プロローグ
ウィンクルムたちは、マダム・マーレから借りたスピリット・チョーカーを身に着け、亀に乗って海底ドーム都市『アモルスィー』に向かっていた。
海底世界で起こっている、オーガによる様々な事件。それを解決するため、まずはマダム・マーレと会って話をしようとしていたのだ。
初めて訪れる海底世界。
揺らめく海藻、踊るように泳ぐ水生生物。差し込む陽光の効果もあって、まるで幻想世界のよう。
見惚れていると、きらり、輝くものが目の前をよぎる。
目で追うとそれは、美しい黄金の髪だった。
長い金髪をポニーテールにし、赤やピンクの布で身体を覆っている者が、海藻の陰からこちらを窺っている。
可愛い。
無垢な少女のようなその者は、誰が見ても美しく……見惚れていると、突然現れた大きな影が、その者を大きなヒレでガシっと捕え、物凄い速さで泳ぎ抜けていった!
アモルスィーに到着したウィンクルムたちは、早速そのことをマダム・マーレに報告する。
「それはナピナピでしょう。先ほど、海底世界の住人からも報告がありました」
マダム・マーレは眉根に皺を寄せる。
ナピナピは海底世界の神の使い。その可憐さに心を奪われた魚人族のトビーが、ナピナピを攫い『昆布の森』に立てこもったのだという。
「でも、トビーは元々温厚な青年です。おそらく、誰かに唆されたのでしょう」
最近は、質の悪い水棲オーガが多数出現していますから、とマダム・マーレは悲しげに目を伏せる。
それを聞いて、黙っていられるウィンクルムではない。
急ぎA.R.O.A.に戻り体勢を整え、再度海底世界、昆布の森へ向かい、ナピナピを救出することにしたのだ。
解説
マダム・マーレ及び海底世界の人々から集めた情報は次のとおり。
「昆布の森」
全長10メートル前後の昆布が密集し、森のようになっている。人を刺すウニなど、危険な水棲生物が潜んでいることも。
一部、魔法陣の効果でその魔方陣の上に立てば息が出来る場所もある。
トビーは昆布の森の奥地にいるようだ。
余談だが、この昆布を食べると髪が艶々になる、との言い伝えがあるとか。
「魚人族のトビー」
上半身はトビウオ、下半身は人間の魚人族。
大きなヒレはまるでカッターのようになることもある。
彼が昆布を切りつけながら昆布の森に入っていったという目撃情報多数。
「トビーを唆した水棲オーガ」
クラゲ型オーガ。全長5メートル。触手に触れるとダメージを受けるうえ一定時間痺れて動けない。攻撃力はDクラス級。
人語は離さないが、海底世界の人魚族、魚人族、水棲生物とは会話可能。
現在は昆布の森に潜んでいるらしい。
ゲームマスターより
敵はあまり強くありませんが、なにしろ水中戦です。
チョーカーのおかげで息ができるとはいえ、ちょっと動きにくいかと思われます。
どうかお気を付けて!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 トビーさんは困った人ですね。 好きになった相手を連れさらったり、監禁したり危害を加えたりしても、不毛な結果になるだけなのに。 行動 オーガや危険な生き物がいないか警戒して昆布の森を進みます。切断された昆布がないか注意します。魔法陣があればその位置を覚えておきます。アクシデントでチョーカーが外れた時に役立つかもしれません。 敵の気配を感じたらトランス。 触手で一網打尽にされるのを避けるため、仲間とは密集せず距離をあけます。 トビーさんと話ができれば、マダム・マーレの見解を伝えます。温厚なあなたをオーガがそそのしかしている。オーガにナピナピへの思いを悪用されているのだと、自覚してくれると良いのですが……。 |
リオ・クライン(アモン・イシュタール)
本当に息が出来る・・・。 これで水の中を歩けるのだな。 いつもの服だと少し動きにくい感じがするが・・・。 <行動> ・敵の気配を感じたらトランス ・会話術スキル(レベル1)でトビーを説得 「馬鹿者!思い人を怖がらせて、なにが真実の愛だ!」(怒) 「誰かの意見を鵜呑みにするのではなく、自分の本当の思いを伝えればいいんじゃないか?」 ・クラゲ型オーガの触手を観察して、動きがあったら伝える ※アドリブOK |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
昆布の森でクラゲとトビーを探す→クラゲ型オーガを倒す→ナピナピさんを解放するようトビーを説得、の流れで。 昆布の森に入る前にトランス。 昆布の森では野生水生生物に注意して、 クラゲの触手、傘が見えないかよく見て捜します。 触手に一網打尽されないように、散開して探索。 敵を見付けたら皆に知らせて対処。 私は杖でミュラーさんの攻撃力を上げます。 水中世界ならクラゲの麻痺のお薬とか無いかしら。 事前に聞いておき、あれば貰って行きます。 麻痺したら戦闘後に使用。 戦闘中はイタチごっこになるので使いません。ミュラーさん耐えて。 薬が無ければ以降彼を引っ張っていきます。 トビーさん。ナピナピさんの意思を無視は良くないと思います。 |
星川 祥(ヴァルギア=ニカルド)
昆布が髪にいいと聞いて、トビーが切った昆布を発見したらそっとポケットへ入れる 後で食べちゃうよ ヴァルくんや仲間と一緒に、トビーの行方を示す昆布の切れ端や魔法陣、その他の危険な生物に注意して進むよ 戦闘では水中向きの水剣「ブラッド・シー」で戦いに挑む 後ろにはヴァルくんがいる 触手をはらってくれると信じて、切り込んでいくよ 体に出来るだけ切りつけて弱点を見つけられるといいんだけどな |
アンジェローゼ(エー)
初オーガ戦な上に水中戦…緊張する ナピナピとトビーを助ける為!仲間とエーと頑張るわ! 捜索 危険物に当たらぬよう慎重に すぐトランス出来る様エーと手を繋ぐ 昆布にトビーが通ったと思われる跡やオーガの痕跡がないかも観察 魔法陣や戦いやすそうな開けた場所も見つける 戦闘 後衛 昆布に隠れられると厄介 開けた場所を見つけ誘導したい 詠唱中のエーを盾を上手く使い庇う 動きにくさを考慮し触手に当たらぬよう仲間とは散開し、敵との距離に注意 敵接近時は新婚さんで攻撃 トビー 説得 ナピナピはどこ?好きな子にそんな事したら、彼女は貴方を好きにはなってくれない 目を覚まして!普通にお茶に誘ってみたら? 説得失敗、攻撃時→新婚さんで叩いて気絶させる |
「本当に息が出来る……。これで水の中を歩けるのだな」
リオ・クラインは、首に装着したスピリット・チョーカーに触れて感心している。
ここは確かに水の中なのに、酸素ボンベもなしに、陸上にいる時と同じように呼吸ができるのだ。おまけに、会話も可能である。
しかし、全身にはしっかりと水の抵抗力がかかっている。
「いつもの服だと少し動きにくい感じがするが……」
「まさか、海の底で戦う事になるとはなあ」
スポーツスキルを有するアモン・イシュタールだが、水泳と水中戦とでは勝手が違う。
「海で遊ぶのは好きだけど、水中戦となるとちょっと不安だよぉ」
ラダ・ブッチャーも自信なさそうな声。
「それにクラゲってぐにゃぐにゃしてて、どこが弱点だかわからないしさ」
「マダム・マーレからクラゲの麻痺に効く薬を借りたけど……オーガ化したクラゲは想定外なので効くかどうかわからないらしいんですよ」
瀬谷 瑞希は前もって薬を探してはいたが、その効果は期待できないようだ。
(初オーガ戦な上に水中戦……緊張する)
アンジェローゼは胸を押さえる。
スピリット・チョーカーを着けているはずなのに、息苦しい。
見るからに緊張しているアンジェローゼに、エーは
「貴女は必ず僕が守ります」
と勇気づける。内心は、アンジェローゼのことが心配過ぎて死にそうなのだが、それを表には出さない。
皆が不安がってばかりでは、アンジェローゼの緊張も解けないだろう。
フェルン・ミュラーが
「皆で力を合わせれば、きっとナピナピを救出できるさ」
と安心させるように微笑む。
「私は、ヴァルくんや皆を信じてるよ」
星川 祥が言うと、ヴァルギア=ニカルドは照れたように祥から目を逸らす。
その言葉にアンジェローゼも、自分にはエーが、そして仲間がいることを改めて思い出す。
「そうね。皆でナピナピとトビーを助けましょう!」
アンジェローゼが気合いを入れたところで、一行は昆布の森へ向かって水中を進み始めた。
「トビーさんは困った人ですね。好きになった相手を連れさらったり、監禁したり危害を加えたりしても、不毛な結果になるだけなのに」
海底を進みながら、エリー・アッシェンは溜息をつく。こぽり、と小さな泡がエリーの唇から海上へと昇っていった。
「魚人の男と子供だろ?……なんか犯罪臭がするよな」
「アモン、子供だろうとなんだろうと、誘拐は犯罪だろう」
「まあそうなんだが、いろいろな意味で危険度が高いというか」
「いろいろな意味……よくわからないが、それなら一刻も早く解決しないとな」
リオはアモンの言わんとしていることを、若干理解しきれていない様子だ。
そうこうしているうちに、だんだんと、岩から生えている昆布の数が増えてきた。
「そろそろ昆布の森に差し掛かるんじゃないかしら」
瑞希はそう言うと、頷くフェルンの頬にそっと唇を寄せる。
「皆を、護って」
唇が触れれば、2人の姿をオーラが包み込み、トランスが完了する。
「ロゼ様」
エーがアンジェローゼに手を差し出す。
この先はどこにどんな危険が潜んでいるかわからない。いつでもトランスできるよう、手を繋ぎ離れ離れにならないようにしておきたかった。
アンジェローゼはエーの意思を汲み、しっかりとその手を握った。
「トビーはどこに行ったんだろうね」
祥が左右を見渡す。
「トビーが切り落とした昆布の破片とかがあればいいんだが」
ヴァルギアも、あたりを注視する。
「クラゲの触手や傘が見えるかも……」
瑞希が言う。一般的にクラゲは半透明で、海中では見えにくい。よく注意して見ておかなければ。
「しかも触手が長いですよ。一網打尽にされないよう、密集しない方がいいですよね」
瑞希の提案で、ウィンクルムたちはそれぞれ少し距離を置いて、探索しつつ進むことにした。
「昆布もそうですが、魔法陣も探しておきたいですね」
「アクシデントでチョーカーが外れたときに備えたほうがいいからな」
エリーとヴァルギアは、魔法陣を探す。
「戦闘になったら、ここじゃ少しやりにくいわね」
アンジェローゼは密集した昆布群を眺める。
魔法陣も大切だが、どこか開けた場所がないかどうかも、確認しながら行かなければ。
もちろん、危険な生物への注意も怠らない。
エーは自分の背にアンジェローゼを庇い、彼女と繋いでいない方の手で、杖を使って昆布を捲り安全を確認しつつ進む。
ラダは動物学の知識を駆使し、水棲生物が潜んでいそうな場所を避けるよう皆に助言する。
「不要な争いは避けたいものねぇ」
ヒャッハーな外見に似合わず、心優しい青年なのだ。
皆の慎重な行動とラダの知識のおかげで、一行は危険な生物に合わずに進んでいくことができた。
(そういえば、ここの昆布って、食べると綺麗な髪になるんだよね)
祥は試しに手近に生えていた昆布をちょいちょいっと引っ張ってみる。
……抜けない。
今度は思いっきりぐいっと。
やはり抜けない。生えている昆布は無理なようだ。
と、諦めかけていたところで、ふよふよと漂う昆布の切れ端を見つける。
これなら、持ち帰れる!
祥は少しだけ皆から離れ、切れ端を掴みに行った。
(やった!昆布ゲット!……ん?)
よくよく前方を見て見れば、奥の方からいくつか昆布の切れ端が漂ってきている。
「ねえ、皆!こっちの方向から、たくさん昆布の切れ端が流れてきてるよ」
「ということは、この海流を遡っていけばたどり着けそうですね」
祥の言葉を受け、エリーが言い、皆はその方向へ進むことにした。
海流に逆らっているので、水の抵抗が強い。
それでも足を踏みしめ進むうちに、魔法陣を2つほど見つけ、なんとか戦闘できそうな開けた場所もひとつ見つけた。
戦闘の最中でここまで戻ってこられるかどうか……また、正確にこの位置に戻って来られるかどうか……心配は尽きないが、見つけないよりはましであろう。
「唆したクラゲはトビーの行動が気になるだろうから、近くに居そうだな」
フェルンの言葉に、皆はそれももっともだと頷いた。うまくトビーの元にたどり着いたなら、近くにクラゲ型オーガがいることも念頭に置いて行動しなければ。
あたりに昆布の浮遊量が増えてくる。
慎重に足を進めれば、遠くの昆布の隙間から、人影らしきものが見え隠れした。
「うわ、マジで魚じゃん」
人影の正体が魚人族だとわかると、アモンは正直な感想を口にする。
「アモン、それは本人の前で言うと少し失礼だからな」
リオが諌める。
トビーは大きなヒレで巻き付くようにして、可憐な少女を抱えていた。
おそらくあの少女がナピナピであろう。
「なんとか説得できれば良いのですが」
エーが言うように、皆、トビーを極力傷つけたくはなかった。
しかし、安全に説得できる保証はない。
森に入る直前でトランスした瑞希以外の4組は、トビーとの戦闘を視野に入れ次々にトランスへと移行する。
昆布に身を隠しつつ慎重に近づくも、昆布の不自然な揺れで、トビーはこちらの存在を察知した。
「誰だ!」
鋭い視線をこちらに向け、トビーが怒鳴る。捕えられていたナピナピが怯えの表情を見せる。
ウィンクルムたちは昆布の陰から姿を現し、トビーを刺激しないよう、温厚な態度で接する。
「トビーさん、少し、お話しても良いでしょうか」
エリーがトビーと距離を保ちつつ、話しかける。
「あなたが元々、誘拐だなんて強引なことをするような方ではないことは、マダム・マーレから聞いて知っています」
「だから何だ」
トビーは険のある言葉を返す。
「強引にでもならなきゃ、一生手に入らないものだってあるんだ」
と言って、ナピナピを一層強く抱く。ナピナピが身をこわばらせる。
「馬鹿者!思い人を怖がらせて、なにが真実の愛だ!」
そんなトビーを、リオが一喝した。
「好きな子にそんな事したら、彼女は貴方を好きにはなってくれない。目を覚まして!」
アンジェローゼも懸命に訴えた。
「ぐ……」
元が温厚なだけに、彼女たちの言葉がわからないわけでもないらしい。トビーに迷いが生じる。
しかし、真っ当な意見だけでは、トビーの心を覆すことはできないようだ。
ぼそりと、アモンが呟く。にやりとした悪い笑顔で。
「いい加減にしねぇと、お前が幼女趣味の変態だって噂を言いふらすがいいのか?」
「な……!」
トビーと、そしてリオが目を見開いた。
リオは脳内で辞書を引く。
変態【へん―たい】①形、状態が変わること。②異常な状態。③性的嗜好が悪趣味・異常な者。(タブロス大学監修「ミッドランド言語辞典」より)
「トビー……キミは……」
リオは、信じられないモノを見るような目をトビーに向ける。
「え……いや、その……」
トビーがふと小脇に抱えたナピナピを見ると、ナピナピも心なしか蔑んだような視線。実際には違うのだろうが、トビーの心理状態がそんなふうに見せるのだろう。
「そのまま、嫌われていいんですか?」
トビーの動揺を、エーは見逃さなかった。
「好きな子を攫う気持ちはよくわかります」
自分だって、アンジェローゼを唆し家出までさせた身だ。
「けれどやはり、相手の気持ちあってのものではないでしょうか」
トビーに迷いが生じている。
「だって……俺なんかじゃ、どうしても手に入らないから……」
トビーががくりと膝をつく。
その時、トビーの後ろから、低く唸るような音が聞こえてきた。
「そう……そうだよ、これしか方法がないんだ……」
トビーはまるで、その音と会話しているようだった。
「これは、まさか」
フェルンが顔をあげる。
皆、トビーの近くにオーガがいることを警戒していた。だから、すぐに理解した。
この音は、クラゲ型オーガの声だ。
「邪魔をするなっ」
トビーが海底を蹴る。そのままこちらへ突進するかと思われた。が。
「ヒャハ―――っ」
リオたちが説得にあたっている間にそっと後ろに回り込んでいたラダが、トビーの身体に抱き付き止める。
「離せっ」
トビーが身を捩る。ナピナピを抱いていない方のヒレが硬化し、ラダの頬を掠める。
装備のおかげで深い傷にはならなかったが、水中に一筋の朱が流れる。
「あ……」
それを見て、トビーは震えだす。自分が他人を傷つけたという事実は、衝撃だったのだろう。
「トビーさん、温厚なあなたをオーガがそそのしかしているんです」
エリーが言い含めるよう、ゆっくり喋る。
「元のあなたに戻ることを、マダム・マーレも、私たちも、ナピナピさんも望んでいます」
トビーの後方からは、オーガの声が近づいてくる。半透明のクラゲが、ゆらりゆらり、接近してくる。
「でも……でも」
ぐぉぉぉぉ。
クラゲが吠えた。
「違う!君を裏切ってなんかいない」
トビーは顔をあげ、クラゲに訴える。が、クラゲはもう一度、荒々しく咆哮する。
「逃げるよぉっ」
危険を察知し、ラダはトビーの背を押す。
クラゲオーガの触手が、ゆっくりと、だが確実な一撃として、さきほどまでトビーたちがいた場所に振り下ろされる。
クラゲオーガにとって、トビーは手駒として信用できなくなったということだ。
ナピナピまでもが一緒に攻撃されていたかもしれない、それに気付いて、トビーは冷静な思考を取り戻したようだ。
「安全な場所に隠れていてね」
祥がトビーに声をかけ、ヴァルギアがクラゲオーガにパンケーキピストルの照準を合わせる。
トリガーを引くも、放たれた弾丸は水の抵抗を受け数メートルで勢いを無くす。
遠距離攻撃ができないと察したヴァルギアは、接近してきた触手を払う役に徹することにした。
「さきほど見つけた、開けた場所に戻れれば……」
「この辺の昆布も傷つけたくないしな」
アンジェローゼとアモンが辺りを見回す。
だが、一面昆布、昆布、昆布で方向感覚が鈍る。
「その場所ならわかります。俺が案内します」
昆布の陰からトビーが言う。
トビーの案内に従って、時折クラゲオーガをヴァルギアの銃で威嚇、挑発しつつ、開けた場所まで誘導する。
攻撃力のわりにはゆったりした動きのクラゲオーガは、思惑通りウィンクルムたちを追う。
「動きは鈍いですがあの触手……下手をすれば一網打尽にされかねません」
エリーの懸念に、アンジェローゼが応える。
「散開しましょう」
ウィンクルムたちは、それぞれペアごとに距離をとる。
「まずは弱点を探すわ」
祥は、水剣「ブラッド・シー」を構えクラゲオーガに接近する。すぐ傍にいるヴァルギアが触手を払ってくれると信じているから怖くない。
ブラッド・シーは水中でも楽に振れるほど軽く、扱いやすい。祥にはクラゲオーガに致命傷を与えるほどの力はないが、この剣をもってすれば、弱点を探すことくらいは可能である。
エーは後方で、魔法の詠唱を始める。
アンジェローゼは即座に盾「ハートフル・ウォール」を構えエーの前に立つ。詠唱中のエーは、敵の標的になることも考えられる。彼を敵の攻撃から守るのだ。
エーはアンジェローゼに守られる自分をもどかしく思いながらも、詠唱を続ける。
お嬢様育ちで戦闘には向いていないアンジェローゼが、自分のために防具を構えてくれている……それを思えばアンジェローゼへの愛しさが胸から溢れ、それがエーの戦う力へと変わってゆく。
クラゲオーガは、接近してくる祥へ触手を振るうがヴァルギアの銃撃に怯む。
そこで標的を変え、リオやエリー、瑞希に向けて触手を振るう。
フェルンはプロテクションを発動し、自身と瑞希の身を護る。
アモンはリオを狙う触手を光斧で払いながら、触手さえなければすぐにでもグラビティブレイクで本体を攻撃してやるのに、と歯噛みした。
ラダはエリーを抱えるようにして触手攻撃を避けると、
「この触手をどうにかしたいよねぇ」
と、キラーシザーズを構えれば、その刃が徐々に赤く染まる。
ラダはクラゲオーガの触手をじっと見つめる。獲物を狙う獣のような眼で。
好機があれば、触手を断ち切ってやるつもりなのだ。
しかし、なかなかチャンスは巡ってこない。
毒を持つ長い2本の触手の他にも、脚のような触手が何本もあり、鞭のように襲ってくるのだ。
このクラゲオーガ、動きは鈍いが手数が多いのだ。
エーの魔法攻撃がクラゲオーガに当たる。その隙に、祥は剣を振るう。
動きまわる触手は無視し、海底を蹴って跳躍すると水を掻いて一気に近づき、本体へ一撃。
クラゲオーガが衝撃を受けたらしく身体を揺らす。
接近して初めて気が付いた。クラゲオーガの頭部に半透明の角が2本生えていることに。
祥は、クラゲオーガがエーの魔法攻撃とさきほどの一撃に慄いている間に、角の間、額らしき部分にもう一撃。
クラゲオーガは咆哮し、触手を大きく振り回す。
ヴァルギアはそれを銃撃で払うが、手数の多さに銃撃が間に合わず、祥を狙う触手を自らの身体で遮る。
毒を持つ触手ではなかったことが幸いだが、これ以上は危険と判断し、
「祥、一旦退こう」
と、ヴァルギアは祥を引き寄せ、クラゲオーガから離れる。
クラゲオーガの弱点は、今の様子を見ていた仲間にも伝わったであろう。
しかし、触手によって前衛攻撃タイプのアモンとラダが接近できないままでは、勝機が見いだせない。
ならば、と、フェルンはクラゲオーガに接近し、アプローチⅡを発動する。
クラゲオーガの触手攻撃は、一気にフェルンに向かう。
フェルンはそれを片手斧「リントヴルム」で斬りおとす。
一本触手を切れば、斧に彫られた竜の目が輝きを増す。
しかし、全ての触手に対応できるはずもない。
背後から突き立てられた触手に、フェルンの身体は自由を失う。
だが、一定時間の麻痺などフェルンにとって脅威ではない。
なぜなら。
クラゲオーガがフェルンしか見えなくなっている間に、アモンとラダがクラゲオーガに接近する。
ラダはウルフファングを発動し、邪魔な草木を刈るようにクラゲオーガの触手を断ち切ってゆく。
行く手を阻む触手が激減し、アモンは一気にクラゲオーガに詰め寄る。
エーの魔法攻撃がもう一度クラゲオーガに当たれば、その隙をついてアモンがグラビティブレイクで角の間に光斧「エンゲルアクスト」を叩き込む。インプロージョンによって威力を増していたアモンの攻撃は、そのままクラゲオーガの身体を両断した。
海中をゆらゆらと、切断されたクラゲオーガの触手、身体が海面に落ちてゆく。
勝利を確信し、アモンがふう、と息をつく。
「ミュラーさん!」
瑞希はフェルンに駆け寄った。
マダム・マーレから借りた薬を使うが、やはり、クラゲオーガの麻痺毒には効き目が薄いらしい。フェルンの身体は動く気配がない。
泣きそうな瑞希にフェルンはなんとか微笑む。瑞希を悲しませないようにと生じた微笑み。瑞希はこれ以上フェルンに心配かけまいと、必死に涙をこらえた。そして、彼の腕をぐいと引き寄せると、自分の肩にかける。
麻痺の効果が切れるまで、フェルンを背負って歩くつもりなのだ。海中とはいえ、それなりの重さはある。それでも、瑞希はフェルンを支えて歩く。だって自分は、フェルンのパートナー、相棒なのだから。
救出されたナピナピは、はにかんだような微笑みと共に、ウィンクルムたちに頭を下げる。
「確かに可愛らしいな」
リオが感心したようにナピナピを見つめる。
「でしょう。同性とは思えないくらいです」
トビーがそう零したため、リオを始めウィンクルム一同、ぽかんとする。
同性?
あんなに可愛らしくて可憐で思わず守ってあげたくなるようなナピナピが、男の子……!
「だ……だからと言って、あんな強引な方法は許されませんよ!」
エーはトビーにお説教を始める。
「トビーさん。ナピナピさんの意思を無視は良くないと思います」
エーのお説教に、瑞希が割って入る。
「普通にお茶に誘ってみたら?それだけでも嬉しいわよ」
さらに、アンジェローゼが微笑んでアドバイスする。
トビーは終始首を垂れて、ウィンクルムたちの言葉を聞いていたのだった。
海底都市に帰るころには、フェルンの麻痺も無事解けていた。
「ナピナピがいなくなれば、水龍宮への道が閉ざされるところでした。ありがとうございます」
マダム・マーレがウィンクルムたちにお礼の言葉を述べる。
「水龍宮?」
聞き返せば、水龍宮とは選ばれた者しか近づくことが出来ず、ナピナピに気に入られ、案内された者が中に入ることが出来る場所であると説明された。
「今回のことで、ナピナピはウィンクルムの皆様に好意を持ったことでしょう。いつか、水龍宮へ招待してもらえるかもしれませんよ」
と、マダム・マーレは微笑んだ。
一件落着、そう思えるが、オーガの脅威がなくなったわけではない。
海底都市を狙う黒幕、その存在を倒すまで、ウィンクルムたちは気を抜けないのである。
ちなみに、祥は持ち帰った昆布をおでんの具にして美味しく食べたそうだ。彼女の髪が美しくなるかどうか……効果が出るには、あともう少し、かかるようだ。
依頼結果:成功
MVP:
名前:瀬谷 瑞希 呼び名:ミズキ |
名前:フェルン・ミュラー 呼び名:フェルンさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 07月11日 |
出発日 | 07月19日 00:00 |
予定納品日 | 07月29日 |
参加者
会議室
-
2015/07/18-23:05
連投ごめんなさい。
ミュラーさんが驚きの低回避率なので、
プロテクションで防御は上げつつ、
アプローチⅡでクラゲ型オーガの気を引いて
敵の攻撃を引き受けます。
痺れて動けなくてもオーラが当たっていたら
クラゲはミュラーさんを狙うと思うので、
皆さんが狙われる率が下がるも、と思います。
-
2015/07/18-22:46
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはロイヤルナイトのミュラーさんです。
星川さんは初めまして。
エリーさんとリオさん、アンジェローゼさんは
またお世話になります。
会議室に顔出し出来なくてごめんなさい。
皆さんの相談の流れでプラン書きます。
-
2015/07/18-22:39
アモンは麻痺を気を付けつつ、攻撃を強化しておくかな・・・。
ギリギリになると思うが、どなたかまとめを頼む! -
2015/07/18-21:01
で、ですよね!?
そのまま銃装備でいきます。
バンバンしちゃうんだからねっ!←
アンジェローゼさん、アッシェンさん
ありがとうございます(ぺこり -
2015/07/18-19:05
PLのメタ発言
「ゲームだからきっと大丈夫さ!」
って言っておいて、リザルトで大丈夫じゃなかったらごめんなさい;;
でも、特定のジョブだけ有効な攻撃手段が完全になくなってしまうような事態はない、と思いますよー。
さすがに水中戦ルールにそこまでハードな縛りがあるのなら、イベントページかエピソードの解説でPLたちに特別ルールをわかりやすく説明してくれるはず!……だと思いますし。
うー……。信頼できる情報ソースのない私的憶測ばかりですけどね……。 -
2015/07/18-17:58
エリーさんプランありがとうございます
問題ないかと思います!私も散開して戦う、に賛成です
水中戦での水流やらの影響は、まだわからないですからね…
私も捜索時は昆布の傷や、戦闘時動きやすくできるように少しでも昆布が開けた場所を探したりしてみますね
昆布に触手が紛れたりしていると厄介そうですし…
水中ということを加味し自分達の行動が通常より遅くなるという前提で、相手との距離を意識していきたいと思います
戦闘は基本的に後衛で私は詠唱するエーの防衛に努めます
後はトビー説得メインで…恋心を利用されてる、そんな事したらナピナピに嫌われてしまう、と少しでも元の彼に戻ってくれるようエーと頑張ってみますね
水中戦というのは私初めてでどの程度行動に影響が出るのかわからないのですが…銃なら何とか使えそうなイメージはありますね…
曖昧ですみませんっ…!
-
2015/07/18-17:42
アッシェンさんの意見に賛成します!
私も触手でいっぺんにやられないようにある程度距離をおいた方がいいのかなと思いました。
それから、私もヴァルくんも遠距離武器なんですが・・・
水中で銃や弓は使えるんでしょうか・・・
無理な気がしてきた(汗 -
2015/07/18-06:23
今日の深夜に出発ですね。
私たちはこんな感じで動く予定ですが、会議掲示板で言ってくれればまだ変更可能です。
海流云々は現場の状況次第では無意味になる可能性があるので、散開することで触手の被害を最低限にしたいと考えています。
瀬谷 瑞希さんの意見も聞きたいので、なるべく出発前にプランの調整ができるようにするつもりです。
エリー
・道中で。トビーが通った痕跡である切断された昆布がないか注意して進む。魔法陣を見つけたら、場所を覚えておく
・トランス。敵の気配を感じたらトランス
・トビー説得。ナピナピへの思いをオーガに利用されているのではないか、と伝える
・対オーガ。基本的に防衛。触手で一網打尽にされないよう、仲間とは密集せず距離をとりたい
ラダ
・道中で。水棲生物の住処を荒らさないようにして進む
・対オーガ。ジョブスキルと武器で、触手の切断を試みる
・対トビー。話を聞いてくれずこちらを攻撃してくる場合のみ、ケガをさせないよう素手で抑えこむ -
2015/07/17-21:55
>属性
一応私は土属性ですが、やはり精霊の皆さんに比べると圧倒的に攻撃力が低いです。ハイトランスもないですし。
>トビー
この依頼をハッピーエンドにするには、トビーへの対応も重要そうですよね。
アンジェローゼさん、説得プランありがとうございます。
>クラゲオーガ
一定時間とはいえ、マヒで動けなくなるのが怖いですね。
現場で海流を調べて流れの上の方に陣取れば、敵が触手を伸ばしにくくなるでしょうか?
ただ、流れ自体がない可能性もありますし、クラゲオーガだから海流とか物ともせずに触手を伸ばしてくることも考えられますが。 -
2015/07/17-08:41
特記事項もないのでバトルコーデかな?と私も思います。
…確かに動きにくそうですね…
ほぼ初期装備しか持ってないのでこのまま行きますが…
トビー
襲ってきたら、気絶させるなり何なりして身を守る必要がありますね。
クラゲオーガと共闘とかされたら厄介そうですし
属性
風<火<水<土<風
…という感じみたいですよ。水に強いのは土、でしょうか。
私は風で、エーは水ですね。
エンドウィザードなので、防御が紙ですが…… -
2015/07/17-06:56
>服装
私もバトルコーデなんだと思ってました!
レベルが低いので、バトルコーデの防御力は欲しいですが、何も書かない方がいいのかなあ・・・(悩
>戦闘、説得
私もクラゲオーガを先に倒してトビーさんの説得、という流れに賛成です!
話が通じるなら暴力は避けたいところです
でも襲ってきたら身は護らないといけないですね
>属性
そういえば、属性ってありましたね
忘れてました(汗
私が火で、ヴァルくんは風のようです
水属性に強いのは何属性になるんですか?
分からないことだらけでスミマセン(汗 -
2015/07/16-23:47
>服装
私の解釈になりますが装備は、呼吸をするためのチョーカー+バトルコーデだと思っていました。
たしかに地上の服装では水中で動きづらそうですね。
とりあえず、水着などに着替えられるなどとは書かれていないので、私のペアは普段通りバトルコーデで参戦する予定です。 -
2015/07/16-22:08
みんな久しぶり、祥達は初めまして。
リオ・クラインとハードブレイカーのアモンだ。
アモンも火属性だな・・・。
ふと思ったが、水中での私達の服装はいつも通りなのか?
あまり、ひらっとした格好は動きにくいと思うのだが。 -
2015/07/16-22:07
調べてくださりありがとうございます!
トビーには言葉が通じるなら、なおさら説得して戦闘は回避したいですね…
元々温厚ということですし話も聞いてくれると…いいのですが。
クラゲオーガに騙されて影響されているなら、オーガの方を先に倒したりしたほうがいいのでしょうか。
私も、もし戦闘になったとしてもトビー説得してみようと思います
-
2015/07/16-20:15
>トビーへの対応
7月イベントの海中の仲間達の項目で魚人族についての説明を見てきました
・魚人族には人語が通じる
・トビーは元々温厚な青年
ということなら、倒すというより説得で対処可能な気がします。
ただ、クラゲオーガに騙されてトビーがこちらの話を聞いてくれないなどの状況だと、殺したり大怪我をさせないようにしながら、トビーとも戦う必要も出てくるかもしれないですね……。
できるだけ説得で解決できれば良いのですが……。 -
2015/07/16-07:01
アンジェローゼとエンドウィザードのエーです。
初めましての方も、お久しぶりの方もよろしくお願いいたします。
私もエーも、まだまだ戦闘には不慣れではありますが、がんばりますね!
依頼の流はには、昆布の森に行ってクラゲオーガを倒してナピナピを探し助ける…という感じでいいのかな…。
トビーは、ナピナピに心奪われて攫ったとありますし、上手く説得などできれば倒したりする必要はない、でしょうか? -
2015/07/16-06:07
うふふ……、エリー・アッシェンです。
パートナーのラダさんは火属性のシンクロサモナーで、水属性っぽいオーガは少々苦手な相手ですが、頑張ろうと思います!
ラダさんは近接アタッカーで回避力が低いので、触手のマヒも怖いですね……、うふぅ……。
そういった弱点をカバーするような戦闘プランにしたいところです。
トビーがナピナピをさらった理由は、プロローグに書いてある通り「可憐さに心を奪われた」から。特に深読みすべき情報とかはない……ですよね? -
2015/07/16-02:46
星川祥と、こちらはプレストガンナーのヴァルくんです。
頑張りますのでよろしくお願いします!