にゃんこのたまりば。(櫻 茅子 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●のんびり、きままに
『にゃんこのたまりば。』という店がある。名前の通りたくさんの猫がいて、ご飯を食べることができるお店だ。
 この『にゃんこのたまりば。』はそこそこ大きく、数十匹の猫が働いている。血統書付の由緒ただしい子から、野良であちこちさまよっているところを見込まれた子まで、個性豊かな子たちがのんびりとマイペースに仕事をしていた。
 昼は窓辺で気持ちよさそうに昼寝をして、夜が近づくと少し遊びたがりになる。気ままな彼らの姿は、疲れた人々に癒しを与えていた。入場料、ご飯の値段ともにリーズナブルなのも嬉しいところだ。

●恋を応援するオトメ?
 さて、そんな『にゃんこのたまりば。』の中に、ひときわ注目される猫がいた。猫の名前は「オトメ」という。身体はふかふかと柔らかい白い毛で、足先は靴下のように黒い毛でおおわれている美人さんだ。
 オトメが何故注目されているのかというと、お腹にハートの模様があるから――というだけでなく、この子のハートを見ることができると、恋が叶うという噂がじわりと広がっているからである。
 噂のはじまりは、以下のようなものだ。
 オトメはとても気まぐれな猫で、仕事の時間になっても自分の家や椅子の下などでのんびり自分の時間を過ごしているか、棚など高い場所に陣取って癒されにきた人々を見下ろしているかのどちらかであることが多かった。おもちゃにもあまり興味を示さないので、なかなか触れ合えず、全身を見ることができないのだ。客商売には向いていないように見えるが、「このそっけなさがたまらない」と、ファンはたくさんいた。
 それがある日、一人の女性の元へ「構ってくれ」というように甘えに行った。何がオトメの琴線に触れたのかはわからない。だが本当に、店員にも見せないような幸せそうな顔で、ハートを見せつけるようにごろんと寝転んで見せたのだ。
 すると後日、オトメが甘えに行った女性から連絡があった。「好きな人から告白された」、と。その後もちらほらと、「好きな人から遊びに行かないかと誘われた」「声をかけてもらうことが増えた」といった連絡が入るようになった。
 連絡した人たちの共通点は、オトメのお腹にあるハート柄を見たということで……以来、オトメは人気者になったというわけだ。

 ――ちなみに、『オトメ』はオスである。名前を呼んでもなかなか反応を返さないのは、名前が気に入っていないからかもしれない。

●ある神人と精霊のひととき
 きれいな水色の空が広がる、休日のこと。
「『にゃんこのたまりば。』だって」
 精霊と休日を楽しんでいた神人は、看板を見つけて足をとめた。神人にあわせ、精霊も看板を見、続いて窓に張られたちらしを読む。猫の絵が描かれたそれには、軽食も食べられるとあった。ちょうど、今は昼時だ。
「……寄っていくか?」
「いいの?」
 精霊の提案に、神人は顔を輝かせた。顔に「寄りたいです」とある神人を無視して別の場所に行こうと言えるほど、精霊も薄情ではない。
 頷き、店の中へと入ると、猫の出入りを制限するためだろう、木でできた仕切りが置いてあった。店員の案内でさらに奥へと行くと、猫たちが自分の時間を謳歌している。
 愛らしいその姿に、神人はすっかり心奪われたようだ。嬉しそうな神人に、精霊もふと頬を緩める。と。
 にゃおん。
 雑誌やグッズが並ぶ棚の上から、白い猫が見下ろしていることに気付く。足先だけ黒くて、まるで靴下をはいているようだ。どこか品定めするような瞳に、精霊はなんとなく落ち着かない心地になった。
 だが、神人に呼ばれ視線を外す。

 ぱたり。しなやかな猫の尾が、何か思案するように揺らされた。

解説

●にゃんこのたまりば。について
『500ジェール』で入場可能な、個性豊かな猫たちが働くカフェです。
昼時は寝ている子が、夕方になると活発になる子が多いようです。
中でも注目を浴びているのが「恋を叶える」と噂されるオトメですが、彼は気まぐれで滅多に近くに寄ってきません。

●にゃんこのたまりば。メニューについて
・オムライス:300ジェール
 スタンダードなオムライスです。
 ケチャップはご自分でおかけいただく形になりますが、
 店員に相談すれば簡単な文字や絵(例:「すき」という文字、猫の顔等)を書いてもらえます。
  ※ケチャップで書けそうにない、難しい文字や絵はご遠慮くださいませ。

・サンドイッチ:300ジェール
 クリームを挟んだものが一つ、野菜とハムを挟んだものが二つの、計三つがセットになったサンドイッチです。
 猫のような形をしたパンを使われており、その愛らしさから高い人気を誇ります。

・にゃんこ仕立てのパフェ:200ジェール
 バニラアイスに猫の顔が描かれたパフェです。
 可愛らしく、またほどよい甘さで女性に大人気です。

●消費ジェールについて
入場費『500ジェール』+軽食のお代金
特に食べたいものがない方は500ジェールのみいただきます。

●プランに書いてほしいこと
・「にゃんこのたまりば。」に来た経緯
 オトメに会いに来たのか、それとも純粋に猫たちと戯れに来たのかを教えてください。
 偶然見つけた、ちらしを見て気になって等、簡潔にで構いません。

・どんな猫と遊んだのか
 猫スタッフの中には、あなたのおめがねに叶う子がきっといます。どんな子(例:真っ白で甘えん坊な子)とどんなことをして遊んだのか教えてください。
 オトメに会いに来た方は、ハート柄を見れたか、実際にいいことがあったか(例:一緒に出かける約束をした等)の明記もお願いします。

※親密度によっては、アクションが不成功となる可能性もございます。ご了承くださいませ。

ゲームマスターより

閲覧ありがとうございます。またしてもお邪魔します、櫻茅子です。

猫たちに囲まれたい方、オトメに会いに来た方、いろんな方がこの『にゃんこのたまりば。』に顔を見せてくれると嬉しいです。
猫がいる空間って、なんでか優しい空気が流れている気がします。そんな空気をリザルトに残せたらいいなぁと思いつつ。

では、よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

鞘奈(ミラドアルド)

  ・店にきた経緯
鍛錬の帰り道にいつもと違う道を通ったらたまたま見つけたのよ
私は興味なかったけど、ミラが珍しくどうしてもというから仕方なく
猫は嫌いじゃないけど…野良猫で十分

……パフェがあるのね
小腹がすいてるしいただこうかしら
……うん、丁度いい甘さでおいしい

猫はいるだけで癒される
やたら甘えてこないのも好き
好みの猫は、自由な子。柄は気にしない
甘えられなくても気にしない
ミラの付き合いで来ただけだしね

……(オトメを見て)
偉そう、品定めされてる気分……
落ち着かないわね


ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
  ☆夕方晩御飯の買出し中に偶然店を見つける
ねね、エミリオさん「にゃんこのたまりば。」だって!
ちょっと寄っていこうよ、お願いっ(精霊を見つめ)
わーい♪ ありがとう、エミリオさん!

☆「にゃんこのたまりば。」にて
(精霊に指摘され)うっ…だって、ここでしか食べれないものばかりなんだもの…だめ…?
うん、分かった!
すみませんー『にゃんこ仕立てのパフェ』1つくださいー
ふふ、何だか兄妹の関係に戻ったみたい

・料理を待っている間、黒猫と触れ合う
あれ…?あの子、1人だけ隅っこに…おいで?
(寄ってきた猫を撫でる)君大人しいね、エミリオさんにそっくり…きゃっ
ふふ、頬舐められちゃった、かわいいな
エミリオさん、どうしたの…?


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ◆お昼時にたまたまお店の前を通り興味を持った

猫カフェ…ふふ、弓弦さん本当に猫大好きだね
猫にもいろんな子がいるからね、入ろう!

席に着いたらオムライスを2つ注文するね

弓弦さんが楽しそうに猫と遊んでいるのを眺めながら私も気になる子を探すね
…こっちを見ている、味のある顔のあの猫…妙に気になっちゃうね

オムライスが来たら弓弦さんに猫の顔を描いてみないか提案するよ
私は可愛くデフォルメされた猫を描くね
うん、上手くできた!
弓弦さんのは…中々個性的だね
ふふ、交換する?
大丈夫だよ…それにほら、あの子に似てない?
さっき気になっていたあの子を指さすね

ああいう子って妙に惹かれるんだよね
それに、美味しさは変わらないからね!


ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  わあ、ほんとににゃんこいっぱいっ! 可愛いっ♪
可愛い猫がいっぱいいるって聞いたから一回来てみたかったのー。
ヴァル、一緒してくれてありがとねっ。

サンドイッチも猫の形なのねっ。可愛いし美味しい~幸せ~。

ねこじゃらしとかあるかしら?
ふりふりして猫と遊ぶのっ。
長毛の真っ白猫さんなでなでしたいなあ。

あら? オトメも遊びたい?
おいでおいでー、一緒に遊びましょっ♪

楽しかったわねっ、また来れると嬉しいなっ。


クロエ(リネル)
  偶然ちらしを発見
きっと可愛い猫達が一杯!と期待膨らませ来店

可愛い…!
ぎゅーっとしたいです、ぎゅーっと!
ああっ、どうして逃げられるんでしょう…
勢いのままに近づいたら逃げられてしょぼん
ご飯食べながらの提案にそれはいいですね!ところっと元気取り戻し

サンドイッチ注文
食べつつ猫の様子物色し目じりを下げる

窓辺で眠っている真っ白な子猫発見
起こさないように静かに近づき眺め可愛さに心奪われ
この気持ちをぜひリネルさんにも!と振り返ったら目に入った様子に思わず噴出す
動物に好かれる人に悪い人はいないですよね、と何だか嬉しい

猫ちゃんたち可愛かったですね!
素敵な時間を過ごせてよかったです
リネルさんはどうでした?



●にゃんこはわかっているのです。
 穏やかに降り注ぐ太陽の下。
『リネル』と歩いていた『クロエ』が『にゃんこのたまりば。』のちらしを見つけたのは、偶然のことだった。
(きっと、可愛い猫たちがいっぱいです!)
 クロエは早速、「行きましょう!」とリネルを誘った。 
 一方リネルは、(金を払ってわざわざ猫を見るのか……)という気持ちだった。だが、瞳を輝かせる神人を見ていると、口に出すのは憚られる。
「ご飯も食べられるそうですよ!」
 その言葉を聞き、リネルはこくりと行くことを了承した。別段、猫に興味はなかったのだが、丁度お腹がすいていたのだ。
 クロエは期待を膨らませながら、リネルは安いご飯があればいいのだがなんて考えながら、『にゃんこのたまりば。』へ向かうのだった。

 店内に足を踏み入れたクロエは、気ままに自分の時間を過ごしている猫たちの姿に「可愛い……!」と歓声をあげた。
「ぎゅーっとしたいです、ぎゅーっと!」
 衝動のままに、近くで寝転んでいた猫に近づく。だが、猫はびっくりしたように身体を起こすと、急いでその場を離れてしまった。
 クロエは残念に思いながらも、めげずに挑戦を続ける。しかし、どの猫たちも反応は同じだ。触れることすら叶わない。
「ああっ、どうして逃げられるんでしょう……」
(あの気迫で来られたら逃げるよな)
 逃げられ続け、しょんぼりとするクロエ。そんな彼女の肩を、リネルは「どんまい」と言いながらぽんとたたく。
「とりあえず、ご飯食べない? 大人しく座りながらなら逃げはしない……多分」
「それはいいですね!」
 リネルの提案に、クロエはころっと元気を取り戻した。メニューを広げ、何があるのかを確認する。
「私はサンドイッチを頼もうと思います」
「俺はパフェかな」
 甘いものは少量で腹が膨れるし、何より財布に優しい。リネルはそんな現金な理由でメニューを決めると、店員に注文した。そう待たされることもなく、頼んだものが運ばれてくる。
「わあっ、パンが本当にきれいな猫の形なんですね。とってもかわいいです!」
 クロエはぱくりとサンドイッチを食べながら、自分の時間を過ごす猫たちの様子を眺め、目尻を下げた。見ているだけでも癒される――と、窓辺で眠っている真っ白な猫を発見した。身体が他の子と比べ小さい。まだ子猫なのだろう。
 リネルに見送られながら、クロエは起こさないよう静かに近づき、その白い身体をじっと見つめた。くうくうと寝息をたてるその姿はとてもかわいらしくて、心を奪われる。
(この気持ちをぜひリネルさんにも!)
 そう思いながら振り返り――目に入った光景に目を丸くした。
 リネルの周りには茶トラや黒など、色々な種類の猫がいた。まとわりつかれている、という言葉がしっくりくる。膝の上にも数匹の猫が丸くなっていて、動けないようだった。
(これはどうしたら……)
 リネルもリネルで困惑していたのだが、「ふふっ」と控えめな笑い声に顔をあげると、クロエと目が合った。
「好きで纏わりつかれている訳では」
 何を言われたわけでもないが、リネルはぼそぼそと反論する。しかし、クロエは嬉しそうに笑うだけだ。
「動物に好かれる人に悪い人はいないですよね」
 クロエは胸のあたりがぽかぽかと温かなもので満たされるのがわかって、笑みを深めるのだった。

 それから。
 店を出たクロエは、「猫ちゃんたち可愛かったですね!」とリネルを見上げた。
「素敵な時間を過ごせてよかったです。リネルさんはどうでした?」
 彼女の声は弾んでいて、本当に楽しかったのだと伝わってくる。最後の方は猫たちもクロエに慣れたようで、数匹に遊んでとおねだりもされていた。その時の輝かしい笑顔は、リネルの頭に残っている。
 結局最後まで猫まみれだったリネルは「なぜか疲れた」と答えたものの、「でも」と続ける。
「まあ、悪くはなかったかもしれないけど」
 その言葉に、クロエはにっこりと笑った。
 ――彼と契約できて、良かった。
 そう、思いながら。

●猫と過ごす穏やかな時間
 さわやかな風と暖かな光が心地いい、お昼時のこと。
『日向 悠夜』と『降矢 弓弦』は二人で歩いていたが、『にゃんこのたまりば。』と書かれた看板を見て同時に足をとめた。
「猫カフェ……みたいだね」
「猫カフェか……そういえば、僕の家は近所では猫屋敷って呼ばれているそうだよ」
「ふふ、弓弦さん本当に猫大好きだね」
 笑いながらの悠夜の言葉に、弓弦は「うん」と頷いた。そして、まるでいたずらを企む子供のような表情をして、悠夜にある提案をする。
「お店の猫達に浮気というのも、たまには良いと思わないかい?」
 悠夜は弓弦の提案に、もう一度笑い声をあげた。けれど、否定する理由は何もない。
「猫にもいろんな子がいるからね、入ろう!」

 席についた二人は、メニューを広げていた。どれも猫カフェらしい一工夫がされていて、悠夜も弓弦も思わず頬が緩んでしまう。
 悩んだ末、オムライスを二つ注文した。
 料理が運ばれてくるまで、まだ時間がある。弓弦は早速、昼寝をしている子たち――数匹がくっついて寝ている、いわゆる猫団子――の傍に静かに腰を下ろした。三毛や純白、黒や灰縞の子が寝ている姿は癒される。すると、弓弦の近くにキジトラ猫がやってきた。
「おや、遊んでほしいのかい?」
 子猫なのだろう、のんびりと寝転がっている子たちに比べぱたぱたと動きまわっており、体力が有り余っているに違いなかった。
 弓弦は早速、近くに設置されていたおもちゃ箱から猫じゃらしをとりだした。子猫はぴょんぴょんと遊びはじめ、時折勢いあまって猫団子の中につっこんだり、弓弦の膝に衝突したりしている。
 そんな、楽しそうで和やかな光景を眺めた後、悠夜はくるりと周囲を見渡した。
(……こっちを見ている、味のある顔のあの猫……妙に気になっちゃうね)
 悠夜の言う通り、こちらをじっと、まるで観察するように眺めている猫がいた。身体は白い。だが、七三にわけた前髪のような黒毛、そして微妙に目力が足りない顔はたしかに「味がある」と言えるだろう。
 と、注文していたオムライスが運ばれてきた。
「弓弦さん、オムライスがきたよ」
 そう呼びかけると、弓弦はいつの間にか周囲を固めていた猫たちを踏まないよう気を配りながら席へと着いた。
「せっかくだし、猫の顔を描いてみない?」
「いいねぇ」
 悠夜のケチャップさばきは見事なもので、あっという間にかわいらしくデフォルメされた猫をかきあげる。
「うん、うまくできた! 弓弦さんのは……」
「悠夜さんはやっぱり絵が上手だよね……それに比べ僕は……」
「……中々個性的だね」
 絵心は微妙、という自身の判断に間違いはなく、弓弦が書き上げた猫は悠夜の評価の通りだった。しゅんと肩を落としていると、悠夜は「ふふ」と楽しそうに笑って、「交換する?」と提案をしてくれた。
「いいのかい?」
「大丈夫だよ。それにほら、あの子に似てない?」
 悠夜が指差した先にいたのは、彼女が先ほど眺めていた猫だ。
 弓弦は思わず笑い声をあげる。たしかに、意図しない場所にひかれてしまったケチャップの線たちは、あの猫に似ているかもしれない。
「はは、流石悠夜さんだ」
「ああいう子って妙に惹かれるんだよね。それに、美味しさは変わらないからね!」
 悠夜はそう言って、嬉しそうにオムライスを口へと運ぶ。それが、心の底から笑顔だと弓弦にはわかっていた。
 弓弦も、オムライスを食べ始める。
 穏やかで優しい。そして居心地のいい彼女との時間が、いつまで経っても飽きないだろう。そんなことを考えながら。

●俺のもの
 夕暮れの中、『エミリオ・シュトルツ』と歩いていた『ミサ・フルール』は、気になる看板を見つけて足をとめた。
「ねね、エミリオさん。『にゃんこのたまりば。』だって!」
 ミサの様子から、この後に続く言葉を予想できたエミリオは、先手をうつべく口を開く。
「俺この後、剣の鍛錬にいこうと……」
「ちょっと寄っていこうよ、お願いっ」
 ……しかし、自分を見つめるミサの瞳には勝てるわけがなく。気付けば、赤く染まった顔を見られないようふいと視線をそらしながら、「っ、しょうがないな……少しだけだよ」と了承していた。
「わーい♪ ありがとう、エミリオさん!」
 ミサは嬉しそうに笑顔を浮かべると、エミリオとともに店の中へと入っていく。
「わあ、かわいい子がいっぱい」
 猫たちを驚かさないためか、控えめにミサは呟いた。席に案内されると、早速メニューを開く。
「晩御飯食べられなくなるよ」
 エミリオの指摘に、ミサは「うっ」と眉尻を下げる。
「だって、ここでしか食べれないものばかりなんだもの……だめ……?」
 上目づかいに見つめられ、エミリオは言葉を詰まらせた。
「……っ、分かったよ。ただし、俺と半分すること……いいね?」
「うん、分かった!」
 ミサの顔がぱあっと輝く。まったく、ミサはずるいななんて考えながら、エミリオはきらきらとした瞳でメニューを追う彼女の姿を眺めていた。
「すみませんー、『にゃんこ仕立てのパフェ』1つくださいー」
 悩んだ末に、バニラアイスに猫の顔が描かれているというパフェに決めたらしい。わくわくとパフェを待っていたミサはふと、楽しそうに小さく笑みをこぼした。
「ふふ、何だか兄妹の関係に戻ったみたい」
 その言葉に、エミリオはふ、と笑う。まっすぐにミサを見つめるその瞳には、どこか怪しい光が浮かんでいて――
「今まであれだけ触れ合ってきて、兄妹ってことはないでしょ」
 意地悪な笑みを浮かべるエミリオに、ミサはかっと顔に熱が集まったのがわかった。
 自然と、これまでのことを思い出す。触れ合った手の温かさを、その唇が紡ぐ愛の言葉を……。
 ミサはたまらず視線をそらし、両手で頬をおさえた。
(あつい……っ)
 エミリオが楽しそうに自分を見つめているのがわかる、けれど、熱がひく気配はなかった。うろうろと視線をさまよわせる。
 と。
「あれ……?」
 ミサの目に、輪から外れるように一匹だけで佇む黒猫がとびこんできた。
「あの子、1人だけ隅っこに……おいで?」
 ミサの言葉に気付いたのか、黒猫はててて、と寄ってきた。艶やかな黒い毛が美しい子だ。ミサが差し出した手のひらに、ぐいと頭を押し付け、甘えるようにミサに身体をこすりつける。
「君、大人しいね」
 抱っこしようとしても拒まず、むしろ「もっと」とねだるように喉を慣らす黒猫に、ミサは頬を緩ませた。
「エミリオさんにそっくり……きゃっ」
 突如襲った頬へのざらついた感触に、ミサは小さく驚きの声をあげた。だが、犯人は目の前の黒猫だとわかり、楽しそうに笑い声をあげる。
「ふふ、頬舐められちゃった、かわいいな」
「なっ……」
 黙ってみていたエミリオだが、黒猫の様子に思わず声をあげてしまう。
「エミリオさん、どうしたの……?」
「ううん、何でもないよ」
 なんでもない、なんてとんでもない。だけど、大切な人の頬をなめたからといって、猫に嫉妬する姿は見せたくない。胸を占めるもやもやとした感情をぐっとおさえつけながら、エミリオは会話を続ける。
「本当に大人しいね、こいつ」
 そう言った瞬間だった。黒猫が、まるで見せつけるようにミサの口元をぺろりとなめたのは。
 こいつ……。
 自然を険しい顔になるエミリオを気にせず、黒猫はミサに甘えている。苛立ちにも似た――いや、事実苛立ちなのかもしれない――感情を必死に押さえつけていると、パフェが運ばれてきた。
「パフェがきたよ。俺が食べさせてあげる」
 ミサは恥ずかしそうにしたものの、エミリオは気にしない。そっとアイスをすくうと、ミサの口元へと運ぶ。
「ほら、口をあけて」
「う~……」
 ミサは頬を染めたまま、けれどぱくりとパフェを食べた。しかし、固く目をつむっていたせいか、唇のそばに少しクリームがついてしまう。
「クリーム、ついてるよ」
 エミリオはそう言うと、ぐっと顔を近付け。
 ぺろりと、クリームをなめとった。
 ミサが目を丸くしている間に、エミリオは彼女の腕におさまっていた黒猫に、一言。
「ごめんね、この子は俺のだから」
 静かに、けれど確かな敵意をもってそう告げる。
 大人げないとは思うけれど――彼女だけは、他の誰にも、たとえ猫にでも渡したくないのだ。
 自身の独占欲に呆れながらも、エミリオはミサをどうやってなだめようかと、頬を緩ませたまま思案するのだった。

●ほんと、よくわからない
 すっかり夜が近づいてきた頃。
 『鞘奈』と『ミラドアルド』はいつもと違う道を歩いていた際、『にゃんこのたまりば。』という店を見つけた。
「この店には、『オトメ』という猫がいるそうだ。なんでも、お腹にあるというハート模様を見ることができると、恋が叶うのだとか」
 唐突に口を開いたミラドアルドに、鞘奈は「ふうん」と気のない返事をした。
「あんたもそのお腹のハートを見に来たわけ?」
「いや、恋を叶えたいわけじゃない。そうだな……物珍しさ、というのが近いだろうか」
「ああ、そう」
 鞘奈はそのまま通り過ぎようとしたが、ミラドアルドに腕を掴まれそれは叶わない。
「何」
「入ろう」
 ミラドアルドの決意は固いようだった。珍しくどうしてもとねだられ、鞘奈も仕方なく入店を決める。
「あんたの戦闘以外の好奇心のツボがわからないわ……別に興味ないけど」
 鞘奈は、猫は嫌いじゃない。むしろ好きと言える。だが、改めてお店で見るほどではないと思う。
 と、席についた鞘奈はメニューに目をとめた。
「……パフェがあるのね。小腹がすいてるしいただこうかしら」
 早速注文して、運ばれてくるのを待っている間、周囲に目を走らせる。あちこちで気ままに自分の時間を過ごしている彼らに、鞘奈の目元がふと和らいだ。
 猫はいるだけで癒される。やたら甘えてこないのも好き。
 こういう場所も、案外悪くないかもしれない。そんなことを考えていると、鞘奈のもとに一匹の猫が近づいてきた。柔らかそうな灰色の毛に、青い瞳をもつその子は、ロシアンブルーだろうか。ぴょんと膝に乗ったかと思うと、くるりと丸まってそのまま寝息をたてはじめる。同時に、パフェが運ばれてきた。
「……うん、丁度いい甘さでおいしい」
「サヤナ、あそこ」
 ミラドアルドに声をかけられ、何よと思いながらも目線を向ける。
 ミラドアルドが指差す先、雑誌類が並べられている棚の上に、一匹の猫がいた。白い身体と、靴下のような足先の毛。あの子が噂のオトメらしい。
「偉そう、品定めされてる気分……」
 じっ、とこちらを見つめる視線に、鞘奈は落ち着かない心地になる。と、どうやらオトメ目当てで来店したらしい女の子が、熱心に声をかけはじめた。しかし、オトメはぱたりぱたりと尾を振るだけで、応じる気はなさそうだ。
「人気者なのね、苦労してそうなメス……」
「オトメはオスだそうだ」
「は? オス?」
 思わぬ事実に、鞘奈はオトメに同情の目を向ける。
「オトメなのにオス……ちょっと不憫ね。もっと男らしい名前がよかったでしょうに」
 鞘奈がそう呟くと、ミラドアルドが口を開いた。
「そっけないところがサナヤに似ている」
「……は? 殴るわよ」
 と言いながらすでに飛び出していた手をいなしながら、ミラドアルドは続ける。
「弟と妹にしかデレないところまでそっくりだ」
「本気で殴られたいのね、表出なさい」
 鞘奈がそう言うと、膝を占領していた猫が「ウー」と静かに唸り声をあげた。動くなと言っているようだ。
 なんとなく気をそがれた鞘奈は、深くため息をついて腕を下ろした。ミラドアルドはそんな彼女を気にせず、オトメへと視線を向けている。
 それからほどなくして、二人は退店した。
「気は済んだ? 噂の感じだと女の子限定みたいだし、男のあんたにオスが懐くなんて到底思えないけど」
「他の人たちが幸せそうなら、それでいい」
 ミラドアルドはそう答えると、再び歩き始めた。その背中に、鞘奈は苛立ちに似た何かが浮かんでくるのがわかった。
「ああ、そう」
 吐き出すようにそう言って。
 やっぱりこいつとは分かり合えないと確信しながら、自身も帰路へと着くのだった。

●気まぐれオトメが訪れる
『ファリエリータ・ディアル』は、恋を叶えるという猫の話を聞いて「これだ!」と思った。早速相棒である『ヴァルフレード・ソルジェ』を誘い、噂の猫・オトメがいる『にゃんこのたまりば。』を訪れた。
(猫いっぱいも勿論楽しみだったけど、オトメのお腹のハートも見たいっていうかむしろそっちが本命だったり。ヴァルともっと仲良くなりたいなあって)
 見れるといいなぁ、と浮足立つファリエリータを呆れたように眺めるヴァルフレードだが、断らないところはさすがというべきか。
「わあ、ほんとににゃんこいっぱいっ! 可愛いっ♪」
「へー、結構な数いるもんだな」 
 店内に足を踏み入れたファリエリータは歓声をあげ、ヴァルフレードは感心したようにそう呟いた。ファリエリータはヴァルフレードを振り返り、にこりと笑顔を向ける。
「可愛い猫がいっぱいいるって聞いたから一回来てみたかったのー。ヴァル、一緒してくれてありがとねっ」
「まったくだ」
 そう言いながらも、ヴァルフレードの口元は緩んでいた。怒っている気配など微塵もない。猫たちが醸し出す、穏やかで優しい時間を肌で感じているのだろう。
 ファリエリータはメニューを開くと、サンドイッチを注文した。
「サンドイッチも猫の形なのねっ。可愛いし美味しい~幸せ~」
 届けられたサンドイッチに舌鼓をうちながら、きょろきょろと周囲を見回す。
「ねこじゃらしとかあるかしら?」
「あそこに立てかけてあるぞ」
「ほんとだ」
 早く猫たちを遊びたい。欲をいえば、オトメのお腹を見たい。そんな想いを胸に、ファリエリータはもふもふとサンドイッチを頬張る。と、ヴァルフレードがおかしいというように笑い声をあげた。
「そんな頬張って、ハムスターみたいだな」
「もう、またそんなこと言って!」
 言い返しながらも、あまり情けない姿は見せたくないなと速度を落とし、サンドイッチを食べきった。そして早速、猫じゃらしを手にとる。
「ヴァルもねこじゃらし使う? ……ヴァルだったらその尻尾で代わりになりそうな気もするけど」
「ん? 何か言ったか?」
「ほ、ほんとにはしないから睨まないでっ」
 口調こそ穏やかなのに、目つきは厳しい。逃げるように視線をそらし、猫じゃらしをふりふりする。その動きにつられ、真っ白なふわふわ猫がやってきた。立派な体格を持つその子はどんくさく、けれど愛嬌がある。少し猫じゃらしを追いかけていた、と思ったら、疲れたから撫でろというようにファリエリータの足元へ寝転がる。
 頬を緩めながらその要求に答えていると。
「あら?」
 小さく声をあげてしまい、慌てて口を押える。なんと、オトメがやって来たのだ!
「オトメも遊びたい? おいでおいでー、一緒に遊びましょっ♪」
 ファリエリータが不自然にならないようお誘いすると、オトメも猫じゃらしにじゃれはじめる。ころり、と寝転がった瞬間――
(わあ、ほんとにハート柄見れるなんて! 嬉しいっ!)
 オトメのお腹にあるハートは、誰が見ても立派なハートだった。見れたことが嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまう。
 それから、『にゃんこのたまりば。』を存分に堪能したファリエリータとヴァルフレードは退店した。
「楽しかったわねっ、また来れると嬉しいなっ」
 彼と何か、進展があればいいのだけど。
 淡い期待を胸に帰路へとついたファリエリータに、ふと、ヴァルフレードが告げる。
「次は違う所にでも行くか」
「え、それって……」
 つまり。
(デートのお誘い、よね? 嬉しいー!!)
 ファリエリータは跳ねまわりたくなる衝動を必死に押さえながら、「ええ!」と元気良く返事をした。
 ――オトメに、お礼を言わなくちゃ!

●ある猫の独白
 しんと静まり返った店内で、とある猫は今日のことを思い出していた。
 きらきらしてるヒトには、つい、力を貸してあげたくなるんだ。
 ぱたり。
 ゆれた尾が二本に見えたのは――気のせいに違いなかった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ミサ・フルール
呼び名:ミサ
  名前:エミリオ・シュトルツ
呼び名:エミリオ

 

名前:ファリエリータ・ディアル
呼び名:ファリエ
  名前:ヴァルフレード・ソルジェ
呼び名:ヴァル

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月25日
出発日 07月03日 00:00
予定納品日 07月13日

参加者

会議室

  • [6]日向 悠夜

    2015/07/02-22:40 

  • [5]ミサ・フルール

    2015/07/02-19:20 

  • [4]ミサ・フルール

    2015/07/02-19:20 

    こんばんは、ミサ・フルールです!
    久しぶりの人は久しぶり!
    初めましての人は初めまして!
    皆よろしくねっ(ふわりと笑う)
    エミリオさんと買い物している途中で素敵なお店を見つけちゃった♪
    どんな子に会えるのかな、ふふっ、今からすごく楽しみだよっ

  • [3]鞘奈

    2015/07/02-15:42 

    ミラドアルド、そしてパートナーのサヤナ。
    よろしく。

    全力で楽しむつもりだ。

  • [2]クロエ

    2015/07/02-02:21 

    クロエとパートナーのリネルさんです。
    よろしくお願いします!

    どんなにゃんこちゃん達がいるんでしょう?
    会えるのが楽しみですっ。

  • 私はファリエリータ・ディアル! よろしくねっ。

    可愛いにゃんこいっぱいっ、素敵っ!
    いっぱいもふもふするのー♪

    ……オトメのお腹も見れたらいいなあ(小声)


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