【水魚】夜襲!(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 海底世界の水面にある直径100m程の無人島、水上小島。
 あなたは今、数組のウィンクルムと共に、この島へキャンプに来ている。
 残念ながら借りたテントは全て1人用で、友達と一緒に、とか、パートナーに一緒に一夜を過ごすことはできない。
 バーベキューや花火を楽しんだあと、精霊たちは皆、自分のテントに戻っていったが、神人たちは女子トークに花が咲き、海辺でいつまでも語り合っていた。
 と、そこへ。
「お嬢さんたち、楽しそうじゃの」
 声をかけられ振り返ると、筋肉ムキムキ、褐色肌の陽気なハ……坊主頭の男性が。
「全く……おかげで目が覚めてしまったわい」
 陽気な坊主のおっさんは、ヤシの木にひっかけたハンモックで眠っていたそうだ。
 素直に謝罪する神人たち。
「仕方ないのう。では、わしとゲームをしてくれたら許してやろうか」
 おっさんはニヤリと笑う。
「お嬢さんたちが勝ったら、美味しい海産物をご馳走してやるぞ。じゃが、わしが勝ったら……」
 おっさんはくわっと目を見開く。
 どんな条件を突きつけられるのだ、と神人たちは戦慄する。
「お嬢さんたち、自分のパートナーに夜這いをかけるのじゃああああ!」
 な、なんだってーーーー!

 おっさんが取り出したるは、トランプ。
 ババ抜きをしてもポーカーをしても七ならべをしても、おっさんは負けることがなかった。
 つまり、神人全員敗北。
「ふはははは!さあ、お嬢さんたち、行くのじゃ!!」
 おっさんは、精霊たちが眠るテント群を指さした。

 おっさん曰く、夜這いと言ってもキスだけで良いとのこと。
 キスって言ったって、ねぇ。
 そしてあなたはすやすや眠る精霊を前に……さて、どうする?さて、どうなる??

解説

 キャンプ費用として、一組【500ジェール】いただきます。
 おっさんは、なんだか不思議な力を持っているようです。
 何もせずに精霊のテントから出てきても見破られます。
 他ウィンクルムとの絡みはあまりありません。


ゲームマスターより

 神人→精霊の夜這いのお話です。
 さて、精霊に気付かれずにキスすることができるでしょうか?
 気付かれちゃったらそれはそれで、楽しそうです!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  勝負に負けた…。
行くしかない…!

彼のテントになるべく音をたてないようにして入る。
綺麗に寝像よく仰向けで寝ている姿を見つける。

た、確かに彼から告白されて自分も想いを自覚して今は恋仲。
だけど、キスは、まだ…。

キスする場所の指定はなかった。
寝ている彼の顔を眺める。
そっと近づき、額に口づけする。

好きな人の顔に近づき、初めてするキス。
どうしよう。凄くドキドキする。
心臓の音が彼にまで聞こえてしまわないか心配。

お願い、起きないで…。

キス後、いきなり彼が目を開けたので驚く。
お、起きた…!?と思ったら、抱きしめられた。
もしかして、寝ぼけてる…?

なんとか彼の腕の中から脱出し、テントからも出る。

凄くドキドキした…。



夢路 希望(スノー・ラビット)
  約束は守らないといけません、けど
寝ているユキに、き、キスなんて…
躊躇いつつテントへ
暫く前をウロウロ、悩んだ末に深呼吸一つ
高鳴る胸を抑え、テントの中を覗いてみます
…ぐっすり眠っているみたいです

勇気を出して入ってみたけど…
(や、やっぱり駄目です)
こういうことは、そういう関係の人達がするもので
ユキは、わ、私を好きって言ってくれたけど…私は…

名前を呼ばれてびくり
(ど、どうしよう…起こしちゃった…?)
息潜め
寝息が聞こえてホッとしていたら、呟かれた言葉に顔赤く
(…幸せそうな寝顔)
見ていると胸がきゅーってなって
どきどき、耳へと唇を寄せ
「…っ」
我に返り、慌てて外へ

どうしよう…ユキに合わせる顔がないです…



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  ヨヴァイ!
「キセージジツ」ってやつを作って
その後婚姻届を突き出し「ニンチして」っていうコンボですよね!?
祝福しろ
結婚にはそれが必要だ。

喜び勇んでテントに侵入したのですが
苦しそうに眠るディエゴさんを見てそんな気持ちは一瞬で吹き飛んでしまいました。

…決着がついても、心の傷がなくなった訳ではないですもんね…。
ディエゴさんの心の傷は薬を塗って血を流すことはなくなったでしょうけど、まだ乾いてなくてひりひり痛む状態なんだと思います。

だから一度額にキスして、彼の寝顔が安らかになるまでそばにいて頭を撫でていてあげます
私と一緒にいる夢を見てください
それは凄く良い夢です。

そろそろ帰り…バレテターナンテコッター



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  これは罰ゲームだから、仕方ないから!
自分に言い聞かせながら、そろりそろり羽純くんのテントの侵入
…寝てる…よね?
そーっとそーっと近寄って
寝顔にドキッ
睫毛長いな…寝顔まで格好良いなんて、反則だよ
…ずっと眺めていたいけど、それじゃ罰ゲームがクリアできないし
意を決して…きゃー!?(躓いた

あ、あはははは
羽純くん、こんばんは
えっと、あの、これは、訳があって

夜這いの単語に赤面
ち、ちちち違うの
あ、ちょっとだけ合ってるけど、違うの

赤面しつつ事情を説明
うう、面目次第もございません…

え?いいの…?
目は閉じていて…

勇気を出して唇を触れ合わそうとするけど、緊張に震え…心臓爆発しそう!

羽純くん…
私からもそっと唇を合わせる



ユラ(ルーク)
  アドリブ歓迎

キスねぇ…別にトランスでしてるから、抵抗はないんだけど
寝てる所を襲うってのは…まぁいいや
さくっと終わらせちゃおう
はーい、お邪魔しますよー(小声)

(傍らに座って観察)
……キスってどこでもいいのかな
口、はさすがにダメだよね
初めてだったら申し訳ないし…普通でいっか…!?

…お、起きた…?
(いや、まだ寝惚けてる!誤魔化せる!)
そうだよー夢だよー(棒)

見ての通り、夜這いですけどなにか?
賭けに負けちゃったから仕方ないんだよ

うん、じゃあキスするからちょっと目閉じて
だって、そういうルールだし
嫌なら別にいいけど…私、朝までここにいることになるよ?

(両瞼にキス)
良い夢が見れるおまじないだよ
おやすみルーク


● 
 神人たちの間に激震が走った!
 自分の精霊のテントに忍び込み、キスをせよとは……!
 しかし、1人、平然としている神人が。
 それは、ユラ。
(キスねぇ……別にトランスでしてるから、抵抗はないんだけど)
 ひとつ難点をあげるとすれば、寝ているところを襲うというところか。
 そんな不意打ちみたいな真似は卑怯なような気もするが……。
「まぁいいや」
 こういう流れになってしまったのだからあれこれ考えても仕方ない。
 さくっと終わらせちゃおう。
 ユラはすたすたと、ルークのテントに向かって歩き出す。
「はーい、お邪魔しますよー」
 小声で言うと、そっとテントに入り込む。
 毛布にくるまって寝息を立てているルーク。時折ぴくぴくと黒い猫耳が動く。
 ユラはそんなルークを、傍らに座ってじっと観察していた。
(……キスってどこでもいいのかな)
 ルークの端正な顔を見つめているうち、すうすうと規則正しく寝息を零している唇に視線がいく。
(口、はさすがにダメだよね)
 頬へのキスはトランスで慣れているといっても、さすがに唇へのキスは特別なものだろう。
(初めてだったら申し訳ないし……普通でいっか……!?)
 ユラは静かに上体を屈め、唇をルークの頬に近づける。息を潜めてはいたが、僅かな吐息がルークの頬に触れたらしい。
 無防備な寝顔だった彼は吐息の気配を感じるとすっと瞼を開け、瞬時に腕を伸ばしユラを引き倒した。
 おそらく、その一連の動きは無意識であろう。
 どさり、とルークの隣に倒れ込むユラ。
(……お、起きた……?)
 ユラは肝を冷やす。
「んー……?なんだユラか……」
 ルークはまだ覚醒しきっていない瞳で、たった今自分が引き倒した人物の顔を確認する。
「あれ、なんでここにいるんだ?これも夢か……?」
(いや、まだ寝惚けてる!誤魔化せる!)
 ルークの様子からそう判断したユラ。
「そうだよー夢だよー」
 ルークの耳元に思いきり棒読みで囁く。
「そっか……良かった……」
 再びうとうとと瞼を閉じるルークだったが。
「……って、いいわけねぇだろ!?なんでここにいるんだよ!?」
 がばっと起き上がる。完全に目が覚めたようだ。
 これ以上誤魔化すことはできないだろう。
 ユラはあっさり誤魔化すことを諦め、身体を起こすと。
「見ての通り、夜這いですけどなにか?」
 堂々と開き直るのであった。
「な、なんで夜這い……?」
 警戒の色を見せつつルークが問う。
「賭けに負けちゃったから仕方ないんだよ」
 ユラはいつもと変わらぬ笑顔で応える。ルークの頭は混乱した。
 賭け?どうやったら賭けから夜這いに繋がるんだ?なにがどうなって仕方ないんだ?
「えっと、砂浜でおっさんが――」
「いや、説明はいい」
 ルークはユラの言葉を遮る。
(多分聞いても理解できねぇし、したくない)
「まぁ……とりあえず目的は達したろ、そろそろ帰れ」
 首を垂れてげんなりしながらルークが言うと。
「うん、じゃあキスするからちょっと目閉じて」
 さらりと、とんでもない発言がユラから飛び出す。
「はぁ!?なんでだよ!?」
 がばっと顔を上げるルーク。
(キスって……マジでどういう賭けをしてるんだコイツは!?)
「だって、そういうルールだし」
 ユラは、ルークの反応を不思議がるように小首を傾げる。
「嫌なら別にいいけど……私、朝までここにいることになるよ?」
 おそらくユラは、「それならそれでいいや」と、本当に朝までテントに居座るだろう。
 そんなことになったら、ルークの安眠は海の彼方へと消え去ってしまう!
(これ以上面倒なことになるよりは、ここで折れた方が身の為か……)
「……よし、わかった……」
 低く呟くルーク。
「え?キスしていいの?」
「キスとか挨拶だしな!別に大したことじゃねぇから!……うん」
 平静を装ってはいるが、若干声が上ずっている。
 さあどんと来い!と言わんばかりに両目を閉じ、じっとユラからのキスを待つ。
(キスは挨拶……大したことない……キスは挨拶……)
 念仏のように胸の内で唱える。鼓動がどんどん早くなっているのはきっと気のせいだ。
 意識なんかするものか、と思っても、自然に自分の唇に意識が向いてしまう。
 ユラの唇が触れるのは、きっともうすぐ――。
 ふわり。
 閉じた右の瞼に柔らかな感触。
(あ、口じゃないのか)
 ルークは若干拍子抜けする。
 だが、ユラから瞼にキスされている自分の姿を想像してしまい、
(いや、これはこれで照れるが……!)
と、こっそり身悶える。
 続けて左の瞼にも唇が触れる。
「良い夢が見れるおまじないだよ」
 ルークの瞼から離れたユラの唇が、耳元に囁く。
「おやすみ、ルーク」
 微笑んで、テントを出ていく彼女を、「ああ、おやすみ」と見送って。
(夢を見る前に、もう眠れる気がしねぇ……)
 ぐったりと、ルークは身体を横たえるのだった。


 約束をしてしまったからには、守らなければならない。けど。
(寝ているユキに、き、キスなんて……)
 想像するだけで、顔から火が出そうになる。
 夢路 希望は熱くなった頬を両手で押さえ、スノー・ラビットの眠るテントの前を右往左往していた。
 が、いつまでもこうしているわけにもいくまい。
 希望は深呼吸をひとつして、テントの入口に手をかけた。
 高鳴る胸を抑え、中を覗く。
(……ぐっすり眠っているみたいです)
 勇気を出して、その中に入り込む。
 テントの天井には、明るさを最小限に絞ったカンテラが吊るされていた。
 そのせいで、スノーの顔がよく見える。
(や、やっぱり駄目です)
 いざ、眠っているスノーを目にすると、希望の勇気は挫けてしまう。
 だって、「こういうこと」は、「そういう関係の人達」がするもので……。
(ユキは、わ、私を好きって言ってくれたけど……私は……)
 希望は、スノーの告白の言葉を思い出す。自分は、その告白にまだ、答えを出せていない。
(私は……)
「ノゾミさん」
 ふいに名前を呼ばれ、希望はびくっと身体を震わせる。
(ど、どうしよう…起こしちゃった…?)
 息を潜め様子を窺うと、スノーからは規則正しい寝息が聞こえてくる。
 起きてはいないようだ。
 ほっと胸を撫で下ろすと同時に、呟かれた言葉に顔が赤くなる。
(今、私の名前、呼びましたよね)
 寝言で名前を呼ばれるなんて。もしかしてスノーの夢に希望が現れたのだろうか。一体どんな夢なのだろう。
 希望は改めてスノーの寝顔を見つめる。
(……幸せそうな寝顔)
 希望も思わず、唇がほころぶ。
 良く見ると、毛布の端からぬいぐるみの頭がちょこんと出ていた。
 そういえば以前、ぬいぐるみを抱いていないと眠りにくいと言っていた。
 寂しがり屋のスノーらしい。
 希望の胸に、きゅーっと何かが、湧き上がってきた。
 膝をつき、どきどきと胸が高鳴るままに、スノーの耳に唇を寄せる。
 ぴるん、とスノーの耳が動き、ふわっとした感触が、希望の唇に触れた。
「……っ」
 我に返った希望は慌てて身を引く。
 スノーの唇がむにゃむにゃと言葉を紡ぐ。
「……大好き……」
 希望はいたたまれなくなり外へ飛び出す。
(どうしよう……ユキに合わせる顔がないです……)
 希望はひたすら、夜の砂浜を走った。

「ふふ、くすぐったい」
 ぷるぷると耳を震わせ、スノーは瞼を開ける。
「……夢?」
 スノーは起き上がり、自分の耳を撫でる。
 とても幸せな夢だった。

 希望の手をとり、その耳に「大好き」と囁いて。
 希望が真っ赤な顔で「私も……」って応えてくれた。
 それが嬉しくて愛しくて。
 堪らず頬へキスを落とすと彼女もキスを返してくれて。

 夢の内容を思い返すと頬が熱くなる。
「もう少し続きが見たかった、な……」
 スノーはもう一度毛布にくるまり、目を瞑った。


 ヨヴァイ!
 ハロルドのテンションは一気に上昇。
「『キセージジツ』ってやつを作って、その後婚姻届を突き出し『ニンチして』っていうコンボですよね!?」
 その勢いには、勝負を持ちかけたおっさんすら狼狽える。
「え……いや、そこまでは……」
「祝福しろ!結婚にはそれが必要だ!」
 おっさんの狼狽えも気に留めず、ハロルドは拳を振り上げ意気揚々とディエゴ・ルナ・クィンテロのテントへ向かうのだった。

 キセージジツ!キセージジツ!と、喜び勇んでテントに侵入したハロルドだったが、眠るディエゴの様子を見てそんな気持ちは一気に吹き飛んだ。
 眉根を寄せ、時折乱れる苦しそうな呼吸。額には、汗が浮かんでいる。
 ハロルドは瞬時に理解した。
 ディエゴはまだ、悪夢から完全に逃れられてはいないのだと。
 大切な人を一度に2人も失うという忌まわしい過去に、ディエゴはひとまず、気持ちの整理はついた様子ではあった。しかし。
(……決着がついても、心の傷がなくなった訳ではないですもんね……)
 ディエゴの心の傷は、薬を塗って血を流すことはなくなったのだろうが、まだ乾かずにヒリヒリと痛む状態なのだろうとハロルドは思う。
 ハロルドは、ディエゴの傍らに跪き、その額にそっと唇を押し当てた。
(私と一緒にいる夢を見てください。それは凄く良い夢です)
 ハロルドは祈りながら、汗で濡れたディエゴの髪を撫でる。
 きっと、夢の中のハロルドは、ディエゴの悪夢を吹き飛ばしてくれる。
 ハロルドはディエゴの髪を撫で続けた。彼の寝顔が安らかになるまでそばにいて、そうし続けるつもりだった。
 
 ディエゴは「無」の中に取り残され、もがいていた。
 この手の中には何もない。
 何もない、日々。何もない、自分。何も、何も、何も……そうだ、「無」なのは世界じゃない、自分自身が「無」なのだ。
 凄まじく惨めな気持ちに蝕まれていく。
 これが夢なのは、心のどこかでわかっている。
 そう、これは、過去の過ちの後の自分。
 なぜ、今また過去の自分を見、過去の苦しみを味わわなければならないのか。
 所謂「心的外傷後ストレス障害」というやつか……。
 冷静に分析する自分が、惨めな「無」に飲み込まれ押し潰されていく自分を見下ろしていた。
 遠くから、地を蹴る蹄の音が近づいてきた。馬を駆る、ハロルドだ。
 疾風のように現れた彼女は、ひらりと馬から降りるといきなりディエゴの額にキスをすると、彼の言葉も待たずに彼を無の中から引きずりだした。
「……っお前……!」
 無の中にいたディエゴはハロルドに振り回されるようにして、彼女のダンスにつき合わされている。
 まさに、今の自分そのものじゃないか。
 神人に会っていなければ今頃自分は落ちぶれていただろう。
 あいつの世話は骨が折れたが、それと同時にまた生きたいという気持ちが芽生え、それで……

 ディエゴの寝顔が徐々に安らかなものに変わってゆき、ハロルドはほっと息をつく。
 そろそろ帰ろうかと手を引っ込めかけたところで。
「……お前!なにやってんだ!」
 ディエゴが目覚める。
 彼は、ハロルドの手の位置や自分の頭に残る感触から、ずっと撫でられていたことを瞬時に悟り真っ赤になる。
「バレテターナンテコッター」
「俺は子供じゃないんだ、さっさと自分のテントで寝ろっ!」
 カタコト口調で誤魔化すハロルドをテントから追い出し、ディエゴはもう一度、毛布をかぶる。
(ったく、あいつは……)
 やがてディエゴはもう一度眠りに落ちる。
 今度は不思議と、悪夢を見なかった。


(これは罰ゲームだから、仕方ないから!)
 自分にそう言い聞かせ、桜倉 歌菜はそっと月成 羽純が眠るテントの中に身体を滑りこませる。
(……寝てる……よね?)
 そーっとそーっと近寄って、彼の様子を確認する。
 羽純の寝顔。なんだかドキドキする。
(睫毛長いな……)
 起きている時の羽純は当然格好良い。眠っている時までこんなに格好良いなんて、反則だ。
 このままずっと眺めていたいけど、それじゃ罰ゲームがクリアできない。
(よし、意を決して……)
 歌菜は羽純にさらに近づく。しかし、キスすることにばかり集中していた彼女は、足元に置かれていた羽純のバッグが視界に入っていなかった。
「きゃー!?」
 見事バッグに躓き、羽純の胸の上に倒れ込む。
「……っ?」
 軽く呻いて羽純が目を覚ます。
「歌菜……?」
 歌菜はがばっと身を起こし、羽純から離れた。
「あ、あははははっ。羽純くん、こんばんは。えっと、あの、これは、訳があって」
 笑って誤魔化し、歌菜はあたふた、言い繕う。
 焦っている歌菜の様子が可愛くて、羽純はちょっとからかいたくなった。
「夜這いか?」
 まさかそんなことはないだろう、と思っての冗談。だったのに。
 びくーん、と歌菜が硬直し、みるみる顔を赤く染める。
 この反応は……まさか、本当に……?
 羽純も歌菜同様、顔を染める。
「ち、ちちち違うの。あ、ちょっとだけ合ってるけど、違うの」
 歌菜はこれ以上ないくらいに真っ赤になりながら、後ずさりする。
「事情を説明しろ」
「ごめんなさいすぐ帰ります」
 逃げようとする歌菜の手首を羽純は素早く掴む。
「ちゃんと説明しないと、このまま離さないけど?」
「こ、このままって朝まで!?」
「そう、朝まで。いや、ずーーーっと」
「う、うぅぅ……」

 歌菜は夜這いに至った経緯を、なんとか説明した。
 羽純はふう、とため息をつき、低い声で言った。
「何ですぐ俺達を呼ばない?」
 これは、怒っているな、と歌菜は感じた。
「そんな怪しい男の言う事を聞くな」
「うう、面目次第もございません……」
 しゅんと首を垂れる歌菜。
「けど、約束したんなら仕方ない。いいぞ」
「え?」
 歌菜は顔を上げる。
「いいの……?」
 きっと羽純は呆れているんじゃないか、こんな罰ゲームになんて乗ってくれないんじゃないか、そう思っていたのに。
「やらなきゃ罰ゲーム達成にならないんだろ」
「でも……」
 躊躇する歌菜。
「どうした?目を閉じていた方がいいか?」
 羽純は優しく微笑んだ。
「目は、閉じていて……」
 歌菜が言うと、羽純は「わかった」と目を閉じる。
「ありがとう」
 歌菜はそう呟くと、そっと羽純に寄り添い唇を近づける。
 しかし改めて、これからキスをしよう、と思うと、どうにも緊張してしまう。
 キスは初めてじゃないのに。
 勇気を出して、もう1センチ近づく。
 距離が短くなればなるほど、緊張に震え、心臓が爆発しそうだ。
 あともう少し。もう少しで歌菜の唇は羽純の唇に届くのに。
 その「もう少し」の距離を縮められない。
「歌菜」
 歌菜の鼓動を感じ取ったのか、羽純が口を開く。
「キスすればいいんだよな?どちらからしてもいいよな?」
「え?」
 それがどういう意味か、問い返す間もなく。
 歌菜はぐいっと羽純に抱き寄せられ、その唇にキスを受ける。
「羽純くん……」
 ひとたび唇を合わせれば、胸の中に羽純への愛しさが広がる。
 歌菜は自然に、自分からもそっと、唇を合わせる。
 きっかけは罰ゲーム。だけど、このキスは、罰ゲームだからではなくて、あなたが愛しくてたまらないから。


 勝負に負けた……。
 それは、武術剣術を嗜む勝気なリーリア=エスペリットにとって、ひどく落胆する事実であった。
 しかし、勝負は勝負。負けは負け。
 そして、勝負に纏わる約束事は、護らねばならない。それが武術者の心得というもの。
 行くしかない……!

 すっかり安眠モードのジャスティ=カレックは知る由もなかった。
 今まさに、リーリアが足音を忍ばせ刺客のように彼のテントに忍び込んできていることに。
(ジャスティって、寝相良いのね)
 綺麗に仰向けになって眠っているジャスティを見て、妙なところに感心してしまう。
 単に、角が邪魔になるので寝るときは仰向けになるというだけなのだが。
 それでも、リーリアにとっては新しい発見であった。
(仰向け……キスしやすそう……って、キス!)
 これから自分がしなければならない事を再認識し、軽く混乱するリーリア。
 確かに彼から告白されて自分も想いを自覚し今は恋仲。
(だけど、キスは、まだ……)
 リーリアはちらりとジャスティの寝顔を見つめる。
 キスする場所の、指定はなかった。
 だからきっと、唇じゃなくても、良いはず。
 リーリアはジャスティにそっと近づき、静かに、その額に唇を寄せる。
 好きな人に初めてする、キス。
 トランスとはまた違う。
 どうしよう。凄くドキドキする。
 心臓の音が彼にまで聞こえてしまわないか心配になる。
 心臓の音で、ジャスティの目が覚めてしまったらどうしよう。
 眠っているジャスティにキスをしようとしているなんて、もし気付かれたら……!
 考えただけで、頭が真っ白になる。
(お願い、起きないで……)
 祈りながら、リーリアはジャスティの額にそっと口づける。
 ほんのり温かく、硬い額の感触が唇に伝わり、リーリアはすぐに離れる。
(キス、しちゃった……)
 唇に触れその余韻を確認していると、ふいに、ジャスティの目が開かれる。
「!」
 咄嗟のことに、リーリアは動けなかった。
 ジャスティと視線が合う。
「どうしてここに……?」
 愛しい人を見つけた彼は、幸せそうに微笑んだ。
(お、起きた……!?)
 狼狽えていると、ジャスティがリーリアの腕をぐいと引き、リーリアはジャスティの胸の上に倒れ込む。
 胸を打つのは、自分の鼓動なのか、ジャスティの鼓動なのか。
「夢の中でも会えるなんて、嬉しいです」
(もしかして、寝ぼけてる……?)
 起きていないとわかると少しほっとする。
 けど、この状況にドキドキすることに変わりはない。
 ジャスティは、リーリアを大切な物のようにぎゅっと抱きしめた。
「あぁ、やはりきみを抱きしめると安心します……」
 ジャスティの囁きが、耳朶を擽る。
「こうして腕の中にきみがいる。夢が覚めなければ……いいのに……」
 喋りながらまた深い眠りについたらしく、ジャスティの腕から力が抜ける。
 リーリアはジャスティを起こさぬよう細心の注意を払ってジャスティの腕から抜け出すと、真っ赤な顔のままで、テントから脱出した。
「凄くドキドキした……」
 夜気を胸いっぱいに吸い込んで深呼吸。
 ジャスティの囁きの感触が残っている耳に触れる。
 リーリアの鼓動はまだしばらく、収まりそうになかった。


 水平線の向こうから朝日が昇る。
 その眩しさにもともと細い目をさらに細めて、例のおっさん――キング・タラッタは満足そうに頷いた。
 清々しい空気の中、海底世界の瘴気が薄まったことを彼は感じ取っていた。
 それが、昨晩のウィンクルムたちの行動のおかげであるということも。


「おはよう、ノゾミさん」
「お、おはようございます」
 微妙に視線を合わせてくれない希望に、スノーは違和感を覚える。が。
「ユキは、なんだかご機嫌ですね」
 そう言われて、違和感のことなどすぐに忘れた。
「ノゾミさんが出てくる夢を見たんだ」
 照れ笑いしつつも、「良い夢だったなぁ」とうっとりしているスノーの隣で、希望はひたすら顔を真っ赤にしているのだった。
 
 夏の一夜の出来事は、どうやらウィンクルムたちにちょっとした波紋を生じさせたようである。



依頼結果:成功
MVP
名前:リーリア=エスペリット
呼び名:リーリア
  名前:ジャスティ=カレック
呼び名:ジャスティ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月07日
出発日 08月13日 00:00
予定納品日 08月23日

参加者

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