プロローグ
平和だった海底世界が、突如オーガの危機にさらされた。海底世界の都市『アモルスィー』の統治者『マダム・マーレ』は、A.R.O.A.に助けを求めた。オーガに対抗する力を持つのは、ウィンクルムしかいない。
そのウィンクルムが海中で活動するには、魔法のアイテムである『スピリット・チョーカー』が必要だ。ウィンクルムが海底世界で敵と戦っていくには、この『スピリット・チョーカー』がたくさん必要になってくる。
今回の任務は、チョーカーの材料となる希少な貝を手に入れることだ。サザナミ岩礁という場所を探せば、貝が採取できる。
オーガたちもそのことは承知しており、敵の妨害が考えられる。
偵察に向かった魚人兵士の報告によれば、毒液を海中に撒き散らしてくる巨大なアメフラシ型の水棲オーガが一体、サザナミ岩礁に出没しているとのことだ。触覚の代わりにオーガ特有の角が生えている。
アメフラシオーガの大きさは小舟やボートほど。動きは鈍いものの、無差別かつ広範囲に撒き散らされる毒液は厄介である。
オーガは貝を集めて体の下に隠して、ウィンクルムや海底世界の住人に貝を奪われないようにしている。上手く倒すことができれば、一度に大量の貝が確実に手に入る。しかし、倒すとなると難しい。
戦闘に自信がない場合、オーガを避けて密かにサザナミ岩礁で貝を探す、というのも選択肢の一つだ。これなら比較的簡単に達成できそうだ。ただし、どれだけ貝を見つけられるかは、運任せの要素が強くなってくる。
今回は海底世界での冒険となる。
依頼を請けてくれたウィンクルムには『スピリット・チョーカー』が一時的に貸し出される。チョーカーをつけている間は、水の中を徒歩で移動することができる。逆にいえば、水中を普通に泳ぐにはチョーカーを外さなくてはならず呼吸も続かないので注意が必要だ。
解説
A.R.O.A.がまとめた資料。
ウィンクルムは、これらの情報を自由に閲覧可能。
・アメフラシオーガ
体の下に大量の貝を隠している。倒すと貝がいっぱい手に入るが、戦闘に不安があれば遭遇を避けて岩場でこっそり貝を集めるのも一つの手。
敵を発見すると、毒液を広範囲に散布する。毒の影響は、数日かけてゆっくりと消滅していく。
戦闘ラウンドの開始に、防御力無視ダメージ1×3回を必中で与えた後、抵抗力判定に失敗した者に弱体化効果のある毒を付与する。弱体中は攻撃威力が著しく低下する。抵抗判定は、ラウンドごとに改めておこなわれる。
高い抵抗力で毒を無効にするか、ライフビショップのキュア・テラでの解毒が有効。
・道具の貸出について
海中で活動するためのアイテム『スピリット・チョーカー』が全員に一つずつ、必ず貸し出される。
貝を採取する時に使う袋やカゴなどは用意可能。
防護服や潜水服、毒の特効薬などは用意できない。
・目的
『スピリット・チョーカー』の材料となる貝をなるべく多く入手する。
ゲームマスターより
山内ヤトです!
猛毒の体液を吐く、巨大なアメフラシオーガが出てきます。
倒すか戦闘を回避するかは、集まったメンバーで相談してくださいね。
あと、現実にいるアメフラシの体液は毒じゃありません。むしろ薬効があるとかないとか……。
【海魔】エピソードに登場する水棲生物オーガは個体差の幅が大きく、同じ生物モチーフの水棲オーガであってもGMやエピソードが違えば、特殊能力やステータス値が異なる場合があります。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
火鋏と籠を申請 材料集めは勿論だけれど 毒をまき散らされたら海底世界の皆さんもたいへんだもの がんばらなくちゃ 注意深く敵を探す 敵に先に見つからないよう気を付けて 見つけたら仲間とタイミングを揃えてトランス ディエゴさんの狙撃 レムレースさんのアプローチの後 貝とアメフラシの間に割り込むように斬りこむ(無理なら背後や側面に回りこむような感じ) 貝との間に入れたら背後に守る感じで位置取る 仲間と連携して攻撃 シリウスのMPが10を切ったらディスペンサ使用 もう少しね がんばろう 声をかけて僅かに笑う 敵を倒したら貝の回収 仲間と役割分担しながらせっせと働く 初めて見る海底世界に興味深々 綺麗な魚や差し込む光に目を輝かせ |
かのん(天藍)
スピリット・チョーカー着用 貸与申請(2人分):回収した貝用の袋と岩場の隙間の貝採取用の火鋏 出発前に貝の外観の特徴、普段いる場所、乱獲防止に採取できる貝の大きさ確認 戦闘 アメフラシに気付かれないよう岩場の影でトランス 宝玉の力場を展開 天藍の死角にまわり、アメフラシの直接的な攻撃は宝玉で防御、隙を見て攻撃 天藍のMPが切れた所でディスペンサを行う この際、負傷している場合は天藍の持つ羅針盤と重ねてHPも回復する 貝回収 ジェンマはベルトに紐で結び、宝玉はポケットにしまう 貝を入れる袋と火鋏を持ち、アメフラシの下にあった貝を回収 この他に事前に確認した情報から周辺で貝を探す 岩の隙間等で見つけたら火鋏差し入れ取り出す |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【道具】 袋状の網 先の丸いスコップ 開幕トランス 岩礁到着後は先制を狙う為 常に周囲や物音に気を付けて進む アメフラシを遠目に発見したら仲間に手で合図し 精霊とともに狙撃の準備に移る。 観測手を務めます、着弾計算が必要そうなら都度精霊に報告 (射撃毎にポイントを変えるので) 戦闘ではジェンマによる攻撃力の底上げと、ディスペンサでのMP受け渡しの支援が主。 もし私が毒状態になったら、すぐに月光の龍写鏡を構え アメフラシに状態異常の反射を試みます。 まさか自分の毒に耐性が無いっていうのは可能性が低いかもしれませんが…。 貝の採集は網に入れ、陸上に上がったら普通の水で一度洗いたいですね。 毒液が付着してるかもですし。 |
出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
随分過激な潮干狩りになりそうね これからも貝を採りに行くことがあるでしょうからオーガは倒しておきましょう 道具申請 回収用の袋 熊手 岩陰に隠しておく 皆の採取道具もまとめて置いたらいいと思うの 海に入ったら、敵に見つかる前に隠れてトランスしておく あとはレムの後ろについてジェンマで攻撃力補強 マグナライトで照らして光源確保 敵が闇属性なら輝白砂を使用しスタンを狙う MPが切れたらディスペンサを使用 戦闘で貝が壊れないように注意して見ておく 敵が『貝を奪われないように』という方向に意識を傾けないようにしっかり気をそらさせなきゃね 戦闘後、貝集め 熊手でかき集めるから皆で採っていって 貝が壊れないよう丁寧に、そーっと集めるわよ |
●危険な潮干狩り
スピリット・チョーカーの材料となる希少な貝を集める。それが今回のウィンクルムたちに与えられた任務だ。
しかし厄介なことに、貝が採取できるサザナミ岩礁にはアメフラシ型オーガが出没して、大量の貝を体の下に隠して守っている。敵の気配を感じると毒の体液を吐き散らすので、始末が悪い。
依頼を請けたウィンクルムたちは貝を集めるにあたって、二つの選択肢に迫られる。
一つは、アメフラシオーガに挑み、隠している大量の貝を奪い返すという作戦。これは実現が難しいが、その分敵を倒せた際の見返りは期待できる。
もう一つは、アメフラシオーガとの交戦を避けて、サザナミ岩礁でこっそりと貝を探す作戦だ。敵と戦わずに済むので簡単にこなせるが、充分な量の貝が手に入るかは運任せになってしまう。
回復や解毒のできるジョブの精霊は参加しておらず、集まったウィンクルムは四組。依頼に参加できる最大人数よりも一組分戦力が足りない状態だ。
依頼に参加したウィンクルムたちは、決断した。
困難な道のりが予想されるが、オーガを倒して大量の貝を手に入れる狙いでいく。それだけの強い自信と、集まった仲間への深い信頼感があったということだろう。
この決断がどんな結果をもたらすのか……。今はまだわからない。
「随分過激な潮干狩りになりそうね」
『出石 香奈』は借りた熊手をクルクルともてあそびながら、不敵に笑った。
「これからも貝を採りに行くことがあるでしょうからオーガは倒しておきましょう」
「後顧の憂いは絶っておきたいからな。まずはオーガを倒し安全を確保してから貝を採る」
パートナーの『レムレース・エーヴィヒカイト』も彼女の意見に同意し、落ち着いた所作で頷いた。
「材料集めは勿論だけれど毒をまき散らされたら海底世界の皆さんもたいへんだもの」
オーガの毒が海の生き物に及ぼす悪影響のことを考えて『リチェルカーレ』はその優しげな顔を悲しみで曇らせた。
「だから、がんばらなくちゃ」
『シリウス』の顔を少し覗き込む姿勢で、リチェルカーレは彼に微笑みかけた。
貸し出された袋状の網と先の丸いスコップを確認していた『ハロルド』は、パートナーの精霊が妙な道具を持っていることに気づいた。
「……その瓶は?」
『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は小さな空き瓶を用意していた。貝の採取には使えなさそうな道具だが、彼には別の思惑があった。
海底世界の人々に『かのん』は貝の外観の特徴、普段いる場所を質問しておいた。また、乱獲防止に採取できる貝の大きさも確認しておく。
彼女のそんな仕事熱心さと細やかなところにまで気づく聡明さを『天藍』は尊ぶような眼差しで見つめていた。
●サザナミ岩礁にて
四組のウィンクルムは海亀の背に乗って、サザナミ岩礁へと向かう。ウィンクルムたちを岩場におろすと、海亀は安全な場所へと泳ぎ去っていく。
水中でも呼吸ができるのは不思議な感覚だったが、ウィンクルムたちはじょじょに慣れていった。
香奈は周囲を見渡し、貝を拾う道具を岩陰に隠すことにした。戦いの時には邪魔になるし、壊れてしまうかもしれない。仲間たちが使う道具も、同じ場所に集めておいた。
すでにここはオーガの目撃情報のあるサザナミ岩礁だ。敵に発見される前に、三組のウィンクルムたちは隠れ場所で迅速にトランス状態へと移行する。
「やってやろうじゃない」
「Youre My Best Friend」
「共に最善を尽くしましょう」
海の中でのウィンクルムのトランスは、幻想的で美しい光景だった。
リチェルカーレとシリウスのペアも、仲間とタイミングを揃えてトランスをする意思はあった。が、それと同時に彼女は敵を見つけてからトランスをしたいと考えていた。
折衷案として、仲間がトランスしている間の周辺警戒も兼ねて、リチェルカーレとシリウスは敵の居場所を見つけることを優先して行動した。
シリウスは周りの様子に気を配りつつ、海底や岩陰などを探す。
「見つけた……!」
最初は、岩とそれに生える海藻かと思ったが、そうではなかった。
小舟ほどの大きさのアメフラシ。触覚部分には真っ直ぐな角が生えている。間違いない。オーガだ。
リチェルカーレの元に戻ったシリウスは、すぐにトランス状態へ移行する。
「この手に宿るは護りの力」
シリウスは仲間たちにアメフラシオーガの居場所を伝えた。
隠れ場所にいた三組のウィンクルムたちは、そちらの方へ静かに素早く移動する。
香奈は片手に「ジェンマ」をもう片方の手に「マグナライト」を握った。ポケットの中には、時の砂とアヒル特務隊もスタンバイしている。
ロイヤルナイトのレムレースは、敵を引きつけるという危険な役目を務めることになる。だが、精悍な彼の顔に怯えや恐れはない。
プレストガンナーの最大の長所である遠距離攻撃を活かした先制攻撃を計画していたディエゴは、銃身を安定させるために地形の確認をおこなっていた。
ハロルドは観測手としてディエゴをサポートすることになっている。手にしている「ジェンマ」も、精霊に大きな力を与えてくれることだろう。
かのんの持つ「ジェンマ」と宝玉「魔守のオーブ」は、帯びた魔力でほのかに光っていた。もちろん、敵に察知されてしまうような激しい光ではないので心配はいらない。
天藍は仲間との事前の打ち合わせの動きを頭の中でシミュレートしていた。
●長い長い戦いの幕開け
静まり返っていたサザナミ岩礁で、突如として戦いの火蓋が切られた。ディエゴのライフル「アルマスクロペトゥム」による、ロングレンジでの二連発の狙撃。
並みの敵なら、この不意打ちだけで絶命していたことだろう。だが巨大なアメフラシはぶよっと激しくたわんだものの、まだ生きている。体をうごめかし毒液を吐いた。周辺の海水は、みるまに毒性のある体液で汚染されていく。
「うっ」
全員の皮膚にピリッとした微弱な痛みが走った。そのうちレムレース、リチェルカーレ、シリウスの三名は毒の作用で腕力が大幅に減退したことを自覚した。
しかしレムレースはひるまずアプローチⅡを使う。……アメフラシに前後があるのかはよく分からないが多分角がある方が前だろう、と大まかなあたりをつけて。
「俺が相手になろう」
気合のオーラが放たれる。遠距離攻撃をするディエゴの位置を意識し、狙撃手に背中を向けさせるように誘導する。さらに、武器のおぼろ月で二度の斬撃を加える。ぬるりとしたつかみどころのない手応えで、攻撃が効いているのかはわからない。
オーガがレムレースに引きつけられて動いたところで、テンペストダンサーの天藍が素早く華麗な動きで間に割り込んできた。オスティナートⅡによる強力な攻撃を浴びせる。
側面に回りこんだリチェルカーレも攻撃に参加。錫杖「銀音」を振りかぶって叩きつけたものの力不足で、弾力のある粘膜に威力の全てを吸収されてしまった。
「リチェ。張り切りすぎて怪我をしないようにしろ」
シリウスが駆けつける。ユニゾンで敵の攻撃に備えつつ、双剣「伏龍・昇龍」を構えアルペジオⅡで敵を死角から斬り裂く。
直接攻撃をせずに待機していた香奈、ハロルド、かのんには、敵の動きを観察する余裕があった。
アメフラシオーガはまだ生きている。
……それなのに、攻撃らしき行動はとらなかった。粘液と毒液を分泌しながら、アプローチⅡを使ったレムレースの方へとゆっくり這いずるだけだ。
「……なんなの。やる気がないの?」
マグナライトで周辺を照らしながら、香奈は不可解そうに片眉を上げた。
「何を考えてるのかわかりませんね」
動物の生態にはある程度の知識があるハロルドだったが、アメフラシの脳内はさすがに読めない。
「とりあえず、何かあればいつでも「魔守のオーブ」を使えるように、警戒だけはしておきますが……」
かのんも腑に落ちないまま、不気味な無抵抗を貫くアメフラシオーガの動向を見るしかなかった。
アメフラシオーガは、紫色に染まった毒のヴェールの中で、静かに不気味に揺れていた。
第二ラウンド開始。戦いはまだ続く……。
●難攻不落
毒液に汚染された海の中、戦いで疲弊した精霊の元に神人がやってくる。神人がディスペンサを使い、この戦いを続行する力をパートナーの精霊に引き渡すために。
「もう少しね。がんばろう」
声をかけて僅かに笑うつもりだったのに。
リチェルカーレは、今にも泣き出しそうな作り笑いしかできなかった。
「そっちこそ」
薄い笑みで返事をするシリウスの顔色は悪かった。直接的な攻撃はされていないが、海中に撒き散らされた毒はウィンクルム全員を蝕んでいった。
戦いがはじまってすぐにシリウスはユニゾンを使ったが、敵から直接攻撃を受けていないため、カウンターは発動しそうにない。海中に撒き散らされた毒素はユニゾンの効果の対象外だ。
「もう少し。もう少しで、きっと……」
悲痛な声。ディスペンサの口づけと共に、リチェルカーレはシリウスに希望を託した。
かのんが天藍の額へキスをする。力が流れて受け渡される。
少しふらつきながら、彼女は天藍に確認する。
「羅針盤はどうします?」
かのんと天藍が装備している「運命の羅針盤」と「宿命の羅針盤」は、一日に一回だけ体力を絆の深さに応じて回復することができる。体力が減っていれば使う予定だった。
二人共毒で微量のダメージを受けていたが、この程度で羅針盤の力を使うのはもったいない気がする。
「敵の動きがまだ読めない。ひとまず温存だ」
今のところ、毒以外には一切攻撃を受けていない。
ロイヤルナイトのレムレースのジョブスキルは効果の継続時間が長く、まだ補充する必要はない。
香奈は、未だに攻撃らしい攻撃をしてこないオーガを睨みつけ、ギリッと唇を噛んだ。
ハロルドは普段より一層無口になり、押し黙っていた。
「ジェンマ」で精霊の攻撃力を底上げし、ディスペンサでMPを引き渡して支援をする。そういう作戦を思い描いてきた。
だが、実際に彼女がこの現場にセットしてきた神人スキルはハイトランス・ジェミニ。
ディエゴはハロルドを責めなかった。戦いが非常に危うい状況になっており、今は仲間割れをしている時間さえ惜しい。
ディエゴはなけなしの気力で、ダブルシューターⅡを敵に撃ち込んだ。それがこの戦闘で彼に使用できるラストのジョブスキルだった。
「もしや、守備にだけ異様に特化したオーガなのか……?」
レムレースはスカルナイト・シールドを構えて誘導を続けながら、オーガの動きからそう分析する。
毒液を辺り一帯に散布した後は、ひたすら防御する。それがこのオーガの戦法だ。変則的な戦い方だが、特定の地点で防衛戦をするにはとても適している。
毒の性質により、どれほど強いウィンクルムでも時間経過でダメージが確実に蓄積されていく。その間にオーガはウィンクルムの攻撃に耐え切れば良い。
また特定の条件を満たさない限り、このオーガは直接攻撃をしてくることはないようだ。
ディスペンサで神人からMPを渡された天藍とシリウスが、ジョブスキルを駆使して猛攻をしかける。
天藍はウンディーネ&オンディーヌを巧みに操り、オスティナートⅡで舞うように攻撃。
シリウスは双剣「伏龍・昇龍」を凛々しく構え、アルペジオⅡで斬りつける。
「天藍! 倒してください!」
「お願い、シリウス!」
熱い声援は悲壮な祈りにも似ている。神人たちは拳をきつく握りしめていた。
二人のテンペストダンサーが踊り終えた後。
ぶよぶよとした醜いオーガは相変わらず健在で、海水に毒液を吐き散らかしていた。
「どこまでしぶといのよ!」
なかなか倒れる様子を見せない敵に、香奈は苛立ちと不安を感じた。そんな敵を引きつけているレムレースのことも心配だ。
「……せめて、精確な着弾計算を……」
射撃毎にポイントを変えるディエゴを補佐するため、ハロルドは今の自分にできることをするしかなかった。状態異常を反射できる月光の龍写鏡の用意もしていたが、高い抵抗力を持つハロルドは毒による弱体化にはかからずにいた。
ここにきてウィンクルムたちは、ディスペンサという奥の手まで使い切ってしまった。
精霊たちには、もう威力の高いジョブスキルを使う力は残っていない。
あとは通常攻撃でどれだけオーガにダメージを与えられるかの勝負だ。ただし、ウィンクルムたちも十五秒ごとに毒で確実に体力を奪われていく。
観察した結果、わかったことがある。アメフラシオーガにはトロールのような驚異的な再生能力はない。これはウィンクルムたちにとって朗報だった。
だが、血反吐を吐くような泥仕合はまだまだ続きそうだ。
ディエゴはこまめに位置を変えながら、ライフルの弾を黙々と撃ち込んだ。
レムレースの誘導は上手くいっている。……アメフラシオーガの動作は鈍いものの、他の精霊からの攻撃を一切無視してひたすらレムレースを付け狙う様子は、何か不穏なものを感じさせた。
MPが枯渇したものの、天藍はパッシブスキルのアナリーゼの効果で通常攻撃の手数を増やし、連続でお見舞いすることができた。
シリウスは仲間と連携し、体力の続く限り果敢に双剣を振るった。
精霊たちの猛攻を受けても、アメフラシオーガはうめき声もあげなければ苦痛の表現らしきものも見せない。
周囲の海水を染めている紫の液は、毒液なのか流血なのかも判別がつかない。
武器で斬りつけた手応えもぬるりとして、ただ防護粘膜をかすめただけなのか、ちゃんと肉まで裂いたのかも不確かだ。
先の見えない長引く戦いに、ウィンクルムたちの間には無力感と絶望感が漂いはじめた。
本当に自分たちだけでこのオーガを倒せるのか?
誰も口にはしないものの……敗北、撤退、失敗……といった単語が脳裏によぎる。
四組のウィンクルムは、アメフラシオーガ討伐への意気込みや作戦を練ってきた。だが敵を倒し切れなかった場合を想定した策は、誰も考えてはこなかった。
レムレースがアプローチⅡを使用した時から、オーガは彼だけに注意を向けた。緩慢な動きでじりじりと接近してくる。
挑発行動に成功するかアプローチ系スキルを発動した時のみ、アメフラシオーガはターゲットを定めて攻撃行動をとる。攻撃手段は、体当たりでも角による刺突でもない。その伸び縮みする大きな体で相手の逃げ場を封鎖し、全体重でのしかかってくるのだ。命中精度はかなり低いが、仮にのしかかり攻撃を喰らったら深刻な被害を受けるだろう。
レムレースが気づいた時には、アメフラシの肉の壁で包囲されていた。
「……しまった!」
鳴き声も表情もないアメフラシだが、レムレースを追い詰めたことに対して、その全身をうごめかせ邪悪な歓喜を表しているかのようだった。
「レムッ」
パートナーの窮地に、香奈はある賭けに出る。「マグナライト」を足元に落とし、代わりにポケットから時の砂「輝白砂」を取り出した。一日に一度、一定確率で闇属性の敵を短時間スタンさせることのできるアイテムだ。アメフラシオーガが闇属性かはわからない。香奈は祈るような気持ちで、「輝白砂」を使った。
レムレースを押し潰そうとしていたオーガの動きが、一時的に停止する。
「香奈! ……礼を言う」
そしてその次にディエゴが放った弾丸で、アメフラシオーガは永遠に動きを止めることになった。
ウィンクルムたちを散々苦しめた紫の体液を吐きながら、その体は小さくしぼんでいき、岩場の底にヘドロのようにへばりついた。
長試合になったが、ウィンクルムたちは強敵に勝利した。
解毒手段もなく、四組という人数で。これは快挙といって良い。
レムレース。シリウス。ディエゴ。天藍。四人の精霊は、勝利の高揚感と達成感を噛み締めた。
●貝集めと結果報告
ウィンクルムたちは毒液で汚染されてない場所まで移動して、そこで短い休憩をした。かのんと天藍は、温存していた羅針盤を重ね合わせ体力を回復する。
皆、疲れた表情をしていたが、それと同時に長い戦いを終えた開放感も得ていた。
しばらくして休憩を切り上げる。岩場に隠しておいた採集道具を持ち出し、魔法のチョーカーの材料になる貝を集めにとりかかった。
「熊手でかき集めるから皆で採っていって」
香奈はアメフラシオーガが体の下に大量に隠していた貝を集めた。貝を壊さぬよう、熊手は丁寧に扱う。
レムレースも貝を集める作業を手伝っている。
「香奈。休んでいなくて良いのか?」
戦いは終わったが、毒液で受けた負担はまだ体に残っている。
「ありがと。でも大丈夫よ」
気遣うレムレースの言葉に、香奈は涼し気で美しい笑顔で応えた。
シリウスは貝を集めながら周囲を警戒している。
彼のそばでリチェルカーレは火鋏と籠を使ってせっせと働いていたが、ふとその手を休めた。
はじめて見る海底世界の光景に目を奪われたのだ。差し込む光がきれいだった。
「でも、生き物たちが……」
周囲に生き物の姿は見当たらない。オーガの毒液が撒かれたので、魚たちは安全圏まで避難したようだ。
「リチェ。大丈夫だ」
慰めるように、シリウスが優しくリチェルカーレの肩に手を置く。オーガは倒した。いずれ毒液の影響が薄まれば、海の生き物も戻ってくるだろう。
「集めた貝は、汚染されてない普通の水で一度洗いたいですね。毒液が付着してるかもですし」
先の丸いスコップを器用に動かしながら、ハロルドは貝を網に入れる。網に入れておけば、後で洗いやすい。
ディエゴは貝の採集を手伝いながら、小瓶を手にアメフラシオーガの死骸に近づいた。毒液を採取するのが彼の目的だ。
「A.R.O.A.に渡せばオーガの研究に役立つかもしれないし、後にアメフラシと対峙するウィンクルムへの助けにもなる……かもな」
「ジェンマ」をベルトに紐で結び、宝玉はポケットにしまい、かのんは戦闘装備から採集道具へと持ち替える。
アメフラシの体の下にあった貝は、香奈が熊手で集めてくれていたので効率良く楽に回収することができた。
「体下にあった貝は、もう取り残しはなさそうですね。近くの岩場も探してみましょうか」
かのんと天藍は袋と火鋏を手に、岩の隙間などに貝が落ちていないか探すことにした。
「かのん。そっちは頼んだ」
探しやすい場所はかのんに任せて、天藍は歩きにくいところにある貝を探す。
貝の採取を終えたウィンクルムは、海底都市アモルスィーに報告に向かった。
魚人の兵士が丁重に出迎える。
「任務おつかれさまです! ギョギョ!? スピリット・チョーカーの材料がこんなにたくさん!?」
ウィンクルムたちは、魚人兵士がビックリするほど大量の貝を手に入れた。だが、魚人はさらに驚くことになる。
「あのアメフラシは動きが鈍いのが救いですよね。アイツを上手くやり過ごして、これだけの貝を集めたんですか?」
オーガは討伐したとウィンクルムたちが報告すると、近くにいた魚人兵士一同にざわめきが走った。
「皆さんがあのアメフラシを倒したって本当ですか!?」
「おおー、マジパネぇっす! 解毒手段もなしで、キツかったっしょー」
「そもそも我々からすれば、アレと戦えたこと自体がすごいです。並の兵士の体力では、毒液の中に一分も滞在するとそれだけで危ういレベルですからね」
「よくあの化け物に勝てましたね……。四組で出発したと聞いた時は、てっきり戦いを避ける方針なのだと思いました」
「あのー、良かったらサインください!」
四組のウィンクルムを称える、賑やかな声が海底都市にこだまする。
ウィンクルムは大量の貝を確保し、非常に厄介な強敵の討伐も達成した。その功績は海底世界の住民に大きな喜びをもたらした。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 07月10日 |
出発日 | 07月17日 00:00 |
予定納品日 | 07月27日 |
参加者
会議室
-
2015/07/16-23:33
-
2015/07/16-23:18
-
2015/07/16-20:29
こんばんは
貝採取の道具については、皆さん各自で用意されるのですね
確かに色々な道具があった方が、あちこちから回収できそうです
では、こちらも私達が使う袋と火鋏の用意するようにしたいと思います
出発までなるべく確認に来ますので、何かあったらお知らせください、よろしくお願いします -
2015/07/16-20:00
天藍さんと発言のタイミングが被ってる…失礼しました。
上げていただいた流れで了解です。合わせてプランを書きたいと思います。
役割分担…ええと、じゃあ火鋏と籠を申請しようかしら…。こっちの方がいい、というものがあれば教えてください。
毒付与以外の攻撃、なんでしょうね。私も体当たりとかかと思います。あとは何かしら…噛みつくとか…?(首傾げ)) -
2015/07/16-17:01
連投ごめんなさい。
道具について、貝の採取は全員で同じ道具を使って同じことをするより役割分担
(今出ている案だと、スコップ係、火鋏係、熊手係等)
して作業した方が効率がいいかなと思ったの。
なのであたし達は自分用の袋と熊手を担当ということで道具を申請しておく予定よ。
これ以降会議室での発言は難しいんだけど、書き込みは見られるから
プランは出来上がったし、残り時間で調整をしていくつもり。
なので何かあったら遠慮なく言ってね。 -
2015/07/16-09:06
流れは[14]の天藍のものでいいと思うわ。
それからあたし達もまだ文字数に余裕があるから、道具は個別申請でも大丈夫なのだけれど…
他に何か必要なものってあるかしら。熊手とか?
岩場だとちょっと使い勝手が悪いかもしれないけど、一気にかき集められるし。 -
2015/07/16-07:54
道具の貸出は有難いんだが…
今回プランがコンパクトになりすぎてしまって、文字数が勿体ないことになっている
できればこちらは個別で申請したいと思う、すまんな。
こちらは網と、潮干狩りに使うような先の丸いスコップを申請しようかと思っている。
-
2015/07/15-22:33
あ、リチェルカーレさんと天藍発言のタイミングかぶってしまいましたね
戦闘中に踏み潰してしまう可能性もありそうですし、貝とアメフラシの間に割り込む案賛成です
天藍がアメフラシの攻撃に脱線して、1つ確認したいことを忘れていました
アメフラシ討伐後の貝回収なのですが、今の所、貝を入れる袋と火鋏(岩の隙間にはまっているのがあったら取るのに便利かなと)は、貸出をお願いしようかと思っていますが、人数分頼んでおいた方が良いでしょうか?
それとも各自で回収用の道具貸与申請します?
([15]を削除し再投稿しています) -
2015/07/15-22:14
今の所出ている話だと
アメフラシから見つからない場所でトランス
↓
ディエゴの狙撃
↓
レムレースのアプローチ、引きつけ
↓
シリウスと俺がアメフラシへ攻撃
↓
アメフラシ討伐
↓
アメフラシが隠していた貝の回収
(余力があれば周囲の探索?)
戦闘のはじめ以降はかなりざっくりだが、こんな感じになるか?
こちらのかのんも、必要があれば宝玉の力場でガードしつつ、ディスペンサでMPの補給とジェンマで攻撃力の底上げを考えてる
俺はアナリーゼで手数増やしつつ、オスティナートⅡを当てていくことになると思う
で、ふと思ったんだが(かなり脱線気味な気もするんだが)、アメフラシ、初手の毒液散布以外の攻撃は何があるんだろうかと
・触覚での打撃
・体の大きさ生かしたのしかかり
位しか思いつかなかったんだが、皆はどう思っているのかとふと思った
まぁ、だからといって対応が何か変わる訳でもないので、聞き流してくれて構わないんだが(苦笑) -
2015/07/15-22:14
ディエゴさん、狙撃の件よろしくお願いします。
シリウスはアプローチⅡとユニゾンで近接攻撃、私もスズメの涙かもですが攻撃に参加するつもりです。
レムレースさんのアプローチでアメフラシが貝から離れてくれたら、貝とアメフラシの間に割り込めないかな、と思いました。回収は戦闘後になるにしても、貝が壊れないように。 -
2015/07/15-20:46
わかった
では狙撃を試みる
ハロルドは香奈と同じくジェンマとMP渡しの支援の予定だ
ロングレンジ×2で最初に大きく体力を削っておこうと思う -
2015/07/14-23:36
そうだな、不意打ちが成功するかは分からないがやってみる価値はあると思う。
前衛が三人揃っていることだし、ディエゴはそのまま定点射撃でもいいんじゃないか?
最初の射撃後の俺の行動は、
アプローチⅡをかけてちょうどディエゴの射撃地点と対角線上になるように回り込もうと考えている。
アメフラシの視覚がどうなっているか知らんが、まあ一応狙撃主に背を向けるように誘導するので
ディエゴの方に一直線に向かっていく可能性は低いと思う。
まあ何にせよ、俺は引き付け役を担当する。
抵抗力に自信はないからほぼ確実に毒の影響を受けると思うが
どうやら防御力は下がらないようなので、なんとか耐えてみよう。
スキルはアプローチⅡと、パッシブのパプティマスをセットしていく予定だ。
毎ラウンド、ダメージを確実に受けるので、有効ではないかと判断した。
香奈はジェンマで攻撃力の底上げをしつつマグナライトで照明係だな。
輝白砂も持っているので、もし敵が闇属性なら使ってもいいかもしれん。 -
2015/07/14-19:39
ん、アメフラシ討伐の線で行くんだな
>不意打ち
どうなんだろうな?
俺もアメフラシの攻撃は、戦闘ラウンド開始時=一番はじめに毒液散布だと思っていた
不意打ち出来るかどうかは、実際にやってみないと分からないが、試してみる価値はあるだろう
遠距離からのディエゴの攻撃が不意打ちにならなかったとしても、普通に攻撃を仕掛けた状態になるだけなので、そう此方が不利になる要素はないと思うが
この場合だと、俺は、ディエゴの狙撃に続くレムレースのアプローチの後にアメフラシの所に斬り込んでいくことになるか
こっちのスキルはそう特殊なのがないんで、カウンター付けつつ、直接攻撃重ねる感じになりそうだ -
2015/07/14-18:28
あらためまして、リチェルカーレです。
パートナーはマキナのテンペストダンサー、シリウス。
皆さん、よろしくお願いします。
私もアメフラシに集中攻撃に賛成で。
今後のことも考えると、できれば倒してしまいたいです。
毒液散布のタイミング…どうなんでしょう?
「戦闘ラウンドの開始時」ということなので毎ターンの最初に散布されるのかと思っていました。
でももし奇襲が成功したら1ターン目はこちらの攻撃からいけるのかしら…? -
2015/07/14-10:49
集中攻撃、賛成する
それなら、見つかる前に俺が遠くから射撃して不意打ちを狙えないだろうか
戦闘ラウンド開始時に(毒液散布)が気になるけどな
必ず先制されて毒液を吐かれるということなのか、それともアメフラシの順番が来たらということなのか。 -
2015/07/14-10:04
改めて、出石香奈とロイヤルナイトのレムよ。
頼もしいメンバーが揃ってくれて心強いわ。皆よろしくね。
>アメフラシか岩礁か
二手に分かれるのはちょっと危ないと思うわ。
岩礁で貝を探すだけなら、アメフラシの気を引く必要はないのだし
両者がどれくらい離れているか分からないから、精霊と神人に分かれて行動というのも危険かも…
だからどちらかに絞った方がいいかなと考えてるわ。
あたしとしては、このアメフラシも一応オーガらしいし
後顧の憂いを絶つ意味でも討伐ルートを希望するわね。
天藍の言う「全員でアメフラシに集中攻撃して短期決戦」に賛成よ。
そうすればあとはじっくり安全に貝を集められるしね。
あ、レムにアプローチⅡをかけてもらって誘導、アメフラシの体をずらして
下にある貝を露出させて、戦闘で貝を割られないようにしておいた方がいいかしら? -
2015/07/14-06:21
知った顔ばかりだな、改めてよろしく頼む
>アメフラシ
・戦闘ラウンドの開始に、防御力無視ダメージ1×3回を必中
・抵抗力判定に失敗した者に弱体化効果のある毒を付与(攻撃威力が著しく低下)
・抵抗判定は、ラウンドごとに行われる
の特性を考えると、アメフラシ倒して体の下の貝を狙うなら、回復できるジョブがいない現在の面子考えると、弱体化判定の回数を少なくするためにも、全員で攻撃を集中して短期決戦目指した方が良くないだろうか?
周辺の探索で貝を見つけることを主にするなら、運任せの要素が強いらしいから、探す人手を増やして、あえてアメフラシには接触せず、戦闘を避けて見つからない様に探索する策を練った方が良いと思うんだが……
2手に分かれることで、貝の確保量もアメフラシ対応も中途半端にならないか、少し懸念している
とは言え、戦闘主にして倒しきれない可能性を考えると、ディエゴが言うように2手に分かれておいた方が、いくらかでも貝の確保は出来るんだよな
トランスの維持の関係で行動範囲は限られてくるが、神人が貝探し、精霊がアメフラシ対応という手もあるだろうか?
考えていたことを思いつくままにひとまず提案してみた、色々話して皆が良いと思う手段を取れたらと思っている -
2015/07/14-00:16
ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロ着任した
よろしく頼む
今のメンバーだと二手にわかれてアメフラシオーガ組と岩礁探索組でわかれるのがベストかと
アメフラシ組が気を引いているうちに、探索組が確実に貝の数を増やしていけば目標は達成するんじゃないかと考えている。
ということで、俺はアメフラシ討伐に一票入れる。 -
2015/07/14-00:06
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2015/07/14-00:06
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2015/07/13-20:54
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2015/07/13-07:29