プロローグ
●お菓子なわんことドーナッツ
「よろしくお願いしまーす!」
ショコランドでのデート中に、貴方は妖精から1枚のチラシを受け取った。そこには、ファンシーなタッチで、何やらチワワ犬のような動物が描かれている。チワワ犬のような、と表現せざるを得なかったのは、その動物の尻尾が、どう見ても美味しそうな小振りのわっかドーナッツだったからだ。さらに、チラシには『ベニエシアンの遊び相手募集中!』との文字が踊っている。首を傾げる貴方に、妖精が言った。
「ベニエシアンは、ショコランドに生息するドーナッツで出来たわんこなんですよ!」
チワワによく似たそのお菓子なわんこは、チラシのイラストの通り、わっかドーナッツな尻尾を持っている。嬉しいことがあるとぶんぶん振るわれるそのドーナッツ尻尾は、そのぶんぶんの度にポロリと取れてしまうのだが、すぐに新しい尻尾が生えてくるので問題はないらしい。
「あ、取れた尻尾は美味しく頂けます! ベニエシアンの尻尾は、見た目通り、絶品のドーナッツでできているんですよ! ちなみに、生えてくる度に別の味になるので、色んな味のドーナッツを楽しんでいただけます!」
プラリネと名乗ったその妖精はベニエシアンが生まれ育つまんまる原っぱの管理者なのだという。遊びたい盛りのちびっこベニエシアンたちのために、彼らと思いっ切り遊んでくれる相手を探している最中なのだとか。これも何かの縁かと、貴方とパートナーはまんまる原っぱに向かうことに決める。
「ありがとうございます! いっぱい可愛がってあげてくださいね! 取れた尻尾ドーナッツは食べ放題ですので、どうぞショコランドの甘味も満喫していってください!」
それから、と、プラリネは貴方の耳元でこう囁いた。
「ベニエシアンの尻尾ドーナッツには、食べた人の好意を増幅する効果があるんです! パートナーさんとの距離を縮めるきっかけになるかもしれませんよ!」
解説
●ベニエシアンについて
まんまる原っぱでのびのび暮らしているドーナッツで出来たわんこ。
見た目はスムースのチワワを想像していただければと思います。
尻尾が小さなわっかドーナッツになっていて、嬉しい時にぶんぶん振っては取れてしまうのですが、すぐに新しいものが生えてきます。
取れた尻尾ドーナッツは絶品です。
色んな味がありますので、食べたい味があればプランにてご指定くださいませ。
特にご指定ない場合は、お任せとさせていただきます。
本人(本犬?)も、取れた尻尾を美味しくもぐもぐする他、尻尾でボール遊びをするのも好きなようです。
また、今回触れ合っていただけるベニエシアンはどの子もまだ子犬です。
どうか大事に可愛がってあげてくださいね。
●尻尾ドーナッツの特別な効果について
ベニエシアンの尻尾ドーナッツは、人間(神人含む)や精霊が口にすると、食べた人の好意を増幅します。
・この人の近くは居心地がいいな→居心地がいいからもっと近づきたい!
・本当はもっと素直になりたいのに→素直に自分の気持ちを伝えたい!
・この人に触れてみたいけど……→ええい、もう触っちゃえ!
等々、例えばこんな感じの気持ちになったりします。
そういう気持ちになるだけなので、実行に移すかはキャラクターさん毎にご自由に。
パートナーに無性に触れたくなったけどぐっと堪える、みたいなプランもアリです。
ドーナッツの効果は2人とも知っている、片方だけが知っている、2人とも知らない、のどれでもOKです。
●妖精プラリネについて
ベニエシアンが暮らすまんまる原っぱの管理人。
基本的にはリザルトには登場しない予定ですが、何かご用があればプランにてどうぞ。
●消費ジェールについて
ショコランドでのデート代として300ジェール消費となります。
●プランについて
白紙プランや公序良俗に反するプランにご注意ください。
前者は描写が極端に少なくなり、後者は描写いたしかねます。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
ベニエシアンの発音はダルメシアンと一緒です。でも見た目はチワワ。
可愛いわんこと戯れつつ、不思議なドーナッツの効果も楽しんでいただければ幸いです。
なお、尻尾ドーナッツで増幅されるのは前向きな好意のみになります。
苦手な相手を更に苦手にはなりませんし、「独り占めしたい!」と思うことはあるかもしれませんが「いっそ殺して自分だけのものに……」みたいなヤンデレ方向には気持ちは増幅されません。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
こんにちは 今日はよろしくね そっと頭を撫でて 怖がられなければ満面の笑顔で抱き上げる しっぽが取れたら思わず小さな悲鳴 「痛くない?」と心配顔 ベニエシアンが何事もない様子を見て一安心 笑い顔のシリウスに頬を膨らませる 聞いていたけど…びっくりしたんだもの 口を尖らせるが こちらを見つめる彼の優しい顔にどきり 頬を赤くして目を伏せる 食べてみた尻尾ドーナッツの甘さににっこり笑顔 ありがとう とっても美味しいわ ベニエシアンにお礼 撫でたりボール遊びをして一緒に遊ぶ シリウスも一緒に遊びましょ? 手招かれ 首を傾げながらも彼の側に座る 感じる温もりに真っ赤 それでも 彼の目元もうっすら赤いのに気づいて顔をほころばせる |
かのん(天藍)
ドーナッツ:美味しい事は聞いたけれど効果は知らない ベニエシアン:ハンカチに結び目作り玩具代わりにして遊ぶ まん丸な目が可愛い 差し出されたドーナッツ手で受け取る 少し残念そうな様子に首傾げ 子犬もドーナッツに興味津々なので半分に割り片方を鼻先より少しだけ高い所へ 軽くジャンプしてぱくりとする子犬を撫でつつ手元の半分を食べる 人目がありそうな所で天藍に構われるのは恥ずかしいのですけれど・・・ 子犬だけじゃなくて此方にも目を向けて欲しいし近づきたいと 取れたドーナッツ持って天藍もどうぞと声をかける お返しにと差し出され同じ事した方が喜んでくれるでしょうかと口を近づけそのまま食べる 恥ずかしいけど喜んでくれるのは嬉しい |
クラリス(ソルティ)
最近精霊の事ばかり考え調子が出ない為、気分転換に参加 さぁワンコちゃん、たくさん遊ぶわよ~! 小さなボールを投げ、取ってきたら褒める 幾度か繰り返しボール遊びを堪能 ちょっと、ドーナッツ落ちたわよー!…あらら、行っちゃった 少し迷ってからドーナッツをがぶり っ、美味いっ! 心配そうな精霊の視線に気付くと照れ隠しに子犬の頭を撫で …ソル、心配させて悪かったわね 精霊が他の神人と親しくする度に 嫉妬していたと素直に伝える 神人の皆って綺麗で可愛い子ばっかりなんだもの 精霊の変わらぬ『妹』への優しさに恋心を自覚 …変わらない事がこんなに苦しいなんて思わなかったわ 『嫌だ』という言葉を飲み込んで堪え 今は…それで許してあげるわっ |
ブリジット(ルスラン)
チラシを眺め可愛に釘付 妖精の解説は所々聞き飛ばし まあ、どうしてもていうのならついていってあげてもいいわよ? えっ、そんな… わあ、可愛い…! 覚悟なさい、構い倒してあげるわ! 一緒に走ったりして遊び倒す あ、落ちたわ 食べてもいいのよね?大丈夫よね? …美味しい! ルスランも食べてみて! すっごく美味しいのよ あと、あの、いつもありがとう お給料は、復興したら必ず利子つけて返すわ 言った後、はっとして口押さえ もう、また子供扱いして 年齢的にはそうかもしれないけど私は立派な淑女だもの 一人の女性として扱って欲しいわ ちょっと、それ先に言ってよ! ずるいわ、私ばっかり恥ずかしい事になっているじゃない ルスランも食べなさいよ…! |
アンジェローゼ(エー)
「すごく可愛い!尻尾、とても美味しいらしいよ?はい、エー、チョコ味」 ベニエシアンを抱いて微笑みつつ隙を見てエーの口にドーナツを放り込む 効果は知ってる 先日貴方は、慕っている、好きだと言ったね でもその後も貴方の態度は以前と変わらず 何だか実感わかなくて… 貴方の愛を疑う気はないけど… 好きならたまには甘えてほしい、なんて …少し効果ありすぎた? エー…落ち着いて? 耳元で囁かないでっ 私の事すごく好いてくれてるのわかったから あまりの勢いに湯気が出そうな程赤面 でも一方で甘えてくれて嬉しい こんなに彼に触れたのは初めて エーも男なんだなと改めて実感 彼の愛も 私の恋心も 改めて実感したわ これは本当に…両想いなんだね 赤面し頷く |
●この胸に溢れる気持ちを
「ベニエシアン……!」
チラシを受け取った瞬間、ブリジットの煌めく翠玉の視線は、チラシに描かれた愛らしい子犬に釘付けになった。妖精プラリネの説明も半分頭に入っていればいい方に見えるその様子に、同行していたルスランは彼女の代わりのようにきちんと最初から最後まで話を聞き終えて、ブリジットへと声を掛ける。
「で、どうする?」
問い掛けに、ブリジットはハッとして顔を上げ、
「まあ、どうしてもっていうのならついていってあげてもいいわよ?」
と、慌てて取り繕った淑女然とした澄まし顔で言葉を零した。ルスランが肩を竦める。
「いや、俺は別に」
「えっ、そんな……」
返る言葉に、分かりやすくしょんぼりとするブリジット。肩を落とすその姿に、彼女がものすごーくベニエシアンと遊びたいのだという事にルスランはようやく気が付いた。
「……あー、何か急に行きたくて仕方なくなってきたかもしれない」
「ほんと!? そう、それなら仕方がないわね。付き合ってあげるわ!」
ころっとそのかんばせに笑顔を咲かせて、意気揚々とブリジットは歩き出す。あまりの分かりやすさに、ルスランは横を向いて口元を抑え、笑い声が漏れそうになるのを堪えた。
「わあ、可愛い……! 覚悟なさい、構い倒してあげるわ!」
そして辿り着いたまんまる原っぱ。上から目線でずびし! と宣言するも、思いっ切り遊んでもらえそうな気配を察知してベニエシアンは瞳をきらきらと輝かせている。黒いスカートをばさばさと翻してブリジットが駆ければ、その足元にじゃれつく子犬。原っぱを走り回る1人と1匹の姿に、ルスランは目を遠くした。
「淑女って何だろうな……」
けれど、子犬と戯れるブリジットはとびきり楽しそうで。
「背伸びしなくても今のままで充分なのにな」
なんて、そんな呟きも口をつく。と、その時。ぶんぶんと振られていたベニエシアンのドーナッツな尻尾が、ぽろりと取れた。
「あ、落ちたわ! ルスラン、これ、食べてもいいのよね? 大丈夫よね?」
ホワイトチョコドーナッツを手に、ルスランの元へと駆けてくるブリジット(と、ベニエシアン)。そういえばブリジットは妖精の話をあまり聞いていないんだったなと思い返して、ルスランは苦笑混じりに「大丈夫だ」と応じ――彼女がドーナッツをぱくりとした後でその効果を思い出した。
「……美味しい! ルスランも食べてみて! すっごく美味しいのよ! ……あと、あの」
ブリジットの唇から、するりと言葉が溢れる。
「いつもありがとう。お給料は、復興したら必ず利子つけて返すわ」
言ってしまった後で、目を丸くして口元を抑えるブリジット。そんな彼女に、「どういたしまして」とルスランは応じた。
「でも、子供はそんな事気にしなくてもいい」
「もう、また子供扱いして! 年齢的にはそうかもしれないけど私は立派な淑女だもの、一人の女性として扱って欲しいわ」
「はいはい」
レディの訴えを軽く流せば、ブリジットは不服そうに唇を尖らせる。けれど次に口をついたのは、ルスランへの不満ではなく先刻の自分の発言への疑問だった。
「それにしても私、何であんな事言ったのかしら?」
自然と溢れた「ありがとう」は、普段の彼女が上手く表現できずにいる想いだ。ブリジットが心底不思議そうに首を傾げるので、ルスランは彼女が聞き逃したドーナッツの効果を簡単に説明した。ブリジットの頬が、見る間に朱に染まる。
「ちょっと、それ先に言ってよ! ずるいわ、私ばっかり恥ずかしい事になっているじゃない」
手にしたドーナッツを、ブリジットはちょっと怒ったような顔で、ずずい! とルスランに差し出した。
「ルスランも食べなさいよ……!」
「いや、俺はいらない」
「何よ、それじゃ不公平だわ!」
自分の唇が紡ぐ言葉が予想できないとドーナッツを口にするのを拒むルスランと、それでは納得のいかないブリジット。2人の押し問答は、しばらくの間続いたのだった。
●陽だまりの時間
「こんにちは。今日はよろしくね」
青と碧の瞳を柔らかく細めて、リチェルカーレはベニエシアンの頭をそっと撫でた。ドーナッツ尻尾の子犬はうっとりとして、懐っこくリチェルカーレに擦り寄ってくる。傍らのシリウスに「大丈夫かしら?」と視線で問うて頷きが一つ返れば、リチェルカーレは安心したように、そのかんばせに花咲くような笑みを乗せてベニエシアンを優しく抱き上げた。
「べにー!」
嬉しそうにベニエシアンが鳴いた――と思ったら、ぶんぶんと振られていた尻尾がぽとりと落ちる。「きゃ」と小さな悲鳴がリチェルカーレの唇から零れた。
「痛くない? 大丈夫?」
おろおろと眉を下げて問うも、ベニエシアンはけろっとしている。その様子にようやっと安堵の息を漏らせば、一部始終を目撃していたシリウスが、思わずといった調子でふっと吹き出した。可笑しそうに笑うシリウスの姿に、リチェルカーレはむぅと頬を膨らませる。
「シリウスったら、意地悪だわ」
「いや、その……とにかく、そんなに慌てなくても大丈夫だ。……聞いていただろう? こいつの尻尾は取れるけど、またすぐ生えてくるって」
「お、お話はちゃんと聞いていたのよ? 聞いていたけど……びっくりしたんだもの」
懸命に弁明するリチェルカーレが腕に抱いたままの子犬を、シリウスは「ほら」と指で示した。指先を視線で辿れば、ベニエシアンのお尻には既に新しい尻尾が生えていて。ほっと息を吐きながらも、
「ほんとにほんとに大丈夫?」
なんて、まだ心配顔で子犬に尋ねるリチェルカーレの様子に、シリウスはくつくつと喉を鳴らして笑った。けれど、リチェルカーレに注がれる翡翠の眼差しはどこまでも柔らかい。くるくると彼女の顔が変わるのが愛おしくて、いつもの無表情はすっかり鳴りを潜めていた。唇を尖らせてシリウスへと視線を遣れば、自分を見つめる彼の表情の優しいのに気付いて、どきりとするリチェルカーレ。頬の火照るのを感じて、リチェルカーレは静かに目を伏せた。
「ほら。多分、お前の物だ」
そんな彼女に差し出される、レモンのドーナッツ。リチェルカーレは慌てて子犬をそっと草原に下ろし、シリウスの手からそれを受け取る。ぱくりとすれば、その幸せな甘さに、ふんわりと笑顔の花が咲いた。
「ありがとう、とっても美味しいわ」
ベニエシアンに感謝の言葉を伝えれば、その意を解したように子犬はまた尻尾を振って、今度は抹茶色の尻尾を落とす。それをそっと拾い上げて、
「さっきのお返し。とっても幸せな味がするの」
と、リチェルカーレは抹茶ドーナッツをシリウスに勧めた。甘い物は得意でないシリウスだが、勧められるままに一口ぱくり。
「……思ったより甘くない、な」
素直な感想を漏らせば、リチェルカーレが嬉しそうに笑った。
「シリウスも一緒に遊びましょ?」
彼女がボールを投げる、子犬がそれを追い掛ける、ボールを咥えて戻った子犬を彼女の掌が優しく撫でる。その様子を座って眺めていたシリウスに、リチェルカーレからの誘いが掛かった。「俺はいい」と断ろうとして――胸に溢れた想いに僅か首を傾けるシリウス。
(今日は、もう少し彼女の近くにいたい)
何故だか湧いたそんな感情のままに彼女を手招く。こちらも不思議そうに首を傾げながらも、リチェルカーレは子犬と一緒に、素直にシリウスの隣へとやってきた。ぺたんと柔らかな草の上に腰を下ろせば、その膝の上におもむろに預けられるシリウスの頭。
「……っ!」
「……昨日あまり寝ていないんだ。少ししたら起こしてくれ」
膝を伝う温もりに真っ赤になるリチェルカーレを余所に、シリウスは瞼を閉じる。ちゃっかりと腕の中に収まった子犬を、優しく抱いてやりながら。しばらくあわあわとしていたリチェルカーレだったが、じきに、彼の目元もうっすらと赤く染まっているのに気が付いて。
「……おやすみなさい。素敵な夢を見てね」
小さく歌うように言って、リチェルカーレはその顔を綻ばせた。
●この想いの名前は
「さぁワンコちゃん、たくさん遊ぶわよ~!」
原っぱに朗々と声を響かせて、クラリスは小さなボールをぽんと放った。宙を飛ぶボールを、ベニエシアンが楽しそうに追い掛ける。その様子に、クラリスは口元を緩めた。清々しいような草原で、可愛い子犬と戯れる。気分転換には丁度良い誘いだ。
(最近調子が出ないのよね。ソルのことばっかり考えちゃって……って、また!)
気分転換気分転換と自分に言い聞かせて、頭を振るクラリス。そんな彼女の元に、ボールを懸命に咥えた子犬が、褒めてとばかりに戻ってきた。
「やるじゃない。ほら、もう一回行くわよ!」
頭を撫でてやって、もう一度ボールを投げる。その後ろを子犬が駆ける。それを繰り返すクラリスと子犬の戯れを、ソルティは少し離れた所から心配そうに見守っていた。
(最近クラリスがおかしい……大喰らいな彼女がご飯を残したり、突然怒り出したり)
そして。
(……避けられている気がする)
これが一番、ソルティが気にしている事である。彼女の考えを知りたいと、尻尾ドーナッツの効果まで把握した上でクラリスを誘ったソルティだが、その心中は穏やかではなく。
(もしかして反抗期だったらどうしよう……!)
なんて、悶々とするソルティ。2人の間には、どこかぎこちないような空気が流れていた。と、その時だ。
「ちょっと、ドーナッツ落ちたわよー! ……あらら、行っちゃった」
クラリスの声に、ソルティは思案の世界から引き戻される。見れば、クラリスは拾ったドーナッツを食べるか否か迷っている様子だったが、じきに、大きくがぶりとプレーンドーナッツに齧り付いた。そのかんばせがぱあと輝く。
「っ、美味いっ!」
そんな声が風に乗って届いたと思ったら、足先に、こつん、とボールが当たった。
「あ……ボール、こっちに転がってきちゃったんだね」
ソルティがそれを拾い上げれば、少し遅れて走ってきた子犬が、頂戴! とねだるようにぴょこぴょこと跳ねる。その姿に仄か目元を和らげてボールを渡し、ソルティは子犬に続くようにしてクラリスの元へと向かった。途中、子犬が落とした尻尾ドーナッツを拾うが――少し考えた後、ソルティはそれを元の場所に戻したのだった。
「おかえりなさい。ボール遊びが上手ね、ワンコちゃん」
戻ってきた子犬へと笑い掛けた後で、クラリスはソルティの顔を見上げた。心配そうな青の視線に気付いて、クラリスは照れ隠しに子犬の頭を優しく撫でる。そうして、
「……ソル、心配させて悪かったわね」
と、言葉を紡いだ。
「その……ソルが他の神人と親しくする度に、嫉妬していたの。神人の皆って、綺麗で可愛い子ばっかりなんだもの」
時々口籠りながらも、素直に胸の内を明かすクラリス。その内容に、ソルティは驚き僅か目を瞠ったが、彼はその告白を、兄に対する妹の小さな嫉妬と解釈した。だから、ソルティはクラリスへと柔らかく笑み掛ける。
「クラリスも十分魅力的な女性だよ。いや……むしろ心配な位かな」
「それってどういう……」
「昔も今も、クラリスは俺の可愛い妹だよ」
温かいはずの言葉が、クラリスの胸にチクリと刺さった。ソルティの変わらぬ『妹』への優しさが、彼女の胸をぎゅうと締め付ける。クラリスはやっと、自分が彼に抱いている想いの名前を理解した。これは、この想いは『恋』なのだ、と。
(……変わらない事がこんなに苦しいなんて思わなかったわ)
知らずその表情を曇らせ俯けば、クラリスの心中には気付かずに、『兄』として可愛い『妹』の頭を慈しむように撫でるソルティ。
「えっと……それじゃ嫌かな?」
クラリスの予想外の反応に、戸惑いがちにソルティが問う。クラリスの心は「嫌だ」と悲痛に訴えていたが、彼女はぐっと堪えてその言葉を胸の内に飲み込んだ。
「今は……それで許してあげるわっ」
胸の痛みは止まないけれど、頭に触れる掌の温もりはそれでもやはり心地良かった。
●貴方の気持ちを教えて
「わぁ、すごく可愛い!」
ベニエシアンを抱き上げて、アンジェローゼはそのかんばせに花開くような微笑みを浮かべた。エーの金の視線は、子犬ではなく愛しのロゼ様に真っ直ぐに注がれている。その姿にうっとりと見惚れながら思う事は。
(犬と戯れるお嬢様は天使の様に可愛らしい……犬、そこを僕と変われ)
エーの心中を感じ取ってか、アンジェローゼの腕の中の子犬がぷるぷるとした。急に震え出した子犬を宥めるように、その背を撫でてやるアンジェローゼ。慈しむように手を動かしながら、アンジェローゼは遠く心を飛ばした。
(先日貴方は、慕っている、好きだと言ったね)
けれど、その後もエーの態度は以前と変わらない。何だか実感が湧かないと、アンジェローゼは複雑な想いを胸に抱えているのだった。
(エーの愛を疑う気はないけど……好きならたまには甘えてほしい、なんて)
そんな乙女心を胸に、アンジェローゼはドーナッツの効果を知った上でここへとやってきたのだ。優しく撫で続けてやっていた子犬が、その温もりに落ち着いたのか、嬉しそうに鳴いてドーナッツの尻尾を落とす。
「ロゼ様、どうぞ」
エーがそつなく拾い上げたドーナッツを、アンジェローゼは「ありがとう」と口元を綻ばせて受け取った。そして、
「尻尾、とても美味しいらしいよ? はい、エー、チョコ味」
と、隙を見てエーの口にドーナッツを放り込む。驚きに寸の間目を瞠ったエーだったが、すぐに彼の胸には温かい想いが満ち満ちて。
(ロゼ様が美味しいドーナツを食べさせてくれた……! やはり天使……! もう好き! 大好きです!)
もっと近づきたい、もっと触れたい。もっと笑って、触れて、キスして、愛してほしい。想いが溢れ出して、止まらない。衝動のままに、エーはアンジェローゼの華奢な身体を抱き竦めた。
「すきです、大好きです愛していますアンジェローゼ」
耳元で囁けば、顔を真っ赤にするアンジェローゼ。少し効果がありすぎた? なんて混乱する頭をフル回転させるアンジェローゼの腕から、驚いた子犬がぴょんと跳ねて逃げた。
「あ、待って……!」
「アンジェローゼ、犬よりも僕を見て」
「み、耳元で囁かないでっ」
それでも、エーの想いは止まらない。溢れる愛は、どんな言葉で表現しても陳腐に聞こえてしまいそうなほどで。
(僕の想いは伝わってるかな? 僕の愛は、受け入れてもらえるだろうか?)
そんな事を想うエーの頬に、温もりが触れた。アンジェローゼの細い指が、ぎこちなくエーの頬を撫でる。
「エー……落ち着いて? 私の事、すごく好いてくれてるのわかったから」
湯気が出そうなほど赤面しながら、アンジェローゼは小さく、けれど確かにそう零した。傍に居られる幸せと触れてもらえる喜びに、エーの目尻に涙が滲む。アンジェローゼもまた、彼が甘えてくれる事を嬉しいと感じていた。
(こんなに彼に触れたのは初めて。エーも男の人、なのね)
湧いた想いは、不快な感情を伴わなかった。高鳴る胸の鼓動。
(彼の愛も私の恋心も、改めて実感したわ)
だから、アンジェローゼは言葉を紡ぐ。
「ねえ、エー。これは本当に……両想いなんだね」
「そう、両想いです」
確かめるようなアンジェローゼの言葉に、エーは柔らかな微笑を零した。愛が止まらない。思い切り甘えてしまい引かれていないか不安だったけれど、彼女は全て受け入れてくれた。
「改めて……僕の恋人になって下さい」
エーの言葉に、赤面しながらもアンジェローゼがこくりと頷く。安堵の息がエーの唇から漏れた、その瞬間。
「……!」
魔法のようなドーナッツの効果が、ふつりと切れた。アンジェローゼの事を深く想ってこそいるエーだが、少なくとも今のところは、ここまで大胆になるつもりはなかったのである。
「も、申し訳ありませんロゼ様……! 僕は……!」
急ぎアンジェローゼから離れ、自分の言動を思い返して大いに慌てるエー。2人の仲は、まだまだこれからだ。
●愛しい貴女と戯れを
「べにー!」
原っぱに、ベニエシアンの元気な鳴き声が響く。結び目を作ったハンカチを玩具にして子犬の相手をしてやりながら、かのんは紫の双眸を和らげた。
「ふふ、可愛いですね。まん丸な目が愛らしいです」
「そうだな、可愛い」
ボールを巧みに操ってもう一匹の子犬の気を引いていた天藍が、かのんの言葉に応じる。けれどその視線は子犬ではなく、ついついかのんの方へと注がれていた。彼の胸には、ある下心――もとい、密かな野望があって。
(かのんはドーナッツの効果は知らないからな。これで、偶にはかのんから触れてくれたら嬉しいんだが)
そんな事を思いながらも、天藍の手は滑らかにボールを繰って子犬を喜ばせ続けている。ぶんぶんと振られたドーナッツ尻尾が、ぽろりと落ちた。
「あ、取れた」
「美味しそうですね。何味でしょうか?」
「ええと……紅茶味、だと思う」
ふわりと甘い香りのするドーナッツを拾い上げて、天藍はかのんの疑問に答える。とびきり美味しそうな甘味を先ずは愛しい人にと、天藍はドーナッツをかのんへと差し出した。そのまま自分の手から食べてくれないかと、ちょっとばかり期待しながら。
「ほら、かのん」
「わ、ありがとうございます、天藍」
嬉しそうに微笑して、かのんはドーナッツを両手で大事そうに受け取った。その様子も愛らしい、充分に愛らしいのだが、
(ま、そうだよな……)
と、僅か肩を落とす天藍なのだった。その少々残念そうな様子に気付き、きょとんとして首を傾げるかのん。そんなかのんの足元で、子犬が跳ねた。
「べにっ! べにー!」
「あ、ドーナッツが欲しいんですね」
愛らしいおねだりにくすりと笑んで、かのんは興味津々といった様子の子犬の鼻先より少し高い所へと、半分に割ったドーナッツを掲げてみせる。ぴょこんと跳んで、子犬はドーナッツを小さな口でぱくりとした。残りを柔らかな草の上に置いてやって、「よく出来ましたね。とっても上手です」とかのんは子犬の頭を優しく撫でてやる。子犬は嬉しそうに尻尾を振って、苺チョコのドーナッツを落とした。紅茶のドーナッツを自分もぱくりとして、かのんが思う事は。
(人目がありそうな所で天藍に構われるのは恥ずかしいのですけれど……でも)
子犬だけじゃなくて此方にも目を向けて欲しいし近づきたいと、そんな想いが胸の内から湧き上がってくる。苺チョコドーナッツを拾って、かのんはそれを天藍へと差し出した。
「天藍もどうぞ。さっきのドーナッツのお礼です」
かのんと子犬のやり取りを微笑ましく眺めていた天藍が、嬉しい贈り物に目を瞬かせ、それからふっと穏やかに笑み零す。そして彼は、かのんの手首を優しく掴むと、ドーナッツを彼女の手からじかに口に運んだ。
「んっ、甘いな」
口の端に付いた苺チョコを指で拭いながらそう言えば、かのんが照れ臭さに赤くなって俯く。その様子に、
(恥ずかしそうな様子も可愛いよな)
と、天藍は密か口元を緩めた。かのんを見つめる天藍に、もっと遊んで! と子犬がねだる。「わかったわかった」と苦笑して、天藍はまた子犬の相手に戻った。機嫌よくふりふりされていた尻尾がまた取れる。今度はシナモンをまぶしたドーナッツだ。
「かのん、今度のも美味しそうだ。お返しのお返しだな」
再びドーナッツを差し出せば、かのんは何故か躊躇いを見せた。
(同じ事をした方が喜んでくれるでしょうか……)
なんて、その胸の内に葛藤の色を過ぎらせた末、かのんはえい! とばかりに差し出されたドーナッツに口を近づけ、そのままぱくり。その可愛らしい様子に、天藍、自分でも馬鹿だとは思いつつも、思わず心の中でガッツポーズ。湧き出る喜びのままに、天藍は頬を朱に染めたかのんを、屈託のない笑みをそのかんばせに乗せて優しく抱き寄せた。
「て、天藍……!」
恥ずかしくて、けれど、天藍が喜んでくれるのが嬉しくて。くすぐったく思いながらも、かのんは天藍の温もりを受け入れた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:クラリス 呼び名:クラリス |
名前:ソルティ 呼び名:ソル・ソルティ |
名前:ブリジット 呼び名:お嬢、ブリジット |
名前:ルスラン 呼び名:ルスラン |
エピソード情報 |
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マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月16日 |
出発日 | 06月23日 00:00 |
予定納品日 | 07月03日 |
参加者
会議室
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2015/06/21-22:02
私はブリジットで、こちらはルスランよ。
現地では会わないようだけれど、どうぞよろしく。 -
2015/06/20-09:44
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2015/06/20-09:04
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2015/06/19-21:15
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2015/06/19-11:43