泡沫の星彩(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●願い星と叶え星
「今年もルプトー村の屋台に、人魚姫からの贈り物が並ぶ季節がやってきたよ!」
 言って、ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは晴れた笑みを零した。ルプトーは、紙作りを生業とする小さな村だ。ルプトー村にはこの時期になると、ちらちらと星の如くに瞬く、星の形に加工された薄青の紙を商う屋台が出る。水に触れると、美しくも儚い煌めきの泡となって溶け消えるその紙の名は、『人魚姫の願い星』。願いを込めて水に溶かせば、その願いは叶うのだと村では言い伝えられている。
「それからそれから! 今年はもう一つ屋台で買える物があるんだよ。『人魚姫の叶え星』っていってね、願い星と対になった紙なんだ。こっちには、1年の内に叶った願いを乗せるの。感謝の気持ちを込めて水に溶かしたらね、その人にはまた新しい幸せが訪れるって言われてるんだって!」
 そちらも願い星と同じくずっと昔から村に製法が伝えられてきた一品だそうなのだが、願い星と比べて材料の確保も作成自体も困難なため、出会うのは中々に難しいらしい。だから、願い星とほとんど同じ特徴を有する、けれど本物の星のような色合いと輝きを持った『人魚姫の叶え星』は、一部のマニアに、手に取ることが叶うだけでも幸運だとさえ言われているのだとか。
「ルプトー村には、人魚像が座する噴水が目印の巡る星広場っていう広場があって。あそこならお星様を溶かすのに丁度いいし、願い星と叶え星の屋台の他にジェラートの屋台も出るんだよ!」
 青年の声が歌うように弾んだ。広場で売られているジェラートは、『人魚姫のお気に入り』と名付けられた村の名物だ。『人魚姫の願い星』と同じ淡い青色のジェラートは、夏のじりじりする暑さを吹き飛ばしてくれるような涼やかなソーダ味。『人魚姫の叶え星』が屋台に並ぶ年にだけ食べられる鮮やかな向日葵色のジェラートは、うっとりするほど濃厚な南国のフルーツの味。どちらも星模した紙と同じように、中には光の欠片が幾らともなく眠っている。それは口に入れればぱちぱちと弾ける、小さなキャンディーの輝きだ。
「きっと素敵がいっぱいの時間になるからさ、大切な人と一緒に、ルプトー村の人魚姫に会いに行きませんか? ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェールだよっ!」
 心に残る旅になりますようにと、青年ツアーコンダクターは屈託なく笑った。

解説

●今回のツアーについて
ルプトー村の人魚姫に願いを掛けたり、叶った願いに想いを馳せたり。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。
『人魚姫の願い星・叶え星』やジェラートは別料金となります。
ツアーバスで朝首都タブロスを出発し、午前中に町へ着きます。
数時間の自由時間の後タブロスへ戻る日帰りツアーです。

●『人魚姫の願い星・叶え星』について
ルプトー村の巡る星広場に屋台が出ておりますので、そちらにてお買い求めくださいませ。
いずれも、同じ屋台で購入することができます。
紙に想いを込めるだけでも人魚姫にその想いが届くと言われていますが、想いを目に見える形にしたいという方のために、屋台には筆ペンも用意されております。
その他詳細はプロローグにある通りです。
お値段は『人魚姫の願い星』が1枚20ジェール、『人魚姫の叶え星』が1枚50ジェールとなっております。

●『人魚姫のお気に入り』について
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターがご紹介している『人魚姫のお気に入り』があります。
こちらもお求めは巡る星広場にて。
詳細はプロローグにある通りで、1つ30ジェールとなっております。
2種類の味がありますがどちらも同じ名前ですので、『ジェラート黄』とか『青を注文』等、ご購入の際はどちらか分かるようにプランにご記入いただけますと幸いです。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねます。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなるのでご注意ください。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

願い星に今の願いを乗せるもよし、叶え星を手に取ってこの一年で叶った願いを想うもよしです。
願い事を教え合ったり叶った願いについて2人で話したりと、2種類のお星様をきっかけに心に残る時間を過ごしていただけましたら嬉しく思います。
また、ルプトー村については、『人魚姫の願い星』というエピソードに詳しいです。
ご参照いただかなくとも本エピソードをお楽しみいただくのに支障はございませんが、ご一読いただけますとよりお楽しみいただけるかもしれません。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  相変わらず願掛けに夢中の相方を置いて屋台へ
あの様子ならしばらくは大丈夫だろう
折角だから青と黄色、両方買っていくか

……お前は何を熱心に語ってるんだ……
はいはいただいま、もうちょっと周りに気を配ろうな
ん、今年はいい。
それよりほら。買ってきたぞ、ジェラート

青い方を食べ進めていると視線に気づき
おねだりかと思いきやむしろ逆の提案
……別に手が塞がってるわけでなし、断ってもいいん、だが、
(暫しの逡巡の後)
……ん。(食べさせてもらう)
あああぁくっそやっぱり恥ずかしいわ!
なんだその笑顔は!
(照れ隠しに隣の相方の髪をわしゃわしゃ撫で)

(ポケットから願い星が水面に舞い落ちる)
『素直に答えられるようになりますように』


スウィン(イルド)
  願い星と叶え星、どっちにする?おっさんは叶え星にするけど
これって中々手に入らないみたいよ
溶かしちゃうのは少しもったいない気もするけど
溶ける時も綺麗って事だし。これも幸せのため、よね

叶った願い…やっぱりこれよね
(目を閉じて心の中で叶った願いを思い、溶かす)綺麗ね…
自惚れじゃなければ
もしかしてイルドが考えたのも同じ事かしら?
(表情からたぶんそうだと分かってくすぐったそうに微笑み)
新しい幸せ、きてくれるといいわね

二種類のジェラート、一つずつ買って半分こしましょ!
だってもうそうするって決めてたもの。両方食べたいじゃない☆
ん、どっちもおいし~い♪
(二人で食べれば更に美味しく感じ幸せそうな笑みを浮かべ)



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  この一年というか…つい最近の事だけど
フィンと…何というか…そういう(恋人)関係になれて
今でも本当かなと思う瞬間がある
フィンと会うまで、こんな自分になれるなんて思ってなかったから
だから、願いを叶えてくれた存在が居るのならば、感謝したいって思ったんだ
人魚姫の叶え星に感謝を綴る
「フィンと出会わせてくれて、有難う御座います」

書いたものをフィンと見せ合う
照れ臭いけど隠すのも変だし…フィンが何を書いたか気になるから
…同じ事を書いてる
嬉しくて顔が熱い
二人でそっと水に溶かす

ジェラート黄を買う
フルーツは大好きだ
でもソーダも気になる
一口要る?と聞かれれば即座に頷く
…!?
…ちっとも味なんかしないじゃないか
もう一口



瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  (人魚の願い星と叶え星、か。
だが今回はジェラートの方を堪能しに行こう)

空いている席を確保し、
人魚姫のお気に入り(青ジェラート)を注文。
珊瑚と一緒に、注文が届いたら、どんな味がするか食べる。

暫くジェラートを食べている内に、ふと珊瑚を横目で見つめる。
あっちの味は、どんな味がするか気になったから。

そうこうしている間に珊瑚と目が合い、どうしたのかと聞かれる。
パートナーとはいえ、人の食べているものを取るのは気がひけた。
だから躊躇いつつも「そのジェラートが食べたい」と言ってみる。
今、食べなかったら、次はいつ食べられるかわからない。

結局、珊瑚のジェラートを受け取り、礼を言う。
完食した後は静かに感想を呟いた。



明智珠樹(千亞)
  ●購入
人魚姫の願い星
ジェラート青

●動
「はい、どちらも食べてみたいですね、ふふ…!」
千亞からシェアの提案をされ驚くも勿論と答え
「ふふ。サイダーも美味しいですよ。はじける食感が爽やかです。はい、千亞さん。あーん」

素直に口を開ける千亞が嬉しく愛しく。
しばし眺め…蹴られる。

●願い
噴水にて
「さて、願い事ですが…千亞さんは記入しますか?」
返答に
「それでは、私も念じましょう」

額に押し当て
「千亞さんが毎日裸エプロンで出迎えてくれ…」
膝蹴られ
「想いが強すぎて、つい…!言葉に出しては駄目ですか、残念です、ふふ」

『千亞さんの願いが叶いますように』

千亞さん。
来年は『人魚姫の叶え星』に願いを込めに来たいですね、ふふ。


●時計の針が進むと共に
「これはやはり叶え星を買いませんと!」
 広場に着くや否や、イグニス=アルデバランは夜空の星に似た特別な紙を急ぎ買いに走った。彼の『お姫様』こと初瀬=秀を引っ張るようにして噴水まで向かい、清らかな水に星を溶かす。散る煌めきを青の瞳に映し、イグニスはその表情をふにゃりと和らげて、けれどどこまでも真面目に言葉を紡いだ。
「沢山一緒にいろんなところに行って、ぐっと距離が縮まったと思うんですよ」
 願い星に仲良くなれますようにとお願いしたおかげでしょうか、と続いた言葉も含めて、溢れる声はすぐ後ろに立つ秀に向けたものかそれとも村の伝説に残る人魚姫に宛てたものか。ともかくもイグニスがすっかり夢中になっているのを見て取って、秀は苦い微笑を一つ、
(去年も真剣に願掛けしてたっけな……この様子ならしばらくは大丈夫だろう)
 なんて思いながらひとり噴水から離れた。イグニスの元へと戻る前に、折角だからと買い求めたのは、薄青と向日葵色、2種類のジェラートだ。両手に夏の甘味を携えて噴水へと戻れば、聞き覚えがあるどころではない声が、懸命を通り越した力強さで辺りに響き渡っていた。
「頑張りましたよ人魚姫様! ありがとうございます! 願わくば更なる進展を! よろしくお願いします!」
「……お前は何を熱心に語ってるんだ……」
 呆れ混じりの声をその背にかければ、金糸の髪をふわりと揺らしてイグニスがパッと振り返る。
「あ、秀様お帰りなさい! というかいつの間に!?」
「はいはいただいま、もうちょっと周りに気を配ろうな」
「あれ、ところで秀様はお願い事しないんです?」
「ん、今年はいい。というかお前、俺の話ちゃんと聞いてるか?」
 問いに、きょとんとして首を傾げるイグニス。ため息を一つ零して気を取り直し、秀は叶え星を思わせるジェラートをイグニスへと差し出した。
「あー……それよりほら。買ってきたぞ、ジェラート」
「わ、ジェラート! ありがとうございます! 今年は2種類あるんですよねー!」
 受け取ったそれの色彩にも負けない鮮やかな笑みをそのかんばせに乗せて、イグニスはうきうきと機嫌良くジェラートを口に運ぶ。その傍らで、秀もまたソーダ味のジェラートを口に楽しんだ。2人の口の中で、キャンディーの欠片が小気味よく弾ける。と、不意にハッとしたイグニスが視線をジェラートから自分へと移したのに、間もなくして秀は気が付いた。
(何だ? おねだりか?)
 仕方がない奴だとジェラートを分ける心積もりでイグニスの言葉を待つ秀。そんな彼へと掛かった声は、
「秀様! 一口いかがです?」
 という予想外のものだった。向日葵色を乗せたスプーンが、目前に差し出される。驚きに目を瞬かせた後で、寸の間ぐるぐると思案する秀。
(……別に手が塞がってるわけでなし、断ってもいいん、だが、)
 それでも暫しの逡巡の後、秀はボトムスのポケットに触れると「……ん」と差し出された一匙をぱくりとした。途端、
「……!!!」
 イグニスの表情が、これ以上ないほどわかりやすくぱああと華やぐ。
(やりましたよあーん成功! 一年越しの願いがここに!)
 等と胸の内でガッツポーズを決めるも、秀はそんなイグニスの感慨にまでは思い至らない。今は、ただひたすらに自分の行動が照れ臭かった。頬が火照る。
「あああぁくっそやっぱり恥ずかしいわ! なんだその笑顔は!」
「なんでもないですよーふふーふふふー」
 にこにこと頬を緩ませるイグニスの髪を、照れ隠しのやつ当たりとばかりにわしゃわしゃと撫でて撫でて撫でまくる秀。そんな彼のポケットから、ひらり、先ほど密かに求めた薄青の星が水面へと舞い落ちた。そこに綴られた願いは、『素直に答えられるようになりますように』。仲睦まじい2人を祝福するようにきらきらとあたたかいような光を零しながら、願い星は秀の想いを乗せて静かに溶け消えた。

●交差する願い
「珠樹、どっちの味も大丈夫ならシェアしないか?」
 巡る星広場にて。向日葵色のジェラートを手に、千亞は明智珠樹へ視線を一つ遣ってそんなことを口にした。他でもない千亞からのシェアの提案に胸の内には驚きの色を滲ませた明智だったが、そのかんばせには常の柔和な笑みを乗せたままで、
「はい、勿論です。折角なのでどちらも食べてみたいですね、ふふ……!」
 と、含み笑いと共に零したのは諾の返事。良しとばかりに頷いた千亞が、溶ける前にと自身の分のジェラートをスプーンにそっと掬う。
「願い事……食べながら考えるか。ん、フルーツ味美味しい……!」
 頬張れば口中に広がる濃厚な南国フルーツの味わいと弾けるキャンディの組み合わせに、甘味を愛する千亞の顔にうっとりと蕩けるような表情が浮かんだ。瞳を輝かせる千亞の様子を心底から愛らしく思いつつ、明智は薄青のジェラートを一匙、千亞に向かって差し伸べる。
「ふふ。サイダーも美味しいですよ。はじける食感が爽やかです。はい、千亞さん。あーん」
「ん? あーん」
 言って、目を閉じ口を開いてジェラートが口にとび込むのを待つ千亞。素直な反応が嬉しくて愛しくて。明智は笑みを深くすると、スイーツ好きの兎さんの表情をまじまじと観察した。
(無防備なあーん顔、可愛すぎですよ、千亞さん……!)
 なんて思っていたところ――いつまで経ってもジェラートが口に入らないことに焦れた千亞が、ぱちり、瞼を開いて。かち合う視線と視線。今までの付き合いからくる勘だろうか、千亞は瞬時に状況を把握して、それとほぼ同時に兎さんキックを明智の脛へと食らわせる!
「何焦らしてんだ、そんなにマジマジ見るなド変態っ!」
「ぐふっ……! ふ、ふふ……千亞さんの愛が痛くて幸せです……!」
 というプレイ……もといやり取りまできちんと終えたところで、千亞はやっと薄青のジェラートを口に楽しむことができた。幸せそうな千亞の姿に、明智の表情も益々緩む。
「ふふ、次は私の番ですね。さあ千亞さん! どうぞ! 愛の一匙を!」
 あーん、と口を開けて待機する明智に、千亞、「自分で食べろ」と短く言い放つとジェラートを明智の手に押し付けてぷいとそっぽを向いた。その頬が照れ臭さにほんのりと朱に染まっているのを見落とす明智ではなく、彼は密か、その目元を和らげたのだった。

 ジェラートを存分に楽しんだ後、2人は噴水の前へとやってきた。願い星を手に、明智は傍らの千亞へと問いを零す。
「さて、願い事ですが……千亞さんは記入しますか?」
「んー……念じておくことにする。珠樹は?」
「それでは、私も念じましょう」
 微笑して、明智は薄青の星を額に押し当てた。目を閉じて、願うことは。
「千亞さんが毎日裸エプロンで出迎えてくれ……」
「って、口に出すな、マトモな願いにしろ!」
「ああッ!!」
 ツッコミと共に放たれた千亞の鋭い膝蹴りに、明智の唇から愉悦の声が漏れる。こんなことではくじけない、むしろ我々の業界ではご褒美です! なのが明智珠樹という男である。
「想いが強すぎて、つい……! 言葉に出しては駄目ですか、残念です、ふふ」
 明智、そんな軽口じみたことを口にした後で、ため息を零した千亞を一つ見遣って胸中に願いを唱える。
(『千亞さんの願いが叶いますように』)
 一方の千亞も、呆れた素振りは見せながらも心の中で真摯に想うは、
(『珠樹が幸せな道に進みますように』)
 という優しい願い。淡い青の星にそれぞれにあたたかな願いを込めて、2人はそれを澄んだ水面に落とした。ちらちらと、眩しいような煌めきの欠片になって願い星は溶け消える。
「……千亞さん」
「うん?」
「来年は『人魚姫の叶え星』に願いを込めに来たいですね、ふふ」
 明智がそんなことを言って緩く笑うので、「ん、そうだな」と千亞は短く応じた。
「またジェラート食べたいし」
 照れ隠しのように付け足された言葉に、明智は絶やさぬ笑みを益々濃くしたのだった。

●ジェラートよりも甘く
「この一年で一番の叶った願い、か……」
 広場の屋台横に設置された簡易テーブルの前。思案するように手を口元に宛がって、フィン・ブラーシュは言葉を零した。視線の先にはまだ想いを綴っていない叶え星。蒼崎 海十の眼差しが、声に惹かれたようにフィンへと向けられる。
「……海十と出会って契約した事、かな。うん」
 さらりと言って、フィンは筆ペンを手に取った。黒耀の瞳を瞬かせる海十。そんな愛しい人の姿を横目にふっと笑みを漏らして、フィンはまた口を開く。
「あの出会いが全ての始まりで、海十に好きだと言って貰えて。こんなに幸せでいいのかなぁって思ってる」
 笑顔と共に零されるは、清々しいほど真っ直ぐな愛の言葉。頬を朱に染めながらも、海十はぽつり、音を紡いだ。
「俺も……この一年というか……つい最近の事だけど」
 そこまで言って、一度言葉を切る。フィンの青の視線を感じながら、仄か俯いたまま、海十はぽつぽつと胸の内の想いを己の声に託した。
「フィンと……何というか……そういう関係になれて、今でも本当かなと思う瞬間がある」
 出会って、変わって、『好き』を伝えて。2人は『恋人』という関係になった。
「フィンと会うまで、こんな自分になれるなんて思ってなかったから。だから、願いを叶えてくれた存在が居るのならば、感謝したいって思ったんだ」
 どこまでも真摯に紡がれる海十の言葉に、「うん、これはお礼をするしかないよね」と柔らかく応じるフィン。そして2人は、どちらからともなく、夜空から掬い取ったような星模した紙に想いを綴った。フィンの満足げな表情を見留めて、海十は提案を一つ。
「見せ合わないか? その、俺達の想いを」
 照れ臭くはあったが、隠すのも違うと思った。何より、フィンが何を書いたのかが気になって仕方がない海十である。そんな海十の心を見透かしたように、フィンが優しく笑った。
「勿論いいよ。それじゃあ、せーの!」
 星の表側を海十の目前へと掲げてみせるフィンに、海十も倣う。そこに、綴られていたのは。
「えっと……『フィンと出会わせてくれて、有難う御座います』か」
「フィンのは……『海十との出会いに感謝を』。……同じ事を書いてる」
「そっか……同じなんだね、俺達。ふふ、何だか嬉しいな」
 最後の部分は弾んだ声で言ったフィンが頬を緩ませて、海十は胸のあたたかくなるような幸福感に顔を熱くする。そうして、2人は広場の噴水にそっと2つの星を溶かした。

「ん、さっぱりしてて美味しいね」
 一息ついたら、ベンチに並んで座ってジェラートを。フルーツは好物の海十、向日葵色のジェラートを口に美味しく遊ばせるが、
(でも、ソーダも気になる……)
 なんて、思わず視線はフィンの薄青のジェラートへと向かう。フィンは胸の内にくすりとした。物欲しそうな瞳で見てくるのが、予想通りの反応だったから。
「海十、一口要る?」
 嬉しい問いに、瞳を輝かせて一も二もなく頷く海十。そんな海十の唇に、フィンの唇がそっと重ねられた。
「……!?」
 突然の出来事に混乱し真っ赤になる海十を前に、フィンは自身の唇を撫で、悪戯っぽく微笑する。
「うん、海十はフルーツ味だね。濃厚で美味しい」
「なっ、なな、何だよ、急に……っ!」
 海十の精一杯の抗議に、肩を竦めるフィン。
「だってさ、おにーさんも困ってるの。家族みたいに接してきたから、海十と恋人っぽい事したいけど、タイミングがなかなか……」
 だからこういう役得くらいは、と、悪びれのない爽やかさでフィンは言い切った。海十、その言葉に暫し思案して、
「……さっきのじゃ、ちっとも味なんかしないじゃないか」
 と、唇を尖らせる。そして、
「もう一口」
 だなんて、頬を火照らせながらも強請るように甘えるように小さく紡げば、「じゃあ、もう一口」と口元を緩めたフィンが海十の顎をそっと持ち上げる。先ほどよりも少し長い『お裾分け』が、甘やかに2人の温度を繋いだ。

●特別な時間
(人魚姫の願い星と叶え星、か)
 絶えず人の訪れる星を商う屋台を見遣って、瑪瑙 瑠璃は胸の内に思う。
(だが、今回はジェラートの方を堪能しに行こう)
 思い決めたままにジェラートの屋台へと足を進めれば、「あいっ?」と瑪瑙 珊瑚が瑠璃とほとんど揃いの顔に不思議そうな色を浮かべて首を傾げた。
「瑠璃、人魚姫に願いは掛けねーのか?」
「おれはジェラートを食べようかと思ってる」
「おっ! いいな、それ。賛成!」
 瑠璃のプランが気に入ったようで、珊瑚はにっと相好を崩すとジェラートの屋台へと走り出す。瑠璃は息を一つ零すと、彼の後を追いかけた。

「これをお願いします」
「あ! わんはこっちな!」
 『人魚姫のお気に入り』の屋台にて。瑠璃は薄青のジェラートを、珊瑚は向日葵色のジェラートをそれぞれ注文した。ジェラート店は屋台なので事前に席を確保することは叶わなかったが、ジェラートを受け取った後、人魚像の噴水がよく見えるベンチが空いているのを見つけて、2人はそこに並んで腰を下ろす。
「人魚姫のスイーツ、ってヤツだよな! コレ! だから食べられるって事はわったー相当幸せかもしれねぇな!」
 顔を輝かせて珊瑚が言った。そして、
「くわっちーさびら!」
 いただきます、の意の言葉を発するや否や、では早速とばかりに南国フルーツのジェラートをがつがつと口にする珊瑚。そんな彼の隣で、瑠璃もまたソーダ味のジェラートを一匙掬って口に運ぶ。寸の間暑さが吹き飛ぶような涼やかな甘みと弾けるキャンディーの刺激が、口の中を心地良く満たした。
(どんな味がするのかと思ったが……美味いな)
 となると、次はもう一方のジェラートが気になるのも自然なこと。自身のジェラートを幾らか食べ進めた後で、瑠璃、己の名と同じ色の眼差しで、横目にちらりと珊瑚を見つめる。
(あっちはどんな味がするんだろうか……)
 とても美味しそうに向日葵色を頬張る珊瑚の姿に知らず見入っていたら、ふと、半分ほどジェラートを食べ終えた珊瑚の視線が瑠璃のジェラートへと移った。そのままつと視線が上へと動けば、対照的な2色の眼差しがばちりとかち合う。思わず、スプーンを手に固まる瑠璃。珊瑚の方もすぐには掛ける言葉を探しあぐねたようで、2人はしばし見つめ合い、ベンチには沈黙が落ちたが――やがて、珊瑚の方が気を取り直したように口を開いた。
「瑠璃、どうしたんだ?」
「いや……」
 真っ直ぐな問いに、瑠璃は言葉を濁し目を泳がせる。パートナーとはいえ、人の食べているものを取るのは気が引けたから。けれど、
(今、食べなかったら、次はいつ食べられるかわからない)
 と胸の内に思い直して、瑠璃は珊瑚の双眸を見返すと躊躇いがちながらも言葉を紡いだ。
「珊瑚、そのジェラートが食べたい」
 その言葉に瞳を瞬かせた珊瑚が、次の瞬間にはしめた! とばかりにそのかんばせに満面の笑みを浮かべてみせる。そして、瑠璃の手元の薄青のジェラートへと顔を寄せ、大きく一口ぱくりとした。瑠璃が食べるならわんも食べるしかないよな、なんて、思った瞬間即行動! な珊瑚である。驚きに目を瞠った瑠璃へと、
「……隣のジェラートは青いんだし」
 と、悪戯っぽく笑って、珊瑚は自身のジェラートを瑠璃へと差し出した。
「ありがとう、珊瑚」
「ん、交換な」
 ジェラートを受け取った瑠璃が謝意を示せば、どこか楽しそうにそんな条件を提示する珊瑚。諾の返事の代わりに差し出された淡い青色のジェラートに齧り付きながら、珊瑚は、濃厚なフルーツの味わいを口に楽しむ瑠璃の姿をにやにやしつつ見つめ続けた。
(こんな食べ合いっこ、今日しかできねぇしな)
 胸の内に溢れるは、そんな想い。やがて2人共がジェラートを食べ終えた後で、瑠璃が静かに呟いた。
「美味かった。悪くないな」
 そう、悪くない。とっておきのジェラートも、傍らの人とそれを分け合う特別な時間も。

●幸せの先の幸せを紡ぐ
(物語の人魚姫は悲しい話だが……)
 この村の人魚姫の話は明るくて好ましく感じられると、イルドは星に願いを掛ける人々の様子にごく仄か目元を和らげた。傍らのスウィンが、目聡くそれに気付いてかくすりと笑う。
「ふふ、何だか素敵な場所よね。夢に溢れてるっていうか、皆笑顔で、嬉しそうで」
「まあ、悪くはないな」
「あらら、素直じゃないわねぇ。イルドもほら、スマイルスマイル☆」
 言って、イルドの前でにっこりとしてみせるスウィン。イルドは一つ息を吐くと、星を売る屋台を顎で指した。
「それより、あれ買いにいくんだろ」
「あ、そうだった。ねぇ、イルドは願い星と叶え星、どっちにする? おっさんは叶え星にするけど」
「俺も叶え星、だな」
 そのまま2人で屋台へと向かい、スウィンが2枚の叶え星を買い求める。
「これって中々手に入らないみたいよ」
 なんて悪戯っぽい笑顔と共に手渡された星を手に携えて、次に歩を進めるは人魚像の噴水だ。
「溶かしちゃうのは少しもったいない気もするけど、溶ける時も綺麗って事だし」
 これも幸せのため、よね、と付け足しながらも、スウィンはどこか名残惜しげで。そんな恋人の姿に今度は彼にバレないようにふっと口元を緩めた後で、イルドは赤の眼差しで手の中の星をじっと見つめて、叶った願いを心の中に想った。
「叶った願い……やっぱりこれよね」
 そんな独り言を呟いて、スウィンも星に想いを馳せる。目を閉じて、胸の内に思うことは。
(イルドと恋人同士になれました、ありがとうございます……こんな感じでいいのかしら)
 瞼を開けて傍らの人を見遣れば、ぱちりと目が合った。イルドの方も想いを込め終わったようだと見て取って、アイコンタクトを一つ、スウィンは水面に星を落とす。イルドも、それに倣った。2つの星が、見惚れるような煌めきの泡になって清い水に溶け消える。
「綺麗ね……」
 感嘆混じりの声が、スウィンの唇から漏れた。やがて星の名残が完全に消えた、その後で。
「ね、自惚れじゃなければ……もしかしてイルドが考えたのも同じ事かしら?」
「さあな」
 スウィンが零した問いに、イルドは一見そっけないような返事を寄越したけれど――その口元に少し浮かんだ笑みが、彼もスウィンと同じことを思っていると確かに告げていた。それを読み取って、スウィンはくすぐったいような微笑を漏らす。そして、明るく弾む声で言った。
「新しい幸せ、きてくれるといいわね」
「……ああ、そうだな」
 消えたはずの星の欠片が水の底で応えるように光ったような。そんな気がするのさえ、思い違いではないように2人には感じられた。

「イルド! 二種類のジェラート、一つずつ買って半分こしましょ!」
 2つの味のジェラートを商う『人魚姫のお気に入り』の屋台にて。スウィンはイルドに呼び掛けるや否や、その返事を待たずに薄青と向日葵色のジェラートを注文した。
「って、聞く前にもう買ってるだろ」
「だってもうそうするって決めてたもの。両方食べたいじゃない☆」
 呆れ混じりのイルドのツッコミもなんのその、スウィンは悪びれなくころりと笑う。神人の言動に再びのため息を漏らして、けれどイルドはそれ以上の追及はしない。元より、スウィンの提案に異論はなかった。それぞれにジェラートを口に楽しんで、次は交換してもう一口。口の中に広がる夏らしい味わいに、
「ん、どっちもおいし~い♪」
 と、スウィンは頬を抑えて幸せ満開の笑みを零した。イルドと2人で食べているからこそ、余計に美味しく感じられる。そんなスウィンの様子に、イルドは眩しい物を見るように目を細めた。
(もう新しい幸せがきたみたいだ、なんて、俺の幸せは簡単なもんだな)
 でも、それも悪くないと素直に思えるイルドである。
「……美味いな」
 ぽつりと呟けば、傍らの大切な人が益々嬉しそうに笑った。



依頼結果:大成功
MVP
名前:初瀬=秀
呼び名:秀様
  名前:イグニス=アルデバラン
呼び名:イグニス

 

名前:蒼崎 海十
呼び名:海十
  名前:フィン・ブラーシュ
呼び名:フィン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月16日
出発日 07月23日 00:00
予定納品日 08月02日

参加者

会議室

  • [11]瑪瑙 瑠璃

    2015/07/23-00:00 

    珊瑚:
    (珠樹の行方をどこからか持ってきた双眼鏡で確認する)

    あの位置、珠樹座って事にしとくか。

    秀やイグニスのスタンプ、楽しみにしてるぜ!
    また、一緒になったらよろしくな!

  • [10]瑪瑙 瑠璃

    2015/07/22-23:56 

  • [9]スウィン

    2015/07/22-22:53 

    スタンプ作りましょ、秀サマ☆(悪乗り)
    明智は今日も元気ねぇ。頑張れ千亞!

  • [8]明智珠樹

    2015/07/22-20:29 

    秀サマのッ! ちょっとスタンプっ! みってみったい!
    そっれ!いkk(千亞の空中殺法)

    千亞
    「知った仲間ばかりだから、とごめんね。千亞だよ。お空を飛んでいったのは明智珠樹だ。
     こんなノリにならないよう気を付けるから、皆も楽しい時間を過ごしてね」

    昨年から引き続き、なのは秀さんとイグニスさんだけですね。
    イグたんのっ!ちょっとスタンプッ!見てみたいっ!

    千亞「もう嫌だこんな神人」

  • [7]明智珠樹

    2015/07/22-20:25 

  • [6]蒼崎 海十

    2015/07/22-00:20 

  • [5]初瀬=秀

    2015/07/21-21:21 

    (あいさつスタンプ作るかな、と思いつつ)
    初瀬とイグニスだ、よろしくな。

  • [4]瑪瑙 瑠璃

    2015/07/20-01:30 

  • [3]明智珠樹

    2015/07/20-00:07 

  • [2]スウィン

    2015/07/20-00:05 

  • [1]蒼崎 海十

    2015/07/19-00:15 


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