やきもちをやく話(櫻 茅子 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●前置き
 やきもちをやく。それは多くの人が知っている通り、好意を抱いている相手が自分ではない別の誰かに愛情を注ぐ、または注がれるのを嫌うことを指す言葉だ。そして、日常にあふれている……とまではいかずとも、それなりに耳にする言葉でもある。
 そんな『やきもち』を、自分がやく側になると思っている人は、案外少ないのではないだろうか。

●きみが好きだから
 ある精霊は不機嫌だった。自分のパートナーである神人が、自分ではない人物――よく行くカフェの女性店員と、楽しそうに話しているからである。それも、目の前で。
 精霊の神人は男だった。契約したばかりの頃は戸惑いしかなかったけれど、同じ時間を過ごすうちに、自然と惹かれていった。もちろん、恋愛的な意味でだ。玉砕覚悟で告白をして、赤面しながら「オレも好きだよ」と言われた時は思わず泣きながら抱きしめてしまった。――なんて話を思い出している場合ではない。
 女性店員は、どう見ても神人に好意を抱いていた。彼は、俺のものなのに!
「今日のランチ、楽しみだな。……って、なにぶすくれてんだ?」
「別に? 店員さんと仲がよさそうだったとか気にしてないからね?」
 精霊の返答に、神人は「ははっ」と噴き出した。
「なんだ、そんなことか。心配しなくても、俺が好きなのはお前だけだよ」
 まっすぐに伝えられた想いに、精霊は赤面した。だが、気が治まるわけはなく――
「……もっと好きだと言ってくれたら、許してあげないこともないけど」
 ――我ながらちょろい。
 欲望に忠実な自分を誰か笑ってくれ、と心の中でこぼしながら、精霊は神人が続きを発するのを待った。
「それくらいお安い御用だけど、俺だけ言うのはずるいから、後でお前も聞かせてくれよ?」
 そう前置きして、神人は精霊のどこが好きかを語りだした。
 恋人になるまではぐいぐい迫っていたが結ばれてからは一転、迫られる側になった精霊は、ストレートな愛の言葉に赤面するしかなく――数分後、情けなくもつっぷしながらギブアップを告げることになるのだった。

●あなたのやきもち
 想いが通じ合った人。一方的に好意を抱いている人。そもそも好意を抱いていることに気付いていない人。
 そんな人たちがやきもちをやく瞬間は、何気ない生活の中に潜んでいる。
 やきもちを通じて、仲が進展するのか、それともぎくしゃくしてしまうのか――それはわからない。けれど、好きだからこそ生まれるこの想いを、身をもって実感するのも悪くないのではないだろうか。

解説

●やること
やきもちを焼く

●プランについて
以下を明記してくださいますよう、お願いいたします。

・どこで、誰がやきもちを焼くのか
 神人の家、カフェ等、どこでやりとりをするのか記載をお願いします。
 また、やきもちを焼くのは神人か精霊かも書いてください。

・やきもちのきっかけ
 プロローグのように「異性と仲良さそうに話していた」や、「自分より動物に構っていた」「自分じゃない人の話ばかりしていた」等、何がきっかけでやきもちを焼くことになったのか教えてください。

・やきもちを焼いた結果、どんなことをしたか
 プロローグのように拗ねたり、あるいは泣いたり平気なふりをしたりするのか記載をお願いします。
 ※親密度によってはアクションが不成功となる可能性があります。ご了承くださいませ。

●消費ジェールについて
やきもちを焼くきっかけに遭遇するまでのデート費として、『200ジェール』いただきます。

●余談
アドリブを入れる可能性があるので、苦手な方はご注意ください。(アドリブNGの旨を伝えていただければ、対応させていただきます)

ゲームマスターより

閲覧ありがとうございます。

やきもちはかわいい!! ということで、季節ものを考えていたら特に季節関係ないエピソードになりました。
好きだからこそ焼いてしまうやきもちを通して、仲が深まったり、自分の気持ちに気付いたり、そんなもだもだしてしまうようなリザルトを残せたら幸いです。
では、よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  *焼かれる方

原因:
よく行く本屋の女子店員(小柄、ロン毛、眼鏡っ子、優しい)とセイジが毎度親しそうだから

帰宅後:
ランスの様子に首を捻る
どうしたのか聞く
でも良く分からない
俺が何かして怒らせたのだろうかと少し心配に

本屋で薦められて買ってきた料理のレシピ本を開いて、作ってほしい物を聞く
「な、どれが好き?」
えーっ
なんでそうなんだ?
ワケガワカラナイヨ(´・ω・`)

あー…そういうことか
まったくしょうがない奴だな(苦笑
でも内心に嬉しい気持ちも少し(撫で

お前の好きなもの何でも食わせてやるから機嫌直せよ
うん、俺に二言は無いよ

ってえ?
なんで姫抱き?
何でもってのは料理のことだって(ぽかすか

ホント…仕方ない奴だな(ぎゅ



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  ■「告白必勝法」本探してた
うるさい。しっし(本を隠し赤面でトキワを追い払い)
タイガ!?ケセラや動物の写真集ないかと思ってこれにする
?偶然あっただけだから
大変だね。一緒にいってもいい?

見つけてくれて嬉しい。鼻が利くみたいだ
僕以外にもだけど…
持つの手伝おうかな
考え歩く

!楽しんでる
うんもらうよ

タイガは明るくてきさくで友達が沢山いて
僕の自慢の友達で、好きでいてくれる
自分の気持ちを見極めたくて、家柄の事情もあって
返事を待たせてたけど
あの悪夢のように気持ちが変わってしまうかも
嫌だ、そんなのは
わかったんだから言わないと
裾を掴み、目があい言葉にできない

(好きだ。僕も好きなんだ)
傘入って…運ぶの手伝うよ


頑張ろう



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ラキアがヤキモチ。

前段、切っ掛け
ラキアの双子の兄が遊びに来てたからさ。
こいつ、ラキアの事を愛している、恋人だと言って憚らない奴で。
今ラキアはオレと一緒に暮らしているし?
兄は恋人じゃないってラキアも言ってたし?
ラキアとべたべたするのも阻止せねば。
オレがもっぱら奴の相手をしていたんだ。
そしたら意外と話が合った。
好きな人が同じだから?でも、ラキアは渡さないぞ。

奴が帰った後、ラキアが冷たかった。
しまった。奴を構いすぎたか。
「あいつとラキアが喋るの嫌だったからさ」
少しスネ気味に言ってみた。本当の事だし。
それにオレの知らないラキアの事を聞き出すチャンスだったし。
「知らないラキアの昔話が聞けて嬉しかったぜ」



明智珠樹(千亞)
  ★カフェにて妬かれ

「千亞さん、ケーキが美味しいお店見つけたんですよ」
甘味好きの千亞効果で甘味にハマり始めた明智

「あら、明智さん!」と嬉しそうな店員と当たり障りのない会話を

「千亞さん、お勧めはフルーツタルトですよ。あ、私は…」
いつものケーキセットね、と笑む店員。

ケーキを食べる千亞に笑顔が見られず、不安に。
「…すみません、あまり口に合いませんでしょうか?」
小声で千亞に。

千亞の態度や視線にピンと来て。

「店員さん!私の愛しい千亞さんに紅茶のおかわりをっ」
「愛しの千亞さんと一緒に食べるケーキは更に美味しいですね、ふふ!」
好き好きアピール&店員に自慢げに
「私が以前お話した、甘味好きな愛し子ちゃんですよ」


スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
  彼女と話してる所を見られた時は焦った
映画でも観ようかって待ち合わせした喫茶店
たまたま彼女も居たんだ

俺と彼女はお付き合いをしてる
小柄でちょっと引っ込み思案な、ミスト好みのかわいい娘だ
気に入ってもらえたみたいで良かった

矢継ぎ早に飛ぶ質問に眉をしかめる
なんであの娘のことばかり聞くの
いま目の前に居るのは俺なのに
ミストが俺のことで喜んでくれるのは嬉しいよ
でも俺を見てくれないのは嫌だ…

「いい加減にしてよ!」声を荒げて遮る
瞬間しまったと思った
これじゃまるで…
彼女を独占しようとしてるみたいだ

違うのに。きっと勘違いされた
でも
ミストが幸せなら、なんでもいいや…
どうでもいい
俺のすべては彼のためにあるんだから


●やきもちうさぎ
「あら」
「こんにちは、今日もお邪魔しますね」
『明智珠樹』の来店に気付いた店員は、嬉しそうに頬をゆるめた。話に応じる珠樹も笑顔で楽しそうだ。
 そんな二人の様子を、『千亞』はむすっと眺めていた。
 なぜこんなことになったのか。はじまりは、つい十分ほど前にさかのぼる。

 最近、珠樹は千亞の影響をうけ甘いものに凝るようになっていた。そんな折、「これは千亞さんを誘わねば!」という店を見つけたのだ。
「千亞さん、ケーキが美味しいお店見つけたんですよ」
「へぇ、行ってみたいな」
「千亞さんならそう言ってくれると思ってました、では早速行きましょう!」
 色よい返事をもらった珠樹と千亞が向かったのは、シックなカフェである。軽やかな鈴の音に続き、店員に迎えられたのだが――

「また来てくれたのね」
「ここのケーキがとても美味しかったもので」
 席へと案内した店員は珠樹にばかり、というより珠樹にしか話しかけない。千亞には微塵も興味がないのだろう。あからさまな態度にム、としながらも、メニューを手に取る。こんな時こそ甘いものだ。
「千亞さん、お勧めはフルーツタルトですよ。あ、私は……」
「いつものケーキセットね」と微笑む店員に珠樹は頷いた。息のあったやりとりに、千亞はなんともいえない気持ちになる。
「ん、じゃあタルトと紅茶を」
 ほどなくして、ケーキとタルトが運ばれてくる。
 いちごやオレンジ、キウイ、ブルーベリー。色とりどりのフルーツがたっぷりと乗ったそのタルトは、看板に相応しい華々しさだ。味も一級なのだろうけれど……いつものように、美味しいと思うことはできなかった。
 うつむきがちにタルトを頬張る千亞に、笑顔はない。
「……すみません、あまり口に合いませんでしょうか?」
「ん、いや、美味しいよ」
 そう答えるも、千亞の顔は浮かないままだ。
(美味しいハズなのに……)
 どんなに舌へ意識を向けようと、味はぼんやりと曖昧なままだ。
 ちらりと周囲をうかがうと、珠樹へ視線を向ける女性が何人もいた。中でも熱烈なのは、先ほどの店員だ。
 今まで奇行と妄言ばかり目についていたから、彼が異性にどう思われているかなんて考えたこともなかった。
(コイツ、黙ってればそれなりに見えるんだよな)
 神人への好意を自覚しはじめた千亞は、今更な事実に唇をかむ。
 一方、可愛らしい笑顔が見れると思っていた珠樹は、どうしたものかと頭を悩ませていた。だが――周囲を気にするような視線、へにゃんと元気のない兎耳、大好きなものを前にしての浮かない顔に、ピンときた。雲間から一筋の光がさし込んだ、というのはこのことをいうのだろう!
「店員さん! 私の愛しい千亞さんに紅茶のおかわりをっ」
「な、何を言い出すんだっ!?」
 急に声をあげた珠樹に、千亞は頬を赤くさせた。けれど、彼は止まらない。
「愛しの千亞さんと一緒に食べるケーキは更に美味しいですね、ふふ!」
 惜しげもなく愛の言葉を告げる珠樹に、千亞はおどおどするばかりだ。周りからの視線が痛い。
 おかわりを注ぎに来た店員は唖然としているが、珠樹は気にしない。それどころか、上機嫌に千亞の紹介をはじめる。
「私が以前お話した、甘味好きな愛し子ちゃんですよ」
 ――相変わらず、恥ずかしいことを言うやつだ!
 千亞の顔が真っ赤に染まる。
 けれど。
(ちょっと……安心した、なんて)
 ティーカップを手に、千亞は新たに注がれた紅茶を見つめる。そして、一言。
「ありがと、珠樹。……また一緒に来よう」
 はにかみながら伝えられた言葉に、珠樹は「はい」と笑みを浮かべた。
 タルトを一口。
 今度は適度な甘さが確かに舌に伝わってきて、千亞は頬を緩めるのだった。

●こっちを見てよ
「あっ」
 喫茶店で「彼」の姿を見つけた『スコット・アラガキ』は、思わず焦りの声をあげた。どうしたの、と彼女に問われるも、スコットの目は彼――『ミステリア=ミスト』から離れない。
 スコットがこの喫茶店に来たのは、一緒に映画を観ようと約束していたミストと合流するためだ。そこにたまたま彼女がいて、少し話していたのだが……まさか、彼に見られるなんて!
 スコットの彼女は、小柄でちょっと引っ込み事案なかわいい子だ。更に言えば、ミスト好みである。
 スコットを見つけたミストは、彼の前に座る少女を見て「ほう」と笑みを浮かべた。おもしろそうに二人を見比べ、そして自分も席につく。
(これが最近付き合いだしたっていう彼女か。地味だけどそこがまた楚々として……こりゃあ中々)
 ミストの様子から、スコットは彼が彼女を気に入ったのだとすぐにわかった。良かったと思うも、楽しそうな彼の姿に黒く、重い感情が降り積もっていく。
「いい娘を捕まえたなぁ、おい!」
 ミストは好奇心に任せ、彼女へ次から次へと質問を投げかけた。たまらず、スコットは眉をしかめる。
(なんであの娘のことばかり聞くの。今目の前に居るのには俺なのに)
 スコットの眉間のしわは、少しずつ深くなっている。
 ――ミストが俺のことで喜んでくれるのは嬉しいよ。でも俺を見てくれないのは嫌だ……。
「いい加減にしてよ!」
 気付けば、声を荒げて質問を遮っていた。しかし、ミストはにやりと笑い、
「照れるなよ」
 とスコットを小突く。かっとなり、思わずその石膏のような、美しい手を払いのけた。乾いた音が周囲に響く。
 瞬間、スコットは「しまった」と焦りを露わにした。
(これじゃまるで……彼女を独占しようとしてるみたいだ)
 違うのに!
 二人の間に流れる空気に耐え切れなくなったのか、彼女はおそるおそる、「隣の本屋に用があるから」と口を開いた。
 ミストは彼女をじっと見つめ、静かに考察する。
 彼女の姿から見えるのは、遠慮。そして
(俺への怯え、か。半々といったところかな。小犬みたいに震えて、かわいい嬢ちゃんだ)
 逃げたそうな彼女に、「まあ待て」とミストは告げる。
「邪魔者は退散するから、二人で恋愛ものでも観てこい」
 そう笑って、席を立つ。
(きっと勘違いされた)
 困惑したような彼女の視線を受け流しながら、スコットは「でも」思う。
(ミスト、嬉しそうだったな。彼が幸せなら、なんでもいいや……。どうでもいい)
 スコットがミストに抱く想いは、歪といえるかもしれなかった。けれど、スコットは微塵も疑問に思わない。自分のすべては彼のためにあるのだと、信じて疑わない。

 ――ああ、気分がすこぶるいい!
 二人の元を去ったミストは、上機嫌だった。
 スコットの瞳は最初から、必死で訴えていた。あんなに可愛い娘より俺が大事だと。天から二物も三物も与えられたようなあの男が!
(大切な人を前にしても、自分を必死に求めるだなんて、高揚せずにいられるだろうか?!)
 そこまで考えて、ミストは我にかえった。
「……なに喜んでんだ、俺は」
 自分の浅ましさに気づき、ミストは絶句する。
 呆然と。
 まるで影が具現化したような悲しい姿が街中で一人、佇んでいた。

●想いが留まることを知らない
 灰色の雲が空を覆う、ある日のこと。
『セラフィム・ロイス』は本屋へと訪れていた。探しているのは、告白の必勝法が書かれた本だ。なぜ探しているのかと言われれば、精霊・『火山 タイガ』への想いを自覚したからに他ならない。
 タイガは幼い頃からセラフィムを支えてくれた大切な人だ。想いを告げられた時はうれしかった。しかし――まだ、返事はできていない。だが、いつか必ず返事をする……できる日がくる。その日のために、予習をしておかなくては。
「セラフィム?」
「……トキワ?」
 気になる本を手に取ると同時に声をかけられ、振り返ると知人である画家・トキワの姿があった。こんなところで会うなんて、とセラフィムは動揺する。
「どうしたんだ、こんなところ。……ん? その手に持ってるのは……?」
「うるさい。しっし」
 セラフィムは赤面した顔を見られないよう本で顔を隠し、空いている手をぱたぱたと振った。虫を払うようなその仕草に、トキワは苦笑してしまう。
「セラ! 外に来てたのか」
「タイガ!?」
 と。セラフィムの姿を見かけたタイガが、小走りにやってきた。
 セラフィムは自分が持っている本を見られるのはまずいのではと思い当たり、慌てて手に持っていた本を棚へと戻す。
(見つけてくれて嬉しい。鼻が利くみたいだ)
 ふわりと頬を緩めるセラフィムとは反対に、トキワに気付いたタイガは「っあいつ、また」と複雑そうな顔を浮かべた。だが、トキワは馬に蹴られるのはごめんだというように手を振ると、静かにその場を去る。
「ってアレ? いいのかよ行かせて」
「偶然会っただけだから」
 質問に首をかしげたセラフィムを見て、タイガは「なんだ」と肩の力を抜いた。
「そういうタイガはどうしてここに?」
「俺? 俺は買出し中。商店街の特売行ってこいってさ。ほら見ろよ」
 タイガはうんざりという顔でメモを見せた。上から下までびっしりと買うものがまとめられていて、セラフィムは目を丸くする。
「大変だね」
 タイガの腕にはすでに大きな袋が下げられているのに……!
 そこまで考えて、「そうだ」と思いつく。
「一緒に行ってもいい?」
「いいけど。嬉しいけど……俺でいいのかよ」
「うん?」
「いや、何でもね! 行くか」
 トキワと一緒じゃなくていいのか。なんて聞こうとしてしまって、タイガは思いとどまった。
(今は俺を選んだんだ。余計なこと考えて一緒の時間無駄にすんのも馬鹿らしい!)

「もーちょっと安くしてくれない? このとーり!」
「もう、今回だけだよ?」
 ありがとう! とタイガの明るい声が響く。
 商店街へ来たタイガは、値切りながら買い物をこなしていた。セラフィムも、自分にできることはないかと考える。
(持つの手伝おうかな)
 声をかけようとした瞬間、タイガは何かに気付いたのように「あっ」と声をあげた。
「久しぶり! でっかくなったな~」
 タイガの視線の先には、十歳くらいの男の子がいた。話しかけられた男の子も、嬉しそうに応じている。
(……タイガの鼻は、僕以外にも効くみたいだ……)
 ちくり。胸のあたりに鋭い痛みが走る。そんな時、ひやりとした空気が鼻先をかすめた。
「セラ、おすそ分け。楽しんでるか?」
 タイガの手にはアイスが握られていた。さっきの男の子にもらったようだ。
 二分割できるそれをぱきりと割ると、片方をセラフィムに差し出す。セラフィムは「楽しんでるよ、ありがとう」と微笑みながら、アイスを受け取った。きちんと笑えているか不安だったが、タイガの様子を見る限り問題はなさそうだ。
(タイガは明るくて気さくで友達が沢山いて、僕の自慢の友達で、……好きでいてくれる)
 あの日……タイガが想いを告げてくれた日を思いだすと、今でも心が暖かなもので満たされる。けれど同時に、不安もあった。
(自分の気持ちを見極めたくて、家柄の事情もあって返事を待たせてたけど……あの悪夢のように、気持ちが変わってしまうかも)
 タイガが、僕の傍を離れてしまう。
(嫌だ、そんなのは)
 自分の気持ちは決まっている。だから……わかったんだから、言わないと。
 セラフィムはタイガの服の裾を掴んだ。「どした?」と尋ねるタイガに、胸が締め付けられるような痛みを覚える。言葉が、うまく出てこない。
(好きだ。僕も好きなんだ)
「セラ?」
 何か言いたげなセラフィムに、タイガは首を傾げた。
(普段と違う……?)
 いやまさか、まさかな。
 期待しそうになる自分をいさめていると、ぽつりと、頬に冷たい雫があたった。
「つめて。……雨か」
 雨は次第に勢いを増し、ぽつぽつと地へ落ちてくる。
「傘入って……運ぶの手伝うよ」
「サンキュ!」
 セラフィムは持っていた傘を開き、タイガの荷物の一部分を引き受けた。
 なんとなく、続きを話せる空気ではなくなってしまった。けれど、タイガに傍にいてほしいのは変わらない。
 他の誰でもない、僕の傍に。
 ――頑張ろう。
 タイガと肩を並べ、帰路につく。
 いつかこの想いを余すことなく伝えようと、そんな決意を胸に抱きながら。

●お互いに、やきもちやき
「やあ」
「なんで来たの……」
『ラキア・ジェイドバイン』は、突然家にやって来た双子の兄・ラキシスに嫌そうな顔を向けた。ラキシスは、弟である自分への愛情が過剰で面倒なのだ。
(それに)
 今日は『セイリュー・グラシア』とゆっくり過ごそうと思っていたのに。
 じとり。にらみつけるも、ラキシスは飄々と笑って受け流すだけだ。
「つれないな、恋人が会いに来たというのに」
「冗談はやめてよね」
「ラキアー? 誰が来たんだ……って」
 ラキシスの姿を見たセイリューは、げっと顔をしかめた。ラキアのことを愛している、恋人だと言い張る彼に、あまりいい思い出がないのだ、当然の反応だろう。
(でも今、ラキアはオレと一緒に暮らしてるし? 兄は恋人じゃないってはっきり言ってたし?)
 セイリューが信じているのは、ラキシスではなくラキアだ。わざわざ追い返す必要はないだろう。
 ……だけど。
(ラキアとべたべたするのは阻止せねば!)
 そう決めたセイリューは、積極的にラキシスに話しかけていた――ら。
(……あれ?)
 意外と話があうことに気付いてしまった。好きな人が、ひいては好みが同じだからだろうか? もちろん、ラキアを渡す気はさらさらないけれど。
 そんな二人の様子を、ラキアはつまらないというように眺めていた。
 セイリューがラキシスに積極的に話しかけており、しかも結構盛り上がっているのだ。
 ――ラキシスにセイリューをとられてしまうかもしれない。
 そこまで考えて、はっとする。
(双子の兄に嫉妬って、どうなの自分! ……でも、雰囲気は違っても外見同じだし。二人は前衛系の職だから、バトルの話をしても合うだろうし! あ、そういえば、二人とも身体を動かすのが大好きだ!)
 ラキアが悶々としていると、ラキシスがすっと席を立つ。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「もう来なくていいから、ラキシスの馬鹿!」
 ……やっと帰ってくれた。
 はあと大きなため息をつきながら、ラキアはつい、先ほどまで抱いていた気持ちを口にしてしまう。
「随分、話が弾んでいたね」
 言葉に棘があるとわかっていても、言わずにいられなかった。
「まあたしかに、思ったより話が分かるやつだなとは思ったけど……」
「ふーん」
 そう答えてから、失敗したとセイリューは悟る。
(しまった。奴を構いすぎたか)
 ラキアのそっけなさの原因に心当たりがありすぎる。
「でもさ」とセイリューを唇を尖らせた。
「あいつとラキアが喋るの嫌だったからさ」
 拗ね気味に告げられた本心に、ラキアは目を丸くした。
「それに、オレの知らないラキアの事を聞き出すチャンスだったし。知らないラキアの昔話が聞けて嬉しかったぜ」
(それって、先にセイリューがヤキモチを焼いたってことだよね?)
 ラキアは、初めてセイリューとラキシスが対面した日のことを思い出した。
「そうだよね、以前会った時も微妙な顔してたもんね、セイリューってば!」
 ラキシスに焼いていたのは自分だけではない。セイリューも同じだったと知って、ラキアは気持ちが上向くのがわかった。我ながら現金だな、なんて思う。
(自分と出会う前の事も知りたいのも……悪い気はしないし)
 目元を和らげるラキアに、セイリューは「オレの気持ちもわかったか?」と尋ねる。
「うん、わかった。ゴメンね?」
 ダメ押しとばかりにセイリューがそう言うものだから、ラキアの気持ちはすっかり元へ戻っていた。いや、ラキシスが来る前よりもいいくらいだ。
 笑顔を浮かべるラキアにほっと肩の力をぬいたセイリューは、この笑顔を守るのはオレの役目だと改めて強く思う。
 たとえ相手が血の繋がった兄であろうとも、この役目は渡せない。

●一番、好きな
『ヴェルトール・ランス』は拗ねていた。原因をつくったのはいうまでもなく『アキ・セイジ』だ。
「いらっしゃいませ。新刊をお探しですか?」
「ああ。やっと発売すると聞いてな」
 この日、ヴェルトールは本屋へ行きたいというアキに付いてきていた。だが、アキはこの本屋の店員と、楽しみにしていたという新刊や作者について話し込んでいる。
 店員は、小さな体と背中の中ほどまであるさらさらの髪、そして眼鏡が知的な印象を与える少女だ。ヴェルトールも彼女がいい子であることは知っているし、時折会話もするのだが……アキの視線が一向にこちらを向かないのはいただけない。
 それに。
(彼女の目は、恋する少女のものだ。絶対そうだ!)
 自分も彼に恋している身だ、彼女の気持ちはよくわかる。だが、あまりいい気はしない。
(セイジは彼女の気持ちに気付いていないから、ああして話せるんだろうけど……)
 鈍感め。
 ヴェルトールはそう思いながら、「腹減った」と会話に割り込んだ。実際、それほど腹は減っていなかったが、早くこの場を去ってしまいたかった。そんな思惑に気付かないまま、アキは「仕方ないな」と笑って、いくつかの本を購入すると帰路につく。
 だが、家についてもヴェルトールの気は収まらない。
「なあ、本屋の店員可愛いよな」
「ああ。気配りもうまいし、話しやすいしな」
「……鈍感め、褒めやがる」
 予想できていたとはいえ、素直にほめるアキに、ヴェルトールの機嫌はますます下がっていく。
「眼鏡っ子って好き?」
 そう聞きながらも、答えを聞くよりも早くヴェルトールは伊達眼鏡をかけてみせた。あの店員とは違って、丸いフレームのものだけれど。我ながら子供じみてるな、なんて思いながら、反応をうかがう。
 一方アキは、ヴェルトールの様子がおかしいことに気付き、首をひねっていた。
「どうしたんだ?」
 ヴェルトールはむっと頬を膨らませるだけで、応える気はないようだ。
(怒ってるのか? 俺が何かしてしまったのだろうか……)
 今日のことを振り返る。
 腹が減ったと言っていたし、そのせいだろうか?
 アキは本屋で薦められたレシピ本を開き、ヴェルトールを振り返った。
「な、どれが好き?」
「あの店員に聞いたらいいだろ。俺より優しいだろ」
「えー……」
 いじけたように背を向けるヴェルトールに、アキはいよいよ困惑した。
(なんでそうなるんだ?)
 わけがわからない。眉尻を下げるアキの耳に、小さな呟きが届く。
「本屋と仲が良くて良かったなってさ。怒ってないし」
(あー……そういうことか)
 やっと納得がいったアキは、「まったくしょうがない奴だな」と苦笑した。だけど、嬉しい気持ちも少なからずあって。
 ぽふ、とヴェルトールの頭を撫でる。
(……む。ヤキモチに気づかれた)
 だが、心地良い重みに頬が緩んだ。
(これって、セイジなりの『好きだよ表現』なんだよな)
 ふふ、と笑みがもれる。しかし同時に、胸の奥からある想いがわいてくる。
 ――もっと。
 獰猛な、まるで獣のような欲。
「お前の好きなもの何でも食わせてやるから機嫌直せよ」
「何でもいいのか?」
「うん、俺に二言は無いよ」
 アキからの思いがけない言葉に、ヴェルトールはぱっと顔を輝かせた。
「なら一番好きなものだな」
「って、え?」
 ヴェルトールはさっとアキのひざ裏と背中に手を回すと、軽々と抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこというものだ。
 慌てるアキに、ヴェルトールはにいっと笑ってみせる。
「二言無いんだろ?」
「ばっ、何でもってのは料理のことだって!」
「いただきまあす」
 何をしようとしているのかを察したアキは、ヴェルトールの厚い胸板を叩いた。しかし擬音をつけるとしたら『ぽかすか』という感じの、はっきりいえば些細な抵抗にすぎない。
 ヴェルトールはそれはもういい笑顔で寝室へ進んでいく。
 アキも腹をくくり、ランスの首へ、腕を回した。
「ホント……仕方ない奴だな」
 ぎゅ、と。甘える子猫のような仕草に、ヴェルトールの口元が弧を描く。
 この後どうなったかなんて、聞くだけ野暮というものだろう。
 ――なんていって、結局、ランスの腹の虫が主張をはじめたのでご飯の準備にとりかかることになるのだけれど。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月30日
出発日 07月08日 00:00
予定納品日 07月18日

参加者

会議室

  • [12]明智珠樹

    2015/07/07-23:58 

  • [11]明智珠樹

    2015/07/07-23:58 

    ふふふふふふ!アキさんご両人、セイリューさんご両人、何卒よろしくお願いいたします、ふふ…!
    皆様のもっちりお餅が楽しみです。焦げたっていいじゃない、人間だも(略)

    むしろ私は濃厚ヤキモチ見てみたいので楽しみです。
    私もハンカチキィーーッ!ってやりたかったです、ふふ。

    どうか皆様が思い出深い一日となりますように、ふふ…!

  • [10]アキ・セイジ

    2015/07/07-22:10 

    プランは提出できているよ。
    皆のヤキモチがどうなってるか楽しみだな。

    俺んところ?
    俺は焼かないぞ(と本人は主張しており
    ランスは焼くほうだな(真実
    実は、ランスが本屋で急に不機嫌になって困ってる
    ワケガワカラン(´・ω・`)ドウシタライインダー

  • [9]スコット・アラガキ

    2015/07/07-19:35 

    セイリューたちとセイジたちもよろしくねー。
    こっち(男性側)ってすね毛は薄そうでキャラは濃い人ばっかりじゃない?
    甘いお餅もいいねぇ~。肌寒い梅雨時にお汁粉たべるのもありだよね!

    プランは提出済み!…だけど、やきもちって焼き加減がむずかしいんだね。
    アクションから焦げた匂いが立ち込めてるよ。
    リザルトで空気壊してたらごめーん…。
    かわいいやきもちを求めてるだろうGMさんにもごめんなさいだ…。

  • [8]セラフィム・ロイス

    2015/07/07-01:03 

    :タイガ
    いんやーセイリュー含めて濃い面子だと思うぜ♪ま、頑張ろうな!
    セイジ達とセイリュー達もよろしく!
    プランは俺らも提出済みだ

    葛餅、わらび餅は夏にはほしいなあ。あ!大福!アイスの大福くいてえ!
    『・・・・・・今度買ってあげるから(ぽむ』

  • [7]明智珠樹

    2015/07/07-00:09 

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    スコットさんは初めましてだな!
    他の皆は今回もヨロシク。
    やや濃い目の面子…気のせいか。

    皆のヤキモチ騒動がどんな感じなのか楽しみにしている!

  • [5]アキ・セイジ

    2015/07/05-00:05 

  • [4]セラフィム・ロイス

    2015/07/03-23:06 

    『セラ:餅?餅はお汁粉がいいなあ。でもなんで餅・・・・・・あ』

    :タイガ
    って、相変わらず謎解きが苦手つか緩いセラと俺タイガだ!
    明智たちはもうそんなになるか!驚いた。こっちがゆっくりしてたのもあるしなー
    スコット達は奇遇!好みが一致したんかな♪またよろしくな

    俺は醤油とあんこときな粉、甘辛いのやずんだも好きだなー。ああ、餅くいてぇ
    『ずれてる。ずれてるよ・・・。えっとヤキモチ皆の健闘ねがってる。僕らも頑張るよ』

  • [3]明智珠樹

    2015/07/03-17:39 

    ふ、ふふふうふふ。甘い餅なら何でも来い!な千亞さんと
    もっちもちのお尻がチャームポイントの明智珠樹です。何卒よろしくお願いいたします、ふふ。
    セラフィムさんご両人は尻好き兎以来ですね…!!結構なお久しぶりでビックリしました。
    よろしくお願いいたします、ふふ。

    そしてスコットたんとミストたんは奪還ではありがとうございました。
    とてもとても安堵、そして楽しかったです、ふふ…!!

    どなたがどこでヤッキモッチなのか今から楽しみですね。
    どうぞ良き一日が過ごせますように…!!きゅるるん★

  • [2]スコット・アラガキ

    2015/07/03-00:51 

    餅にはのり巻いて醤油派のミストとピザ餅派のスコットだよー。
    エピの主旨は理解してるのでだいじょうぶです(まがお)

    セラフィムたちとは二連続で会ったね!
    場違いな挨拶になるけど、明智たちは【奪還】エピお疲れさまの、今回はハピでよろしくねぇ。

    みんなの嫉妬の炎でこんがり焼けた餅がどんな味か、今からリザルトが楽しみだな!

  • [1]明智珠樹

    2015/07/03-00:19 


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