プロローグ
●胡蝶
ふっ、と世界が変わった。
闇が君を包む。ただただ黒く塗りつぶされた世界の中で、君とパートナーだけが取り残されているような錯覚さえ覚えた。
訪れた人々に白昼夢を見せるフィヨルネイジャとは明らかに違う感覚。
何故ならば、君達は『世界が変わった』ことを認識しているのだ。フィヨルネイジャでは、こうはならない。
ふいに、パートナーが眉を顰めたことに気づいた。何事か、視線を向けた君は驚く。
二人が見ている先には――君とパートナーがいた。身にまとったものだけでなく、姿形まで寸分違わない。
いや、一点だけ違う。目だ。真紅の瞳でありながら、そこに命の輝きが全く無い。
どうするか、パートナーが問いかけようと口を開くが、音として紡ぎ出されることは無かった。
それよりも先に真紅の二人が武器を抜いたのだ。明確すぎるほどの敵意、悪意、殺意が君達に向けられる。
少し前に、夢の中でオーガと戦ったと言うウィンクルム達の話があったことを思い出す。
彼らは皆、己がパートナーと同じ夢を見たというだけでなく、その間の記憶も持っていた。
もしや、これも――
いや、と君は頭を振る。今はそんなことを考えている余裕は無い。
向かい合う『自分達』をどうにかすることが先だ。どうにかする――はっきり言えば、倒さなくてはならない。戦う者としての本能がそう告げている。
隣に立つパートナーが武器を抜いたのに合わせ、君も武器を構えた。
解説
●すること
『自分達』を倒すこと×5
●敵
・『自分達』
能力、装備が同じ自分達が相手となります
使用してくるジョブスキルは同じものかもしれないし、違うものかもしれません
自分がどう動かれると困るかということを念頭において、プランを組み立ててみてください
トランスしなくとも倒すこと自体は可能ですが、敵はジョブスキルを使ってきます
●その他
個人戦です
他の組との協力は望めません
ゲームマスターより
ふぁいとー
リザルトノベル
◆アクション・プラン
鞘奈(ミラドアルド)
自分と戦う、ね いいじゃないやってやるわ 楽しそう トランスする インスパイアスペルを唱えて、キスすればいいんでしょ …屈辱 先に潰すのはもちろん偽者のミラ 相手もトランスしてきたら望むところよ 力押しで剣で攻撃する あとは相手の間合い、攻撃の間をよく見て、隙をついて攻撃 わざと隙を見せることもしてくるだろうから、そこにも注意して攻撃していくわ 力押しだけでは勝てないし、ミラが来てくれるまでの時間稼ぎにしかならないわね 偽者の私は私を攻撃してくるだろうから、そっちにも注意を配って 大丈夫だろうけど、一応ね |
七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
2人が夢か幻か、私にもわかりません。 けれども、良い機会だと思いました。 彼らに教えて貰いましょう、私達の戦いに何が足りないか。 トランス後、偽者の私に挑む。 武器の矛先を向けて、行く手を阻みます。 ・上段からの攻撃:しゃがんで回避。 ・中段からの攻撃:左か右に動いて回避。 ・下段からの攻撃:その場で跳ぶか、バックステップで回避。 反撃時 ・上段:顔の周りを突いて傷を作ると同時に、戦闘態勢を崩す。 ・中段:微妙に矛先の角度を変えて突く。 ・下段:基本は足払い。 時々そう見せかけて、実際は斜め上に矛先を突いて攻撃。 戦闘後は翡翠さんと合流。 お互い負傷する所によっては、肩を抱き合ったり、 武器を杖代わりにして移動しましょう。 |
リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
目的:『敵』撃破 心情:鏡像戦みたいなものか 手段: 即トランス 銀雪の後方へ1度下がる アプローチ系に注意 銀雪を先に落とすのが理想だが、銀雪は防戦を好む 下手をすれば膠着状態になるが、私が打って出るスタイルであることより、これを利用する 先の先で攻撃を狙ってくるなら、後の先で 銀雪が私の攻撃に対応するのではなく、私が私の攻撃に対応 攻撃を回避ではなく、力点を利用した受け流しで隙を作ることに専念 隙が出来れば、銀雪は守る為に出てくる それに合わせ横に飛び退くのを合図とし、前進した銀雪に盾で攻撃を受け止めて貰っている間に私が私自身を攻撃 その後も声や視線の動き、自身がいつも取る行動で挙動を予測し、私、銀雪の順で倒す |
紫月 彩夢(紫月 咲姫)
大きく深呼吸 寄りによって、その色かぁ… 咲姫。トランス 気に入らないあの顔、早く、消したい 妹>兄 邪魔な妹を先に始末したい コネクトハーツの連携はあんまり喰らいたくないし、 パペットでの二次被害を避ける為、咲姫とは距離を開けておく 逆に巻き込み事故狙いであっちの兄と妹の距離は詰めさせたい あたしと同じ顔してんだから真っ直ぐ来なさいよ 力任せよ。掴みかかってでも、進ませない 兄の技を見極める 罰ゲームで隙を作られるのは困るわね 魔守のオーブも使って、タロットダンスなら耐えて見せるわよ あたしにかまけさせて隙作るってやるんだから 流石に倒れたら咲姫が動揺するじゃない 守られるばっかりの妹だと思わせたくないのよ 意地、張るわよ |
ウラ(アンク・ヴィヴィアニー)
役割:ニセアンクの注意を引く 思い:ニセアンクもHBだし油断は出来ないかなぁ? …目の前に偽物といえども自分達が居るなんて変な気分。 嫌いじゃない。…けど、正直好きでもないかな。 …冷たい目、生気のない顔。 「アンク、先に私、倒せないかな」 「危ない、危険が伴う=私達、なんでしょ。信じてよ、あなたを信じるから、アンクも」 ようやくやる気になったアンクに微笑み。 「んじゃ、あっちのアンク引き留めるからその間にそっちの私、倒してくれる」 トランス、と言われ「ああ、そっか」とスペルを唱える。 「引きこもりだってやればできるんだよ」 武器を握り直し、襲い掛かってくるニセアンクの横をすり抜け斬りかかる。 |
●鞘奈
「自分と戦う、ね」
鞘奈は自身の唇が吊り上がるのを感じた。紅の瞳をした自分達が武器に手をかけたのを視界の隅に収めながら、ミラドアルドへ視線を向ける
柔和な表情は変わらないが、どこか楽しそうに見える。
「何だ?」
「楽しそうね、お互い」
「そうか?」
「顔に出てるわよ」
指摘を受けたミラドアルドはふっと笑い、鞘奈に向き直る。すぐには意図が分からず、鞘奈は眉を顰めた。
「トランスしよう」
チッと舌打ち一つ。トランスをしたところで身体能力が向上する訳ではない挙句、ミラドアルドが使える技は一つのみ。
しかし、その一つでも使うべきだということは鞘奈も分かっている。屈辱だと言わんばかりに鞘奈は顔を歪める。
「我ら、汝の身を我が物とし、生死を共にする」
鞘奈は口早にインスパイア・スペルを唱え、ミラドアルドの頬に口付けた。その瞬間、強い風が吹き、二人の体を淡い緑のオーラが覆う。
すぐにミラドアルドは姿勢を正し、腰に下げた二本のダガーを抜く。握った感触は心許なさに苦笑いを零す。
二本で一組の武器はテンペストダンサーであれば真価を発揮できるが、ロイヤルナイトのミラドアルドではそうはいかない。
「ミラ、アーマードマスターを」
「無駄だ。意味が無い」
どういうことか、と鞘奈がミラドアルドを見遣る。こちらへ駆けて来る紅の自分達を見据えながら、ミラドアルドは腰を落としていた。
彼はロイヤルナイトの象徴たる盾も、身を守る防具も身につけていない。鞘奈はハッとした。
『アーマードマスター』は防具の不安――命中や回避に関わる不利益をある程度まで無視するジョブスキルだ。
ジョブスキルは使用する際に対応しているものを装備していないだけでも効果が落ちる。さらに、効果を発揮する物を装備していないのだから使用しても意味を成さない。
鞘奈は再び舌打ちしながら鞘から大型のナイフを抜く。それにあわせて、ミラドアルドが駆け出した。向かう先は紅の鞘奈。
後に続くように鞘奈も駆け出すが、鞘奈が向かうのは紅のミラドアルド。
紅の鞘奈はミラドアルドが繰り出した剣をどうにか避けようと身を捩る。狙いがやや甘いミラドアルドの攻撃にも、紅の鞘奈の瞬発力は反応しきれないようだ。
しかし、それは裏を返せば鞘奈と紅のミラドアルドにも当てはまること。
「っ!」
「サヤ!?」
鞘奈のナイフを受けた紅のミラドアルドだが、すぐさま二本のダガーで鞘奈へ襲い掛かる。
二人の表情に焦燥が浮かんだ。先に紅の鞘奈を落とすことが狙いだった。それ自体は悪くなかった、むしろ弱い方を突くということ自体は良かった。
ただ、二人が別々に、しかも精霊と神人が相対するという選択は致命的であった。その状況下を作ってしまえば、鞘奈自身も崩されやすいということだ。
「……不味いわね」
「そっちに向か、くっ!」
ミラドアルドが鞘奈の元へ向かおうとするも、それを紅の鞘奈が阻む。
紅の鞘奈の攻撃は弱々しく、精霊であるミラドアルドにとって致命的なものには繋がらない。とはいえ、この足止めは痛手だ。
鞘奈はどうにか力押しで紅のミラドアルドの攻撃をいなそうとするが、攻撃力が違いすぎる。
避けようにも足がついて来てくれない。じわじわと鞘奈の身体が朱色に染まっていく。
「サヤ、今行――
視界の片隅でミラドアルドが紅の鞘奈を下したのが見えた。けれど、同時に鞘奈の体も崩れ落ちていく。
ミラドアルドが何か叫んだような気がしたが、鞘奈の耳には届かなかった。
●シエテ
七草・シエテ・イルゴと翡翠・フェイツィは静かに眼前の敵を見据えている。
ふっという呼気で、シエテは翡翠が笑ったことを察した。
「面白いね」
「良い機会ですね」
翡翠の言葉を肯定するようにシエテは言う。
あの二人が夢か幻かは分からない。自身達の不足を知ることに繋がるのであれば、それは関係無いのだ。
「俺達に抗うなら、その術を盗んでモノにしようよ」
「ええ、必ず」
向かい合う。シエテは爪先で立ち、翡翠は身を屈めた。
「重なるは、二色の調べ」
シエテの唇が翡翠の頬に触れる。雫が一つ落ち、二人を翡翠色の光が包む。
すぐに走り出すシエテに対し、何か様子を見る翡翠。障害物などが無いかを調べているようだが、それらしきものは何も無い。ただ闇があるのみ。
ぶぉん、と何かを割くような音が聞こえた。翡翠はハッと顔を上げた。シエテが紅の翡翠とシエテに挟まれている。紅の翡翠の斧がシエテめがけて振り下ろされたのだ。
翡翠が調査に割いた時間は僅かだった。しかし、それが命取り。
殺意を持った敵が眼前にいる状況下で敵を後回しにしてまで行う必要はなかった、と翡翠は悔やむ。
走り飛び上がる。降下の勢いを利用して斧を振り下ろすが、紅の翡翠に叩きつけられることは無かった。
チッと舌打ちする。元より翡翠の攻撃は避けられやすい。先程、紅の翡翠の攻撃がシエテに当たらなかったことがそれを証明している。
そして、紅の翡翠が身に付けている防具は翡翠と同じもの。瞬発力を高め、回避に重きを置くもの。加えて、スパイラルクローは狙いを定めにくい。
紅の翡翠は標的を変えたようで、武器を翡翠へと向ける。安堵する反面、状況が良くないことを思い知らされる。
シエテと紅のシエテは一進一退。どちらも攻めあぐねている。どう攻撃するか考えては見たものの、それを活かす好機がいつなのか分からず、有効打に繋がらない。
まして、紅のシエテもシエテ同様、回避に重きを置いた防具。ひらりひらりと避けられる。
翡翠は斧を振るいながらも思考する。トルネードクラッシュは使えない。相手は同じハードブレイカー。
その名の通り相手を砕くことを得意とする者だ。つまり、一対一のこの状況下で空振りすれば詰みだ。強力な一撃が待っている。
元より、相手の攻撃を妨害する技ではないのだ。同じように、スパイラルクローも避けて攻撃する技ではない。
苦虫を噛み潰したような心地だ。相手の動きを盗む以前に、自身のジョブの特性を理解出来ていないことを痛感させられる。
三度目のスパイラルクローもまた、空を裂くだけに終わった。向かい合う紅がぎらついた。
「ぐっ、あっ……!」
強力な、防具をも砕く一撃。胴に叩き込まれる恐ろしく強力な衝撃に、たたらを踏むことさえ出来ず翡翠は倒れこむ。
ハードブレイカーがその強力さに振り回されること無く、敵へ叩き込むことが出来る数少ない技――グラビティブレイク。
「あ、あ……翡翠さああああああああああああああああああんっ!!」
シエテは絶叫した。
●ウラ
偽物とは言え目の前に自分達がいるという状況にウラは小首を傾げた。
「変な気分」
ぽつり、零された言葉。アンク・ヴィヴィアニーはちら、とウラを見た。ウラは涼しい顔をしているように見えるが、内心、焦っているのかもしれない。
アンクの視線を気にすることなく、ウラは紅の自分達を見つめたまま。
紅の瞳をした自分ではない自分達の顔に生気は無い。感情も見えない。ただ硝子玉のように冷たいだけの目。
嫌いではない、とウラは思う。けれど、好きな訳でもない。
「アンク、先に私、倒せないかな」
アンクの眉が跳ね上がる。
「待て。君は危機感を持て、無謀だぞ」
男と女という以前に、相手は精霊なのだ。人間の倍以上の身体能力を誇る精霊との力の差は歴然としている。
「危ない、危険が伴うイコール私達、なんでしょ。信じてよ、あなたを信じるから、アンクも」
信じる信じないという問題ではない。その言葉をアンクは飲み込んだ。
契約して間もないからでは無く、純然たる不安が体に圧し掛かってきている。
「あっちのアンク引き留めるからその間にそっちの私、倒して」
「……待て。先にトランスだ」
今にも駆け出そうとしたウラを引き止める。ウラの眼が刹那、丸くなる。
ああ、そっか、と呟き、背伸びをしながらインスパイア・スペルを唱える。
「気楽にいこうね」
アンクが頬に口付けを受けると、吹雪のような幻覚と共に二人を淡い水色の光が包む。
心中はインスパイア・スペル通りには行かないが、不安を押し込め、アンクは紅のウラの下へ走った。
「僕が相手になろう」
立ちはだかり、剣を振り下ろす。重量のある剣は大きな風斬り音を生みながら、紅のウラへと襲い掛かった。
だが、浅い。ハードブレイカーの攻撃は、どうしても大振りなものになってしまう。それゆえ、避けられやすく、完全な一撃を叩き込めないことも多々ある。
とはいえ、致命傷にはなり得た。次で――そう思ったアンクの耳に、心底不思議そうなウラの声が耳に入った。
「えっ……?」
アンクが反射的に振り返った先で、ウラがスローモーションのようにゆっくりと倒れていく。
ウラの小刀がくるくると宙を舞っていることで、アンクは全てを察した。紅のアンクが、何をしたか。
自分が用意しなかった技――フロントアタックがウラの体を叩き込まれたのだ。
一直線に対象へ突撃するこの攻撃を、警戒していれば避けることも出来たかもしれない。しかし、二人はこの攻撃を全く予想していなかった。
油断は出来ないと分かっていた。油断していたつもりも無い。しかし、最悪の結果がここにある。
アンクであれば紅のウラをすぐに倒せると踏んでいたのは正しかったが、逆もそう。紅のアンクであれば、ウラをすぐに切り伏せられることでもあるのだ。
「ウラ……!」
アンクは紅のウラを振り切って走り出し、ウラへ手を伸ばす。けれど、その指がウラを掴み取ることは出来なかった。
●彩夢
紫月 彩夢は大きく深呼吸した。気に入らない、と顔が語っている。
よりによって、あの色。元より柔らかいとは言いがたい眼差しがさらに鋭くなる。
「咲姫、トランス。気に入らないあの顔、早く、消したい」
紅の自分達を睨みつけたまま、彩夢は紫月 咲姫を促す。
とても彩夢らしい感想と物言いに、咲姫はくすり、笑みを漏らす。けれど、それも一瞬。すぐに紅玉髄の瞳に強い意志が浮かぶ。
「そうだね、俺も気に入らない」
自分の彩夢は、隣に立つ一人だけ。生気の無い彩夢では決して無い。咲姫は彩夢へと一歩足を踏み出し、その白い頬を見せた。
「運命を、嗤おう」
彩夢が咲姫の頬に口付けると、二人揃ってオーラを身に纏う。
短剣を鞘から抜き放ちながら、彩夢は対象を見据えた。
「咲姫、あっちからいくわよ」
彩夢の視線の先には、紅の彩夢。わかった、と小さな声で了承した咲姫は、鳥のぬいぐるみを呼び出そうとする。
しかし、技の用意が出来ていなかったことに気付き、眉を顰めた。
代わりに、紅の彩夢の頭上にピコピコハンマーを出現させる。ピコピコハンマーが紅の彩夢に当たると、ピコッと気が抜ける音が響く。
その音を背に、彩夢は走り出した。すぐに紅の彩夢との距離が縮まり、後ろの咲姫との距離が開く。
紅の咲姫がパペットを繰り出してくる可能性を考え、二人揃ってパペットの破裂によるカウンターを受けないようにしたのだ。
彩夢の短剣が紅の彩夢を裂く。暗い色の血が舞うか、どちらの彩夢も気にはしない。
「あたしと同じ顔してんだから真っ直ぐ来なさいよ」
挑発めいた彩夢の言葉に、紅の彩夢よりも先に紅の咲姫が反応した。黒い鳥のぬいぐるみを呼び出し、彩夢の下へと向かわせる。
そして、紅の彩夢はパートナーの攻撃を増幅させる短剣を彩夢へと繰り出した。紅の彩夢の短剣が血を帯びる。
次の瞬間、ぬいぐるみが破裂した。彩夢が音の先にちらりと視線を向ければ、ピコピコハンマーが消えていくのが見えた。
ぬいぐるみが彩夢に近付くよりも先に、咲姫が潰したのだ。
二人の彩夢は共に防御力場を展開し、短剣を振るい合う。一進一退。盾のような防御力場がお互いの攻撃を殺していく。
その一方で、紅の咲姫が標的を変えた。再びぬいぐるみを呼び出し、今度は咲姫の下へ向かわせる。
「残念だったね」
ふわり、柔らかな口調に反し、咲姫の瞳が悪戯っぽく輝く。
禁書をなぞれば、ピコピコハンマーが紅の彩夢の頭上に現れる。払うように指先を跳ね上げると同時に落下する。
コネクトハーツの効果により威力を増した攻撃は、防御力場をもってしても受け止めきれない。
紅の彩夢がたたらを踏んだところへ、彩夢は切り込む。紅の二人の連携を崩したことで、彩夢達は流れを掴んだ。
紅の咲姫が三度、ぬいぐるみを呼び出す。彩夢の口角が上がった。
意図した訳ではないが、自分達が分かれたことにより敵の技を誘発させたようだ。これで、紅の彩夢は技を使えない。
武器の効果で魔力消費を抑えられていたとしても、ぬいぐるみを呼び出すことが出来ないのは間違いない。
紅の彩夢が崩れ落ちても、彩夢と咲姫には充分な余力があった。二人分の紅玉髄が紅の咲姫へ向けられる。
咲姫が禁書のページをめくると、巨大なカードが数枚出現した。眼前のカードの絵に描かれているのは大きな鎌を持った死神。
「ゲームオーバーだよ。知ってたろう? 君は、一人じゃ何もできないんだって」
●リーヴェ
「鏡像戦みたいなものか」
「ううん……上手くいえないけど、違う気がする」
リーヴェ・アレクシアの呟きに、銀雪・レクアイアが返す。鏡像とは何かが違うように感じるが、それを表現する言葉が出てこない。
考え込みそうになったリーヴェだが、すぐさま思考を切り替える。今は何よりトランスをする必要がある。
「その光は剣となれ、その光は盾となれ」
唇で銀雪の頬に触れると、星のような淡い金が舞う。銀雪は自分達を包むオーラを確認すると、自身の盾と防具の防御効果を高めた。
それに合わせてリーヴェは銀雪の後ろに下がる。本来の自身と同じ行動をすると踏み、紅のリーヴェを前進させたかったのだが――紅のリーヴェは動かなかった。
リーヴェが眉を顰めたその時、紅の銀雪が光を放った。
「しまった……!」
気付いた時にはもう遅い。二人は否が応でも紅の銀雪を意識せざるを得なくなった。
アプローチに注意しなくてはいけないと分かっていたが、先に使われるとどうなるか――それを思い知らされることになろうとは。
銀雪も同じように光を放つが、先に想定を崩されてしまったことには変わりない。
リーヴェは奥歯を噛み締めながら太刀を振るう。紅の自身ではなく、紅の銀雪へ向けて。紅の銀雪は盾で容易く弾き、斧を銀雪へと走らせる。
プロテクションの効果により受けた衝撃は微々たる物だが、自分達が思い描いた流れへと引き戻すことは叶わない。
紅のリーヴェが太刀を向けてくるものの、衝動のままに銀雪は紅の銀雪を攻撃する。それはリーヴェも同様に。
消耗戦が始まった。
どちらも精霊へ攻撃を集中させるが、ロイヤルガードが守りに入れば簡単には崩れない。
「ちょっと良くないかも……!」
「堪えるんだ!」
削り、削られ、二人の顔に焦りの色が浮かぶ。銀雪は自身の限界が迫っていることを察した頃――紅の銀雪が崩れた。
アプローチを先に使う代わりに、防御を大きく向上させる技を後回しにした。紅の銀雪が受けた初撃は、銀雪が受けたものより大きかったのだろう。
二人の視線が紅のリーヴェへ向けられる。悲鳴を上げる体に鞭打ち、一斉に紅のリーヴェへ畳み掛けた
●妖狐
「っ!」
ミラドアルドが跳ね起きた。途端、吐き気と頭痛が彼を襲う。
上半身を起こしただけの身体がふらつくも、すぐに誰かの手に支えられた。
「大丈夫ですか?」
「えっ……?」
手の主へ視線を向ける。見知らぬ顔だが、服装から察するにA.R.O.A.の職員だろう。
困惑しかけるものの、すぐに鞘奈のことに思い至る。頭痛を無視し視線を巡らせると、隣のベッドで鞘奈も眠っていた。
苦しそうではあるが、生きていることにほっとする。
ミラドアルドに遅れてシエテとアンクも目を覚ました。二人も同じように夢の中で先に倒れたパートナーを探し、その姿を見つけて胸を撫で下ろす。
「あの、ここは……?」
「A.R.O.A.の救護室です。すみません、皆さん一度に運び込まれたんですよ」
一度にということは、この部屋にいる全員が同じ体験をしたということか。
そう推測したアンクは起きたばかりの二人に視線を向ける。気付いたミラドアルドとシエテが静かに頷いた。
「一体、なんだったんだ?」
「皆さん、夢の中に囚われていた、らしいんです。あと一歩でも遅れていれば、助けられなかったかもと仰っていました」
「……『仰っていた』?」
「はい。それは――」
ガタガタと身を震わせながら、狐の耳を生やした女はか細い声で言った。テイルスのような外見だが精霊ではない。紅月ノ神社の住人である妖狐だ。
彩夢が震える女妖狐の背中を擦ってやる。服の上からでも彼女の身体が冷え切っているのを感じる
そこへリーヴェが受付から借り受けた膝掛けを持ってきた。
「大丈夫か?」
「ありがとうございます……」
「ごめんなさい、詳しいところ、教えてもらえないかしら」
申し訳無さそうな咲姫の言葉に、女妖狐はこくりと頷きを返す。
用事があって彼女はタブロスを訪ねて来ていたのだが、悪い予感がしたのだという。導かれるようにA.R.O.Aへ向かうと、3組のウィンクルム達が運ばれて来たところだった。
女妖狐はウィンクルム達が夢に囚われるのだと、すぐに気付いた。とても危険な状態だということにも。
「私には、ささやかではありますが、人に夢を見せる、夢に干渉する術があります。夢から引き上げなければと思いました。
……運が良かったのだと思います」
一か八かの賭けであったという。『運が良かった』という言葉には、ウィンクルム達を引き上げられたことだけでなく、彼女自身が命を落とさずにいられたこと含んでいるのではないかと銀雪は思った。
「……お二組は、夢で敵を倒されたのですね?」
「うん」
「私達は、運が良かっただけだ」
彩夢は素直に頷き、リーヴェは自嘲するように笑った。ほんの少しでも運が向こう側に傾いていたなら、自分たちもベッドの上だったかもしれない。
「あの力は、私のものとは違います。私にはあのようなことは出来ません。正直に言えば、私が干渉できたのは奇跡だと思います。きっと、あれは……」
ごくり、二組のウィンクルムは唾を飲む。
ここまでくれば分かる。こんなことが出来るのは間違いなく――
「オーガのもの、です」
「んっんー……邪魔が入っちゃったかー。あーあ、あともうちょっとだったのになー」
依頼結果:普通
MVP:
名前:紫月 彩夢 呼び名:彩夢ちゃん |
名前:紫月 咲姫 呼び名:咲姫 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | こーや |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 難しい |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 多い |
リリース日 | 07月08日 |
出発日 | 07月15日 00:00 |
予定納品日 | 07月25日 |
参加者
- 鞘奈(ミラドアルド)
- 七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
- リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
- 紫月 彩夢(紫月 咲姫)
- ウラ(アンク・ヴィヴィアニー)
会議室
-
2015/07/15-00:00
翡翠:
プランは神人同士、精霊同士で戦うようなプランになってる。
相手がどう動くかわからないだけに、文字数が限られていたのがじれったかった。
改めてお互い頑張ろう、上手く倒したいな。 -
2015/07/14-23:56
-
2015/07/13-23:30
不思議な夢のお話。ご縁があるのは二度目だわ。
そっくりな自分達ってのもなかなか気に入らないけど…
め。何よりあの目が、気に入らないのよ。
そんな感じで私怨だらけだけど、紫月彩夢と姉の咲姫。
俄然張り切っての参加よ。どうぞ宜しくね。 -
2015/07/13-23:25
鞘奈さん、ウラさんは初めまして。七草シエテ・イルゴです。
リーヴェさんと彩夢さんは、ジュースを賭けた勝負、お疲れさまでした。
改めて皆さん、よろしくお願いします。
今回は自分自身の戦いになりますが、お互い頑張りましょう。
お力になれないだけに、依頼が成功する事を祈ります。 -
2015/07/13-21:47
リーヴェだ。
パートナーは、銀雪。
自分との戦いか。
よろしく頼む。 -
2015/07/13-16:16
集まってきてたのね。
鞘奈よ。…それとミラドアルド。
よろしく。 -
2015/07/13-13:49
ウラとアンク・ヴィヴィアニーです。
(メタってますが)プロローグじゃあ始まってるっぽかったので挨拶迷いました。
けどエピ初参加なので挨拶しますねー。
初めまして。
宜しくお願いしまーす。