【祝福】イベリンの車窓から(上澤そら マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●親父のお誘い
「恋を見つけるならー?」
 A.R.O.Aの職員であるおっさんが突然声をかけてきた。
 何かの病だろうか、とキョトンとした表情を見せれば、痺れを切らしたおっさんは更に言葉を続ける。
「愛を誓うならー?」
 本格的に彼の精神面の心配をし始める。すると。
「イベリンでっ!」
 バンッ!とおっさんは壁に貼られているポスターを叩いたっ。
 張られたポスターをよくよく読めば、なんてことはない。イベリン領で行われている『ウェディング・ラブ・ハーモニー』なるイベントの告知ポスターだ。
「ったく、ノリが悪ぃなぁ」
 おっさんは己の髭を触りつつ、改めてポスターをトントンと指さす。仕方ないじゃないか、髭親父との恋は出来れば見つけたくない者が大半だろう。
「おまえら、イベリン領でキャンペーンやってるの、知ってるか?ウェディング・ラブ・ハーモニ……まぁ、アレだ。カップルでイチャつけってヤツだ」
 ったく、新婚の時はラブラブでも数年立てば粗大ごみ扱いだぜまったく……とブツブツ呟く親父はさておき。
「で、だ。タブロスから電車で日帰りの旅行が格安で行けるんだとよ。残りは12席。どうだ、ちょっと行ってみねぇか?」

 午前中にタブロス発の電車に乗り、車内で駅弁を食べつつ昼過ぎにはイベリンに到着。
 公園で押し花しおり作り体験、公園で自由時間。
 バニラのソフトクリームが美味しくてちょっとした名物だったり、池でボートに乗れたり、2人乗りサイクリングが出来たり。
 お土産物屋で買い物したり、お茶をしたりしつつ……また電車に揺られてタブロスに帰ってくる、という日帰りお出かけ旅行だ。
「まぁ、息抜きだと思って楽しんでくるといい。料金は2人で400Jrだ。A.R.O.A特別割引だぞ?」
 おっさんはニヤリと笑みを浮かべた。

●親父の話の続き
「さて。実はな……」
 一呼吸おいて、おっさん職員は髭を撫でながら言葉を続ける。
「実は俺の友人の息子がウィンクルムでな。お陰様でちょこちょこ依頼はこなしてるみてぇなんだが……どうやら、戦闘依頼ばかり受けてるみたいでよ」
 いや、それは悪いことじゃねぇんだが、と呟きつつ
「たまにはその2人に息抜きをしてもらいたい、って話でよ。同じ電車に乗って参加してると思うんだが、なんかあったら仲良くしてやってくれな」
 そんな新米ウィンクルムであるタロとジョンの簡単な特徴を説明しつつ、親父はイベリンツアーの参加申込書にサインを求めるのだった。

 きっと初夏のイベリン領は過ごしやすいことだろう。
 天気予報は、晴れ。
 小旅行気分を味わいに出かけるウィンクルム達だった。

解説

●流れ
行きの電車&お弁当モグモグ(任意)

押し花しおり作り体験(必須)

公園で遊ぶ(必須:詳細選択)

土産物屋&喫茶(任意)

帰りの電車(任意)

そんな流れです。
行き帰りの電車の様子はプランに記載なくとも描写の可能性ありです。
しおり作りと公園内で過ごす様子はプランにご記載いただきたくっ

●押し花
イベリン領内、公園近くの体験工房で押し花でしおり作りをします。全員参加です。
イベリン領内に咲く華を使うため、花の希望ではなく
『色味の希望』『雰囲気の希望』をお書きください。
(例1:赤やピンクの暖色系で派手
 例2:青基調で精霊をイメージして 等)

●公園
(1)オープンテラスのカフェでまったり
(2)池でボート、もしくは足こぎアヒルちゃん乗り
(3)花咲く道を2人乗り自転車でサイクリング
(4)公園気まま散歩
(5)お土産物屋でお買い物

等あります。
特に選択数に制限はありませんが、やりたいことを絞った方が描写密度は濃くなるかと!

●同行者
以前出したエピソード「戦え!新米ウィンクルム」に出てきた2人です。
別に該当エピソードは読まなくて問題ナシです。無理に絡まなくてOKです。
絡んでも絡まなくても、彼ら視点の描写が入る可能性があります…!
第三者からはこう見えてる!みたいな。

神人『タロ』
16歳。黒髪で小柄な少年。真面目で正義感あるお坊ちゃま。
頑張ろうと思う新米。親の差し金なんぞ露知らず。

精霊『ジョン』
16歳。金髪細マッチョ。ディアボロのハードブレイカー。
めんどくさがり、気性は荒い。適合したから仕方なくウィンクルム契約。

 
●その他
EXにつき、アドリブや絡みなど様々入るかと思います。
「好きにおやり!絡ませなさい!」な方はプラン冒頭に「★」
「あまり他者と絡みたくないの!2人きりにして!」な方はプラン冒頭に「×」あると有難いです。

その他、公園で出来そうなことは自由にできるかと!
解説長いですが、お気軽に遊んでくださいっ。

ゲームマスターより

いつもお世話になっております、上澤そらです。
初男性側EX!
公園でのほほんまったり遊びましょー!なエピソードです。
公園内で遊ぶ場所が一致した他の参加者様とはより絡む確率多くなるやも。も。

新人ウィンクルムは構えば喜びますが、放置プレイも無問題です。

自由に遊んでいただければ嬉しく!嬉しく!
しおりはお持ち帰りになりますがアイテム発行できませんのでご了承くださいっ

リザルトノベル

◆アクション・プラン

柊崎 直香(ゼク=ファル)

 

ゼクに旅行計画説明済み。話した通りだって
イベリンで恋を見つけたまえよ

押し花
派手なの。栞なら本に埋もれない物をと実用性重視
ゼク、作業の九割どうぞ

公園
ゼク提案は公園に来た意味ないチョイスだね
いいよ。お茶飲んでお土産見ようか
ああ、池のほとりは避けてあげる

タロくんジョンくんは楽しんでる?
お土産選ばない?
僕も伯父さんに嫌がらせ的に変なの買おう
タロくんは誰かに?
と小声で、買い物は彼の好み知れる好機だし
誰のための物選んでるんだろ、とか気になったり?

ゼクもああいうのがよかった?
仲良くボート乗って、ドキドキしながら手繋いで歩いて。
それとも諦めついた頃だろうか

キミって時々天然なのか計算なのか
後者ならよかったのに


俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
 
電車内でネカが動き回らないよう隣キープして見ておく
さすがに皆で喋ってれば踊り出さないだろ

しおり
淡いピンクで可愛らしい花
確か牡丹が好きって言ってたよな…似たようなのはあるかな
何となくネカっぽいイメージのができてればいいが

公園:4→1
公園内を色々見て回る
その後カフェでくつろぎながら改めてしおりを見せ合う
せっかく作ったんだし使わないとな
互いに相手の気に入りそうな本を贈り合おうと提案
自分からこういうこと言うのって初めてのような気がする
だけどただお前にリアクションを返してるだけじゃ距離は縮まらないんじゃないかって

ネカの好意がいつもストレートすぎて、受け入れるだけじゃ苦しい
俺からも歩み寄ってみたい



鳥飼(鴉)
  楽しみでつい。(明るく陽気な曲を歌ってた

しおり:
鴉さんにあげたいです。
少しでも、鴉さんの見る世界が明るくなるように。
『黄や橙の明るく落ち着いた暖色』

公園:
滅多に来れませんし、歩きませんか?
のんびり景色を眺めて歩くのも良いと思うんです。

お土産屋さんも寄りたいです。
家族にお土産を買いたくて。
鴉さん?
(聞かない方がいいでしょうか)
この花のジャムとか。
ガラス瓶の模様が綺麗で、食べ終わっても飾って楽しめそうです。

帰り:
はい。楽しかったです。(にこにこ
そうだ、これ良かったら。(ラッピングしたしおりを差し出す
今日の記念にプレゼントです。

わあ、ありがとうございます!(満面の笑み
(やっぱり、鴉さんは優しいです)



ヴィルマー・タウア(レオナルド・エリクソン)
 
・あまりにも
俺と契約した精霊は重度の引きこもりだった。
数週間も家から1歩もでいなんて体に悪いぞ…!
レオー!散歩に出かけるぞ!引きずってでも!

・不器用
赤の派手な花でどーんと作るぜ!
おぉ、花が破けたり、飛び出たり…。
意外と難しいもんだな…。
お前…終始嫌味だけは一丁前だな…。

・お節介
公園で散歩…の筈がレオが早々バテた。
パートナーなんだから心配するのはあたりまえだろ!
俺のせいだかわからないが、オーガ沙汰に巻き込んで悪かったよ。
だけど、あんまりホモホモって言うのはやめてくれねーか?
…ぶっちゃけお前みたいなひょろっとした奴は対象外だから安心しろ!
(…あーあ、俺だって好きで男が好きなわけじゃないんだよ…)



新月・やよい(バルト)
 

楽しみですね。君と一緒だから浮かれちゃいます
鳥飼さんの歌に拍手

あ、初めてお弁当作ってみたんです
本を見ながら作ったサンドイッチ
どうぞ召し上がれ!
皆さんもどうですか

押し花【夜桜のイメージ】
これやりたかったんです!
お互い本が好きだから栞って良く使う
沢山お花を使いたいなぁ
むむ。じゃぁ君の栞とくっつけて大判にですね
桜です、って即答。君との思い出の花
思えば二人で何か作るのは初めてですよね
出来上がったら大満足
はい、半分こです

一緒に散歩
アイスの食べ歩きはOK?
持ってきたカメラで色々撮影
折角きたのですし小説の資料にも
何より思い出は一番のお土産ですよ!
バルトの写真欲しかったのでパシャり
皆の写真も取っておこうかな



●拒み、拒まれ
「嫌だ。ボクは行かない。ヴィル一人で行きなよ」
「はぁっ?こんな間際で何言ってんだっ!?」
 レオナルド・エリクソンは不機嫌な表情を隠さず、神人のヴィルマー・タウアへ言葉を投げた。
 柔らかでやや長めの銀髪、透き通るような白い肌。ファータ種族特徴でもあるとがった耳。そして淡く紫色の光を持つその瞳は、アンニュイな雰囲気を醸し出す。
「あのな、流石に数週間も家から一歩も出ないなんて身体に悪いぞ」
 精霊とは対照的に、色黒の肌で精悍な身体つきのヴィルマー。レオナルドの重度の引きこもりっぷりに不安を感じ、列車の旅に誘ったのだが。
「家から出ないでもネットと通販で生きていける時代なんだ……」
 それじゃ、とドアを閉めようとするレオナルド。しかしヴィルマーはがっしりとした腕でドアを閉じさせまいと力を込めた。
「レオ、そんなんじゃウィンクルムの仕事こなせないぜっ?ちょっとは外に慣れておけ!」
 正義感の強いヴィルマーに他意はなく、純粋にウィンクルムとしての仕事とレオナルドの健康を思って言っている、が。
(この神人……お節介で、ウザい……)
 溜息をつくも、結局ヴィルマーに押し切られ。数週間ぶりに外の空気に身を置くことになったレオナルドだった。 

●タロの視線から
 僕の名前はタロ。16歳。ウィンクルムになって数か月の新米神人だ。
 今日はA.R.O.A職員さんの勧めでイベリン行きの旅行に参加している。僕のパートナーであるディアボロのジョンも一緒だ。
 敵を倒すこと以外でジョンと遊びに行くのって初めてかも……。少しだけ、緊張を感じちゃうんだよね。

 列車はタブロスを出発し、イベリンに向かっている。
 今回の旅が主にウィンクルム向けだったこともあってか、車内はウィンクルムやA.R.O.A職員だけのようにも見える。ちょこっと周りを見渡したけど、知った顔はいなさそう。
 列車から見える景色は近代的なビルが並ぶ街並みから、徐々に緑が増えて行った。
 梅雨の時期だけど、今日はお日様も頑張って顔を出していてくれるみたい。
 窓を開けると、爽やかな風が車内に舞い込んだ。
「見て、ジョン。向こうに海が少しだけ見えるよ!」
 僕が景色を見て隣の席に座るジョンに声をかければ、ジョンは視線をチラリと窓の外に映し「あぁ」と呟くだけ。
 緊張しながら誘って、一緒に行ってくれることになったのは嬉しかったけど……本当は迷惑だったのかな、と少し心配になる。
 そんな時、僕の耳に明るい歌声が聞こえて来た。
 テンポ良く陽気で明るいその歌声は、僕の落ち込みかけた気持ちを自然と楽しいものにしてくれた。
 歌っているのは誰だろう?
 前方に居る声の主を見ようと、僕は頭を上げた。そこに見えたのは、明るく艶やかな茶色の髪に優しい薄青の瞳を持つお姉さんだった。
 長い髪を一本の三つ編みに結い、左肩方から垂らしている。……A.R.O.Aの職員さんかな?
 すると、その女性は僕の視線を感じたのか、歌いながら僕の方に視線を向け……柔らかな表情で微笑んだ。
「主殿、車内ですよ」
 その瞬間、隣に居た真っ黒い男性が隣の女性を左手でチョイチョイ、と軽くつついた。
「すみません、楽しみでつい」
 てへ、とお姉さんが笑みを返せば、カラスのように真っ黒な服装とミステリアスな雰囲気を持つお兄さんが目を細めた。そこに
「鳥飼さん、歌がお上手なんですねぇ」
 クセのある黒髪を持ち、小柄な男性が笑顔でパチパチと拍手を送り、お姉さんに声をかけた。
「ウィンクルムとしてご一緒した時は頼り甲斐がありましたが、このような特技もあるんですねぇ」
 そうクセッ毛さんが朗らかな笑顔を向けると、そうでもないですよ、とお姉さんが謙遜を……え?ウィンクルム?
 つまり……
「やよい殿、あまり主殿を持ち上げないでください。オーガの前でも歌われたら困ります」
 つまり、あのお姉さんはウィンクルム……男性でした。
 流石にそんなことはしませんよー、という鳥飼さんの声にやよいさんもアハハ、と笑った。
 ……母さん、どうしてウィンクルムは女性と見間違う方が多いのでしょうか……
「タロ。おい、タロ」
 遠い目をしていた僕に、ジョンから声がかかった。
「おい、見てみろ」
 ジョンの視線の先には
「本当に、本当にただの日帰り旅行なんだな?」
「ゼクさんてば、いつからそんな疑り深くなっちゃったんだろにゃー」
 依然、依頼でお世話になった直香さんとゼクさんの姿が!
 ご挨拶に行こう、と僕が立ち上がるとジョンも一緒に立ちあがった。
「直香さん、お久しぶりです!」
「お、タロくん、ジョンくんお久しぶりー」
 ニパッとした笑顔を見せるのは、柊崎 直香さん。
 年は僕より下のように見えるけど、以前依頼でお世話になったウィンクルムの大先輩。今日もやっぱり女の子に見える。
「うっす」
「久々だな。元気そうで何よりだ」
 相変わらずなジョンにも関わらず、ゼク=ファルさんは挨拶を返してくれた。そして
「そうだ、教えてくれ。今回は戦闘込みか?」
 至極真面目な表情で聞くゼクさんに、僕とジョンは思わず目を見合わせる。
「ゼクったら、僕の言葉を全然信用してくれないんだよ?」
 プクゥと頬を膨らませる直香さんに
「もう騙されん……」
 とゼクさんは低い声で呟いた。
「えっと、これから皆で公園に行って遊びます。戦闘はありませんよ」
「ね?話した通りだって。イベリンで恋を見つけたまえよ」
「「恋!?」」
 ゼクさんとジョンの声が重なった。
「い、いや、そういう趣旨ではないと思います……多分」
 2人の反応を見て悪戯な笑みを浮かべる直香さんは、とても楽しそうに見えた。

 直香さん達へ挨拶を済ませ、席へ戻ってくると丁度お弁当が配られた。
 幕の内弁当、かな?白いご飯に真っ赤な梅干し。鮭に煮物に肉じゃが、ひじきに卵焼き。伝統的な和食料理の登場で、車内はお弁当タイムに突入。
 『煮物に付随してきたしいたけはキミにあげよう』という声が聞こえたり、通路の反対側からは『シュン、はい、あーん!』『おいネカ、人前だぞやめろっ』と言う声、『おい起きろレオ、飯だぞっ』『……まだお腹空いてない、寝る……』などなどなど、それはそれは賑やかで。
 僕もジョンも自分の席でお弁当を食べ始めた。ジョンは苦手なものとかあるの?と聞けば
「玉ねぎ。でも煮てあれば食える。生は食えない」
 あれ?最初よりはちゃんと会話できてる……!車内の雰囲気か皆のせいか、僕は少し嬉しかった。
「考えたら、僕達って戦闘依頼しか受けたことなかったから、そういう好みも知らなかったね」
 僕の言葉に、通路を挟んだ反対側の座席に座っていた男の人がお弁当を食べながら視線を送ってきた。
 サラサラの黒髪に深い緑色をした中性的なお兄さん。目が合えば、気品溢れる笑みを浮かべた。
「お話は伺いました。成程、戦闘依頼ばかり……気持ちはわかります」
「そうなんです、まだ戦闘依頼でも足を引っ張らないか心ぱ……」
「戦闘、楽しいですからね!」
 僕の言葉に、お兄さんは力強く頷いた。
「ネカ、多分違う……」
 隣に居た赤銅色の髪に琥珀色の瞳、左頬に傷を持つお兄さんがネカさんにビシィッとツッコミを入れれば
「あれ?違います?」
 とキョトンとした表情を見せた。……お二人のこの息の合い方。芸人さんなんだろうか、と僕は考える。
「多分、違う。まぁ、戦闘だけでも気が張って疲れちまうし、たまには息抜きするのもいいと思うぜ」
 真剣な表情に、ほんの少しだけ笑顔を見せながらお兄さんが言えば、ジョンも「そうだな」と呟いた。
「そうだ!息抜きと言えば!」
 ネカさんが楽しそうな笑みを浮かべながら、手をポムッと叩いた。
「よければ貴方達も参加しませんか?見てください、イベリンでも話題沸騰のネカザイ……」
「車内だ、踊るな」
 立ち上がりそうなネカさんをグググイッと裾を掴み、無理矢理座らせる茶髪のお兄さんだった。
 ……なんだろう、なんだったんだろう。少し気になる僕だった。

 僕らが幕の内弁当を食べ終わった頃。
「ヴィル、お腹空いた」
「はぁぁっ!?」
 後ろから話し声が聞こえ。
「おい、おまえ要らねぇっていうから食っちまっただろうが!」
「うわ……本当に少しも残してない……。よく二人前も食べられるね」
「レオ、後で食うならそう言えってば」
 チラリと見れば、ガッチリとした体格のお兄さんが少し申し訳そうな顔をしている。
 レオと呼ばれる人はきっとファータの精霊だろう。透き通るような白い肌に、サラリとした銀髪。憂いを帯びた表情でそっぽを向いていた。
「いいよ、別に。我慢できるし」
 覗き見するのは申し訳ないな、と思いつつついつい表情を伺ってしまう。そんな時
「もしよかったら、サンドイッチいかがですか?」
 そう微笑み、レオさんに声をかけたのは、先程歌に拍手をしていたやよいさん。
 手にはサンドイッチを持っている。
 隣には右目を黒い眼帯で隠した金髪の狼テイルスさんも立っていた。
「新月の手作りだ。無理にとは言わない」
 ワイルドな見た目に思わず目を伏せるレオさんだったけど
「いいのか?有難くいただくぜ」
 ヴィルと呼ばれた茶髪のお兄さんが人懐こい笑顔を浮かべ、やよいさんからサンドイッチを受け取った。
「お口に合えばいいのですが」
 そう言うやよいに
「ぁ、ありがとうございま……す」
 小さな声でお礼を言うレオさんに、やよいさんはニッコリと微笑んだ。そして明るく周りにも声をかけ始めた。
「お弁当だけではお腹が足りない方はいらっしゃいませんかぁ?」
「シュン、これはアレですね『この中にお医者様はいらっしゃいませんか』みたいな」
「違う」
 ネカさんの言葉にシュンさんがズバシッと突っ込めば、周りから笑みが零れた。
「サンドイッチ、食いたい」
 僕の隣のジョンがシュバッと手を上げれば、
「せっかくですので僕も食べてみたいです」
 と鳥飼さん。
「はい、どうぞ。遠慮なさらず召し上がってくださいね」
 そう微笑みサンドイッチを配るやよいさんを、柔らかな瞳で見守る眼帯テイルスさんの優しい瞳がとてもとても印象的だった。
「……美味い」
 ジョンの言葉に、やよいさんは嬉しそうな笑みを見せる。
「初めてお弁当作ったんです。本を見ながらですけど」
 そう言うやよいさんに鳥飼さんが目を丸くした。
「初めてとは思えません……!」
「え、ジョン、僕にも一口頂戴?……って、あれ?もう完食!?」
 ワンパクに食べ終えたジョンは満足そうな表情だ。そしてやよいさんの方を見れば
「ありがとうございます、無事に完売しました……!」
 い、いつかやよいさんのサンドイッチを……!と、新たな目標が出来た僕だった。

 こうして、様々な思いを乗せた列車はイベリンまでの道のりを和やかに進んで行くのだった。


●押し花作るぜ!
 列車から降りれば、すぐに目の前には公園が広がっていた。
 郊外と言うこともあってか、目に入る景色はとても広い。そして様々な花が咲き乱れているのがわかる。
 一行は、ガイドに連れられ公園を歩いた。
 様々な色の花、そして花が発する甘い香りに癒されつつ、到着した先には『押し花工房』という看板。
「それでは、皆様に押し花づくりを体験していただきますっ」
 ガイドの声に、ウィンクルムそれぞれが手近なテーブルへと腰かけた。
 そして簡単な作り方の説明を受ける。
「本来ならば、ゆっくりと……それこそ一週間ほど重しを乗せて押し花を作り上げるものなのですが、今回はイベリンに咲く特別な花を使いますので、誰でも簡単、しかも直ぐっ!押し花が完成しちゃうのですっ」
 そう言うと、ガイドは様々な花や葉っぱが入った箱を何箱か持ってきた。
 それぞれに色味が似たような花だったり、葉っぱだけだったり、茎だけだったり。
「この中から好きな花や葉っぱを選んで、自分好みの押し花を、そして栞を作ってくださいー!」
 参加者達は皆、思い思いの花を選びに行くのだった。

●不器用な君だけど
「よっし!これと、それと……あと、これも!」
 ご機嫌に花を選んできたヴィルマー。大小様々、沢山の赤い花を選んでご満悦。
 そしてその花達をテーブルに置き、どのような配置にしようか首を傾げる。
(うわ、見事に赤い……しかもそれ、全部使う気?)
 ヴィルマーの様子を見て、レオナルドは花を潰してその花の汁で赤く染めあげる気か……!?と想像する。
 そんなレオナルドの手元には、緑色の小さな花を少しだけ。
(こういったデザインの方が使いやすいよね)
 先程受けた説明のように、花の下処理を始める。がくを取り、厚い花弁はピンセットで丁寧に間引き。
 器用なレオナルドにとっては造作もないこと、だったが
「うぉっ。わ、破けちゃったぜ」
 目の前で賑やかに声を上げるヴィルマーに目を丸くしたレオナルド。
「意外と難しいもんだな……」
 苦笑するヴィルマーにレオナルドは思わず吹き出してしまった。
「……ぷっ。ヴィル超ヘッタクソー」
 楽しげに笑う彼に、なんだと!?とレオナルドが作成中の押し花を見れば、短時間で綺麗に仕上がっているのが見て取れた。
「お前、意外と器用なんだな……」
「ヴィルが不器用なんだよ。汚すぎるんだけど」
「お前……嫌味だけは一人前だな……」
 しょんもりとした表情を見せるヴィルマーにレオナルドが口を開いた。
「アドバイスしてあげてもいいけど?」

 かくして。
 大きな真っ赤な花を中心に、様々な赤い花が周りを彩った派手な栞、そして生成りの和紙にバランス良く小さな緑の花を配置した落ち着いたしおりの二枚が完成した。

●想い出の花と
(確か、ネカは牡丹が好きって言ってたよな……似たようなのあるかな)
 俊・ブルックスは押し花用の花が入った箱から丁寧に花を吟味していた。
(あ、った)
 牡丹ではないが、限りなく牡丹に近い花を俊は見つけることが出来た。
 試しに香りを嗅いでみれば、以前嗅いだものとさほど変わらない気も、する。
 それと同時に脳内に浮かぶ、その時の光景。二つが合わさると香りが変わるリップクリーム。己の目前に映るネカットの長い睫毛……
 途端に頬が熱くなるのがわかり、俊はブンブンと頭を振り冷静さを呼び戻そうとする。
(なんでこんな時にあの思い出を……!)
 恥ずかしく思いながらも、チラリとパートナーのネカット・グラキエスを見やれば、彼もまた花選びに夢中の様だった。
(見られたら何言われたかわからん……)
 そう思いながら、俊は手にした薄いピンク色の牡丹似の花と合いそうな花を探し始めた。 
 一方ネカットは一つの花を手に持ち、その花を光へと翳した。
 太陽の光にも負けず、濃厚な蜂蜜のような濃い黄金色をしたその花。
(シュンの目みたいで……綺麗です)
 そう思いながら俊の姿を探せば、彼は既に花選びを終えているようだった。
(流石にこの花だけでは寂しいですかね……)
 そう思いつつ、ネカットはいくつかの花を手に、俊の待つテーブルへと戻っていった。

「わぁ、牡丹みたいですね」
 俊が黙々と花の下処理を終え、栞に花を並べて行くと。ネカットの嬉しそうな声がかかった。
「そ、そうか?」
 気のせいだろ?と言わんばかりの俊だったが、きっと第三者が見てもわかるくらいにネカットを現しているように見える。
 薄いピンクをメインに、鮮やかで色濃い深緑色の葉。更に白い花弁が舞うように配置されたその栞の様子にネカットは思わず笑む。
「よし、できました」
 ネカットが満面の笑みを浮かべた。
 黄金色の花にオレンジや黄色の暖色系の花を添えた温かみのある栞。差し色で自分の瞳のような緑色も配されている。
「へぇ、落ち着いてていいな」
 ネカットの作った栞に俊は見入る。
「私のコレクションがまた増えましたね」
 得意げに笑むネカットだった。 

●キミのものは
「えっとね、これと、これと……この色も綺麗かも」
 赤やピンク、紫と言った明るい色を次々と選び出すのは直香。
 大ぶりだったり、クッキリした色合いだったり、見るからに派手になりそうな選び方をしていく。
 そんな直香の花選びを見つつ、ゼクも花を選び始める。
 青や白、ミントグリーンや黄色。ゼクは比較的寒色系で大ぶりの花を選んでいった。
 ゼクが選んだ花を見て、直香は
「へぇ。もっとシンプルなものを選ぶかと思った」
「それが使いやすいんだろ。どうせ共用になる」
 共に暮らす2人にとって、ゼクのものは、直香のもの。
 ……直香のものは、直香のもの。
 いくら、もう騙されん……!と通算8回位宣言しても。きっと騙されるんだろうな、と薄ぼんやりと思っても。今回みたいに逆にスカされたとしても。
「おぉ、わかってるねゼクさん。実用性重視なのだよ。それじゃあ、ゼク。作業の九割をどうぞ」 
 そんなゼクの想いを知ってか知らずか、いつものような軽口を叩く直香に。
「花選びしか作業に含まれない配分じぁねぇか、せめて半分はやれ」
 少しずつ、少しずつだけど。それこそ、果てしない距離かもしれないけれど。
 ちょっとだけ、近づけている気がする。

 黙々と作業を進め、なんだかんだ直香の分もほぼ作業をこなすゼク。
 出来上がった栞は大輪の花火のような、これから訪れる夏を感じさせる栞となった。

●二枚で、一つ
「これ、やりたかったんです!」
 キラキラとその黒い瞳を輝かせるのは新月・やよい。
 行きの列車内から既にウッキウキ、そしてはしゃぐ姿はバルトには珍しく思えた。
 駆け出しではあるが小説家を生業とするやよいにとって、本にまつわるものは非常に興味を惹かれる。
「君と一緒だからうかれちゃいます」
 バルトに向かってにっこにこの笑顔を見せるやよい。
 楽しそうな理由に自分が含まれていることが嬉しく、無意識に己の口角が上がっているのがわかった。
 一見ワイルドで武闘派に見えるバルトも、こう見えて無類の本好きである。
 やよいの家に行き、それぞれが好きな本を読んで過ごす時間はバルトにとって大切な時間。
 楽しそうに花を選びに向かうやよいと、それに着いて行くバルト。
(沢山お花を使いたいなぁ……)
 様々な花を手に取るやよいとは対照的に、バルトは花を手に取るでなく腕組をし。
 うむむ、と悩む表情を見せている。
 やよいを見れば、候補としてピックアップした花は明らかに栞一枚分を優に超えているのがわかる。
(……新月らしい、な)
 思わず笑みが零れた。一緒に過ごす時間が長くなるにつれて、段々とやよいの性格がわかってきたような気がする、とバルトは思う。
(……そうだ)
 一つの閃きと共に、バルトはやよいへと進み出て、手に持つ栞を彼に差し出した。
「俺の栞も使えよ」
「え?いいんです、か?」
 勿論だ、と頷けばやよいの笑顔が更に輝く。やよいは受け取ったバルトの栞と自分の栞と並べ。
「むむ。じゃぁ君の栞とくっつけて大判にですね」
 こうして、やよいとバルトは改めて大判用に花を選び始めた。
「……新月は、何の花が好きなんだ?」
「桜です」
 間髪入れず答えが返ってきくれば、バルトも即答で
「桜、か。俺も」
 と、返す。
 桜は2人にとって思い出の花。ウィンクルムとなって2人で過ごした初めての場所は、とても美しく満開の桜並木だった。
 満開の桜と、先輩ウィンクルム達と楽しく過ごした時間は2人にとってかけがえのないもの。
(あの時のバルトはまだぎこちない敬語を使ってました、よね)
 思い出して、フフと笑うやよいに
「どうした?」
 きょとんとした表情を見せるバルト。
「なんでもないですよ。さて、花選びはこの辺にしましょう」
 やよいは沢山の花をその手に持ち、作業のためのテーブルへと向かった。

 花の下処理を黙々と行う2人。
「思えば、二人で何かを作るのは初めてですよね」
「そうか……そう、だな。たまにはいいもんだな」
 やよいの言葉に、バルトは記憶の糸を辿るように思い返し、頷く。
 そして伝え忘れていた思いがあったことに気がつき。
「そういえば。サンドイッチ、美味しかった。ありがと、な」
 和食党のやよいが洋食であるサンドイッチを持参してくるとは思ってもみなかった。
 やよい自身ではなくバルトの口に合うように、と気遣って作られたものだとわかり。
(作りすぎて、皆にお裾分けするのも新月らしい)
 やよいが作るサンドイッチはお陰様で大好評、即時完売という状況で。
「とんでもないです。バルトや皆さんに気に入っていただけたようで安心しました。……副業でサンドイッチ屋さんでもやりましょうかね」
 コロコロと笑うやよいだった。

 こうして2人の大判のしおりは完成した。
 藍色の和紙を使い、濃いピンクや淡いピンクを使用したその栞は満開の夜桜を思わせる風流な出来。
 その麗しさにやよいは大満足な笑みを浮かべる。
 そしてその栞を丁寧に、半分に切り始めた。
「はい、半分こです」
 半分に切り分けられた栞の片方をバルトへと差し出し。
「半分俺に?……飯のお礼のつもりだったのに……」
「お礼なんてとんでもないです。美味しそうに食べるバルトさんが見れたので満足です。だから、受け取ってください」
 やよいの言葉に
「ありがとう」
 二つに分かれた栞。空に向けてその二枚を隣り合わせれば、いつでも花見の思い出が浮かび上がるようで。
 二人は目を合わせて、笑んだ。

●君を想えば
 和やかな笑みを浮かべ、鳥飼は花を選んでいく。
 彼の手には橙色や黄色など落ち着いた暖色系の色とりどりの花。
(鴉さんに、あげたいです)
 そう思う鳥飼。少しでも、彼の見る世界が明るくなるように……と思いを込めて、丁寧に花を吟味する。
 一方、鴉は。あまりに数多くの花の色、種類に面食らっていた。
(華美な勢いには圧倒されます)
 内心そう思いながらも、胡散臭い笑みは浮かべたままに適当な花を一つ取ろうとした。
 その瞬間、見覚えのある色が目に入った。
 それは以前鳥飼から貰ったオリジナルの香水とよく似た色の花。
 鴉を思って作られた、世界に一つだけのもの。
 左手で、鴉はその花を取った。
(これだけの花がある中で、似た色の花……これも出会いってやつですかね)
 その花をメインにすることに決めれば。
(一色でも良いですが)
 鳥飼を見ればご機嫌な表情で花選びに没頭しており。
(……柄でもありませんがね)
 従う主の瞳の色に似た、薄青の花。鴉はいくつかの花を手に取るのだった。

 こうして二人はテーブルでそれぞれの栞を作り始める。
 時折、やや感覚の鈍い鴉の右手を補助するように、鳥飼が手伝いつつ。
 二人は栞を無事に完成させるのだった。

●イベリンの公園で
 各自の押し花しおり作り体験が終われば、自由時間。
 集合場所と時間を確認し、それぞれが広大な公園を楽しむこととなる。
 
「これが噂の……!」
 早速、この公園の名物だと言われるソフトクリームを購入したのはやよい。
 食べ歩きも大丈夫!という店主の言葉に微笑みを返し、バルトと共に公園内を散策する。
「、美味しい……!」
 添えられたスプーンで、ソフトクリームを上品に口に運ぶやよい。
「そうか。よかったな」
 そう返すと、バルトの目の前にソフトクリームが掬われたスプーンが差し出された
「バルトも食べませんか?」
 朗らかに笑むやよいに、やや動揺するバルト。周りを見渡すも、人の気配はない。
「あーん」
 遠慮なく口を開け、ソフトクリームを頬張る。
「……あぁ、サッパリしていて美味しい」
「汗ばむ季節ですし、丁度良い甘さですよね。……あ!バルトさん、ちょっとソフトクリーム持っていてくれませんか?」
「え?あぁ、構わないが」
 やよいからソフトクリームを受け取れば、彼は何やら自分の鞄をゴソゴソと漁り。
「じゃーん」
 出てきたのは、カメラだった。
「折角来たのですし、風景だとか小説の資料にもなりますし……何より、思い出は一番のお土産ですよ!」
 力強く頷くやよい、そして。
「えい」
 と、ソフトクリームを持ったままのバルトにレンズを向け、シャッターを切った。
「お、おい」
 突然のことに驚くも、嫌な気分ではない。
「バルトの写真、欲しかったんで」
「それは構わないが……せめて不意打ちは勘弁してくれ。ソフトクリーム、溶けるぞ?」
「ふふ、また後で撮影させてください」
 そう言い、二人はソフトクリームを食べながら散策を続けるのだった。

「しおりの花も綺麗ですが、咲き誇る花も可愛いですね」
 見目麗しく整えられた花も、自然のままに咲く花も。それぞれに素晴らしさがある、とネカットは思う。
 自然に繋がれた俊とネカットの手。
 ふと、俊が柵の中に居る謎の生き物を発見した。
「おいネカ、見てみろ。変な羊がいる」
「オーガですかっ!?」
 驚きよりも嬉々とした瞳をみせるネカットの姿に、その羊は
『らめぇ……!』
 と震えている。
「いや、あれはオーガじゃない。多分」
「残念です。食べても美味しくなさそうですね」
 そんな何気ない会話も、二人ならば楽しいと実感する2人。

 俊とネカットが歩いていく様を見ていると。
「どこ行こっか?」
 直香から何気なく発せられた一言。
 しかしその一言で、ゼクは一瞬にして脳裏に様々な映像が流れ始めた。
 2人乗りサイクリング……気づけば漕いでいるのは自分だけ。
 花を愛でる……ハチミツをかけられ謎の虫に追いかけられる。
 池の近くを散歩……『見てみて、珍しい魚が泳いでるよ』『どれどれ……』『えいっ!』からの、ドッボーーーン!
 ボート……漕ぐのは自分だけ。『見てみて、珍しい魚が泳いでるよ』『どれどれ……』『えいっ!』からの、ドッボーー(略)
「……カフェか、土産物屋にしよう」
「見事に公園に来た意味ないチョイスだね」
 ゼクの脳内で上映された絵巻は直香の目にも映ったとか、そうでないとか。ウィンクルムの絆って凄いね!
「いいよ。お茶飲んで、お土産見ようか」
 カフェへと向かおうとする直香に、ゼクは。
「……こっちから行こう。せっかくだから花を見ながら」
 遠回りの道を指差すゼクに、勘の鋭い直香は直ぐに気づいた。
「あぁ、はいはい。池のほとりは避けてあげる」  
 先生、今日のゼクさんは警戒レベルが高いです。

 鳥飼と鴉も、のんびりと公園内を歩く。
 想像以上に広さを感じさせる園内は、少し歩くだけで溢れる花のゾーン、背の高い木が並ぶゾーン、池がメインとなっているゾーン、など様々な姿を見せている。
 小鳥たちのさえずり声や、風が木の葉をサワサワと揺らす音。アスレチックがあるゾーンでは、子供達の笑い声。
「穏やかですね」
「……はい」
 和やかな光景を、二人は楽しんでいた。

 しかし、そんな空間を苦手とする者もいるわけで。
「帰りたい」
「ん?レオ、大丈夫か?」
 散歩を楽しもう!とハリきっていたヴィルマーだったが、相棒のレオナルドの顔を覗き込む。
 その視線を背くように、レオナルドはフイ、と顔を背けた。
「もうやだ。歩かない。ダルい、疲れた」
 流石に数週間ぶりの外出とは言えど、公園程度なら大丈夫だろう……と思っていたヴィルマーだったが。
 予想以上にレオナルドの体力に限界が来ていたようだ。いや、むしろ体力と言うよりも精神力、かもしれない。
「パートナーなんだから、心配するのは当たり前だろうが……」
 疲れたという彼を支えようと手を伸ばすが、レオナルドはスルリと脇を抜け、ベンチへと座る。
「いい加減、ウザイよ」
 レオナルドの呟き。
「だってさ、ヴィル……恋愛対象、男なんでしょ?俺、そういうの……無理」
 この世界、特にタブロスにおいて、もはや男性同士の恋愛に関しては寛容である。
 しかし、未だに同性同士の恋愛についてはタブー、として見ている一部の地域があるように、個人の性思考に於いても様々だ。
 レオナルドにとって、そういう思考は受け入れがたいもの。
 ヴィルマーは、レオナルドには受け入れがたい思考の住人であることを痛いほど自覚している。
「……俺のせいだかわからないが、オーガ沙汰に巻き込んで悪かったよ」
 距離を置き、隣のベンチへと腰かけるヴィルマー。
「あんまり、恋愛対象に関して言うのは止めてくれねーか?……ぶっちゃけ、お前みたいなひょろっとしたヤツは対象外だから安心しろ」
 レオナルドの方を見ず、真っ直ぐに空を見つめるヴィルマーを、レオナルドはチラリと横目で見やる。
「……判った、ごめん。でも、戦いが嫌いなのは本当」
 ウィンクルムになったと言えども、己から戦いの道を選ばなければならないわけではない。火の粉を振り払うぐらいの力は必要かもしれないが、戦いに赴くのは義務ではない。
「俺こそ、強引に悪かった」
 きっと、二人には二人なりの距離の取り方がある。そう思うヴィルマーだった。

●お茶を飲もうぞ
(なんとか、なんとか何事もなくカフェに辿り着けた……!)
 そう思い、安堵の息を吐くのはゼク。
 なるべくならば危険のない方向へ……!と遠回りをしていく内に、結構な距離を歩いていたようだ。
 やや坂を上った場所にあるオープンカフェは爽やかな風が流れ、心地よい。
「ゼク、お散歩したかったなら素直にそう言えばいいのに」
(まさか行く先々に『この先、食虫植物ゾーン』とか『バナナワニ生息地』だとかの看板があるとは思わないだろうが……!)
 何か起こる気満々の不幸引き寄せトラップをかいくぐり、二人はドリンクを注文し席へと付く。
 直香の元にはオレンジジュース、ゼクの元にはアイスココア。
「相変わらず甘いの好きだねー」
 そう言いながら、直香はオレンジジュースで喉を潤す。
「ケーキ、売り切れ残念だったねぇ」
「……仕方ない」
 物凄く小さな所でゼクさんの不幸属性が発揮された所で、二人はぼんやりとテラスから公園を見下ろす。
「……直香、あれ」
 ゼクの言葉に直香が池へと視線を向ける。何艇か浮かぶボートの一つに、先程車内で会ったタロやジョンの姿を見つけた。
「おー、ジョンくんボート漕いでる」
 流石に表情までは見えないが、二人が休日を満喫しているのがわかった。
 なんだかんだあの二人、上手くいきそうだな……とゼクは共に戦ったあの日を思い返す。
「ねぇ、ゼク。あの二人もカフェに来るみたい」
 直香が見つけたのは、俊とネカット。これからカフェを利用するのだろう。二人は手を繋ぎ、緩やかな坂を上ってくる。
 そんな彼らを、直香は目を細めて見守る。そして不意に言葉が零れた。
「ゼクも、ああいうのがよかった?」
「ああいうの?」
 突然の言葉にオウム返しとなるゼク。
「仲良くボート乗って、ドキドキしながら手を繋いで歩いて」
 直香の視線は公園内でなく、遥か彼方を見ているように感じられた。
「それとも、諦めついた頃だろうか」
 一瞬の沈黙が流れ、ゼクは口を開いた。
「たしかに憧れた時期はあったが、お前に逢う前の話だな」
 仏頂面ではあるが、心は少女漫画のように清らかで、いつか自分が白馬に乗って可憐な少女ウィンクルムを護る騎士に……!などと考えていた時期もあったことは認めよう。内緒だけれど。
「諦めも何も、最初から、お前に逢った時から」
 ゼクの低い声が風と共に直香の耳に入ってくる。
「常に傍に在る覚悟も気持ちもできている」
 ゼクの真剣な声色。
「……さすがに、過ぎた悪戯は御免蒙るが。それに……」
 続けられるゼクの言葉。
 それも、これも、全て、ゼクの本音。
 直香はオレンジジュースを一気に飲み干した。

「ふぅ、結構な広さがありましたね」
 散策を終えた俊とネカットはオープンテラスのあるカフェで休憩を取ることに決めた。
 カフェへと向かう緩やかな坂道を登って行けば、ちょうど降りる所だった直香とゼクに会う。
 直香のニパッとした笑顔、そしてネカットの上品な笑顔。
「ケーキは売り切れだから気を付けてねー!」
「おや。そうなのですね。残念でしたね、ゼクさん」
 以前パンケーキを食べた仲、だからか。ゼクの目当てがなかったことに直ぐに気づくネカット。
 それじゃあ!と挨拶しあい、俊とネカットはカフェへとたどり着いた。
 イベリンの花から取れた蜂蜜を使った特製アイスティーが2人の前に運ばれ、しばしまったりとくつろぐ。
「シュン、見てください。やよいさん達がいますよ」
 ネカットがやよいとバルトの姿を見つければ向こうも2人に気付いたようで。
 進行方向を変え、カフェへと向かって来るのだった。
「わぁ、ティータイムですか?……あ、そうだ。僕、カメラ持ってるんですけど、お二人の写真撮ってもいいですか?」
「え?別に構わないが……」
「いい記念になりますね!ぜひお願いしたいです!」
 ググィッとネカットが俊へと身を寄せる。
「はーい、とりまーす!」
 やよいがシャッターを切れば、仲睦まじい二人の写真がカメラの液晶モニターに映る。
 バルトも2人の写真の微笑ましさにふ、と笑んでいる。
「後でデータ、お渡ししますね!」
 そう言うと、やよい達はまた公園へと歩いていった。
「あ。せっかくだから写真に一緒に栞も入れればよかったすね」
 ネカットがそう言い、しまっていた手作りの栞を取り出した。そうだな、と俊もまた同じように栞を取り出し、テーブルへと並べた。
「せっかく作ったんだし、使わないとな」
 互いを思いやり作ったとわかる二枚の栞を見、俊は閃く。
「なぁ、ネカ。よかったら、お互いに気に入りそうな本を贈り合ってみない、か?」
 やや気恥ずかしそうな表情で、俊がネカットを見る。
「楽しそうな提案です。わかりました、シュンが気に入りそうな本を探してみます」
 目を細め、楽しそうな笑みを返すネカットに俊は心の中で安堵の息をついた。
「俺も、ネカが気に入りそうな本を探してみる」
 自分からこういうことを言うのって初めてのような気がする……と俊は思う。
(いつもお前の行動にリアクションを返してるだけじゃ……距離は縮まらないんじゃないか、って)
 ネカットは首を捻って、俊が好きそうな本って何だろう……と考えてみる。
「念のために聞きますが、シュンはスプラッタ耐性はどの程度……」
「勘弁しろ」
 即座に返される言葉にネカットは笑う。
(私はただ、自分の言動でシュンが反応を返してくれるのが嬉しいんです)
 まったく……と口を尖らすシュンをネカットは愛しい瞳で見つめる。
(例え、それがツッコミでも……愛でも)

●お土産買おうぜ!
 時刻は徐々に夕刻へと近づき始めている。
 お土産物屋はそこそこに人が集っていた。
「鴉さん、お土産物屋さんに寄っていいですか?」
「構いませんが」
 特に異論もなく頷く鴉に、鳥飼は笑みを見せた。
「家族にお土産を買いたくて」
 ――家族。
 その言葉に、柔和だった笑顔が仮面のように張り付いたものとなる。無言の鴉に違和感を感じ
「鴉さん?」
 鳥飼は振り返るが、そこにはいつもの笑み。
「いえ、何も」
 平坦な彼の言葉に、聞かない方がいいでしょうか……と思い、己のお土産選びに専念することとした。
「それで、何を買うのです?」
「見てください、この花のジャム。タブロスにはない花で作られてるそうなんです。それにガラス瓶も綺麗で……!」
 可愛いものをみつけた女子の如き鳥飼の眼差しに、鴉はこっそりと溜息をつく。
「ガラス瓶の模様が綺麗ですし、食べ終わっても飾って楽しめそうです」
 女子力満載の主殿の言葉と笑顔に
(何故、そう女性のような趣向なのか)
 そんなことを考えれば、一瞬よぎった黒いものは消えて行く気がする鴉だった。

 お土産物屋に向かう直香とゼクは、途中でボートから降りて来たタロとジョンに遭遇した。
「お、タロくんジョンくん、楽しんでる?」
「わぁ、直香さん!はい、楽しんでますっ」
 小柄なタロが笑顔を向ければ、ジョンも「まぁ」と声を返す。
「ねぇ、僕らこれからお土産物屋行くんだけど、タロくん達もどう?」
 直香の言葉に
「わぁ、いいですね!僕らも行きますっ」
 子猫と子犬がキャッキャとじゃれ合うような2人を、一歩引いて見守るゼクとジョンだった。

 店内でも
「タロくんは誰に買うの?」
 直香が小声で聞けば
「えっと、旅行を教えてくれたA.R.O.Aの職員さんに……」
 あの髭親父か、と直香は思う。
 買い物は彼の好みを知れる機会だし……とタロの手を見ると。
「これとこれ、どっちがいいでしょうか?」
 右手には『ようこそ、イベリン!』と書かれた三角形のタペストリー。
 左手には、様々な謎動物の顔が掘られたトーテムポール。
 そして直香は思い出した。
「そうだ、僕も伯父さんに嫌がらせ的に変なの買おう」
「お前、養父とそんな仲悪かったのか」
「え、別に嫌がらせをしようとしてるわけじゃ……」
「タロ、センス最悪だな……」 
 様々なツッコミや意見が入り混じる中、ジョンの手には可愛らしいぬいぐるみ。タロの視線がそこに注がれれば
「誰のための物選んでるんだろ、とか気になったり?」
 直香がタロの耳元でこそり、と囁く。すると、タロは
「気になるもの、ですね」
 と小声で呟き、頷いた。
「直香、何吹き込んでるんだ?」
「えー?スパイス、ってやつ?」
 ニンマリとした笑みを浮かべる直香だった。

●楽しい時間はあっという間
 かくして、穏やかな一日は終わりを告げようとしていた。
 皆が帰りの列車へと乗り込んでいく。

「良い写真がいっぱい取れました」
 ホクホク顔のやよいに、バルトは
「ちょっと、カメラ貸してくれないか?」
 勿論です!とやよいがバルトにカメラを渡す。
 大柄なバルトが自分とやよいに向かってカメラのレンズを向ければ、やよいはその意図に気付き頬を染めた。
「これって……」
「俺も、新月の写真持ってなかったから。撮るぞ?」
 液晶モニターに映るのは、精悍なバルトの表情と、はにかんだやよいのツーショット。
 嬉しそうにその画面を眺めるやよいの表情に幸せを感じていると、列車に乗り込もうとするタロとジョンを見つけた。
「せっかくだから二人も撮りに行くか」
 バルトがやよいの頭を柔らかく撫でれば、彼は満面の笑みを浮かべた。

 タブロスに向かって、列車は出発した。
 車窓からの景色は夕暮れからダークブルーへと変化していく。
 行きは賑やかだった車内も、皆遊び疲れたのかとても静かで。寝息すら聞こえてくる。
(ヴィル、気持ちよさそうに寝ちゃって……)
 イビキはかかずとも、気持ちよさそうな寝顔。
(子供みたい)
 レオナルドは、少しだけ笑んだ。

「楽しめましたか?」
 胡散臭い笑みを浮かべ、鴉が鳥飼に尋ねる。
「はい。楽しかったです」
 穏やかな笑みを浮かべた鳥飼に、鴉は言葉が詰まった。そんな鴉に気づいているのかいないのか
「そうだ、これ良かったら」
 なんだろう?と手に取れば、それは昼間に作成した栞。いつの間に綺麗にラッピングが施されたのだろうか、中には鳥飼が選んだ暖色で纏められた落ち着いた色味の栞が。
(ご丁寧なラッピングで)
「今日の記念にプレゼントです」
「記念、ですか」
 鴉は軽く息を吐き、その後に微笑んだ。
「ありがとございます。では、主殿には私が作ったものを差し上げますよ」
 流石に包んでありませんが、と鴉が作った薄青と緑の静かな色合いをした栞を差し出した。
「いいんですか?わあ、ありがとうございます!」
 心から嬉しそうな笑顔と、栞を大事そうに抱える仕草に。
(そんなに大事に抱きしめるものでも、ないでしょうに)
(やっぱり、鴉さんは優しいです)
 鼻歌でも歌いだしそうな鳥飼を、そっと見守る鴉だった。

 ゴトトン、と揺れる車内。
 窓際に座る俊は闇に包まれていく景色を見ていた。
(ネカの好意がストレートすぎて、受け入れるだけじゃ苦しい。俺からも歩み寄ってみたい)
 その為の第一歩が踏めた一日なのでは、と思う。
 そんな俊の隣でネカットもまた、俊の提案を瞳を閉じて考えていた。
(……シュンが気に入りそうな本、て何でしょう……。私の好みで決めては駄目ですよね)
 そこで、ネカットはハッと気がついた。
(……今まで、他人の気持ちに沿って考えるなんて、したことないです私……)

 背もたれに身体を預け、ゼクは目を閉じていた。
 きっと眠ってはいないだろう、と直香は思う。寝ていたら、確実におでこに落書きをした。
 ふ、と脳裏に浮かぶゼクの言葉。
「お前が望まないことはしない」
 カフェで口にした彼の言葉に
(キミって時々天然なのか計算なのか)
 直香はすっかり暗くなった景色を見る。映るのは、己の顔。
(後者ならよかったのに)

 列車は、様々な思い出を乗せタブロスへと向かうのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:俊・ブルックス
呼び名:シュン
  名前:ネカット・グラキエス
呼び名:ネカ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 上澤そら
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月03日
出発日 06月09日 00:00
予定納品日 06月19日

参加者

会議室

  • [6]俊・ブルックス

    2015/06/08-06:21 

    挨拶遅れたが、シュン・ブルックスと相方のネカだ。
    初めましての奴は初めまして、久しぶりの奴もよろしくな。

    ネカット:
    歌…これは踊らないといけない流れ!(きらーん)

    俊:
    おいばかやめろ。
    それはおいといて、俺達はどこで過ごすかな…

  • [5]柊崎 直香

    2015/06/07-22:34 

    どーもどーも。いつまでも新人気分です。クキザキ・タダカです。
    精霊はゼク=ファルっていうらしいよ。

    僕のところは精霊が(僕が悪戯仕掛けるんじゃないかと)警戒モードなので
    おとなしく過ごしてるんじゃないかにゃー。
    あとはタロくんジョンくんにちょっと絡んでるかもしれない?

  • [4]柊崎 直香

    2015/06/07-22:34 

  • [3]ヴィルマー・タウア

    2015/06/07-03:46 

    よぉ、初めましてだな。
    ヴィルマー・タウア、それと、パートナーのレオナルド、よろしく頼むな。
    散歩にはいい場所のようだな。
    色々食べたり遊んだりしてみようぜ。

    「どうも、レオナルド・エリクソン、です。
     しおり…どういうの作ればいいんだろう…はぁ…」

  • [2]新月・やよい

    2015/06/06-23:37 

    こんばんは。お久しぶりです。
    新月と申します。相棒はバルト、よろしくお願いしますね。
    俊さんとネカットさんと
    ヴィルマーさんレオナルドさんは始めましてでしょうか。

    歌!いいですねぇ。楽しみです。
    僕はサンドイッチを差し入れしようかなーって考え中ですよ。

  • [1]鳥飼

    2015/06/06-18:58 

    こんにちは。
    僕は鳥飼と呼ばれています。
    知ってる方も初めての方も、どうぞよろしくお願いしますね。(にこ

    日帰り旅行すごく楽しみです。
    楽しみすぎて思わず電車で歌ってしまうかも知れません。(わくわく


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