【水魚】タートル・ラン・ラン(紺一詠 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 成人2人がその背にまたがってもびくともしないというから、たいそう頑丈で、そのうえ物々しい。
 そんな海亀に乗って休日を過ごしませんか、と、あなたたちは、海底ドーム都市『アモルスィー』の住人から誘われた。
 アモルスィーから水上小島までを、ぐるりと何周か、巡る。岩のように大きな海亀の甲に相乗りして――そう、相乗りだ。人好きする性質の巨体の海亀に、精霊と神人が、同乗する。
 水中で呼吸するためのチョーカーはあるし、3時間は好きにしていいそうだから、様々な楽しみ方ができるだろう。スピードを上げて体に伸し掛かる水圧にじゃれてもいいし、ゆっくり往復して海中散歩を愉しむのもいい。自信があらば、曲芸のように乗り回すのも、ひとつの手だ。海亀に無理はさせない程度に、という注意は必要だけれども。
 しかも(といっていいかどうかは、果たして微妙なところだが)単純に行きつ帰りつするだけの遊戯ではない。
 最後に、海亀騎乗を試した全員でレースを開催して思い出にするのだ、と、アモルスィーの住人は堂々と宣う。
「なんと優勝者は参加費用を半額にしちゃいます!」
 それだけ? ウィンクルム一同の物言いたげな目を受けた彼、慌てて、あたらしい言辞を足した。
「皆様にはもれなく、冷たいマンゴージュースを御用意します!」
 やっぱり、それだけ? だが、もう彼は、これ以上のサービスを持ち出そうとはしない。
「どうかお気軽に御参加ください!」
 呼び込みの彼の後ろでは、数頭の海亀たちが、おっとり待ち構えている。ビビッドレッドやウルトラマリン、熱帯じみた黄や緑。色々の甲から長い首を突き出し、暢気な欠伸を、ぽっかり、した。

解説

海亀に乗ってみんなでレースしましょ、とか、そういうの。

・参加費500jr
・前半と後半で、やることがちょっと違います。便宜上「前半」「後半」と呼びますが、実際のリザルトでの文字数が、丁度半分ずつとなるとは限りません。ですからプランも、前半と後半で、お好きなように文字数わりふってください。
・前半…海亀騎乗の練習風景です。海底ドーム都市『アモルスィー』から水上小島までをぐるっと回りながら、騎乗のコツを覚えます。最高時速は20kmぐらい。
・後半…みんなでレースです。前半で練習したコースを、今度は1周だけして、順位を競います。優勝しても参加費用が半額になるってだけですけど。亀の甲羅を投げるとかの、直接的な妨害はなしですよ。
・1から10までの数字を2つ、アクションプランの何処かにお書きください。「3、5」とか「10、1」とか。0はなしです。
・上の2つの数字は何かっていうと、はじめの数字が「搭乗した亀の速さ」あとのほうは「亀の体力」を表します。どちらの数字も大きければ大きいほど良いことになります。数字が小さかった場合、なにかラッキーがあるかもしれません。10面サイコロのお導きに任せるのもいいと思います。
・他に、プランの内容やスキル(「騎乗」か「騎乗特殊」)で、幾らか修正をかけます。
・亀は二人乗りです。一人乗りだと亀は動いてくれません、何故か。前後の縦並びで乗るのが基本です。ずりおちそうになりますが、体を小さくすれば、左右の横並びができないこともないです。

ゲームマスターより

―――>゜)))彡- 魚の串焼き

(特に、意味はない)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  10、1

「この、海と同じ色した甲羅、の、亀にしよう…♪」
人見知り故か動物は好き
ウキウキ亀選び

「わぁっ気持ち、いい!」
「わわ…っ?亀さん、レースもあるし、今無理しないでっ?」
練習中。ゆったり流れる景色に夢中
しかし亀の様子と精霊の言葉に、亀の体力に気付く
小島で少し休んでから海底都市へ戻る

●レース
・途中で完全に亀がバテたら
「ゆっくりでいい、から、最後まで…一緒に行こ?」
失格承知でニコッと下りて、精霊と共に亀さん押して引いて一緒に泳ぎゴール
・ラストまで頑張ってくれたら
「わっ?す、ごい!亀さ、ん、ありがとうっ」
ゴール後、亀全力でなでなで

「…滅多にない、体験なら…ヒューリも感動、味わえるかなって」
もごもご



かのん(天藍)
  亀:5.10

2人乗らないと動かないのは何故なんでしょう?
1人の方が軽くて亀さんも動きやすいと思うのですけど

2人乗り、天藍は前と後ろどちらが良いですか?
私が前なのは構いませんけれど、天藍は動きにくかったりしませんか?
実際に亀に乗って、背後から天藍の腕に包まれて少し人目が気になる
嫌ではないですけど恥ずかしいです…

ゆっくりと海中散歩
水上から差し込む光の帯や珊瑚の森が綺麗だと
目の前を泳いでいく色取り取りの魚に顔が綻ぶ
天藍の腕に捕まりつつ、スピード出ると甲羅の上で安定しないのでゆっくりでお願いします

レース
勝ちにこだわらないので1着の方と亀さんに拍手を
ゴールしたら、乗せて貰った亀さんにお疲れさまでしたと



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  【3、3】

【前半】
練習
亀の中では活発でなさそうな子なので気遣いながらゆっくり頑張ります、亀だけに。
レースまで時間が余ったら森の腕時計の効果【ネイチャー・センス】を使い、亀と意思疎通します。
簡単に私とディエゴさんの紹介と
今日はよろしくお願いします、大変かもしれないけど一緒に頑張りましょうね、と伝えます。

動物と気持ちを通じ合わせるの夢だったんです…!

【後半】
騎手で活動していた時は、勝つって気持ちばかり先行してました
お互い労わり合わないといけません、ディエゴさんとも、そして今回は亀とも一緒に頑張るって決めましたから。
なので亀の様子を見ながらペースを決めていきます。

【使用一般スキル】
騎乗レベル5



菫 離々(蓮)
  2、10
>゜)++++<<

海亀に乗って海中散歩なんてお伽噺みたいで素敵です
亀さん、よろしくお願いします
背中お邪魔しますね
ハチさん?
ハチさん?

順位にはこだわりません。
亀さんものんびりタイプのようですし
速さを追求するより、乗りこなしてみたい考えです。
手綱のようなものを使うのか、
それとも声や手で指示を出すのでしょうか

前半は騎乗の仕方を覚えたら
右へ左へ、障害物をさっと避けて、と小回りを確認。
上手くできたら亀さんに「ありがとうございます、その調子です」

後半レースは特に作戦もなくまっすぐコースを進みます。
妨害等の問題が起きても私は変わらぬ騎乗を継続。
傍に二つも頼もしい存在がありますから。


 篠宮潤とヒュリアスが選んだ亀は、パシオン・シーの水を汲み上げたような、澄んだ海碧の甲羅の持ち主だ。彼は潤と目を合わせたはずみに、丸太そっくりの四肢をむくめかし、潤のほうへと近付いてきた。
「海と同じ色、してる……」
 腰を落とし、唇の端をほのかにやわらげ、潤、正面から出迎える。
 それと決めた亀がおのずから歩み寄ってきたので、潤はひそかに御機嫌だ。が、あけすけに好意を押し付けるようなふるまいにはおよばない。精一杯の表敬を込めて海碧の甲に触れれば、ひんやりした質感が、指の腹を押し返した。
 一方で、ヒュリアスと青亀、ひとしきり目を交わす。
 大きな体だ。けれど、他のウィンクルムを乗せるはずの亀たちと比べれば、幾分細いようにおもわれる。そして、とろりと気怠い眼差し。潤の心に適ったのだから文句はないが、あまり当てにはしないでおこう。
 そういうふうに思っていたヒュリアスだけれども――……、
「これは意外」
 水かきを上手に使い、眠れる遺跡めいた海の真ん中の、あちらの緑藻からこちらの紅藻まで、海亀はひといきに渡ってみせた。渦を巻く水、白く流れる、うしろへ。
「わぁっ。気持ち、いい!」
 潤の歓声に気をよくしたのか、海亀はUターンを華麗に決め、同じコースをまたひといきに戻る。だが、ずっと好調とはいかず、ドーム都市へと帰る頃にはすでにへばり気味だ。ヒュリアス、ぽん、と、潤の肩を叩く。
「……ウルよ。少々、彼は疲れてきているのでは」
「わわ……っ? 亀さん、レースもあるし、今無理しないでっ?」
 人見知りするせいか、潤は動物が好きだ。幼子をあやすがごとく、亀の背(つまり、甲羅だ)をぽんぽんと叩いてやる。亀はたちまち元気を取り戻し、さぁ、と、促すように、潤の慰めたところを見せ付けた。
「今度、は……ゆっくり……いこう?」
 というわけで、二人と一匹は、のったりのったり、小島をめざす。
 ヒュリアスが目を細めれば、半分閉じかかったまぶたに被さる、冷ややかで温かな、水。悪くない。
 海面へと乗り出したあと、ヒュリアス、今度はしっかりとまなこを見開いた。途端に、風が吹く、海の水によく似た、けれど、ふたつは全然異なるものだ。そして、どちらも尊いものだ。
 水と風を連続でつっきる感覚、これもまた悪くない。
 なかなかの贅沢ではないか、と、ヒュリアスは総じて判断した。おまけに、チェックポイントは魔法の椰子の茂る小島。なにより、終始、潤は微笑みを絶やさずにいる。
「少し、休んでから、戻ろうね?」
 亀を気遣うそのときでさえ、うっとりと夢見るように、潤が口を開くものだから。
 いい休日だ。
 陽の天頂にかかりかけたうちから、ヒュリアス、今日一日をおおむねそういうことに決めた。

>゜) ) ) ) <<

 ハロルドは、いや、この場は敢えてエクレール・マックィーンと呼ぼう、エクレールは乗馬ならば腕に覚えがあるが、さすがに海亀は初めてだ。
 しかし、ハロルドに不安の兆しはみられない。どちらかといえば、期待、感動、喜び、そういった感情を抑えきれず、妙に足許がふわふわしている(海中なだけに)。ディエゴ・ルナ・クィンテロが諌めようか、悩む程度に。
「動物と気持ちを通じ合わせるの夢だったんです……!」
 ハロルド、白い手首に巻かれた、森の腕時計を撫で付ける。何事も始めが肝心なのだとばかり、すぐさま利用する。
「今日は一日よろしくお願いします」
 挨拶をすれば、果たして、タンジャリンの甲羅も鮮やかな海亀は……、
『はい、どうも』
 よっこらせと長い首を折り曲げる。
「ほんとうに……通じました」
 いつもは無口なハロルドが、えらいはしゃぎようだ。趣味の恋愛小説を語らせるときにも似て、オッドアイがはつらつと光る。
「大変かもしれないけど、一緒に頑張りましょうね」
 ゆっくりと進めばいい。亀だけに。
『いやいや、こちらこそ』
「こちらは、ディエゴさんといって……」
 ハロルドは逡巡する。さて、ディエゴのことをなんと紹介しようか。
「見た目より萌えるお兄さんです」
「待て」
『萌え萌えキュンキュンというわけだね?』
「待って」
 自分はいったい何の範疇で取り扱われているのか。
 一人と一匹に問いただしたいディエゴであったが、ネイチャー・センスの効果時間は限られているのだから、と、出発の方角へ追い立てられてしまう。
 こちらのウィンクルムも、男性側が後ろ手にまわる。A.R.O.A.の仕事の関係で馬を使うときも、ハロルドとディエゴは大概そうしていた。
「馬とは、全然勝手が違いますね」
「そうだな」
「けれども、皆で協力していけば、なんとかなります」
 うしろのディエゴには、ハロルドの面持ちは窺い知れない。だが、彼女の静かなる決意が、触れ合うところから、なんとはなしに伝わってくる。
 彼女は『皆』と言った、『私』ではなく。一人だけの片意地を張ったりしない、そういうことだ。『皆』にはディエゴも含まれているだろう、彼等がそろって跨る海亀も、もしかすると彼等を取り巻く数々のエレメントも。
「俺も海亀は初めてだ」
 ハロルドが陸上生物の騎乗に秀でるように、ディエゴは幻想生物の騎乗に秀でる。二人の知識と経験を合わせれば、どんな困難も(というレベルの困難はないだろうけど、比喩みたいなものだ)乗り越えられるだろう。結局はゼロからの積み重ねだ、と、ディエゴはちゃんと知っている。
「エクレール、」
「どうかしましたか、ディエゴさん」
 おまえの成長をこうして間近で見守ることができて、俺は感謝している。
 やがて消えゆく、泡のつぶやき。

>゜) ) ) )<<  くコ:彡 =3=3

 珊瑚色の海亀を前にし、うっとりと夢見心地の菫 離々。
「海亀に乗って海中散歩なんて、お伽噺みたいで素敵です」
 おなじく夢見心地の、蓮。
「お伽噺とは、たしか……」
 たしか助けた亀にお礼として城へ連れてってもらうも、王子の所望した赤い頭巾を忘れたため、平手打ち食らって(※)、ガラスの靴で踏まれた(※)結果、親指サイズに縮んでしまい(※)、簀巻きにされて(※)川流しに遭う(※)とか、そんな物語ではなかったろうか。
(どえむスタンプ※を集めると、素敵な御褒美(=おしおき)がもらえるぞ!)
「なんと羨ま」
「ハチさん?」
 蓮、我に返り、あたふたと取り繕う。離々に倣って、本日はどうも、と海亀に会釈する。頭を下げたのだから、海底が顔にすこし近くなる、亀の甲羅がよく見られる。
 すなわち、亀甲だ。
「亀さん、背中おじゃましますね」
 離々、これから腰を降ろすであろう位置を小さくノックした。果物の熟し具合はこういうふうにして検査するのだ。いや、打診で亀の甲を調べられるものか、甚だ不明だが、亀がなにかを申し立てる気配はない。
 離々は考える。
「このまま乗っても平気でしょうか。手綱のようなものを、用意したほうがいいでしょうか」
 蓮も考える。
 連想し、妄想する。手綱……綱……縄……。本物の亀甲という、またとないお手本もそこにあり……。
「ひらめい」
『通報した』
「ハチさん? 亀さんに脚をかじられてるみたいですけど、痛くありませんか?」
「むしろ愉しいです」
 喋りこそしないものの、亀たちは人語を解するようだ。これならば身振りやで進路を指示しても通じるだろう。万が一に備え、セイフティベルト代わりの綱も用意した。ちなみに、縄は却下された。
 珊瑚色の亀は、さほど速力に長けているようではない。が、離々としては、速度よりも技巧を追究したいかまえだ。
 蓮としても、異論はない。離々を前に乗せ、自分自身は、彼女を支えるような恰好で、後ろに乗る。
 二人が落ち着いたとみるや、亀は威勢良く飛び立った。無論、実際には空を飛んだのではなく、海洋の只中へと泳ぎはじめたわけだが、どこまでも青い海、ぐんぐんと遠ざかる海底世界、羽のかたちのヒレをはためかせる魚たちを見ていると、まるで自分たちが天上を翔けているような錯覚をおぼえる。
 ありとあらゆる青をちりばめた絵巻にも似て、涼やかな情景だ。水圧に流されるかのように、離々は目をすがめる。蓮は離々に向けて、手を伸ばす。
「お嬢、俺にしっかりと捕まってください」
 蓮が離々を支えようとした、そのはずみに、ごつん、と、離々の踵が蓮の脛を蹴りあげる。
「あ、もっと」
「ハチさん?」
「……お嬢、もっと俺のほうに寄ってください」
『あとで通報する』
 いかにも無念といったていで、珊瑚色の亀が尖った口先を開閉した。

くコ:彡   >゜) ++ ) ) <<   ≧[゚ ゚]≦ =3=3

「2人乗らないと動かないのは、何故なんでしょう?」
 ひとりの方が軽くて、亀さんも動きやすいと思うのですけど――と、続けながら、かのん、海亀のこうべを撫でる。カトレアの花冠をおもわせる華々しい彩色の彼は、くぅ、と、気の抜けた息をこぼした。
「どうしてだろうな。いろいろと事情はあるんだろうが」
 天藍も亀の首根っこをさすりあげる。すると彼は、天藍のほうへと、哲人めいた細い目を流す。まるで『わかるだろう?』と同意を求めるかのように。
『同じことなら、出来るだけ多い人数を、愉しませてやりたいもんさ』
 と、今にもそんなふうなことを口にしそうな、悟った顔付きだ。
 それからふたり、席次の割り振りを話し合う。生来の慎み深さ故に譲り合った挙げ句、天藍がとうとう後部を譲り受けた。
「私が前なのは構いませんけれど、天藍は動きにくかったりしませんか?」
「心配する相手が違うな。泳ぐのは俺達じゃないんだから」
 軽めの口調のついで、天藍が片手をひらつかせれば、『わかるぜ』とでもいいたげに、海亀はぐいと首を伸ばす。
『わかる、わかる。お嬢さんの姿が見られないのは寂しいし、二人乗りで前のほうじゃ、手持ち無沙汰になるもんな。おいらみたいな堅いのより、どうせなら、やわらかいもの握ってたいよな。』
「こいつ雄だな」
「あら、分かるんですか?」
 そして、二人、海原へ漕ぎ出した。
 すぐに浮上してはおもしろくないから、ドーム都市のぐるりを回遊する。天藍は腕を回して、かのんの両腕を抑えた。
「なんなら寄りかかってくれてもいい。俺のことは、肘掛け椅子かなにかだと思って」
「頑丈な椅子ですね」
 からかい雑じりに言い返してみたものの、かのん、後ろにすわる彼を意識せざるをえない。レンジャーらしい、天藍の見事なシルエットを思い浮かべる。自分たちはいったいどんなふうに見られているのだろう。そして、天藍は今どんな姿勢で、かのんを支えてるのだろう。
 いくら天藍に見られないからといって、好き勝手に妄想するだなんて、自分が酷くうしろぐらい真似をしているようで、かのんは思わず赤面する。だが、ここは海中だ。透徹する海水が、彼女のほとおりをおだやかになだめる。
 かのん、努めて意識を反らす。
 海面から照り込む、光の帯の七色。複雑ながらも調和のとれた、珊瑚の森。パステルのような、いろとりどりの魚たち。そのうちの1匹が群れから離れ、かのんの額にこつんとキスを落とし、ふたたび離れる。かのんの表情がだいぶやわらいだ。
「試しに、少しスピードを上げてみるか?」
 天藍の誘いに、かのんは頷き、彼の腕を握る手に力を込める。天藍が後ろでよかったのではないか、と、ふと思う。どんな顔になっているか知られないですむのだから。天の采配、というやつかもしれない。

≧[゚ ゚]≦  >゜)++++<<

 4組それぞれが、加減に差はあれど、試し乗りに手応えを感じはじめた頃、レースが始まった。
 真っ先に飛び出したのは、潤たちだ。が、案の定といったところか、じきに海碧の亀の速力はやおら鈍くなる。潤とヒュリアス、いったん降りることとした。
「ゆっくりでいい、から、最後まで……一緒に行こ?」
 もしも海亀に人とおなじ五指があったならば、潤は、彼の手を握ってやったかもしれない。潤、いったん亀の正面に立って、微笑みかける。優しく励ましつつ、海亀の橫に並ぶ。ヒュリアスはいちいち生真面目に、潤の言動に付き従った。
 レースといっても、半ばはお遊びだ。スタートやゴール地点以外のあきらかな取り決めはないし、誰かが咎めだてしないかぎり、ルール違反にもならない。そして、無意味に口やかましい野暮天がウィンクルムのなかにいようわけもなかった。
「失礼しますね」
 離々と蓮、波がかからないよう気を配りながら、目礼を残し、潤たちを追い越す。フリータイムいっぱいテクニックを研いた離々たちの亀の泳ぎは、優雅で、そして、力強い。
「ありがとうございます、その調子です」
 控えめな笑みをたたえながら、離々が言葉をかけると、勢いづいたか、ウィリーもどきの芸当をみせる。といっても、乗客を思いやって、ほんの一瞬の軽業だったけれども、調達しておいた手綱のおかげで、事なきを得る。
「力がありまってるのですね、頼もしいかぎりです」
 が、慢心や油断は、思いもよらぬ危険を招きかねない。今日の海は上も下もおだやかで、厄介事など起こらないように思える。たったひとつの例外は、彼方を染める赤錆にも似た色合い、あのあたりがブラッド・シーなのだろう。
 今のところ、あちらに立ち寄る用事はないけれども。離々は不安げに眺める。が、傍らには頼もしいふたつの存在がある。彼等に任せておけば、きっとどうにかなる。
 だが、蓮には、幾分異なる見解があるようだ。何処か恍惚をふくみ、離々と同じ方角を見やる。
「あれに呑まれたら、さぞかし酷い目にあうでしょうね……」
「……ハチさん?」
「な、なんでもないです。俺はお嬢のそばを離れません」
 ブラッド・シーのその奧にどんなに魅力的な宝物(例:鞭、蝋燭)が用意されていようとも、と、離々に届かないよう口籠る、蓮。離々が蓮に与える御褒美(例:(描写拒否))に比べれば、紙くずも同然だ。
 途中、進行方向とは反対の海流と一度でくわす、これが最大の障害だったといってよかった。向かい来るベクトルを難なくやり過ごし、二人と一匹は一丸となって、ゴール目掛ける。
 ほう、と、感嘆のためいきをつく天藍。
「ハロルドやディエゴは流石だが……」
 もとより技量と才能に恵まれたハロルド達は、期待に違わずの腕前を見せ付けている。後ろのディエゴが導き、ハロルドが実行に移す。打てば響くような、いいコンビネーションだ。
 が、離々たちの乗りこなしも、なかなかのレベルだ。よほどいい時間を過ごしたのだろう。スパルタ教育(されるの)が好きそうな一名も、含まれているし。
「どうする? 俺たちもスピードを上げるか?」
 かのん、ゆるりとかぶりを振る。
「いいえ。亀さんにお任せします」
 かのん達の海亀は、体力も速力もかなり安定している。下手に口出しするより彼の気分に任せたほうが、よい按配になるらしい、と。かのんも天藍も、試乗の段階で、おおよそ気付いていた。
 かのん、天藍の前腕に肘を置く。と、それを革切りに、海亀は突如スピードを上げた。かのんのバランスが崩れる、天藍の胸板に抱き止められる。
「だから、言っただろ。椅子だと思って、寄りかかってくれればいいって。椅子には深く腰掛けるものだ」
 冗談でもいうかのような口調だが、かのんの腕に当てられた力の確かさが、彼の本心を、語るよりも雄弁に述べている。だから、かのんは「そうですね」と短く答えるしかない。
 どうも今日は、天藍に調子を崩されやすい。が、それは不快ではなかった。かのん、天藍になされるがままにする。
 天藍がかのんの肩におとがいを載せたときも、少しも逆らわない。気恥ずかしい心持ちはあいかわらずだけれども、だが、他のものは他のもので仲良くやっているところに、自分だけがつんけんして雰囲気を悪くしてはいけない。そんなふうに言い訳めいた理由をつけて、天藍の質量を受け入れる。
 ディエゴは一度振り返り、他のウィンクルムの様子を簡潔に報告した。
「追い上げられたな」
「そうですね」
 簡潔な報告を受けようとも、ハロルドは何処吹く風の涼しい顔だ。海にいることが理由ではない。勝ちを焦ったってしかたがない、それは事の本質ではないからだ。
 お互いをなぐさめ、いたわり、ねぎらうこと。協力しあうこと。他人を出し抜くことで思い上がるより、それは、きっと。
 ディエゴ、もう少し、ハロルドに何かを伝えたくなった。
「エクレール、」
「なんですか、ディエゴさん?」
 大小はあれど、間違いは誰にでも起こりうることだ。だから、重要なのは、以前の間違いに囚われることではなく、それをどうやって乗り越えていくかであると。
 ハロルドだけでなく、ディエゴ自身も、ハロルドとの幾通りもの体験のなかで学んだのだと、それを正確に伝えるには、いったいどうふるまえばいいのだろう?
 言葉は常に、思いの丈に、ごくわずか足りない。だから、ディエゴ、たった一言だけを選び取る。
「成長したな」
 ディエゴにしては、端的に、素直に、伝えたつもりだが、却って、素直すぎたのかもしれない。ハロルド、なんのことやら、と、首をひねる。
「私のバストですか?」
「違う」
 というわけで、順当に、一等はハロルドとディエゴの組となった。参加賞の無添加マンゴージュースののどごしを味わいながら、互いの健闘をねぎらう。
「おつかれさまでした」
 かのんが謝意をささげると、亀は、くぅ、と、満足そうに吐息をこぼす。
 乗降を数度繰り返しながら、潤たちの組も無事にゴールした。
「わっ? す、ごい! 亀さ、ん、ありがとうっ」
 同士を湛える意味でもって、全身で亀の体を掻き抱く。呑む?と、参加賞を差し出したが、亀は無言でのそのそと引き下がるだけだった。ジュースを口にしながら、ヒュリアスもぼそりと呟く。
「レースの半分は散歩だったな」
「あ、ご、ごめん。迷惑かけ、た……?」
「だったら、帰っている」
 つまるところ迷惑でない、と、ヒュリアスは言っているのだが、強く言い切った所為か、潤は逆様に解釈してしまったようだ。先程までのはしゃぎようはどこへやら、青菜に塩の風情で、あからさまにしょんぼりする。
「あの、ほ、んとに、ごめんな……僕……」
 潤の口調が途切れがちなのはいつものことだが、ここに至って、ヒュリアスもようやく潤の誤解に気付く。
「ウルが愉しかったなら、俺はかまわないと言っているんだ。それほど亀好きとは知らなかったが」
「亀も好きだけど、けど、ちが、う……」
 潤は躊躇っているようだ、必死に言葉を探しているようにも見える。やがて彼女は悲愴な覚悟で、重い口を開いた。
「……滅多にない、体験なら……ヒューリも感動、味わえるかなって」
「……俺の為、だったのかね?」
 辛くも、ヒュリアスは潤の真意を悟る。
 夕陽を観ようと、かつて二人で出掛けたことがある。そのとき、ヒュリアスには感動というものが判らず、いつか同じモノで味わってみたいと、潤に告げた。潤はそのときのことをずっと気にしていたのだろう。
「そうか」
 何故か、やたらと喉が渇く。ヒュリアスはコップの中身を飲み干した。それでも、まったく足らない。いや、腹、というより胸はいっぱいなのだ、まるで何かがあふれるようで。だのに、所感に準ずるものが出てこない。だから、喉がひりひりする。
「……帰りまで、まだ時間はあるな」
「そう、だね?」
「もう一度、小島へ行こう。夕陽が見られるかもしれん」
 一人と一匹が許すならば、と、付け加える。こちこちの潤の表情が、ぱっとほどかれる、明るくなる。いつまでも出てこない言葉を捨てて、ヒュリアスは潤のあたまをかきなぜる。
 海亀は? 彼は、行動で示した。いつでも行けるよ、と、再びスタート地点につく。ヒュリアス達は出発を支度するまえに、もう1杯だけおかわりをいただいた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 紺一詠
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 07月24日
出発日 07月30日 00:00
予定納品日 08月09日

参加者

会議室

  • [7]ハロルド

    2015/07/29-21:58 

  • [6]かのん

    2015/07/29-21:57 

    プラン提出してきました
    レースはさておき、亀さんのイメージらしくゆっくり楽しめたら良いかなと思います
    どうぞ、よろしくお願いしますね

  • [5]菫 離々

    2015/07/28-20:04 

    蓮:
    なんか強い人しかいないんですけど気のせいですか。
    えー、スミレ・リリ嬢にハチスです。今回もひとつよろしくお願いします。

    数値は2、10ですか。なんとも亀さんらしい。
    応じたスキルもありませんので、楽しむことを第一に、ですね。

  • [4]菫 離々

    2015/07/28-19:58 



    【ダイスA(10面):2】【ダイスB(10面):10】

  • [3]篠宮潤

    2015/07/28-09:37 

    同じく参加させて頂く精霊のヒュリアスと、神人の篠宮潤だ。よろしく。

    (潤:「♪~♪~~」うきうきと、どの亀さんにしようか選んでいる)

    ……こちらはウルに任せるとしようかね…(←数値振り分け)
    ………………、いや待ちたまえウルよ。それにする気かね…?
    (やたら体力無さそうなのが選ばれる予感)

  • [2]かのん

    2015/07/28-05:21 

    海亀タンデムしてレースか
    (待機中の亀の様子見て、レースとして成立するんだろうか?と思いつつ)

    ああ、見知った顔ばかりだな、よろしく頼む
    ひとまず俺も数字2つはダイスに任せるかな

    【ダイスA(10面):5】【ダイスB(10面):10】

  • [1]ハロルド

    2015/07/28-00:07 

    よろしく頼む
    数字とか、設定するの苦手なんでダイス振っておく

    【ダイスA(10面):3】【ダイスB(10面):3】


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