【祝福】アイを促す機械仕掛けの楽士たち(櫻 茅子 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●ウタウタイの丘
 イベリン王家直轄領の片隅に、まるで隠れるようにひっそりと建つ店がある。
 小さな看板には五線譜と音符、そしてゼンマイや歯車といった部品と、控えめな文字で『ウタウタイの丘』と描かれている。
 扉を開けて中へ入ると、ガラスケースに飾られた大小さまざまな卵たちが目に入る。
 だが、その卵はどれも普通の卵ではなかった。
 まず、どれもその大きさにあった、光沢のある、高級感溢れる台に乗っている。
 そして、動物を模したもの、煌びやかな小粒のパールで彩られたもの、繊細な柄が入っているもの……どれも意匠をこらされており、宝石箱もかくやという華やかさであった。
 卵は一部が開く仕様――たとえば鳥を模したものであれば、羽根の部分が広がるように開けられる、といった具合だ――となっており、入れられるものは限定されるものの、小物入れにもなる。
 だが、この卵たちはただの小物入れではない。
 台の裏についているゼンマイを回すと、金属が奏でる優しい音楽が流れだす。
 ――卵たちの正体は、オルゴールであった。
 ウタウタイの丘は、卵を加工した入れ物つきのオルゴール専門店。すべて手作りで、流れる曲も少しずつ違う。
 販売は決められた時期にしかしておらず、今はちょうどその時期とは外れている。だが、「たくさんの人に見て、聴いてほしい」という職人の意向によって、いつでも鑑賞、視聴はできる形をとっていた。
 ウタウタイの丘は、今日も優しい音色であふれている。

●祝福された旋律は
 さて、忘れてはいけないのが、イベリン王家直轄領は神の祝福をうけている、という点である。祝福をうけたこの場所では、花や音楽に不思議な力が宿る。ウタウタイの丘も例外ではなく、それぞれ少しずつ違う効果が出ているようだった。
 秘めた想いを口にしたくなるもの。
 過去の傷を口にしたくなるもの。
 やりたいことを実行したくなるもの。
 ウタウタイの丘のオルゴールは、大きくわけてこの三つの効果にわかれていた。
「こんにちはー」
「本当に入っていいのか?」
「『OPEN』って下がってたし……問題ないはずだよ。それにしても、すごい。これが全部オルゴールなんだ……」
 軽やかなベルの音に続いて、訪問者が足を踏み入れる。
 ウタウタイの丘で、彼らはどの旋律を耳にするのだろうか。

解説

●目的
オルゴールの音色を聴く。


●ウタウタイの丘
繊細な意匠を施された卵が特徴的な、オルゴール専門店です。
販売は決められた時期にしかしませんが、視聴はいつでもできる形になっています。
オルゴールが飾られているガラスケースは、スイッチ一つで開閉できる形になっています。
店内はお静かに。


●オルゴール一覧
以下の3種類が視聴できるオルゴールとなっています。
・動物の形をしたもの
 秘めた想いを伝えたくなるようです。
 恋心をはじめ、ちょっとした不満や口にしたくないフェチ等、幅広いようです。

・宝石箱のように華やかなもの
 過去の傷を口にしたくなるようです。
 失敗や犯した罪等を言いたくなってしまうので、選ぶには注意が必要です。

・花の模様が描かれたもの
 やりたいことを実行したくなるようです。
 また、卵の中に祝福をうけた花の香りがついた造花が入っているため、効果は他の2つに比べて強力です。
 手をつなぎたい等初々しいものをはじめ、抱き付きたい、キスしたい……といったことをしたくなるので、
 ある意味注意が必要です。

※親密度によってはアクションが不成功になる可能性もあります。ご了承くださいませ。


●消費ジェールについて
オルゴール鑑賞代として『300ジェール』いただきます。


●プランについて
オルゴールの形や音楽に指定がある場合は、そちらの記載をお願いします。
 例:ウサギの形をしたオルゴール。ゼンマイを巻くと明るい曲が流れる。

ゲームマスターより

閲覧ありがとうございます。櫻茅子です。

オルゴールが好きです。最近、作業時のBGMはもっぱらオルゴール曲だったりします。
ということで、オルゴールの専門店・ウタウタイの丘で、優しい音に包まれる時間を過ごしてみませんか? というお誘いです。
未来のために過去の傷に触れたり、仲を深めたり、そんな風に皆様の一歩をお手伝いできればいいなぁと思いつつ。

では、よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  オルゴール:花の模様

「わ、あ…!可愛い、卵…いっぱい、だね!」
わくわくと店内見渡し
動物の形のをそっと撫でたり

「青い、花…ヒューリの髪の色の元、になったっていう、あの花に似てる、ね」
嬉しそうに囁いて、ゼンマイ巻いてみる
綺麗な音色と淡い香りをしばし堪能
していると…
「……」
うずうず
無性に精霊の尻尾に抱きつきたい(以前から機会を狙ってはいた)
何度か撫でさせてもらったことはある

「っヒューリ、ちょっとだけ…ごめん…っ」
堪らず、でも他の曲聴いてる方々の邪魔しないよう小声で
尻尾、むぎゅう。もふもふ至福

「…ハッ。ごご、ごめ…っ、!?」
何が起きたのか、固まる

ヒューリが何だか楽しそう、だから…い、いいの、かな



リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
  色々な種類のオルゴールがあるんだな……。
職人の腕を感じる。
(色々手に取り、装飾を見て楽しむ)

……って、銀雪、お前はまたか……。
良くも悪くも素直な奴だ……(銀雪の発言に対する感想)
銀雪が我に返ったら……そうだな、フェアではないから私も開けよう。
(宝石箱のような華やかなものを選択)
銀雪、お前には私が完全に映っているようだが、実際はそうでもない。
私には、お前と同じ年齢の弟(男の双子)がいるが、私が目を離したのが原因で、弟達が大怪我をしてしまったこともある。
誰も私を責めなかったが、子供の頃の苦い失敗だな。
つまり、お前が思う程ではない。
ま、女の私の方が今のお前よりはいい男に見られるかもしれないがな?


菫 離々(蓮)
  眺めるだけでも素敵な卵ですね
ハチさん、気になるものはありました?
ではゼンマイを回してみましょう

選んだオルゴールは薄紅の花の模様が描かれたもの
物悲しげで静かな曲調

華やかな見た目にしては意外な曲ですね
……私、そんなに暗そうですか?
わかってます。それより店内はお静かに、です
ほら曲が一巡しますよ

香りはオルゴールからでしたか。不思議な香りです
…………。

ハチさん、急に離れてどうしました?
首を傾げつつ、オルゴールを閉じましょう
ああ、でも、残り香はありますか

堪能しましたしそろそろ店を出ましょうか
微笑んで。戦々恐々たるハチさんが近寄ってくるのを待ち、
その手を取って、繋いで。

お嫌でした?
私、今そういう気分なんです


クロエ(リネル)
  わあ、すごーい!
…あ、ごめんなさい
素敵なものがいっぱい見えて、つい

さすがリネルさん、目の付け所が違いますね
こういうのを何て言うんでしたっけ…あ、がめつい!

この黒猫のオルゴール可愛いですね
目つきがなんだかリネルさんっぽいです
鳴らしてみてもいいですか?

わくわくしながらネジを巻いたら子守歌のような優しい音
わあ、素敵…。…あら?

リネルさん!私、リネルさんと適合できて嬉しいです
何もわからなくて不安ばかりでしたが、ここにいてもいいんだって証が出来たように思えて
今後ともよろしくお願いしますね!

えっ、はい!何でしょう
勿論です。いつまでもお待ちしています
だって私達はパートナーですもの



星川 祥(ヴァルギア=ニカルド)
  ヴァルくんからオルゴール店に誘われるなんて!
ビックリしたけど嬉しかった

可愛いオルゴールがたーくさんあってキョロキョロしてたら
ヴァルくんが笑いながら傍に着た
手の平にはひまわりの種を頬張ってるハムスター型のオルゴール
すごく可愛いね!って言おうとしたら、お前にそっくりだな、だって
でもこの笑い、絶対褒めてないよね
もー!って怒ったら、笑いすぎて涙目になったヴァルくんが
音楽を鳴らした

すごく優しい曲で、しばらく一緒に聴いてた
自然と口から言葉が出てからハッとした
ヴァルくんには修理のお仕事や発明もあって忙しいのに
私の為に時間欲しいなんて厚かましいよね

驚いた顔してたけど
沈黙の後に

そうだな、またどっか行くか

だって!



●ぼくらなりの一歩
「わあ、すごーい!」
 ウタウタイの丘へ足を踏み入れた『クロエ』は、ずらりと並ぶ、卵とは思えない見事な作品に感嘆の声をあげた。
「ちょっと声大きいかな」
 その声は静かな店内によく響いた。店員の目が向いたことに気付いた『リネル』は、自分の口に指をあて、静かにするよう促す。
「……あ、ごめんなさい。素敵なものがいっぱい見えて、つい」
「まあすごいもんね。気持ちは分かる」
 クロエの言葉に、リネルは素直に頷いた。それくらい、展示されているオルゴールの出来は素晴らしいのだ。
 瞳をきらきらと輝かせ、クロエは店内をまわりはじめる。リネルはうきうきと軽やかな足取りで進む彼女の後ろを歩きながら、卵の殻に施された、細やかな装飾に目を細める。触れることも、音楽を聴くこともできるとあるが、壊したら怖い。触らず、眺めるだけにとどめる。
「これはいい値段するだろうな」
「さすがリネルさん、目の付け所が違いますね。こういうのを何て言うんでしたっけ……あ、がめつい!」
 ぽつりと零した呟きに、クロエの無邪気な返事がかえってくる。率直な意見だが間違ってはいない、と納得したリネルは、「……うん、まあ意味は合ってる」と肯定した。
 と、クロエがあるオルゴールの前で足をとめる。
「この黒猫のオルゴール可愛いですね。目つきがなんだかリネルさんっぽいです」
「似てる? どれどれ」
 覗いてみると、彼女の言う通り黒猫のような形をしたオルゴールがあった。目は……なんだか眠たそうだ。
(似てるか? こう見えてるのか?)
 複雑に思いつつ、猫と見つめあう。
「鳴らしてみてもいいですか?」
「あ、うん。いいよ」
 クロエは壊さないよう、そっとオルゴールを手にとった。楽しそうに口元を緩ませながら、ゼンマイを巻く。巻き終わると同時に、子守歌のような優しい音が二人を包んだ。
 リネルはなぜ猫が眠そうだったのか納得し、作りこまれているなぁと感心する。
「わあ、素敵……。……あら?」
 オルゴール特有の、優しさにあふれた音色を聴いていたクロエは、むくむくと、ある気持ちが大きくなっていることに気付いた。そして、その気持ちは胸に秘めるには大きくなりすぎて、自然と言葉になって紡がれていく。
「リネルさん! 私、リネルさんと適合できて嬉しいです」
 子守唄に聞き入っていたリネルは、クロエのそんな言葉で現実に引き戻された。驚いて、彼女を見つめる。
「何もわからなくて不安ばかりでしたが、ここにいてもいいんだって証が出来たように思えて今後ともよろしくお願いしますね!」
 きらきらした瞳は、オルゴールを見ている時と同じ――いや、それ以上の輝きを放っているように見える。あまりの純粋さに圧倒され、リネルは「こちらこそ」と軽く頭を下げた。
(戦闘行きたくないとは言えないな)
 そう思う。だが――なぜかはわからないが――裏のないまっすぐな想いを伝えてくれたクロエに、自分の素直な気持ちを伝えたくなった。
「……あの、さ」
「えっ、はい! 何でしょう」
 息を吸って、吐いて。
「戦闘に行くのはまだでもいいかな。まだ、覚悟ができていないんだ」
 言い切った。クロエはリネルの言葉にぱちくりとまばたきをしたが、すぐにふわりと笑顔を浮かべ、こう言った。
「勿論です。いつまでもお待ちしています」
 まっさらで、まぶしいくらいの笑顔とともに、クロエはリネルの想いを受け入れた。
「だって私達はパートナーですもの」
 リネルはほっと、肩から力が抜けたのがわかった。そして同時に、言ってよかったとも思う。
 戦いたくないというのは、ウィンクルムとしてよくないことだろう。けれど、彼女となら自分のペースで歩んでいけるのだと、そんな気がした。

●そういう気分なんです
「俺、ほんとこういう場所似合いませんね。店内がきらきらしいです」
 ウタウタイの丘へとやってきた『蓮』は、店内へ足を踏み入れるなり小さくつぶやいた。だが、早速オルゴールを見に言った『菫 離々』がゆるく微笑みながら振り返ったのを見て、「来てよかった」と思う。
「眺めるだけでも素敵な卵ですね。ハチさん、気になるものはありました?」
「気になる卵ですか。でしたら、その花の模様の。お嬢の髪飾りに似てます」
 蓮が選んだのは、薄紅の花が描かれたオルゴールだ。丸く可愛らしい卵に描かれた花は細部までこだわられていて、離々の頬は自然と緩む。
 離々はいつも、控えめだが笑顔を浮かべている。だが蓮は、今日はなんとなく――いつもより、彼女がまとう空気が柔らかいもののように思えた。
 離々はガラスケースを開けると、蓮が指さしたオルゴールをそっと取り出した。
「ではゼンマイを回してみましょう」
 そして、卵が鎮座する台の裏へと指を伸ばす。くるくるとゼンマイが巻かれる。そして巻き終わると、ゆっくり、こめられた音楽が流れだした。
 物悲しげで、静かな曲だ。
「華やかな見た目にしては意外な曲ですね」
 意外だと言うように、離々はじっと卵を見つめた。見た目のように、明るい曲が流れだすと思ったのだけれど。
「たしかにゆったりした曲ですが、やっぱりお嬢っぽい曲かなって……」
 蓮の言葉に、離々はちらりと彼をうかがった。
「……私、そんなに暗そうですか?」
「あ、そういう意味では!」
 慌てる蓮に、離々は「わかってます」と告げる。
「それより店内はお静かに、です。ほら曲が一巡しますよ」
「すみません。静かに聴きます」
 蓮はしゅんとし、宣言通り口を閉じた。そして、気付く。
「このオルゴール、花の香りもしますね」
「香りはオルゴールからでしたか。不思議な香りです。…………」
 穏やかな沈黙に包まれる。
 離々も香りに気づいていたが、どこからか漂ってきているのかはわからなかった。しかし、蓮の言葉に納得する。卵の中に、殻に描かれた花と似た、薄紅の小さな花が入っていたのだ。卵を顔を近づけ、息を吸い込む。ふわりと甘い香りに満たされ、離々はふと笑みを浮かべた。
「凝ってますねぇ……って、あれ?」
 その笑顔に見惚れていた蓮だが――自分の腕が不自然に伸ばされていることに気付いた。そして、そっと距離を置く。
(今お嬢の肩を抱き寄せようとしましたよね。そんな恐れ多いことしやがるとか大丈夫か俺しっかりィ!)
「ハチさん、急に離れてどうしました?」
 どこか慌てたような蓮に首を傾げつつ、離々はオルゴールを閉じるとガラスケースへ戻した。けれど、ふわりと漂う甘い香りを不思議に思う。(ああ、残り香ですね)そして、いまだ挙動不審な蓮の言葉に耳を傾ける。
「何でもありません寝ぼけたみたいです。音色が心地好くて。いけませんね」
 怪しい。一息に言うのも、怯えているように見えるのも、とても怪しい。けれど、追求する気はない。
「堪能しましたし、そろそろ店を出ましょうか」
「ええ、帰り……」
 離々は戦々恐々としている蓮が近寄ってくるのを待ち――その手を取って、繋いで。
「あああ違うんです手が勝手に!」
 手に伝わる温かな感触に、蓮は必死に、けれど嬉しさを隠し切れないような顔で言い訳をする。そんな姿に、笑みを深めて。
「言い訳なんて、しなくて大丈夫ですよ。私から繋いだんです」
「え? お嬢から、ですか?」
「はい」
「俺の願望でなく?」
 重ねて確認をする蓮に、離々は尋ねる。
「お嫌でした? 私、今そういう気分なんです」
 そう言うと、蓮は頬を赤くしうろうろと視線をさまよわせた。だが、繋いだ手が離されることはない。
 きゅ、と力が込められたのがわかる。
「いえ、俺も……そういう、気分です。奇遇ですね」
 そして、蓮も小さく笑みを浮かべ。
 温かな手に心を満たされながら、帰路へと着くのだった。

●あなた色を見つける
 ウタウタイの丘へとやってきた『篠宮潤』は、ぱあっと顔を輝かせた。
「わ、あ……! 可愛い、卵……いっぱい、だね!」
 わくわくと店内を見渡し、動物の形に仕立てられたオルゴールをそっと撫でたり、細やかな装飾にうっとりと見惚れたり……。美しいものを愛でる彼女を、『ヒュリアス』は眺めていた。
(……ウルにも、通常の女性のような感性があったのだな)
 人とズレた好奇心しか見たことがない為、こういった、大衆に好まれるものを嬉しそうに見ている姿は新鮮だ。ヒュリアスは人の迷惑にならないよう、でも好奇心のままに動く潤を目で追う。
 と、潤の足がある卵の前で止まった。
 卵には、小さな青い花が描かれていた。殻の中にも、描かれた花と似た青い花が入っている。潤は卵をそっと撫でると、嬉しそうに囁いた。
「青い、花……ヒューリの髪の色の元、になったっていう、あの花に似てる、ね」
「む? ……ああ、確かに」
 目を細めた潤の手が、ゼンマイを回す。
 そして――流れ出すのは、美しくも優しい曲。
 卵に描かれた花と同様に、音楽も洗練された美しさを持っていた。綺麗な音色と淡い香りを堪能していた潤だが、なんだか……。
「……」
 うずうず、と。無性に精霊の、ヒュリアスの尻尾に抱き付きたい衝動に駆られはじめる。
(何度か、撫でさせてもらった、ことはある、んだけど……)
 あの魅惑のもふもふを、どうしても抱きしめてみたい。以前から機会をうかがっていた。けれど、実行に移す勇気はなかった。だけど、今なら。
 ヒュリアスは、落ち着きなく見える潤に首を傾げた。オルゴールを置いた彼女にどうした、と聞こうとするも、次の瞬間、硬直する。
「っヒューリ、ちょっとだけ……ごめん……っ」
「っ!?」
 堪らず、でも他の曲を聴いている方々の邪魔をしないよう小声で潤はそう言うと――むぎゅう。と、ヒュリアスの尻尾を抱きしめた。
(もふもふ、だ……幸せ……)
 見た目と違わず、彼の尻尾はふかふか心地よい。至福の時間とはこういうことか、と潤はぼんやり考えた。
 うっとりと尻尾を満喫する潤とは対照的に、ヒュリアスは驚いていた。――表情筋が仕事をしてくれないので、周りからしたら驚いているように見えないのだが。
「ウルよ、一体何が、……」
 説明を求め振り返ると、やたら幸せそうな顔がとびこんできた。その顔を見て、ヒュリアスは止めるのをやめ、好きにさせることを決める。
(……この衝動は)
「…ハッ。ごご、ごめ…っ、!?」
 我にかえった潤が尻尾を離した瞬間。
 ヒュリアスは潤を引き寄せ、抱きしめていた。
 潤は何が起きたのかわからないようで、かちこちに固まっている。同時に、ヒュリアス自身も己の行動に驚いていた。
 だが……腕から伝わる体温に、空いた穴が埋るような満ち足りた感覚を覚える。
 ようやく抱きしめられていることを自覚した潤は慌てた。だが、そろりとヒュリアスの表情を見て、再び動きをとめる。
(ヒューリが何だか楽しそう、だから……い、いいの、かな)
 それからほどなくして、ヒュリアスはそっと、潤を解放した。
 花の香りがした気がして、卵の柄を一撫でする。
(だが……まだ確信が持てんな……)
「ひゅ、ニューリ……?」
「何。驚かされた仕返しだ」
 苦笑いを浮かべるヒュリアスに、潤もそれ以上の追及はしない。
 ヒュリアスは、何か自覚しかけたことに気付いていた。だが、今はその時じゃないと――そっと、その『何か』を胸に秘めたのだった。

●溢れる想いと未来の希望
 ウタウタイの丘へやって来た『リーヴェ・アレクシア』は、華やかな装飾が施された卵――オルゴールを眺めていた。
「色々な種類のオルゴールがあるんだな……。職人の腕を感じる」
 気になったものは手にとり、卵という小さな舞台上で存分に発揮された技術を楽しむ。
 柔らかく目を細めるリーヴェに見惚れた『銀雪・レクアイア』だが、自身もオルゴールへと手を伸ばした。
 銀雪が何気なく手にとったのは、フクロウを模したオルゴールだった。
 ゼンマイを巻くと、子守唄のような、優しい音楽が流れだす。その音楽を聴いているうちに、銀雪は自分の中にある想いが……リーヴェへの秘めた想いがあふれてくるのがわかった。
「リーヴェ」
 名前を呼ばれたリーヴェは、どうしたんだと銀雪を向く。
「俺は、リーヴェのことが大切だよ」
 そして、次から次へと、まるで湧き出す泉のように溢れる彼女への想いを口にする。
「君のその、凛々しい性格が好きだよ。強い意思を持ったその瞳に惹かれてやまない。俺にないものを持っている君が、すごく好きなんだ。今はまだ、君に叱られることも多けど……いつか、絶対、リーヴェに見合う男になるから」
「……って、銀雪、お前はまたか……」
 熱烈な愛の言葉に、リーヴェは苦笑を浮かべた。
 良くも悪くも素直な奴だ。
 そう思いながら、彼の素直な言葉を受け取る。いつもより随分、熱が入っている。けれど、すぐに原因を察する。
(そういえば、イベリンの地は祝福をうけていて……音楽にも不思議な力が宿るんだったか。銀雪が我に返ったら……そうだな、フェアではないから私も開けよう)
 リーヴェがそんなことを考えていると、銀雪がハッとしたように動きをとめ――次の瞬間、ぼっと顔を赤くした。自分が何を言ったのか自覚して、あまりの衝撃に動きまで止まってしまっている。
(我に返ったみたいだな)
 リーヴェはガラスケースから、宝石箱のような、華やかな装飾が施されたオルゴールを取り出した。ゼンマイを巻くと、ゆったりと穏やかなテンポの曲が流れはじめる。リーヴェが手にしたオルゴールの曲、その効果は――
「銀雪、お前には私が完全に映っているようだが、実際はそうでもない」
 静かに語りだしたリーヴェに、銀雪は目を向ける。頬の熱は治まっていないが、彼女の言葉を一言一句逃してなるものかと真剣に耳を傾ける。
「私には、お前と同じ年齢の双子の弟がいるが、私が目を離したのが原因で、弟達が大怪我をしてしまったこともある。誰も私を責めなかったが、子供の頃の苦い失敗だな。つまり、お前が思う程ではない」
 そんな言葉で締められたリーヴェの失敗談に、銀雪は反射的に叫んでいた。
「そんなことない、俺にとってリーヴェは」
「店内ではお静かに!!」
「す、すみません!!」
 そして同じように反射的にだろう、店員からの注意が飛んでくる。店員の声も銀雪に負けず劣らず大きいのだが、そこはご愛嬌というやつだろうか。
 周囲の目が、銀雪とリーヴェに注がれる。いたたまれなくなった銀雪を察したのか、リーヴェはそっと、店の外へ出るよう促した。
「ま、女の私の方が今のお前よりはいい男に見られるかもしれないがな?」
 リーヴェの言葉に、銀雪は(その通りだな)とため息をつく。
「お前はいい男の修行が足りない。励め?」
 そう言って笑うリーヴェに、銀雪は「いつものパターンか」と肩を落とした。だが――
「弟と違うとお前自身が私に示せたら、考慮しよう」
 さらっと、事も無げに告げられた言葉に、またしても赤面、硬直してしまう。そんな銀雪の様子を見たリーヴェは、笑みを深め……
 今後の彼がどんな行動をとってくれるのかと、少し、楽しみになるのだった。

●交わす、未来の約束
『ヴァルギア=ニカルド』は最近、時計やオルゴールのような、細かい部品で組まれたカラクリっぽい機械に興味があった。だから、ウタウタイの丘の存在を知った時、ぜひ行ってみたいと思った。手にとって見ることもできるという話だから、絶対勉強になると確信したのである。
 いつ行ってみようかと予定を組んでいる時、己の神人である少女・『星川 祥』の姿が頭に浮かんだ。
(せっかくだし、祥を誘ってみるか。あいつ、オルゴールとか好きそうだしな)

 ウタウタイの丘へとやって来た二人は、それぞれ気になるオルゴールの元へ足を運んでいた。
 ――ヴァルくんからオルゴール店に誘われるなんて!
 ヴァルギアから誘いをうけた時、祥はビックリしたけれどとても嬉しかった。笑顔を浮かべながら、ウタウタイの丘をきょろきょろと見回す。卵とは思えない作品たちに、祥の胸は躍りっぱなしだ。
 キラキラと目を輝かせる祥を見て、ヴァルギアも笑みを浮かべた。
(誘って良かったな)
 彼女と同じように店内を見渡していると、ふと、ハムスターの形をしたオルゴールが目に入る。卵をうまく加工したそのオルゴールに、ヴァルギアは「ははっ」と思わず噴き出してしまった。祥にそっくりだ!
 ヴァルギアはオルゴールを手にとると、必死に笑いを堪えながら祥の傍へと向かった。
「わあっ」
 祥はヴァルギアが持ってきたオルゴールに顔を輝かせた。ひまわりの種をほおばっている、ハムスター型のオルゴールだ。ころんとしたフォルムが愛らしい。
「すごく可愛いね」と言うよりも早く、ヴァルギアは祥の顔の横にオルゴールを持っていく。そして
「お前にそっくりだな」
 と言って、楽しそうに笑った。
(でもこの笑い、絶対褒めてないよね)
 心の底からの笑顔だとわかるが、祥はむうと頬を膨らませる。
「もー!」
 怒ってみせるも、ヴァルギアの笑いは止まらない。涙目にまでなっている。だが、祥をぷりぷりと怒らせたままにするわけにはいかない。ヴァルギアはそっと、ゼンマイを回した。
 そして回しきると、心がぽかぽかと温かくなるような、優しい曲が周囲を満たした。
 ヴァルギアの笑いはいつの間にか止まり、祥はうっとりと、その優しい曲に聞き入る。穏やかな時間が、ゆっくりと過ぎていく。
(なんだか……)
 オルゴールが奏でる旋律を聞いていた祥は、今までそっと、胸に秘めていた気持ちが大きくなっていることに気が付いた。
「もっと一緒にお出かけしたりお話したりしたいよ」
 曲が終わりに近づいた頃、祥がぽつりとそう言った。自然と口から出た言葉に気付き、ハッとする。言うつもりなんてなかったのに!
(ヴァルくんには修理のお仕事や発明もあって忙しいのに、私の為に時間欲しいなんて厚かましいよね)
 ちらりとヴァルギアをうかがうと、やっぱりというべきか、驚いたように目を丸くしていた。謝らなくちゃ。そう思うけれど、口にした通り、もっと一緒にいたいという気持ちは消えない。むしろ、どんどん大きさを増していく。どうしようもなくて、祥は胸がいっぱいになった。
 曲が終わり、沈黙が落ちる。
 ――沈黙を破ったのは、ヴァルギアだった。
「そうだな、またどっか行くか」
「……え」
「……また出かけるか」
 祥の顔が、信じられないというようなものから――満面の笑みへと変わる。
「うんっ!」
 嬉しそうに頷く祥に、ヴァルギアは「悪くないな」と思う。そして、きっかけをくれたオルゴールを優しく撫でると笑みを返し、次はどこへ行こうかと考えるのだった。



依頼結果:成功
MVP
名前:菫 離々
呼び名:お嬢、お嬢さん
  名前:
呼び名:ハチさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月11日
出発日 06月19日 00:00
予定納品日 06月29日

参加者

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