めろめろどーなっつの甘い罠(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●めろめろずっきゅん☆
「お願いです! どうかこの子たちを助けてやってください!」
 それは、瘴気の影響を受けた生物への対応という任務だった。ショコランドへと向かった貴方たちは、辿り着いたのほほんとした原っぱにて、妖精にえぐえぐと泣きつかれる羽目になる。妖精を宥めすかして、貴方たちは先ずは彼の話を聞くことにした。
「ここ、まんまる原っぱはベニエシアンの生息地で、僕は原っぱの管理人のプラリネと言います」
 プラリネの話によると、ベニエシアンというのはショコランドにのみ生息するドーナッツで出来たわんこらしい。チワワ犬によく似たそのわんこの尻尾は、小振りのわっかドーナッツでできている。尻尾はぶんぶんと振るう度にぽとりと落ちてしまうのだが、すぐに新しい物が生えてくるので問題はない。ちなみに取れた尻尾は美味しく頂けるのだが……どうやら今は、それどころではないらしい。
「数匹のちびっこベニエシアンが、瘴気の影響でぐったりしてしまっているんです! 何とかしてあげたいのですが、僕たちにはどうしようもなくって……。でも、ウィンクルムの皆さんならベニエシアンを助けることができます!」
 幸い、瘴気の影響は濃いものではなく、ウィンクルムがその背を優しく撫でてあげればベニエシアンたちの身体に溜まった僅かな瘴気を祓えるとのこと。そうすればもうデミ・オーガ化の心配をする必要もなくなり、ベニエシアンたちはじきに元気を取り戻すはずだという。任務のあまりの簡単さに貴方が思わず拍子抜けしたその時、プラリネが言い辛そうに付け足した。
「あとその……ベニエシアンの尻尾ドーナッツには食べた人の好意を増幅する効果があるんですが、瘴気の影響を受けたベニエシアンはその力をコントロールできなくなっているようなんです……!」
 つまり、どうなるのかというと。
「ベニエシアンを撫でるだけで、好意が、それはもうめちゃくちゃに増幅されてしまうんです! その好意が友情やらパートナーへの信頼やらでも、恋愛感情かそうでないかは一切関係なく、本人の意思なんか完全に無視してめろっめろになってしまうんです!」
 あまりのことに、貴方は思わずパートナーと顔を見合わせた。ある意味、とても厄介な任務になりそうだ。

解説

●目的
ベニエシアンをなでなでして瘴気を祓ってやること……というのが一応の目的ですがすぐ終わります。
また、今回のリザルトはウィンクルム様毎の描写となります。

●本エピソードの趣旨
瘴気の影響で、ベニエシアンを撫でると好意がめちゃくちゃに増幅されてパートナーにめろめろになってしまいます。
仄かにでも恋愛感情を抱いているという場合だけでなく、その好意が友情や信頼でも、本人の意思を完全に無視して「貴方しか見えない! 大好き! 愛してる!」な状態になります。
しかも、気持ちを抑えることができずとても積極的になっちゃいます。
めろめろ状態になったパートナーとのわちゃわちゃを楽しんでいただければというのがエピソードの趣旨となります。
なお、ベニエシアンを撫でる=めろめろになるのは神人さんでも精霊さんでもOKですので、プランにてご指定くださいませ。
ウィンクルムお1組様につき助けるベニエシアンは1匹ですので、2人共がめろめろに! は今回はなしでお願いいたします。
また、めろめろの効果は大体10分ほどで切れますが、記憶はばっちり残ります。

●ベニエシアンについて
まんまる草原で暮らしているドーナッツで出来たわんこ。
尻尾が小さなわっかドーナッツになっていて、嬉しい時にぶんぶん振っては取れてしまうのですが、すぐに新しいものが生えてきます。
ベニエシアンの尻尾ドーナッツは、人間(神人含む)や精霊が口にすると、食べた人の好意を増幅するのですが、瘴気の影響を受けたベニエシアンはその力が暴走してしまっています。

●妖精プラリネについて
ベニエシアンが暮らすまんまる草原の管理人。
基本的にはリザルトには登場しない予定ですが、プランと状況次第です。

●注意点
めろめろ時の言動は基本自由ですが、全年齢対象のゲームであることだけ心に留めておいてくださいませ。
また、めろめろでない側の言動も親密度次第で採用できない可能性がございます。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

GMアニマル企画に合わせてベニエシアンエピ第2弾です!
瘴気の影響からわんこを救うというアドエピですが、内容はかなりハピエピ寄り。
甘々な時間やどたばたラブコメ等、思うままに楽しんでいただけますと幸いです!
どちらがなでなで役をするかのやり取り・めろめろ状態から我に返った後のやり取り等も、文字数に余裕があればどうぞ楽しんでくださいませ!
また、お1人だけがめろめろ状態の説明を聞いているというのもOKです。
但しその場合、後で必ずネタばらしをお願いいたします。
2人共知らないというパターンは今回はなしということでご了承くださいませ。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  簡単…のようですが妙な依頼ですね…

え、ええ…
(とはいえカガヤの足から逃げられるかどうか…
あまり自信が無いです…!)
カガヤがベニエシアンを撫でるのを離れて見守りましょう。
(身構え待機)

……やっぱり駄目だったみたいですね…!
(全力でその場から走るもすぐ捕まる)

もう!そんなにくっ付かないで下さい!
熱い!!!
(押し返すもびくともせず)

この姿勢ものすごく動き辛いです…!
どうせ動いても抜け出せないので、
収まるまでされるがままにしましょう…
くすぐったい…恥ずかしい…

・戻ってから
はぁ…やっと元に戻りましたか…
カガヤを好きな身としては…嬉しい誤算でしたけど…(小声)
とはいえべたべたはほどほどにして欲しいですね…


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  トランスしたら、早く元気になったりするかな。
近づく前にトランスする。

めろめろ……。(説明を思い出し、少し眉が寄る
(首を振り
「お仕事は、ちゃんとする」(単純に撫でたくもある

(立ち上がり、勢いよく抱きつく
「ルシェ。ルシェ、座って?」(服を引き、見上げる
「んっと、ね。こう」(頬に口付け、嬉しげに笑う
(返しが嬉しくて抱きつき、額を擦り付ける

「ルシェと一緒に居れるの、幸せ。嬉しい」
すごくドキドキして、嬉しくてもっとくっつきたい。
ルシェ、あったかくて気持ち良い。(口元緩々

(言動を思い返し固まる
「ごめんな、さい」(俯く
「迷惑、かけ……」
有意義……?(額を押さえ、見上げる

(なんだろ。まだ少しドキドキする……)



アマリリス(ヴェルナー)
  説明聞き終え精霊と無言で顔を見合わせあう

…いえ、わたくしがやりましょう
めろめろになられたら効果切れまで冷静でいられるか怪しい
撫でた影響で押し切れるし自分で撫でた方が多少は精神的に助かると判断
何があっても本意ではないと何度も念押し

しばし逡巡した後、意を決し撫でる
撫で続け意外と平気とふと顔を上げた際に精霊と目が合う
一瞬でベニエシアンの事が脳裏から消えて精霊だけしか目に入らない
衝動的に抱きついて頭をぎゅっと押し付ける
特に言葉は浮かんでこないが自分の手の中にいる事がすごく幸せ

効果切れはっと気づいたら顔を上げたら近い
恥ずかしくて反射的に平手打ち
…撫でた影響ですから、と呟きつつ目を合わせられなくて逸らす


アンダンテ(サフィール)
  二人共説明聞く

へえ、めろめろ
瘴気も中々パターン豊富なのね

立候補はあるかしら?ないわよね
じゃあ公平にコイントスでもしてみましょうか
フェイクでイカサマ
はい、じゃあサフィールさん頑張ってね!

以前だったら面白そうだって私から立候補していたかもしれないけど

ベニエシアンよりも精霊がどうなるのか気になって横に座り込んでじーっと観察
サフィールさんはどうなるのかしらね?

あら、効果がでてきたのかしら
ええと、ありがとう…?
最初は余裕だったけど段々本気で照れてくる
サフィールさんてこんな顔で笑えたのね…

瘴気の効果じゃなくて、いつもの時に私にもあの笑顔を見せてくれる日はくるのかしら
大丈夫、素敵だったわ!


アンジェローゼ(エー)
  可哀想に…今助けるからね!
ベニエシアンに駆け寄り
撫でる…効果は前回のエーで知ってる
私があんな風に…くっ…(想像し羞恥で赤面

…何で薄着に?
その笑顔は反則!
もうっもうもう可愛いしかっこいいしエーのばか大好きよ!
思い切り彼の胸に飛び込み頬ずりしたり抱き締めたり
エー大好き、桜のいい香り
優しくエーの顔や身体に触れてみる
いつも優しくて
私を家から連れ出して、助けてくれた
エーがいてくれてよかった
私に出会って、好きになってくれてありがとう
微笑み告げ
普段もこうして甘えたいけど羞恥心が邪魔してできないから今だけは魔法の効果に身を任せ

効果切れ
…私のばか
あまりの羞恥に真赤になり動けず
エーの胸に顔を埋め悶える
…善処するわ



●この胸の鼓動は
「ねえ、ルシェ」
 ルシエロ=ザガンの整ったかんばせを見上げて、ひろのは軽く小首を傾げた。
「どうした、ヒロノ」
「トランスしたら、早く元気になったりするかな」
 ひろのの言葉に、ルシエロはタンジャリンオレンジの双眸に面白がるような色を乗せて口の端を上げる。
「成る程な、物は試しだ」
 それを諾の返事として、ルシエロはひろのへと自らの頬を差し出した。力呼ぶスペルと頬への口付けが零される。オーラを纏って、2人は少し離れた所でくたりとしているベニエシアンへと向き直った。

「めろめろ……」
 いざベニエシアンを目の前にして。ひろのは妖精プラリネの説明を思い出し、僅か眉を寄せた。ひろのを見守っていたルシエロが、その様子に目聡く気付いて彼女へと声を掛ける。
「嫌ならオレが撫でるか?」
「お仕事は、ちゃんとする」
 ふるふると首を横に振って、ひろのは子犬の前へと屈み込んだ。単純に、このふわふわした生き物を撫でてみたい気持ちもある。そろりと手を伸ばしてベニエシアンの背をゆっくりと撫でるひろの。それを眺めていたルシエロは、次第に彼女の表情が緩むのを見て取った。
(少なくとも、犬は好きなんだろうな)
 胸中で一つ頷いたルシエロの目前で、不意に、ひろのがすっくと立ち上がった――かと思ったら、突撃といっても過言ではない勢いの良さで、ぎゅっ! とルシエロへと抱きつく。
「おっと」
 ひろのが痛い思いをしないようにしかと受け止めてやりながら、ふと思案の縁に沈むルシエロ。
(これが好意の暴走か。確かに、ヒロノとは思えん程に積極的だな)
 等と考えていたら、ふと、服の裾を引かれた。先程まで懐っこい猫のようにルシエロに頭を寄せていたひろのが、ルシエロを笑顔で見上げている。
「ルシェ。ルシェ、座って?」
 ひろのがそんなことを言うので、ルシエロは柔らかい草の上に腰を下ろすと、その膝の上に座るようひろのに促してやった。いそいそとルシエロの膝の上に収まるひろの。
「で、何をするんだ」
「んっと、ね。こう」
 言って、ひろのはルシエロの頬にそっと口付けを落とし、嬉しそうににっこりとした。緩く笑みを返して、ルシエロもひろのの頬に口付けを一つ。ルシエロからのお返しに益々にこにことしたひろのは、自分を支えるルシエロへとまたぎゅうと抱きついて、その胸にじゃれつくように額を擦り付けた。
「ルシェと一緒に居れるの、幸せ。嬉しい」
 胸が、すごくどきどきする。嬉しくて、心があったかくて、もっとひっついていたい。そんな想いが、ひろのの心には溢れていた。
「ルシェ、あったかくて気持ち良い」
「そうか」
 ゆるゆると口元を綻ばせるひろのの茶色がかって見える黒髪を指で梳きながら、ルシエロは彼女の頭を柔らかく撫でる。
(効果が切れた時を考えるとあまり手は出せんな)
 なんて思いながらその温もりを感じていたところに――ぴたり、ひろのの動きが止まった。
「どうした? 効果が切れたか?」
「あ……」
 ひろの、自分の言動を思い返すと、胸の奥が凍るような心地がして動けず。けれど、ルシエロの声を耳に、何とか言葉を返そうとする。
「ルシェ。その、ごめんな、さい……」
 俯いたひろのの顔は朱に染まっていた。脈はあると見て良いのか? とルシエロはその双眸を細め、ふっと笑みを漏らす。
「何を謝る」
「だって、迷惑、かけ……」
「説明もあっただろ。むしろ有意義な時を過ごせた」
 機嫌良く言って、ルシエロはひろのの額に軽く口付けた。焦げ茶の瞳をくるりと丸くしたひろのが、
(有意義……?)
 と頭にクエスチョンマークを浮かべながら、ルシエロの温度の残る額を両の手で押さえる。ルシエロの顔を見上げれば、眩しいようなかんばせには満足げな微笑が浮かんでいて。
(なんだろ。まだ少しドキドキする……)
 胸に満ちるものの意味を図りかねて、ひろのは首を右側へと傾けた。その姿に、
(じわじわ近づくか、意識させるか。悩みどころだな)
 と、ルシエロは知らずその口元に緩い弧を描いたのだった。

●貴方しか見えない
(ベニエシアンを救うためなら……でも、どちらが?)
 どこまでも真面目にショコランドの生き物を救わんと考えて、しかしてヴェルナーの思考は、どちらがベニエシアンを撫でるのかという問題に何とか辿り着いた。青の眼差しを、傍らのアマリリスへと向ける。彼女もまた、そのかんばせに形容し難いような表情を乗せてヴェルナーに視線を遣っていた。どちらが口を開くでもなく、2人の間に沈黙が落ちる。しばらくの間の後、口を開いたのはヴェルナーだった。
「では私が」
「……いえ、わたくしがやりましょう」
 意を決しての立候補に殆ど被るようにしてアマリリスが宣言する。その短い言葉に確かな決意を感じ取って、ヴェルナーは頷きを返した。
「それではよろしくお願いします、アマリリス」
「ええ」
 応じるアマリリスの胸には、ヴェルナーが察した通りに確固たる決心が鎮座している。けれどもその質までは、ヴェルナーは読み切れていなかった。
(めろめろになられたら、効果が切れるまで冷静でいられるか自信がないもの)
 ならば。
(撫でた影響で押し切れるし、自分で撫でた方が多少は精神的に助かる……はず)
 アマリリスが出した結論はそんな乙女心に由来するものなのだが、これはヴェルナーの預かり知らないことである。むしろ、気付かないのがヴェルナークオリティ。
「いいですか、ヴェルナー。何があってもそれはわたくしの本意ではありません」
「はい、心得ています」
「……絶対ですわよ。決して、ええ、決して本意ではありませんからね」
 何度も何度も念を押すアマリリスの胸の内に、ヴェルナーが思い至ることは遂になかった。

「そ、それでは撫でますわね」
 くったりとしたベニエシアンへとおそるおそる手を伸ばし、暫しの逡巡の後、アマリリスは意を決してその柔らかな毛並みを撫でた。優しく撫で続けるうちに、ベニエシアンに目に見えて元気が戻ってくる。
「よかった……もう大丈夫そうですね」
 ヴェルナーが安堵の息を吐いた。意外と平気ね、なんてこちらは別の意味でほっとしながらアマリリスはふと顔を上げたのだが――青の双眸と視線が合ったその瞬間、脳裏からベニエシアンのことも任務のこともさっぱりと消え失せる。宝石のような瞳に映るのは、ヴェルナーその人だけ。胸を満たす衝動のままに、アマリリスは殆どとびつくようにしてヴェルナーへと抱きついた。
「っ……!」
 驚きつつもアマリリスの身体を何とか受け止めたヴェルナーの胸に、アマリリスはぎゅうと頭を埋めた。溢れんばかりの想いは言葉の形にこそならなかったが、自分の手の中に彼がいることがただただ幸せで、その顔には蕩けるような笑みが浮かぶ。
(これがベニエシアンを撫でた効果……)
 身をもって理解するヴェルナーだが、こういう時、自分の手をどこに持っていくのが正解なのかがわからない。彼がへどもどしながら手を虚空に彷徨わせているうちに、アマリリスはハッと我に返った。面を上げれば、至近距離にヴェルナーの顔。
「……!」
 慌てて身を引くと、アマリリスは恥ずかしさのあまり反射的にヴェルナーに平手打ちを食らわせた。原っぱにいっそ清々しいような音が響いて、痛みに僅か眉を寄せたヴェルナーが頬を抑える。
「あ……ご、ごめんなさい、つい……」
「いえ……おかげで私も目が覚めました」
「……その、撫でた影響ですから」
 目を合わせることができずに視線を逸らしたアマリリスの呟きに、ヴェルナーは「はい」と応じた。アマリリスがべたべたとひっついてきたのは本人の意に沿う行動ではなかったのだと、先のアマリリスの言葉通りに解しているヴェルナー。なればこそ自分がちゃんと律しなくてはいけなかったのに、されるがままになってしまったとヴェルナーは項垂れる。けれど、
(先刻の温もりが、まだ残っている気がする……)
 今は離れてしまった温度のことを思うと、少し残念だという気持ちが胸に湧くような心地もするのだった。

●それは甘やかな魔法
「可哀想に……」
 ぐったりとしたベニエシアンの姿に、アンジェローゼは眉を下げた。憂いを帯びた表情さえも愛らしいと胸中に思いながら、エーは優雅な所作でアンジェローゼを子犬の元へと誘う。
「さ、ロゼ様。ベニエシアンを撫でて救って差し上げて下さい」
「ええ。……待ってて、今助けるからね!」
 ベニエシアンへと駆け寄ってその場にしゃがみ、ふわふわの背に手を伸ばそうとして――ふと、ぴたり、アンジェローゼの手が止まる。そのかんばせに、躊躇いの色が浮かんだ。
「撫でる……私があんな風に……くっ……」
 ベニエシアンの持つ不思議な力を、身をもって知っているアンジェローゼである。それは、以前尻尾ドーナッツを口にしたエーも同じこと。
(……効果は身をもって体験しましたので存じております。ロゼ様があの状態になる? 最高じゃないですか!)
 口元には妖艶といっても過言ではない笑みを浮かべて、エーはそんなことを思う。そして、羞恥に頬を染めながらもベニエシアンの背を撫で始めたアンジェローゼの背を見遣りながら、上着をその場に脱ぎ捨てた。任務を無事終えたアンジェローゼが一つ吐息を漏らし、エーの方へと振り返る。翠玉の双眸が見開かれた。何で薄着に? という疑問が当然胸の内に湧くも、
「さぁ!」
 と、うっとりするような笑みをそのかんばせに乗せたエーが両手を広げているのを見れば、思い切り彼の胸にとび込まずにはいられない!
「その笑顔は反則! もうっもうもう可愛いしかっこいいしエーのばか大好きよ!」
 自らの胸に頬擦りをするアンジェローゼの身体を幸せを噛み締めながら抱き竦めて、エーは彼女の金糸の髪を指に絡ませた。お返しのように抱きついてくるアンジェローゼが真っ赤になっているのを見留めて、込み上げる愛おしさに金の双眸を細めるエー。
「エー大好き、桜のいい香り……」
「僕もロゼ様が大好きですよ。何度でも愛を告げます」
 優しく背を撫でる手の温もりに惹かれるように、アンジェローゼの白い指がエーの頬に触れる。されるがままになりながら、
(ロゼ様可愛い……可愛くて仕方ない)
 なんて、エーはアンジェローゼへの愛しさを益々募らせた。2人の間を遮る服が、邪魔だとさえ思うほどに。
「いいですよ、もっと僕に触れて下さい」
 促されて、アンジェローゼはそっとエーの胸に触れた。いつも自分を守ってくれる、大切な人の温もりがじわりと掌に染みる。
(エーはいつも優しくて、私を家から連れ出して、助けてくれた)
 普段もこうして甘えたいけれど、恥ずかしくてそれは出来ないから。せめて今は、この魔法のような効果に身を任せて、思うままに彼の温もりを感じ、言葉を紡ごう。
「エーがいてくれてよかった。私に出会って、好きになってくれてありがとう」
 花綻ぶような微笑みを零しそう伝えれば、エーの色香を含んだ笑みが益々深くなる。
「僕も貴女に会えてよかった。僕は貴女の為に生まれてきたんだ」
 だから、お礼を言うのは自分の方だとエーは言った。
「生きる希望を、愛を教えてくれて、僕を選んでくれて有難う」
 誰にも渡さない、という言葉は腹の底に飲み込んで。滲むのは、底が見えないほどの深い愛情と、どこか昏いような色。けれど、彼の心の淵、その独占欲を読み取るに至る前に、アンジェローゼはふっと糸が切れたように我を取り戻した。頬が、燃えるような熱を帯びる。
「……うう、私のばか」
 あまりの気恥ずかしさに動くことも叶わないアンジェローゼの姿にくすりと微笑して、けれどエーは、そのまま彼女を離さない。エーの胸に顔を埋め、自身の言動を思い起こし悶えるアンジェローゼへと、エーは柔らかく声を掛ける。
「普段からこうして甘えてほしいな」
「それは……その、善処するわ」
 消え入りそうな小さな呟きをしかとその耳に捉えて、エーは満足げに金の双眸を細めた。

●おっきいわんこのお気に入り
「簡単……のようですが妙な依頼ですね……」
 妖精プラリネから任務の説明を聞いて、手屋 笹は細く嘆息した。傍らのカガヤ・アクショアも、困ったように仄か眉を下げる。
「だよね。撫でれば終わりなのはいいけど、その後が……!」
 妹のようにも思うし感謝の気持ちもあるし、それから……という好意の種類は一旦横に置いておくにしても、カガヤは笹のことが大好きなのだ。どんなことが起こるか考えるのは、ちょっと怖いような気もする。だけど。
「とりあえず依頼は達成しなきゃだから、ベニエシアンの背中撫でるよ!」
「カガヤが撫でてくれるのですか?」
「うん、でも笹ちゃん、必要があったらちゃんと逃げてね」
 笹の双眸を真っ直ぐに見つめてカガヤが真顔で言う。新緑の瞳は、どこまでも真剣だ。その剣幕に、笹は「え、ええ……」と頷かざるを得なかった。
(とはいえカガヤの足から逃げられるかどうか……あまり自信が無いです……!)
 精霊の身体能力は高い。笹の心配は尤もなものだったが、カガヤは既に気合十分だ。くたりと力ないベニエシアンへと近寄っていくカガヤから、笹は可能な限り距離を取った。カガヤが子犬の背を優しく何度も撫でるのを、色んな意味で固唾を飲んで見守る。ベニエシアンが、目に見えて元気を取り戻してきた。
「よかった……もう心配なさそうですね」
 身構え待機していた笹の口から、安堵の息が漏れる。それに反応したように、カガヤが面を上げて笹を見た。目が合ったと思った瞬間、カガヤの表情がふにゃりと緩み、尻尾がぶんぶんと激しく揺れ出す。ついでに犬耳もぴこぴこしている。
「これは……」
 拙いような気がする、と笹は直感した。そして、カガヤに背を向けると全速力で走り出す。しかし、あっという間に追いつかれとびつかれ捕獲される笹。
「わーいー! 笹ちゃんつっかまえたー!」
「ああ……やっぱり駄目だったみたいですね……!」
 諦念の混じる声で呟く笹にぎゅっ! と抱きついて、笹の柔らかな頬にすりすりと頬擦りをするカガヤ。本人はうっとりと幸せそうだが、かなりの密着度である。
「笹ちゃん大好きーーーー!!」
「もう! そんなにくっ付かないで下さい! 熱い!!!」
 押し返そうとする笹だが、カガヤはびくともしない。
(どうしたものでしょうか……)
 と、思案の世界に笹が寸の間沈めば、ふわり、体が宙に浮く。にこにこ笑顔のカガヤは笹を横抱きにしたかと思うと、そのまま草の上に胡坐をかいて、その膝の上に笹を乗せた。
「この姿勢ものすごく動き辛いです……!」
 何せ、カガヤが笹を愛でまくるための体勢だ。笹、抜け出すこと叶わないと抵抗を諦めて、カガヤが元に戻るまでされるがままでいることに決める。カガヤの指が、笹の頬をぷにぷにとつついた。
「えへへー、笹ちゃんのほっぺ堪能ー! 柔らかいー!」
 ふにふにふにふに。至極嬉しそうなカガヤとは対照的に、ぷるぷると震える笹。
(く、くすぐったい……恥ずかしい……)
 なんてうち震えていた笹だが、それだけでは終わらなかった。つんつん攻撃が終わったと思ったら、カガヤの唇が、軽く頬に触れる。
「っ……!」
 笹が息を飲んだ、その瞬間。カガヤの双眸が、ハッとしたように見開かれた。尻尾と耳の動きが止まる。笹の唇から、ため息が漏れた。
「はぁ……やっと元に戻りましたか……」
「うわ、笹ちゃんごめーん……! いや、俺はなんか楽しかったけどね」
「楽しかったって……まあ、カガヤを好きな身としては……嬉しい誤算でしたけど……」
 べたべたするのはほどほどにしてほしいが、不快感はない。ごにょごにょと、殆ど口の中でごく小さく呟けば、不明瞭な言葉に耳の良いカガヤも不思議そうに首を傾ける。
「え? 笹ちゃん何?」
「な、何でもありません!」
 慌てる笹の様子に益々首を傾げながら、
(うっかり頬にキスしちゃったけど……今度は増幅効果とかなしで出来る……かな?)
 なんて想いを、カガヤは胸に過ぎらせた。

●貴方の笑顔の作り方
「へえ、めろめろ。瘴気も中々パターン豊富なのね」
 妖精プラリネの説明に、アンダンテはヴェールの向こう、今は金色を映す瞳を瞬かせた。その口元に面白がるような笑みを浮かべるアンダンテを横目に見遣って、サフィールは疲れたようなため息を一つ。
(そうだけど気になるのはそこなんですか……ああもう、帰れるものなら帰りたい……)
 どこか遠い目をしてそうは思うものの、流石にベニエシアンを見捨てて帰る気持ちにはなれないサフィールだ。ならば、決めなくてはならないことがある。
「では、どちらが撫でますか?」
「えっと……立候補はあるかしら? ないわよね」
「当然です」
「じゃあ公平にコイントスでもしてみましょうか」
 にっこりとして、アンダンテが1枚の硬貨を取り出す。何故だか胸を掠めて止まない嫌な予感に、知らず、サフィールの眉間に仄か皺が寄った。そんな彼の微妙な表情の変化を、アンダンテは見逃さない。
「ふふ、心配しなくてもタネも仕掛けもないわよ、サフィールさん。ほら、どうぞ」
 サフィール、差し出された硬貨を受け取って検める。それは間違いなく何の変哲もない普通の硬貨で、サフィールはこのコイントスが公正なものだと結論づけた。戻ってきた硬貨を手に、アンダンテがくすりとする。
「それじゃあ、行くわよ」
 結果。サフィールの予感は見事的中、彼は任務を終える前からぐったりと脱力する羽目になった。胸中で舌を出すアンダンテ。彼女ほどの腕の持ち主なら、コイントスでのイカサマなんてお手の物だ。
「はい、じゃあサフィールさん頑張ってね!」
 晴れ晴れとした笑顔でサフィールをベニエシアンの元へと押し出しながら、アンダンテは胸に想いを過ぎらせる。
(以前だったら、面白そうだって私から立候補していたかもしれないけど……)
 なのに今は、サフィールさんはどうなるのかしらね? なんて、彼がどうなるかの方が気になるアンダンテだ。負けたのだから仕方ないと自身を誤魔化しながら子犬の背を苦い顔で撫でるサフィールを、傍らに座り込んでじーっと観察する。いかにも興味津々といったアンダンテの視線を感じて、サフィールは眉を寄せた。
(アンダンテ、完全に傍観者気分ですね……)
 言ってしまえば、若干恨めしい。恨み事の一つでも言ってやろうかと彼女の方を振り向いたその瞬間――ぶわり、感情が濁流のように溢れ出してサフィールの心を飲み込んだ。そのかんばせに、常の彼からは想像し難いようなうっとりとした笑みが浮かぶ。
「あら、効果がでてきたのかしら」
「俺は……俺は幸せ者です。アンダンテになら、振り回されるのも悪くない」
「ふふ、お上手ね」
「一緒に居られることを、心から嬉しく思います。そそっかしいところも、可愛くて愛おしくて堪らない……」
「え、ええと、ありがとう……?」
 最初こそ余裕綽々でサフィールの告白を耳に聞いていたアンダンテだったが、シアンの熱視線と甘すぎる言葉の数々に、照れ臭さから段々といたたまれなくなってきた。
(サフィールさんてこんな顔で笑えたのね……)
 身を乗り出され、頬の火照るのを感じながら身を引いたその時。ぴたり、サフィールの動きが止まった。かち合った視線の向こうで今しがた起こった出来事を反芻して理解して、バッと身を引くや、サフィールは思わず顔を覆う。
「……今すぐ記憶喪失になりたいです……」
「大丈夫、素敵だったわ!」
 邪気のない笑顔で放たれた言葉の弾丸がサフィールの胸をクリティカルに抉った。トドメを刺されて打ちひしがれるサフィールを神秘的な色彩宿す眼差しで捉えて、
(瘴気の効果じゃなくて、いつもの時に私にもあの笑顔を見せてくれる日はくるのかしら)
 なんて、アンダンテは先ほどのサフィールの笑顔を思い出し軽く小首を傾げるのだった。

●めろめろの果てに
 ウィンクルムたちの献身のお陰で、ベニエシアンたちは皆元気を取り戻した。ショコランドの原っぱを訪れれば、常のように駆け回るベニエシアンたちの姿を見かけることができるだろう。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ひろの
呼び名:ヒロノ
  名前:ルシエロ=ザガン
呼び名:ルシェ

 

名前:アマリリス
呼び名:アマリリス
  名前:ヴェルナー
呼び名:ヴェルナー

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 07月09日
出発日 07月16日 00:00
予定納品日 07月26日

参加者

会議室


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