花束に想いを添えて(真名木風由 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●想いはそれぞれ
 今日は、休日。
 『あなた』は、タブロスをのんびり歩いていた。
 ひとりでかもしれないし、隣にはパートナーがいるかもしれない。
 目的なく歩いていたかもしれないし、買い物を楽しんでいる最中だったかもしれない。
 全ては、『あなた』次第。
 ただ、のんびり歩いて休日を満喫していたことだけは確かな話。

 だから、その花屋は店頭で貼り出していた広告に気づけたのかもしれない。

「想いを、添えて?」
 広告を見て、『あなた』は思わず口に出す。
 この花屋では、今日花束を特に売り出したいらしく、花束と一緒に想いを添えて誰かに贈ろう、という広告すら貼り出されていた。
 想い、と一口に言っても色々あるだろう。
 胸に秘めている想いを花に込めて贈るのもいいだろうし、日頃の感謝を込めて贈るのもいいと思う。
 これからもっと仲良くしたい、そんな意味を込めても───
 贈るとすれば、思い浮かぶのはひとりしかいない。
 花屋の売り出しに便乗して花束を贈ってもいいだろう。

 『あなた』は、花屋にある花に目を向ける。
 どの花も綺麗で、目移りしてしまいそうだ。
 悩んで選ぶのもいい、と花屋へ入っていく。

「いらっしゃいませ!」
 元気の良い店員の声が向けられる。
 さて、どのような花をどのような想いを込めて贈ろうか。

解説

●出来ること(いずれか1つまで)
ア:神人が精霊に花束を買って贈る
一緒にいる場合は購入後、任意のタイミングで贈り、一緒にいない場合は精霊へ贈りに行きます。

イ:精霊が神人に花束を買って贈る
一緒にいる場合は購入後、任意のタイミングで贈り、一緒にいない場合は神人へ贈りに行きます。

ウ:お互いに花束を買って贈る
一緒にいる場合は購入後任意のタイミングで贈り合います。片方が贈ってくれると聞いて片方が内緒でサプライズ購入してもOK。
一緒にいない場合、双方花束を互いの為に購入したと知らない扱いになります。

●店員のお勧めの花リスト
・バラ(赤・白・ピンク・黄・オレンジ・青)
・白ユリ
・アイリス
・ホワイトレースフラワー
・カスミソウ
・クチナシ
・キキョウ
・トルコキキョウ(紫・ピンク・白)
・ラベンダー
・スズラン
・ブルースター
・ガーベラ(赤・白・ピンク・黄・オレンジ)
・スターチス(紫・ピンク・黄)

●花束作成費用
自分で選んだもので作ってもらう場合
選ぶ花、作る大きさによりますが、花束1つにつき300jr~500jrとなります。

店員にお任せで作ってもらう場合
(ある程度要望は聞いてくれますが、基本的に贈る相手へ添えたい想いを優先して作ります。添える想いによってはリスト以外の花を入れてくれる場合も?)
花束1つにつき、400jr

●その他
・店内で他の参加者と会うことはありません。
・相手を想って花を選ぶのがメインとなります。
・花束は両手でしっかり持てる程度の大きさで、両腕に抱える程のものは作れません。
・同じ花でも色で意味が違う場合もありますが、バラは本数でも意味があるようですよ。

ゲームマスターより

はじめまして、真名木風由と申します。
らぶてぃめの世界を盛り上げる為に今後頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

休日の昼下がり、相手を想って花を選んでください。
さて、どんな花束を贈ることになるでしょう?

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

鞘奈(ミラドアルド)

  ミラから花を貰ったけど
…どうしようかしら、全く使いどころがない

妹にでも渡せば部屋を飾ってくれるかしら
正直、私はこういうの持て余すから
…飾っとけばいい、ね…
空き瓶にでも挿しておけばいいかしら

ミラも私にあげるなら、その辺の女の子にでもあげたほうがいいでしょうに
喜ばない私より
嬉しくない、といわれれば、そうね嬉しくないわね
武器や防具のほうが嬉しいわ
…ミラはよく私を女扱いして「戦いは控えろ」っていうけどね

花きれいね、礼は言っておく
「ありがとう」とは言わないわよ


リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
  任務もバイトもない休日。
花屋で広告を見つけた。

花束…。

先日、ジャスティから告白されて、自分も同じ気持ちだと知った。
そして、今は、恋仲…。

あの時、ちゃんと自分で「好き」って言葉は伝えられていない。
花束と一緒に、ちゃんと伝えられるかな…。

店員さんに、どういうのがいいか聞いてみる。
大切な人にちゃんと気持ちを伝えたいので、それにあったような雰囲気のをお願いしたい。

購入後、ジャスティの家に行ってみる。

幸い、彼は家にいた。

花束と一緒に自分の気持ちも伝える。

「あの時はちゃんと言えなかったから、改めて言うね。
私、あなたのことが好き。
今の私も好きになってくれて、ありがとう。」

こんなに幸せでいいのかな…。



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  ウ:お互いに花束を買って贈る

この間、私のせいで羽純くんに怪我をさせてしまいました
寄生植物に操られて…私が羽純くんを傷付けた…
改めて、きちんとお詫びと有難うを言いたい
そんな時、出会った花屋さん
羽純くんに花を贈ろうと決めた

カーネーションとカスミソウを合わせて『感謝』

…感謝だけじゃ足りないと思いました
知る度に好きが募っていくから
『変わらぬ心で愛している』という想いを込めて、スターチスをそっと添えよう
色は一番羽純くんに似合いそうな紫と、『永久不変』の意味を持つピンクを

そして、『貴方が幸せに包まれますように』
願いを込めてスズランも

青のリボンで結んで貰って
羽純くん、有難う
心からの笑顔で、花束を羽純くんへ


クロエ(リネル)
  一緒に散歩中発見
素敵ですねっ!
ちょっと見に行ってもいいですか?

花束、ぜひリネルさんに受け取って貰いたいです!
リネルさんが好きそうなのは…お金?
それもそうですねっ!

店員にお任せする
伝えたいのはこれからよろしくお願いしますって想いです
初めが肝心と聞きました!
出会ったばかりでまだお互いわからない事だらけですが
縁あって出会えたのだし今後とも仲良く過ごしたいなって
そんな気持ちを伝えられる花束、できるでしょうか?

完成したら早速渡しますね
仲良くしてくれたら嬉しいですっ

…え、リネルさんから、ですか?
わ、すみません私の為にお金を使わせちゃって
でも、嬉しい。ありがとうございます!
えへ、何だかにやにやしちゃいます


アンジェローゼ(エー)
 
デート中二人で花屋さんへ
私に花束を?懐かしい…
なら私もエーに内緒で花束を贈る

気持ち…愛を伝えるってなんて難しいの
意に反して変に誤魔化したりしたり…今日のデートでも恥ずかしくて爆発しそうで素直になれなくて
とても言葉で好きなんて言えなくて
情けない
だから花に想いを託して伝える

どれも綺麗…どうしようかな
今日初めて私の手を離し少し離れた所で真剣に花を選ぶ彼を見て動悸が

エーに贈る花は彼が一番好きな赤い薔薇を11本
最愛…の花言葉にいつもありがとうという感謝と…精一杯の大好きを込め

彼に声をかけ先に店を出て近くの公園へ

渡された花束
私の為に選んでくれた白薔薇11本
同じ気持ち
有難う、すごく嬉しい
蕩ける様に微笑んで




●信じ合う間柄を切に願う
 ミラドアルドは、店内をゆっくり見て回っていた。
 花屋の広告のお陰か、店内には花束を求める者の姿が多い。
 自分のパートナー、鞘奈は、神人として珍しい部類かもしれない、とミラドアルドが思う。
 ウィンクルムも千差万別、個性もそれぞれ異なるが、彼女は口より先に手が出る。
 力は恐らく彼女の方が上だろうが、武器を持って戦闘すると言うならば確実に自分の方が上と思うが、彼女は戦闘でしか自分を上手く表現できない性質の持ち主のようだ。
 友好的とは程遠い態度、自分に対する考え……人間性に疑問を持つことがあるからか、女性としての扱いは今の所成功していないかもしれない。
(折り合いは悪い。でも、それだけでは駄目だろう)
 自分達は、遊ぶ為にウィンクルムになった訳ではない。
 今も必要ならば諌めるが、そうではなく───
(その契機になれば)
 ミラドアルドは花にそこまで詳しい訳ではないが、少なくとも薔薇を贈る間柄ではないことは分かる。
 では、何を贈ればいいのだろう。
「あら、どうかされました?」
 同じように花を贈るらしい老婦人がミラドアルドへ声を掛けてきた。
「パートナーに何を贈ればいいか悩んでいました」
 友人とも恋人とも異なる、まだ親しいとは言えない運命共同体。
 贈りたいのに、何を贈ればいいのか分からない。
「それなら、今後どうあるかを考えていけばいいのではないかしら」
「今後……」
 ミラドアルドは反芻し、花を見た。
 今後、彼女とどういう関係を持つか。
 それを託すことが出来る花がこの中にはあるのだろうか。
 思案したミラドアルドは、今日は大忙しの様子の店員に申し訳ないと思いつつも声をかけるのだった。

 ミラドアルドが差し出した花束に対し、鞘奈の反応はある種今の間柄を如実に表しているものだった。
「私は、花を買わせる為にあんたにお金を渡していた訳じゃないんだけど」
「たまには、武器や防具以外を手にするのも悪くないだろう?」
 ミラドアルドが鞘奈が言いそうなことを先回りして言えば、図星だったらしく、鞘奈は面白くなさそうな表情を浮かべた。
「ミラも喜ばない私に渡すよりその辺の女の子に渡せばいいのに」
「店に返してくる?」
「そこまでは言わないわ」
 先回りされた通り花束を貰っても嬉しくないと添えた鞘奈にミラドアルドがそう聞けば、鞘奈は花束を買ってくるのも自分の反応で店に返すかと尋ねてくるのも意味不明だと思い、溜め息をつく。
 一生分かり合えない。
 互いに口癖のように言っているのに、何故。
「正直持て余すわ。部屋に飾るでしょうし、妹にでも渡そうかしら」
「鞘奈が飾る選択肢は?」
「……空き瓶でもいいなら」
 ミラドアルドは戦いを控えろという思惑でもあって、花を飾れとでも言いたいのだろうか。
 使い所もない花を見ても、戦いで自分を表現する自分が変わることなどないのに。
「良かった」
「そこでどうしてあんたが嬉しそうなの?」
「鞘奈に贈りたくて贈った花束だから」
「……あんたってそういう奴よね」
 自分には全くない感性だ、と鞘奈は溜め息。
 視線を落とす花束は、5つの花びらで構成された星を思わせる青い花とカスミソウで構成されている。
 聞けば、青い花はブルースターというらしい。
「ふぅん……何か意味あるの?」
「綺麗だったからね」
「ああ、そう。綺麗ね。礼だけは言っておくわ」
 花には花言葉がある。
 ミラドアルドがそれを知っているとは到底思えないが、花屋の店員が教えたということは十分ありうる。
 そう思って尋ねたが、ミラドアルドはそう返した。
 見かけで選んだと解釈し、鞘奈はありがとうこそ言わなかったが、ミラドアルドに礼を言う。
「そう言ってくれてありがとう」
 何故そこで嬉しそうな顔で感謝されるのか分からない。
 殴ってやりたいが、適当な理由がなくて鞘奈は少し苛々した。

 でも、こういうことをするのがミラ。

 それは、ある種彼の人柄に対する評価、言わば信頼の証かもしれない。

●ありがとうを忘れず、希望と共に前へ進もう
「素敵ですねっ!」
 店内を見たいと希望したクロエは、咲き誇る花々に嬉しそうだ。
「花って贅沢品って感じもしなくはないけど……」
「綺麗だと思う心が大事なんですよっ」
 クロエはリネルへ反論した後、手を打った。
「クロエさんに花束を受け取って貰いたいです! 待っててくださいねっ!」
 そう言ったクロエは、リネルを置いて花を見て回る。
 が、お金以外の好きなものが分からない。
(何を贈れば……あ!)
 困ったクロエは、店員に聞くことにした。
「あの……花束を作ってほしくて」
 周囲にリネルがいないか確認した上で、クロエは女性店員へ声を掛けた。
「贈りたい人を、どう想っているのかしら」
「これからよろしくお願いしますって想いですね」
 実は、まだ出会って日が浅いのだとクロエは話す。
 初めが肝心という話を聞いたと添え、縁あって出会えたのだから仲良く過ごしたい想いがあるのだと微笑む。
「出会ったばかりでお互い分からないことだらけですが、分からないなら知っていけばいいんじゃないかって思うんです」
「それなら───」
 そうした未来を形にした花束を希望していると女性店員に伝えると、思案していた女性店員がクロエにその花を指し示した。

 取り残されたリネルはクロエが返事も聞かずに花々の合間に消えていったので、頭の後ろを掻いた。
(お金は好きだけど……)
 クロエの花束を贈る理由には、お金が好きな自分に綺麗な花束を贈ろうというものもあるのではとリネルは表情を動かさぬまま、心の中で溜め息。
 まだ出会って日が浅い彼女からもそういう印象を持たれているなら、日頃の行いを省みるべきなのかもしれないが、少々判断に悩む。
(ケチではないつもりなんだけど……)
 お金は大事と財布の紐は緩めないようにしているが、必要な出費を躊躇うようなことはしない。
 やっと見つけたクロエは女性店員に何か真剣な様子で話しているようだ。
(貰ったままというのもな)
 自分が貰うのは確定事項ならばとリネルは別の女性店員に声を掛けた。
「あの子が貰って笑顔になりそうな花束を作って貰えませんか? 花は詳しくなくて……」
 クロエがそうしたように、困った時のプロ頼みだ。
「あなたは、彼女にどういうことを伝えたら、笑顔になると思う?」
「ありがとう、でしょうか」
 リネルはクロエに視線をやり、呟く。
「俺も感謝と謝罪を伝えたいので、それを上手く伝えられたらと思うのですが……」
 リネルはウィンクルムだが、自身の事情で何かと任務に制限をかけている状態と事情を話す。
 すると、女性店員はこう笑った。
「謝罪の意味を持つ花言葉なんてないわよ。大事なのは、謝罪の先を込めることだもの。あなたは、何を込めたい?」
 それを聞いたリネルは───

 花束を受け取ったクロエは、店内でリネルの姿を捜した。
 店の隅にいたリネルへ小走りで駆け寄ると、それを差し出す。
「リネルさん、花束ですっ! これから仲良くしてくれたら嬉しいですっ!」
 クロエが差し出したのは、白のガーベラの花束だ。
 希望を持って常に前進を。
 それは、リネルと一緒でなければ出来ないこと。
 クロエは、その意味を託して形にしたのだ。
「ありがとう。こちらこそ」
 リネルが受け取ってくれた所で、女性店員が花束を持ってやって来た。
 ピンクのグラジオラスとホワイトレースフラワーで作られた花束は、リネルが頼んだものらしい。
「俺からも……」
 表情こそ動かないが、差し出してくる動作は少しぎこちなく、彼の心情を表している。
「わ、すみません。私の為にお金を使わせちゃって」
「無駄遣いと思ってない」
「嬉しい……ありがとうございます!」
 リネルがそう言ってくれると、クロエは自分の頬が緩むのを自覚した。
 けれど、クロエは知らない。
 リネルの想いを形にした花束は感謝への弛まぬ努力……ありがとうを畏怖で忘れることがないようにという意味合いの花束であることを。
 花は、無言で彼らの想いを咲き誇らせている。

●捧げる最愛に相応しくあるよう
「私に花束を?」
「あなたに贈らせてください。……昔みたいに」
 花屋の広告を見上げていたアンジェローゼへエーが微笑むと、アンジェローゼは懐かしいと零して微笑んだ。
 デートの最中、緊張しがちなアンジェローゼは少し素直な態度ではなく、それも可愛らしかったが、やはり笑顔が似合う。
 あの日、護られているが自由のない籠を抜け出した姫は、今、自分の傍で幸せだと微笑んでいる。

「店内を見てまいりますね」
 アンジェローゼから名残惜しそうにエーが離れていくと、アンジェローゼはそれまでエーと繋いでいた自分の手を見た。
 かつてアンジェローゼへ薔薇を贈ってくれる兄のようなエーは、今は違う。
 いや、エーの目には子供としか映ってないかもしれないけれど───
(私も、エーに贈りたい)
 この手の先にいたエーは、もう兄ではないから。
 アンジェローゼは、今日のデートを思い返す。
 恥ずかしくて照れてしまって、素直になれない。
 そう思ってないのに、口は違うことを言ってしまう。
(……難しいの。言葉では、とても言えない……)
 情けないと溜め息を零す。
 けれど、自分の想いを花に託そうとアンジェローゼは決意し、店内を歩き始めた。

(どのような薔薇を贈ろうか……)
 薔薇の花言葉は、多岐に渡る。
 色合いだけでなく、蕾や葉にも意味があり、棘を抜いた状態のものや色の組み合わせ、本数によっても意味が違ってくる。
 概ね恋愛の意味だが、不吉さを連想するものもあり、幅広い花と言っていいだろう。
(ロゼ様に贈るなら……)
 本数は決まれど、色が決まらない。
 どうしたものかと悩んでいると、ふと、視線を感じた。
 目を向けると、アンジェローゼが真っ赤な顔で思い切り顔を背け、エーは口元を緩ませる。
 だから、この激情であなたを染めたい。
 たったひとりの男として伝える言葉は───

 エーの視線から逃れたアンジェローゼは、自身の動揺を落ち着けるのに精一杯だった。
 気づかれないよう花束を作らなければならないのに、エーは真剣な表情で花を選んでいるのを見ていたら、動悸がして。
 真剣な彼がこちらを見た瞬間、顔を見ていられなくなった。
 今、彼が1番好きな赤い薔薇のような顔色をしているだろう。
(私は……エーのこと好き。大好き)
 心の中で呟き、アンジェローゼは決めた。
 他がどんなに綺麗でもエーに贈るならひとつしかない。

「エー、この先に公園があるから、私そこで待ってる」
 アンジェローゼはエーに声をかけ、店の少し先にある公園で彼を待つ。
「お待たせしました」
 エーの手には、花束があった。
 柔らかな質感のクリームホワイトのバラで、アンティークな趣があるシルエット。
 ロイヤルプリンセスの名を持つそのバラは、11本で束ねられている。
 最愛の姫、清らかなあなたを心から尊敬し、相応しくあると約束します。
 心から愛しているからこそ、エーは身を焦がす激情と共にアンジェローゼへ贈りたかった。
「ありがとう……すごく、嬉しい……」
 アンジェローゼが差し出された花束をそうして受け取ると、エーは自分をとても眩しそうに見た。
 今、どんな表情をしているのだろう。
 私があなたと同じ想いだと、気づいてる?
 アンジェローゼがベンチに1度花束を置くと、隠していたその花束を差し出した。
 色鮮やかで混じりけのない赤のヘルツアス。
 11本、エーと同じ本数束ねられていた。
 最愛を全て捧げる───その本当の意味を、分かっているのだろうか?
「ありがとう、ございます」
 エーが、とても大切なものに触れるように花束を受け取ってくれる。
 喜んでくれたらいいと、アンジェローゼは自身が受け取った花束を大切に手に持った。
「帰りましょうか」
 僕達の家へ。
 空いた片手がアンジェローゼに差し出されれば、アンジェローゼは躊躇うことなくその手を取る。
 想いを携え、温もりを確かめ、愛しい想いは、花開く。
 永遠の愛も結婚への願いも生まれ変わっても愛する誓いも。
 いつか、咲き誇るバラが形にする。

●永遠への切なる願いはあなただけに
(花束なら、伝えられるかな……)
 リーリア=エスペリットは心の中で呟き、店内の花を見て回っていた。
 任務もバイトもない休日に見つけた広告は、『それ』を色鮮やかに蘇らせる。
 ジャスティ=カレックから告げられた想いは、自分の中に同じ想いがあることを知らせた。
 彼のその時の表情は───
(……あの時、ちゃんと自分で「好き」って言葉は伝えられていない……)
 互いの気持ちが通じ合ったから恋仲になった、とは思う。
 でも、きちんと言っておきたい。
(気持ちを伝えられる花って、どんな花……?)
 どれもきっと意味があるものだろうが、リーリアにはどの花を贈ればジャスティに想いを伝えられるか分からない。
「……あの、いいでしょうか……」
 リーリアは、客に花束を渡し終えた男性店員へ声をかけた。
 お任せで花束を作ることも出来るからか、男性店員はリーリアが困っている様子であるとすぐに察知し、話が聞きやすいスペースへ案内してくれる。
「大切な人へ、ちゃんと気持ちを伝えたくて……」
「大切……好きな人、でいいのかな?」
 リーリアの表情で察して尋ねてきた男性店員へ、頷きをひとつ。
「気持ちを伝える雰囲気のものをお願いしたいのですが……」
「その前に、その人をどう想っているか話してくれるかな。あと、何が好きで、何が嫌いで……その人が見えてこないと、選べないよ?」
 リーリアがきちんと気持ちを伝える為のものだからこそ贈る相手を知って作りたい。
 真摯な言葉に感謝し、リーリアはジャスティのことを話し始める。
 出会った時のこと、契約した時のこと、渡したペンダントの想い出、誕生日に貰ったリボン……そして、互いの想いを知った時のこと。
 話すのは照れてしまうけれど、口にすることで自分の想いが明確になるのが分かる。
「素敵な人だね。僕が奥さんに渡した、とっておきを持っていくといいよ」
 頑張って、と笑う男性店員がこの店の店長だと気づいたのは、花束を受け取ってから。

 ジャスティは、植物学の本に没頭していた。
 植物の育成と実験をするにしても、闇雲に行う訳にはいかない。
(中々興味深い考察をしますね……)
 読み終わった本をテーブルに置き、もう1冊手に取ろうとした所でチャイムが鳴った。
 玄関のドアを開けると、そこには後ろ手で何かを隠したリーリアが立っている。
「え、リーリア……?」
 休日の来訪者としては、嬉し過ぎる。
 通じ合ったばかりの心は躍っていて、通じ合う前よりも可愛らしく見えるリーリアを前に上手い言葉が出てこない。
「ジャスティ、出かけてなくて良かった……」
「立ち話も何ですから、中へ……」
 後ろ手で何を持っているかは気になったが、ひとまずと中へ招き入れる。
 今日はどうかされましたか、と尋ねるよりも早く、部屋へ案内したジャスティの目の前にピンクの色彩が飛び込んできた。
「え? 花束……?」
「あなたに、ちゃんと言っておきたくて」
 赤面するジャスティは、リーリアの言葉を待った。

「あの時、ちゃんと言えなかったから……改めて」
 前置いたリーリアは、ジャスティに微笑んだ。
「私、あなたのことが好き。今の私も好きになってくれて、ありがとう」
「感謝は、僕の方です」
 赤面するジャスティが、花束を受け取る。
 華やかなピンクのカトルセゾンに白のトルコキキョウ、カスミソウ。
 この意味を知っていて贈っているのだろうか?
 思考は、どうしても都合がいいように考える。
「あの時、君は僕を救ってくれた。そして、今、僕を好きになってくれた。本当に嬉しいです」
 ありがとうございます、とジャスティが頭を下げる。
 上げる顔は、とても嬉しそうで。
 伝えて良かった、とリーリアは思った。
「こんなに幸せでいいのかな……」
 リーリアがそう言うと、ジャスティの表情に幸せが更に加わる。
 これが当たり前に続く日常こそ、きっと幸せなんだと思う。
 あなたへの想いは切なる願い……それは、あなただけが知っていて。

●信頼してくれるあなたへ誓い、願う
 桜倉 歌菜は、深く溜め息を吐いた。
(……忘れられない……)
 頭に過ぎるのは、先日起きた出来事。
 寄生植物に操られた自分がしたことは───
 両の掌には、何もない。
 あの日、羽純を傷つけた感触が残っているというのに。
(羽純くんは、私を責めない)
 でも、そういう問題じゃない。
 改めて、きちんと謝罪と感謝を……そう思うのに、どうすればいいか分からなくて。
 と、この花屋の前を通り掛った。
「花束……想いを、添える……? ───よし」
 頷きをひとつ、花屋の中へ入っていく。

(って、歌菜!?)
 花屋の広告を見て店内に入っていた羽純は、店に入ってきた歌菜に気づいて身を潜めた。
(まだ俺に気づいていないな)
 その点については安堵するが、歌菜の表情は明るくない。
 思い当たる節は、ある。
 それは、歌菜の所為ではない。
 気に病むことではないと思うが、歌菜がそう簡単に割り切れる性格ではないことも知っている。
(そんな顔が見たい訳じゃない。笑ってほしい)
 言えば、きっと歌菜は無理をして笑おうとする。
 『羽純が望んだ』『歌菜』になろうとして笑う。
 ───そういう姿が見たい訳ではない。
「あの……」
 羽純は歌菜に気づかれないよう店長らしき男性と話していた女性店員を呼んだ。
「本心からの元気と笑顔を望んでいると伝えられる花束を、3本のバラと含めて作ってほしい。落ち込んでる姿を見たい訳じゃない」
「あなたは、せっかちね」
 微笑む女性店員が、花を選んでやってくる。
 意味をひとつひとつ説明された彼は、伝えるべき意味を知った。

 歌菜も花を選んでいる最中、誰かの意見が聞きたくて近くの女性店員を呼んだ。
「感謝を贈りたくて。でも……感謝だけじゃ足りないと思うんです。知る度に好きが募っていくから」
「感謝以外にも熱愛の意味もあるピンクのカーネーションは鉄板ね。カスミソウも感謝の意味もあるけど、願う意味もあるから合わせてはどうかしら」
 女性店員のアドバイスは、歌菜の想いを汲んでくれている。
(強くなりたい。羽純くんのことを、今度は私が守れるように)
 それは、罪滅ぼしで思う訳ではない。
 この孤独を知ってくれた羽純が、共に在ってくれるから。
(何があっても、変わらないよ)
 歌菜は、紫とピンクのスターチスも花束に含めてもらうことにした。
 変わらぬ心で愛している想いは永久不変。
 王子様と思うあなたへ抱くのは、あなたが幸福であってほしい願い。
「後は、任せて」
 女性店員は、任せてと笑って花と共にバックヤードへと消えていく。
 青いリボンで結んで貰う花束、羽純は───
「歌菜」
「ひゃっ!?」
 唐突に名を呼ばれ、歌菜は小さく飛び上がった。
 振り返ると、羽純が立っている。
「どうしてここに?」
 バラの花言葉位しか知らなさそうな羽純が、何故花屋に?
 彼の母親が経営するバーへ飾る花でも買いに来たのだろうか?
 それとも───
「細かい事ぁいいんだよ」
 説明を省いた羽純は、それを歌菜に差し出した。
「え?」
 目に映ったのは、3本のブルームーン。
 青に分類されるこのバラを彩るようにジンジャーとラベンダーがバランスよく配置されていた。
「羽純くん……ありがとう」
「やっと笑ったな」
 歌菜が笑顔を浮かべると、羽純は安堵の表情を浮かべた。
 どうやら、ずっと見られていたようだ。
 恥ずかしいけど、自分の為にこの花束を贈ってくれる事実が嬉しい。
 店員と相談しながら作っていたからこそ花束の『意味』が分かるから。
「私もね、羽純くんに贈りたくて」
 花束を作った女性店員から受け取り、それを差し出す。
 変わることがない笑顔は、気づかれていると羽純には分かる。
「俺こそ、ありがとう」
 今は、これでいい。

 愛し信頼しているから、君を待っている。
 俺の夢は、叶う。

 笑顔を望むからこその想い、そっと伝えたい言葉。
 いつか、花以上の想いを。
 叶った夢の先に、永遠に変わらない愛と幸福の誓いが待っている。

 あなたは。
 その花束に、どんな意味を込めますか?



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月20日
出発日 06月27日 00:00
予定納品日 07月07日

参加者

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