《紫陽花》六月の花嫁(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ウィンクルムだけが訪れることが出来る天空島『フィヨルネイジャ』。
女神ジェンマの庭園とされるだけあって、清らかな空気と美しい緑に溢れている。心地よく、時の流れを忘れさせてくれる場所だ。
 それは、庭園の美しさ以外にも理由がある。この場所では『現実では起こりえない現象』を、現実のことのように味わうことがある。
白昼夢のようだが、白昼夢と決定的に違うことはパートナーとその夢を共有できる点にある。二人で見る現実のようで現実でない夢を求めて、今日もウィンクルム達フィヨルネイジャを訪れる。
必ずしも幸せな夢ではないと、分かっていながらも――

●白にはなれず
 鏡に映る君は、常よりも美しく、あるいは可愛らしく、華やかに装っている。
しっかりと色を乗せたアイシャドウ、ほんのりと色づくチーク、艶々と輝くリップ。滑らかな素材のドレスに真珠のネックレス。
どれ一つとっても日常の為のものではない。特別な日のみのものだと、誰もが分かる。
 けれど、鏡の中の君の顔は晴れない。涙で濡れているようにすら見える。
君の細い指が傍に置かれた紙を拾い上げる。宛名は君。差出人は君のパートナーと女性の連名だ。
 彼の結婚式の招待状だ。結婚相手は君ではない。彼は君の気持ちすら知らないのだ。
招待を受けたときに、君は出来る限りの笑顔で出席すると返事をした。けれど、気は重い。
 式に招待されたウィンクルム仲間は「辛ければ出席しなくていい、こちらで上手くなんとかするから」と言ってくれた。
その言葉に甘えようかとも思う。けれど、同時に彼の幸せそうな様子を見守りたいとも思う。
 時は刻々と過ぎていく。そろそろ決断しなくてはいけない。
ゆっくり瞳を閉じ、悠久にも思える時間の思考にふける。実際はほんの数秒であったけれど、君は自身の行動を決めた。

解説

●参加費
フィヨルネイジャに向かうまでの間に買い食いしました 300jr

●すること
神人のみが見ている夢です
精霊は起きて日光浴をしていますが、この辺は無視してください

・神人
式に欠席してもよし、出席してもよし。
何を思って、どう行動するか。
欠席するならばどこにいるのかなどもお書きください。
ドレスは指定が無ければこちらで決めちゃいます。

・精霊
結婚式で何を思っているのか。神人を見るor神人がいないことにどう動くのか、など。
夢の中の、「好きな人と結婚式を挙げる」精霊のプランを書いてください。

また、精霊は神人の気持ちに気付いていない上で、好きな人と結婚することになっています。
どんな人と結婚するのかをいれておいてください。小柄な人、華奢な人、茶髪の人、など。
具体的すぎる人物像は描写いたしません。また、神人・精霊のどちらの設定にも無縁の人としておいてください
(NG例:精霊の姉の夫の妹、神人の親戚等)


●その他
夢から醒めた後のことは描写いたしません

ゲームマスターより

あき缶GM主催の《紫陽花》verこーやです。
テーマは「他に好きな人ができたんだ」です。
やるならとことんやってやる、ということでこうなりました。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

Elly Schwarz(Curt)

  ドレス:お任せ

・招待状に息を飲む。彼の晴れ舞台、パートナーとして見届けなければ。使命感で出席
・式場を訪れなるべく目立たない位置で見届ける
愛していた方からの招待状…辛くないと言えば嘘になります。
ですが、パートナーとして欠席する訳にはいきません、よね。
…ちゃんと、笑えるでしょうか。

・クルトに声をかけられ、会話中涙が出るが嬉し泣きだと嘘をつく
・ネガティブ思考が更に増加
(素敵な…式、ですね)
(あそこに、僕が…いえ、浅はかですね。僕では、僕、では…)
ク、クルトさん!?な、何でもありません!
これは、あれです!あの、嬉し泣きです!
クルトさん、っ…本当に、おめでとう御座います…!

(彼の隣に立つ資格なんて…っ)



紫月 彩夢(紫月 咲姫)
  誰がいなくても良いけど、あたしが居なくてどうすんのよ
結婚おめでとう
あんたがちゃんと、男として幸せになれるのが嬉しい

こんな時の為のドレス。昔デザインして貰ったやつを、間に合わせてきたのよ
ほら、どう?なかなか様になってるでしょ
シャンパンゴールドって華やかでいいわね
ほら、髪もメイクもアドバイス貰った通り…あんたにも教えて貰った感じでうまくできてるでしょ?

ウィンクルムの仕事?いいわよ、大丈夫よ
新婚のあんた引っ張る程鬼じゃないわよ
ほんっと、あんたの心配性は親譲りなんだから
大丈夫よ
だから、あんた達は二人で幸せにね

泣かないわよ
あんたの嫁が、あたしに似てたって
分かってたから
あたしじゃ、そこには立てないんだって


●伏月
 新郎の親族席にいる紫月 彩夢の姿に、紫月 咲姫は目を細める。妹の姿があるべきところにある。それが嬉しい。
目が合った彩夢は小さく手を上げて見せた。他の誰がいなくとも、自分がいなくてどうするのだという彩夢の内心を咲姫は知らない。
 黒い髪に淡い桃色の瞳の、気が強そうな新婦を連れて咲姫は彩夢のいるテーブルへ向かう。軽やかでいて、ゆったりとしたBGMが二人を導いているようだ。
小柄な新婦はパンプスで底上げしてはいるものの、長身な咲姫と並ぶとより小柄に見える。しずしずと二人は並んで歩く。
歩を進める度に、ゆるく纏められた咲姫の黒髪が揺れる。花嫁の髪よりも艶やかに見える
 両親は新婦の両親のテーブルに向かってしまった為、今は彩夢一人だけのテーブルだ。
向こうの両親は泣きに泣いてしまっていて宥めるのが大変そうだ、と向こうのテーブルを見て彩夢は思った。
 彩夢は視線を主役の二人に戻した。ゆっくり、新婦の歩調に合わせていた兄の姿がもう目の前にある。
「結婚おめでとう。あんたがちゃんと、男として幸せになれるのが嬉しい」
「ありがとう、彩夢。何だか不思議な心地だけど……変じゃない?」
 新婦と彩夢の笑い声が重なる。二人とも咲姫の戸惑いの理由が分かるだけに、おかしく聞こえてしまったのだ。
女性の服に慣れ親しんでいるせいで、シルバーグレーのタキシードがどうにも落ち着かない。大丈夫、ちゃんと似合っている、と新婦がフォローする。
「そうそう。ところで、ほら、どう? あたしもなかなか様になってるでしょ」
「うん、彩夢も凄く似合ってる。思い描いてた通り」
 こくり、頷き彩夢の姿をしっかり眺める。
華やかなシャンパンゴールドのホルターネックのドレス。左サイドに入った大きなスリットからは濃い茶色のプリーツスカートが覗いており、靴はこの色に合わせてある。
以前、デザインしてもらったドレスを今日のために仕立ててもらったのだ。胸元には大きな赤いコサージュ、髪にもそれを一回り小さくしたコサージュをつけている。
 メイクも髪も、ドレスをデザインしてもらった時のアドバイス通りにしあげた。メイクは暗いピンクのアイシャドウに、オレンジのチークとリップ。
全体を赤系とゴールド系、茶色形の三色で纏め上げている。
「あんたにも教えて貰った感じでうまくできてるでしょ?」
「自分でしたの? 彩夢は器用なんだから、出来ると思ってたけど……うん、綺麗」
 満足げな色を乗せ、咲姫は微笑む。メイクと髪の整え方は自分が教えた。あくまでも日常で使える範囲なので、それ以上は本を見て学んだのだろう。
若い未婚の妹は式場を彩る花になっている。可愛いよりも綺麗が似合う、凛とした強い花だ。
「ところで、あの……ウィンクルムのお仕事は、どうするの?」
 おずおず、新婦が心配そうに声を掛けた。
咲姫は目を瞬かせ、そういえば考えていなかった、と呟いた。咲姫の顔に影が差したのを見て、新婦も不安そうな表情を浮かべた。
「ウィンクルムのお仕事は……」
「いいわよ、暫く休みで大丈夫よ。新婚のあんた引っ張る程鬼じゃないわよ」
「暫く、お休み? ……うん、その方が俺も安心だな」
 咲姫はほっ、と胸を撫で下ろす。案じたのは新婚の自分の身ではなく、妹の身。
今までと違い、常に行動を共にするわけではない以上、不安な点がいくつもあったのだ。
「俺の居ない所で彩夢が怪我したりしたら、動転しちゃいそうだし」
 咲姫の言葉に、彩夢は少々大げさに溜息を吐いた。やれやれと言わんばかりに咲姫を見上げる。
「ほんっと、あんたの心配性は親譲りなんだから。大丈夫よ。だから、あんた達は二人で幸せにね」
 笑いかけ、彩夢はすたすたとテーブルを離れる。
あまり慣れていないはずの高いヒールのパンプスをものともせず、新婦の両親に捕まってしまった両親の代わりに挨拶回りに向かってしまった。
「……行っちゃった」
 寂しそうな咲姫の声に、くすり、新婦は笑みを零す。本当に妹さんが大事なんだね、と家族の絆を温かく思っているようだ。
咲姫はそんな花嫁に聞こえぬよう、小さく呟く。
「結局、呼んで貰えなかったや」
 兄でも姉でも『咲姫』でもなく、『あんた』。寂しそうな声音に反し、咲姫の唇は緩んでいる。
「結婚の少し前から、あんな調子で……寂しがってるのかな」
「たった一人の兄妹だから、きっとね」
「可愛いなぁ」
「本当にね」
 微笑ましそうに新郎と新婦が笑う。新婦は新郎を見上げ、新郎は妹の背を見つめる。
隣に立つ新婦より頭一つほど大きな妹は、うんと高いヒールを履いていることもあって目立つ。テーブルを渡り歩く姿を目で追うのは容易だ。
もとより、生まれてきたときからずっと見つめてきた姿だ。この程度の広さの式場であれば見失うことも無い。
 咲姫は視線を新婦へと落とす。収まりの悪い黒髪は綺麗に整えられ、気が強く、意志の強い桃色の瞳が見つめ返してくる。
そんな新婦の頬を軽く撫でてやる。けれど、違う。自分を見つめ返しているのは、彩夢の紅玉髄の瞳ではない。
「……やっぱり、カラコン用意しなきゃなぁ」
「え?」
「俺を見る瞳が赤くないなんて」
「咲姫……?」
 桃色の瞳が揺れる。思いもよらないことに直面したが故に生じる恐怖。兄と妹の間にあるものが、優しくて暖かなだけの家族の絆ではないことに新婦は気付いてしまったのだ。
小刻みに震える新婦の唇に、咲姫の指先が触れる。咲姫は微笑みを浮かべたままだ。
 ――そんなの、彩夢じゃないや。

 挨拶回りを済ませた彩夢は化粧室に入った。
鏡に映る自分の目に涙は浮かんでいない。ウィンクルム仲間が心配していたような涙も、両親が流したような涙も、どちらもない。
 瞬き一つ。やっぱり、泣かない。ただ唇だけを噛む。
咲姫の隣に立つ花嫁。黒髪で、気の強そうな瞳――それは彩夢にも共通するもの。つまり、彩夢に似ているのだ。
「分かってたでしょ」
 そう、分かっていたのだ。自分では、咲姫の隣に立つことは出来ないのだと。咲姫の隣で花嫁衣裳に身を包むことは出来ないのだ、分かっていた。
鏡に映る瞳は兄と同じ紅玉髄。兄の隣に立った人は、桃色の瞳。二対の紅玉髄が並ぶことはない。
 それだけでなく、彩夢が『姉』を超えられないまま、『姉』は『兄』になってしまった。自分の為でもあり、『兄』の為でもあった目標は宙に浮いたまま。
胸の中で、何かがゆらゆらと不安定に揺れているのを感じる。

 彩夢は大きく息を吸った。そして、気持ちを切り替えるべく、両手で頬を叩こうとして――勢いを緩める。
ぺちん、少々情けない音が化粧室に響いた。うっかり頬を腫らしてしまうところだった。
頬を腫らして式場に戻れば、咲姫に気付かれてしまう。彩夢の変化には敏感な兄だ。花嫁そっちのけで心配してくるだろう。それはよろしくない。
 化粧室の扉を潜り、会場へと戻る。涙は零さない。泣かないと決めたのだ。
強い意志を宿す瞳は真っ直ぐに前を見ている。こつりこつり、踵が音を立てる。視線通りの道を行く。式場に相応しい華やかな会場だ。
けれど、彩夢の瞳にはどこか暗く写っていることには、彩夢本人も気付いていたかどうかは誰にも分からない。



●鳴神月
 手元の招待状を見て、Elly Schwarzはきゅっと唇を噛んだ。
数ヶ月前に直接手渡されたこの招待状を見るのは何度目だろうか。見るたびに心が悲鳴を上げるのを感じる。
 招待状を持つ指は艶やかだ。ベースコートを塗っただけの爪は、柔らかなピンク色をしている。
この色と同じような気持ちになれたなら楽なのに、と息を吐く。
 短めの髪は編み込みにして留めてある。コーラルのチークにブラウンのアイシャドウとベビーピンクのリップ。
パステルブルーのチュールワンピースに黒いボレロとエナメルのパンプス。
 メイクも衣装も、ウィンクルム仲間に頼み、一緒に見繕ってもらったり教えてもらったりしたものだ。
彼の晴れ舞台だから、パートナーとして恥ずかしくないように――そう思って。ウィンクルム仲間はもの言いたげな様子だったが、わざと気付かない振りをした。
 義務感というよりも使命感が、Ellyにそうさせた。痛む心を押さえつけ、壊れないように塗り固めて準備を進めてきた。
ドレスを見繕い、メイクの仕方を習っている時の方が楽だったのは皮肉な話だ。眼前の出来事に集中することが出来たから、考えなくて済んだのだ。
 けれど、今はそれも出来ない。
「もう、出ないといけませんね……」
 呟いたのは己に言い聞かせる為。声に出さなければ立ち上がることも出来ない気がして。
華やかに装っているのに体は鉛のように重い。手の中の招待状をクラッチバッグに仕舞うことすら億劫なほどだ。
「パートナーとして、見届けなければ」
 もう一度言葉にして立ち上がり、鏡台の前から離れる。
胸元のラインストーンが鏡の中できらり、涙が零れ落ちるように輝いた。

 女の準備に対し、男の準備は少ない。髪も服も整え終えたCurtは控え室に一人でいた。
先程まで側にいたスタイリストも衝立の向こう側にいる花嫁の応援に向かった。花嫁と二人のスタイリストの和やかな会話が聞こえてくる。
 三人に聞こえないよう、Curtは小さく息を吐いた。マリッジブルー……というわけではない。
緊張してはいるが、胸に渦巻いているのは僅かな罪悪感だった。時折、じくじくと痛みをもたらす。
 祝福して欲しいと思ったから招待状を送った。その気持ちに嘘偽りは無い。
しかし、Ellyには酷なものを送ってしまっただろうか――いや、元々好きになったのは自分からだ。Ellyが未練を残している筈は無い。
「新郎様、新婦様の準備が整いましたよ」
「ああ」
 頭を振って罪悪感を追い出す。今更悩んだところで仕方がない。スタイリストの呼びかけに応じ、妻となる人の元に向かう。
白に身を包んだ彼女が照れたように微笑む。Curtも笑みを返し、その横に並ぶ。
 立ち上がった彼女はヒールの高さも相まって、Curtと身長差はほぼない。
長い茶色の髪をきっちり結い上げ、上からマリアベールを垂らしてある。ベール越しでも幸せ一杯だと分かる顔。
 ついにこの日を迎えることが出来たのだと実感が湧く。長かったような、短かったような。
漸く彼女と共に新しい一日を歩むことが出来るのだ。すっ、と当たり前のように手を差し出す。白い手袋をした彼女の手が、そっと添えられた。

 招待状こそあったものの、席は決められてないらしい。右側は新郎側の、左側は新婦側の関係者と分けられているくらいだ。
最後列の、バージンロードから離れた席にEllyはいた。努めて冷静を装うとしているが、上手くいっているとは言いがたい。
そんなEllyを隠すように、隣に並んでくれたウィンクルム仲間がありがたかった。
 新婦の手が父親から新郎へ渡され、二人でバージンロードを進んでいく。
周囲はEllyよりも大きな人ばかりなので、新郎と新婦の姿はちらちらとしか見えない。皆の前で誓いを交わす際は、僅かな隙間からさえ思わず目を背けてしまった。
ウィンクルム仲間に無言で優しく背中を撫でられ、涙を零してしまいそうになった。ぐっと奥歯を噛み締めて堪える。
 いい式だと思う。素敵な式だ。
けれど、自分は見ているだけ。Curtの隣に並んでいるのは自分ではないことを痛烈に思い知らされる。深みに嵌っていく思考。
あそこに自分がいたなら……――いや、これは浅はかな考えだ。自分では駄目で、駄目だったからこそ、ここにいるのだと言い聞かせる。
 パチパチ。拍手の音でEllyは我に返った。
慌てて追随する。手を打つ度に自分の体が軋むような音が聞こえた気がした。

 式場の外で写真撮影を終えると、新郎新婦の関係者がそれぞれ祝辞を述べに行く。
新郎新婦はそれに答えながら招待客の間を縫って歩く。
 Ellyは、自ら近寄ることが出来なかった。足が地面に縫い付けられたかのように動かない。
近付けば嫌でも直視せざるを得ない。覚悟を決めてきたが、実際に出来るかどうかは別なのだ。
 固まってしまったEllyを見て、ウィンクルム仲間が痛ましげに顔を歪める。
「無理をしなくても
「ああ、エリー、来てくれたのか!」
 体調が悪いことにして、帰った方がいい。そう言おうとしたウィンクルム仲間の言葉がCurtの声に遮られた。
Ellyの肩が小さく跳ねたことにCurtは気付いていない。
 Curtは花嫁を伴って真っ直ぐにEllyに駆け寄ってくる。
胸に鋭い痛みが走る度に、心は妙に冷静になっていった。さっきまでは出来なかったのに、今度は易々と笑みを浮かべてみせる。
「探したんだぞ。こんな隅っこに居たのか! ……前に紹介したよな?」
「はい。招待状を頂いた時にお会いしました。お二人とも、今日はおめでとうございます」
 新婦とEllyは軽い会釈を交わす。和やかに笑みを交わす二人に反し、近くにいるウィンクルム仲間は落ち着かないといった様子でいる。
その気配を背中越しに感じ、無理もないと思う。けれど、先程まで支えて貰っていたのだから、ここは一人で立たねばならない。
 Ellyの心中は兎も角、表面上は穏やかに言葉を交わす三人。
笑い声すら上がることにウィンクルム仲間達がほっとした時―
「えっ……?」
 ぱたたっ。Ellyの瞳から涙が零れ落ちる。
突然のことに、Ellyは取り繕う余裕が無かった。それよりも驚きが勝る。
「な、なんで泣いているんだ?」
「……な、何でもありません! これは、あれです! あの、嬉し泣きです! とても、幸せそうだから!」
 慌ててハンカチを取り出し、涙を拭う。それらしい言い訳の言葉が出たことにEllyはほっとする。
驚いていたCurtはほっと胸を撫で下ろし、照れたように笑った。
「……そんなに祝福してくれたのか」
 Curtと同じように驚いていた新婦も、嬉しそうな笑みへと表情を変える。
良かった、と顔を見合わせる二人の姿に、Ellyの胸の痛みが強くなる。
刺すような痛みが砕くような痛みに変わっている。耳の奥で心臓の音が聞こえるような気がした。
世界がモノクロに見える中、Ellyは言葉を搾り出す。――平静を装って。
「クルトさん、っ……本当に、おめでとう御座います……!」
「ありがとう、エリー。……っと、呼ばれてるな。また後でな」
 Curtと新婦がEllyから離れていく。見かねたウィンクルム仲間が割って入ってくれたのだろう。
『だろう』というのは、周囲を把握するだけの余裕がEllyになく、推測にしかならなかったから。
 Ellyはそっと人の輪から離れ、建物の影に入る。人の眼が――Curtの眼が近くに無いと思った瞬間、決壊した。涙が次々に零れていく。
自分では出来ていたような気がするが、ちゃんと、笑えていただろうか。ちゃんと、見届けられただろうか。
 ぼろぼろと流れ落ちていく雫を、空気からさえ隠すようにEllyは顔を覆う。
駄目だ、こんなんじゃ、駄目だ。彼の隣に立つ資格なんて、自分には無い。
 声にならない悲鳴が幸せな式場に響き渡った。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 06月25日
出発日 07月01日 00:00
予定納品日 07月11日

参加者

会議室

  • [4]紫月 彩夢

    2015/06/30-22:52 

    あら……よく見れば、倉庫のお掃除をした時に、会っていたみたいね。
    ごめんなさい、報告書で名前をよくお見かけするばかりかと思って、
    まさか自分が会っているとは思っていなかったわ。
    イラストも無かった頃なのに、覚えていて貰えたのなら、とても光栄。ありがとう。

  • Curt:

    出発出来るようで良かった。
    エリーがどんな夢を見ているのか気になるが、何となく起こし辛いな……。

    紫月達とは一度会った事あると思うんだが……もう随分前だからな、朧げでも仕方ない。
    今回もあちらで会う事はなさそうだが、よろしく頼む。

  • [2]紫月 彩夢

    2015/06/30-22:06 

    紫月咲姫よ。すっかり夢に夢中な妹の彩夢ちゃんとのんびりと。
    始めまして、で、あってたはずよね。
    お会いすることはなさそうだけど、どうぞ宜しくね。


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