プロローグ
●巡回中の出来事
ある夕刻の事。
そのA.R.O.A.職員は、『アモルスィー』との中継役として『パシオンシー』に滞在していた。
アモルスィーに現れたオーガの影響が、地上にまで及んでいないか。
そのような懸念から、巡回を行っていた時のことだった。
がさり。
職員の巡回ルート脇の茂みが揺れる。
すわオーガか、と身構える職員。
がさがさと茂みの揺れが大きくなり、顔を出したのは、
「え、子供……?」
歳の頃は10歳にも満たないだろうか、こげ茶の髪を三つ編みした少女とそれより幼い同色の髪を持った少年。
二人は、ぐすぐすと半泣きになりながらA.R.O.A.職員を見上げている。
「お嬢ちゃん達、一体どうしたの!?」
慌てて駆け寄る職員に、少女がおずおずと口を開いた。
「あの、わるいのをやっつけてくれるところの人、ですよね?」
少女は真剣な眼差しで言う。
「え、ええ、そうだけど……」
まさか、オーガに追われてきたのではないかと、職員は警戒する。
一方、職員の肯定を聞いて、ほっとした表情になった少女と少年は二人で顔を見合わせると、
「おねがいします、お花畑をたすけてください!!」
「ください!!」
勢い良く頭を下げる少女と、続いて少年も言う。
どういう事かと思った職員が詳しく話すよう促すと、二人はたどたどしいながらも話し始めた。
●お花畑の襲撃者
二人の話をまとめると、こうだった。
二人は、パシオン近郊に住んでいる姉弟だ。
花が好きな二人は、腰を悪くした祖父母がやめてしまった畑の一角に種をまき、二人で花畑を作っていたのだという。
しかしある日の朝、いつものように水やりのために向かった花畑で見たのは、無残にも掘り起こされバラバラになった花達の姿であった。
「それって、でも、誰かのいたずらじゃないかな?」
職員の問いかけに、
「ちがうの!」
二人はちぎれんばかりに首を横に振る。
「きゅーってへんな声で鳴いたの」
「とびだしてきたの」
「もぐらなの」
「つのがはえてたの」
矢継ぎ早に言った後、少女が履いていたズボンのすそを捲り上げる。
「これ、そいつらに爪でやられたの」
その脚には、大きな絆創膏がはられていた。
「パパとママは信じてくれなかったけど、ぜったいにつのがはえてたもん」
「ほんとだもん」
「つのがはえてるのは、わるいのなんでしょう?」
「おねがい、やっつけて!」
そう言うと二人は、涙の浮かんだ瞳でじっと職員を見つめる。
そんな二人に職員は、
「わかったわ。だから、もう少し詳しく教えてくれないかな?」
●依頼
「というわけで、デミオーガ化したモグラ……デミ・モールの討伐をお願いしたいの」
受付で、職員が言う。
「場所は使われなくなった畑。一角には壊されちゃった花畑があるけど、それ以外は雑草だらけの空き地だと思ってくれればいいわ」
「何体倒せばいいんだ?」
あなたは疑問をぶつける。
「それが、今一つ分からないのよ。子供達が見たのは2体だけど、それ以上に居る可能性もあるわ」
職員が答える。
あなたとパートナーは顔を見合わせる。
ふと、パートナーが何かに気付いたように職員に問いかけた。
「モグラって、土の中に居るものでしょう。どうやって見つければ?」
「モグラが、音や振動に敏感なのは知ってる?普通はそれを利用して追い払うんだけど、このデミ・モールは音や振動の元を攻撃する習性があるみたいなの」
それでおびき出してね、と職員は言う。
「デミ・モールの大きさはデミ・大ラットと同じくらいよ。動きも素早いみたいだから、注意してね」
そこまで聞くと、さっさと出発しようとするあなた。
それを引き留めるパートナーの質問。
「モグラなんて、日の光に当たれば死んじゃうんじゃないですか?」
「え、そうなのか?」
それでは、地上に出てきた時点でこちらの勝ちなのでは、と思った時だった。
「あのね、それデマだから。それに、モグラの目って退化しちゃってるから太陽光があっても無くても同じだし」
職員はそう告げると、モグラについてしっかり調べたのだと胸を張った。
「それじゃ、しっかり頼むわよ!」
職員の言葉に送り出され、あなたとパートナーは件の畑に向かうのだった。
解説
1.やること
デミ・モールを退治してください。
2.デミ・モールの数
一組につき2個の10面ダイスを振って頂き、全組のダイスの合計が
~25の場合・3匹
26~75の場合・5匹
76~の場合・7匹
のデミ・モールと戦って頂くことになります。
3.場所
荒れた元畑。
そこそこの広さがあり、平坦な地面です。
雑草が茂っていますが戦闘の邪魔になる障害物などはありません。
4.持ち込めるもの
装備品と、それ以外はコンビニで売っていそうなものなど簡単に手に入るものに限らせて頂きます。
5.その他
畑までの移動には車が出るので問題ありません。
描写して頂かなくて結構です。
ゲームマスターより
紫水那都と申します。
今回はモグラ退治です。
いかにして土中の敵と戦うか、良く考えてくださいね!
それでは、よろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
田口 伊津美(ナハト)
(結寿音と偽名を名乗っています) 【心情】 久々の実戦だけど… まぁ相手は子供でも簡単に逃げられる雑魚だけ、どうにかなるっしょ? 油断は禁物だけどね、さっさと報酬せしめるよ! 【行動】 共通事項は護る。 私は歌が得意だからね、歌っておびき寄せられないかな? なんか戦闘士気が上がるような歌を歌って、テンペストダンサーの舞踏を盛り上げてやる! つっても、さっさと終わらせたいからなんだけど。 酢の臭いを諸に被らないといいな、あれ大っ嫌いなんだよね! |
リチェルカーレ(シリウス)
一生懸命作ったお花畑だもの 早く安全で綺麗な場所になるようにしなくちゃね お花畑についたらトランス シリウスを見上げ「気をつけてね」と笑顔 それらしい穴を見つけたら 歌を歌いながら軽くステップを踏み 歌と振動でモグラを誘い出す(スキル「歌唱」使用) 地面に注意 飛び出してきたら避けて 穴から遠ざけるよう少し下がる マジックステッキ「ムーン」を使い攻撃 地中に潜らないよう仲間と連携して モグラは基本は各ウィンクルムで一体ずつ 状況に応じ相互に協力して戦う 戦闘後 仲間に怪我がないか確認 その後 荒れた畑を元に戻す手伝い 穴を埋め地面をならす 無事な花があれば植え直して また 元のように綺麗な花が咲きますように |
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
☆心情 大切に育ててたものが荒らされちゃうのは辛いよね 待っててね、すぐに退治するから ※各組共通事項 敵を誘き寄せる時は各組近すぎず遠すぎず、一定の距離を保って行う ・不自然な土の盛り上がりを見つけたらそこに【オ・トーリ・デコイ】を放ってデミ・モールを誘き寄せられないか試す ・敵が土から出てきたところをすかさず鞭で拘束、 暴れるようなら【スプレーボトルに入れてきたお酢】をふきかけちゃうよ! ☆デミ・モール退治後 これは任務外のことだけれど、荒れちゃった花畑を元に戻すお手伝いがしたいな ねね、もう一度、花の種を植えようよ! この花たちが咲く頃には沢山の笑顔も咲いていますように(姉弟の笑顔を願いながら花の種を植える) |
出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
道具:酢入りスプレー、ホイッスル 到着後トランスしてモグラ捜索 配置は【共通事項】に従う 『オーガ・ナノーカ』も放って出てきそうな場所の目星を付ける 穴が開いてたらその周辺でホイッスルを吹く はいモグラさんたち集合ー 10数えて出てこなければ場所を移動 うまくおびき出せたらレムの後ろに アプローチⅡの効果中は下手に刺激してこちらに矛先が向かないように気を付ける その間は他の組にも注意を払って、危なそうならレムに伝える 酢スプレーは自分か他の神人が襲われた時の緊急撃退用 うっかり噴射して穴の中に逃げられないよう注意して使う あ、結寿音とか、におい苦手な人に向けては使わない 敵が闇属性なら『輝白砂』の効果でスタンを狙う |
名生 佳代(花木 宏介)
※共通事項に従う ○誘き寄せ 音に反応するらしいから、思いっきり騒いで挑発! で、宏介にモグラを攻撃してもらう。 アタイも自衛のために構えておくけどメインは挑発。 よそにモグラが集中しすぎたら宏介とフォロー。 じゃ、宏介、頑張ってねぇ(トランス) ピコピコサンダルで地面を踏んづけて、 眠ってるモグラも起こしてやるしぃ! やいやい、ドンくさくて土臭いモグラ共ぉ! アタイに噛みつけるもんなら噛みついてみろしぃ! ○これがアタイの女子力だしぃ! 手短な物だと香水を持ち歩いてるしぃ。 メイクは得意だもんねぇ。(lv4 まぁ、香水ってつけすぎると超臭いしねぇ。 モグラの鼻にかけたらイチコロじゃん? 一瞬動きを止めるために使えるかもぉ? |
手折られた花が散らばり、あちらこちらに土が掘り返された跡の残る荒れた花畑。
この花畑は、子供たちが小さな手で懸命に世話をしていたものだ。
大切に育てたものを荒らされてしまった子供たちの気持ちを考えると、ミサ・フルールは胸が痛んだ。
「待っててね、すぐに退治するから」
心優しいが故に、他人の心の痛みにも敏感なミサ。エミリオ・シュトルツはそんな彼女の心境が手に取るように解る。
「姉弟に笑顔が戻るように自分達ができることを精一杯頑張ろう」
そう声をかけると、ミサは力強く頷く。
「一生懸命作ったお花畑だもの。早く安全で綺麗な場所になるようにしなくちゃね」
リチェルカーレはやる気に満ちた表情で荒れた花畑を見つめる。
「張り切りすぎて怪我をするなよ」
ぼそりと釘を刺すシリウスの頬にリチェルカーレは唇を寄せ、トランスに移行する。
ふわりと柔らかく暖かい風と光が広がり、羽根のようにちらちらと光がふたりの間を舞い降り、消えると、リチェルカーレはシリウスを見上げ微笑んだ。
「気を付けてね」
それはこっちの台詞だ、とシリウスは内心溜息をつく。
「久々の実戦だけど……」
田口 伊津美こと結寿音は眼鏡を指で押し上げ、隣に佇むナハトをちらりと見遣る。
「実戦、血が騒ぐ……」
既に目の色が変わっているナハトに、(やっぱり……)と頭を抱える。
オーガ退治となると周りが見えなくなる精霊を、なんとか制御できればいいのだが。
「子供相手でも容赦はしない……」
「違う!」
結寿音のツッコミに、はっと理性を取り戻すナハト。
「……あ、子供は依頼人だった」
全く、先が思いやられる。結寿音は頭痛を感じこめかみを抑えた。
「これはまさしく、モグラ叩きですわねぇ」
名生 佳代が楽しげに笑う。
モグラ叩き、という言葉に花木 宏介が思案する。
「反射神経が試されるゲームか……。数回はやったことはあるが……」
やったことはあるが、やり慣れていると言えるほどの回数ではない。それに、ゲームと同じ感覚でうまくいくのだろうか。
とはいえ、デミ・モールを放っておくのは危険だ。
「ふん、やるだけやってみよう」
「おーほっほっほ!思いきり騒いで挑発してやりますわーー!」
「それじゃあ、モグラ捜索開始だね」
出石 香奈は近くの商店で購入したホイッスルを手にする。これで音をたてて、デミ・モールをおびき出すつもりだ。
「やってやろうじゃない」
インスパイア・スペルと共にレムレース・エーヴィヒカイトの頬に口付けを落とし、トランスへ移行する。
ミサとエミリオもそれに続き、さらにハイ・トランスへ。
「まぁ相手は子供でも簡単に逃げられる雑魚だけ、どうにかなるっしょ?」
結寿音は不安を吹っ切り、
「油断は禁物だけどね、さっさと報酬せしめるよ!」
と、ナハトを促し花畑へ走った。
ウィンクルムたちは、各組でそれぞれに敵を誘き寄せ撃破する作戦をとり、そのため、各組近すぎず遠すぎず、一定の距離を保って花畑で索敵を開始する。
ミサは不自然な土の盛り上がりを発見すると、オ・トーリ・デコイを放ち、デミ・モールが誘き寄せられて来ないか試す。
その間、エミリオは余計な音を立てないようにとじっと息を潜めている。
もちろん、敵が予想外の所から奇襲してくる可能性も考慮し、常に警戒を怠らない。不意打ちにはいつでもユニゾンで反撃できるよう、神経を研ぎ澄ませている。
土の盛り上がりの近くに必ずデミ・モールがいるというわけではないので、オ・トーリ・デコイで誘き寄せる作戦の成功率も100パーセントではない。
しかし、ミサは諦めずに、土の盛り上がりを見つけてはオ・トーリ・デコイを放つ。
何回目かの挑戦で、やっと動きが見られた。
オ・トーリ・デコイが騒音を立てる直近の土が、ぼこりと盛り上がる。
ミサとエミリオの武器を持つ手がぴくりと動く。一瞬の隙を見逃すな。
地表にデミ・モールの鼻先が現れ、次に土をかき分ける前脚がもぞもぞと蠢きながら出て来る。
角のある頭部が顕わになり、胴体が出てきたたところで――
ひゅん、とウィップ「ローズ・オブ・マッハ」が空を裂く。
音速をも超えると言われている鞭先がデミ・モールの胴に巻き付き、地中から完全に引きずりだす。
咄嗟のことに、デミ・モールは何が起こったのか理解できぬままにじたばたと暴れるが、そこへ、エミリオのトーベントが叩きこまれる。
「ぎゅーっっ!」
と呻き、拘束されつつも反撃をしようとするデミ・モールだが、そこへ、霧状のものが襲い掛かる。
ミサが用意した酢スプレーだ。自宅にある調味料をスプレーボトルに入れたものを持ってきていたのだ。
ダメージは与えられないが、デミ・モールの嗅覚を強く刺激し攪乱させるには充分であった。
デミ・モールは闇雲に攻撃を繰り出すが、エミリオに届く気配はない。加えてエミリオは、アナリーゼにより攻撃回数も増している。
それでもデミ・モールは必死に反撃を試みてのたうちまわったため、ウィップが解けてしまった。
勝ち目はないと悟ったデミ・モールは一目散に元の穴へ戻ろうとする。
が、強烈な臭気に怯み脚を止める。
エミリオが抜かりのないことに、戦闘の隙を見てデミ・モールの穴にニンニクを放り込んでいたのだ。
こんなこともあろうかと、ここへ来る途中に商店で購入していたものだ。
そして、逃げ場を失ったデミ・モールに、エミリオは最後の一撃を浴びせるのだった。
リチェルカーレは軽くステップを踏みながら歌を歌う。
ここが花に満ち溢れた場所であれば、彼女の姿は可憐さを増していただろう。
しかし残念ながら、ここは最早荒地と化している。
デミ・モールが潜んでいそうな穴や土の盛り上がりを見つけては、その付近で歌を歌い、足を踏み鳴らしてデミ・モールをおびき寄せる。
リチェルカーレを見守っていたシリウスが、声をあげる。
「リチェ!」
リチェルカーレも、地面がぼこりと動いたのに気付き、さっと身を翻す。
間一髪、キタキツネフットを掠めてデミ・モールが勢いよく飛び出してきた。
狙いを外したデミ・モールは再びリチェルカーレに向かい跳躍する。
リチェルカーレはマジックステッキ「ムーン」を振るって攻撃を避けつつ後ろへ下がり、デミ・モールを引きつける。狙いは、穴から離すこと。
充分に離れたところで、デミ・モールの後頭部にごつんと石が当たる。
「きゅ!」
恨めしそうに鳴いて振り返れば、そこにシリウスが立っていた。
シリウスから発せられる闘気にデミ・モールは一旦退却を考えたが、逃げるべき場所がない。
先ほど出て来た穴の前に、シリウスが立ちはだかっているのだ。
デミ・モールは、退路を断たれたことを知る。
即座に別の穴を掘って地中へ潜ろうとするが、それをシリウスが素早く蹴り飛ばした。
地面に叩きつけられたデミ・モールを、アルペジオⅡで斬りつける。
アナリーゼを用い手数が底上げされたその攻撃に、デミ・モールは反撃の機を見いだせない。
再び地中へ戻られると面倒だから、素早く倒す。それが、シリウスの考えだった。
必死に逃走しようとするデミ・モールに、双剣「伏龍・昇龍」の踊るような斬撃を浴びせ、勝利を得たのであった。
リチェルカーレは安堵の溜息をもらすが、まだ全てが終わったわけではない。
敵が残っているかもしれないと、再び表情を引き締めた。
「いってらっしゃい」
香奈は荒地にオーガ・ナノーカを放った。これで、デミ・モールが出てきそうな場所の目星をつけられれば、と思ったのだ。
オーガ・ナノーカだけに頼るつもりはもちろんない。
デミ・モールが潜んでいそうな穴を見つけると、ホイッスルをピッピー!と鳴らし、びしっと挙手。
「はいモグラさんたち集合ー!」
冗談めかしてそう言いつつ、心の中で数を数える。
(……8、9、10!)
「よし、次!」
10数えてデミ・モールが出て来なければ、場所を変え、違う穴を探しまたホイッスルを鳴らす。
レムレースは香奈について歩きながらも、常に周囲に視線を巡らせる。
もしかしたら、複数のデミ・モールに襲われている組もいるかもしれない。そうなった場合、いつでもフォローしに行けるようにだ。
「ん?」
香奈は、オーガ・ナノーカのカメラに映った映像に眉を潜める。
地面が一瞬、盛り上がったような気がしたのだ。
レムレースを促して、急ぎ、オーガ・ナノーカのいる場所へと向かう。
その付近で大きく長めにホイッスルを鳴らす。
空気を震わせるその音に、地中から黒い塊が飛び出してきた。
「きゃっ」
香奈に体当たりし地面に着地したそれは、間違いなくデミ・モール。
即座にレムレースがアプローチⅡを発動させつつ香奈を引き寄せ、香奈は角に突かれた腿をさすりながら、レムレースの後ろに身を隠す。
デミ・モールの攻撃対象は香奈からレムレースへと移る。
香奈はデミ・モールの意識がこちらに戻って来ないように、じっと息を潜める。
デミ・モールの攻撃をレムレースが引き受けてくれたことで、香奈には周囲を見る余裕が生まれる。
他の皆は大丈夫だろうか……と視線を巡らせる。今のところ、危険はないようだった。
が、用心するに越したことはない。
香奈はミサ同様、自作の酢スプレーを取り出しいつでも使用できるように握りしめた。
レムレースはデミ・モールの攻撃を2度、3度とおぼろ月で振り払う。
傷を負ったデミ・モールは、一旦出てきた穴に逃げ帰る。
深追いはしないほうがいい、そう判断したレムレースに、香奈はもう一度デミ・モールをおびき寄せようとホイッスルを口に含んだ。
と、その時。
デミ・モールは逃げたのではなかった。
レムレースの直下から飛び出し、背中を狙う。
香奈はレムレースの名を呼ぼうとし、口に含んだままのホイッスルがピッと鳴る。
レムレースは反射的にデミ・モールを腕で打ち払うと、その胴におぼろ月を突き立てる。
いびつな形のその刀身は、のたうち回るデミ・モールを突き刺したまま、逃すことはなかった。
やがて、デミ・モールはぐったりと動かなくなった。
皆から充分に離れたところで、結寿音とナハトはトランスへ移行した。
オーラがその身体を包み込むと、結寿音は唇から歌を紡ぎ始める。
歌う結寿音はまさに天使だった。
本性の腹黒さは微塵も感じられない。
戦闘という状況に合わせてか、アップテンポで士気の上がる歌を選んで歌う。
ナハトは戦場に出るのは久方ぶりだ。
ちらりと周囲に視線を走らせる。
美しい連撃を放つエミリオとシリウス、神人を護りつつ戦うレムレース、神経を研ぎ澄ませ敵の出現を待つ宏介。
彼らを見ているうちに、徐々に、戦いの感覚が身体に蘇ってくる。
結寿音の歌声は、少しずつ気迫が増してゆく。テンペストダンサーの舞踏を盛り上げるが如く。
それが、ナハトの戦闘意欲を昂らせる。
戦士に力を与える女神の歌声、とも言えた。
実際は、さっさと終わらせたいが故の気迫なのであるが、天使な外見に騙され、誰もその本心には気づいていない。
気迫が込められた激しい歌声に、とうとうデミ・モールが顔を出す。
ナハトが軽く地を蹴り一気に間合いを詰めると、デミ・モールの鼻先を魂剣「ケユクス&アルキュオネ」が掠める。
デミ・モールが痛みに跳ね上がったところに、次々と剣を繰り出す。
だがその威力は軽く、決定的な一撃を与えられぬまま、反撃をくらい、防御態勢をとるナハト。
そこへ、2つの刃を閃かせ、滑り込んできた影がデミ・モールを斬りつける。
シリウスだった。
「お手伝いさせてください」
後からシリウスに追いついてきたリチェルカーレが、結寿音に微笑む。
「ありがと」
結寿音も笑みを返す。これで戦闘が早く終わる!と内心ガッツポーズ。
突然現れたシリウスに気を取られ背を向けたデミ・モールに、ナハトは最後の一撃を与えた。
佳代はげふん、とひとつ咳払いをすると、気合いに満ちた表情で武器を構える。が、あくまでこれは挑発用。メイン攻撃は宏介にお任せの予定。
「じゃ、宏介、頑張ってねぇ」
佳代はインスパイアスペルを唱え宏介の頬に口付けると。
「眠ってるモグラも起こしてやるしぃ!」
どすんどすん、と地面を踏み鳴らし声をあげる。
「やいやい、ドンくさくて土臭いモグラ共ぉ!アタイに噛みつけるもんなら噛みついてみろしぃ!」
騒ぐことに関しては、佳代はいつもうるさ過ぎるぐらいだから大丈夫だろう。
宏介は、佳代の騒音にデミ・モールがおびき出されるだろうことを信じて疑わなかった。
佳代が大声をあげている間、いつでも手裏剣「サクリティ」を放てるように周囲に気を張り巡らせる。
「佳代には手を出させないからな。佳代も油断はするなよ」
「言われなくてもわかってるしぃ!出て来いやぁ、だしぃ!」
楽しそうに騒ぎ立てる佳代の足元で、土がもそもそと蠢いた。
すとーん!
「ひゃっ?」
足先に手裏剣が飛んできて、佳代は悲鳴を上げる。
が、そこには浅く手裏剣が刺さったデミ・モールがいた。
デミ・モールが土中から跳躍すると、手裏剣がぽとりと落ちる。
そして、デミ・モールは真っ直ぐ佳代に突進していく!
宏介は、身を挺して佳代を守ろうと走る。
プシュッ
一気に臭気が立ち込め、デミ・モールも勢いを無くしその場に丸まってしまった。
「?」
宏介が見ると、そこには、アトマイザを手に勝ち誇った表情の佳代。
「これがアタイの女子力だしぃ!手短な物だと香水を持ち歩いてるしぃ」
「……さすが化粧品持ち歩く所だけは女子というか……」
伊達にメイクスキルを有しているわけではない。
「『だけ』は余計だしぃ!」
憤慨しながら2度、3度とデミ・モールに香水を噴きつける。
その隙に、宏介は双葉弐式を発動し、手裏剣が左右からデミ・モールに襲い掛かる。
「きゅっ!」
傷を負ったデミ・モールは猛然と宏介に襲い掛かる。
宏介は防御の姿勢をとった。
と、そこへ、アプローチⅡを発動させたレムレースが駆けつける。
デミ・モールは攻撃の軌道を変え、レムレースへと飛びかかる。
宏介は、隙だらけになったデミ・モールの脇腹に手裏剣を飛ばす。
「ぎゅうっ」
手裏剣を受け、真横に吹っ飛ぶデミ・モール。立ち上がったところへ、
「ほら、あっちへ行きな」
と、レムレースと共に駆けつけてきた香奈の酢スプレーを浴びる。
酢スプレーに追われるようにして、またもレムレースと宏介の攻撃範囲に駆けこむデミ・モール。
「双葉弐式!」
手裏剣の挟撃に身動きできずにいたところに、レムレースのおぼろ月が一閃し、デミ・モールは地に倒れ伏した。
荒地に静寂が戻る。
オ・トーリ・デコイが騒いでも、香奈がホイッスルを鳴らしても、リチェルカーレと結寿音が歌い、佳代が足を踏み鳴らしても、もうデミ・モールは現れなかった。
「もう出てこないみたいだしぃ」
「うっ……佳代、お酢やら香水臭くないか?」
宏介は、佳代から漂う諸々の匂いに頭がクラクラする。
「はぁ、今夜は洗濯が面倒そうだな……」
肩を落とす宏介の隣で、レムレースも酸っぱい匂いに顔をしかめている。
酢の匂いがする佳代や香奈から微妙に距離を取っているのは結寿音。酢の匂いが苦手なのだ。
酢を諸に被るようなことにならなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「皆さん、怪我はなかったですか?」
心配そうにリチェルカーレが問う。
「ちょっと血が滲んだ程度かな」
香奈がデミ・モールの角に襲われた部位を見て答えた。
精霊たちも、擦り傷程度で済んでいたようだ。
「お姉ちゃんたち、ありがとう」
戦闘が終わったことを知り、子供たちがやってくる。
しかし、子供たちの笑顔はどことなく寂し気だ。
そうだ、とミサはぽんと手を打つ。
「ねね、もう一度、花の種を植えようよ!」
任務外であることはわかっていた。だが、荒れた花畑を元に戻す手伝いがしたかった。
子供たちは顔を見合わせる。
「私も、お手伝いしたいです」
リチェルカーレが微笑むと、子供たちは嬉しそうに「ありがとう」ともう一度、頭を下げた。
ミサとエミリオ、リチェルカーレとシリウスは、残って花畑の手入れを手伝った。
穴を埋め、根が残っている花を植え直し、新たな種を植え……。
元のように綺麗な花が咲きますように。
この花たちが咲く頃には沢山の笑顔も咲いていますように、そう願いながら。
(このリザルトノベルは、木口アキノマスターが代筆いたしました。)
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 紫水那都 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 08月03日 |
出発日 | 08月11日 00:00 |
予定納品日 | 08月21日 |
参加者
会議室
-
2015/08/10-21:09
ミサは共通事項ありがとう。
酢スプレーは、緊急回避用に使うことにしたわ。
酢のにおいが苦手な人には向けないよう気を付けるわね。
ということでプラン提出してきたわ。
みんな頑張りましょうね! -
2015/08/10-19:20
顔だしが遅れてごめんなさい。ミサちゃん、共通項ありがとうございます。
基本は各個撃破、相互フォローしあう、で、了解です。
お花畑、子供たちに返してあげたいですね。がんばりましょう。 -
2015/08/10-11:17
気づけば最終日だー。
基本は各個撃破、複数でフォロー等了解よー
子供が遭遇しても親が危険を感じない怪我程度しかしてないし、まー気楽にいきましょ。
お酢、私らにかからないといいけど……あの臭い苦手なんだよね -
2015/08/10-01:53
(結寿音姐さん…!ごめん!呼び名については対応するしぃ!)
ふむふむ、基本は各個撃破ねぇ。
シンプルでいいと思う!
ミサ姐さんは共通事項ありがとうねぇ。それでいいと思うしぃ!
>おびき寄せ
アタイは声…とちょっとした小道具程度(ピコピコサンダル)だねぇ。
おもいっきり挑発しようと思うしぃ。
お酢もいいねぇ。
臭いならアタイは香水持ってるけど、試してみよっかなぁ。
使いドコロは確かに迷う…。 -
2015/08/10-00:40
>おびき出し
では皆で同じことを書くのはプランの文字数が勿体無いので、
私のプランの方に【共通事項:敵を誘き寄せる時は各組近すぎず遠すぎずの距離で行う】と書いておきますね。
何か問題があれば教えてください。
>酢
そうですね、逃げられてしまう可能性もありますよね。
私の方は鞭で拘束した際にシュッとひとふきしようかなと考えています。 -
2015/08/09-15:47
>おびき出し
うーん、まず現場に着いたらそれらしい穴を探してその近くで音を立ててみるとか?
距離に関しては、各ウィンクルムごとに近すぎず離れすぎずで一定の距離を保って、
一気に複数釣れた場合にすぐにフォローに入れるようにしておくのはどうかしら。
基本は各個撃破って感じでいいと思うわ。
>酢
あたしも一応用意しておくつもり。
これ、ちょっと思ったんだけど吹き付けたら逆に穴に逃げられてしまう可能性もあるわね…
使いどころはもう少し考えてみるわ。 -
2015/08/08-17:24
おびき寄せるのには私も歌うか、ホイッスル、かしら?
出てきたモグラを逃がさない工夫がいりそうですね。
ミサちゃんと香奈さんが言っているような臭い、いいかもしれません。
既にある穴からでてくるか微妙ですし、ある程度感覚あけておびき寄せた方がいいのかな?
あ、でも必ずモグラがばらばらに現れるかわからないのかしら…? -
2015/08/08-07:35
>[13]香奈さん
提案ありがとうございます!
お酢ですか、いいですね。
使わせてもらってもいいでしょうか?
音を出す位置は私はデミ・モールが巣を作ってそうな場所・・・木の根元とか、あとは不自然な土の盛り上がりがあったらそこから自分達の方へ向かってアヒルを放とうと思ったのですけど・・・依頼書には平坦な地面に障害物なし、と書かれているのでむむむ・・・ちょっと考え中です。
戦う場所はそれなりの広さがあるようですし、混戦を避ける為にも各組多少離れて戦うのは皆さん、どう思います? -
2015/08/08-06:49
基本一組一匹担当、いいと思う、分かったわ。
(手ぽん)そうか、アヒルを持っている人はそれを使えばいいのね。
って思ったら、あたし持ってなかったわ…歌も別に得意じゃないし、
ホイッスルを用意して吹くことにするわ。
で、うまくおびき出せたらレムがアプローチをかけて地上に引き付ける、と。
臭いでってなると、ニンニクそのままぽいってするよりは
スプレーの方がいいんじゃないかしら。
狙って吹き付けられるし、臭いもダイレクトにいけると思うし…酢なんかどう?
ところで、音を出す位置取りとかみんな考えている?
穴が開いてるところ…?まずは穴を探すところからかしら。
でも、新しく穴を掘って向かってくるかもしれないから微妙ね。 -
2015/08/08-00:14
連続投稿失礼します。
思えば私 【アヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ】を持っているから、モグラを誘き寄せるのにはそれを使うことにするね。 -
2015/08/07-23:39
モグラは5匹かー
ちょうどこっちも5組だし、基本一組一匹ずつ、神人がモグラを呼び寄せて精霊さんが叩く感じでいいのかな?
コンビニで買えるとしたらホイッスルですかね。
防犯ブザーは用意できるかどうかちょっと微妙なラインじゃないかな、と。
ユズっち、歌唱力 抜群だもんね!
頼りにしてるよ(目キラキラ)
あとは素早いモグラとどう戦うかだよね。
せっかく誘い出せても叩く前に土に潜っちゃったら面倒だし・・・まさにゲームセンターのモグラ叩きだね(ぼそ)
私はハイトランスの鞭で捕縛したところをエミリオさんに叩いてもらおうかなと考えているよ。
あとはモグラの臭覚がいいのを利用して臭いで懲らしめるとかかな。
コンビニで買えるとなると・・・ニンニクでも穴に投げ入れてみる? -
2015/08/07-01:00
ミサちゃんとリチェルちゃんはお久しぶり!
そして初めまして。
結寿音だよー
(身分を隠し、偽名を名乗っています。アクションでは対応してくださると非常に助かります…!)
やっぱテンペスト多いねぇ、職変えさせたい……
5匹に決定かな、最大だしても70までだし。
むぅ、別れるならナハトは騒げないので叩く側でいいかな。
私は歌でも歌おうかね -
2015/08/06-23:41
あら…私たちが10で合計が30…ゲフンッ…。
「バ佳代、一番多くのもぐらを引っ張り出してきたな。あーあ、うるさい清楚だな」
(ドゲシィ)ごめんなさいだしぃ!
ってゆーことで、デミ・モールの数は5匹だねぇ。
んーと、騒ぐのは宏介との喧嘩で慣れてるけど…騒ぐ役と叩く役で別れるってどうだろう?
騒ぐ人はとにかく騒ぐ、叩く人はもぐらを見つけたら即叩く感じぃ?
-
2015/08/06-23:29
皆様ごきげんよう、名生 佳代とシノビの花木 宏介ですわ。
伊津美姉様とナハト兄様、リチェ姉様とシリウス兄様は初めまして。
ミサ姉様とエミリオ兄様、香奈姉様とレムレース兄様は久しぶりですわね!またお会いできて嬉しいですわ!
よろしくお願いしますわ。
さて…
おーほっほっほ、もぐら叩きですわ〜♪
【ダイスA(10面):5】【ダイスB(10面):5】 -
2015/08/06-21:44
出石香奈とロイヤルナイトのレムレースよ。
初めての人もそうじゃない人もよろしくね。
あたし達のダイスは「9」だから、合計「20」になったわね。
少な目の数で済んでくれるといいんだけど。
モグラは音や振動で誘き寄せるのね…アプローチⅡは使うときに声を出さすスキルだけど
あれは誘き寄せるというより出てきた敵を引き付けるものだから、また別の方法が必要よね。
コンビニで買える程度のものなら、ホイッスルや防犯ブザーとかかしら?
ずっと声を張り上げていくのも疲れちゃうしね。
とりあえず今思いついてるのはこのくらいよ。 -
2015/08/06-21:39
【ダイスA(10面):8】【ダイスB(10面):1】 -
2015/08/06-20:42
リチェルカーレです。パートナーはマキナのテンペストダンサー、シリウス。
ミサちゃん、結寿音さん、お久しぶりです。
よろしくお願いします、ね。
ええと、私たちのダイスの合計は「6」です。
ミサちゃんたちの数と合計すると「11」ですね。
うまくモグラを引き寄せて退治できるといいんですけど。
とりあえず、今回はご挨拶だけで(ぺこりと一礼) -
2015/08/06-20:35
【ダイスA(10面):5】【ダイスB(10面):1】 -
2015/08/06-07:53
ミサ・フルールとパートナーのエミリオさんは『テンペストダンサー』です。
どうぞよろしくお願いします(ぺこり)
ユズっち、ナハトさん、この間のカフェではどうもー(ぶんぶんと手を振る)
またご一緒できて嬉しい!
んと、私達のダイスの合計は『5』だね。
これから参加者増えるかもしれないし、とりあえず今は挨拶だけで失礼するね。
様子見てまた来ますー! -
2015/08/06-07:42
【ダイスA(10面):4】【ダイスB(10面):1】