プロローグ
●神秘的な場所
水龍宮。
神の使い『ナピナピ』に選ばれた者だけが訪れる事を許されるという、神秘の場所。
海底世界の住人たちも、ほとんどがお伽話のようにその存在を知るのみだという。
最奥の豪奢な座敷には人魚姫と人間の若者の像があり、座敷に招かれた者が愛を示せば祝福の涙を流すのだという。
そんな噂を聞いたあなた達は、『気になるね』『行ってみたいかも』等と話を弾ませていた。
二人を見つめる、とある存在に気付かずに……
●お役目
その『ナピナピ』は困っていた。
ナピナピ達は、水龍宮にある男女像から祝福の涙を集めるという役目を任されていた。
他の仲間達は順調に涙を集めているという。
それはとても喜ばしい事だ、が……
ナピナピは、自分の手元に目を落とす。
そこには空っぽの小瓶がひとつ、寂しげに光を反射させている。
そう、このナピナピは、未だ涙を集められないでいるのだった。
ため息をつきそうになるナピナピ。
丁度その時、ナピナピの隠れていた海藻の茂みの目の前から、楽しげな男女の声が聞こえてきた。
見れば、白亜のベンチに腰掛けて身を休めているあなた達の姿が。
ナピナピは、二人の姿をじっと見つめる。
もしかしたら、この人たちなら、あるいは……
●意を決して
ひとしきり会話を楽しんだあなた達。
ふと視線を前方に移すと、金色の長い髪を高い位置で結った色白の子供が海藻の陰からこちらを見つめている。
おどおどとした様子でこちらを見ては、時折海藻の陰に隠れるを繰り返している。
どうしたのだろうと見ていると、不意に子供がこちらに駆け寄ってきた。
その口元は、何かを決意したかのように一文字に引き結ばれている。
二人に近寄った子供は、くいくいと二人の服の裾を引く。
どうしたのだろうと、子供と目線を合わせるあなた達。
すると子供は、あなた達の服の裾をぐいぐいと引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。
その瞳は泣きそうで。
何かある。
そう思ったあなた達は、子供についていくことにした。
その様子に安心したのだろうか、子供は紅色の衣をひらひらふわふわとはためかせて先を進んでいく。
しばらく着いていくと、前方に建物が見えてきた。
何とも和風な、不思議な建物。
子供は、二人をその中へと案内したのだった。
●必死のナピナピ
どれほど廊下を通り過ぎただろうか、屋敷の最奥と思われる座敷へと通されたあなた達。
そこには、人魚姫と人間の若者、二人の像が飾られていた。
ここでようやくあなた達は気付いた。
ここは、噂に聞いた『水龍宮』であると。
そして、自分達を導いた子供は神の使い『ナピナピ』であると。
ナピナピが、再び自分達の服の裾を引く。
視線を合わせるように屈んだあなた達。
すると、ナピナピはあなた達の首から『スピリット・チョーカー』を外してしまった。
そしてそのまま、部屋の隅へとぱたぱたと逃げていく。
呼吸が出来なくなる!?
そう思ったあなた達だったが、どうやらこの座敷ではスピリット・チョーカーなしでも呼吸が出来るらしい。
安心したのも束の間、スピリット・チョーカーを懐へと仕舞ったナピナピが、一枚の紙を取り出す。
そこには、震える文字でこう書かれていた。
「チョーカーを返して欲しかったら、愛を示してください」と……
解説
座敷の中では呼吸ができますが、座敷から出ると呼吸ができません。
そのため、座敷から出ることはできません。
二人の『愛』を示せば男女像から祝福の涙が流れ、ナピナピがチョーカーを返してくれます。
海底世界での遊行費として一組につき300jr消費します。
各組ごと、違う時間・違う場所で起きた出来事です。
他のウィンクルムと出会うことはありません。
ゲームマスターより
ナピナピが奮起しました。
ですが、緊張やらもろもろでナピナピのハートは爆発寸前です。
どっきどきです。
暑い日が続いておりますが、皆様体調など崩されないようにお気を付け下さいね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
愛を示さないとここから出られないようですよ? どうしますディエゴさん(にやにや) ここで存分に愛の再確認を!! …と、言いたい所なんですけどね 私は貴方が嫌がることはしたくありません 行動や言葉で示してもらいたいと主張するのは 私が貴方の愛情を疑ってるわけじゃなくて、不安になるからなんです。 貴方に出会う前、私の周囲にいた人達は口では私のことを好いてくれる事を示してくれましたけど… それは私がお金を稼ぐことができるからで、私のこと本当に好きじゃなかったんです。 自分のせいですけどね。 でも私も同様にその人達のこと好きじゃなかったんだと思います …だから本気で好きになった貴方からは本心を聞きたいし、安心したいんです。 |
日向 悠夜(降矢 弓弦)
ナピナピがこんな行動に出るなんてね…吃驚しちゃったね けれどナピナピの表情を見るとなんとも言えない気持ちになっちゃうな そこまで追い詰められていたなんて…安心してほしいって気持ちを込めて彼女の頭を一撫でして弓弦さんと向かい合うね …なんだか改まると恥ずかしいね、なんてちょっと照れながら弓弦さんの手を取って彼の瞳を真っ直ぐ見つめるね ねぇ弓弦さん、いつもありがとう。 貴方のお蔭で私も前に進む事が出来たから、本当に感謝しているよ。 そして、これからもずっと一緒に歩んでいきたいな。 …弓弦さん、好きだよ。 そう言って瞳を閉じて、弓弦さんのリアクションを待つね 何か行動を受け入れたら照れつつも、ぎゅっと抱き着きたいです |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
ナピナピ、チョーカー、紙を見て、ルシェを見上げる。 (首を傾げ、近づく 「!?」(硬直後、徐々に力を抜く どう、って。(視線を彷徨わせ 「ルシェとは。そういうのじゃ、ないし」(頬を僅かに染める 「……こい、びと」(真っ赤で俯く (そっと見上げ ルシェは。「考えて、くれないの?」 (視線を下げ、思案 「好きなとこを、言う。とか」違うかな。 「え」(見上げ、目を逸らす 私が「言う、の?」 いじわる。 (視線を下げ、呟く 「名前、呼んでくれて。手を繋いでくれ、たり」 「一緒にいていい、って。言ってくれた、のと」 (ルシェの服を掴む 「私が、ルシェに触っても。怒らない、ところ」 なんで、ルシェは優しいのかな。 (そっと、額をルシェに寄せる |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
何とかナピナピさんの手助けをしてあげたいです。 でも、チョーカーが外れても息が出来る事に、先ず安心しました。 だって、息が出来なかったら。 きっとミュラーさんが「生命に代えても君だけは護るから」とか言って何をしでかす事やら(にこ。 ミュラーさんがいつも危険な任務の時護って下さっている事、ずっと、私。感謝しているのです。 こんな機会でないと面と向かって言えないですし。 (もじもじ) それと色々な所に連れて行ってもらって、体験をさせてもらっている事にも。 世界は沢山の出来事で溢れているって、ミュラーさんと知り合ってから知りました。 これを愛情というのかは判りませんが。 感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございます。 |
アンジェローゼ(エー)
エー、水龍宮よ! 綺麗…来てみたかった 感激、彼と来れて嬉しい でも彼は不機嫌で… 気を取り直しナピナピにお礼を 困ってるの?私達でよければ力をかすわ ね、エー いつものように愛を… え?ムード? 毎日日常的に場所問わず何十回も愛を囁いてくるのに… なぜ不機嫌なの? 彼の言葉に 確かに最近愛の言葉を真っ向から受け止めるの照れ臭いしどう甘えればいいかわからず誤魔化してた エーを傷つけてたのだと気づき反省 哀しそうな顔に胸が痛む 失礼だったね 傷つけてしまってごめんなさい 迷惑な訳ない! 私、貴方の事大好きよ! 頰に手を当て瞳を覗き込み、ぎゅっと抱きしめる 気持ちを話してくれてありがと …ちゃんと受け止めるから、ね 暫くここに一緒にいたいな |
●溢れる雫
珍しく、エーは愛しき神人で恋人であるアンジェローゼの前で、不機嫌な表情を見せていた。
「エー、見て。水龍宮よ!」
金色の髪を優雅に波立たせ、アンジェローゼは目の前の建造物にうっとりとした表情を見せている。
「綺麗……来てみたかった」
そう頬を染め、後ろを振り向くが。恋人であるエーの表情はいつもとは違う、憂いを帯びた表情を見せている。
彼とこの神秘的な場所に来ることが出来て嬉しい気持ちでいっぱいだったはずなのに、その表情を見れば不安が胸いっぱいに広がるのを感じた。
(エー、どうしたのかしら……)
(2人だけの時間を過ごしていたのに……)
先程までアンジェローゼと甘い時間を過ごしていたエー。
いつものようにアンジェローゼへの愛を語り、彼女に熱い眼差しを向け。幸せな時間を過ごしていた。
だが、突然現れたナピナピに2人だけの幸せな時間は奪われてしまったのだ。いとも簡単に彼女はナピナピに着いて行く。
泣きそうな瞳が心配で、というアンジェローゼの優しさは十分理解しているのだが……
「困っているの?私達でよければ力を貸すわ」
水中でも呼吸が出来るチョーカーを奪われても尚、アンジェローゼは心配げな表情を浮かべ。
話を察するに、この水龍宮で愛を囁けばいい、という話。
「ね、エー。いつものように愛を……」
そう言うアンジェローゼの表情に、エーは顔を背けた。
驚いた表情を見せる彼女を視界の端で捉え、エーはポソリと呟いた。
「ここでは、ムードがないですから……」
その言葉にキョトンとした表情を見せるのはアンジェローゼ。
「え?ムード?」
毎日、時間も場所も状況も問わず愛を囁いてくれる彼が、ムードを気にして?意外な言葉に驚き、目を大きく開く。
「エー……なぜ不機嫌なの?」
困惑する彼女に、少し駄々をこねすぎたか、と己も沈痛な表情を浮かべるエー。
困らせたくない気持ちはあるが……堪えていた気持ちは溢れて行く。
「……ロゼ様が、全然甘えてくれない。幾ら愛を告げても、伝わっていると思えない」
エーが口を開き零す言葉に、アンジェローゼは表情を変えた。
確かに、彼の熱い愛情表現に対しどう甘えればいいのかわからず誤魔化していた。
愛を囁かれるのは嬉しいけれど、真っ向から受け止めるのは照れてしまう。
「僕ばかりがロゼ様の事を好きなことは気づいている。けど、僕の愛を軽いモノと思われるのは……余りに……」
悲しい、です。そう呟き、力なく俯くエー。
そんな彼を見ればアンジェローゼの胸はズキズキと激しく痛みだす。
いつものこと、と思っていたが。その愛に甘えてしまっていたのだ、とアンジェローゼは深く反省をした。
「エー……傷つけてしまってごめんなさい」
「僕のことは迷惑?僕のこと……好き?」
優しさで、僕を受け入れてるの?そこに愛はあるの?
麗しく美しい金色の瞳は激しい情熱と共に訴えている。
「迷惑な訳ない!私、貴方の事大好きよ!」
彼の頬に手を添え、真っ直ぐに彼の瞳を覗き込んだ。
そして、小さな手はエーの身体を力強く抱きしめた。
「気持ちを話してくれてありがと。……ちゃんと受け止めるから、ね」
しっかりと目を合わせてくれたアンジェローゼの瞳は濡れ。頬は赤く染まり、真剣で必死な表情だと見て取れる。
真剣な表情と力強い手に、彼女に必要とされていることを実感するエー。
(……あぁ、やっぱりロゼ様は物凄く可愛い……)
うっとりとした表情を見せ、そして今度は彼女を優しく、愛しさを込めて抱きしめ返した。
心の中を占めていた重たい気持ちは、もうすっかり晴れている。
「……大人げなくて、ごめん……。でも、嬉しい」
笑みを見せるエーに、アンジェローゼも涙目ながらに微笑みを返す。
「大好きです、ロゼ様」
ありがとう、と呟く彼女を抱きしめたままエーは幸せを噛みしめた。
「暫くここに一緒にいたいな」
「えぇ。貴女と一緒にいられるなら……それで構いません」
寄り添うアンジェローゼとエーの姿に、人魚像達は祝福の涙を流すのだった。
●言わなくちゃ、わからない
ハロルドは、楽しげな表所と共に青と金色の瞳をディエゴ・ルナ・クィンテロへと向けた。
「愛を示さないと、ここから出られないようですよ?」
水中で息をするためのチョーカーを奪われたというのに、まったくもって困った雰囲気もないハロルドに対し。
「何てことをしてくれるんだ……」
額を押さえ、ガックリと項垂れるディエゴ。
「どうします?ディエゴさん」
ニヤニヤとした表情で彼を見あげるハロルドに、ディエゴは不貞腐れたように呟いた。
「そもそも如何すればいいんだよ」
ハロルドは、そうですねぇ……とゆっくりとディエゴから距離を取った、かと思えばクルリと突然振り返り、両手を大きく広げた。
「さぁ、ここで存分に愛の再確認を!!」
本気か……!?と言いたげに苦渋の表情を見せるディエゴ。
「俺はそういうベタベタしたりするのが苦手なんだ」
知ってるだろ?という意味も込めて、彼女へじっとりとした視線を送る。
だが、何かをしなければここからは出られない。まだ海の藻屑にはなりたくない、とディエゴは溜息を一つついた。
「さぁ、早く愛の再確認を……!と、言いたい所ですけどね」
パタリ、と広げていた両手を戻すハロルド。
「私は貴方が嫌がることはしたくありません」
距離を取っていたハロルドが、またディエゴの元へと近付いてきた。
このまま抱き合って、めでたしめでたし……としてほしい所ではあったが、ディエゴの思惑通りには進まない。
「ディエゴさんの気持ちを教えてください。言葉や、行動で」
ハロルドの言葉にディエゴは面食らった。
そして、咄嗟に何故?と言葉が漏れる。
そんな彼の表情に、ハロルドは先回りをし、
「……私は、貴方の愛情を疑ってるわけじゃなく……不安になるからです」
そう言うと、ハロルドはディエゴに背を向けた。
そして、遠くを見つめたままに、ハロルドは胸の内をポツリポツリと言葉で紡いでいった。
「……貴方に出会う前、私の周囲に居た人達は、口では私のことを好いていてくれる事を示してくれました。けれど……」
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出すハロルドの背中。その小さな背中をディエゴはじっと見つめた。
「それは、私がお金を稼ぐことが出来るからで、私のこと本当に好きじゃなかったんです」
ディエゴはハロルドの過去について多少なりとも聞いたことはあったが、その周りの人間関係までは知らなかった。
才能があるゆえの、孤独。
小さな彼女の背中だが、その背が背負うものは彼女の身体や心を優に超える、大きくて暗いものだったんだろう、とディエゴは感じとった。
「……自分のせい、ですけどね」
ディエゴに振り返り、自嘲するように笑うハロルド。
その瞳は今いる場所を超え、遠い過去を見つめているようにも見える。
「でも、私も同様にその人達のことを好きじゃなかったんだと思います」
ハロルドは笑みを保ったままにディエゴの傍へと歩み寄った。そして彼の前に立つと、しっかりとした瞳を向けた。
「……だから。本気で好きになった貴方からは本心を聞きたいし、安心したいんです」
彼女の言葉と眼差しにディエゴの心はは射抜かれた。そして、何も言わずにハロルドをグッと抱きしめる。
大柄なディエゴが小柄なハロルドを包み込めば、ハロルドからはディエゴの表情は伺い知ることが出来ない。
しかし、それはディエゴにとって赤く染まる頬を見せることなく本音を伝えるのには好都合で。
「……俺はお前に絶対に嘘はつかないし、泣かせないと約束する」
ディエゴの言葉に、ギュッ、とハロルドの抱き返す腕の力が強まった。
(……言わなくてもわかる……は都合良すぎ、か)
「エクレール……あ……愛してる……」
「……ディエゴ、さん……」
強く抱きしめ合う二人の姿に、人魚像達は熱い涙を零すのだった。
●二人の関係
炎のように赤い髪をなびかせるルシエロ=ザガンはその鋭い眼差しをナピナピへと向ける。
そして怯えたような表情を見せるナピナピには無表情を貫き、ルシエロは直ぐにパートナーであるひろのへと戻した。
ひろのは、口元に手を充てたまま、真剣な表情を崩さずに考え事をしている。
ナピナピの表情、奪われたチョーカー、そして震える文字で書かれたナピナピからのお願い。
(愛を示す……)
ひろのは一番身近に居る人物である、ルシエロを見上げた。
視線が合い、ルシエロはひろのへ向かって手招きをし。
「ヒロノ」
ひろのは首を右に傾けた後、素直にルシエロの元へと近寄れば。
一瞬の間に、ルシエロのの細身ながらも引き締まった腕は、ひろのの身体をいとも簡単に抱き寄せた。
「!!??」
突然の事に目を丸く開き硬直するも、ルシエロのスキンシップだと気付けばひろのの身体の緊張は徐々にほぐれて行く。
そんな彼女の身体の力が抜けて行くのを感じ、ルシエロはニヤリと口角を上げ、笑んだ。
「ヒロノ。愛を示さないと返さないそうだが。どうする?」
どことなく悪戯で挑発的な笑みを見せる彼に、ひろのは視線を彷徨わせた。
「どう、って……。ルシェとは。そういうのじゃ、ないし」
彼女の頬がやや赤みを差すのを確認し、ルシエロは更に言葉を加えた。
「そういう、とは?」
視線を泳がせ、何かモゴモゴと言いたげなひろのの姿に、ルシエロは口を挟まず次の言葉を待った。
少しの間を取った後、ひろのが頬を染め、俯きながら呟いた。
「……こい、びと」
ルシエロは思わず笑みが零れた。目を細め、彼女の表情を楽しむ。
(単語だけで赤くなるとは、可愛いヤツ。……オレへの感情でならば、なお良いんだが)
抱きしめた腕の力は抜かず、彼女の黒髪をそっと撫でた。
良く言えました。そう褒められているようにも思え、ひろのは身も心もどこかくすぐったさを感じ。
「そうだな……なら、どうすればいいと思う?」
「考えてくれないの?」
ルシェは?と小首を傾げるひろのの姿に、ルシエロは真顔で返した。
「オマエが考えてみろ」
ルシエロの瞳から視線を下げ、思案するひろの。
どんな答えを出すのか、高揚した気分で見守るルシエロ。真剣な眼差しを向ければ、彼女の口元が微かに開いた。
「好きなとこを、言う。とか」
違うかな?と小首を傾げるひろのにルシエロは目を細め、口元を緩めた。
(そう来たか)
では。
「オレのどこが好きだ?」
「え?」
ルシエロから投げかけられた言葉に、思わず顔を見上げれば。笑みを浮かべたままのルシエロが視界いっぱいに己の瞳に映し出され。
その美しさにひろのは頬を赤らめたまま目を逸らした。
「言う、の?」
「言わないとチョーカーは返って来ないぞ」
……いじわる。
そう呟きたい気持ちを飲み込み、ひろのはまた思案に耽る。
「……名前、呼んでくれて。手を繋いでくれたり、とか」
恥じらうままに呟くひろのの声は、心地良い小鳥の囀りのようで。
「一緒にいていい、って。言ってくれた、のと」
(ヒロノが愛おしいオレには当然のことばかりだな)
彼女の言葉を遮らず、ルシエロはクク、と笑みを浮かべた。そして更に彼女から紡ぎだされる言葉を待つ。
「私が、ルシェに触っても。怒らない、ところ」
彼女の手がルシエロの服をキュッと掴んだ。そんな彼女の行動に更に愛しさがこみ上げる。
「怒る訳がない。ヒロノに触れられるのは好きだ」
……言う程に触られた覚えもない。むしろ、もっと求めてもらいたいとさえ思う。
そしてひろのも彼の服を掴んだまま、その額をルシエロに柔らかく寄せた。
(……なんで、こんなにルシェは優しいのかな)
ぽふり、と身を預ける彼女を、ルシエロは強く抱いた。
抵抗することもなく、身を任せる彼女の唇をこのまま奪ってしまいたい、という欲求が湧き上がる。
だが、二人の関係は少しずつでも近づいているのが肌で感じられ。
「ヒロノ」
力強く、しかし優しい声で彼女の名を呼ぶ。
「どうした、の……?……あ。」
ひろのの目が丸く開くのを感じ、ルシェが視線をやれば、視界の端で人魚像が涙を流すのが目に入った。
「……よかった」
そう呟くひろのに何も言わず。ルシエロは彼女の髪をまた撫でるのだった。
●感謝の気持ち
瀬谷 瑞希は真剣な表情で人魚像と若者像を見上げていた。
(何とかナピナピさんの手助けをしてあげたいです)
水龍宮の幻想的なな空間と、そして謎の多い不思議なチョーカー。瑞希にとっては不思議がいっぱいで、興味深い空間であることは間違いない。
そんな瑞希の隣で、彼女の精霊であるフェルン・ミュラーもターコイズブルーの瞳を伏せ、真剣な表情を浮かべていた。
(愛情を示せ、だと……)
何が必要だろうか、とフェルンが周りを見渡せば。いつの間にかフェルンを見ていた瑞希と視線が絡まる。
「チョーカーが外れても息が出来ることに、先ず安心しました」
瑞希の笑顔にフェルンも頷き同意する。
「だって、息が出来なかったら……きっとミュラーさん『生命に代えても君だけは護るから』と言って何をしでかす事やら」
楽しげに微笑む瑞希の姿に、フェルンは少しだけ苦笑する。
きっと彼女のいう通りのことを言い、いう通りのことをするだろう、と言う自覚があるからだ。
「ミュラーさんがいつも危険な任務の時、護って下さっている事、ずっと、私……感謝しているのです」
恥じらいに頬を染める瑞希の姿に、嬉しさは勿論、照れくさい気持ちも込み上げるフェルン。
「……こんな機会でないと、面と向かって言えないですし」
そう瑞希も照れた表情を見せれば、いじらしい表情にフェルンの胸の鼓動は早まっていく。
「女性を護るのは当然の事だけれど。何よりも、危険な任務の時、君を傷つけたくないし」
男として、精霊として。女性、そして神人である瑞希を護ることは当然のことだ。
しかし、それと同時に
(君を傷つけるモノを許すつもりもない)
瑞希だからこそ護りたい、彼女を傷つけるモノを許す気もない、という気持ちは今は胸に仕舞っておくことにするフェルン。
そんな彼の奥底の気持ちに気付かないまま、瑞希は言葉を続けた。
「それに、色々な所に連れて行ってもらって、体験をさせてもらっている事にも感謝しています」
微笑み、また今まで二人で出かけた場所を思い返すように、瑞希は瞳を閉じてみる。
「世界は沢山の出来事で溢れている、ってミュラーさんと知り合ってから感じることが出来ました」
瞳を開き、また真っ直ぐにフェルンへと向き直る。その表情は明るく気高い。
どちらかと言えば身体を動かすことは苦手で、外に居るよりは静かな場所で読書をするのが好きだった瑞希。
だが、ウィンクルムとしてフェルンと契約し、その生活はガラッと変わった。
きっと新たな世界に飛び出すのは勇気が居ることだったろう、とフェルンは思う。
しかしそんな勇気持ち合わせた彼女の黒色の瞳は、とても力強く暖かい。
「でも、ミズキが精神的に強くて、とても助かっているよ」
そうですか?と瑞希はキョトンとした表情を見せるが、フェルンは自信を持って大きく頷いた。
「あぁ。お互いがお互いを補っているって感じがするよ」
「そうだといいのですが……」
どこか不安げな表情を見せる瑞希に、フェルンは優しい笑みを携えたまま言葉を紡ぐ。
「だから、ミズキも一方的に守られている、とか思わなくて良いんだよ?ミズキの冷静な観察眼に救われたことも何度かあるからね」
その言葉に、彼女の黒色の瞳は喜びの色に満ちて行く。
「……だから、俺も君に感謝しているよ」
そう言うフェルンに、瑞希は顔を綻ばせた。
「……これを愛情と言うのか判りませんが……ミュラーさんへの感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます」
瑞希がペコり、と頭を下げれば彼女の黒髪のポニーテールが揺れ。
「俺達の愛情は、お互いへの感謝から始まっているのかな」
そうかもしれませんね、と笑う瑞希にフェルンは答えた。
「一緒にいて、色々な君の姿が見れることが何よりも嬉しいよ」
だから、これからももっともっと色んなミズキを見せて。
そう想いを込めた眼差しを彼女に向ければ。
「ミュラーさん、見てください……!」
二人は人魚像の瞳から光り滴るものを見つけるのだった。
●唇の温もり
いつもは優美な笑みを絶やさない日向 悠夜であったが、流石の事態に表情を曇らせた。
それは、隣にいる精霊で恋人の降矢 弓弦にとても同じことで。
「ナピナピがこんな行動に出るなんてね……ビックリしちゃったね」
「よほど切羽詰っていたのか……」
神の使いであるナピナピに、まさかチョーカーを奪われるとは。
決して喜べる手段ではないが……
(けれど、ナピナピの表情を見るとなんとも言えない気持ちになっちゃうな)
悠夜は思う。そこまで追い詰められていた、ということを。
不安げな瞳で見つめてくるナピナピの姿を見てから、悠夜は肩の力を抜いてフ、と笑みを零した。
そして柔らかく、ナピナピの撫でる。
(大丈夫、心配しないで)
言葉ではなく、表情と態度で伝える悠夜に、思わず自分も笑みを見せていることに気づく弓弦。
(愛……愛、か。気恥ずかしいけれど、折角の機会だから……もうちょっと、進展を……)
普段なかなか表に出せない想いを胸に、弓弦は己の頬をそっと掻いた。
くるり、と突然悠夜が弓弦へと向き直った。
突然の彼女の行動に弓弦は自分の心の内を見透かされたのか、と背筋をシャンと伸ばす。
そんな彼に対し悠夜は一歩前へと進み出て、彼の大きく暖かな手を両の手で握った。
どこか照れた表情を浮かべながらも、悠夜の藍色に近い瞳は真っ直ぐに弓弦を見る。
「……なんだか、改まると恥ずかしいね」
彼女の言葉に、弓弦はにっこりとした笑みを返す。
彼女の藍色の瞳に吸い込まれるようだ、と弓弦は思いながら、彼女の言葉を待てば。
「ねぇ、弓弦さん。……いつもありがとう。貴方のお陰で私も前に進むことが出来たから、本当に感謝しているよ」
頬を染めた彼女の瞳は熱を帯び潤んでいる。
そんな彼女の瞳と言葉を、弓弦は笑みを崩さず、しかし真剣に受け止めた。
「これからも、ずっと一緒に歩んでいきたいな。……弓弦さん、好きだよ」
悠夜の真剣な愛の告白に、弓弦の胸は熱を帯び、鼓動が高鳴る。
握られた手から彼女の想いも流れ込んでくるような幸福感。その彼女の手を、弓弦はギュッと握り返した。
「こちらこそ、いつもありがとう。……僕も、君と歩んでいきたいよ」
弓弦の柔らかな笑みは、意を決したように真剣なものへと変わる。
唾をゴクリと飲み込み、熱い眼差しを彼女へと向けた。
「……悠夜さん、好きだよ」
想いが通じ合う喜びと、次に訪れるであろう期待。
悠夜は瞳をそっと閉じた。
繋がれた手は名残惜しそうにほどかれ、弓弦の手が悠夜の両肩へと回された。
身近に感じられる弓弦の温かさ。自分の胸の鼓動が相手に伝わるのでは、と悠夜も弓弦も思う。
徐々に近づく、弓弦の気配。
瞳を閉じ、そっと彼へと首を上げれば……柔らかな感触を唇に感じ。
(弓弦さん……)
優しく、穏やかな彼の如き甘いキス。
幸せに満たされながら、悠夜は彼の腰へと腕を回せば、それに応えるように弓弦も彼女の身体を抱きしめ返した。
何度も繰り返される柔らかく優しいキス。幸せな感触と温もりに2人は微笑みを浮かべた。
そんな二人の幸せと喜びを祝福するように、人魚像達は暖かな涙を零すのだった。
●満たされる小瓶
こうして、ナピナピの小瓶は人魚像達の瞳から零れた液体で満たされた。
『無理を言って、ごめんなさい。そして幸せな時間を、本当にありがとう』
悲しみの涙で溢れそうだったナピナピは、安堵の表情と笑みをウィンクルム達に向けるのだった。
(このリザルトノベルは、上澤そらマスターが代筆いたしました。)
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 紫水那都 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月04日 |
出発日 | 08月10日 00:00 |
予定納品日 | 08月20日 |