【水魚】キスイング・ブルー(上澤そら マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●タラッタのお誘い
 海底世界にある神殿風の建物、ブルーサンクチュアリ。
 パートナーと共にショッピングモールのような雰囲気の中を歩けば、1人の老人に声をかけられた。
「おや、その紋章……もしかして、お前さんたちが今、流行のウィンクルムってやつかのぉ?」
 糸のように細い目をした老人は好奇心をむき出しに貴方とパートナーを見る。
「色々噂は聞いておる。なんでも、愛の力でパワァアップ!するそうじゃなぁ」
 えぇ、まぁ、と老人の勢いに押されつつも話を聞けば。
「しかも、その方法がチュウ!することじゃと人魚たちに聞いてなぁ。ロマンスじゃのぉ、ロマンチックじゃのぉ……!嗚呼、わしもウィンクルムになりたかったのじゃあ」
 大丈夫、どこかに爺さんウィンクルムいるから。
 今からでも遅くない、牛乳飲んだり高い所から落ちたりして頑張って顕現してね!
 と、いう言葉を貴方達がなんとか飲み込めば。
「この海のどこかにな、そんなロマンティーーックな話を聞きたがっている人魚と若者が居てのう……はて、どこじゃったかのう……」
 ブツブツと呟きながら、老人は己の頭髪のない頭を撫でた。
「きっす!の話でもすれば泣いて喜ぶじゃろうな、はっはっは」
 そう言いながら、爺さんはそのままどこかのお店へと消えていった。
 なんのことやら、と思いつつ貴方達は散策を続けるのだった。 

●タラッタの思惑
「ナピナピや」
 人気のない場所で、老人は鯉でも呼ぶかの如く手を叩いた。
 すると、金髪にポニーテールの可愛らしい子供が現れる。
「今いたウィンクルム、覚えたかのう?」
 老人こと、キング・タラッタの言葉にコクリと頷くカプカプ。
「さすれば、今の二人を水龍宮へと連れて行くのじゃ。きっと面白いことになるじゃろう。よろしく頼むぞ」
 カプカプははにかんだ笑顔を見せ、また姿を消した。

●カプカプのお誘い
 貴方達の目の前に、突然小さな子供が現れた。
 そして貴方達に向かって手招きをする。
「どうしたんだ?」
 そう、言葉をかけても返事はない。
 金髪のポニーテールを揺らし、先導する子供の後をついて行く。
 幸い、水の中でも呼吸の出来るチョーカーを付けていたためか、息をするに問題はない。
 
 辿り着いた先は、今までの神殿とは趣きの異なる和風のお城。
 その人気のないお城の中を更に歩いて行くと、一番奥の間には人魚姫像と人間の若者の像が並んでいた。 
 厳かな像に見惚れれば、いつの間にか傍に居たナピナピが貴方の服の袖をクイ、と掴む。
 そして泣き真似のジェスチャーをした後、お願いしますと頼むような仕草をした。
 貴方はそこで、ブルーサンクチュアリで出会った老人の言葉を思い出す。
 
 ロマンティックな話を聞きたがってる人魚と、若者。
 キスの話。

「つまり……ここでキスの話をしろ、と?」
 声に出せば、ナピナピはブンブンと首を縦に振った。そしてお辞儀をした後、貴方達の居る広間から出て行く。

 音もなく静かで落ち着く空間に、パートナーと二人きり。
 コポコポと響く水の音は心地よく感じられる。
(キスは元より……相手の恋愛事情なんて気にしたことなかったかも、な)
 そう思いながら、貴方はパートナーに視線をやった。
 
 


解説

●流れ
水龍宮の一番奥、人魚像と若者像がいる広間にて。
キッスやらなんやら、普段あまり知らないお互いの恋愛トークでも繰り広げてください。

タイトルやプロローグではキスの話メイン風に書いておりますが、それに限定せず
トランス時の心境やら、ファーストキスは何の味?だとか
むしろファーストキスいつ?どこで?などなど恋愛絡みのお話になればよきかと!
ジェラシーメルシーどんとこい!

二人きりだし、ちょっと次のアドの作戦でも考えようぜ!とかどんな水着着る?とか
まったく関係のない話をしてもNGではありませんが、人魚像達は寂しくなっちゃうやも!やも!

しばらくするとナピナピが戻ってくるので、破廉恥注意!

●ノリ
心情重視のリザルトになる可能性大です。
ジャンルはロマンスとしておりますが、コメディでもハートフルでもバトルでも
どんなテイストでも!
タラッタやナピナピが出てくることは恐らくないハズです。


●他
ブルーサンクチュアリの入場料として一組200Jr消費となります。
ご了承ください。

ゲームマスターより

いつもお世話になっております、上澤そらです。

男性側にまったりドキワクハピを出させていただきました。
ちなみに私はパートナーの恋愛事情なんて聞いてしまったら悶々としてしまうので
敢えて聞かないさそり座です。
ならこんなエピ出すなですか、そうですね。
しかし皆様のキス話が聞きたかったんだ。ただそれだけなんだ。夏なんだ。

琴線に触れましたら、何卒よろしくお願いいたしますっ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  キスの話…?
花の雨の中でのキスを思い出して真っ赤。
ほ、他の話にしよう!

レーゲンはどうだった!?
俺が最初じゃないよねっ、俺 心広いから聞いてあげる!どんな人?どこが好きだった?

脳内で、ふわふわした服を着た箱入り娘のお嬢様をイメージ
プロポーズまでしたの!?大事だったんだね。
キスはその薬指だけ?…やっぱり

正直、話を聞いたら妬くかなって思った
でもその子を本当に好きだったのは分かったし
今は俺のこと好きでいてくれるから、妬かないよ(笑いかける)

う、うん。俺もレーゲンだけ、だよ
レーゲンの顔が見れない…顔あげた方がいいのかな
わわっ、なんで真っ直ぐこっち見てるの!
ど、どうしよう…

(ナピナピが戻りタイムアウト)



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  じゃあゼクとの濃厚なキッスの話する?

キミはノンフィクションが好み、と。
ネタがなかろうと気を遣ってあげたのにな
僕に退屈してる暇など与えぬ豊富な体験談を聞かせたまえ?
もちろんキスバナだよね?

やだゼクったら毎日ちゅっちゅしてるなんてカミングアウト
その上あんなとこやこんなとこまで……

まあ僕とのことはいいよ
日々愛を育んでますハート、はい終了

インタビューを続けますが
ファーストキスはいつどこで?
家族は除外ですよ

――お?

なるほどよくわかった
これは気が向いたら聴くよ質問を変えよう
今までで一番印象的なキ――ゼク?

言ったでしょ
気を遣ってあげたのにって
重要なとこ、なんて自分から申告しちゃってどうするの
まったく、キミは


天原 秋乃(イチカ・ククル)
  トランスの時か。なにが悲しくて男の頬にキスしなきゃならないんだ…とは思うけど、オーガと戦うためには必要なことだからな。
た、確かに最初は抵抗あったけど…今はもう慣れた…はず。

「俺の話はもういいだろ、イチカはどうなんだよ」
俺ばっかり喋って不公平だ!

最初のトランスの時に恥ずかしかった…だと?
イチカがそういうこと言うなんて…いや、絶対嘘だろ…。
だって、初めての時あんなにへらへらしてたじゃねーか。

イチカの発言を疑ってはいるけど、だからってなんであんたからキスって流れになるんだよ。
やめろ、顔を近づけるな…!
イチカからの頬キスは思わず(というか当然というか)手のひらでガード。
「誰も照れてないっての!!」



レン・ユリカワ(魔魅也)
  キス…かぁ
うーん、僕はしたことないけれど
魔魅也さんは…うん、経験豊富そうです。 
(魔魅也と目が合い)
「魔魅也さん、煙草吸えなくて辛くないですか?」

「確かに、なんだか落ち着きます(にこ&少しはにかみつつ)
…ところで魔魅也さん。初めてのキスっていつですか?どんな感じですか?」

(覚えてないなんて本当かな?と怪しみつつ)

「僕は経験ないですよ。ほら、魔魅也さんとのトランスもまだですし」

「べ、別にトランスは唇同士じゃないですしっ、そんな大事にしてないから大丈夫ですっ。それに恋なんて、それこそ未経験ですよ」

「僕は魔魅也さんと違って、一人の人と沢山がいいです」
(悪戯な笑みをするも、魔魅也の発言に赤面)


ヴィルマー・タウア(レオナルド・エリクソン)
 
◯×レオ
てっきり事件かと思って駆けつけてみたら…。
お前ら、連れてくる奴を間違えすぎだ(戦慄)
レオが途轍もなく怖い顔しているんだが…。
どうどう、落ち着いてくれ、な?
何度も言うが、アレはわざとじゃなかった。
視線が痛い。

◯苦い思い出
レオと俺の話は俺の命がいくつあっても足りない。
レオに質問。
好きな女の子とか居なかったのか?
へぇ、綺麗な思い出だなぁ。
(言ったら怒られそうだけど、恋する女子みたいだ…)
いいなー、好きな奴とキスができるなんて。
スゲェ幸せじゃん
俺は気持ち悪がられて終わりだったし。
レオはパートナーっつーかまだまだ発展途上っつーか…痛え痛え!
単純に仲良くしたいだけで…恋愛的なそういう意味じゃねぇ!


●想い出の涙
 ヴィルマー・タウアは水龍宮の奥の座敷に到着するや、盛大に溜息をついた。
「てっきり事件かと思って駆けつけてみたら……」
 立派な体躯に、焦げ茶色の髪。正義感の強いヴィルマーはナピナピが助けを求めていると思い、後を追ってきた。しかし
「……キスの話?」
 連れてくる奴を間違えすぎだ、と彼は呟く。
 隣の相棒からはとてつもなく冷たいオーラが放たれており、あまりにも今の二人にはキスの話は重い。
「ヴィル……」
 蔑んだ眼差しを浮かべるのは精霊であるファータのレオナルド・エリクソン。
 ナピナピが姿を消したと同時に
「初トランスとか言って唇にキスした事、許してないから」
 キッと神人にキツイ眼差しを向けるレオン。
 事実であるだけにヴィルマーは怯む。視線が物凄く痛い。そして改めての弁解を。
「何度も言うが、アレはわざとじゃなかった」
「どーだか」
 そのままクルリと踵を返し、帰ろうとする精霊に
「落ち着いてくれ、な。どうどう」
「ちょっ、邪魔しないで。わかったから、離して」
 ヴィルマーに腕を掴まれたレオナルド。彼の腕を振り払い、不服そうな表情を浮かべながらも二人は水龍宮の座敷に座った。

(レオと俺の話は命がいくつあっても足りない……)
 汗を拭いつつ、ヴィルマーはレオナルドへ話を振った。
「レオは、好きな女の子とかいなかったのか?」

 沈黙。

 この質問は、答えてくれないか……とヴィルマーが他の話題を巡らせた瞬間、そっぽを向いていたレオナルドが口を開いた。
「……居たよ」
 ヴィルマーは目を見開くが、言葉は挟まず。彼から紡がれる言葉を待った。
「大人しいけど芯の強い子で、人がバカにされていたら怒るような、優しい子だった」
 何もない空間を懐かしそうに見やる精霊の瞳。
「一緒に居られるだけで幸せだった。僕の誕生日に流星を見に行ったんだよ」 
 その眼前には彼女の姿が見えているようで。きっと流星も流れているだろう、とヴィルマーは思う。
「流星の下で告白して……キスをしたんだ。いちごキャンディー味」
 そこまで言うと、レオナルドは口をつぐんだ。
(翌日、彼女は姿を消した。探しても、探しても見つからなかった)
 そんなこと、教えてやらないけど。

 彼の言葉が止み。暫しの沈黙の間。ヴィルマーは想いを巡らせていた。
 人との交流が見えないレオナルドから、想像もしない一面。
 しかし、その語り口や眼差しからは現在の状況が伺えない。
「へぇ……綺麗な思い出だなぁ」
 レオナルドの横顔は、恋する女の子のようにピュアで可愛らしかった。
 口に出したら怒られそうだから、その想いは胸へ仕舞い。
 そんなヴィルマーの素直な眼差しを感じ、レオナルドが彼を見れば。微笑ましい、と言っているような表情で。
「……ヴィル、こっち見ないで、キモい……!」
 睨むレオナルドに、はいはい、と視線を人魚像へ移すヴィルマー。
「いいなー、好きな奴とキスができるなんて。スゲェ幸せじゃん」
 ヴィルマーの素直な羨望の言葉。
「……ファーストキスがむさ苦しい男じゃなくて良かった」 
 心底安心した表情のレオナルドに
「俺は気持ち悪がられて終わりだったし……。あ、人魚像から……」
 ヴィルマーは石像から流れる液体を見つけるのだった。

 するとナピナピがどこからか姿を現し、液体を小瓶に詰めた。 
 作業が終わると、二人に向かって指でハートマークを作り、小首を傾げるナピナピ。
『二人は恋人?』と聞いているようで
「レオはパートナーっつーか、まだまだ発展途上っつーか……痛え!痛え!」
 ヴィルマーの言葉にレオナルドが彼の腕肉を力強く摘まむ。
「発展していくような言い方しないでくれる?」
「単純に仲良くしたいだけで……恋愛的な意味じゃねぇ!」
「確かに今、僕とまともに交流あるのはヴィルだけだけど……期待しないでね」
 さっさと歩いて行くレオナルドの姿。
(まともに交流があるのは俺だけ……じゃあ、さっきの彼女は……)
 疑問を投げるのは、まだまだ先の事になりそうだ、とヴィルマーは感じながらレオナルドの後を追うのだった。


●期待と涙
(キスかぁ……僕は未経験だけれど……魔魅也さんは経験豊富そうです)
 水龍宮の座敷で、キラキラとした眼差しを己の精霊に向けるのはレン・ユリカワ。
(なんだか坊っちゃんの目が輝いている気がするのは、気のせいかァね)
 純真なレンの表情に、苦笑を浮かべる魔魅也。
 そして彼の口が開かれるのに覚悟を決める、が。
「魔魅也さん、煙草吸えなくて辛くないですか?」
 レンからの想定外の質問に肩を透かされる。
 まったく、子供の思考は読めないさァね、と魔魅也は思う。
 それがまた面白くもあるのだけれど。
「ん?そうさな。だが、水の中でたゆたうのは一興、さァね」
 艶やかな笑みを返す精霊に、レンははにかむ。
「確かに、なんだか落ち着きます」 
 レンはそう言うと、人魚像へと目を移した。

 疑問をどう口にしようか悩めば、暫しの沈黙。
 意を決したようにレンは魔魅也へと視線を送り、正攻法の手段を取る。
「……ところで魔魅也さん、初めてのキスっていつですか?どんな感じですか?」
 上目遣いに聞いてくるレン。
 やっぱり聞かれるか、と魔魅也は思う。あまり己の恋愛歴を語る性分ではない、はて、どうしようか。
「初めて、かァ……」
 思い出すのは、レンと同じ位の年頃の時、女中に唇を奪われた記憶。
「記憶にないぐらい遠い昔で……覚えてないさァね」
(覚えてないなんて本当かなぁ?)
 明らかな疑いの目を向けてくる少年。
 こういう時に煙草でもあればいいのに、と魔魅也は思う。無言の間を作り出すことが容易にできる代物だ。
「……坊っちゃんはどうなんですか?」
 逆に、矛先をレンへと向ける魔魅也。話の転換もあるが、純粋に興味深い。
「僕は経験ないですよ。ほら、魔魅也さんとのトランスもまだですし」
 己の身の潔白を証明するかのように胸を張る、少年13歳。
(あぁ、トランスもこれからか……)
 そう遠くない未来に行われるであろう、ウィンクルムとしてのキス。
「ふふ、トランスで初体験を貰っちまうなんざ、申し訳ねぇ。坊っちゃん、早く良い恋をみつけてくだせぇ」
 目を細め、艶やかな唇の口角を上げて悪戯な表情を浮かべる魔魅也。
 その表情にレンの頬はみるみる朱に染まり。
「べ、別にトランスは唇同士じゃないですしっ!そんな大事にしてないから大丈夫ですっ」
 頬を膨らませ、唇を尖らせる美少年に魔魅也はニヤリと笑みを浮かべる。
「それに、恋なんて……それこそ未経験ですよ」
「……はは。坊っちゃんなら、嫌と言う程これから経験できますさァ。それこそ選り取り見取り……」
 魔魅也は可愛らしい少年が成長していく姿を想像する。きっと更に美しく成長していくであろうレン。それを見守り続けたい、と願う。
「僕は、魔魅也さんと違って一人の人と沢山、がいいです」
 悪戯な笑みを浮かべ、皮肉を言ってみるも
「そうかァ、一人の人と沢山……その時は色んな技をお伝えしますさァ」
「色んな……技!?」
 妖艶に笑う魔魅也に、やっぱり魔魅也には敵わない、と赤面しつつレンは思うのだった。
 ふと人魚像達を見ると、目元からの涙。
 それに呼応するようにナピナピは、笑顔で姿を現した。


●あの日のキスと涙
「キスの話……?」
 出されたお題を復唱すれば、信城いつきの顔はみるみる朱に染まる。
 いつきが直ぐに思い出すのは、ハナノアメが降る中で交わした、精霊であり恋人のレーゲンとのキス。
 先に唇を寄せたのはいつき自身だったが、その後は花の雨が降る中でのレーゲンから降りやまない口づけがあり……思い出すだけで頬が紅潮していく。

 当のレーゲンは、急に頬を染めた恋人の姿に
(きっと、あの日のこと考えてる……のかな?)
 レーゲンの穏やかでどこか悪戯にも見える笑みに、自分の頭の中が見られているような錯覚に陥るいつき。
「ね、ねぇ、レーゲンはどうだった?俺が最初じゃないよねっ」
 レーゲンほど優しくて美しい人なら、どんな恋愛経験があってもおかしくないし。
「俺、心が広いから聞いてあげる!どんな人?どこが好きだった?」
 いつもよりも早口な彼の口調にレーゲンはやや目を丸くした。
「私の……?」
 レーゲンは悩んだ。自分にとって最初の人は……いつき、その人だから。
(どう説明しようか……)
 過去の記憶のないいつきと相思相愛だったことは、いつきは知らない。
 暫し考えた後、レーゲンは口を開いた

「……小柄な、優しい子だったよ。はにかんだ笑顔が好きだった」
 いつきを見ると、彼のことを言っていると伝わってしまう気がして。レーゲンは人魚像へと瞳を向けた。
「その子は家族からとても大事にされていたよ。手を握ることすら目を光らせてたよ」
 思い出し、苦笑するレーゲンに、いつきは興味深そうに相槌を打った。
 いつきの脳内には、ふわふわとした洋服を着た箱入り娘のお嬢様が思い浮かべられた。レーゲンとその子ならば、きっと王子様とお姫様のようだろう、と思う。
 
 レーゲンは己の言葉を心の中で反芻する。
 本来のいつきの両親との死別や、過去のいつきの状況など、忘れたままで居て欲しいと願っている。
 レーゲンの言う『家族』とは、白い大型犬であるマシロ。大事な親友であり、家族であった。それは事実だ。

「ある日、その子に会いに行ったら……辛いことがあったらしく、泣きそうな顔をしていたんだ」
 レーゲンの話に感情移入したいつきも切ない表情を見せる。
「私が大人になったら悲しい顔なんてさせない。だから、一緒にいようって……約束したんだ」
「プロポーズまでしたの!?……大事だったんだね……」
 肯定の頷きを返すレーゲン。
「指輪とかないから、互いの薬指に誓いのキスをして、ね」
「キスはその薬指だけ?」
 いつきの疑問にレーゲンは己の頬を掻いた。そして照れながらも
「うん……実は、した。家族の目を盗んで、ちょこんと、ね」
「……やっぱり」 
 花の雨に包まれた時、様々な場所に触れるキスを落としてくれたレーゲン。彼は勢いに乗るタイプだ、とこっそりいつきは確信していた。
「多分、気づいていたと思うけどね……」
 懐かしさに、レーゲンは柔らかな笑みを浮かべた。

 再び恋人同士になれた今、レーゲンが過去のいつきの思い出を浮かべることは以前に比べたら少なくなっただろう。
 だが、レーゲンにとって以前の記憶は、今のいつきとは共有できなくとも大事で幸せな思い出であることに変わりない。
「あ、昔の話だよ?」
 黙るいつきをフォローすれば。
「正直……話を聞いたらもっと妬くかなって思ってた。でも、その子を本当に好きだったのはわかったし……今は俺のことを好きでいてくれてるのわかってるし。妬かないよ」
 聞かせてくれてありがとう、といつきが笑いかける。
「今キスしたいのは、いつきだけだよ」
 真剣な表情を見せるレーゲン。
「う、うん、俺もレーゲンだけ、だよ……」
 真っ直ぐなレーゲンの視線、表情。
 そしてレーゲンの身体が間合いを詰めてくる。気恥ずかしさから顔を上げられないいつき。
「いつき……」
 レーゲンの手がいつきに触れる。
「レーゲン……」
 その優しい言葉にいつきが顔を上げると……
「あ。ナピナピ……!」
 こっそりと気配を消しつつ。人魚像から流れる涙を採集するナピナピの姿が此処に……!
 あ、バレちゃった!と照れ笑うナピナピに、頬を紅潮させるいつきとレーゲンだった。


●トランスと涙
 水龍宮の奥の間、そして佇む人魚像と男の像。
 イチカ・ククルはいつものように笑みを浮かべ、物珍しそうにあたりを見回している。
 そんなイチカの様子を眺めつつ、彼の神人である天原 秋乃は眉根を寄せていた。
 ナピナピの頼みは叶えたいが、いかんせん話のメインテーマが難しい。
(キスの話って言われてもな……)
 無言の間が続けば、イチカは突然秋乃の前に向き直った。
「話すことが思いつかないなら、トランスの時のこと聞いてもいい?」
 相変わらずの笑顔を浮かべたイチカの言葉に、トランスもキスの一つであることに変わりないことに気付かされ。
 秋乃の頭の中に初めてのトランスの思い出が再生された。
「トランスの時……か。何が悲しくて男の頬にキスしなきゃならないんだ、と」
 そっかー、そうだよねーとニコニコ頷くイチカ。
「とは思うけど、オーガと戦うためには必要なことだからな」
 気恥ずかしそうにしつつも、秋乃の眼差しは真剣で。彼らしい、とイチカはクスリと笑う。
「やっぱり最初は恥ずかしかったのかな?」
「そ、そりゃ恥ずかしいだろ。最初は抵抗あったけど……今はもう慣れた……はず」
 尻すぼみに声が小さくなっていく秋乃。そんな彼が可愛らしいという想いと共に
(「もう慣れた」なんて言ってるけど、たまにぎこちないんだよね……っていうのは黙っておこう)
 そういう所も秋乃らしいけど!とイチカの笑みは更に深まった。

 秋乃がイチカのニヤニヤとした笑みに気付けば
「俺の話はもういいだろ、イチカはどうなんだよ」
 俺ばっかり喋って不公平だ!と精霊に向かって眼差しを向ければ、彼は相変わらずの笑みと軽さで返す。
「僕の話なんて聞いてもおもしろくないのになー」
 トランスの時のことでいいんだよね?とイチカが小首を傾げると、秋乃はあぁ、と頷く。
(まぁ、聞かれてもトランス以外のことを秋乃に教える気はないんだけど……)
(それ以外のことを聞いたところで、素直に教えてくれる気もしないし、な)
 秘密主義、というのか。
 イチカは過去を話すことを頑なに拒み、また軽やかに避ける。
 秋乃も気になることは多々あるものの、無理に踏み込まない方が彼にとって良いのだろう、と考えていた。
「んーーー。トランスの時のキスは確かに恥ずかしいよね。僕も最初は恥ずかしかったし」
 思いがけないイチカの言葉に秋乃は『嘘だッッ!!!!』と言い返しそうになるのをなんとか飲み込んだ。
(最初のトランスの時に恥ずかしかった……だと?)
 イチカとの最初のトランスを思い出す。
 躊躇と戸惑いを見せつつ、イチカの滑らかで艶やかな頬に口付けた自分とは対照的に、イチカはいつもと変わらないへらへらとした笑みを浮かべ、何事もなかったかのように受け入れていたように思っていた。
(イチカがそういうこと言うなんて……いや、絶対嘘だろ……)
 思ったことが直ぐに顔に出る、素直系青年秋乃。イチカは少し心外そうな表情を作り
「秋乃ってば疑ってるな。本当だってばー」
 信じて貰えないなんて、僕悲しい!とまでは行かないが、残念そうな表情見せてみる精霊。
「あ!」
 イチカにとっての名案が浮かび。彼は急に己の手をポム!と叩いた。
 突然の精霊の挙動にビクッと秋乃が驚く。
 しかもそれ以上に、その後の発言は予測不可能な言動で……
「じゃあ、今日は僕から秋乃のほっぺにちゅーしてあげようか?いつもは逆だから、僕の気持ちがわかるかもよ?」
「お、おいっ、発言を疑ってたのは認めるけど、だからってなんであんたからキスって流れになるんだよ」
 ぐぐい、とその身を近づけてくるイチカ。
「やめろ、顔を近づけるな……!」
 イチカの赤い瞳が秋乃の姿を捉え、自然に開けた口元からは八重歯が覗く。
 冗談とも本気ともわからぬ行動に秋乃は少し頬を赤面させる。そしてその頬を隠すように掌で自分を守った。
「あはは、そんなに照れなくていいのにー」
「誰も照れてないっての!!」
 やっと身体を離したイチカの笑みは、いつもの通りで。
「そんなあきのんも好きだけ……」
「あきのんって呼ぶな!」
 
 いつもの二人、いつもの空気。
 秋乃の焦りと、イチカの笑み。
 人魚像がほろりと流した液体を、ナピナピはこっそりと小瓶に収めるのだった。


●白い首筋と涙
 人魚像を興味深そうに眺めていたのは小柄な美少女……に見える美少年、柊崎 直香。
 そんな人魚像と直香の対比を、数歩下がった位置で見守っているのは直香の精霊でありディアボロのゼク=ファルだ。
 神聖な面持ちで像を見上げていた直香が、不意にゼクの方へと向きなおった。
 直香の長めの頬横の髪が舞うように揺れ、可愛らしい唇から紡がれた言葉は
「よし。じゃあゼクとの濃厚なキッスの話する?」
「待て唐突にフィクションな話を始めるな」
 ゼクの眉間に更に深い皺が。
「そうか、キミはノンフィクションが好み、と」
 あたかもメモとペンがあるかのように、あたかも敏腕記者のように、あたかも眼鏡を掛け直すかのように。
 直香の演技力に素直に感嘆している場合ではない。
「しかし意外だ。魔法少女モノをこよなく見ているキミだからフィクションの方が好みかと……」
「そ れ 以 上 言 う な」
 やめて!ファルファルちゃんの体力が開始数分でガン減りよ!
「このような場所で不誠実な話はやめろと言っただけだが」
 冷静さを保とうと、直香に眼差しを向けるゼク。
「ネタがなかろうと気を遣ってあげたのにな。さぁ、僕に退屈する暇など与えぬ豊富な体験談を聞かせたまえ?」
 さぁ!さぁ!と笑みを浮かべつつにじり寄る直香に、ゼクは必死に脳内から話のネタになりそうな思い出を浮かべる。
「……く、急かすな、何か話を、話を繋げばいいんだろう……」
 ゼクの脳裏に浮かぶのは濡れたり透けたりおっぱいだったりお尻だったり巨乳チャイナだったりホストだったり……あれ、俺のウィンクルム人生って……なんなんだろう……そんな深い思考に陥りそうになるのを直香の声が遮った。
「もちろん、キスバナだよね?」 
 きゅるん☆とJKか!JCか!と思わせるような上目遣いを見せる直香。
(キスに限定しての話題、だと……!?)
 真面目なゼクさん、咄嗟に浮かぶのはやはりトランス。
「あー……回数なら、お前とが最多だろう。間違いなく」
「やだゼクったら毎日ちゅっちゅしてるなんてカミングアウト……!その上あんなとこやこんなとこまで……!」
 恥ずかしそうに身悶えてみる直香にゼクさん白目。大丈夫、今は二人きりだよ、多分!
「毎日はないし、唇にしたことはない。頬と額と後は手の甲にしか……しか?」
 いや、思ったより色んな場所にしているな、という思いも湧くが、ほぼ業務上必須のチュウである。
「とにかく、そんな多様な場所に口付けてはいな……」
「まぁ、僕とのことはいいよ。日々愛を育んでます、はぁと。はい終了」
 どうやら直香とのトランスの話はお姫様(男子)の求めるものではなかったようだ。
「いちいち茶化すな、もうツッこまねぇぞ」 
 それでは、と直香がまた眼鏡を掛け直す仕草をする。
「インタビューを続けますが、ファーストキスはいつどこで?」
 スチャッ!っとあたかもマイクがあるかのように直香は拳をゼクの口元へと近付けた。
「初めて?」
 一瞬の間。
「母お…」
「家族は除外ですよ」
「お前こそ遮るな」
 
 家族以外、か……。

 ゼクの表情が思案に耽る。
 彼が『何か』を考えているのは容易に窺えて。

 ――お?

 それは一瞬の間だったけれど。
 
 ゼクの唇が開くよりも早く、直香は言葉を紡いだ。
「なるほどよくわかった」
「って、オイ俺まだ何も言ってねえ」
 まったく、自分から聞いておいて全然話をさせる気がないじゃねぇか、とゼクは心の中で呟く。
「これは気が向いたら聴くよ。質問を変えよう。今までで一番印象的な……」
 今度は、ゼクが直香の言葉を遮った。
「お前その、重要なとこに限ってわざと踏み込まない悪癖何とかしろ」
「言ったでしょ。気を遣ってあげたのにって」
 直香がフイ、と視線を逸らす。
「重要なとこ、なんて自分から申告しちゃってどうするの。まったく、キミは……」
 直香は、ゼクから視線を外したまま答えた。
「……印象的なキス、だったな」
 シン、と静まり返ったこの場所。
 ゼクの声と、彼が動くことで生じる衣擦れの音だけが響く。
「質問の、答え」
 不意に、直香の身体に褐色の腕が寄せられた。
 決して強引すぎない、だがしっかりとした意志を持った腕の力。
 ゼクが、直香の小柄な身を引き寄せた。

 抵抗もせず、身を任せば……直香の白い首筋に、触れるだけの優しいキスが落とされた。
 
(まったく、キミは……) 

 心の中で呟けば、視界に入る人魚像がホロリと涙を零す。
 暖かな腕の中で見つける直香だった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 上澤そら
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月18日
出発日 07月24日 00:00
予定納品日 08月03日

参加者

会議室

  • [6]ヴィルマー・タウア

    2015/07/23-19:13 

    挨拶が遅れてすまない。
    ヴィルマー・タウアだ。隣で鬼の形相をしているのがレオ。
    …突っ込まないでやってくれると助かる(

    信城とレーゲン、天原とイチカ、レンとユリカワは初めましてだな、よろしく頼むぜ。
    柊崎達も相変わらず元気そうだな。よろしくな。

    さて、俺達の話もいいが…レオをどうやってなだめようかな。

  • [5]信城いつき

    2015/07/22-00:31 

  • [4]レン・ユリカワ

    2015/07/21-16:45 

    皆様、はじめまして。僕はレン・ユリカワと申します。
    隣にいるのは魔魅也さんです。よろしくお願いいたします(ぺこ)

    せっかくなので魔魅也さんに色々聞いてみたいな、って思っています。
    像が涙するところ見てみたいですけど…どうなるかなぁ。

    皆さん、素敵な時間が過ごせますように…!

  • [3]天原 秋乃

    2015/07/21-13:00 

    どうも、天原秋乃だ。
    レンとヴィルマーは初めましてだな。よろしく頼む。

    ロマンティックな話…はよくわからんが、とりあえず人魚達が寂しくならないような話しをしてやればいいんだよな…?
    …どうしようかなあ(考え中)

  • [2]柊崎 直香

    2015/07/21-00:31 

    ハロー、こちらクキザキ・タダカ。よろしくどうぞ。
    精霊はたぶんその辺にいるよー。

    人魚像たちに寂しがられない程度にいつも通りなお喋りしてくる予定。
    精霊と口でバトルすればいいんでしょう?

  • [1]柊崎 直香

    2015/07/21-00:30 


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