想いは形となって(真名木風由 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「手紙を書いてみない?」
 『あなた』達が声を掛けられたのは、A.R.O.A.の本部でのこと。
 振り返ると、女性職員が立っている。
 何のことだろうか、と思っていると、チラシを渡された。

『普段伝えられない想いを手紙にしませんか?
無記名でも記名でも誰か宛でも匿名でも。
あなたの普段伝えられない想いを記してみてください。
伝えたい想いがその方へ届くかもしれません』

 タブロス近郊の村のお祭りの一環らしい。
 そうして相手に届けられない手紙を村の公園にある白い花「クチナシ」に飾るとのことで、例え自分が書いたことも誰宛に書いたことも記さずとも相手に届くかもしれない。
「形にすることで自分が普段その人にどう想っているか自分でも知ることが出来る機会でもあると思うの」
 自分でもよく分かっていない、そんな想いも手紙という形で記すことで分かることもある、と女性職員は微笑む。
「お祭り自体も小規模だけど、とても楽しいものみたい。息抜きに行ってはどうかしら」
 勧められた『あなた』達は互いの顔を見合わせ、決める。
 手紙を書こうと言い出すことはせず、楽しいという祭りに行ってみようと言葉を交わす。
 礼を言って立ち去る『あなた』達を見送る女性職員は、くすりと笑った。
「近くにいるからこそ伝え難いことも、手紙にしてみてね」

 自分の想いを自分で知る為。
 誰かの想いを自分で知る為。
 手紙という形で託してみよう。

解説

●出来ること
・お祭りを楽しむ
・手紙を書く

お祭りは村の公園にある白い花「クチナシ」を楽しむためのものとなっています。
白い花々は見事で、香りもいいようです。
このクチナシに飾る手紙の便箋はクチナシの香り付けがされた小さな一筆箋。
プランの文字数にして100~150文字程度まで書くことが出来ます。
手紙は匿名OKですが、自分のパートナー宛としてください。
(パートナーがそれを見つけるかどうか、自分と気づくかどうかは親密度が影響します)

●費用
・お祭り開催の公園入場料として1人50jr
・手紙イベント参加費用として1人50jr
・屋台の売り物は下記の通り
アイスティー 20jr
アイスコーヒー 20jr
ミックスジュース 30jr
ホットドック 40jr
ティンギス 40jr
(チョコのお菓子。直前までアイスボックスに入っている為溶けていません。
怠け者、という意味があることより、今日は仕事を忘れて楽しんでという意味で売られているようです)

●その他
・お祭り、特に手紙を書くことがメインの描写となります。
・賑わっていますが、他の参加者と出会うことがあるかもしれません。合流して一緒に行動しても勿論OKです。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は、ある村のお祭りでのお話、イベントで手紙を書いてみましょうという所です。
普段言えないことも自分だと伏せる、相手を匿名にすることで思い切って書けるでしょうし、敢えてそれらを明かし、相手に見つけて貰うのもいいかもしれませんね。

神人も精霊もクチナシの意味であるような想いを綴ってみてください。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  手紙…ですか
身近に居るからこそ言ってない事…
自分なりにカガヤの望みを叶える為
頑張って来たつもりですが…実際はどうなのでしょう…
手紙を書いてクチナシに飾ります。

・笹の手紙
(カガヤへ、宛名、差出人は記入せず)
「ウィンクルムとして活動し1年以上経ちましたが
わたくしは始めの頃より貴方のお役に立てて居るでしょうか。
貴方にとって守るに値する人間に成れているでしょうか。
これからもよろしくお願いします」

カガヤ、わたくしも手紙飾ってみたんです。
良かったら探してみて下さい。

・カガヤの手紙に気付いた時
短い…そして贅沢とは…?
お金が無いのに度を過ぎた贅沢をしたいのでなければ
良いのではないですか?よく分かりませんけど…



ひろの(ルシエロ=ザガン)
  ……嬉しいこととかで、いいのかな。(首傾げ

『名前を呼ばれるのも苦手だけど、ルシェに呼ばれるのは嫌じゃないです。
手をつなぐのも結構好きです。
抱きしめられるのは、びっくりするからやめてほしいけど。あったかくて、ちょっとほっとします。

今は会えて良かったって、思えます。
これからも、よろしくお願いします。』

書けた、けど。ちょっと恥ずかしい、かも。
今は、ルシェのこと怖いとか思わないから。
別に、知られても。いいけど……。(少し頬が赤い

「アイスティーが、いい」
(受け取って、見上げる
ルシェも書いたのかな……?

「一緒に……?」(視線を彷徨わせ、頷く
ルシェが書いたの、わかるといいな。
(手を握ろうと伸ばしかけ、止める



アマリリス(ヴェルナー)
  綺麗な花ね
手紙、折角ですし書いてみましょうか

本文
普段はなかなか素直になれないけれど
きっと自分で思っている以上にわたしは貴方の事を好ましく思っていて感謝もしているの。
わたしと出会ってくれてありがとう。
今、とても幸せよ。

こんなものかしら
…文字にしてみると中々恥ずかしいものね
ざっと見直した後は名前書くのを取りやめて匿名で飾る

手紙手に取り
自分の名前が見えて手紙手に取る
人違い…じゃないわね
几帳面にも名前がしっかり書いてあるし

色々な解釈があるけれど、これはどういった意味合いなのかしら
…直接聞けるようなら手紙は必要ないものね
いつも通り期待したら裏切られるからと考えつつも
どきどきしながら祭りを一緒にまわる



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  一筆箋をこっそり取って、匿名で羽純くん宛の手紙を書く
羽純くん、ちょっと買いたい物があるから…ここで待っててとさり気なく離れて、彼に隠れて書こう

面と向かっては言えない事、手紙だったら書けそうだと思ったから…

「いつも有難う。
初めて貴方に会った日から、私の世界は変わりました。
鮮やかに眩しく。
貴方の傍に居ると、私は幸せで…強くなれるんです。
貴方に会えて、今隣に居れる…その幸せを、噛み締めています。
言葉に出来ないくらい、貴方が好きです。」

…好きですと書くのに手が震えちゃった

手紙をクチナシに飾ったら、急いでティンギスを二人分買ってから羽純くんと合流
クチナシを楽しみながら歩く
甘い花の香りに包まれて幸せだな


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  お手紙を書くなんて、素敵なイベントですね。
手書きで伝えるメッセージって何だか新鮮。
一筆箋もあまり使ったことが無くて。
花の香り付けが、上品で良いですね。
少し太めのペンを使って、字は大きめに書きます。
その方が良いって、何かの本で見た記憶が。

『いつも傍にいて見護っていて下さること、
とても幸せに感じています。
これからもずっと一緒にいてくださいね』

と書きますね。
ハッキリと言葉にしたら
何だか恥ずかしくなってきました。
自分がミュラーさんの事をどう思っているか、
色々と、自覚?意識?してしまいます!
ミュラーさんに気付いて欲しいような。
欲しくないような。
複雑な気持ちです。

屋台で、アイスティー飲んで落ち着こう。



●想いは甘い香りに乗って
 初夏の風が、髪を揺らす。
 鼻腔を擽るのは、公園に咲き誇るクチナシの花。
「甘い香りですね」
 瀬谷 瑞希は周囲を見回し、目を細めた。
「今は白いみたいだが、黄色に変化するらしいね。果実は薬の原料にもなるみたいだ」
「あ、本当ですね……」
 フェルン・ミュラーが入り口で貰ったリーフレットの説明を口にすると、瑞希も手にしていたリーフレットへ目を落とす。
 思ったより肉厚な花弁を持つクチナシは、一重咲きと八重咲きの2種類ある。
 出迎える一重咲きは香りが八重咲きよりも強いらしい。
 恐らく、甘い香りが別の世界へ招いてくれますよ、という意図があるのだと思うが、実際白の花と香りはそうした錯覚を呼ぶ。
 先へ進んでいくと、広場になっている場所が見えてくる。
 そこが、この祭りのメイン会場のようなものだ。
「お手紙を書くなんて、素敵なイベントですね」
 読書が好きな彼女なら、こうした文学的なイベントも好きかと誘ったフェルンとしては、瑞希がそうして微笑を向けてくれるだけで誘った甲斐がある。
「見ないでくださいね」
「見なくても、後で探すよ」
 クチナシの香りがする小さな一筆箋を手にした瑞希が念を押すと、フェルンは事も無げに返す。
 真っ赤になる顔が、フェルンには可愛く映る。

(匿名で書くと宝さがしのようだよね)
 フェルンは、異なる場所で手紙を書く瑞希に視線を移す。
 少し離れている為、瑞希の手元は良く見えないが、手にしているペンが少し太めの字が書けることに気づく。
「あれは、無自覚かな?」
 フェルンは小さく笑みを零し、ペンを取る。
 瑞希の文字は、ちゃんと覚えているのに。
(綺麗な字だと俺は思うよ)
 謙虚な瑞希は、丁寧さを心掛けて書いているのだろうけど。
 几帳面さが出ている瑞希の字は、任務中に取っているメモ帳を覗けば一目瞭然だ。
(俺も何か書かなきゃ)

『君の笑顔は誰よりも素敵だよ。
これからもたくさん笑って欲しい。
もちろん、笑顔以外の表情もとても魅力的さ』

(俺、嬉しいんだよね)
 人見知りの瑞希が、さっきみたいに俺の隣で穏やかな笑顔を見せてくれるようになった。
 慣れるだけの時間を共にしているという事実の実感。
(どんな時でも笑って過ごせる方が良いし……おや?)
 書いた手紙を係員に預けたフェルンは、瑞希が書いたらしい一筆箋を手に頬を染めている。
(可愛いなぁ)
 だから、もっと笑顔を増やしてあげたいんだよ?

(手書きで伝えるメッセージって何だか新鮮だったから……)
 クチナシの香りがする一筆箋もある意味背中を押してしまったのかもしれない。
 少し太めのペンで、大きめにこう書いてしまった。

『いつも傍にいて見守っていてくださること、
とても幸せに感じています。
これからもずっと一緒にいてくださいね』

(わ、私は、何を……)
 ハッキリと形にした気恥ずかしさは、自分がどれだけフェルンを意識しているかの自覚を突きつける。
(本でこうした方が良いって読んだからとは言え、ミュラーさんに気づいて欲しいような欲しくないような)
 瑞希は複雑な気持ちに溜め息を零し、ふと気づく。
 手紙を渡したらしいフェルンが、自分を待っていることに。
 待たせる訳にはいかない。
 瑞希は恥ずかしかったけど、係員へ手紙を渡した。

 手紙も出し終わり、2人は屋台へ足を運ぶ。
「何がいい?」
「アイスティーが飲みたいです」
 フェルンに問われ、瑞希は落ち着く意味でアイスティーを希望した。
 瑞希は、アイスティーを飲みながら一息つく。
 フェルンは隣でアイスコーヒーを飲んでいたが、瑞希より早く飲み終わっていた。
 やがて、新しく飾られた手紙を見て回る。
「どれも伝えたい想いが色々あるね?」
 見つかったらどうしようと思う瑞希は顔を上げられなかったから、それを知らない。
 フェルンが少し太めのペンで大きく書かれた一筆箋を見て、目を細めたことを。

 瑞希自身は手紙を見ることも出来なかったが、恥ずかしくて見られなかった手紙はその心に届けられるだろう。

●長期戦だからこそ
 ひろのは、ルシエロ=ザガンの横顔を見つめた。
 先程係員に渡した手紙は、ルシエロに宛てたもの……ルシエロはどう思うだろうか?
(別に、知られても。いいけど……)
 慣れてきて、今は怖いと思わなくなったパートナー。
 その手紙の内容を思い出し、少し恥ずかしい。
(そういえば、ルシェも書いたのかな……?)
 手紙を書いている間に飲み物を買ってくると言ったルシエロは、ひろのが散々迷って手紙を書いていたら、お願いしたアイスティーと自身が飲むらしいアイスコーヒーを手に立っていた。
 だから、ひろのはルシエロが書いたのかどうか分からない。
 受け取って見上げたら、視線を合わせてきて慌てたから聞けなかったのだ。
 隣でこうして飲み物を飲んでいるけれど、少し赤い頬に気づかれないといい。

(コイツは自信がなさ過ぎる)
 当のルシエロは、心の中でぼやいた。
 長期戦を覚悟しているとは言え、自分に慣れて欲しい。
(伝えたいことは、書いた)
 書いた言葉を思い浮かべ、心の中で溜め息。
 時期尚早を感じた為はっきり書いていない言葉は、半分伝われば上出来と言った所かもしれない。
 一気に間合いを詰めれば、ひろのは怖がる。
 あの言葉が、限度だろうと思う。
 視線を移すと、アイスティーを飲み終わったひろのは、クチナシの花を見ていた。
 綺麗に整えられた公園は、ひろの好みなのかもしれない。
 太陽の光の下では茶色がかった黒の髪の下にある焦げ茶の眼差しに、無意識の距離はない。
 一緒にいたいという言葉のまま───
「ヒロノ、一緒に探すか?」
「一緒に……?」
 ルシエロがそう問うと、クチナシの花から視線を戻したひろのが口の中で小さく反芻した。
 ひろのは視線を彷徨わせた後、小さく頷く。
「ルシェが書いたの、分かるといいな」
 手を伸ばし、頭を撫でようとしたルシエロにとって、その言葉は殺し文句。
 だから、愛しく、それ故に執着するというのに。

「さて、行くか」
 頭を軽く撫でてくれたルシエロは、ひろのを促した。
 教えるつもりはないようだが、一緒に見て回ってくれるのは変わらない。
(追伸したい、な)
 嬉しいことでいいのかと首を傾げて書いたのに、嬉しいことが増えた。
 恋愛感情かは不明だけど、今は一緒にいたいと思う。
「行くぞ」
 ひろのが手を握ろうと伸ばしかけて引っ込めたことに気づいていたらしく、ルシエロは引っ込めたひろのの手を当たり前のように握った。
(ルシェの体温は、よく分からない)
 でも、ほっとする。

 新たに飾られた手紙を目で追っていくと、ルシエロは見覚えがある文字を見つけた。
(口に出すようになってきたとは言え、何を書いたか想像つかんと思っていたが……)
 ルシエロは、ひろのに気づかれたことを気づかれないよう自身の感情をコントロールする。
 ひろのは、自分から自身の手紙はこれだと教えるような性格ではない。
 下手に明確なものとすれば、ひろのは自分と距離を置こうとするだろう。
 とにかく、ひろのは自信を持っていないのだから。

『名前を呼ばれるのも苦手だけど、ルシェに呼ばれるのは嫌じゃないです。
手をつなぐのも結構好きです。
抱きしめられるのは、びっくりするからやめてほしいけど。あったかくて、ちょっとほっとします。

今は会えて良かったって、思えます。
これからも、よろしくお願いします。』

 気づいた事実は口にせず、ただ、手を握る力だけを強くして。
 ルシエロは、ひろのの側にいる。

(もしかしたら、この手紙かもしれない、けど……)
 ひろのは、見覚えがある文字が記された手紙を見る。
 ルシエロは、気づいた自分に気づいた様子はない。
(そうだったら嬉しいな)

『出会えた事を嬉しく思う。
以前も告げたがな。お前は意味が解ってないようだから、改めて伝えておこう。

俺はお前が居れば、それで良い。

手を伸ばせば届く距離にお前が居る。
それが堪らなく嬉しい。』

 ひろのの口元に小さく笑みが浮かぶ。
 いつもより強く握られた手が、嬉しかった。

 長期戦、続行中───

●望みの一歩
 公園で出会った友人達に挨拶をしつつ、手屋 笹とカガヤ・アクショアはクチナシの花を見て回っていた。
「お祭りにするのも分かる気がする! 笹ちゃん、見て! 屋台がある!」
「屋台は逃げませんよ」
「売り切れたら、逃げちゃうよ!」
 カガヤに腕を引かれ、笹は呆れたように溜め息をつく。
 が、カガヤには通じない。
「足元、注意してください。周囲への注意を疎かにして人にぶつかったりしないように」
「うん!」
 笹が注意すると、カガヤは嬉しそうに頷いた。

「ティンギス?」
 見慣れない名に笹とカガヤの声が揃う。
「そ、怠け者って意味。ここには仕事で来てないなら、花に囲まれてゆっくり怠けてくれって意味」
 屋台の主は、そうした意味でそのチョコ菓子を売っていると教えてくれた。
「チョコだから手が汚れるだろうし、手紙書くなら、後のがいいぜ?」
「それなら、また来る! 取って置いてー!」
 手紙を書いたと話す友達と話していたのを見ていたらしい屋台の主にカガヤが明るく笑い、まずは手紙を書くことにした。

(……身近にいるからこそ、普段言えないこと……)
 笹は、声を掛けてくれたA.R.O.A.の女性職員の言葉を思い浮かべた。
 さっきまで側にいたカガヤは、少し離れた場所で手紙を書いている。
(カガヤの望みを叶える為、頑張ってきたつもりですが……)
 実際の所、どうなのだろう。
 従兄弟もウィンクルムだというカガヤを思い、笹は手紙を書いた。

『ウィンクルムとして活動し1年以上経ちましたが、
わたくしは始めの頃より貴方のお役に立てて居るでしょうか。
貴方にとって守るに値する人間に成れているでしょうか。
これからもよろしくお願いします』

「カガヤ?」
 笹が係員へ手紙を託した時には、カガヤは既に手紙を託し終えていたようだ。
「クチナシに飾り過ぎないよう調整するから、係員の人が飾るんだって」
「では、わたくしの手紙も後程飾って貰えるんですね。良かったら探してみてください」
「分かった、探してみるよ!」
 笹宛に手紙を書いたとカガヤは、笹へ笑顔を向ける。
 宛名も差出人も書かなかった自分の手紙を、カガヤは気づくだろうか。

 その不安は、杞憂に終わった。

「ひょっとして、これかな?」
 笹の目の前で、カガヤがその手紙をよく見る。
 長く一緒にいるから、やはり意識して文字を見せていなくとも目にする機会はあったのだろう、カガヤは笹の字に確信を得ているようだ。
「ええ。分からなかったら、小突いてもいいかと思いました」
「えー!? 身長の話してないのに!?」
「今言いましたね」
 気にしていることを言ったカガヤへ、笹はいつも通り小突く。
 カガヤは涙目だが、以前よりは手加減されているからか、酷いを連呼することはない。
「俺、充分過ぎてると思うよ?」
 カガヤが、手紙を前に笑う。
「契約の時、俺が守るから、笹ちゃんが戦いを助けてくれるって約束したけど……寧ろ、俺が守られてる時、あるし。笹ちゃんに助けて貰ってる。だから、俺こそ、これからもよろしくね!」
「その言葉に見合うようにこれからも努力します」
 そして、笹は、その手紙より少し下に飾られた手紙に気づいた。

『笹ちゃんへ
もっと贅沢してもいいかな?』

「あ、これ俺のだよ」
 笹の視線に気づいたカガヤが素直に認めた。
 短い手紙の意味が、笹にはよく分からない。
「贅沢……ですか。わたくしの見解を言うなら……お金がないのに、度を過ぎた贅沢をしたいと言うのであれば問題ですが、そうでなければ良いと思いますが……」
 笹の言葉を聞き、カガヤが明るく笑う。
「じゃあ、ちょっと贅沢! 2人で怠け者になろー!」
 カガヤが2人分のミックスジュースとティンギスを買ってくる。
 それが贅沢なのかと笹は首を傾げるが、それが贅沢ならばいいかと思い直す。
 だから、彼女は彼の贅沢の意味を知らない。

 ウィンクルム以上の関係を望んでいい?

 それは、無意識の抵抗からの確かな一歩。
 気づいた時、笹はカガヤの贅沢に何を思うだろうか。

●あなたが咲かせる花
 桜倉 歌菜と月成 羽純は、友達の笹とカガヤへと挨拶した。
「あ、屋台がある。何かないか見てくるから、羽純くん、待ってて!」
 歌菜は、羽純の返答も聞かずに走っていく。
(いい理由が近くにあったな)
 見送る羽純は、リーフレットを見ていた歌菜の態度で『気づいている』。
 屋台と手紙のイベント参加受付は近いから、ちょうど良かったのだろう。
 予想通り、暫くして歌菜が書くブースへ移動しているのが見える。
(俺も匿名で歌菜へ手紙を書くか)
 書くブースが各所にある為、歌菜に気づかれることなく手紙を書けることに気づいた羽純もイベントの参加を申し込む。

(面と向かって言えないけど……手紙なら!)
 書いていることを知られたら、意味がなくなる。
 だから内緒でと呟く歌菜は、待っててと言った場所に羽純がいないことに気づいていない。

『いつもありがとう。
初めて貴方に会った日から、私の世界は変わりました。
鮮やかに眩しく。
貴方の傍に居ると、私は幸せで……強くなれるんです。
貴方に会えて、今隣に居れる……その幸せを、噛み締めています。
言葉に出来ないくらい、貴方が好きです。』

 好きです。
 そう書くのに手が震えた。
(私ね、幸せなんだよ?)
 あなたは、私の弱さを追い払ってくれた。
 知ってる?
 あなたが私に差し出してくれた花束が、どれだけ私を幸せにしたか。
 私にとっては、あなた自身がクチナシの花。
 いつだって、私を導いてくれる特別だよ。

(『私は幸せ者』、『喜びを運ぶ』……か)
 歌菜よりも早く係員へ手紙を預けた羽純は、リーフレットに記されていたクチナシの花言葉を思い出していた。
(この、白く優しい花が甘い幸福を運ぶのは、確かなようだな)
 羽純は少し気障か、と苦笑し、2人分のアイスコーヒーを購入して待つ。
 ここから見える歌菜は、どこか照れているような表情を浮かべている。
(分かり易い)
 口元に浮かぶのは、小さな笑み。
 契約前から知っていた歌菜に対し、最初は保護者気分だった。
 色々分かり易い歌菜が、それだけではないと知った時……本当の歌菜を見たような気がする。
 それは、自分自身へ確実な変化を与えたと思う。
(だが、俺は怖い)
 母を置いて、父は逝った。
 両親がウィンクルムだったからか、どうしても重ねてしまう。
 もし、自分が父親と同じように歌菜を残したら?
 自分が逝くこと以上に喪失の孤独が歌菜の心を砕いてしまうことが、怖い。
(『少しは落ち着け』は、俺の方。それは、分かっている……)
 羽純は、幸せだから感じているのだと自覚はしている。
 俺は───
「羽純くん?」
 甘い香りが鼻腔を擽った先に視線をやると、2人分のティンギスを手にした歌菜が立っていた。
「少し花の香りにやられたみたいだ」
 歌菜自身が、俺の甘い幸福と思ったなんて。

 アイスコーヒーとティンギスでゆっくり一息。
「先にお手洗いへ行ってたから、羽純くんと入れ違っちゃったね。でも、甘党の羽純くんがティンギス買わなかったなんて珍しい」
「歌菜待ってる間に溶けたら勿体無いだろ」
「あ、そっか」
 互いに、手紙のことは聞かない。
 が、示し合わせた訳でもなく、手紙を見て回ろうという話になった。
「どうして係員の人が飾るのかって思ったら、クチナシを守る為だったんだね」
「枝折れたりしたら、手紙飾るどころじゃないしな」
 手紙を飾る係員の話を聞き、歌菜も羽純も納得。
(あ……)
 歌菜は、自身の隣に飾られた手紙の字が羽純のものであることに気づいた。

『隣に居るのが当たり前で、
いつしか、お前は空気のような存在になっていた。
居ないと息が出来ない程……俺はお前に支えられている。
お前は気付いてないだろうけど。
これからも傍に居てくれ。お前の笑顔を守らせて欲しい。
それが俺の幸せだ』

 歌菜の口元が、緩む。
「甘い香りだね」
「……そうだな」
 短く会話を交わし、手紙を見る。
 きっと、私と同じように羽純くんも『気づいてる』。
 あなたの言葉は、甘い幸福の喜び。
 私を、強くしてくれる。

●幸せの責任
 アマリリスもヴェルナーと共にクチナシの花を見て回っていた。
「実は着色料にも薬にもなるようですが、花は食用になるようですね」
「……ヴェルナー」
 リーフレットにあるクチナシの説明を真面目に読み上げるヴェルナーへアマリリスは不満そうな目を向けた。
「花を楽しむ祭りよ?」
「ですが、リーフレットに説明書きが……」
「今は知識を深める時間ではないわ」
 朴念仁で人の機微に疎いヴェルナーは周囲に人がいない為に本来の調子のアマリリスの為、リーフレットの説明の読み上げを切り上げた。
「綺麗な花ね。一重咲きの香りの良さも八重咲きの華やかさも魅力的。……あれがそうかしら」
 アマリリスが、イベント参加申し込みをしている場所を見つけた。
 公園の広場になっている場所で、書く為のブースが点在している。
「手紙、折角ですし、書いてみましょうか」
「そうですね」
 人前判定をしたのか、深窓の令嬢となったアマリリスへヴェルナーが頷いた。

(とは言え、普段から言いたいことは口にしているつもりだから、改めて何を伝えるべきか……)
 ヴェルナーはペンを手に、暫し悩む。
 やがて、普段言えないことだけを書くのが手紙ではないと思い直して一言書いた。

『アマリリスへ
お慕い申しております。
ヴェルナー』

 敬称を書かないよう注意はしたが、ごく自然にそう書いた。
 普段から口にしている言葉、後ろめたいと思う気持ちは何もない。
「……飾っていただくのでしたね」
 アマリリスはどこか視線を巡らせたが、係員へ飾って貰うことを思い出したヴェルナーは手紙を係員へ預けた。

 ヴェルナーが係員へ手紙を預けている頃、アマリリスはまだ手紙を書いていた。

『普段は中々素直になれないけど』

 出だしは、こう記された。
 つまり、この先は素直な言葉を記すという意味。

『きっと自分で思っている以上にわたしは貴方の事を好ましく思っていて感謝もしているの。
わたしと出会ってくれてありがとう。』

 面と向かって、言えない言葉。
 宛先と差出人を書かない(考えはしたが止めた)手紙だから、伝えておきたい。

『今、とても幸せよ。』

(こんなものかしら。……文字にしてみると、中々恥ずかしいものね)
 ざっと見直しをし、誤字がないことを確認。
 アマリリスは係員に渡すと、少し離れた場所にヴェルナーの姿を見つけた。
 彼は、何を書いたのだろう。
 気になる程度には、アマリリスも乙女なのだ。

 2人でクチナシの花を観賞していると、係員が目の前で新しい手紙を飾り始めた。
 目に飛び込んできた文字を見て、アマリリスは思わずその手紙を見る。
(色々な解釈があるけれど、これはどういった意味合いなのかしら)
 アマリリスを宛名とし、ヴェルナーを差出人とした手紙。
 たった一言だけ記された手紙は、間違いなくヴェルナーが書いたものだろう。
 意味を聞きたいけれど、直接聞けるようなら手紙なんて必要ない。
(期待しても、いつも通り裏切られるわよ)
 相手は、超がつく程鈍い天然の堅物だ。
 期待してはいけないと分かっている。
(わたし、バカなのかしらね)
 期待してはいけないのに、胸はドキドキしている。

「……?」
 ヴェルナーは、アマリリスが微妙にぎくしゃくしていることに気づいた。
 何かあったのだろうかと首を傾げるヴェルナーはアマリリスが巧妙にその場を離れようと言った為、アマリリスが自分の手紙を見たことに気づいていない。
 と、別の係員が手紙を飾っている。
「…………」
「どうかしましたの?」
 ヴェルナーが足を止めると、深窓の令嬢口調のアマリリスが尋ねてきた。
「私も幸せです。アマリリス」
 視線の先にあるのは、1通の手紙。
 宛名も差出人もないが、ヴェルナーはアマリリスが自分に宛てた手紙だと気づいたのだ。
「何のことか分かりませんわ」
 深窓の令嬢を装うアマリリスが早足で歩き出したので、ヴェルナーは慌てて後を追った。

 その想いが形となるように。
 きっと、幸せは運ばれてくる。

 ───汝、誠実たれ。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アマリリス
呼び名:アマリリス
  名前:ヴェルナー
呼び名:ヴェルナー

 

名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月26日
出発日 07月02日 00:00
予定納品日 07月12日

参加者

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