【水魚】ソレは嵐のように(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ブルーサンクチュアリ。
海底都市アモルスィーから亀にのって二時間程の所に位置する、神殿風の施設。
そこには人魚や魚人たちが踊るように、泳ぐように、闊歩し舞う。
中には人間を差別したりする者もいるが、大概が友好的であり、初めて訪れる人間を見つければ
積極的に案内をかって出る者すらいる。

 今日も何組かのウィンクルムが、不思議そうに敷地の中を歩いているのを見つけ
オススメの食べ物や店、毎日開かれる宴やショーについて喜々として説明している人魚や魚人の姿があった。

親切にされれば礼を述べて、じゃあ今聞いた場所へ行ってみようかなどと歩き始めて数分後。
……おや?パートナーの姿が見えない。先程まで隣を歩いていたはずなのに。
キョロキョロとあたりを見渡す。目の届く範囲にはいない。
この短時間にそう遠くへは行かないはずだ。
足早にショッピングモール街のような建物と建物の間を通り抜けると、チラリと視界に入った見覚えある髪色に体型。
きゅっと足を止め、ゆっくり建物の影に近づくと。

「ねぇ!奢るからさっ。一緒にランチでもしようよ!あ、エキサイティングなショーの方が好みかい?」

 ………パートナーがナンパされていた。
しかも、どう見ても『性別:男』なイケメン人魚に。
まぁ。海底にだって色々な趣味の人種がいるよなそうだよな。
溜息をついて、物陰から自身の姿がパートナーの目に留まるように一歩踏み出した。
あっ、とその姿を目にしたパートナー。助かった!とばかりにサッとナンパ人魚をかわすと、アナタの方へ寄ってくる。

「スイマセン。連れがいるので」
「なーんだ残念~」

 意外とすんなり諦めてくれそうなイケメン人魚。
パートナーがホッとした表情をしたその瞬間。

 チュッ☆

「………」
「………」
「僕は野暮なことはしないさ☆ 二人で楽しんでね!」

 華麗に去っていった。
おいまて今なにをした……?
固まっているのは果たして目撃した方か、された方か、あるいは両方か。

「ふーん。随分仲良さそうだったじゃん」
「いやいや俺は被害者だろっ」
「別に気にしてないよー。ほら、お店見て回ろうよ」

 はてさて。
パートナーとの間になにやら流れる微妙な空気。
どうやったら払拭して、楽しく回れるのだろうか。

解説

●楽しい時間のはずが、嵐のように去っていったお邪魔虫により一転!

場面は基本、パートナーへキスしたお邪魔虫が去って、気まずい空気が流れる所からスタート。
ご希望次第で、キッスを目撃してしまった瞬間からでも可。

珍しいお店やショーを楽しみつつ、パートナーとどんな雰囲気になるでしょうか。
気にせずデートを楽しんだり、
モヤモヤしたのを相手に八つ当たりしたり、
頑張って仲直りしようとしたり、
皆様の個性を存分に発揮していただければと思います☆

●立ち並ぶ主なお店

・綺麗な真珠や珊瑚で細工された、アクセサリー屋
・美味しいシーフード料理屋
・人魚たちが曲に合わせアクロバットに舞う、ショー舞台
などなど。
会話のきっかけ等に、お好きにお立ち寄り下さい。
(沢山寄ってもいいですが、描写が大変薄くなる可能性がございます)

●元凶のナンパ男と、キスされた位置

1.人魚族:
  上半身は人間の姿。下半身は魚の姿。男女の性別あり、また人語を話す。
2.魚人族:
  上半身は魚(様々な種類)、下半身は人間の足がついている。同じく男女の性別があり、人語を話す。

神人・精霊のどちらが、上記どちらの種族にナンパされたか、プランにご明記下さい。
(種族は左の数字で示して頂いて構いません)
余裕があれば、容姿などもお好きに設定OK☆
(例:大きなタイの魚人に……キスというか、顔半分口に含まれた気分…!など)
どちらの種族でも、必ず『性別:男』となります。うんいるんだよきっと海底にもストライクゾーン広いヒトが。

餞別に♪とあっさりキスしおったナンパ男(瞬く間に行ってしまい捕まえることは出来ません)。
された位置はおでこ?頬?それとも……? 此方もプランにご記載下さい。

●ブルーサンクチュアリへの入場料&他デート代として、1組様<500Jr>消費。

ゲームマスターより

ご拝読ありがとうございます!大変ご無沙汰しておりますっ。初めましての方は初めまして!
ヘタレGMこと、蒼色クレヨンでございます!

理不尽な出来事による身の置き所の無いヤキモチっておいしいですよね☆

と、相変わらず欲望まっしぐらなエピをご用意してしまいましたっ。
「コメディ」となってますが、勿論キャラ様によってシリアスでもロマンスでも
何でも両手広げてお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  え、えーと…何もこんなおっさんナンパしなくてもねぇ
趣味悪いわ。初デコ奪われちゃった☆
(気まずさをどうにかしようとふざけるが悪化)
って、わー!ちょっと待って!暴力はダメよ!
う…だってまさかナンパなんて…
(キスされたのは事実なので負い目に感じ
ごにょごにょ言い訳)だから暴力はダメだってば!
ちょ、痛い痛い!

(ひりひりするおでこを撫で)うぅ…酷い目にあったわ…
何か楽しいお店…ショー舞台…
(人魚という事でイルドがナンパ男を思い出し
不機嫌になる可能性を考え)…じゃなくて
アクセサリー屋さんに行きましょうか

って何これ?!もっといい物いっぱいあるでしょ~ッ!?
(でも理由【悪い虫除け】が分かる為少し嬉しくもあり)



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  海底世界だとキスは挨拶なんだよきっと
僕の育った地域は違うけど

カルチャーショックってやつ
と、自分に言い聞かせてる時点で苛立ってるかも

頬にキスされた
相手はマグロな魚人族

表面上は繕って。
ゼクを当初の予定通りご飯行こ、と引っ張ってく

向かうはシーフード料理屋。
店員さん、マグロ料理あります?
できたら原型留めない程調理されたやつ。

なあにゼク?
……最近これ、通じなくなってきたなあ。

別に、それがキスだったから気にしてるわけじゃない
不意打ちで身構えるのが遅れたというか
魚だから表情読みづらいし間合い取りにくいし
……他者に了解無しで触れさせた、自分が、嫌だったんだよ

キミは任務に必要だからね
頬に触れる指は、心なしか熱い


クルーク・オープスト(ロベルト・エメリッヒ)
  変な魚人族だったな…蓼食う虫もってやつか
おいロベルト…何してるんだ?
(キスして!言われたら)は?キスしろ?まうすとぅーまうす?バカなこと言うな

(「いいもん!(略)と言われたら)…そいつらが誰だか知らねぇけど、他人の名前出されても俺はなんともねぇからな…?

…しょうがねえな
いつまでもその調子じゃ困るからな
ほら、これとかお前の気に入りそうなものじゃないか?
(ロベルトをショー舞台に連れて行く)
意外と面白かったな…ロベルトはどうだ?
楽しんで機嫌直してくれてるならいいんだが
アクセサリか…買ってやるか
好きなの選べよ。俺は…(ロベルトと同じ物を購入)

・前提
精霊が魚人族(とても醜い)にナンパされ、頬にキスされる


ヴィルマー・タウア(レオナルド・エリクソン)
  ◯フォロー
…おーい、レオ。
ダメだ、固まっちまって動かねぇ。
あ、動いた…って、そんな強く拭いたら怪我するぞ。
待て早まるな!
分かった分かった、取り敢えず顔洗いに行こう。
さっきの奴がどう思ってるかは知らんが、
俺的に女みてーな男はタイプじゃないから安心しろ。
気が紛れる所に行こうぜ、どっか行きたい所あるか?
…お前がどんな所が好きかよくわかんねーからな。
いや、家じゃなくて近場で。

あぁ、そういえばお前絵を書くのが好きだったな。
あっという間に自分の世界か…。
くあぁ…暇だぜ。
いや、絵が仕上がるまで邪魔せず待ってる。

◯進展?
…ん?
ちょっとは俺も、認められてきたって事か?
アイツ、何考えてるかまだ分からねぇからな…。


●揺れる揺れる絆の海

「え、えーと……何もこんなおっさんナンパしなくてもねぇ」

 人魚の後ろ姿が消えるまで、今自分に起こった出来事に呆然としながらも、袖で額を拭きつつスウィンは声を発した。
その目は若干泳いでいる。
(イルド以外に許しちゃうなんて……油断したわねぇ……年かしら)
本当に気になっているのは別のことだが、つい心の声まで誤魔化してしまう。
そろりと隣を見上げ、場を流れる気まずい空気をどうにかしようと試みる。

「趣味悪いわ。初デコ奪われちゃった☆」
「っっ……あの野郎ふざけやがって……!」
「って、わー!ちょっと待って!暴力はダメよ!」

 おちゃらけてみたが、火に油だった。
目の前の一瞬の事に固まっていたイルドが、スウィンの言葉で我に返った途端人魚の後を追おうとするのを、
スウィンは慌ててその腕を引いて止めに入った。
なんせ青筋が浮かんでいるのだ。イルドの本気っぷりがよく分かった故。
がっしりと抱き込まれた腕の重さに、渋々諦めるイルド。しかしそうすると、その怒りの矛先が向かうのは。

「おっさんも警戒心が足りなすぎるだろ!」
「う……だってまさかナンパなんて……」

 あっさりと、額とはいえキスを許したスウィンへと向かう羽目となる。
スウィン本人も、されてしまった事実が負い目となって、いつものようにのらりくらりと交わす言葉が出てこない。
言い訳はごにょごにょと小さくなった。

「あんなのは声かけてきた時点で一撃入れろ!」
「だから暴力はダメだってば!ちょ、痛い痛い!」

 そんなんで足りるか! とばかりに、イルドはすでに拭かれたその額を自身の掌で乱暴にこする。こすりまくる。
(俺もどうしておっさんを見失っちまったんだ……ちくしょ……っ)
自己嫌悪と八つ当たりが半分ずつ混ざっているイルドの消毒(物理)は、スウィンが痛みで涙目になるまで続いたとか。

◆ ◆ ◆

「……おーい、レオ」

パートナー精霊、レオナルド・エリクソンの顔の前でひらひらと手を動かしてみる、ヴィルマー・タウア。
(ダメだ、固まっちまって動かねぇ)
その性格を考えれば無理もない。
他人との接触を殊更嫌う彼が、自分の許可無く勝手にキスをされたのだ。魚人に、それも男に。
―― ……信ッじられない。ヴィルも魚人も男好きばっかりとか、キモいキモいキモい……ッ!
案の定その心中は激昂の渦の中。
ワナワナと震え始めた拳で、自分の頬をぐいぐい拭き始める。
拭いても拭いても感覚が残っているようで、レオナルドは更に乱暴にこすろうとする。
あ、動いた……と、見ていたヴィルマーが流石に見かねてその手を掴みやめさせた。

「そんな強く拭いたら怪我するぞ。って、待て早まるな!」
「うるさい、身を投げてやる!」

 こんなの、まだヴィルの方がマシ……っ。
呟かれた言葉に、うん??となりながら、暴れるレオナルドをどうにか落ち着かせようとする。

「分かった分かった、取り敢えず顔洗いに行こう」
「何なのっ。僕の周りにはヴィルみたいのしか集まってこないの? それとも類は友をって感じでヴィルが呼び寄せてるの!?」
「んなバカな」

 射るように視線を投げてくるアメジストの瞳を、ヴィルマーは宥める。

「さっきの奴がどう思ってるかは知らんが、俺的に女みてーな男はタイプじゃないから安心しろ」
「女みたいで結構」

 ……しまったこれもダメだったか?
余計に拗ねたようにそっぽを向いてしまったレオナルド。
誤魔化しの咳払いを一つしてから、ヴィルマーは続けた。

「気が紛れる所に行こうぜ、どっか行きたい所あるか?」
「……はぁ、最悪……帰りたい」
「いや、家じゃなくて近場で」

 ……お前がどんな所が好きかよくわかんねーからな。
どんなに投げ出した態度をとっても、決してめげる様子も見せず食い下がるヴィルマーに
負けたようにレオナルドは呆れの息を吐いてから。

「じゃあさ、雑貨店に寄った後、景色のいい所」

 安堵の笑顔を見せるヴィルマーを一瞥してから、レオナルドは歩みを進めるのだった。

◆ ◆ ◆

(今のは口付け、だろうか)
ゼク=ファルの目には、魚類の口が 柊崎 直香 の小さな頬に触れたよう見えた。
しかもどうも、去り際の声と下半身の容姿からして魚人族の『男』ではなかろうかと。

――……直香が他の男にキスされた、わけか。

 冷静に状況分析を試みるゼク。
真顔のまま固まったように見えるその表情。果たしてそれは深く考え込んだゆえか、目撃した光景の影響か。
そんなゼクの腕がふいに引っ張られた。

「海底世界だとキスは挨拶なんだよきっと僕の育った地域は違うけど」

 心なし早口に聞こえる言葉で、ゼクは己の世界に沈みそうになっていた視界に直香を映した。
そういえば直香にしては、反応が遅かったようにも思えて。イヤミの一つとて飛んでもおかしくない。
ゼクのそんな思考を先読みしたかのように、直香は続けた。

「カルチャーショックってやつ。さぁ、ご飯行こ」

 気にしてないとでもいうふうに、グイグイ引かれる腕の先を見つめ。
(そうだ、レストランを見繕っていたところだった)
いつも通り……だろうか?
直香らしいような、直香らしくないような。

 背中に感じる視線をさらっと流しながらも、ゼクからは見えない直香のその表情はどこか影を帯びている。
わざわざ自分に言い聞かせてる時点で苛立ってるかも……。
そう自分で気づいては、胸の内で深く息を吐いて。
直香はシーフード料理屋を目指して突き進むのだった。

◆ ◆ ◆

 クルーク・オープストは、自分の横を上機嫌に通り過ぎていった魚人を視線だけで追う。
―― 変な魚人族だったな……蓼食う虫もってやつか。
自分の目が確かなら、パートナーであるロベルト・エメリッヒがあの魚人にキスされているように映った。
お世辞にも綺麗な魚とは言えない容姿の、どちらかというとロベルトの好みとは正反対であろう見た目よろしくない魚人に。

 案の定、ロベルトの眉間には明らかなシワが寄っていた。
(……最悪……拭こ拭こ……)
お気に入りの綺麗な刺繍入ったハンカチを取り出すも、一瞬躊躇う。
このハンカチをあの魚人が口を付けたとこに……くぅっ……しかし背に腹は変えられないっ。
美しい物が大好きなロベルト、奥歯を噛み締めながら全力で頬を拭き拭き。

「おいロベルト……何してるんだ?」
「あ、クルーク!」

 憂いを帯びていた月色の瞳が、クルークの姿を見つけた途端ぱっと光を取り戻した。
そうだ!美しいモノにもっとイイトコにキスしてもらえれば帳消しだ!
金糸の髪色に燃えるルビーの目が覗く、端正なクルークの顔がお気に入りのロベルト。
決してクルーク本人のことが好きなわけではない。
現に今の彼の思考は、『大好きなモノで消毒しちゃおう』な軽いノリである。

「というわけでキスして!」
「は?」

 自分の唇を指差しながら迫ってくるロベルトに、面食らうクルーク。
キスしろ? まうすとぅーまうす? 
どうやったらその流れになったのか、全く話が見えないクルーク。その勢いに後ずさる。

「バカなこと言うな」
「いいじゃない! 減るもんじゃ無しっ」
「俺の精神力が根こそぎ減る!」

 食い下がるロベルトに、最後は『しつけぇ!』とどこから取り出したのかハリセンをその頭に すぱーんっ
未だにトランスの為の頬への口付けすら抵抗があるのだ。
なのにそこを飛び越えた口へしろというロベルトの要求は、クルークには到底理解出来ないものだった。

むー。
頭をさすりながら、拗ねた顔になるロベルト。

「いいもん! じゃあクルークがしてくれないなら〇△〇くんや☆×〇くんにしてもらう」

 突如飛び出す、ロベルトにとっての恐らくクルークと同じようにお気に入りなのであろう、美少年らしい名前。
はいはい、と流すクルークの横に並んでは、
「△☆×☆くんはこう言うとしてくれたよ?」と期待の表情でロベルトは覗き込んでくる。

「……そいつらが誰だか知らねぇけど、他人の名前出されても俺はなんともねぇからな……?」

 ぶーーー!
ロベルト、完全にへそを曲げた。
いいから見て回ろうぜと切り出しても、一向にその場を動く気配を見せない。
……しょうがねえな。
いつまでもその調子じゃ困る、とクルークは仕方なさそうにロベルトの好きそうなお店を探し始めるのだった。

●心通わすそれぞれの場所

 まるで擦り傷のように赤くひりひりするおでこを撫でながら、スウィンはイルドとショッピングモール街を歩いている。

「うぅ……酷い目にあったわ……何か楽しいお店……ショー舞台……(ハッ)、」

 人魚が大きく描かれた看板を目にして、スウィンは気付く。
やっと今微妙な空気が落ち着いてきたばかり。
人魚のショーなんて見たら、イルドがナンパ男を思い出してまた不機嫌になってしまうかもしれない。

「……じゃなくて、アクセサリー屋さんに行きましょうか」

 にっこりとショー看板を素通りしたスウィンの後に、イルドも頷いて続いていく。
細やかな貝殻細工の暖簾をくぐると、目に飛び込んできたある物をイルドは一つ手に取った。

「おっさん、これなんてイイんじゃねぇ?」
「え?な~にっ?」

 イルドが見繕ってくれるなんて貴重!
嬉しそうなその表情へ、かぽっとイルドが被せたのは仮面だった。
装飾こそ繊細で美しい細工だが、どこから見ても変な民族風仮面にしか見えない。

「似合ってるぞ」
「って何これ?! もっといい物いっぱいあるでしょ~ッ!?」

 傍に置いてあった鏡を覗いた瞬間放たれるスウィンの抗議の声にも、イルドは満足そうである。
(顔が見えなきゃ変なやつも寄って来ないだろ)
そんなイルドの思惑も、本来上手であるスウィンはその微かな表情の変化からしっかりと感じ取っていた。
―― 悪い虫除け、ってことかしらね。
罪悪感を感じながらも、嫉妬も嬉しいなんて。
仮面の下で、スウィンは面映そうに口元を緩めた。

 結局仮面は返却し、手ぶらでアクセサリー屋を出ても特に不満言わず、むしろどこか上機嫌なスウィンに首を傾げながら。
イルドはおもむろにスウィンの顔正面へ、握りこんだ拳を差し出した。

「? どうしたのイルド? や、やっぱりおっさんのこと一発殴っておこう、とか……」
「ちげぇ!……手、出せ」

 怖々差し出された手の上にイルドが置いたのは、小さな赤珊瑚のお守りだった。
スウィンが鏡の前で悲鳴をあげている間に、目にとまった「心身共に健康」の意味が書かれたお守りを
こっそりとイルドは購入していたのだ。
スウィンの目が丸く見開かれた後、ゆっくりと細められた。

「おっさんをこんなに幸せな気持ちにさせてどうする気?」
「……俺の特権だろ」

 正直、まだ赤み残る額を見るとくすぶる思いはあるけれど。
この顔が見れるのは自分だけだ、という自負くらいはある。
込み上げる照れを誤魔化すようにくるりと背中を向けたイルドの後を、お守り握り締め微笑浮かべたまま
スウィンも追いかけるのだった。

 そんな赤珊瑚のお守り。「心身共に健康」と書かれた紙の下の方には、「嫉妬心を静める」効能の小さな文字も。
必要なのは手渡した方だったかもしれない。

◆ ◆ ◆

 見つけた雑貨店で画材を購入したレオナルドは、神殿風のショッピング街からやや離れた、
目の前に海底景色の広がる人気の少ない所を見つけた。

「……ブルーサンクチュアリは不思議なところだよね」

 深い青とエメラルドグリーンの混ざる場所に、珊瑚たちが鮮やかな彩りを添えている。
画材も、特にブルーが不思議な色合いや光沢を放つものが多く、選ぶだけでもどれにしようかしばしにらめっこしていた程。

「あぁ、そういえばお前絵を書くのが好きだったな」

 滅多に見ない、レオナルドの夢中といえる横顔を見つめながらそう呟いて
ヴィルマーはパートナーの好きに動くまま後をついていく。
キャンパスを置くと、先程の出来事を忘れようとするかのように、レオナルドは絵に没頭していった。
―― あっという間に自分の世界か……。
後ろに座り込むと、ヴィルマーは伸びをする。

「くあぁ……暇だぜ」
「暇なら先に帰ってれば? 僕もキリの良いところですぐ帰る」
「いや、絵が仕上がるまで邪魔せず待ってる」

 あっそ、と興味無さそうにキャンパスへ集中する様子に。
本人に替わってまるで筆が会話してるみたいだな……と、滑らかに動くその筆先をぼぉっと見つめヴィルマーは思いにふける。
恋愛対象では無いと言ったのは嘘ではないが、ウィンクルムとしてパートナーとなった以上
もう少し心を開いて欲しいものなんだが。
予想以上に、誤って唇と唇を触れさせてしまったことが、レオナルドを頑なにさせてしまっている。
今日のことは自分は何もしていないが、明らかにレオナルドにそのことを思い出させてしまった気がして。
折角この間は、やや強制的とはいえ、好きだった女の子なんて突っ込んだ質問にも答えてくれるようになったのに。
ハァァァッと深く肩を落としてから、ふとヴィルマーの脳裏にレオナルドの呟きがよぎった。
『こんなの、まだヴィルの方がマシ……っ』
落ち着かせるのに必死で聞き流してしまったが、そういえば確かにレオナルドの口からそんな言葉が放たれていたような。

「……ん? ちょっとは俺も、認められてきたって事か?」

 思わず出た声に、レオナルドが振り返った。

「……まだ待ってたの?」

 ヴィルマーが思考にふけっていた間に、どうやら区切りの良いところまで絵を描き上げていたらしいレオナルドが、
呆れた声を漏らしていた。
どれだけ時間がかかるかも判らないのに、本気で僕を待ってるなんて……本当、ヴィルって意固地でバカ。
そう言わずとも表情で語っているレオナルドに、脳裏の呟きを重ね不思議そうな視線をヴィルマーは向ける。
ヴィルマーが何を問いたいか、先程の言葉を振り返ればすぐに察知できて、
面倒そうに視線を逸らすレオナルド。

「勘違いしないでよ、赤の他人よりはマシってだけ」

 諦めにも似たセリフをぶつけると、レオナルドは画材を片付け立ち上がった。
それに倣って同じように立ち上がるヴィルマー。

「あぁもう、キモい奴らばっかり」
「とりあえずこんな綺麗な場所してるココに関しては、そうでもねぇって分かってんだろ?」
「……なに似合わないこと言ってるのさ」

 否定はせずとっとと歩き出したレオナルドの背中を、ヴィルマーは見つめた。
アイツ、何考えてるかまだ分からねぇからな……。
まだこうして思ってること言ってくれるようになったのは、進歩じゃねぇかな。なんて。
ヴィルマーの前向き思考は、果たしてパートナーのレオナルドにとって幸だろうか、不幸だろうか……――。

◆ ◆ ◆

 ステンドグラス風に貝殻が貼り付けられた小窓に、珊瑚で細工された椅子やテーブルが綺麗に立ち並ぶ店内。
『ここにしよう!』『……高そうじゃないか?』というやり取りの後、席へと案内される直香とゼク。

「店員さん、マグロ料理あります? できたら原型留めない程調理されたやつ」
「マグロ?」

 着席した早々に、メニューも見ずそう告げる直香にゼクは一度首を捻った。
……そういえば先程の男の頭部はマグロのようだった。
表情には出ずとも気にしてたのか。
どこか納得顔で、ゼクも店員へと貝類のパスタとサラダ、ジュースを注文してから。

「直香、」
「なあにゼク?」

 無事マグロ料理を頼んでは、店内の内装をキョロキョロ見渡すフリをしていた直香が
呼びかけには、いつものきゃるんっとした目で振り向いた。
―― やはり読みづらい、が……
明らかに何かを誤魔化しているのは、ゼクの目にもすでに明白だった。
ただそのまま無言で、ゼクは真っ直ぐに直香を見つめ続ける。
(……最近これ、通じなくなってきたなあ)
以前のゼクなら、流されてくれるか、面倒そうに気付かなかったことにしてくれてた気がするのに。
臆することなく注がれる視線に、直香の口は無意識に開いていた。

「別に、それがキスだったから気にしてるわけじゃない。不意打ちで身構えるのが遅れたというか」

 魚だから表情読みづらいし間合い取りにくいし、と自ら喋りだした言葉を
ゼクは静かに聞き続ける。

「……他者に了解無しで触れさせた、自分が、嫌だったんだよ」

 なんでこんな正直に話しちゃってるんだろ……と自問が残りながら、
先に運ばれてきたゼクのジュースを、当たり前のように取っては勝手に飲み始める直香。
もはや慣れて特に気にしないゼク。
ここまで本心が聞けたことは無いかもしれないという驚きが、普段のゼクならあったかもしれない。
が、今ゼクが考えていることは別なことで、直香の紡いだ言葉にもその表情に変化は起こらなかった。
(嫌というか許せない、といったところか)
心の赴くままに、ゼクは自然と直香の頬へと手を伸ばす。
そこは、先程の魚人が口付けた場所。

「俺は、いいのか。触れても」
「キミは任務に必要だからね」

 任務。以前、その言葉によらぬ場所にも口付けを許したくせに。
そう瞳で語るゼクを、黙って直香は見つめ返した。
それは今まさに直香も思い出していたことだった。

「そろそろ誤魔化しは効かねえぞ」

 ゼクの言葉に、思わず、己の首筋へ手が行きそうになったのを理性で押さえ込む。
―― だってなんか悔しいじゃない。
ゼクに見透かされるなんて。
どうしてゼクには許したか、なんて。

 首へと落とされた唇の感触が蘇って、頬に触れる指は、心なしか熱く感じて。
頬への残留感が上書きされていく。
運ばれてきたマグロ料理へ、視線だけ落とした。
切り身やたたきでアレンジされた料理とはいえ、きっと見たらまた腹立たしさが湧き上がるんじゃないかと思っていた。
いっそ、その勢いでヤツを食ってしまうつもりで、ヤケ食いしてやろうかとすら思っていた。
けれど。
予想に反して、料理を見ても波打つことない自分の心を、直香はズズズコーッとジュースと一緒に飲み込んでいるようだった。

◆ ◆ ◆

「ほら、これとかお前の気に入りそうなものじゃないか?」
「ショー……人魚……綺麗……、…………行く」

 頑なに動こうとしなかったロベルトへ、クルークは人魚のアクロバットショーの看板を指差し促した。
まだ口は尖っているものの、看板を目にしたロベルトはようやく歩みを進め始める。
このショーだけじゃまだ足りないだろうかと、ショーの隣に並ぶアクセサリー屋へ目をやるクルーク。
後でここにも寄ってやるか、と思案しながらロベルトの後に続いてショーの入口をくぐっていった。

 エメラルドグリーンの水で溢れた丸いドームの中で、色とりどりの尾ひれを持った人魚たちが
鮮やかに、華やかに、水中で舞い踊るショーはすぐにロベルトの気分を浮上させたようだった。
ショーが終了した頃にはニコニコと足取り軽い後ろ姿へ、クルークは一応の声をかける。

「意外と面白かったな……ロベルトはどうだ?」
「とっても綺麗だったね! ああああ……あの人魚たちもお持ち帰り出来たらいいのに」

 人魚までも蒐集品にする気か……
若干呆れた顔をしながら、ロベルトがあのアクセサリー屋の前まで歩いたのを見れば
クルークはその肩をぽんっと叩いて、親指で棚に飾られたアクセサリーたちを指した。

「好きなの選べよ」
「買ってくれるの? わーい!ありがとう、クルーク!」

 完全にいつもの表情を取り戻した様子のロベルト。
嬉しそうに棚の物を手に取って、どれにしようかなぁと悩んでいる。
俺はー……、……どれも似たようなもんにしか見えねぇな……。
折角なので自分も何か買おうかと思うも、クルークも中々決まらず。

「これ!これがいい!」
「ん? 分かった。……じゃあ俺も同じのにするか」
「お揃い!?ペアルック!?」
「……」

 通常運転の言葉がロベルトから放たれれば、無言で再びハリセンを取り出すクルーク。
冗談じゃん~♪、と買ってもらったガラスのように透明な鱗で作られた扇子を仰ぎながら、わざと楽しそうに言うロベルト。

「まぁ、楽しめたならいい。これであのナンパ野郎のことはもうどうでも良くなったろ?」
「ん?ナンパ?何のこと?」

 嫌なことは本気で記憶の彼方へやったらしい。
けろりと言うロベルトに、心底脱力するクルークがいるのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:スウィン
呼び名:スウィン、おっさん
  名前:イルド
呼び名:イルド、若者

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 07月27日
出発日 08月02日 00:00
予定納品日 08月12日

参加者

会議室

  • [6]スウィン

    2015/07/31-21:02 

    (それじゃ不届き者喜んじゃいそう…)
    スウィンとイルドよ。ヴィルマーとレオナルド、クルークとロベルトはお初!皆よろしくね~。

  • [5]柊崎 直香

    2015/07/30-23:11 

    不届き者はこう!<むぐむぐ

    ハーイ、呼ばれなくても出てくるよ。クキザキ・タダカですよ。
    また逢ったねも初めましてもよろしくどうぞ。
    精霊はゼク=ファルとかいうけど別に覚えなくていいよ。

    うーん、今回は不覚を取ったが別に気にしてはいないのだ。
    それよりお腹空いたのでご飯食べに行くのだよ。

  • [4]柊崎 直香

    2015/07/30-23:08 

  • はじめまして、だな。クルーク・オープストだ。
    ロベルトは……魚人族にキスされたのがよほどショックだったのかさっきから無言でよ……。
    ここでロベルトの分も一緒にアイサツさせてもらうな。
    よろしく頼む。

  • [2]ヴィルマー・タウア

    2015/07/30-01:14 

    ……。…………。…………(怒)
    「挨拶ぐらいしないか!」
    スウィンさんとクルークさんははじめまして。柊崎さんはまた会ったね…よく会う気がする(
    …よろしく。

    えぇと、ぼーっと魚を見てたら人魚族の男に絡まれた。
    最悪だ…ヴィルもろとも消えちゃえ…。(ヴィルとばっちりフラグ)

  • [1]スウィン

    2015/07/30-00:16 


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