プロローグ
「ヒヒヒ……いらっしゃい」
廃病院を改築して建てられた建造物を前に、あなたは愕然とする。不気味な容姿をした受付も気になるには気になるが、問題は建物だ。
病院を再建したとはいえ、耐震構造や衛生面、安全面を考慮しただけで廃病院という見た目は変わっていない。それどころか、無駄に人間の手が加えられた分余計に怖い。割れた窓から覗く非常口の切れ掛かったランプに、揺れるカーテン。時折見える白装束と白衣。
どう考えても、「よし、肝試しだ!」「きゃ、こわーい!」というレベルで済まされないような禍々しいオーラを感じる。まだ建物の中にも入っていないというのに、氷が背中を伝っていくような寒気に襲われ、一刻も早く帰りたいという気持ちがふつふつと湧き上がった。
なんでも、この廃病院は元々曰くつきの病院で、霊能力を持った人々が立ち入りの禁止を促し、見るのさえも拒否していたそうだ。そこを再建してお化け屋敷になんてしているのだから、企画者は確実に呪われるないし祟られていることだろう。
そんな恐ろしいお化け屋敷に、600jrも払うのは確実に勿体無い気もするのだが、入るといった手前今更引き返すわけにもいかない。
「……当館では、3つのコースをご用意させていただいております」
ガタガタと廊下から反響する音と、うめき声に顔を青くしながらあなたは受付の説明に耳を傾ける。
極め付けに、死んでも自己責任とする旨が記載された書類にサインをさせられたのには、本気で帰りなくなった。むしろ帰りたい。
「それでは、ごゆっくり……」
受付の不気味な笑い声をバックに、あなたは廃病院へと歩を進めるのであった。
解説
●はじめに
・入館料600jrをいただきます。
・危険な場所ではありますが、怪我などは発生しません。
・他のプレイヤーさんとの接触はございません。
●行動について
・それぞれ分岐が発生いたします。下記のルートから、お好きなルートをお選びください。
1.死の666号室
この病室のベッドで療養した患者さんの一人が、急性疾患で亡くなった。それから同じベッドで療養した三人の患者さんが同じ死因で亡くなり、以来閉鎖されていたという病室。
・窓際に置かれた花瓶から、花を一厘摘んできていただきます。
【ハプニング!】(ホラーが苦手な方は、パートナーにべったりくっついてしまうことでしょう!純粋にびくびくいちゃいちゃしたい方向けです!)
2.産声の分娩台
死産を幾度も繰り返した母親が、最後の力を振り絞って難産を成功させた分娩台。しかし、その後母親は力を使い果たし死亡。以来、子の顔を拝もうと彷徨う母親が出るという。
・分娩台に置かれたへその緒(作り物)を回収していただきます。
【ハプニング!】(神人に母親の霊が乗り移り、精霊へ必要以上にボディタッチ、コミュニケーションをとり続けます!)
3.追憶の407号室
健忘症と他の病を併発した患者さんが最後に療養していたとされている病室。毎日記憶が失われていく彼女は、自分が死んだことさえ忘れてしまっているのかもしれません。
・病室に置かれた日記を回収していただきます。
【ハプニング!】(純真無垢な女の子は二人へ確信をつくような質問『二人はどこまでしたの? キスまで?』や、とんでもない質問を悪気なくしてきます!)
●幽霊について
霊の中には姿を現す霊もいるかもしれません。攻撃等はしてきません。
基本的に害を与えてくる幽霊はいないので、安心していちゃいちゃびくびくしましょう!
ゲームマスターより
本当はしゅじゅじゅっ……しゅじゅ……しゅ、じゅ、つ室やサンプル室の話も考えていたのですが、普通にホラーになるのでやめました。わりと平和な話になっているかと思います。手術室が言いにくいのは幽霊のせいだ!
私は、正直某井戸に住んでいる幽霊さんがトラウマなので、基本的に髪の長い幽霊は無理です。生きてる人ですら、腰くらいまで髪が長いと少しびくっとします。
最近はホラー系にも風当たりがつよくて、規制が厳しいようですね。
今回で実は二作目です。今後ともよろしくおねがいいたします!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
ルート3 こ、ここまで来たらもう引き返すよりも 一刻も早く出てしまったほうがいいかもしれません…っ 絶対一人にしないで下さいね、絶対ですよっ! 道中はいつもよりもしっかりと腕にしがみつきます。 こんな場所ではぐれたくないですし… それに少しでも近くでグレンに触れていたです。 あ、あと顔も見てないと何だか落ち着かないです。 …よ、余所見なんて…っ、してましたね… あれ日記っぽくないですか? 早くあれ持って帰りましょ…ひゃああああ!! 中は見てないですっ、持っただけですごめんなさいっ! ※質問は恥ずかしがったり怖がりつつも全問正直に答えます もうっ、グレンまでどうして聞いてくるんですかっ! うぅ…好きですよ、大好きです。 |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
コース:1 肝試しとは聞いていましたが本格的な廃病院とは… これはカガヤに悪い事をしてしまったかもしれませんね… オーガ相手ならともかく…以前にたぬきが自分に化けた偽物を ドッペルゲンガーなどと言って怖がっていましたから… カガヤが泣き出さないうちに行ってしまいましょう。 ではわたくし達は…死の666号室…如何にもな数字… 花瓶から花を1厘持ってくるのでしたね。 カガヤがあまりに震えてくっついてくるようでしたら 声を掛けます。 「カガヤ、大丈夫です、わたくしが付いていますから」 そう言ってカガヤの腕を抱きしめます。 怖がっているのにちゃんと一緒に来てくれた気概を称えなくては。 病院を出たらありがとうとお伝えしましょう。 |
リヴィエラ(ロジェ)
3.追憶の407号室へ リヴィエラ: はうぅ…ろ、ロジェ…やっぱり帰りましょうよ(ガタガタ震えながら) 死者の眠る場所に足を踏み入れるのは…きゃぁぁっ! (ふとした物音にもビクビクし、涙目になってロジェに抱き付いてしまう) (ふと現れた女の子の霊に聞かれ、真っ赤になって世間知らずなりに正直に答える) ど、どこまで…とはどういう事でしょうか…? あ、あの、その、キス…はしました…よね? ロジェ…? え、ええええっ!? その後ですか? あ、あの、ロジェ…そ、その後とはどういった事でしょうか…? えっ、恋人同士がする事…? あ、あの、その、何でしょう… (首を傾げる) |
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 本格的ですね。ドキドキしてしまいます。 行動 追憶コースで日記探し 幽霊少女に精霊との関係を質問されたら照れながら返事。 その……時々一緒にホラー映画を見るくらいの……お友達です。 え、あの映画がハズレですか? いえ。そういった野蛮な要素がなくても、ホラーは成立しますよ。 耽美なゴシックホラーの世界観なんてステキじゃないですか。芸術性さえ感じます。 この病院もすごく退廃的で美しい。 好みの違いから、だんだん会話がヒートアップ。 うふふふふ……。これでは一向に埒が明きませんねぇえ! どちらのホラーが真に優れているのか、この方に決めてもらいましょう! ゴシックとスプラッタ。どちらが怖いと思うか、幽霊少女に意見を聞く。 |
イザベル・デュー(扇谷 志真)
ルート:1 どんなものかと思っていたけど、本格的で面白そうよね 扇谷さんもそう思わない? …震えているようだけど、大丈夫? それに、やけに汗をかいてる気がするのだけど 幽霊が怖いだなんて可愛い所もあるのね 大丈夫よ、幽霊なんていないわ いたら…まあ逃げましょうか 扇谷さんが怖そうだし気持ち私が前を歩くようにするわ それにしても本当に暗いし案外怖いわね… …だめよ、扇谷さんが不安がるわ 私はしっかりとしていなくちゃ あっ、怖い!お化けや役も怖いけど扇谷さんも悲鳴も怖い! 横から飛び出して走り一気に花を摘む すぐ戻り精霊の手を掴んで外まで一気に走り抜ける 外に出て息整えつつ 怖かったのに私の事、守ろうとしてくれたのね ありがとう |
☆手屋 カガヤ ペア
死の666号室
あまりにも本格的に作りこまれたお化け屋敷に、手屋 笹はやや辟易とする。
(肝試しとは聞いていましたが本格的な廃病院とは……、これはカガヤに悪い事をしてしまったかもしれませんね)
「おおおお、お化け屋敷ならともかく、ほんとにあんな逸話があるとこだったなんて聞いてない…!」
「確かに、如何にもな話でしたね」
テイルス特有の耳をへにゃりと倒しながら、カガヤ・アクショアは涙目で訴える。
カガヤが言うには、『お化けとかオカルトものはよく分からないし、太刀打ち出来るか分からないのが一番かも……』ということらしい。要は、得体の知れない相手というのが苦手なようだ。
(でも行くしかないんだよね……何かあったら笹ちゃんは守らないと……!よし!頑張る……!)
(カガヤが泣き出さないうちに行ってしまいましょう)
そうして二人は意を決して病室へと歩みを進めた。
「わたくし達は、死の666号室……花瓶から花を1厘持ってくるのでしたね」
「さ、笹ちゃん、腕組んでいい!?」
ガタガタと震えながら、カガヤが言う。手屋はカガヤの気迫に若干気圧されつつも、
「え、ええ。いいですけど……」
「笹ちゃん、身長差的に腕組みにぐぅっ!?」
「……カガヤ、少し落ち着いてください」
脇腹に軽く肘打ちが打ち込まれ、少し落ち着きを取り戻したカガヤの腕に手屋が腕を絡めた。
手屋も平静を装っているが、暗い場所が特段得意というわけではないので、カガヤと身体を密着させて腕を組んで歩くのは安心する。
事あるごとにびくびくと落ち着かないカガヤだが、どうやら手屋を護ろうとしているのか歩くペースを乱すことがない。手屋の歩くペースに合わせて、並行して歩いてくれている。その紳士的な気遣いと、子供のように怯える姿のギャップが何かおかしくて、手屋は崩れそうになる相好を必死に保った。
カガヤは頑張ってくれているのだ。笑うのは悪い。けど、このままでは少しいたたまれない。そう思った手屋は、
「カガヤ、大丈夫です、わたくしが付いていますから」
そう微笑んで、カガヤの腕に優しく抱きついた。
恐怖が一瞬にして表情から消えたカガヤは、青い表情から一変して、一気に真っ赤になる。
「ありがとう、笹ちゃん」
先程よりも手屋のお陰で恐怖はなくなったが、恐怖を感じていたときよりも遥かに高鳴る心音に、カガヤは組んだ腕から自分の心音が聞こえてしまっていないかと心配になる。
「あ、あそこが病室じゃない?」
カガヤの指差す方向に手屋が視線を動かすと、確かにそこには666号室と書かれた病室があった。
引き戸を開け放つと、「ピ、ピ、ピ」と等間隔の音が響く。
「……笹ちゃん、なんで心電図動いてるんだと思う?」
今一度表情を真っ青にさせたカガヤが、強く手屋の腕を抱きしめる。
「あまり考えたくはないですね……」
流石に、手屋も勝手に動く心電図には薄気味悪さを感じたようで、カガヤの腕を握る力が少しだけ強まる。そんな手屋の様子を見て、カガヤが、
「えっと、花瓶はどこに…?」
と花瓶を探し始める。花瓶をさっさと探し出して脱出しようという作戦だ。
ぐるりと室内を見渡すと、窓際に佇む花瓶があった。
二人は頷き合って、花瓶から一厘の花を抜き取り病室を後にした。
廃病院を後にした途端、カガヤが大きく深呼吸をした。
かなり頑張って肝試しに付き合ってくれていたのだろう。怖がっているのにちゃんと一緒に来てくれた気概を称えなくてはと、手屋はカガヤに向き直り、
「カガヤ、ありがとう」
と微笑みながらお礼を言う。
礼を述べられたカガヤは、病室で真っ青になっていた表情をまたしても一変させ――、
真っ赤になった顔で微笑み返した。
☆ニーナ・ルアルディ グレン・カーヴェル ペア
追憶の407号室
「曰く付き物件をお化け屋敷に……なんて面白そうなモン逃す手はねーだろ」
そう言い放ったグレン・カーヴェルに連れられて、ニーナ・ルアルディは肝試しの真っ最中に居た。
「絶対一人にしないで下さいね、絶対ですよっ!」
「それは一人にしてというフリか?」
「そんなわけないじゃないですかぁ!」
グレンの腕を絶対に放さない、といった様子で腕を強く抱きしめ小動物のように自分を見上げてくるニーナに、グレンは少し照れくささを覚えて顔を逸らす。
強く抱きつかれる腕と、涙目でうるんだ瞳でチラチラと顔を見つめられてグレンは落ち着かなくなったのか、頭をガシガシと掻くような動作をし、
「……足元見ろ、余所見してると転ぶぞ」
グレンの顔を見つめていたことを指摘されたニーナは、かぁっと赤くなり、
「……よ、余所見なんて…っ、……してましたね」
俯いてぼそりと呟いた。
目的の場所と思わしき病室の引き戸に手をかけて、室内へと踏み込む。
病室をぐるりと見渡したニーナが、ベッドの隣に置かれた一冊の書物を指差した。
「あれ日記っぽくないですか?」
あまりにも簡単に見つかった日記に、グレンがつまらなさそうにひとつ溜息をつこうとした瞬間――、
「早くあれ持って帰りましょ……ひゃああああ!!」
気配を感じさせずに、ベッドから女の子が起き上がった。
「私の日記に何か用事なの?」
きょとんとした表情をした女の子の霊とは対照的に、ニーナは慌しくグレンの後ろへと隠れる。
「中は見てないですっ、持っただけですごめんなさいっ!」
「はは、ホントに出るんだなー」
「言っている場合ですかっ!」
ニーナ達に興味津々といった様子で、女の子がじっと二人を見つめる。
「二人は、どういう関係なの?」
「え、わ、私達はそのウィンクルムという者でして、あの、その」
「それ聞いたことあるよー、キスして強くなったりするやつでしょ? ねね、二人はキスはしたことあるの?」
「き、キスですか!? そ、それ、その、し、……しましたっ!」
ド直球の質問に、ニーナは真っ赤になって返答する。
馬鹿正直に幽霊からの質問を返答するニーナを見て、グレンはニーナの人を疑うことを知らなさ過ぎるところに少々呆れる。
けれど、同時にこれがニーナのいいところでもあるのだと仕方なさそうに微笑んだ。
幽霊の一問一答に答えるニーナに、ぽつりとグレンが質問をする。
「俺のことはどう思ってる?」
病室が数秒の間静寂に包まれ、ニーナと幽霊の視線がグレンに注がれる。
「もうっ、グレンまでどうして聞いてくるんですかっ!」
「いいじゃん、あっちの質問はあれだけ答えてんだし」
いたずらっぽく笑うグレンを、真っ赤な顔でニーナが少しだけ眉を吊り上げて反論する。しかし、その後にはそわそわと服の裾を掴みながら口を噤んでしまった。
そして逡巡するかのように間を空けてから、はっきりと返答を口にする。
「うぅ……好きですよ、大好きです」
しっかりと言葉を紡いだニーナの頭を、グレンが優しく撫でる。
「……ん、知ってる。よくできました」
頭を撫でられたニーナは「えへへ」と嬉しそうに微笑んで、グレンの腕をぎゅっと抱きしめた。
「あはは、らぶらぶだね。どこまでしたの?」
「ど、どこまでですかっ!?」
幽霊の質問に、またも真面目に返答を考えるニーナ。質問自体は悪くないチョイスだが、いつまでもここに居るわけにもいかない。
「ほら、いつまでもユーレイに構ってないで帰るぞー」
「ひゃあっ!? じ、自分で歩けますよっ!」
グレンは、さり気なく日記を手に取り、ニーナを抱えて病室を後にした。
☆エリー・アッシェン ラダ・ブッチャー ペア
追憶の407号室
本格的に作りこまれた廃病院を楽しみながら、エリー・アッシェンとラダ・ブッチャーは自分達が選んだ目的地へと進む。
順調に歩みを進めていた二人は、他の病室から隔絶した雰囲気の病室を見つける。
目的地である、追憶の407号室だ。
ゆっくりと引き戸を開け放ち、中に入ると、ぽつりと佇む一人の女の子が居た。
「……あれ、今日は来客が多いね。なんでだろう?」
本当に存在しているかのような雰囲気だが、女の子の姿は透けている。幽霊が得意ではないラダは、突然の幽霊の登場に固まってしまった。
「あの、あなたの日記がほしいのです」
「ふぅ~ん、じゃあ私の質問に答えてよ」
「質問、ですか?」
「うん、簡単な質問だよ。そうだなぁ。二人はどんな関係なの? やっぱり恋人同士とか?」
幽霊の直球な質問に、エリーはやや虚をつかれつつも、白い素肌を赤く染めて返答する。
「その……時々一緒にホラー映画を見るくらいの……お友達です」
エリーの返答を聞いて、ぱぁっと面白そうに笑う幽霊とは対照的に、ラダはやや迷惑そうに苦笑した。ラダは、現状のエリーとの関係が楽しくて面白い。だから、今の関係を壊してしまうのが嫌なのだ。
「それで、最近見た映画ってどんなのだったの? あのアイスみたいな名前のホラー映画とか?」
「よく知ってるねぇ。ボクが好きなのはそっち系だよ。だから、この前エリーと一緒に見た映画はハズレだったかなぁ。刺激がなさすぎて、ボク退屈だったよぉ」
ラダの何気ない発言に、エリーがぴくりと反応。目の前に佇む幽霊をはじめてみた時よりも、ずっと信じられないものを見るかのように、
「え、あの映画がハズレですか?」
「面白いホラー映画に欠かせないのは、たっぷりの叫び声と血飛沫だよねぇ。悲劇性や芸術性なんて、そんなの必要ないってば!」
斧やチェーンソーを振り回すかのような動きを入り混ぜて、ラダが楽しそうに笑う。
「いえ。そういった野蛮な要素がなくても、ホラーは成立しますよ」
まるで矜持でも説くように、エリーがラダに向き直り、淡々と語る。
「耽美なゴシックホラーの世界観なんてステキじゃないですか。芸術性さえ感じます。道中見ましたでしょう? この病院もすごく退廃的で美しい」
聞いたラダは、「ゴシックぅ……?」と眉根を寄せ、
「ホラーの王道といえばスプラッタだと思うけど?」
と真っ向から対立した意見を言い放った。
「この前の学校で暮らすゾンビもののアニメだって、スプラッタ要素があって人気もあるでしょぉ? スプラッタが至高なのは明白だよぉ!」
「いえ、確かにグロは描写しやすく恐怖を掻き立てるのには有効ですが、趣を感じません。ラダの言うそのアニメも、人間の精神状態を見せる手法を取っていたでしょう? 悲劇性というのは恐怖をさらに掻き立てるのです!」
どんどん白熱した言い争いとなり、なぜか幽霊の方がたじたじとして困った表情になってしまっている。
「うふふふふ……。これでは一向に埒が明きませんねぇえ! どちらのホラーが真に優れているのか、この方に決めてもらいましょう!」
「アーッヒャヒャヒャヒャヒャッ! 血みどろ惨劇こそが最恐だよぉ! OK! この子にジャッジしてもらおう」
白熱していた口論に突然巻き込まれ、幽霊の女の子は蛇にでも睨まれたかのように硬直。しばし熟考していたが、ややあってぽつりと、
「……う~ん、やっぱりそういう怖いものを作っちゃう人間達が、一番怖いよね」
幽霊は呟いて、ふわりと虚空に消えた。
明らかにその場から逃げた幽霊だが、その発言には重みが宿っていた。
「確かに、一番面白く恐ろしいのは現実なのかもしれませんね」
「アヒャヒャ、確かにそうかもねぇ!」
二人は熱を抜かれたかのように笑い合って、エリーが日記を手に取り病室を後にする。
残された病室で、病室の掛け布団がばさりと掛けられた。
☆リヴィエラ ロジェ ペア
追憶の407号室
一定の間隔で聞こえる蛇口から水が滴る音。奥から聞こえる呻き声。そして、何か金属を擦り合わせているかのような音が廊下に響き渡っている。
精巧に作り込まれた廃病院の内装に、リヴィエラの身体のがたがたとした震えが止まらない。
「はうぅ…ろ、ロジェ…やっぱり帰りましょうよ」
怯えるリヴィエラに、ロジェが優しく語り掛ける。
「安心しろ、リヴィー。これはただの肝試しだ」
「で、でも死者の眠る場所に足を踏み入れるのは……きゃぁぁっ!」
びくり、と身体を震わせて飛び上がるリヴィエラが、反射的にロジェに抱きついた。どうやら、突然倒れてきた人体模型にびっくりしたらしい。
「大丈夫だ、リヴィー。人体模型が倒れてきただけだ。安心してくれ」
優しく抱きしめ返され、かぁっと赤くなるリヴィエラ。照れくささから身体を離すが、ロジェに優しく手を握られて距離を離すことが出来なくなってしまった。あたふたとするも、握られた手からの安心感で少しだけ落ち着きを取り戻し、病室へと向かう。
病室に入ると、すぐ目に付く場所に日記が鎮座していた。さっさと持って戻ろうとロジェが手を伸ばすと、
「本当に今日は来客が多いなぁ」
気配もなくして、女の子が突如として出現していた。突然のことにロジェも言葉を失い、リヴィエラに至っては形容できない声ともにつかない声を発している。
「うんうん、見たところ二人はウィンクルムってやつだね。突然だけど、どこまでしたの?」
唐突な質問に、ロジェが噴出す。
「なっ……どこまでしたか、だと?」
「ど、どこまで……とはどういう事でしょうか……?」
たじろぐ二人を面白そうに眺めて、女の子が続ける。
「そりゃ、ABCとかそういうののどこまでしたの? ってことだよ!」
意味を理解して、真っ赤になるリヴィエラ。
「あ、あの、その、キス……はしました……よね? ロジェ……?」
「ぐ……キス、まではしたが……」
照れくさそうに言う二人に、さらに女の子が続けた。
「で?」
「で、とはどういうことでしょう……?」
「だから、それ以上はしないの? その後は?」
剛速球のストレートに、ロジェが噎せ返る。
「え、ええええっ!? その後ですか?」
「その後はしていないのかだと?」
大慌てで手をばたばたと動かすリヴィエラの腰を引き、幽霊の女の子を挑発するようにして、ロジェが甘く微笑み、
「その後はこれからだ。俺も男だからな」
抱き寄せられたリヴィエラは、頭の上にはてなマークを浮かべ思案を始める。
「そんな小さなお姉ちゃんに手を出すんだ~?」
女の子の挑発にロジェはフッと笑みを形作り、
「ああ、こいつは俺の女だからな」
「…………ロリコン?」
「違う! 急に声色を真面目なものに変えるな!」
なにやら思案を続けていたリヴィエラが、ロジェの服の裾をつまんで、ぽつりと尋ねる。
「あ、あの、ロジェ……そ、その後とはどういった事でしょうか……?」
聞かれて、一瞬どう答えようか悩むような仕草をしたが、ロジェはすぐに意地悪く微笑み、
「何って……恋人同士がする事だ。君にはまだわからないだろうけど、な」
「えっ、恋人同士がする事…? あ、あの、その、何でしょう……」
言われても何のことかわからないようで、リヴィエラはさらにはてなマークを増やした。
「それはね、お姉ちゃん。まず、そこのお兄さんが――」
「黙れ!」
重大なセクハラ発言をしようとする幽霊に、ロジェが一喝。女の子はつまらなさそうに「ちぇっ」と舌打ちを打って、虚空に消えた。
「まだわからなくとも、これからわかるようになればそれでいいさ」
ロジェは日記を手にして、リヴィエラに優しく微笑む。
「は、はい!」
リヴィエラもロジェに答え、病室を後にした。
☆イザベル・デュー 扇谷 志真 ペア
死の666号室
「どんなものかと思っていたけど、本格的で面白そうよね」
廃病院の中を探索し、楽しげに笑うイザベル・デュー。屈託のない笑顔で喜ぶ様は、廃病院の内装とは不釣合いだが、とても美しく映る。
「扇谷さんもそう思わない?」
「……そうですね」
イザベルの問いに、肯定を示しながらも、扇谷 志真はあまりにも本格的な廃病院の造りに内心穏やかではなかった。なにしろ、扇谷はこういった類のものが苦手なのだ。
「……震えているようだけど、大丈夫? それに、やけに汗をかいてる気がするのだけど」
「そ、そんなことなあるです」
「……どっち?」
盛大に噛んでしまい、扇谷の顔が赤く染まる。神人が楽しんでいるのだから、自分が怖いからといって水を差すわけにはいかない。そういった責任感が彼の恐怖心を押しとどめているのだが、怖いものは怖い。
かれこれ思案した後、「実は……」と切り出した。
「なんだ、幽霊が怖いだなんて可愛い所もあるのね」
事情を聞いてイザベルがくすり、と笑いながら言う。その言葉に扇谷は赤い顔で俯いたまま、
「そ、そんな事は……」
「大丈夫よ、幽霊なんていないわ。いたら……そうね、まあ逃げましょうか」
今度は先程の笑みとはまた違った笑みで、イザベルが続ける。
「それにしても、サングラスなんてつけてたら、お化け役の方がびっくりしちゃうんじゃない?」
「そ、そうですか? でも外すと……」
扇谷がサングラスを外すと、鋭い眼光がギラリと光り、本能的な反応でイザベルが半歩ずさりと後退した。
「……そうね。どっちにしろ変わらないわね」
サングラスの下にある、視線だけで小動物を殺せそうな眼光は、幽霊でも驚いてひいてしまいそうだ。
扇谷が複雑な胸中をもやもやと蟠らせていると、イザベルが扇谷の半歩先を歩き始めた。扇谷に気を使って先に進んでくれている。扇谷は少し情けない気持ちに襲われつつも、少し安堵して胸をなでおろす。
「あら、あそこが666号室ね」
イザベルが病室の引き戸を引き、病室を一瞥する。すると、「ピ、ピ、ピ」と等間隔で電子音が響き渡った。
扇谷が怖がるから、と気丈に振舞っていたイザベルだったが、突然の怪奇現象に恐怖心を一気に煽られる。扇谷は勿論びくびくと震えてしまっているし、二人は恐怖に飲み込まれてしまった。
しかし、それでもとイザベルが奮起して病室に入ると、ねっとりとした空気が顔に張り付き、何かが目の前を横切った。
「うぅおおおっ……!」
と低い声が病室に木霊した。ただ、この呻き声は幽霊のものではない。
(あっ、怖い!お化け役も怖いけど扇谷さんの悲鳴も怖い!)
イザベルの腕に扇谷の腕が絡みつき、強く握られる。突然のことにイザベルはわっと赤くなり、横切った幽霊への対処が一瞬遅れた。
悲鳴をあげそうになったそのとき、扇谷が咄嗟に前に出て、イザベルを庇うように腕を広げる。瞬間、動き回る何かの動きが遅れ、その合間を縫うようにしてイザベルがばっと大きく疾走。
イザベルは無駄のない動きで花瓶の花を一厘摘み、扇谷の手を握って病室、そして院内から一気に駆け抜けた。
「はぁ、はぁ」と両膝に手を付きながら、荒い呼吸を整える。
ふぅ、と一息ついて、イザベルが扇谷を見据えて柔和に微笑んだ。
「怖かったのに私の事、守ろうとしてくれたのね」
乱れた髪を掻き揚げ、紅潮した頬のまま優しい笑みで、
「ありがとう」
と素直に扇谷に伝える。
素直な屈託のない笑みでお礼を言われた扇谷は、どう反応してよいのか困ったようにたじろぎ、
「いえ、でもお恥ずかしい所ばかり見せてしまい……」
走った後とはまた別の紅潮を見せて、少しだけ照れて俯いてしまった。
その姿がとても可愛くて、イザベルはいつかまた二人で来ようかなぁ、などと企みを胸中に蟠らせるのだった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:エリー・アッシェン 呼び名:エリー |
名前:ラダ・ブッチャー 呼び名:ラダさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 東雲柚葉 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月29日 |
出発日 | 08月04日 00:00 |
予定納品日 | 08月14日 |
参加者
会議室
-
2015/08/03-11:47
ニーナです、よろしくお願いしますね。
に、日記帳取ってくるだけですよ、
ななな何か起きるわけないじゃないですか…っ -
2015/08/02-10:11
リヴィエラと申します。
き、ききき肝試しなんて怖いけれど(ぶるぶる)皆さま宜しくお願い致します。
はうう…どんな所なのかしら…どうか何も出ませんように。 -
2015/08/02-00:03
イザベル・デューよ。
病院内で会うことはないようだけど、よろしくね。
さすがに廃病院を再建しただけあってかなり雰囲気がでているわね。
これは挑戦し甲斐がありそうだわ。
扇谷さんが震えているような気がするのだけど…。武者震いよね。きっと。 -
2015/08/01-21:47
うふふ……、エリー・アッシェンです!
いわくつきの廃病院が再建してお化け屋敷にするなんて本格的ですね。
ムード抜群のデートスポットで、皆さんロマンチックなひとときをすごせたら良いですね!!
(エリーはホラーが大好き) -
2015/08/01-20:28