花の指輪をあなたに(櫻 茅子 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 気持ちのいい、休日の午後のこと。
 今日は何をしようか、なんて考えながら歩いていた精霊は、公園を、続いて何やら男が集まって緑豊かな地面を見つめているのを見つけ、思わず足をとめてしまった。
 ある意味異様な光景に、精霊はどん引きしたのだが……
「こんにちはっ! あなたも花の指輪作りに参加してみませんか?」
 背後から話しかけられ、「わあっ!?」と驚きの声をあげた。ばくばくと鳴る心臓を落ち着けようと胸に手をあてながら、話しかけてきた少女に向き合う。
「びっくりさせちゃってごめんなさい。でも、興味があったみたいなので」
 しゅんと眉を下げる少女に、精霊は「不気味だと思ってただけなんだが……」なんて本心を言えるわけもなく。
 苦し紛れに何をしているのかを尋ねると、少女はぱっと明るい笑顔を浮かべた。
「皆さんは今、タンポポで花の指輪を作ってるんですよ~!」
「タンポポ? で指輪?」
 時期はもうとっくに過ぎたはずでは。そんな精霊の疑問に、少女は胸を張って答える。
「この公園はですね、四つの区画に分かれてまして。それぞれ春の花、夏の花、秋の花、冬……はあんまりないんですけど、の花が育っているんです。だから、『四季の公園』、なんて呼ばれてます。で、ですね! 今、ちょっとしたイベントをやっているんです!」
 ちょっとしたイベント。それは、以下のようなものだ。

 四季の公園に咲いた花で指輪を作り、大切な人にプレゼントしようというのが目的だそうだ。ちなみに、少し離れた場所では女性向けにシロツメクサの指輪作りが開催されているとか。たしかに、女性ばかりの華やかな集団も確認できる。

「子供の頃に作った、って人は結構いると思うんですけど。花言葉を知って、改めてプレゼントしてみたらすてきじゃないですか? 花なので、あんまり長持ちしないのがちょっと残念ですけど」
 少女は精霊に耳を近づけるよう言った。なんだろうと思いながら言われた通りにかがむと、ちょっと恥ずかしそうに、使われている花々の花言葉を口にする。

 タンポポには「愛の神託」や「真心の愛」、「別離」という言葉が。
 シロツメクサには「幸運」や「約束」、「復讐」という言葉が。
 それぞれあるのだという。

「……どちらも、不穏な意味が入っているようだけど」
「それ以上にすてきな花言葉があるからいいのです! 作り方も私たちがサポートしますし、お好みでビーズとかも使っていただけますよ!」
 いいのだろうか。
 けれど、まあ、たしかに。時間もあるし、たまにはこんなのもいいかもしれない。なんて思う。
「……じゃ、一人、参加で」
「はーい!」

 宝石ほどの価値はない。けれど、たっぷりと想いをこめた指輪を、あの人へ贈ろう。

解説

●四季の公園について
 四つの区画でわけられ、それぞれ春夏秋冬の花が咲いています。
 現在は『春の区画』と呼ばれる場所で、タンポポ、もしくはシロツメクサの指輪作りが開催されています。
 希望者はリングとなる部分にビーズをつけたりとアレンジ、サポートはつきませんが個人で花冠を作るなんてことも可能です。
 指輪を作り終えたら小さな箱をお渡ししますので、持ち帰る際にご活用ください。アレンジはご自由に。
 ※ビーズは多種多数用意しておりますので、「青くてきらきらしているもの」など指定していただくことができます。
 ※花冠を作った方には袋をお渡ししています。
 ※材料はただの花ですので、長持ちしません=アイテムとして入手できるわけではございません。ご了承ください。

●参加者について
 指輪を作るのは神人か精霊か、もしくは両方かを選べます。
 案内役の少女・マリーに誰が参加するかを教えてあげてください。

●消費ジェールについて
 参加費として、お一人様『300ジェール』いただきます。
 ※神人と精霊、お二人で作る場合は600ジェール消費となります。

●その他
・基本各ペア毎の描写となる予定ですが、指輪作りは参加者同士で会話をしながら、なんてことも全然アリです。
 その場合、「何時頃に行く予定だから○○さん(もしくは他メンバー全員と、等)と鉢合わせた」という旨を記載していただければと思います。
・花言葉の由来に興味がある、という方は、マリーに尋ねてみると教えてもらえます。

●余談
アドリブを入れる可能性がありますので、苦手な方はご注意ください。
プランや神人・精霊設定に「アドリブOK」の旨が記載されている方には積極的に入れてしまう傾向がありますので、提出前に一度ご確認いただくことをおすすめします。
また、NGな方もプランの文頭に「×」を、もしくは神人・精霊設定にNGである旨を記載していただければ対応させていただきますので、よろしくお願いいたします。

ゲームマスターより

閲覧ありがとうございます、櫻茅子です。
小さい頃、シロツメクサとかで指輪とか花冠を作った方って結構いるんじゃないでしょうか。
ふわふわほのぼのな時間になるか、はたまた情熱的な時間になるのか。それは皆さま次第となりますが、幸せなひとときのお手伝いになればいいなぁと思っております。
よろしくお願いいたします。


……季節特有とはいったいなんだったのか……

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  神人、精霊共にアドリブOK

指輪作り
天藍にどうするか尋ね、自分が作る事に

シロツメクサ
天藍と一緒の時に、別離の花言葉があるタンポポは何となく敬遠
植物学とガーデニングスキル有り、花言葉はそれなりに知っているつもり

小さな頃にお友達と指輪や花冠は作りましたけど、懐かしいですね
天藍は子供の頃どんな遊びをしていたんですか?
話を聞き天藍の子供の頃を想像して微笑む
タンポポを選ばなかった事を聞かれて花言葉の事を話す

幸運の印にと探してくれた事が嬉しい
差し出された四つ葉のクローバー受け取り、シロツメクサと1つに纏めて指輪を作る
天藍に四つ葉のクローバーには「be mine」という花言葉もある事を伝えようか少し考えながら



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  花で指輪や花冠を作る…ですか
経験あったかな…どうでしょうかね
物心ついたころには既に馬に乗ってたので、多分作った経験はないと思います。

作ってみましょうか
シロツメクサの花言葉は確か「幸運」でしたっけ
じゃあ幸薄いディエゴさんにシロツメクサの花冠を作ってあげますよ。

ディエゴさんの姿が見えないと思ってたら案内役の方とおしゃべりですか…
むー…こういうのってふつうは気を利かせて「一緒に作ろう」とかの一言あるべきなんじゃないですか。
なんか無性にむかむかします、完成したら手渡すかわりに顔に一発投げつけてやろうかな。

え…指輪…あ、ありがとうございます
作り方を教わってたんですね
…あー、これプレゼントです



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  シロツメクサで指輪を作る
贈る相手は勿論羽純くん

羽純くんに沢山の幸せが舞い降りますように
そんな願いを込めて作りますよ!

羽純くんのイメージは…優しい夜の月明かりのような…
暗闇で迷子になっている私を照らしてくれる温かく綺麗な光
濃紺のキラキラしたビーズと、優しい光を灯す黄金色のビーズを選ぼう

作りながら昔の事を思い出しちゃった
もう何所にもない、懐かしい故郷
指輪作りを教えてくれたお母さんの優しい手

優しい記憶は確かに私の中に残っていて
少しだけ泣きそうになるけど、それでも温かく私を満たしてくれる

羽純くんが私を想い出す時…こんな風に思って貰いたい
そんな存在になれたらいいな

はい、羽純くん!
指輪交換…なんちゃって


ブリジット(ルスラン)
  作った事はないけど花で指輪や冠を作るって楽しそう!と思い参加

タンポポで指輪作りを試みる
…うーん
簡単かと思ってたけど全然形にならないわ…
ぐるぐる悩んだ後、意を決し花を集めてから精霊の元へ

隣にどさりと腰をおろし
私がいなくて寂しがっているんじゃないかと思ってね
べ、別に作り方がよくわからないから教えて欲しいって訳じゃないのよ?

ばれてないわよね…と冷や冷やしつつ教わりながら作成
完成したらできた!と喜び、見てみてと精霊に見せ付ける
花冠も素敵よね、お姫様ぽくて
私はいいのよ、お姫様って柄じゃないし

えっと、ありがとう…
待って、そこはちゃんと言い切ってよ!

じゃあ私からも…ってタンポポだったわ
花言葉なんだったかしら



イザベル・デュー(扇谷 志真)
  気になったから誘ってみたのだけれど大丈夫だったかしら。
花とか好きそうな顔してないものね、迷惑に思われていたりするんじゃ…。
…はっ、ダメよ人を顔で判断しちゃ。

大丈夫そうだったので二人で参加。
シロツメクサの指輪作りつつ、気になってちらり。
(自分のと見比べ)…明らかに私のより綺麗ね。
何かコツとかあるのかしら?よかったら教えて欲しいわ。

完成度の高い扇谷さんのと私の普通の出来のものを交換するのは少し気が引けるけど…。
ありがとう、嬉しいわ。
そういえば作るのに夢中になってたけど花言葉って…。
やっぱり顔はちょっと怖いけど慌てている様子にくすりと笑う。
私のパートナーは中々面白い人みたいね。
今日は来てよかったわ。



●よろしく、パートナー
「扇谷さん、参加してみませんか?」
 四季の公園で花の指輪作りをしていると聞いた『イザベル・デュー』は興味をそそられ、『扇谷 志真』を誘った。
 だが、一抹の不安が彼女の胸をよぎる。
(気になったから誘ってみたのだけれど、大丈夫だったかしら)
 イザベルはちらりと扇谷を伺った。190を超える長身に鋭い目つき、そして額には傷跡。本格的に夏が近づき、暑さも増しているというのにスーツを着用している彼が、花を好むとは思えない。
(迷惑に思われていたりするんじゃ……。はっ、ダメよ人を顔で判断しちゃ)
 どきどきしながら扇谷の返事を待つ。
「……構いませんよ」
 一言。けれど拒否されることはなく、イザベルはほっと安堵の息をついた。
 実をいうと、扇谷と行動をともにするのは契約後初めてのことだった。慣れていない相手といる時間は、無意識のうちに体が固くなるものだ。そしてそれは、イザベルだけに言えることではなかった。扇谷も彼女と同様、緊張しているのである。
 威圧感のある容姿とは裏腹に、扇谷は花が好きだった。イザベルがイベントに興味を示したのも、そして自分を誘ってくれたのも嬉しかった。が、表情には出ない。つまり、いつもと変わらず悪い人相のままということだ。
 そのせいもあり、二人の間に流れる空気は少しぎくしゃくしていた。
「扇谷さんは作りますか?」
 イザベルに問われ、扇谷は頷いた。「はい」と口にできればよかったのだが、咄嗟に声が出なかったのだ。
 参加を決めた二人は、それぞれの花が咲いているところへと向かった。
 イザベルは女性向けと言われたシロツメクサで、早速指輪を作りはじめた。白くて丸い花は愛らしく、自然とイザベルの唇は笑みの形を刻む。
 扇谷はどうしているだろう。
 気になったイザベルがちらりと彼を伺うと、驚くような光景が飛び込んできた。
 扇谷は、タンポポで黙々と指輪作りをしていた。用意されていたビーズ――ぱっと見、赤系のものだろうか――を器用に組み込んでいる。
 イザベルはつい、自分と彼、二つの指輪を見比べた。
「……明らかに私のより綺麗ね」
 自分の手にある指輪も、けして悪い形ではなかった。だが、扇谷の指輪には及ばない。
「何かコツとかあるのかしら? よかったら教えて欲しいわ」
 振り返った扇谷は、イザベルの顔を見てふと気づいた。
 今の今まで、一緒にいるのに親睦を深めるどころかお互い無言だった。指輪作りに熱中しすぎていたのだ。
「デューさん……。えっと、コツはですね……」
 幸い、使える花に制限はないとのことだ。扇谷はたどたどしくもイザベルに説明しながら、一緒に指輪を作り上げていく。
「できたわっ」
 イザベルが綺麗に仕上がった指輪を見て歓声をあげた。嬉しそうに頬を染めるイザベルに、扇谷の心も自然とほぐれていく。顔は、相変わらずだったけれど。
「よければこれ、どうぞ」
 扇谷は、イザベルに指輪を差し出した。黄色い、可愛らしい花が咲き誇る指輪を、イザベルはじっと見つめる。
「ありがとう、嬉しいわ」
 そして、無骨な男の手で作られたとは思えない愛らしい指輪を受け取った。続いて、扇谷に教わりながら完成させた指輪をそっと差し出す。
(完成度の高い扇谷さんのと私の普通の出来のものを交換するのは少し気が引けるけど……)
 扇谷は『交換』というパートナーらしい行動に感動し、胸を震わせた。
 けれど――
「あの、花言葉がありますが、別にそこまで深い意味は」
 しどろもどろになりつつ、そう説明をする扇谷に、イザベルはくすりと笑った。
 私のパートナーは、なかなか面白い人みたいね。
 初めて会った時はつい身構えてしまった。けれど、教え方は丁寧だし、こちらの意思を尊重してくれる。彼となら、きっといい関係が築けるだろう。
「今日は来てよかったわ」
 晴れやかな空の下。ふわりと吹いた風が、お互いの手に乗る花を揺らした。
 新たなウィンクルムの門出を、そっと祝福するように。

●気持ちを託して
「花で指輪や花冠を作る……ですか。経験あったかな……どうでしょうかね」
 四季の公園で指輪作りが開催されていると知った『ハロルド』はそう呟いた。
「物心ついたころには既に馬に乗ってたので、多分作った経験はないと思います。せっかくですし、作ってみましょうか」
 ハロルドは『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』を見上げ、ふと頬を緩める。
「シロツメクサの花言葉は確か『幸運』でしたっけ。じゃあ幸薄いディエゴさんにシロツメクサの花冠を作ってあげますよ」
「……それはありがたいな」
 脱力するディエゴに背を向け、ハロルドは足取りも軽くシロツメクサが咲く場所へと向かう。

 タンポポの指輪を、エクレールに。
 ディエゴは密かにそう決めて、案内役を務める少女・マリーの元へ向かった。
(あいつからは勿忘草を貰ったからな)
 あっちが『真実の愛』なら、こちらからは『真心の愛』を。
 ……なんて、口が裂けても言えない。だから、秘密で指輪を作る。
 ディエゴにとって思っていることを口に出したり、行動で愛情を示すというのはなかなか難しいことだった。だが、甘えたな自分の恋人にはできる限り伝えないと拗ねてしまう。
 わかりにくい。回りくどい。そう言われるかもしれないが、この指輪で俺の気持ちを示そう。

(ディエゴさんの姿が見えないと思ってたら案内役の方とおしゃべりですか……)
 白と緑の絨毯の上で、ハロルドは眉を寄せた。
(むー……こういうのって普通は気を利かせて『一緒に作ろう』とかの一言あるべきなんじゃないですか)
 ディエゴは、何やら真剣に少女の話に耳を傾けているようだ。こちらの視線に気づく気配もない。
 ――なんだか、無性にむかむかします。
 完成したら手渡すかわりに、顔に一発投げつけてやろうかな。
 そんなことを考えながら、ざくざくと手荒にシロツメクサを編んでいく。少しでも、彼の心に残ればいい。そんな願いをこめながら作った花冠は、丁寧な出来だったのだが……途中から、少し歪になってしまった。
「エクレール……これを、……なにむくれてるんだ」
「別に、なんでもないですよ」
 話を切り上げたディエゴは困ったように眉をよせた。なんでもないと言っているが、彼女は明らかにむくれている。だが、付き合いの長いディエゴのことだ。原因に思い当たり、「放っておいて悪かったな」と謝罪する。
「これをやるから機嫌を直してくれ」
 差し出されたものを見て、ハロルドは目を見開いた。黄色い花が咲き誇る、指輪だったからだ。
「え……指輪……あ、ありがとうございます」
 受け取ろうとしたハロルドを制し、ディエゴは彼女の手をとった。
 そして――左手の薬指。永遠の愛を誓うその場所に、そっと指輪を通す。
(……この場所につけるなら、シロツメクサの方が良かっただろうか。エクレールが喜ぶなら良いが)
 僅かな不安を抱きながら、ディエゴはハロルドの反応を伺った。じっと黄色の花を見つめていたハロルドは、ふと視線をそらす。
「作り方を教わってたんですね」
 ハロルドはそう言うと、そろりとあるものを手にとった。白く丸い花が連なった花冠だ。
「……あー、これプレゼントです」
 ほんのり頬を染めながら、ぽんとディエゴの頭に冠を乗せる。
 気恥ずかしくはあるけれど――それでも、彼の気持ちは伝わったから。
 いい日だった。
 ハロルドは花の指輪をそっと手のひらで包み、彼と二人、肩を並べて帰路へとつくのだった。

●無自覚な愛の贈り物
「指輪作りですか。どうしましょう?」
 青く澄み渡った空の下。四季の公園を通りかかった『かのん』は、『天藍』に尋ねた。
「天藍も作りますか?」
「作り方も知らないし、俺は見ているだけでいい」
「わかりました。では、一人参加で。シロツメクサで作ろうと思います」
「はーいっ! シロツメクサはあちらになります。楽しんでいってくださいねっ」
 マリーに促され、二人は白い花と緑であふれた、瑞々しい絨毯の元へと向かう。
 かのんは早速、シロツメクサを手に取った。ガーデナーを生業としているかのんは、花全般が大好きだ。愛らしい丸い花に、自然と頬が緩む。
 柔らかな笑みを浮かべるかのんの横顔を眺めながら、天藍は『指輪を作るか』と聞かれた時のことを思い出す。
(かのんへ指輪を贈るのは、そう遠くない先の……求婚の際にできれば)
 独りよがりのこだわりだと思う。だが、そう思わずにはいられなかった。
「小さな頃にお友達と指輪や花冠は作りましたけど、懐かしいですね」
 てきぱきと手を動かしながら、かのんはふわりと笑った。幼かった過去の日を振り返っているのだろう。
「天藍は子供の頃どんな遊びをしていたんですか?」
「年の近い友達と野原を駈けずり回っていたな。泥んこになるまるで遊んでいた。……女の子達はままごとや花冠を作ったりしていたと思うが、俺は参加した事はないな」
 かのんは「ふふ」と楽しそうに笑い声をあげた。天藍の子供の頃が、ありありと想像できたからだ。
「そういえば、かのんはなぜシロツメクサを選んだんだ?」
 純粋な疑問だった。かのんは「それはですね」と口を開く。
「タンポポには『愛の神託』や『真心の愛』といった花言葉のほかに、『別離』というものがあるんです」
 かのんは職業上、植物に精通している。花言葉もそれなりに――というのは謙遜で、実際は「かなり」といっていい――知っている。
 かのんの答えからタンポポを避けたくなる気持ちを理解し、天藍はなるほどなと頷いた。と、かのんの指先を彩る緑の葉を見てあることを思いついた。
(四葉のクローバーがあるのではないだろうか)
 見ているだけというのも気まずいと思っていたところだ。天藍は周囲をくまなく見渡し、幸運の印を探す。
「あった」
「天藍? どうしました?」
 天藍の呟きに、かのんは顔をあげた。手には丁寧に編み込まれ、もう少しで完成というところまできた指輪がある。
「指輪じゃないが」
 幸運の印を、かのんに。
 差し出されたのは、四葉のクローバーだ。
 かのんは彼の気持ちが嬉しくて、頬を桃色に染める。
「ありがとうございます」
 天藍の手から受け取った四葉は、陽光の下で青々と輝いている。
 かのんは心が暖かなもので包まれるのを感じながら、そっとシロツメクサと一つに纏め、指輪を完成させた。

 天藍は、知っているだろうか。四葉のクローバーには『be mine』という花言葉が――『私のものになって』という意味があることを。

(きっと、知らないでしょうね)
 指輪を見つめるかのんの瞳に、いたずらな光が宿る。
 伝えたら、どんな反応をするだろうか。
「天藍」
 名前を呼ばれた天藍の耳に顔を寄せ、かのんはそっと、囁いた。
 風に乗ってかのんの笑い声と天藍の困惑の声が聞こえてくるのは、それからすぐの話だ。

●想いの花咲く
「はーいっ! 相思相愛と見えるお二人さんもどうですかっ?」
 背後から声をかけられ、『桜倉 歌菜』と『月成 羽純』はばっと後ろを振り向いた。「驚かせちゃいましたね、すみません」と謝った少女はマリーと名乗り、ここ、四季の公園で開催されているイベントについて説明をした。
 概要を聞いた二人なお互いに顔を見合わせると、マリーに参加の意を伝える。歌菜はシロツメクサで、羽純はタンポポで。それぞれの希望の花を聞いたマリーは、満面の笑みを浮かべるのだった。 


「こんなにたくさん咲いてるところ、初めて見たかも」
 一面に咲いたシロツメクサに、歌菜はほうと息を吐いた。
 歌菜はちょこんと腰を下ろすと、ころころと可愛らしい花の吟味を始める。作った指輪は、もちろん羽純に贈る予定だ。
(羽純くんに沢山の幸せが舞い降りますように。そんな願いを込めて作りますよ!)
 マリーから聞いた花言葉の中で、もっとも印象に残った花言葉――『幸運』が、大好きな彼を包んでくれるように。
 むん、と気合いを入れて、歌菜は早速、豊かな花を咲かせるシロツメクサへと手を伸ばした。時折用意されていたビーズを眺めに行き、じっくりと考える。
(羽純くんのイメージは、優しい夜の月明かりのような……暗闇で迷子になっている私を照らしてくれる温かく綺麗な光)
 歌菜は濃紺のキラキラしたビーズと、優しい光を灯す黄金色のビーズを選び、蔦に通していく。
 小さい頃も作ったなぁ、なんて考えた歌菜の頭に、穏やかな空気が流れる故郷が浮かぶ。指輪作りを教えてくれた、お母さんの優しい手も。
 もうどこにもない、懐かしい場所を――。
(けど、優しい記憶はたしかに私の中に残っている)
 思い出すたびに少しだけ泣きそうになるけれど、それでも温かく、私を満たしてくれる。
(羽純くんが私を想い出す時……こんな風に思って貰えるような、そんな存在になれたらいいな)

『真心の愛』という花言葉が耳についた。だから、タンポポを選んだ。歌菜に贈るなら、こっちだと思ったのだ。
 羽純はかわいらしいライオンのような花の前で、「どれを使おう」と逡巡した。そして小さいながらも凛と咲き誇る一輪に目をつけると、周りを傷つけないようそっと手折る。
「こんにちはおにーさん! 作り方はわかりますか?」
 またまた背後から声をかけられ、羽純はくるりと振り向いた。わくわくと顔を輝かせるマリーに、内心助かったと零す。
「作り方を教えてもらいたいのだが」
「そういうことならお任せあれですっ」
 ぴょんと跳ねながら手をあげるマリーは子供らしいが、教え方は丁寧でとてもわかりやすい。失礼だと自覚はあるが、意外だと思わずにはいられなかった。
 慎重に、丁寧に作業を進める羽純に、マリーは「おにーさんお上手ですね」と感心したように声をあげる。
「タンポポには『真心の愛』という花言葉があるそうだが、由来はあるのだろうか」
 羽純の問いに、マリーは「それがですねぇ」と眉尻を下げた。
「『真心の愛』に関しては、はっきりとした由来はわかってないのです。……私の知識が足りないだけかもしれませんが」
ごめんなさいと頭を下げたマリーだが、「でも」と続ける。
「『愛の信託』という花言葉は、タンポポを占いの道具にしている地域からきているそうです。なんでも、一息で冠毛を吹き飛ばせたら恋が成就すると言われているとか。想い人への想いがまっすぐに向けられる花だから、『真心の愛』って素敵な花言葉がつけられたんだと思いますよ」
 確証はないけれど、自信満々なマリーを見ていると本当にそうなのかもしれないと思えてくる。
 想いを向けられてきた花。そして、叶えてきた花。愛を伝える花。
(歌菜に、俺の気持ちが伝わればいい)

 お互いにささやかな、けれど切実な想いを原動力に手を動かし続け――
「できた!」
「歌菜もか」
 指輪が完成したのは、ほぼ同時だった。お互い配布されている箱に入れると、どちらからともなく視線を合わせる。
「はい、羽純くん! 指輪交換……なんちゃって」
 歌菜の無邪気な言葉に、羽純は思わず笑みをこぼした。
「なら、手、出せ」
「へ」
「指輪交換、なんだろ?」
 羽純の指が、歌菜の手を包む。そして、箱から出した指輪を――薬指に優しく、はめる。
 薬指に咲いた可憐な花に、歌菜はほうっと夢見るような視線を向けた。リングの部分には薄い桃色をはじめ、純白や透明に輝くビーズが組み込まれていた。羽純が真剣に選んでくれたであろうビーズたちは、タンポポの黄色とあわさって素朴でありながらも何ものにも代えがたい輝きを放っている。
 だが、すぐにハッとして、羽純と同じように羽純の指に指輪をはめた。緊張から少し手間取ってしまったのは許してほしい。
「歌菜には良く似合ってるが、無骨な俺の手には少し可憐過ぎるな」
 何気なく落とされたとんでもない口説き文句に、歌菜の頬はぽっと染まり――「いつか」を連想させるその光景を、脳裏に刻みつけるのだった。

●息のあった二人
「花で指輪作り?」
 四季の公園で開催されているイベントを聞いた『ブリジット』は胸を弾ませた。
 作ったことはないけれど、花で指輪や冠を作るなんて楽しそう!
 うきうきと参加を決めたブリジットに、『ルスラン』は「作り方わかるか?」と声をかける。
 彼の問いに、ブリジットは数秒の間を置いた後、
「当然よ!」
 と言い放った。今日が初めての挑戦なのだ、わかるわけはないのだが、素直に口に出すのは憚られた。ブリジットは大股にタンポポが咲く区画へと足を運ぶ。
 腰を下ろすと、可愛らしい黄色の花々がさわりと揺れた。素朴でありながらも可憐なその姿に癒されながら、ブリジットは指輪作りを開始した。
 しかし。
「……うーん。簡単かと思ってたけど全然形にならないわ……」
 リングになる茎は何度も曲げられたせいで力がなくなり、とてもじゃないが指輪の形になりそうにない。
 どうしよう。案内役の少女に作り方を聞いてみようか。でも――
 ぐるぐると悩んだ末に、ブリジットは意を決し、精霊の元へ行くことにした。花を集め、シロツメクサの前にいたルスランの隣にどさりと腰を下ろす。彼の手には作りかけの花冠が握られており、その出来の良さからブリジットが来るまで慣れた手つきで作業を進めていたのだろうことが伺える。
 どうしたというようなルスランの視線に、ブリジットは早口でまくしたてた。
「私がいなくて寂しがっているんじゃないかと思ってね。べ、別に作り方がよくわからないから教えて欲しいって訳じゃないのよ?」
 ブリジットの返答は、「作り方がわからないから教えてほしい」と言っているのと同義だった。
 本当にわかりやすい性格をしてるな。
 そう思うものの、その辺りには触れない優しさを持つルスランだ。さりげなく花冠作りを中断し、指輪作りへ移行する。うまくリングを作るには力加減が必要である、花をつぶさないように注意した方がいい、といった独り言という名のアドバイスをおくる。
 ブリジットはばれていないか冷や冷やしていたが、完成が近づくにつれ自然と笑みを浮かべていた。
「できた! 見てみて、ルスラン!」
 ついに指輪を完成させたブリジットは、見せつけるようにずいと精霊の前に掲げてみせた。
「さすがだな」
「でしょう!」
 にこにこと上機嫌なブリジットの笑顔は年相応なものだ。喜びに浸るブリジットの隣で、ルスランはささっと花冠を完成させる。
「あら、花冠? 花冠も素敵よね、お姫様ぽくて。……あ、今のねだったとかそういうわけじゃないからね? お姫様って柄じゃないし」
「たしか、シロツメクサの花言葉に『幸運』ってあったな」
 今はもう、あれだけど。
 言葉を飲み込んだルスランは、そっと花冠をブリジットの頭に乗せた。
「幸多き未来となりますように」
 思わぬ言葉に、ブリジットはぽかんとした。だが、すぐにぽぽっと頬を染める。
「えっと、ありがとう……」
「ほら、ブリジットでも姫……」
 元気になればいい。そんな想いから彼女に花冠を乗せたけれど――喪服とシロツメクサの組合せだと姫というより……と、不吉な方を連想してつい言葉区切る。
「待って、そこはちゃんと言い切ってよ!」
 声を荒げたブリジットだが、嬉しさが勝ったのだろう、「じゃあ私からも……」とできたばかりのタンポポの指輪を差し出した。
「タンポポの花言葉なんだったかしら」
「もう忘れたのか」
「ルスランは覚えてるの?」
 どこか焦ったようなブリジットに呆れながらも、ルスランは指輪を受け取り、マリーに聞いた花言葉を思い出す。
『愛の神託』『真心の愛』『別離』
(愛の部分は否定するだろうな)
 だとすると、別離に気がいき、「やっぱり返して」といってきそうだ。それはなんだか――
「ルスラン、どうなの?」
 急かすブリジットに、ルスランは口を開いた。
「俺も忘れた」
 なんだ、とブリジットの声に安堵の色が混ざる。
 なぜ、素直に覚えていると言わなかったのか。ルスランは自分の気持ちがわからないまま、けれどこれでよかったのだとふと笑みを漏らすのだった。

●ぽつり
 花の指輪は、きっといつか本物へ。
 彼らの行く先が、幸せに満ちたものでありますように。
 変わらぬ愛を花言葉に持つ花が、彼らの後ろ姿を見送った。



依頼結果:大成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

名前:イザベル・デュー
呼び名:デューさん
  名前:扇谷 志真
呼び名:扇谷さん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月07日
出発日 07月14日 00:00
予定納品日 07月24日

参加者

会議室

  • [11]桜倉 歌菜

    2015/07/13-23:04 

  • [10]桜倉 歌菜

    2015/07/13-23:04 

  • [9]かのん

    2015/07/13-22:42 

  • [8]ハロルド

    2015/07/13-22:35 

  • [7]イザベル・デュー

    2015/07/12-21:24 

    ごめんなさい、挨拶が遅くなってしまったわ。
    私はイザベル・デュー。パートナーは扇谷さんよ。
    よろしくね。

    どんな花冠や指輪が出来上がるのか楽しみね。
    みんな素敵なひと時を過ごせますように。

  • [6]ハロルド

    2015/07/11-22:04 

  • [5]ブリジット

    2015/07/11-19:52 

    ブリジットよ。パートナーはルスラン。
    どうぞよろしく。

  • [4]桜倉 歌菜

    2015/07/11-00:48 

  • [3]桜倉 歌菜

    2015/07/11-00:48 

    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、よろしくお願いいたします♪

    お花の指輪に冠…!童心にかえり、何だか優しい気持ちになれます。
    良い一時を過ごせますように!

  • [2]かのん

    2015/07/10-19:13 

  • [1]かのん

    2015/07/10-19:13 

    花冠や指輪づくり、懐かしいです
    ビーズを付けたりもできるんですね、どんな風に作りましょう?
    考えるだけでも楽しいですね


PAGE TOP