Birthday365(沢樹一海 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ――1ヶ月の間に、祝日は数日。1年の間で考えても2、30日程度だろう。けれど、祝いの日――大切な日というのはこれだけではない。

 彼が、彼女が生まれた日――誕生日。

 ――1年365日、誰も誕生していない日は存在しない。
 どんな日でも、それは誰かの誕生日で。

         ◆◆◆

 春のある日。
 神人の誕生日を祝う為、精霊はその日休みを取った。ほどよく暖かい気候の中、彼は神人を花見に誘う。
 満開の桜の下を散歩した後、彼は神人に小さな箱を渡した。
「誕生日おめでとう。きっと君に似合うと思うよ!」
「ありがとう……。大切にするわ」
「ケーキも予約してあるんだ。これから2人で取りに行こう」
「……ええ。誕生日、覚えててくれてありがとう」
 2人はらぶらぶな空気を纏って、また桜の下を歩き始めた。

         ◆◆◆

 夏のある日。
 精霊の誕生日を祝いたいけれど、神人は迷っていた。
 精霊と神人は別に恋人同士ではない。ビジネスライクな関係だ。お互いに嫌ってはいないし関係も良好だけれど、誕生日を祝うというのは、それを超えた何か特別なものの気がして。
 朝食を囲む食卓で、アイスコーヒーを飲む精霊が「ん?」という顔をしてこちらを見る。
 どういう顔をしていいかわからなくて、神人はふいっと目を逸らした。
 今日1日、どうしよう……と思いながら。

         ◆◆◆

 秋のある日。
 精霊はどきどきしていた。今日は彼の誕生日。
 きっと、神人が誕生日を祝ってくれるはずだ。きっと。多分。絶対に。
 彼は神人が好きだった。けれど、神人が自分をどう思っているかはわからなくて。
 だから、どんな祝い方をしてもらえるのか。そもそも祝ってもらえるのか、ちょっと自信がなかったのだ。
 精霊は携帯電話に目を落とす。同居しているわけではないから、用がなければ顔を合わせない関係で。
 ――今日は、連絡が来るだろうか。

         ◆◆◆

 ある冬の日。
 今日はクリスマスだった。
 そして、神人の誕生日だった。
 精霊は、クリスマスディナーの準備をしていて、クリスマスケーキを受け取ってきてと言われて外に出たけれど。
 少しだけ、気分が浮かない。
 彼はあくまでもクリスマスのお祝いをするつもりのようだから。
 何か忘れてない? という気持ちを抱き、神人はケーキ店の中に入る。
 予約をしていることを店員に告げ、出てきたケーキを見て神人は驚いた。そこには「HAPPY BIRTHDAY」と書いてあったから。

         ◆◆◆

 それぞれの誕生日。
 1年に一度、必ず訪れる大切な日。
 あなたは、何をしていましたか?

解説

ウィンクルム達の誕生日の1日を描写するエピソードです。

時期は、プロローグにある通り、問いません。ただ、秋はまだ今年来ていないので、去年の話になります。

描写可能舞台は、タブロス市内、もしくは、自宅としてください。
ショコランド、イベリン王家直轄領等はご遠慮ください。

他には特に制限はありません。
みなさまの誕生日の1シーン、楽しみにしております!

ゲームマスターより

HAPPY BIRTHDAY!
誕生日エピソード出したいなーと思っていたのですが、
毎月出すわけにもいかないので……

まとめてです!
時期は問いません。時期は問いません(大事なことだからry

よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
あのエミリオさんが私をデートに誘ってくれるなんて!
そうだよね、私達もう『兄妹』じゃないもの、こ、恋人同士なんだもの…(赤面)
どうしよう、すごく嬉しいな

☆ショッピング街でデート
(精霊の質問に)え? 特に何もないよ?
エミリオさん、さっきから何だかそわそわしてるけど…私とのデート、楽しくない?(しゅん)
エミリオさん、どこ行くの!?

☆夕方の公園
や、やっと見つけた~
私にくれるの?
綺麗…(箱の中には誕生石のついた腕輪が)そうか、今日って私の誕生日!
ううん、凄く嬉しいよ、宝物にするね

あのねエミリオさん
私が何もないって言ったのは
大好きな人の傍にいられればそれでいいって意味だったんだよ(照れたように笑う)



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  五月五日はディエゴさんの誕生日です
前日にいろいろ準備をしておこうと思ったのですが
タイミングが悪くオーガの討伐依頼が舞い込み、自宅への帰路につけたのが誕生日当日の日が昇る頃になってしまいました。

今回の依頼のオーガはとても強く
私もディエゴさんもボロボロです
素敵な誕生日にしたかったですが…
でも、誰よりも早くディエゴさんの誕生日を祝いたいので帰宅途中ですがおめでとうを言います。

素敵な飾り付けもバースデーケーキもありませんが…
お誕生日おめでとうございます、ハプニングはありましたけど来年も十年後も私が一番早く貴方の誕生をお祝いするのを予約しときます。

プレゼントは家にありますよ
実用性のあるネクタイピンです。



出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  レムが誕生日のお祝いしてくれるなんて嬉しい
だけど何か様子が変ね…話しかけても心ここにあらずだし

もしかして本当は嫌だったとか?
それか他に予定があったとか…(ぐるぐる悩む
思い切って聞いてみる

ねえレム、今日何かあったの?
都合が悪ければ無理しなくてもよかったのよ
…嘘、じゃあどうしてそんな上の空なの
もういいわ、どうせこれだってウィンクルムの義務感で用意しただけなんでしょ!

怒鳴り返されてびくっとなりつつもテーブルに落ちた紙を見付ける
…母さんの名前だわ
これを調べてくれてたのね
変なこと疑ったりしてごめんなさい
ううん、親の事一緒に調べてって言ったのはあたしだったのに
こんなあたしでも、まだパートナーでいてくれる?



アンダンテ(サフィール)
  4月1日
精霊の元におしかける
サフィールさん!実はね私、今日が誕生日なのよ

あっ、これはエイプリルフールと思われているパターンだわ
今までもよくあったもの(前もって言う発想がない
返事がすごく淡白だし…
いえ、淡白なのはいつもの事だったわ
どうやって信じて貰おうかしら
素直に手近なイスに座り精霊の手があくまでじーっと眺めながら思案

え、知っていたの?
祝って貰いたかったという気持ちがなかった訳ではないけど
でもこうしてお祝いされると嬉しいものね

同じ格好なのには理由があるといえばあるけど
そろそろ、変わるべきなのかしら
ねえ、今ここで結んでくれないかしら
そうしたら私は今日、世界で一番の幸せ者になれそうな気がするの

賢明よ



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  12月13日はミュラーさんの誕生日です。
攫われた事はあっても依頼とか受けた事が無くて。親睦を深めるためにも、誕生日イベント、逃す手はありません!
ケーキは作れる自信が無いので。
お花を贈りましょう。
先日誕生花の本を読んだので、12月13日を確認したら何とカトレア。ランの女王です。
アレンジメントをお店で作ってもらいました。
支部で研修があるのでその時にサプライズで渡します。
「お誕生日おめでとうございます」って、笑顔で!
(数日間鏡の前で練習しました!改まって、は恥ずかしいものです)
「これからも宜しくお願いします」にこっ。
「花言葉は『大切な人だから』というのがあるそうです」ミュラーさんは大切な人ですもの。



 1 すれ違いの後に

 去年の8月16日のこと。
「さっきのお店、いい感じだったね!」
 ミサ・フルールが楽しそうに、隣を歩いている。
 エミリオ・シュトルツは、誕生日を迎えた彼女をショッピングに誘った。最近任務続きで忙しいし、ミサはきっと自分の誕生日を忘れてるだろうと思ったのだ。
 買い物をして、欲しいものをプレゼントしたり行きたい所に2人で行ったり。
(幸せな1日を贈りたいな)
 密かにちょっと気合を入れて、エミリオはショッピング街を見回していた。

あのエミリオさんが私をデートに誘ってくれるなんて!)
 そしてミサは、弾む声で買い物を楽しみながら、ドキドキしていた。
(そうだよね、私達もう『兄妹』じゃないもの。こ、恋人同士なんだもの……)
 そう考えると、一気に頬が火照ってくる。
(……どうしよう、すごく嬉しいな)
 次はどこへ行こうか? と言いかけた時、エミリオが話しかけてくる。
「ミサ、今度はどこに行きたい?」
 聞こうとしていたこととその問いの答えは、ほぼ同じものだった。
「エミリオさんの行きたいところでいいよ!」
 ミサには目的の店はないし、エミリオが行きたい場所で構わなかった。
「…………」
 それを聞いた彼は、少しびっくりした顔になる。
「……本当に何もないの? 行きたい所……欲しいものとか」
「え? 特に何もないよ?」
 思うままに答えると、エミリオは表情を曇らせた。そんな彼を前に、ミサは急に不安になる。
(エミリオさん、さっきから何だかそわそわしてたけど……私とのデート、楽しくない?)
 彼女は笑顔を消し、しゅんとして俯いた。

(本当に鈍感というか……やっぱり今日が何の日か忘れてるんじゃないか)
 あまりにもいつも通りのミサに、エミリオは呆れるというより苛ついてしまった。
「もういい、自分で探す!」
 ムキになった彼は、ミサに背を向けて走り出した。
「エミリオさん、どこ行くの!?」
 後ろから声が掛かっても立ち止まらず走り続け、そして――

             ∞

「何をやってるんだ俺は、こんな筈じゃなかったのに……」
 夕方の公園で、エミリオはベンチに座ってうなだれていた。手には小さな紙袋があるが、隣に座っているはずの彼女の姿はない。
「や、やっと見つけた~」
 がっくりしていると、公園の入口からミサが何だかへろへろ気味に近付いてきた。額には汗が光っている。
「ミサ……」
 立ち上がり、エミリオはバツが悪そうに持っている紙袋をミサに差し出す。
「はい、これ」
「? 私にくれるの?」
 ミサはきょとんとして紙袋を受け取ると、中の箱を取り出す。ラッピングされた箱の中には、緑色の石――ペリドットのついた腕輪が入っていた。
「綺麗……」
 腕輪を見て、ミサは呟く。それから、やっと思い出したのか「そうか」と言った。
「今日って私の誕生日!」
「ちゃんと祝ってあげられなくてごめん」
「ううん、凄く嬉しいよ。宝物にするね」
 ミサは嬉しそうに腕輪を身に着けると、エミリオを見上げて少し真面目な顔で言う。
「あのね、エミリオさん。私が何もないって言ったのは、大好きな人の傍にいられればそれでいいって意味だったんだよ」
「……っ」
 そうして彼女が照れ笑いを浮かべると、エミリオはぼっと赤面した。
「お、美味しいものでも食べに行こうか。ケーキ好きでしょ」
 そっと、ミサの手を取る。彼の手を握り返すと、彼女は「うんっ!」ととびきりの笑顔になった。

 2 笑顔が最高のプレゼント

「ありがとうございます」
 去年の12月13日、瀬谷 瑞希はとあるショップの中にいた。店員から紙袋を受け取り、店を出る。
 今日は、フェルン・ミュラーの誕生日だ。ウィンクルムとして彼と契約したけれど、瑞希と彼は攫われこそすれ、まだ依頼を受けたことはなくて。
 共に事件を解決したことがないからか、フェルンとは仲良くなるきっかけがない、と瑞希は思っていた。彼女は、人見知りなのだ。
(親睦を深めるためにも、誕生日イベント、逃す手はありません!)
 紙袋を手に、瑞希はA.R.O.A支部へ向かう。今日は支部で、新人ウィンクルム向けの研修があるのだ。

(せっかくの誕生日なのに研修か……)
 それから数時間後、フェルンは溜め息が出そうな気持ちで研修を受けていた。
(まあ、瑞希に会えたしラッキーと思うことにしよう)
 彼にとって、瑞希は既にかけがえのない存在だった。まだ他人行儀な態度を取られることも多く、目を合わせて話すことも少ないけれど。
 フェルン自身は、その壁などものともせずに積極的に接している。瑞希の方を見ると、研修中なのに彼女は何かそわそわとしていた。
 視線をちらちらと向けているのは、ロッカーの方だろうか。
「……?」
 ずっとそんな様子だった瑞希は、研修が終わるや否やロッカーにダッシュしていった。しゅぱっと戻ってきた彼女は、笑顔で花の絵が描いてある紙袋を差し出してきた。
「お誕生日おめでとうございます」
 正面から見た彼女の笑顔にびっくりして、フェルンはしばし目を丸くした。これまでで一番、と感じる笑顔だ。
 つい、見惚れてしまう。

 笑顔は数日間、鏡の前で練習した。改まって、は恥ずかしいから。
「これからも宜しくお願いします」
 何故か呆けた顔をしているフェルンに向けて、瑞希はにこっと笑った。
「誕生日、知ってたの?」
 驚いたまま紙袋を受け取る彼に、彼女は頷く。
「最初に資料を見た時に」
「え? ああ、あの時に見たのをちゃんと覚えていてくれたんだね、嬉しいな」
 初顔合わせの時、A.R.O.A.の職員にお互いの資料を見せてもらっていた。それを、瑞希は忘れなかった。
 フェルンははにかみながら紙袋を開ける。彼がそっと取り出したのは、カトレアで作ったフラワーアレンジメントだった。小さな籠に、綺麗に生けてある。ケーキを作る自信のなかった瑞希は、彼の誕生日に花を贈ることにしたのだ。
 先日読んだ誕生花の本で12月13日を確認したら、そこにはカトレア――ランの女王の写真が載っていて。
「花言葉には『大切な人だから』というのがあるそうです」
 フェルンは大切な人だ。だから、瑞希はすぐにプレゼントを決めた。研修の前に花屋に寄って、アレンジメントを受け取ってきて。
「『大切な人』……。そうか……」
 それを聞いて嬉しそうにする彼にも特に疑問は持たなかった。

「ありがとう」
 フェルンは瑞希を見て、目を細める。
 誕生日に研修が当たってしまったことを憂いたりもしたけれど。
「何よりも君の笑顔が一番のプレゼントだよ」
 今日は、最高の誕生日だ。
「ミズキの笑顔は、とても可愛いよ」

 3 イメージチェンジ

「サフィールさん! 実はね私、今日が誕生日なのよ」
 4月1日、アンダンテはサフィールの自宅に押し掛けた。仕立て仕事をしていた彼は、アンダンテの方を見るとにこりと笑った。
「それはおめでとうございます」
 誕生日と聞いたらこう返す、というテンプレートに従っただけという感じの言い方で、彼女はあれ、と思った。サフィールは、その後にこう続ける。
「仕事中なので暫く静かにして貰っていていいでしょうか。そこらへんに座ってていいので」
 そつなく言って手元に目を戻し、仕事に戻る。彼の態度を見て、アンダンテは「あっ」と思った。
 今日は4月1日。
 つまり。
(これはエイプリルフールと思われているパターンだわ。今までもよくあったもの)
 当日にいきなり言うのではなく、前もって誕生日を伝えておくという発想がない彼女は、似たような反応に出会ったことがこれまでにもあった。
(返事がすごく淡泊だし……いえ、淡泊なのはいつもの事だったわ)
 どうやって信じて貰おうか。
 座ってていい、と言われた通りにイスに座り、アンダンテはサフィールをじーっと眺める。
 彼の手が空くまで。

 ――一区切りついたところで、サフィールは顔を上げてアンダンテと目を合わせた。
「改めまして、誕生日おめでとうございます」
 おざなりではなく心から言うと、彼女は驚いたようだった。
「え、知っていたの?」
 エイプリルフールと勘違いされている、と彼女が考えていたとは思わず、さっき言いましたよね、とサフィールは思う。
「契約前に、パートナーの情報として知っていました」

「そうなの……」
 拍子抜けすると同時に、おめでとうと言葉を贈られたことがアンダンテは嬉しくなってきた。
 祝って貰いたかったという気持ちがなかった訳ではないけど、でもやっぱり、こうしてお祝いされると嬉しいものだ。
「ところでアンダンテ、その格好……」
 サフィールは彼女を検分するように見て、提案してくる。
「似合ってはいますがいつも同じ髪型に服装ですから、たまには他の格好もどうでしょうか」
「……他の格好?」
 アンダンテは、自分の着ている服を見直してみる。そうなのだろうか。
(……同じ格好なのには理由があるといえばあるけど、そろそろ、変わるべきなのかしら)
 そんなことを思っていると、サフィールは立ち上がって引き出しを開けた。艶のある緑のリボンを取り出し、差し出してくる。
「髪結いにどうぞ。誕生日のプレゼントです」

 ――リボンにしたのは、いきなり服を贈るのも微妙な気がして、とりあえず頭からと思ったからだ。
 リボンを受け取ったアンダンテは、それをまじまじと見ると彼に返すような仕草をした。
「ねえ、今ここで結んでくれないかしら。そうしたら私は今日、世界で一番の幸せ者になれそうな気がするの」
「……わかりました」
「賢明よ」
 アンダンテは艶やかな笑みを浮かべた。再び緑のリボンを手にしたサフィールは、器用な手つきで彼女の髪を纏めていく。
 視線を少し下げると、露わになったうなじが見えた。
「…………」
 正面を見て気が付かない彼女の後ろで、ドキリとした彼は慌てて目を逸らした。

 4 誰よりも早く

 5月5日――
 夜が明けたばかりの白に近い青空の下、ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロは自宅に向かって足を進めていた。突然舞い込んで来たオーガの討伐依頼を果たした後で、2人とも服のあちこちが綻んでいる。ディエゴの肌には、幾つかの傷が見て取れた。体は疲れ切っていたが、彼女達はぴんと背を伸ばしてまだ人の姿が見えない道を歩く。
(今回は危なかった……)
 ディエゴは、隣のハロルドをちらりと見る。先程のオーガとの戦いを思い出して眉間を寄せた。下手をしたら、彼女にケガを負わせてしまうところだった。何とか、負傷するのは自分だけに留めたが。
(精進を続けていかねば……)
 目を覚ました小鳥の小さな鳴き声が聞こえる中、ディエゴは気を引き締めた。
「ディエゴさん」
 ハロルドから声が掛かったのは、その時だった。

 ――今日はディエゴの誕生日だ。
 昨日のうちにいろいろ準備をしようと思っていたハロルドだったが、オーガの討伐に時間を取られてしまって、準備はできなかった。
 オーガはいつどこに現れるか分からない。今回は、タイミングが悪かった。
 だけど――
「お誕生日おめでとうございます」
 こちらを向いたディエゴに、ハロルドは微笑んでそう言った。
 帰宅途中だったが、誰よりも早く彼の誕生日を祝いたかったから。本当は、もっと素敵な誕生日にしたかったけれど――
「…………」
 祝いの言葉を受けたディエゴは、驚いた顔でハロルドを見返していた。しばらく何も言わずに数度瞬きを繰り返した後、そのままの表情で口を開く。
「誕生日……ああ、そうか。今日は俺の誕生日か……」
 足を止め、目を伏せる。
「ずっと、誕生日を祝う意味がわからなかった」
 春とはいえ、早朝はまだ肌寒い。体を冷やす風を感じながら、彼はハロルドに話し出す。彼女は、疑問を口にすることも相槌を打つこともなかった。ただ、静かに彼の話に耳を傾ける。
「一度全てが駄目になって、それがもう取り返しがつかないものだと理解した時に、歳を取る事に後悔と、1日が過ぎていく恐怖しかなかった。…………」
 ディエゴは顔を上げる。過去を思い出して辛そうにするのではなく、彼は多少のもどかしさと恥ずかしさが混じった表情になっていた。
「……何を言いたいのかというとだな」
 それが、ふっと優しい笑みに変わる。
「お前が隣にいて、おめでとうと言ってくれた事が嬉しいんだ」
 彼の言葉は、ハロルドの心にすっと入ってきた。彼女はディエゴに近付き、その胸に頭を預ける。戦闘後の汗の匂いに加え、微かに血の匂いがする。だが、それは不快な匂いではなかった。
「素敵な飾り付けもバースデーケーキもありませんが……お誕生日おめでとうございます。ハプニングはありましたけど、来年も十年後も私が一番早く貴方の誕生をお祝いするのを予約しときます」
 僅かに体重を預けてくるハロルドを支え、ディエゴは苦笑する。
「十年も二十年後も俺の誕生日を祝うなら、きっと今回のように一筋縄ではいかないだろうさ。……だが、お前と一緒に生きるこれからなら、支えあうくらいの方がちょうど良いんだろうな」
「…………」
 ハロルドはディエゴに支えられたまま話を聞き、数秒の間の後にそっと体を離した。彼を見上げて笑いかける。その笑顔を見ていると、ディエゴの心はほうと温かくなってくる。
「……俺と出会ってくれてありがとう」
 ありがとうの言葉は、自然と彼の口をついて出た。
「プレゼントは家にありますよ。実用性のあるものです」
 ハロルドはにこっと笑ってまた歩き出す。家で、2人の帰りを待っているネクタイピンを思い描きながら。

 5 誕生日に進む一歩

 6月14日、出石 香奈の誕生日の前日、レムレース・エーヴィヒカイトは祝いの準備をする傍らで古い新聞を読んでいた。彼は、香奈の親について日々調べている。新聞の記事から、何か手がかりが見つかるかもしれない。
「……!」
 紙を捲っていた手がぴくりと止まる。彼の目は、ひとつの記事に釘づけになっていた。やがて、口から言葉が漏れる。
「まさか、教団のテロで亡くなっているとは……」
 その記事には、香奈の母の名が載っていた。

「香奈、誕生日おめでとう」
 翌日の6月15日、レムレースは、苺の乗ったショートケーキを切り分けて香奈と自分の前に置くと、お茶を淹れて席に着いた。着物の懐には、例の新聞の切り抜きが入っている。昨日は、記事から受けた衝撃が覚めやらず、あれからろくに準備が出来なかった。なるべく普通に振舞おうとするが、どうしても気がそぞろになってしまう。
(……レム、何か様子が変ね……)
 ケーキを挟んで2人で向かい合う中で、香奈はレムレースの気持ちが誕生会に向いていないことに気付いていた。彼が誕生日をお祝いしてくれることはとても嬉しいのだけれど。
(もしかして、本当は嫌だったとか? それか、他に予定があったとか……)
 ケーキを口に運びながら、香奈はぐるぐると悩んでしまった。
「ねえレム、今日何かあったの? 都合が悪ければ無理しなくてもよかったのよ」
 気になりすぎて、思い切って訊ねてみる。
「……都合は悪くない。ただ少し立て込んでいたので、大した用意ができなくてすまない」
「……嘘、じゃあどうしてそんな上の空なの」
 香奈は、そう訊く自分の声が尖っているのを自覚していた。だが、一度口を開いたらもう止められない。悔しさと不安が、感情を昂ぶらせる。
「嘘は言ってない。俺は心からお前が生まれた祝いと感謝を……」
「もういいわ、どうせこれだってウィンクルムの義務感で用意しただけなんでしょ!」
 冷静な声で答えるレムレースに、香奈は怒鳴り声を上げていた。
「だから違うと言っているだろう!」
 矢継ぎ早に責められ、レムレースも文中にある名前から目が離れない。を怒鳴り返してテーブルをバーン! と強く叩いた。びくっとした香奈の前に、彼の懐から出た切り抜きがひらりと落ちる。
「……これは……」
「…………」
 切り抜きを手にする香奈を、レムレースは止めなかった。ただ、苦い顔をしている。記事を詳しく読むまでもなかった。
「……母さんの名前だわ」
 文中にある名前から、目が離れない。昂ぶっていた気持ちが、落ち着いていく。記事への驚きは大きかったが、レムレースへの誤解は解けた。
「……これを調べてくれてたのね。変なこと疑ったりしてごめんなさい」
「俺の方こそ、怒鳴って悪かった。祝いの席でこれを出すのは躊躇われた」
 レムレースはどこか、辛そうな顔をしている。
「ううん、親のこと一緒に調べてって言ったのはあたしだったのに」
 その彼に、香奈は優しい眼差しを向けた。
「こんなあたしでも、まだパートナーでいてくれる?」
「……ああ、お前さえよければ共にいてほしい」
 レムレースも柔らかな笑みを浮かべて、椅子に座り直した。
 机を叩いた衝撃で苺はケーキから落ちていたけれど、甘酸っぱく、変わらずに美味しかった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 沢樹一海
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月20日
出発日 06月28日 00:00
予定納品日 07月08日

参加者

会議室

  • [10]瀬谷 瑞希

    2015/06/27-22:10 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    よろしくお願いいたします。

    プランの提出できました。
    皆さんが素敵なひと時をすごせますように。

  • [9]ハロルド

    2015/06/27-05:04 

  • [8]ハロルド

    2015/06/26-17:17 

  • [7]ミサ・フルール

    2015/06/26-08:27 

  • [6]ミサ・フルール

    2015/06/26-08:27 

    エミリオ:
    やあ、こんにちは。
    絡みはないけれど、どうぞよろしく。
    俺のところは去年の夏にミサの誕生日を祝った時の回想になるかな。
    遅くなってしまったけれど、出石、誕生日おめでとう。
    皆が思い思いの時を過ごせることを願って、

  • [5]アンダンテ

    2015/06/26-01:04 

  • [4]ハロルド

    2015/06/23-23:11 

    っと、香奈さん
    お誕生日おめでとう~♪
    素敵な思い出作りましょう~♪

  • [3]ハロルド

    2015/06/23-21:08 

  • [2]出石 香奈

    2015/06/23-17:24 

  • [1]出石 香奈

    2015/06/23-17:24 

    出石香奈と、パートナーのレムよ。
    今回はみんな知った顔ばかりね。

    あたしの誕生日は今月、6月15日。だからごく最近の話ってことになるかしらね。
    それじゃあみんな、素敵な誕生日を過ごしましょうね。


PAGE TOP