどんどん俯く希望に、突然スノーの真っ直ぐな声が響いた。

「さっきは本当にごめんなさい!」

 希望の前で立ち止まり、直角にお辞儀して謝罪を伝えるスノーの姿。
どんな理由でも女の人の大切なところを触っちゃったのは事実だからっ、と言葉は繋げる様子に、ぱちくりと、大きな目を瞬きさせて。

「……あ……い、いえ……!」

 彼がこんなに誠意を込めてくれたのだ。ならば自分も勇気を出さなくては……っ

「私の方こそごめんなさい、大人げない態度を取ってしまって……」

 本来怒って当然でありその権利がある希望から、まさか謝られるとは思っておらずスノーは驚きバッと顔を上げた。
ルビーのように輝く瞳と出会って、また頬が紅潮するのを感じながらも、希望は何とか絞り出す。
確かに恥ずかしかったのもあるけれど、本当に気にしていたのはそれだけでは無く……。

「……小さい、から……」

 今度こそ、本当にがっかりされたと思って……と。
乙女にとってはとてもとても、デリケートな問題なのだ。
ぽそぽそり、と続いた微かな一言に、希望がどれだけ勇気を出して伝えてくれたのか、スノーはじわじわと感じ取った。
(そんなことなかったのに……)
と、掌に感じた控えめだけどしっかりふくよかな感覚と温度を、またもうっかり思い出してスノーも顔を赤らめる。
でも本当に、気にすることは何もないんだよとどうしても伝えたくて。

「僕は……どんな大きさでも好きだよ。ノゾミさんの、だから」

 心からの本心。だけれど、何か間違っていないだろうか。ノゾミさんを傷つけてしまう言葉じゃなかっただろうか。
言ってからスノーの脳裏に不安が何度もよぎっていく。
泳がせた後その視線を希望に合わせた。そこには、

「……よかった……ユキに嫌われたら、私……」

 ホッとした笑み。気のせいだろうか、やや左目の縁にはきらりと光るものすら滲み出て見える。
―― そんなに、僕のことを考えてくれていたなんて。
希望の笑顔に呼応するように、スノーにも笑顔が戻っていく。
優しい微笑みが見れて、希望も心から安堵を得た。
あれ……? でも、ちょっと待って……? 私、さっきなんて言っ……
小さいから、とか、ユキに嫌われたら、とか……な、なんだかとても恥ずかしい言葉を滑らせたような。
よくよく考え始めて、またも赤面する希望にスノーは首を傾げながらも手を差し出す。
まだ時間はあるよ、少しでもデートのやり直ししよう、と。
デート、の単語に照れながらも、スノーの温かな気遣いが嬉しくて。希望は素直に頷いて手を伸ばすのだった。

◆ ◆ ◆

 オーガは結局いなかった。被害も無く特別ミスをしたわけではない。
しかし再び飛鳥は口にする。「すまん」という言葉を。
ソノラの胸を触ってしまったのもそうだが、それ以上に、気にしすぎた結果任務に集中し切れなかったのだ。
そのことが尚更飛鳥に罪悪感を生み、気まずさを増長させていた。
(……あーもうまだ気にしてるよ全く……)
戦闘中、動きの鈍さから感じてはいたものの、ここまで落ち込む姿は稀過ぎて。
ソノラは一度、大きく溜め息を吐いた。

「だーかーらー、私はもう気にしてないっての!」

 強行手段とばかりに、ソノラは飛鳥のほっぺを唐突にむにっと掴んだ。
突然のことに呆気に取られる飛鳥。

「アンタのそういう生真面目なところは嫌いじゃないけどさー、
あれが単なる事故だってのはよく分かってるし、別に気にしてないってのホント」

 分かったかオッサン!とも言ってやる。
突飛過ぎる行動が自分へのフォローなのだと気付き、思わず飛鳥の口からクスリと漏れた。

「……オッサン言うな」

 ようやく見せてくれた笑顔とその切り返しから、飛鳥の調子が戻ったことをソノラは知る。
(一安心、かな?)
ソノラが笑った。
(全く……コイツの底抜けな明るさには叶わんな)
飛鳥も笑んだ。
戦闘後によくする一服をやっとし始める飛鳥を見て、もう大丈夫かという安心の下ソノラはふと口にする。

「ああそういえば。言っとくけど、アンタが知った感触が私の全てじゃないからね。サラシ取ったらもっと凄いよ」
「ごふっ!」

 飛鳥、煙を噴いた。
ほら、私の名誉に関わるし、と笑いながらさらりと伝えてくるソノラを、遠い目で見つめ返す飛鳥。
言うか? 普通。
ソノラの頬へと大きな手が伸びる。
むにぃっ

「ひょっと、ほっぺつまむのひゃめてよぉ!」

 つままれたまま文句を述べるソノラを呆れと感謝が混じった複雑な笑みで見つめ。

「さっきのお返しだ」

 そう言って、飛鳥は一際大きく紫煙を上らせる。
ソノラもふとその視線を追って、晴れ渡った空を見上げるのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 08月12日
出発日 08月18日 00:00
予定納品日 08月28日

参加者

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