【祝福】妙薬は口に苦し(紫水那都 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●体調不良
原因は昨夜の深酒か、はたまた食べすぎのせいだろうか。
それとも、体質に合わないものを食べてしまったのだろうか。
せっかくイベリンに来たのに、あなたは胃に不快感を覚えていた。
なんだか、胸やけやむかつきまで感じる。
心配そうに自分を見るパートナーの視線に、誤魔化しはきかないと正直に症状を告げる。
約束していたからとはいえ、体調が悪いなら無理をするなと自分を諌めるパートナー。
しかし、その行動はどこまでも優しかった。
近くにあったベンチにあなたを座らせると、近くに薬局があったから薬を買ってくると言って駆けだす。
ありがたさと、それに勝る申し訳なさで俯くあなた。
しばらくすると、パートナーが片手に水のペットボトル、反対の手には薬が入っていると思しき紙袋を持って駆け戻ってきた。
ありがとう、と礼を述べてあなたは渡された紙袋に入っていた粉薬を水で喉に流し込んだ。

●薬局
そのころ、薬局では一人の店員が薬剤師にひたすらに頭を下げていた。
「すみません。本当に申し訳ありません、知らなかったんです」
「この、バカモンが!!」
 白髪交じりの薬剤師の怒声のあまりの大きさに、がたんと音を立てて店先の看板が倒れる。
そこには、『漢方』と達筆な字で書かれていた。
「あの人、すごく慌ててたし、うちで一番効く胃薬ってあれのはずじゃあ……」
「その通りだ、バカモンが!じゃあ、あれに使われてるのが何か知っておろうな」
 鬼神のごとく睨みつける薬剤師に、店員は恐る恐る答える。
「えーっと、確か主な材料はリンドウ……て、あー!!」
「やっと気付いたか、このバカモンが!」

●異変
苦い。
薬はとてつもなく苦かったが、しばらくすると胃の不快感は薄れていった。
しかし、薄れる症状と反比例するかのように膨らむ感情があった。
伝えたい。
伝えたいのだ、素直に。
この、不満の感情を……

解説

胃薬の中に含まれていた祝福されたリンドウの花を食べてしまったことによって、不満の気持ちを素直に伝えたくなってしまいます。
胃薬を飲んだのは、神人と精霊どちらでも構いません。
薬と水の代金として400ジェールかかります。

ゲームマスターより

お久しぶりでございます。
紫水です。
リンドウは漢字で竜胆と書きます。
花言葉はいくつかありますが、今回は『悲しんでいるときの貴方が好き』を思い浮かべてみました。
どえす?
いやいや、何の事だか……

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  なんで、だろう…
わざわざ、薬もってきてくれ、た、ヒューリに…こんな気持ち、こみ上げてくる、なんて…

●不満
「どうし、てっ、自分からは、何も話して、くれない…の?」
「僕、頼りない?『彼女』に比べ、たら…それは、そうかもしれない、けど…でも!」
亡き『彼女』のことは勿論大好きだったし、違う人間だと分かってもいる
けれど、同じく『彼女』を知る精霊に、何故か今は「比べられたくない」という思いが

「僕のこと、ちゃんと見て、くれて、るっ?」
胸を張って隣りに立てるよう、勝手に誓ったのは自分だけれど…

●もし正気に返ったら
すっごい反省 ベンチの裏に隠れたり
「ごめんごめんもう本当ごめんっ」
「呆れて…ない、の?」
きょとん



油屋。(サマエル)
  過去:オーガに襲われた以前、特に中学時代の記憶が曖昧

唐突な可愛らしい不満に思わずきょとん
うーん、あんまそういう話得意じゃないからなぁ
良い機会だし昔の写真でも見てみる?

携帯に入った写真を見せる
笑いながら中学の校門の前に立つ可憐な少女の写真
長い黒髪 淑やかな印象

私様です
何だその顔は?喧嘩売ってんのか?(胸ぐら掴み
悪かったですねお花みたいに可愛らしくなくて
誰の言葉だよそれ…
精霊の愛の言葉に少し難しい顔

他・小さい頃の話をして如何に自分が平凡な人生を
送ってきたかを話す

「ないよ」
目をそらし、ポツリとつぶやく
どうしたのほんと 今日のサマエルちょっと変だよ?


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  お薬を飲んだ弓弦さんの背中をさするね
段々と顔色が良くなってきているけれど…反面眉間に皺が…珍しいなぁ…大丈夫…?

弓弦さんが話し出した内容が上手く理解出来ずにぽかんとしそう…
弓弦さんの言葉が止まったら、理解は追いついてないけれど…とりあえず訂正だけでもしなくちゃ…
「えーっと…勘違いしているみたいだけど…「あの人」は、女性だよ…?」

見る見る顔色が変わっていく弓弦さんを眺めつつ、私は事態をきちんと咀嚼するね…
えーっと…弓弦さんがこう言い出した理由は分からないけれど…うん
「弓弦さん、確かに「あの人」は私の特別だったけれど…今、私にとって一番特別なのはあなただよ」

弓弦さんの百面相…珍しいものが見れたや



八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  アスカ君、大丈夫?
…え?何か怒ってる…やっぱり、私がはっきりしないから?

いつもと違う相手に戸惑いつつも逃げずに真正面から不満を聞く
私が告白の答えを先延ばしにしてるのが不満の原因だと思ってた
違ったんだ、私が逃げていたからなんだ
ずっと考えていたの、答えが出せない理由…聞いてほしい

告白された後、アスカ君への想いは恋なのかを考えていた
そうしたら、今まで意識もしていなかった初恋の人が浮かんできた
相手は小さいころ郊外の街に住んでいた時に知り合ったディアボロで
何か大事な約束をしていたような気がする
そのことがずっと引っ掛かってる

お、お手柔らかにお願いします…
今日のアスカ君強引だ…このまま押し切られちゃいそう



アマリリス(ヴェルナー)
  は?

聞き間違えかしら
もう一度言ってくださいません?

いえ妙な事を言い出すのはいつものことですもの
広い心で受け流し…
なにこいつこんなことおもってたのむかつく(できてない

人を都合のいい女のように…
でも今までを思い返すとあまり強く否定できない

あら、そういう事
暇な時もありますが勿論そうでない日もあります
けれど物事には優先順位というものがありますの
それを考えて行動を決めていますから気にする事はありません
今後も気にせず声を掛けてくださいませ

ぼそり
だって、わたくし達の接点はウィンクルムである事だけですもの
貴方に会えるのなら他の事は後回しになるに決まっているわ

暇を強調するのやめて
それ以外は合っています



●嵐のち晴れ
薬を喉に流し込み、顔を伏せる。
ヴェルナーは、みっともない所を見せてしまったと落ち込んでいた。
それでも、薬の礼を言わねばとゆっくりと顔を上げる。
アマリリスの顔を見つめ、お礼を述べようと口を開いた時だった。
不意に疑問、否、不満が浮かびあがってきた。
「アマリリスって、暇なんですか?」
お礼を言うはずの口からこぼれたのは、浮かんだ不満をそのまま形にした言葉だった。
口に出してから、己の言葉にぽかんとした様子のヴェルナー。
一方のアマリリスも、この言葉には驚いたようだった。
「は?」
彼女の第一声は、それだった。
次いで、
「聞き間違いかしら、もう一度言ってくださいません?」
努めてにこやかに、アマリリスは言う。
それに対して、馬鹿正直にもヴェルナーは先程の言葉を繰り返した。
「アマリリスって、暇なんですか?」
言ってから、しまったと思う。
これは、余りにも不躾な質問だ。
しかし、言ってしまったものは仕方が無い。
答えを聞いてみようと腹を括った。
なるべくにこやかに、彼の言葉を聞いたアマリリス。
彼が妙な事を言い出すのは、いつもの事だと自分に言い聞かせる。
そして、広い心で受け流し……
広い心で受け流……
広い心で受け……
なにこいつこんなことおもってたのむかつく!
彼女のにこやかな笑顔は崩れていた。
怒りで顔に熱が集まるのが分かる。
「任務の事などで声を掛けてもほぼ承諾して頂けるので、普段から暇なのかと」
腹を括ったヴェルナーは、真面目な調子で続けた。
渋面を作るアマリリス。
「人を都合のいい女のように……」
ぼそりと呟いたアマリリス。
しかし、今までを思い出すとあまり強く否定できないという気持ちが、彼女の言葉を濁らせていた。
「私達はAROAの正規職員ではないので、任務は任意でしょう」
顔をしかめるアマリリスに、ヴェルナーは淡々と続ける。
「最初は、使命感に溢れた人だと思って喜んでいたんです。ですが、任務が続くと、段々と自分の時間を犠牲にしてこちらの都合に合わせているのではないかと感じられて……」
神人にも、アマリリスにも自分の生活があるはずなのに。
「私に気を使っているのではないかと思うと、こう、もやもやと……」
尻すぼみになる言葉。
ヴェルナーは、自分の都合でアマリリスを振り回してしまっているのではないかと危惧していたのだ。
曇るヴェルナーの表情。
反対に、アマリリスの心は晴れていった。
なんだ、そういう事だったのか、と。
「暇な時もありますが、勿論そうでない日もあります。けれど、物事には優先順位というものがありますの。それを考えて行動を決めていますから、気にする事はありませんわ」
アマリリスの言葉に、次第に明るさを取り戻すヴェルナーの表情。
「だって、わたくし達の接点はウィンクルムである事だけですもの。貴方に会えるのなら、他の事は後回しになるに決まっているわ」
ぼそぼそとそれだけ言うと、ぷいと後ろを向いてしまうアマリリス。
その耳が真っ赤に紅潮しているのを見たヴェルナーは、
「つまり、暇なのでいつでも声を掛けて良いのですね」
若干嬉しそうな調子でそう言う。
「暇を強調するのはやめて。それ以外は合っています」
そう言うと、さっさと歩きだしてしまうアマリリス。
「待ってください、アマリリス!」
後を追うヴェルナーの心が晴れやかに弾んでいたのは彼のみぞ知る……

●あなたは、あなた
苦い苦い薬を飲み込んだ後。
ざわざわと込み上げる己の感情に、篠宮潤は戸惑っていた。
自分のためにわざわざ薬を持ってきてくれたヒュリアスに、どうしようもなく込み上げるこの心は、
「どうし、てっ、自分からは、何も話して、くれない……の?」
堰き止められず、言葉になる。
この、不満の感情を、今伝えずしていつ伝えるのかと心が騒ぐ。
体調の悪さもあるだろう、うるんだ瞳で自分を見上げてくる潤にヒュリアスは面食らっていた。
面食らってはいたが、その表情の変化はほとんどない。
そのせいだろうか、潤の瞳に溜まる涙は今にも溢れ出しそうになっている。
「……聞かれない故……」
面食らい、驚いたままのヒュリアスの口からぽろりとこぼれたのは、そんな言葉だった。
聞かれないから、答えない。
聞かれたら、答える。
ヒュリアスの中で、それは当り前となっていた。
しかし、それでは潤の当り前とは相違があった。
「僕、頼りない?」
何度か瞳を瞬かせて、涙を振り払った潤が問う。
「『彼女』に比べ、たら……それは、そうかもしれない、けど……でも!」
今は亡き『彼女』の事は、勿論大好きだった。
それに、自分とは違う人間だと分かってもいるけれど。
けれど、比べられたくないのだ。
自分と同じく、『彼女』を知るヒュリアスに。
一方のヒュリアスは、潤の様子から、日頃我慢していた事が堰を切って口に出されているのだろうかと一人納得していた。
そして、これ程気持ちを吐露する彼女は珍しいとも思っていた。
だから、
「うむ……それで?」
しっかりと、最後まで話を聞こう。
その思いを込めて、潤と視線を合わせた。
二人の視線が絡み合う。
「僕のこと、ちゃんと見て、くれて、るっ?」
『彼女』ではなく、潤自身を。
『彼女』を通してではなく、ちゃんと潤自身を。
胸を張って隣に立てるようにと、勝手に誓ったのは潤自身だ。
だが、それでも、何故か今はヒュリアスに『彼女』と比べられたくないという気持ちが強かった。
「……以前も、似たような事を言っていたな……」
小さく呟いたヒュリアス。
その双眸は、優しく細められていて。
「見ておるよ。契約した頃から、どれだけお前が頑張っているかも、な」
驚いたように、潤が目を見開く。
その瞳から、溜まっていた涙が一滴だけこぼれる。
次いで綻んだその表情は、まるでありがとうと言っているようだった。
……が、その少し後。
ヒュリアスは困惑していた。
潤が、ベンチの裏に隠れてしまったのだ。
「ごめんごめん、もう本当ごめんっ」
まるで、怒られるのを待つ子供のような潤にヒュリアスは、
「何度も言うが、思ったことは好きに言いたまえ」
やれやれ、とでもいうように言うと、
「もう、忘れんようにな」
人の言葉を、忘れないように。
そう願って、苦笑いして潤の頭をぽんと撫でた。
「呆れて……ない、の?」
きょとんとした表情のまま、潤はヒュリアスを見つめていた。

●むかし、むかしの
沸々と湧き上がる不満。
それは、徐々にサマエルの心に広がっていった。
彼女、油屋。とは契約してから1年以上が経つ。
だが、彼女は全くと言って良いほど自分の事を話そうとしない。
「どうして、自分の事を話そうとしないんだ?」
広がった感情は、溢れ出て言葉になる。
「俺は話しているんだ、お前だけ隠すのはどうかと思う」
油屋は、きょとんとしていた。
唐突なその不満は、サマエルが口にするにしては可愛らしい内容であったためだ。
「アタシ?」
思わず尋ね返してしまう。
すると、
「ああ、そうだ。お前のことをもっと知りたい。誰よりも……」
そう言われて、瞠目する油屋。
サマエルは、はっとして自身の言葉を反芻してみた。
心なしか、その頬は赤いように見える。
「うーん、あんまそういう話得意じゃないからなぁ。良い機会だし、昔の写真でも見てみる?」
そう言って、油屋が自身の携帯電話を差し出す。
画面に映し出されていたのは、一枚の写真だった。
笑いながら中学校の校門前に立つ一人の少女。
長い黒髪から淑やかな印象を受ける、可憐な少女だった。
「ほう、中々の美人じゃないか。何方様だ?」
感嘆したようにサマエルが言う。
「私様です」
油屋が答える。
その言葉に、かちんと固まるサマエル。
彼の持っている油屋の印象と写真の中の少女は、余りにもかけ離れていた。
思わず、疑いの目を向けてしまう。
「在学中に何があってこんな不良少女になったのか……」
そんなサマエルに、油屋の両手が伸びた。
「何だその顔は?喧嘩売ってんのか?」
胸ぐらをつかみ、締め上げる。
「せやかて早瀬さん!これ全然似てな……く、ぐるじい」
そのまま、サマエルをぶんぶんと前後に揺する油屋。
サマエルは、胃もたれを抜きにして気分が悪くなってきた。
彼の顔色が青くなってきた所で、油屋は襟首から手を離す。
「悪かったですね。お花みたいに可愛らしくなくて」
そう言うと、拗ねたようにそっぽを向いてしまう。
「まぁ、そう拗ねるな」
ようやく回復してきたサマエルが言う。
「高嶺の花より足下の雑草と言うじゃないか。俺は今のお前が好きだ」
そう続けると、そっと油屋の頭を撫でる。
「誰の言葉だよそれ……」
少し難しい顔をしながら、油屋は大人しく頭を撫でられていた。
「アタシはさ、小さい頃は本当に普通の、平凡な人生を送ってきたんだ」
そうして、油屋は語り始める。
自分が、小さかったころの話を。
幼い時笑った事、泣いた事、怒った事、嬉しかった事。
覚えている限り語った。
その様子を、サマエルは静かに、時折相槌を打ちながら聞いていた。
「そんな感じ、かな」
語り終えた油屋をじっと見つめ、サマエルは口を開く。
「他に、話すべき事はないのか?」
そんなサマエルから視線をそらし、
「ないよ」
油屋はぽつりと呟く。
「そうか。お前を信じる」
そう言ったサマエルに、油屋が言う。
「どうしたのほんと。今日のサマエル、ちょっと変だよ?」
「いや……酒を飲み過ぎたな……」
答えたサマエルは、どこか遠くを見つめるような眼をしていた。
二人はゆっくりと歩き出す。
お酒の飲み過ぎは禁物だと注意する油屋の声が、薄曇りの空に響いていた。

●大切な、ヒト
降矢 弓弦に薬を飲ませた日向 悠夜は、そっとその背をさすっていた。
青白かった顔色も段々と良くなってきている。
だが、その反面彼の眉間に皺が寄っているのが珍しくもあり、また心配でもあった。
一方の弓弦は、薬を飲んでから胃の腑の底から湧きあがる不満の衝動に驚いていた。
普段の彼なら、その不満を押しこめて、柔和な表情を浮かべるところだろう。
しかし、今回の彼は違った。
タイミングのせいか、女神様の計らいか。
その衝動に身を任せ、ぽつぽつと話し出す。
「悠夜さん、『あの人』と僕……どちらが君の心に深く爪痕を残せているんだ……?」
苦虫を噛み潰した様な表情で話し出した弓弦に、悠夜はぽかんとした表情を見せた。
弓弦の話の内容が、上手く理解できない。
しかし、俯き加減で話す弓弦はその様子に気付かない。
「僕も、男だ。『彼』を思っている君を見ているのは辛いんだ……」
それは、弓弦の素直な気持ちだった。
「だから、どうか……どうか、僕にもっと心をみせてくれ」
素直な気持ちであるが故に、こういった感情をさらけ出すような性格の持ち主ではない彼は、悠夜の反応が怖く目線を合わせる事が出来なかった。
さまよった視線は、自然とぎゅっと握った手元に落ちる。
苦悩の表情で俯く弓弦に、悠夜は、
「えーっと……勘違いしているみたいだけど……『あの人』は、女性だよ……?」
話の内容は理解が追い付いていなかったが、彼の言う『あの人』が誰を指すかは見当がついた。
「えぇえっ!?」
しばらくきょとんとした表情で悠夜を見つめていた弓弦だが、『あの人』が女性であると理解するや素っ頓狂な声を上げた。
そして、自分の話した内容を思い出すと、一瞬顔を真っ青にした後、顔を真っ赤にして頭を抱える。
ぶつぶつと何やら困ったようにつぶやく弓弦。
そんな弓弦の様子を眺めていた悠夜は、事態をきちんと咀嚼し把握しようと頭を回転させていた。
弓弦は、『あの人』を男性と勘違いしていた。
そして、悠夜の特別な人……つまり、恋愛関係にあったと推測したのだろう。
正直、何がきっかけで弓弦がこのような事を言い出したかは分からない。
けれど、一つ言える事がある。
「弓弦さん、確かに『あの人』は私の特別だったけれど……今、私にとって一番特別なのはあなただよ」
その言葉に、弓弦はぽかんとした表情を浮かべる。
次いで、赤かった顔を更に赤くして、照れ臭そうに微笑んだ。
「あ、ありがとう」
そんな弓弦の表情を、悠夜は柔らかな笑みで受け止めた。
彼の百面相という、珍しい物が見られたという感慨に浸りながら。

●負けない、負けられない
久しぶりに二人で出かけられたと思ったにも関わらず襲ってきた腹痛に、アスカ・ベルウィレッジは遣る方ない思いをしていた。
八神 伊万里から渡された薬を礼を言って受け取ると、水と一緒に喉に流し込む。
その時、不意に鎌首をもたげた不満。
無意識下にあったそれは、意識することで爆発した。
「アスカ君、大丈夫?」
ゆらりと立ち上がったアスカに、伊万里が心配そうに声を掛ける。
そんな伊万里に詰め寄って、アスカはじっとその目を見つめる。
「……え?何か怒ってる?」
じり、と後ずさろうとした伊万里の両手を掴んで自分の方に引き寄せるアスカ。
「……やっぱり、私がはっきりしないから?」
不安そうにアスカを見上げる伊万里。
そんな伊万里をじっと見つめながらアスカは言う。
「なあ伊万里、最近俺のこと避けてるだろ」
いつもと様子の違うアスカに戸惑いつつも、真正面からその視線を受け止める伊万里。
「同じ家に暮らしてるんだから嫌でも分かる」
はっとする伊万里。
自分の想像していた理由と、彼の不満に思っていた理由が全く違っていたからだ。
「私が告白の答えを先延ばしにしてるのが、不満の原因だと思ってた」
けれど違った。
彼の不満は、ここ最近伊万里に避けられている事を感じ取っていたからだった。
伊万里が、逃げていた事が原因だった。
「……そこじゃなくて!」
伊万里の推測を肯定するようにアスカが言う。
「告白の答えは急がないって言ったからいい。けど、それを負い目に感じてるのか知らないけど、避けられる方がよっぽど傷つく」
真剣な面持ちで、アスカは続ける。
「いっそ、振られた方がすっきりする」
言いたい事を言いきったのか、そのまま口を噤むアスカ。
そんなアスカに、伊万里はしっかりとした口調で告げた。
「ずっと考えていたの、答えが出せない理由……聞いて欲しい」
真摯に見つめ合う二人。
視線が絡まる。
「告白された後、アスカ君への想いは恋なのかを考えていたの。そうしたら、今まで意識もしていなかった初恋の人が浮かんできた」
相手は小さい頃、郊外の街に住んでいた時に知り合ったディアボロであるという。
「何か、大事な約束をしていたような気がするの。その事が、ずっと引っ掛かってる」
アスカは、焦っていた。
伊万里は、まだその相手の事が好きなのだろうか?
初恋の幼馴染で、しかも精霊であるという。
自分が太刀打ちできる相手だろうか。
否、負けるわけには、いかないのだ。
アスカは、伊万里の体を更に自分に近付け、しっかりとその瞳を見つめて言う。
「いいか、伊万里。絶対振り向かせてやるから、覚悟しろよ」
にっとわらったアスカに、伊万里は、
「お、お手柔らかにお願いします……」
何故か今日は強引に感じられるアスカに、このまま押し切られてしまいそうだと感じていた。
高鳴る鼓動はどちらのものか。
恋の行方は神のみぞ知る。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 紫水那都
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月06日
出発日 06月13日 00:00
予定納品日 06月23日

参加者

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