きらきら百物語(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●きらきらを教えて
「こうしてお庭に出るのは久しぶり……」
 恋焦がれて止まなかった外の空気を胸いっぱいに吸い込んで、ルルアンはふわりと口元を緩めました。メイドのアミがルルアンの車椅子をからからと押せば、アフガンハウンド犬のシャンテが、久々にルルアンと一緒に庭へと出られるのが嬉しいのか、跳ねるようについてきます。首都タブロスのとある富豪の家の一人娘であるルルアンは生まれつき病弱で、ここしばらくも床に伏せってベッドから離れられずにいました。だから、お屋敷の外に出るのは本当に久しぶり。
「私、随分長いこと寝ついていたのね。お誕生日もとっくに過ぎちゃったみたい」
 シャンテの柔らかな毛並みをふかふかと撫でて、ルルアンはため息を一つ零します。寝ついている間に14歳の誕生日を迎えてしまったので、一つお姉さんになった実感はあまりありません。
「昨年のお誕生日はとっても楽しかったのに。私、病気って嫌いだわ」
 でも、あんまり暗い顔をしていたらまたパパとママが心配します。だから、この話はルルアンとシャンテと、それからアミの秘密のお話なのです。
「ああでも、今朝パパがお土産だってくれたお菓子、美味しかったなぁ。レモンとジンジャーのチョコレート! パッケージも可愛くって、ちょっぴり大人の味でね、きらきらしてた! お外の世界には、きっときらきらがいっぱいあるのね!」
 ルルアンは屋敷の庭より外の世界に出たことがありません。だから、憧れの外の世界はルルアンにとってはとても遠い場所です。うっとりと外の世界に想いを馳せるルルアンの肩へと、アミはそっと日除けのレースカーディガンを掛けて、それからにっこりとして言いました。
「お嬢様、今日はそろそろお屋敷に戻りましょう。お身体に障ります」
「もう、アミったら心配症なんだから……私、大丈夫よ」
 ルルアンがそんな我儘を言って愛らしい唇をつんと尖らせるので、アミは少し首を傾げて――それから、良いことを思いついたというふうにぽんと手を合わせました。
「お嬢様、お手紙を書きましょう!」
「お手紙?」
「そうです、お手紙です! お外にあるきらきらを、お外の皆様に教えていただけるようお願いするんです。きっと沢山の素敵なお話が聞けますよ」
 アミの言葉に、ルルアンはその瞳をぱああと輝かせます。
「アミ、それってとっても素敵だわ! 早くお部屋に戻りましょう、ね?」
 そうして2人と1匹はお屋敷の中へと戻って――ルルアンはせっせと、心を込めてお外の人達へとお手紙をしたためました。

解説

●このエピソードについて
貴方とパートナーは、デート中偶然、街の掲示板にルルアンからの手紙が貼ってあるのを見つけました。
手紙には、『貴方の知っているきらきらを教えてください』と綴られています。
興味を持った貴方達は、自分達にとってのきらきらは何か思い返してみることに……というお話です。

●このエピソードについて2
リザルトは、『2人にとってのきらきら(思い出の品等)』に纏わる出来事を、掲示板の前で2人で回想する、という形式になります。
回想する出来事が『いつ』『どこで』起こったのかと、『2人にとってのきらきら』が何なのかを必ずプランにご記入くださいませ。
なお、他エピソードでも描写がある物をきらきらとして選んでいただいても大丈夫ですが、その際に回想する出来事は他エピソードでの出来事以外にしていただけるようよろしくお願いいたします。
NG例:きらきらが『○○』というエピソードでプレゼントされた物で、本エピソードで回想するのが『○○』にてきらきらをプレゼントされた時のこと。
OK例:きらきらが『○○』というエピソードでプレゼントされた物で、本エピソードで回想するのが、きらきらを失くしてしまい2人で一緒に探した時のこと。

●ルルアンについて
生まれつき病弱な14歳の少女でいつも車椅子に乗っています。
リザルトには登場しませんが、きらきらなお話がお屋敷に届くのをメイドのアミや愛犬シャンテと一緒に心待ちにしています。
なお、彼女からの手紙には連絡先が書いてありますので、皆様のきらきらは、リザルトでの描写外ですがちゃんと彼女の元に届きます。

●消費ジェールについて
デート代として300ジェールお支払いいただきます。

●プランについて
公序良俗に反するプラン・白紙プランにはお気をつけて。
解説中のNG例も採用いたしかねますのでどうかご注意くださいませ。
また、きらきらは2人で1つに絞っていただければと思います。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

今回は、2人の思い出の物(食べ物とかもOKです!)に纏わる少し過去の話(勿論、つい最近の出来事も含みます!)を2人の回想という形で描けたらなぁというエピソードです。
喧嘩の後に奢ってくれたケーキがとびきり美味しかったとか、ゲームセンターで押し付けられた景品を今も大切に持っているとか、きらきらは基本的に何でもありです!
また、ルルアンは『お菓子の国のお姫さま』『【ハロウィン・トリック】願い、灯る』にも登場していますが、ご参照いただかなくとも本エピソードをお楽しみいただくのに支障はございません。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  きらきら=お揃いの指輪
「守護の力をもった石がついたお守り」と「つい色違いで買ってしまった指輪」という認識だったのに、依頼から帰還する際に自分達の持っているものが一般的に言うペアリングだと気付いてしまった時の話

家に帰ってから全然顔見れなかったです…恥ずかしすぎて。
グレンは最初から気付いてたんですよね…
言ってくれれば…いえ、人に言われないと気付かない私がダメだったんですよね…うん。

ずっと部屋で考えてました、もしかして迷惑だったんじゃないかって。
でも次の朝「気に入ってるから別に気にしてない」って頭を撫でて言ってくれた時は凄く安心したんです。

…そうだ、あの時に「優しいんだな」って思ったんでした。


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
百物語といっても怪談ではないんですね。
私達のきらきらは『モリンガのハーブティー』でしょうか。

回想
AROAでの恐怖の初対面から数日後。アロマショップで働くエリーはその日、ハーブティーの試飲係をしていた。

ラダの来店。
一瞬、防犯装置を作動させようか考える。引きつった笑顔でハーブティーを手渡す。
お金を払って買い物をするラダを見て安堵。悪人ではないと理解。

店員としての「ありがとうございました」の後に、ウィンクルムとして「どうぞよろしくお願いします」の言葉をかける。

それぞれ抱いていた誤解が解ける。
一気に打ち解けることはないが、ラダが外道な悪党ではなく、まともな生活を送っている普通の人なのだと実感する。


哀川カオル(カール三世)
  キラキラ、なぁ…なんやろ…
(チラチラ視界に入ってくるカールをガン無視)

ちょっとカールちゃん五月蠅い。
人が考え事してる時ぐらい静かにしときぃ(デコピン)

あー、もぅ勝手に喋っときぃ。

●回想
確かに、出会った時はキラキラやと思うたけど…
まさかこんな変な人やなんて思わへんかったわ
…まぁ、普通の人よりは飽きんことは認めるけど 
素直にカールちゃんがキラキラだと認めるんは悔しいわ


カールちゃんはキラキラやない、ギラギラや。

ちゃう。暑苦しいってことやで。
どうせウチのキラキラなんて興味ないんやろ?

カールちゃん五月蠅いから、教えてあげへん(ベーっ)

●伝
キラキラ…
変な人と過ごす、何気ない日常…ってお返事書いておこ


アンジェローゼ(エー)
  エーとのきらきら…思い返せばたくさん

お互い花束を贈り合った時(E6花束に想いを添えて)は想いが同じとわかり嬉しかった

彼に貰った11本の白薔薇ロイヤルプリンセスは毎日眺め香りを楽しみその後はポプリにし実は持ち歩いてるの
私のお守り!と照れつつ彼に見せ
エーも私の赤薔薇を大事にしてくれて嬉しい
この薔薇達を庭で育て始めたの知ってる
花開く時が楽しみ

恋人、の単語に胸が熱くなる
ふといつ恋人になったのか疑問が
恋人になってとは言われてないよ?

いいけど、恋人なら名前に様を付けずに呼んでほしい
(ロゼちゃん?!!)
ロゼさんだと思ったので驚き気恥ずかしく
応える様に手を重ね指を絡め
蕩けそうな彼の瞳に赤面

またきらきら増えたね



ミシェット・リンガース(フィアネスト・リゴー)
  小さな頃は何もかもがきらきらして見えたものですが…
きらきら…
悩んでいたらふと浮かび、あ、と顔を上げる

比較的最近です
お屋敷で働く事になったばかりの頃
仕事が終わってごろごろしていたら
チョコレートを持って部屋に訪ねていらして

包装からして高そうな予感はしていましたが、誘惑には抗えず…
あっという間に私も共犯者ですもの

当然のようにバレて一緒に叱られましたが…
でも、美味しかったです
私の事、気遣って下さった事も、嬉しくて…

小さい頃も色々と無茶をしましたよね
あの頃と比べたら色々と変わりましたけれど…
変わらないものもあるというのは、嬉しいものですね

あの頃のままとはいきませんが…
今後ともよろしくお願い致します、ね



●秘密の高級チョコレート
「きらきら……」
「きらきら、か……」
 掲示板の前、貼り出された手紙に目を通して、ミシェット・リンガースとフィアネスト・リゴーは揃って頭を捻っていた。
「小さな頃は何もかもがきらきらして見えたものですが……」
 少し俯いて、格別のきらきらを探そうと悩むミシェットの隣で、フィアネストも顎に手を宛がって首を傾げる。きらきらが思いつかないわけではない。でも、
(色々と思い浮かぶけど、どういうのがいいんだろうな……)
 なんて、こちらも思案に浸っていたところに、「あ」とミシェットが小さく声を上げた。
「どうしたんだ、ミシェット?」
「フィアネスト様、きらきら、見つけました」
 声に誘われたフィアネストが視線を傍らの少女へと寄越せば、思いつきに顔を上げたミシェットが淡く微笑した。ぽつり、口を開くミシェットの声に、彼女の方へと顔を向けてフィアネストは耳を傾ける。
「比較的最近です。お屋敷で働く事になったばかりの頃、仕事が終わってごろごろしていたらチョコレートを持って部屋に訪ねていらして……」
「チョコレート……、ああ、あの時の!」
 ミシェットの言葉は、フィアネストにその時のことを思い起こさせるのに十分だった。自然、フィアネストの顔に屈託のない笑みが浮かぶ。顔を綻ばせたままで、フィアネストはミシェットが口にしたチョコレートに関する思い出を声に乗せた。
「あんまり顔には出てないけど何か疲れてる? って心配になったんだよ。それで、疲れてるなら甘いもの! っていう理論に至ったんだよな」
 そして、フィアネストがミシェットのために用意したのが件のチョコレートだ。尤も、用意したと言っても彼が購入したわけではなく、それは彼の父親が大事に少しづつ食べていた高級品で。
「勝手に持ち出して部屋に押しかけてさ、これ美味いよ、とか自分も食べながら勧めたりして」
「あれは反則です。包装からして高そうな予感はしていましたが、誘惑には抗えず……あっという間に私も共犯者ですもの」
 ミシェットがそんなことを言うので、フィアネストはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「しばらく葛藤してたもんな。でも結局一緒に食べて。美味そうな顔してたから、持ってきてよかったなって思った」
「まあ、当然のようにバレて一緒に叱られましたが……でも、美味しかったです」
「なら良かった。けど、まさかあんなに怒られるとはなぁ……」
 その時のことを思い出して、肩を竦めて苦笑するフィアネスト。そんなフィアネストの様子に、ミシェットは口元を柔らかくした。
「チョコレートもですが……私の事、気遣って下さった事も、嬉しくて……」
「って、何だよ、当たり前だろ? チョコレートはまた買ってくればいいけど、ミシェットは代わりがきかないじゃん」
 あっけらかんとしてフィアネストが応じる。どこまでも真っ直ぐであたたかい青の眼差しに、ミシェットは胸の奥に優しい火が灯るのを感じた。彼の幼馴染みとして過ごした子供時代が、自然と思い出される。
「……小さい頃も、色々と無茶をしましたよね」
「っはは、違いないな」
「あの頃と比べたら色々と変わりましたけれど……変わらないものもあるというのは、嬉しいものですね」
 しみじみと、想いを声に乗せるミシェット。そうして彼女は、自分も真っ正面からフィアネストのことを見つめた。零すのは、仄かな笑みと心からの言葉。
「あの頃のままとはいきませんが……今後ともよろしくお願い致します、ね」
「……ああ、よろしくな、ミシェット」
 応じる言葉と共に返るはにかんだような笑みに、ミシェットは胸の内に、またあたたかな想いを過ぎらせる。
(……これから、私たちが歩む道程にも)
 沢山のきらきらが溢れていればいいと、傍らの人の笑顔にミシェットは静かに思ったのだった。

●変な人と過ごす、何気ない日常
「キラキラ、なぁ……なんやろ……」
 手紙の貼り出された掲示板の前で、哀川カオルは口元に手を宛がい「うーん」と首を捻った。ポニーテールがふわりと揺れる。同じく掲示板の手紙に目を通したカール三世(本名、江頭 則夫)が、
「キラキラ!」
  と声を上げたのは無視。その後カールが、艶やかな金髪をさらりとかき上げたり、流し目光線を送ってきたり、最終的にはこれ見よがしに咳などしてみせたりしたのもことごとくガン無視。結果カールはさりげなく(?)カオルの視界に入るというミッションを放棄した。直接話し掛けてきた。
「成る程。カオルくん、直視するには今日の僕は格別眩し過ぎたかな?」
「いや、なんか面倒臭いなぁ思て……」
「僕が美しすぎて直視し難いのは仕方ない! けれどカオルくん! キラキラならすぐ近くにあるじゃないか!」
「えっ、それ聞かなアカン感じ?」
「キラキラ! つまり! この掲示板に書かれているルルアンさんは、タブロスの宝石と呼んでも過言ではない、この僕に会いたいということだね!」
 カオルの呆れ顔には気付かずに、ナルシスト全開のポーズを決めるカール。彼の高笑いが通りに響き渡る!
「はーーっはっはっは! この僕の美しいオーラ! キラキラと輝く瞳! 僕のこの美しさが知れ渡ってしまうなんて、僕の美しさはなんという罪……!」
「って、ちょっとカールちゃん五月蠅い。人が考え事してる時ぐらい静かにしときぃ」
 カールの麗しい額にカオルのデコピンが炸裂した。
「痛っ!」
 寸の間怯むカール。ちょっと涙目なところを見るに結構痛かった模様。
「うう、カオルくんは世界美貌遺産に登録予定の僕になんてことを……あぁ、だが美しいものに傷がつくことで味を出すという倒錯美も……」
「あー、もぅ勝手に喋っときぃ」
 無自覚ボケをさばき切れないとばかりにきらきら探しに戻るカオルへと、まだ痛むらしいおでこをエレガント(江頭さん基準)な仕草で抑えながら、カールは問いを零した。
「ところで、カオルくんにとってキラキラって何を思い浮かべるんだい?」
「それを今考えてるとこやねん。カールちゃんが邪魔するから……」
「え? この僕カール三世? はっはっは、愚問だったね!」
 カオルの台詞から自分にとても都合のいい単語だけをピックアップするカール。カオルは呆れ混じりのため息一つ、まじまじとカールのことを見つめた。
(確かに、出会った時はキラキラやと思うたけど……まさかこんな変な人やなんて思わへんかったわ)
 相変わらず自分の世界に浸り切っているカールの姿に、カオルは想う。
(……まぁ、普通の人よりは飽きんことは認めるけど、素直にカールちゃんがキラキラだと認めるんは悔しいわ)
 だから今は――言葉を紡ぐ代わりに、もう一度デコピンを捧げよう。
「えいっ」
「痛っ! カオルくん、何故執拗に僕のチャーミングなおでこを狙うんだい? ……ハッ! まさか僕のあまりのキラキラっぷりに嫉妬して……!」
「いや、してへん。ていうかカールちゃんはキラキラやない、ギラギラや」
「ギラギラ? キラキラの最上級系だね!」
「ちゃう。暑苦しいってことやで。どうせウチのキラキラなんて興味ないんやろ?」
 どこまでもポジティブな精霊へとそう声を投げれば、カールは「何故そんなことを言うんだい?」とでも言いたげに瞳を瞬かせた。そして、王子様の笑顔を一つ。
「心外だなぁ、興味あるさ! 僕がカオルくんの一番のキラキラになりたいからね!」
 ぐっ、とカオルは一瞬返す言葉に詰まった。ギラギラのくせに、急にキラキラになるのは反則だ。胸中に毒づきつつ三度目のデコピンを試みるカオルだが、遂にガードされてしまった。
「ちっ」
「舌打ち!?」
「ウチのキラキラは、カールちゃん五月蠅いから教えてあげへん!」
 言って、べーっと舌を出しながら、
(キラキラ……変な人と過ごす、何気ない日常……ってお返事書いておこ)
 と、カオルは密かに思い定めたのだった。

●互いに贈った薔薇の花束
「エーとのきらきら……思い返せばたくさん」
 掲示板の手紙に目を通して、アンジェローゼは常盤の双眸を和らげた。きらきらに想いを馳せる愛しい人の姿に、口元に弧を描くエー。
「きらきらですか。ロゼ様はきらきら輝いてますし、貴女と過ごす毎日がきらきらです」
「も、もう、エーったら……」
 さらりと零された砂糖菓子より甘い言葉に頬を朱に染めながらも、アンジェローゼは格別のきらきらを探す。そしてやがて、
「あ、お互いに花束を贈り合った時は嬉しかった! その、想いが同じだって分かったから」
 と、はにかむように笑った。その言葉の嬉しさに、エーは極上の笑顔をアンジェローゼへと向ける。
「それは光栄です。ロゼ様が贈ってくださった薔薇は、僕にもとびきりの宝物ですよ」
「本当?」
「ええ、ロゼ様の想いがこもった贈り物ですから、当然です」
 最愛の意が込められた11本のヘルツアスという種の赤薔薇を、エーはブリザーブドフラワーにして、色も想いも褪せぬようにと保存している。そのことを伝えると、
「ふふ、エーも私の赤薔薇を大事にしてくれてるなんて嬉しい!」
 なんて、アンジェローゼは幸せ色の笑みを零した。そんな彼女の様子に、エーは益々愛しさを募らせる。
(ロゼ様がくれた赤薔薇、いつか僕達の子どもに見せたいな)
 幸せな光景を思い描いて、エーはそっと口元を緩めた。エーのそんな夢想には気付かずに、アンジェローゼは頬を上気させてまだまだ語り尽くせない想いを紡ぐ。
「勿論私にとっても、あの瞬間だけじゃなくてエーに貰った白薔薇もすごく大切なの」
 エーが彼女に贈ったのはロイヤルプリンセスの名を冠する白薔薇が11本。実は、とその場でアンジェローゼが取り出したのは、豊潤な香りを纏ったポプリだった。
「これは……?」
「エーが贈ってくれた白薔薇を、ポプリにして持ち歩いてるの。私のお守り!」
 照れながらも真っ直ぐに言葉を紡ぐアンジェローゼ。お守りにして持ち歩いてたなんて可愛いすぎる、とエーはアンジェローゼのいじらしさに胸を高鳴らせる。
「僕の贈った薔薇を毎日嬉しそうに眺める貴女を見るのを幸せに思っていましたが、これは気付きませんでした」
 白薔薇を毎日眺めては香りを楽しんでいたアンジェローゼである。その様子をしっかり目撃されていたことが何だか面映ゆくて仄か俯く彼女の姿に、エーは静かに目元を和らげた。
(実は、同じ薔薇を庭に植えたんだ。貴女の笑顔を見るのが楽しみ)
 そんなことを思うエーだが、
(この薔薇達を庭で育て始めたの知ってる。花開く時が楽しみ)
 と、アンジェローゼもまたエーの行動に気付いていて。開花の時を想い表情を柔らかくすれば、それを見て取ったエーの愛おしさは募るばかりだ。
「愛してます、ロゼ様。貴女の恋人になれてよかった」
「こい、びと?」
 零された言葉の響きに胸を熱くした後で――アンジェローゼは湧き出た疑問にことり、小首を傾げた。
「ねえ、私達っていつ恋人になったの?」
「え? 両想いで同棲もしてる……恋人では?」
「でも、きちんと恋人になってとは言われてないよ?」
「では改めて……ロゼ様、僕の恋人になってください」
 真摯に瞳を見つめて零されたエーの言葉に、けれどアンジェローゼは少し不服気に唇を尖らせる。
「いいけど、恋人なら名前に様を付けずに呼んでほしい……」
「そんな、敬称を付けないなんて! ですが、それでは、ええと……ロゼ、ちゃん」
「っ!?」
 てっきり『ロゼさん』と呼ばれると思っていたアンジェローゼ、
(ロゼちゃん?!!)
 と、驚きと気恥ずかしさに白磁の頬を淡く染めた。一方のエーも、
(何だか爆発しそう……)
 なんて思っていたのだが、名を呼ばれたのに応える如くに手に手を重ね指を絡められれば、甘えるようなその行動の嬉しさに、そっと彼女の手を持ち上げて指に甘い口づけを一つ。
「……またきらきら増えたね」
 蕩けるような金の瞳に捕えられて真っ赤になりながら、アンジェローゼは小さく呟いた。

●モリンガのハーブティー
「百物語といっても怪談ではないんですね……中々面白い試みです」
 手紙が貼り出された掲示板の前。その内容に軽く目を通したエリー・アッシェンは、口元に緩く弧を描いた。そんな彼女の傍らで、顎に手を宛がったラダ・ブッチャーが記憶の糸を辿るように小首を傾げる。
「ボクの好物はチョコチップクッキーだけど……二人の思い出のきらきらというと、あれかなあ」
「うふふ、何となく、同じ物を思い描いているような気がします」
「アヒャヒャ! 奇遇だねぇ、ボクも何となーくそんな気がするよぉ」
「ちなみに私は、私達のきらきらは『モリンガのハーブティー』でしょうか、と」
 エリーの言葉に、やっぱり同じだとラダが破顔する。思い浮かべるのは、2人の出会いから数日後の出来事だ。

「はぁ……」
  タブロス市内を散歩しながら、ラダは知らずため息を零した。数日前、A.R.O.A.職員にパートナーとなる神人を紹介されたラダ。ため息の原因は、その 神人だ。エリーという名の神人の第一印象を端的に述べるなら、『怖い人』。幽霊かと見紛うような(というか、実際ラダは彼女を幽霊だと見間違えた)エリー との面会は、緊迫感に満ちたピリピリとしたものだった。
(うう、ボク、これからやっていけるのかなぁ……)
 2度目のため息が口をつきかけた、その時。ラダの鼻孔を、故郷で嗅いだことのある懐かしいような匂いがくすぐった。ふと顔を上げた先には、アロマショップ。香りに惹かれるようにして、ラダは店内へと足を踏み入れた。そして、
「えっ?」
  店に入るなり、思わず小さく声を漏らす。そこに、店員として立ち働くエリーの姿があったから。エリーもまたラダの突然の来訪に驚き、ほんの一瞬、防犯装置 を作動させようかと考えて何とか思いとどまった。彼女も先日の恐怖の面会の結果、ラダを『怖い人』だと認識していたのだ。2人の間に、邪推をはらんだ気まずい沈黙が落ちる。
「ええと……ハーブティーの試飲、いかがですか?」
 先に動いたのは、エリーだった。引きつった笑顔で試飲用の小ぶりの紙コップを差し出せば、その不自然な笑顔に内心益々ビビりながらも、
「あ、ありがとう……?」
 と、しかとそれを受け取るラダ。そのまま恐る恐るといった調子で紙コップの中身を喉に流し込み――ラダは大地を思わせる優しい香りと味わいに、ほっとその表情を和らげた。
「あの……」
「はい?」
「これ、幾らなのかなあ? 買って帰りたいんだけど……」
 空の紙コップを試飲係の自分に手渡し支払いの準備をするラダの姿に、エリーは心中で安堵の息を吐く。
(つい身構えてしまいましたが……どうやら、悪人ではなかったみたいですね)
 そんなことを胸の内に思いつつ、エリーはハーブティーの値段を教える他、摂取量や飲み方についても簡単に説明した。ラダはその話に真剣に耳を傾けて、エリーにきちんと料金を支払う。
「お買い上げ、ありがとうございました」
 商品を受け取ってどこか嬉しそうな表情を見せるラダに、エリーはアロマショップの店員として頭を下げた。それから、面を上げてぎこちなく、けれど確かにそのかんばせに小さな笑みを乗せる。
「それから……どうぞよろしくお願いします」
 こちらは、ウィンクルムの片割れとしての言葉だ。その意に気付いて、ラダも少し笑った。
「こっちこそ、これからよろしくねぇ」
 エリーへの、不気味だという印象が変わったわけではない。けれど、
(幽霊なんかじゃなくて、ちゃんと仕事してる普通の人なんだ)
 なんて、ラダはエリーに対する認識を新たにした。そしてエリーもまた、
(外道な悪党かと思いましたが、まともな生活を送っている普通の人なのですね)
 と実感し、初対面の時から抱いていた誤解を解いたのだった。

「一気に打ち解けたわけじゃないけど、あれが一つの転機だった気がするよぉ」
「うふふ、私もそう思います」
 あの時のモリンガの香りを思い出しながら、2人は顔を見合わせて笑った。

●お揃いの指輪
「きらきら、ですか……」
 掲示板の前、ニーナ・ルアルディは真剣に思案する。一方のグレン・カーヴェルは、そんなニーナへと興味深そうに黒の視線を流した。
「うーんと、えっと……あ!」
 ぐるぐると考えを巡らせていたニーナが、不意にその愛らしいかんばせを輝かせる。さてどんな話がとび出すのやらと、自然、グレンの口の端が上がった。グレンへと面を向けて、ニーナは彼の目前に自分の手を掲げると、柔らかく笑み零す。
「この指輪の話はどうでしょうか? 『守護の力をもった石がついたお守り』と『つい色違いで買ってしまった指輪』という認識だったんですが、依頼から帰還する時に自分達の持っている物が……その、一般的に言うペアリングだと気付いてしまったんですよね」
 最初こそ自身の思いつきに顔を輝かせていたニーナだったが、話しているうちにその時の照れ臭さが蘇って、その頬は朱に染まり、言葉は詰まりがちになっていった。そんなニーナの様子にニヤと笑って、「ああ、あの時の話か」とグレンは応じる。
「気付いた時にどんな顔するか、貰った時から楽しみにしてたんだが想像以上だったな」
「あの日は、家に帰ってから全然顔見れなかったです……恥ずかしすぎて」
「大丈夫だ。お前のことだから深く考えずに買ったんだろうなとは思ってたから安心しろ」
「うう、それって安心していいんですか……?」
 子犬のようないじらしさで、グレンの顔を見上げるニーナ。結果、グレンがそのかんばせに面白がっているような色を乗せているのに気付いてしまい――その唇から、小さくため息を漏らす羽目になった。
「グレンは最初から気付いてたんですよね……。言ってくれれば……いえ、人に言われないと気付かない私がダメだったんですよね……うん」
「おい、拗ねるなよ。きらきらとやらの話をしてるんだろ?」
「そうですけど……」
「じゃあ、思い出話の続きだ。家に帰ってからのお前の動揺っぷり、凄かったな」
「うっ……」
 その時のことが脳裏を過ぎって、ニーナはぐっと言葉に詰まる。逃げるように仄か俯いてしまったニーナの反応を楽しむように、グレンはつらつらと音を紡ぎ始めた。
「ちょっと後ろから声かけただけで洗い立ての洗濯物を全部落とすわ」
「そ、それは……」
「やたら時間かかってると思って台所覗きに行ったら鍋を焦がしてて一から作り直しになるわ……」
「う、うう……」
「……でもまあ、なかなか見てて楽しかったぞ」
 笑いを帯びた声音は、それでもどこまでも優しくて。面を上げたニーナの青の瞳に映ったグレンの笑い顔は、声と違わず穏やかだった。
「……家の柱にぶつかったあと柱に謝ってるのを見た時は流石に心配になったが」
「……それは、忘れてください……」
 真っ赤になりながら弱々しい声で告げた後で、ニーナはぽつぽつと音を零し始める。その時のことを懐かしむように、愛おしむように。
「ずっと部屋で考えてました、もしかして迷惑だったんじゃないかって。でも次の朝『気に入ってるから別に気にしてない』って頭を撫でて言ってくれた時は凄く安心したんです」
 思い出のどこからどこまでが特別かなんて量れないけれど、心にほんのりと温もりを灯している出来事が確かな言葉になって溢れ出る。「そんなこともあったな」とグレンが目元を和らげた。彼の声と、そして記憶に残る彼の大きな手のひらの温もりに、ニーナはふと思い出す。
(……そうだ、あの時に『優しいんだな』って思ったんでした)
 その時の想いそのままに、ふわりと温かくなる胸。知らずその表情を柔らかくするニーナの様子を、グレンは慈しむような眼差しで見守る。
(しかし今思い返せば、この頃にはもうこいつのことを『悪くない』って思ってたってことか……?)
 何でこうなったかなぁ、とは思う。けれど。
(……後悔は、全くしてないが)
 彼女の隣が、グレンには心地いい。今日のこともまた、きらきらの一つとして2人の胸に残るのだろう。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月07日
出発日 08月14日 00:00
予定納品日 08月24日

参加者

会議室

  • [9]哀川カオル

    2015/08/13-23:09 


    >ニーナさん
    カール三世
    「はーーーはっはっはっは!それは勿論この僕がキラ…」
    カオル
    「ホンマやねー、どこにあるんやろーかねぇ、ウチも見てみたいわぁ(カールを押しのけつつ)」

  • [8]ニーナ・ルアルディ

    2015/08/13-20:44 

    プラン提出完了ですーっ
    …うん、思い出しました。割と真剣に恥ずかしい(顔覆い)
    えーっと…皆さんのきらきらも楽しみにしてますねっ!

    既に…えっ、他にも近くにあります?どこですか?(きょろきょろ)

  • [7]哀川カオル

    2015/08/13-19:32 

    はーーーーはっはっはhっはあはは!(むせた)

    僕はカール三世!美しい美の化身だよ!
    プランも提出完了だよ!
    カオルくんを始め皆がどんなキラキラを見つけたか楽しみだね!
    いや、既に見つけてしまってると思うよ…そう、キラキラとはこの僕

    カオル
    「カールちゃん五月蠅い」

  • 初めまして。ミシェット・リンガースと、申します。
    どうぞ、よろしくお願い致します。
    どんなきらきらに出会えるのか、私も楽しみです。

  • [5]アンジェローゼ

    2015/08/12-22:42 

    改めまして、アンジェローゼと精霊のエーです。
    皆さんよろしくお願いしますね。
    私も皆さんの素敵なきらきらエピソード、楽しみにしています。

    …怖い方の百物語じゃなくて、よかったぁ…。

  • [4]哀川カオル

    2015/08/12-16:35 

    こんにちはー、ウチ、哀川カオルと申しますー。
    隣におるんは精霊のカールちゃんです。
    アンジェローゼさんよミシェットさん、はじめましてー。
    ニーナさんとエリーさんは今回もよろしゅうお願いいたしますー。

    きらきら、って言葉だけで浮かれだしとる阿呆がウチの隣におるねんけど…
    皆さんのキラキラ、楽しみにしとりますー

  • [3]エリー・アッシェン

    2015/08/12-00:22 

    エリー・アッシェンです。
    ご一緒する皆さま、よろしくお願いします。


    百物語といっても、怖い話じゃなくて楽しい話をするんですね。

  • [2]アンジェローゼ

    2015/08/11-16:27 

  • [1]ニーナ・ルアルディ

    2015/08/10-22:22 


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