プロローグ
ウィンクルムたちの働きにより、花と音楽溢れる国に戻ったイベリン領。
領内にある音楽公園にも、音楽の力が戻ってきた。
この公園に現在流れている音楽は、「ぬくもりの音楽」。
傍にいる人のぬくもりを感じる音楽、と言われている。
さて、公園内のベンチで一組のウィンクルムが寛いでいる。
その様子を、植木の陰から見つめる者が……。
(あのお膝……気持ち良さそう♪)
彼女の名はタバサ。
齢300歳の三毛猫。
毛並美しい自慢の尻尾は二股に分かれ……そう、いわゆる「化け猫」「猫又」の類だ。
長生きした猫は、やがて妖力を持つようになると言われている、それである。
タバサももちろん、不思議な力を持っている。
それは――。
(ちょっとお借りしま~すっ)
あの気持ち良さそうなお膝へ、すりすり、ごろごろできる身体を。
お借りします。
「にゃ、にゃっ?」
神人は焦り、声をあげるが声にならず。というか鳴き声になる。
視点はいつもより地面に近い。
先ほどまでベンチに精霊と並んで座っていたはずなのに、なぜ今地面にいる?
しかも両手をついて。
神人は自分の両手を見る。
「!」
それは可愛らしい三毛猫の手で。
まさか、まさか―――!
ベンチを見上げると、そこには、神人自身の姿が。
偽神人は、こちらにパチンとウインクすると、べたべた、精霊に甘え始めた。
な、何をしているんだ!
普段の神人なら、人前でスキンシップを図ったりはしないのに。
しかし、公園に流れる音楽の影響か、精霊の方もまんざらではなさそう。
膝に乗せられた神人の頭を優しく撫でている。
(ちょ……! 俺の身体で何やってるんだーーー!)
神人の叫びは、「にゃーにゃー」にしかならず、精霊に言葉は届かない。
やがて、「気持ち良さそうなお膝」の所有者と存分にスキンシップを図り満足したタバサは、ベンチの後ろで恨みがましい視線を向ける神人を抱き上げると、
「ありがとっ」
と囁いて、身体を元に戻してくれたのであった。
さてタバサ、次はどんな「お膝」を狙うのか?
解説
公園への交通費で300Jr消費いたします。
公園へお菓子を持って行く、飲み物を持って行く、などの場合、その内容により追加で100~200Jr消費します。
タバサと入れ替わってしまうのは、神人でも精霊でも構いません。
タバサは、腕を絡めたり、すりすりしたり、ナデナデしたり、お膝にごろ~んしたり、ありとあらゆるスキンシップを図ってきます。
それを、どう思い、どう受け止めるか、プランに記載してください。
ちなみに神人も精霊も、公園に流れる音楽の影響で、「ぬくもり」を欲しやすい精神状態にあります。
そんな中で、相手からスキンシップを図られたら……。
あ、でも、公園内に人はそれほど多くはありませんが、人目が皆無ではありませんので、お気をつけて!
プロローグでは一例として、タバサが満足したら元通りになっていますが、タバサを驚かせる、タバサの興味が他へ向く、などの場合も元に戻ります。
タバサが満足するまで待っていられない! という方は、いろいろな方法を試みてください。
ゲームマスターより
例え偽りの姿でもいい!
クールなあの人、ツンツンなあの人、いつも受け身なあの人が、べたべたいちゃいちゃする姿を見たいのっ!!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
スウィン(イルド)
(ベンチで座ってるとイルドが膝に頭を乗せてきて) ちょ、どうしたの?! その、甘えてくれるのは嬉しいけど人目が… (辺りを見回し 人目が気になるが、甘えてくるイルドはレア 天秤にかけ、恥ずかしさに目を瞑り受け入れる事を選ぶ 自分達を目撃するだろう通行人には内心謝りつつ) 今日は甘えたい気分なのかしら?ふふ (イルドが可愛くて頭等撫で) あら、猫ちゃんこんにちは 機嫌悪そうね…お腹空いてるのかしら? ごめんね、おっさん達食べ物持ってなくて あ、おいたしちゃ駄目よ! (イルドが元に戻っても気付かずそのまま撫で) どうせなら家で甘えてくれたらいいのに ここじゃちょっと恥ずかしいわよ? …嬉しいけど(照れ笑い。ぬくもりが気持ちいい) |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
*入替るのは俺 ●最初 事態を把握 ランスに伝えようと懸命に鳴く いつ元に戻れるのか分からなくて不安 ランスが偽俺を可愛がる姿に胸がズキズキ 体を返せと文句 もっと酷い事になるのが怖くて手荒なことは出来ないんだ ランスと偽俺が一線越えそうになったら やめてくれよと必死に訴える 君だって体を他人に使われたら嫌だろ? 猫の姿でもちゃんと可愛がるし撫でるからと ●と、ランスに体を持ち上げられ 撫でられるのは気持ちが良い 喉がゴロゴロ 赤面 そんなとこ撫で…あっ(ぞくぞく 偽俺まで一緒になって遊ぶのは やめ…(ふにゃあ ●元に戻ったら 偽俺だった猫においでおいでして膝の上に招くよ ランスに教えて貰って、猫が気持ち良い場所を撫で撫でしちゃうんだ |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
にゃんと! オレの手がもこもこクリームパンに? 可愛いにゃんこのお手手じゃにゃいか(わーい! ラキアと一緒に猫を飼い始めたオレには何とラッキーな。 猫生活を堪能するチャーンス! ラキアの肩にぴょんと飛び乗り(身体能力の高ぇ! ラキアのホッぺをぺろぺろ舐めしちゃうぜ。 俺は知っている! ラキアの鞄の中には猫のおやつが入っているんだ! カリカリとか、茹でササミのパックとか。 ウチのにゃんこ達が食べているご飯(&おやつ)の味を確かめなきゃ、パパとして! だからおやつちょーだい、とにゃごにゃご甘えるぜ。 甘え方はウチの子見て充分判ってる! ラキアを両手でフミフミ。うにゃうにゃと鳴き訴える。 よしおやつ出てきた!いただきまーす!嬉 |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
原稿で煮詰まってた様子のフィンを誘って公園に来た 少しでもフィンが気分転換出来たらいいんだけど…って、急にどうしたんだ?フィン え? 硬直 フィンが俺の腕に絡んできて 嬉しくない訳はないけど、一体どうして? あの音楽のせいか? にっこり笑うフィンの笑顔が近く、鼓動が早くなる !?頬ずりされて耳まで赤く 何か言わないといけないと思うが、口はぱくぱくするばかりで、言葉が出てこない 頭を撫でられると、拒む言葉を言う事も出来なくなる フィンが俺の膝を膝枕にして…その髪を優しく撫でる いつものフィンじゃない…何所かで分かってるけど それでも幸せで… 急に慌てだしたフィンに、ぷっと吹き出す うん、大丈夫だ フィンじゃないって分かってた |
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
珊瑚と理想の恋愛について語る事に。 具体的には「彼女が出来た時、どんな恋愛をしたいかどうか」。 ……という話を木の下で男同士で語る。 そう考えている内に、珊瑚から問いが来る。 「んだ。おれは」 問いの答えを言おうとしたら、猫の鳴き声になっていた。 そして、目の前にはいつも鏡で見ている自分の姿。 ふと地面を見ると、猫の両足が。 したっけ、おれは猫になってしまったべか? 考えながらも、おれは珊瑚にベタベタしている自分の姿を見る。 駄目だ、瞬間的に顔から火が出そう。 思わず自分の脛に駆け寄ってしがみつき、 両後ろ足を何度も蹴り上げて抗議した。 結局、珊瑚には一言だけ謝った。 「すまない。さっきの答えはまた家に帰ったら説明する」 |
●
蒼崎 海十が、フィン・ブラーシュを音楽公園に誘ったのには理由があった。
「イベリンに花と音楽が戻ってきて本当に良かったね」
ベンチにゆったり座って聞こえて来る音楽に身を委ねているフィン。
「特に今は、音楽に不思議な力が宿っているんだって……って、え?」
するり、とフィンの腕が海十の腕に絡み、海十は硬直する。
「き、急にどうしたんだ、フィン?」
そりゃあ、嬉しくない訳はないけれど、一体どうして?
……この音楽のせいか?
「あったかくて、気持ちいい」
フィンが海十の顔を覗き込み、微笑む。
笑顔がこんなに近い。
鼓動がどんどん早くなって。静まれ俺の心臓!と、念じても無駄で。
するり、肩にフィンが頬ずりすれば、海十は耳まで真っ赤になる。
「あ……」
何か言わないといけないと思うが、口はぱくぱくするばかりで、言葉が出てこない。
フィンは、絡めていない方の腕を伸ばし、海十の髪をさらさらと撫でる。
海十は、拒む言葉を言う事も出来なくなる。
人前で、こんなこと。そんな理性は溶けて消える。
「このまま眠っちゃいたいなあ」
フィンはころりと海十の膝に頭を預ける。
幸せそうに眼を細めるフィンが、愛しくて。
今度は海十が、フィンの髪を指で梳くように撫でる。
柔らかく細い金糸は海十の指の間できらきらと輝いて。
擽ったそうに笑うフィンの息が、海十の手にかかる。
突然膝枕なんて、いつものフィンらしくない。音楽の効果があるといっても、なんだかおかしい。
でも、それでも。
フィンの温かさを感じられることが、とても幸せで。
海十はこのひと時を堪能するのだった。
(我輩は猫なのであるニャン……じゃなくって!)
フィンの目の前には、ベンチに座る海十と、彼の膝を占領している自分。
って、どうして自分の姿を自分で見ることができるのか?
なぜなら現在、フィンの身体の中身は、フィンではないからである。
三毛猫が足元にすり寄ってきたな、と思ったら、一瞬くらりと眩暈を感じ。
気付いたら、三毛猫になっていた、というわけである。
おそらく、フィンの身体の中身が、三毛猫だ。
フィンは偽の自分を睨む。
あいつめ、俺の身体を使って何をしてる!
人目も憚らずベタベタと……怒りもしない海十も海十だ。なに耳まで真っ赤にしてるんだ!頭まで撫でて……!
フィンの胸にどうしようもない苛立ちが生じる。
偽のフィンを見る海十の幸せそうな表情。
うっとり瞳を閉じている偽のフィンも気持ちよさそうで。
イラッとした。
兎に角イラッとした。
オニーサンは、年上だから。海十が甘えたいときには、甘えさせてあげる。
だけど、自分から甘えるなんて、もってのほか。
だってオニーサンだもん。年上の沽券に係わるからね。
だから、我慢、してたのに!
目の前のあいつは、いとも簡単に、フィンが築いた「我慢」の垣根をひょいと越えて。
(本当は俺だって……!)
あんな風に、海十と過ごしてみたかった。
自分からちょっとだけ甘えてみたり、してみたかった!
(俺の身体、そして俺のパートナー、返して貰うよ!)
「にゃにゃっ!」
フィンは偽フィンの顔の前へ飛び出ると、その顔へ猫パンチをお見舞いする。
不意の出来事に、偽フィンは驚いて飛び起きる。
そして、猫フィンを見下ろし、
「ごめんね」
と笑ってウインクすると……。
「あ、元に戻った……」
フィンは自分の身体を見下ろす。いつもと変わらぬ自分の身体がそこにはあった。
「フィン?」
隣には、呆気にとられている顔の海十。
フィンはつい先ほどまで自分の身体がしでかしていたことを思い出し、さあっと青ざめる。
「ご、ごめん、本当にごめんね!」
必死で謝り、言い訳する。
「あのね、海十。この数分間の俺は、俺ではなくてね……!」
急に慌てだしたフィンに、海十はぷっと吹き出した。
「うん、大丈夫だ。フィンじゃないって分かってた」
「……え」
海十の言葉にしばしポカンとするフィン。やがて、
「敵わないな」
と苦笑する。
「……ねぇ、海十。少しだけ……膝枕して貰ってもいいかな」
控えめにそう言うと、
「いいよ」
と、海十は微笑んだ。
フィンはそっと海十の膝に頭を乗せる。
「あのさ、フィン」
「なに?」
「今日、フィンを誘ったのはさ。フィン、仕事で煮詰まってたみたいだったろ?だから、気分転換になれば、って思ったんだ」
「……ばれてたの」
海十の前では、そういうの、見せないようにしていたのにな。
「わからないとでも、思った?」
少しふくれた顔の海十。
もっと自分を頼ってよ。もっと自分に甘えてよ。弱いところも、見せてよ。
海十の瞳がそう言っているような気がして。
フィンはもう一度、
「適わないな」
と呟いた。
●
セイリュー・グラシアとラキア・ジェイドバインの最近の話題は、もっぱら可愛い我が子たちのこと。
そう、最近飼いはじめた愛猫だ。
「今頃あいつら、俺たちがいなくて寂しがっているかな」
「いや、ここぞとばかりに悪戯三昧かもね」
ベンチに腰かけそんな話をしていると。
「おや、ここにも可愛い三毛猫ちゃんが」
「どこどこっ!?」
セイリューが立ち上がると。
くらくらっ。
眩暈と同時に、セイリューは地面に座り込んでいた。
(あれ?俺、どうしたんだろ)
足元に視線を落とすと、そこにはにゃんと!
(オレの手がもこもこクリームパンに?)
いいや、クリームパンではない。
(可愛いにゃんこのお手手じゃにゃいか)
普通の人ならここで、驚愕し混乱する。
しかしセイリューは違った。
(わーい、ラッキー!)
猫生活を堪能するチャンス、到来!
さっきまで自分が座っていたベンチを見ると、ラキアの膝に寝転ぶ自分の姿が。
(にゃるほど、この猫とオレの身体が入れ替わったってわけか)
「なぜ突然膝枕なの」
困惑しつつ、ラキアは彼の頭を撫でる。
しかしセイリューは時々、ふいに甘えてくることがある。今回もその流れだろう。
こうやって甘えられるのも悪くない。むしろ、幸せを感じる。
真っ直ぐな黒髪を撫でるラキアの手に、セイリューは時折じゃれつく。
「セイリューって最近猫っぽくなってきたよね」
などと考えていると。
とん、とラキアの肩に重みが。
「にゃあ」
肩の上から三毛猫がご挨拶。
まあ、中身はセイリューなんですけどね。
(すっげぇよ、猫の身体能力高ぇ!地面からラキアの肩まで一気に飛び乗れたぜ!)
「にゃーにゃー!」
興奮気味に鳴く猫セイリュー。
ラキアは膝にセイリュー、肩に三毛猫の両手に花状態に破顔する。
「うちの子たちもセイリューも可愛いけど、君も可愛いよ」
「にゃー!」
(サンキュー!)
セイリューはラキアの頬をぺろっと舐めた。
人間だったら大胆な行動だが、今は猫だ。
「人懐っこい子だね。こんなにお喋りしてくれるなんて、嬉しいな」
「にゃー!」
セイリューは、ラキアの隣に、とん、と降りた。
彼は知っている。そこにあるラキアの鞄の中に猫おやつが入っていることを!
「にゃんにゃ~」
セイリューは偽セイリューが頭を乗せているラキアの膝に自分も両前脚を乗せ、秘技猫ふみふみを炸裂させる。
猫ふみふみとは、両前脚を交互にきゅっきゅと足踏みのように押し付ける、猫が甘えるときの仕草の一つである。
(おやつちょうだい!)
ウチのにゃんこ達が食べているおやつの味を確かめなきゃね、パパとして!
セイリューはキラキラした瞳でラキアの鞄を見てからラキアの顔を見つめる。
「うにゃうにゃ!」
そんな猫セイリューを見て、ラキアは吹き出した。
「セイリューそっくり……」
ラキアにご飯をねだる時のセイリューと同じ瞳の輝きである。
「うんうん、おやつあげようね」
ラキアは鞄からササミパックを取り出す。
「にゃっにゃー!」
(いただきま~す!)
しかし反応したのは猫セイリューだけではなかった。
偽セイリューも、がば、と起き上がり、ササミパックを凝視。
「君猫の食べ物も食べてみたいの?」
まさか、ね。
しかし、ササミパックを凝視し続ける偽セイリュー。
「うう、その視線に負けたよ……」
ササミを差し出すと、偽セイリューはぺろりと食べる。
「人間にはちょっと薄味だと思うんだけど」
それでも偽セイリューは満足そう。
「にゃにゃ!」
その横で、猫セイリューが更なるおやつを要求。
ラキアの鞄の中には、ドライフード、通称カリカリも入っているのだ。
「食いしん坊だね、君は」
苦笑しながらラキアはカリカリを取り出した。
「にゃっ」
飛び出してきたのは、猫の手だけではなかった。
「え、カリカリまで欲しがるのは人としてどうかな?」
カリカリに手を伸ばす偽セイリューを、ラキアは慌てて制止する。
「どうしてもって言うなら……」
一粒だけ渡すと、偽セイリューはそれを口に運ぶ。
が、人間の舌では、その美味しさはわからなかった。
偽セイリューは考えた。このままでは、カリカリを存分に味わえない!
「にゃっ」
このカリカリ、美味しいな!と顔をあげた猫セイリューは、再度眩暈を感じる。
「このカリカリ、美味しいな!」
セイリューから、人間の言葉が発された。
「……あ、あれ?」
元に戻ってる。
自分の身体を確かめるように見回すセイリューを、
「……美味しいんだ……」
と複雑な表情で見つめるラキア。
その傍らで三毛猫が、美味しそうにカリカリを頬張っていた。
●
穏やかな音楽が流れる広い公園には、ちらほらと、仲良く歩く恋人たち、笑い合う家族連れなどの姿が見える。
ベンチに座ってそんな様子を見ていると、スウィンはしみじみ思う。
「平和っていいわよねぇ」
ね、イルド?と、隣のイルドに微笑みかけると。
すとん。
イルドが、何の前触れもなしにスウィンの膝に頭を落とす。
「ちょ、どうしたの?!」
スウィンの戸惑いをよそに、イルドは寝心地を確かめるように、スウィンの腿をさする。
「その、甘えてくれるのは嬉しいけど人目が……」
頬を染めながら、スウィンは辺りを見回す。
周囲に気をとられているスウィンは気付かなかった。
膝の上のイルドが、植木の陰にいる三毛猫に向かってウインクしているのを。
(人目は気になるけど、甘えてくるイルドはレア、よね)
衆目を浴びるという恥ずかしさ、そして、甘えてくるイルド。
秤にかけたらどちらが勝つか。
もちろん、レアな方が勝つ。
「今日は甘えたい気分なのかしら?ふふ」
(おっさんがいちゃついてる場面なんて見せてごめんなさいね)
通行人に謝りつつも、膝の上のイルドが可愛くて、思わず頭を撫でるスウィンであった。
そんなスウィンの足元で、植木の陰から出て来た三毛猫がせわしなく歩き回る。
「あら、猫ちゃんこんにちは」
微笑むスウィンに、三毛猫はフシャー!と怒る。
「機嫌悪そうね……お腹空いてるのかしら?」
「フシャッ!」
「ごめんね、おっさん達食べ物持ってなくて」
しかし三毛猫はベンチに飛び乗ると、あろうことかイルドの顔に猫パンチを繰り出す。
「あ、おいたしちゃ駄目よ!」
猫パンチがイルドの顔に届く前に、スウィンがそれを制止した。
三毛猫は不満そうに鳴いて、ベンチから降りる。
「どうしちゃったのかしらね、あの猫ちゃん」
どうしたもこうしたも……。
(膝の上のそいつは俺じゃないぞ!)
三毛猫と身体が入れ替わってしまったイルドは、苛立たしげに鼻を鳴らす。
(俺のフリしてべたべたしやがって!)
しかし、問題はそこではない。
もし、偽イルドが敵で、スウィンに害を成そうとしていたら。
イルドとしては、それが一番心配である。
奴をどうにかしなくては。
だが、真正面から攻撃しに行っては、先ほどのようにスウィンに止められてしまうだろう。その際、もし間違ってスウィンに怪我をさせるようなことになったら……。
イルドは長めのシロツメクサを齧って引っこ抜き、それを咥えたまま偽イルドが見える場所で走り回る。
猫じゃらし作戦だ。
しかし、偽イルドには効果がなかった。
(なんだと……スウィンの膝は、猫じゃらしよりも魅力的だというのか!?)
ならば、と猫イルドはベンチの傍らに立つ樹木へと駆け上る。
枝を揺らし、葉を落とす。
「あら、大変」
スウィンが優しく、偽イルドの身体にかかる葉を払い落とした。
イルドの苛立ちが余計に大きくなった。
より激しく枝を揺らせば、葉と一緒に実が落ちる。
こん!
「いたっ」
まだ青い木の実が偽イルドの鼻に当たる。
その途端、イルドは眩暈を感じたかと思うと、身体が元に戻っていた。
イルドはすぐに起き上がろうと思ったが。
「随分葉っぱが落ちてくるわねぇ」
葉を落しながら、優しく撫で続けるスウィンの手を払うわけにもいかず、イルドは膝の上に留まった。
(もう膝に頭を乗せてしまってるんだし……いいんじゃねーか)
なんて自分に言い訳しながら、そのまま気持ちいい膝で大人しくしている。
スウィンの膝は、本当に心地よかった。猫がこの膝を狙ったのもわかる気がした。
「どうせなら家で甘えてくれたらいいのに。ここじゃちょっと恥ずかしいわよ?」
口ではそう言いつつ幸せそうな微笑みのスウィンに
「い、今だけだ!」
と返せば、なんだか頬が熱くなる。
猫と入れ替わっていたことは、スウィンには黙っておこう。
あんなに幸せそうな顔のスウィンを、がっかりさせたくはないから。
●
アキ・セイジとヴェルトール・ランスはベンチで一休みし他愛ない会話を楽しんでいた。
しかし突然、会話が途切れ――。
「……セイジ?」
ことん、とセイジがランスの肩に頭を乗せる。
「ふふ、あったかい」
無邪気に笑うセイジは、そのままランスの二の腕に頬ずりを。
セイジの方からこんな、人目のあるところでスキンシップを図ってくるなんて、珍しい。
さらに。
ごろん。
セイジはランスの膝に身体を横たえ、こちらを見上げる。ランスがその髪を撫でてやれば、うっとりした笑顔に。
なにその表情!誘ってるの!?
(戴きまあす!)
こんなチャンスを逃してなるものか。
ランスは、がば、とセイジを胸に抱き寄せ、その唇を奪う。
「にゃーっ」
どこかで猫の鳴き声が聞こえるが、構うものか。
しかしその声の主こそが……。
(ランスのバカ!俺はこっちだ!!)
本物のセイジなのである。
「にゃあっ」
いつ元に戻れるのかわからない不安を抱え必死に鳴くも、ランスに言葉は届かない。
「うにゃーっ」
身体を返せ、と偽セイジを睨むも効果無し。
噛みついたり引っ掻いたりしてやろうか、とも思ったが、そんなことをして、何か酷いことになったら……と考えると軽はずみな行動はできない。
「にゃー……」
ズキン、とセイジの胸が痛んだ。
ランスが全く知らない誰かとキスしているみたいに見えて。
やっと唇が離れれば、偽セイジはランスの首筋をぺろりと舐めた。
猫の愛情表現その1、毛繕いである。
「擽ったいよ」
満更でもなさそうなランスは、セイジの身体を優しく撫で、するりとその手はセイジの衣服の中へ。
すると偽セイジ、今度はかぷり、とランスの首筋に歯を立てる。
猫の愛情表現その2、甘噛み。
それが、ランスのケダモノモードのスイッチを押す。
ランスは偽セイジをベンチに押し倒す。
こんなチャンス滅多にない。
しかしここは野外。人目もある。
大丈夫、服と俺の下だから気付かれない!
ランスの頭の中を、いろいろな考えが巡る。
「にゃー!」
(やめてくれよ!君だって体を他人に使われたら嫌だろ?)
猫セイジは偽セイジに必死に訴えかける。
(身体を元に戻してくれたら、君をちゃんと可愛がるし、撫でるから!)
鳴き続けていると、ひょいとランスに持ち上げられた。
「……しゃあねえなあ。鳴くなよ猫」
参った、という表情のランスが、セイジを抱きかかえベンチに座りなおす。
ランスの手が、首の下を掻くように撫でる。
「にゃ、にゃあ~~」
自分の意に反して、もっと撫でてと首が伸び、ゴロゴロと喉が鳴る。
「猫って、この辺りを撫でてやると気持ちいいんだぜ」
ランスが言うと、偽セイジも起き上がり、興味深げに猫セイジを覗き込む。
ランスに撫でられ喉をゴロゴロ鳴らしている姿を見られるなんて、なんだかとても恥ずかしい。
「尻尾の付け根とか」
(そんなとこ撫で……あっ)
セイジの身体から力が抜けてゆく。
「顎の周りとか耳の後ろとか」
偽セイジまでもが、ランスに教えられるままにセイジを撫で始める。
(偽俺まで一緒になって遊ぶのは、やめ……)
「ふにゃあ~」
猫セイジの、力ない鳴き声が響いた。
存分に遊んで気が済んだのか、偽セイジはやっと、身体を元に戻してくれた。
「この悪戯猫め」
セイジは三毛猫を膝に乗せ、その頭を撫でてやる。
「けどさ、ランスの動物学スキルなら、俺の中身が猫だって気付いたんじゃないのか」
セイジが不満を述べる。
「まさか、ランス、欲に目がくらんで……」
睨まれたランス、その場を誤魔化すかのように、
「途中になったのはお前のせいだぞ」
と、三毛猫をつつく。
「だから、さっきのは俺じゃないから」
「体に聞いてみるか」
ランスがにやりと笑ってセイジの耳の後ろをさわっとさすれば。
「ふあっ」
思わず声が零れ、セイジは見る間に頬を染めた。
●
流れる音楽の影響で、手を繋いだり腕を組んだり、そんな2人組が多い公園。
そんな中を歩いていたら、瑪瑙 瑠璃と瑪瑙 珊瑚は、自然と「理想の恋愛」について語ることになったのだ。
日差しを避ける木の下で、足を投げ出し座る二人。
「もし彼女が出来たらさ、珊瑚はどんな恋愛をしたい?」
「か……彼女?」
その単語について考えるだけで、珊瑚は少し挙動不審になる。
(……やしが、デーシ恥じかさん)
「じゃあ、瑠璃はどんなこ、恋がしてぇんだよ!?」
問い返されて、瑠璃もまた、目が泳ぐ。
「え?お、おれ?」
二人ともまだまだ「恋人」なんてものに実感が湧かないようだ。
(んだ。おれは……)
瑠璃は答えようとするが。
「んにゃ、にゃあ~」
(!?)
なぜ、猫の声が?というかこの猫の声、自分の口から出てきたような?
そして、目の前にはいつも鏡で見ている自分の姿。
地面を見ると、猫の両足。
(したっけ、おれは猫になってしまったべか?)
ウィンクルムになってからというもの、不思議な体験は後を絶たない。
猫になってしまうことも、あるのかもしれない。
じゃあ、目の前にいる自分は、一体何者なんだ?
などと考えていると、偽瑠璃はにっこり微笑み、ころんと芝生の上に横になると、珊瑚の膝に頭を擦りよせる。
あの動きは……猫だ。
瑠璃はすぐに、自分が猫と入れ替わったのだと理解する。
が、そんなことは想像すらしていない珊瑚。
「ちょ、ちょ!る、瑠璃!?」
突然の出来事に、珊瑚は驚きを隠せない。
思わず身を引こうとするが、気持ち良い膝を逃すものか!と偽瑠璃はその腰にがっしりと腕を回す。
(そ、それは、抱き付いているようにしか見えないべさ!)
瑠璃は目を丸くする。顔から火が出そうだ。
「こういうのは、ちゅらかーぎーがやるんじゃねぇのか!?」
珊瑚も混乱している様子で。
「……ま、まあ、これもいいかもしれねぇ」
(何を言ってるんだ珊瑚ーーーっ)
珊瑚は膝の上の瑠璃を受け入れたようで、されるがままになっている。
偽瑠璃はというと、膝に顔をすりすりしたり、珊瑚の脚や腹をさわさわしたり。
「こら、あんまり擽ったいことやさんけーよな」
とは言うものの、拒むことはしない珊瑚。
なんだか、まるで、恋人同士のような。
「る、瑠璃……」
珊瑚は、膝の上の瑠璃を見つめる。
瑠璃になら、甘えられても嫌な気持ちがしない。
この感情は……一体なんなのだろう。
「もしかして、わんぬ好きな人ってもしかして、瑠……」
「うにゃにゃにゃにゃっ」
珊瑚の小さな呟きは、猫の鳴き声にかき消された。
偽瑠璃のあまりの甘えっぷりに、直視できなくなった猫瑠璃が盛大な猫キックを偽瑠璃にお見舞いしたのだ。
「やっと戻った!」
珊瑚にとっては意味不明な台詞を言って、瑠璃はがばっと身を起こす。
「すまない。さっきの答えはまた家に帰ったら説明する」
口早に謝る瑠璃に、珊瑚はあっけにとられつつ、頷いた。
結局、瑠璃のしたい恋とは何なんだったのか、珊瑚にはわからなかったけれど。
「誰かに甘えたいってのはわかった、と思う」
帰途に着く二人の後ろ姿を、三毛猫タバサは名残惜しそうに見送った。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:アキ・セイジ 呼び名:セイジ |
名前:ヴェルトール・ランス 呼び名:ランス |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月08日 |
出発日 | 06月14日 00:00 |
予定納品日 | 06月24日 |
参加者
- スウィン(イルド)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- 瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
会議室
-
2015/06/13-23:27
プランは提出できたー!
先日からにゃんこを飼い始めたオレ達は
やや明後日な方向にプランが行ってしまったかも?
仕方ないんだ。猫は可愛いんだ。
頭の中が猫中心になるのも仕方ないんだ。
皆が幸せなひと時をおくれますように! -
2015/06/13-23:14
プランは提出できているよ。
ランスがここぞとばかりにヤル気満々で「らぶてぃめっと倫理の壁が立ちはだかる」と唸っている。
PLも「おのれらぶてぃめっと倫理」などとランスに同意しているから始末におえない。
俺としては、立ちはだかってくれたほうが助かるよ(ひやひや
…っていうか中身が入替ったのに気がついてほしいってのは贅沢…なのかな(悩む -
2015/06/13-00:26
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2015/06/12-00:10
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