【祝福】ひねくれカクタスの悪戯(寿ゆかり マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「え?この時期にクリスマスカクタスが見れるんですか?」
 イベリン領のA.R.O.A.支部に持ち込まれたクリスマスカクタスに、職員は目を見張った。
「そうなんです、祝福された花なので、特別に咲いたんですよ」
 美しい赤色の花に目を奪われ、職員はほぅっとため息をつく。
「……ぜんっぜん綺麗じゃないですね」
 が、口をついて出た言葉は不本意な物だった。
「えっ!?あ、ごめんなさい、……なんて思ってないし」
 謝ろうとしてもなぜか思っていることとあべこべの言葉が出てきてしまう。
(なんで、なんで……なんで!?)
 あたふたとする職員を見て、花屋の女性は慌てて説明した。
「ごめんなさい、あんまりじーっと見つめていると、この花の不思議な効果が出てしまうんですよ」
「ふ、不思議な効果?」
「クリスマスカクタスの花言葉は……」
 彼女が告げた言葉に驚く。『ひねくれもの』
 この花をじーっと見続けたり、触ったりすると、思っていることとは真逆の言葉が出てきてしまうのだそうだ。
「それを利用して楽しむ人もいるんですけどね」
 意味ありげに彼女が笑う。
「へ、へえ……」
「あ、もう効果が切れてきましたね。花の効果になれてしまえば、元通りに話せるようになりますよ」
 その継続時間には個人差があるけれど、と彼女は笑った。
「うちの花屋のテラスに飾ってありますので、是非皆さんに身に来てもらえれば、と」
 にこっと笑った彼女にはどこかいたずらっこの気があった……。

解説

目的:不思議なクリスマスカクタスを見てみませんか?

参加費は、花屋のテラスにて楽しんでいただくためお飲み物代込で一律400Jrです。
お飲み物をご注文の上、お楽しみください。(コーヒー・紅茶・オレンジジュースよりお選び下さい)
 軽食がほしい方は以下よりどうぞ。
 BLTサンド…200Jr
 ケーキ(品名はご指定お願いします)…100Jr

 不思議なクリスマスカクタスとは
 祝福を受けたため、時季外れに満開になった不思議なクリスマスカクタス。
 祝福されたお花を見ていると、不思議と自分の気持ちを話したくなってきます。
 ……けれど、今回の花はちょっとやっかい!
 花言葉の『ひねくれもの』にある通り、じーっと見つめ続けたりその花に触れたりすると、思っていることと逆のことを言ってしまうのです。
 個人差があるが一定時間経過して花の効能に慣れると解除されます。

*神人・精霊の片方が効能のことを知っていて相手の反応を楽しむもよし、
 二人とも知らずに なんでこんなことになっているんだ! と慌てるもよし、
 両方とも知っていてあべこべになる言葉を笑いながら楽しむもよしです。
*プランには花の効能が出てしまっている人のものは思いとは逆になっている言葉で書いてくださいね。

ケーキが美味しくて感動している場合→
例:このケーキ美味しくないね。

*心情もお書きいただくとより描写しやすくなるかと思います。

ゲームマスターより

ちょっと変わったお花の登場です。
思ったことと言葉があべこべなんて大変ですね。
でも、なかなか面白いことになりそう……。

時季外れに咲いちゃって、クリスマスカクタスもびっくりしてるのかしら。

相談期間短めです。ご注意くださいませ~

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  この前の雨の日にランスは行きつけのカフェに案内してくれた
だから今度は俺が紹介だ
甘いものに目が無いランス
迷ったら半分ずつシェアを提案しようかな


花の良く見える席に誘う
この季節に?
知識欲で眺めて花弁を触る

そしたら言う言葉が意に反する><

例:
特に美味しいって訳じゃないけど(花影響
ランスが気に入るかと思ったわけでもないし(花影響

そ…っ(汗
そんな事言われても本心だし(影響

辛くもどかしい
困り果てて沈黙
慰めの言葉には赤面して頷く

異常を察してくれて嬉しい
けど今俺はきっと反対しか言えない
辛い

でも嬉しい
心遣いも嬉しい

頷いて口をあーんと開ける
笑顔の応え
好きなのを指差す

握ってくれた手
開いて指文字を書く
「ありがとう」と



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  オレはチーズケーキとコーヒーで!

店員さんから話を聞いて、
考えている内容と逆の事言っちゃうの?
面白そーじゃん!そう思ったのに
「つまんねー花だな」ってポロリと。
早速ラキアが大笑い。
うーむ。効果テキメンってやつ?

ラキアのしてくれた説明聞いてたら
「何だか不味そう」
いやいや、美味しそうだなーって思ったとか、バレバレじゃん?シャコとか蟹とか言うからだ!
脳裏に美味しそうな海鮮がずらーっと駆け巡ったとか、言わなくても全部バレてる気がするっ!
しかも晩御飯が質素に?
まてまて、思った事と言ってる事は逆だ。
よく考えろ、オレ!
ついしょんぼりしたけど、質素と言うならこれは豪華って事か?
期待するぞ、とラキアの手を握ろう!



フレディ・フットマン(フロックス・フォスター)
  心情
ケーキ屋さん?
なんで誘ってくれたのかな…

注文
紅茶とショートケーキ

行動
クリスマスカクタスだ、綺麗な赤色…
少しだけなら知ってるよ…
冬の植物で花言葉は、なんだっけ…?(目を離し

ケーキ、ふわふわで美味しいなぁ
折角だし色々聞きたい…怒られないかな
オジさんこの前依頼でゼリーをつまみ食いしようとしてたけど甘いの好きなの…?
え、嫌なの…?

(なんかオジさん変…どうして?
…あ、思い出した
お花に触ると話す言葉が逆転するんだ
だから今は逆で…

オジさんブラック好き?
(多分、苦手だよね
お砂糖入れようか、うふふ
ケーキの苺もあげる、ここ教えてくれてありがとう

えと、言ってることは逆だから…えっ?!
(気にかけて…喜んでいいの?


「いらっしゃいませぇ」
 店員の間延びした声と共に、セイリュー・グラシアとラキア・ジェイドバインは花屋のテラスへと向かう。真っ白なテーブルに腰かけると、セイリューはメニューを開いて店員を呼んだ。
「えーと、すみませ~ん! オレはチーズケーキとコーヒーで!」
「俺は苺タルトと紅茶をお願いします」
「かしこまりました!」
 にっこりと笑って店員が奥へと引っ込む。
 セイリューが気持ちよさそうに伸びをする。今日はとてもいい天気だ。ぽかぽか暖かくて、こんなテラスでお茶をするにはもってこい。そんなセイリューの目に、少し変わった花が飛び込んでくる。
「……なんか、変わった花だなこれ」
 セイリューが指さす先にラキアも視線を送る。
「ほんとだ、この時期に花を咲かすなんて、珍しいよ」
 ひょっこりと店員が顔を出した。
「ふふっ、その花はちょっと不思議な効果があるんですよ」
「え?何々?」
 セイリューが興味津々で身を乗り出す。
「じーっと見つめてると、考えてる事と言うことが、あべこべになっちゃうんですよ~」
「つまんねー花だな」
 ぽそり、とセイリューが零したのは想いと逆の言葉。
(あ、あれ? 考えてるのと逆の事言っちゃうなんておもしろそーじゃん! って言おうと思ったのに……)
 もう効果が出ちゃってるの!? とセイリューは目を白黒させる。
 ラキアがぷっと吹き出した。
「あはははは」
 そこから、大笑い。
「セイリュー、早速効果が出ちゃってる」
 引っかかりやすいというか、単純なのかな? と爆笑するラキアに、セイリューはちょっとだけ頬を膨らませる。
「本当なら、今成長期なんだよね」
 ラキアがそう言って花を見つめると、店員は頷く。
「はい、本来なら今時期は咲かないのですが、祝福を受けて急に咲いたみたいです」
 自分でも植物を育てるラキアにとって、この珍しい植物を見られたのはとても幸運な事だった。この季節に見れるなんてラッキーだね、そう言おうとしたラキアの口から滑るように出てきた言葉は……。
「幸薄いよね、こんな時期に見ちゃって」
 ハッとラキアは自らの口を手のひらで覆う。
(ひ、人の事言えないよ……!)
 傍らではセイリューがニヤニヤしている。
 運ばれてきたコーヒーを口に含んでこちらを見つめるセイリューに、ラキアは少し頬を染めた。恥ずかしさを誤魔化すように、自分も苺タルトを口へと運ぶ。
「ん、美味しくない」
「ははっ、美味しくないんだろ?」
 美味しいと言いたかったのだけれど、全てがあべこべになる。なんだか、全部がおかしくて不意に笑みが零れてくる。
「それにしても、何の変哲もない花だなぁ?」
 チーズケーキを食べながら、セイリューが花を見つめて怪訝そうに首を傾げる。
「サボテンの仲間だから葉っぱに厚みがあってちょっとギザギザ。シャコに似ているからシャコバサボテンとも呼ばれてるよ。蟹っぽくもあるよね」
 赤い花をつけているところが、ちょっと蟹みたい? とラキアが指を指すと、セイリューがほけぇっと口を半開きにする。そして、納得したようにうんうんと頷き……。
「何だか不味そう」
「えっ」
 慌ててセイリューが首を振る。
 違う違う、まずそうなんて思ってないんだ。……いや、花を美味しそうってのもなんか変なんだけど……。
「ふふ、わかんないよ」
 わかってるよ、と言ったつもりのラキアに、セイリューが苦笑いする。
(バレバレじゃん? シャコとか蟹とか言うからだ! 脳裏に美味しそうな海鮮がずらーっと駆け巡ったとか、言わなくても全部バレてる気がするっ!)
 セイリューの脳内は鮮魚が楽しくパレードしている。
 もう、完全に今日は海鮮料理の口になってきた。
 セイリューがそうやってお魚を食べたがるというところまで、ラキアにとっては想定の範囲内。なんだか彼が可愛らしく見えて、ラキアはふふ、と笑う。
(今日の晩御飯は御寿司にしようかな)
「晩御飯は質素にしちゃおうかなー」
「えっ」
 セイリューが一瞬石化する。そして、しょんぼり。
 質素!? そんなぁ! と言いたげな顔に、慌ててラキアが顔の前で手をブンブン横に振って見せた。
 セイリューは考える。
(まてまて、思った事と言ってる事は逆だ。よく考えろ、オレ!)
 じっとラキアの目を見つめる。ラキアは察したように微笑んで頷いた。
(ついしょんぼりしたけど、これは……質素にするってことは、実際は豪華ってことか!)
 じゃあ、晩御飯は御寿司か何かか! セイリューのテンションが一気に上がる。
 ギュッとラキアの手を握り、満面の笑みを浮かべた。
「期待してないからなっ!」
「ぷっ……ふふふ」
 最大級の期待を込めた彼の握手に、ラキアは頷き、二人は顔を見合わせて思い切り笑った。

「花屋に良いカフェがついてるんだよ」
 足取り軽くやってきたのは、アキ・セイジとヴェルトール・ランス。
 先日の雨の日はランスが行きつけのカフェに案内してくれた。だから、今回は俺が紹介するんだと意気込んでセイジはランスの手を引く。
(セイジお勧めの店だから楽しみだ。美味しくないのに連れては来ないよな)
 ふふ、と笑いながらセイジの顔を見ると、とても楽しそうにしている。
(ランスは甘いものに目がないからな、迷ったらシェアしようか……)
 そんなことを考えながら、店員に案内された席に着く。
「えーっと、なんにしよう」
 豊富なケーキのメニューにランスは鼻歌を歌いながらゴキゲンだ。
「あ、すいませーん」
 店員を呼ぶと、ランスは笑顔で注文する。
「洋梨タルト、チーズスフレ、レアチーズ、抹茶ババロア、あと……」
 コーヒー! 砂糖も下さい、と元気に告げるとセイジがぷっと吹き出した。
「俺はブラックで」
「かしこまりました!」
 店員がオーダーをメモしてキッチンへ戻っていく。
 せっかく花屋のカフェなのだから、とセイジは花が良く見える席へと誘った。
 ふと見てみると見慣れない花が。……サボテン?
 この季節に? 珍しい、とセイジは自然と立ち上がり、手を伸べた。
「ん、セイジ、どした?」
「ああ、この花がこんな時期に咲いているなんて珍しいと思ってな」
 そっと触れる。造花ではない。ちゃんと、生花だ。どうしてだろう。小さく首を傾げるとケーキとコーヒーが運ばれてきた。
「あっ、セイジ、注文したのが来たぜ、ほら、座れよ」
「ん、あぁ」
 椅子を引いて腰かける。目の前にはランスが頼んだ四つのケーキとコーヒー。
「わぁ、美味そう……俺の気に入りそうな店を見つけてくれたんだろ?」
 ケーキを見つめた後セイジに視線を遣ると、セイジは頷く。
「特に美味しいって訳じゃないけど。ランスが気に入るかと思ったわけでもないし」
 ああ、とても美味いんだよ、ランスが気に入ると思って、リサーチしといたんだ。と言おうとしたのに、真逆の言葉が口から飛び出す。
 なんで? なんで? とあたふたするセイジをよそに、ランスは苦笑いしてセイジの頭をぽんぽんと撫でた。
「はいはい、ツンデレさん」
(ちが、ちがうんだよー!)
「そ……っ、そんな事言われても本心だし」
 また真逆の言葉が!? セイジは更に焦りを募らせる。
 ランスは何から食べようか、と、とりあえず手始めに洋梨のタルトに手を伸ばした。フォークで一口サイズに切って、口へ運ぶ。
「んっ!美味いな!」
 むぐむぐ、と咀嚼するランスは、セイジも食えよ、とタルトを差し出す。
 頷いて一口頬張り、セイジは目を輝かせて一つ頷いた。
「マズ……っ!?」
 美味い、と言おうとしてこれだ……。明らかに、おかしい。
 困り果てたセイジはついに口を噤んでしまった。
 二人の間に沈黙の時間が流れる。
「……」
「大丈夫か?」
 ランスが優しく言ってセイジの顔を覗き込む。顔を真っ赤にして頷けば、ランスがにっこりと笑った。
「気にすんな」
「でもっ……っ」
 ありがとう、と言いたかった。けれど、今何か言えばきっと反対の言葉が出てくるんだろう。言えない。セイジは言葉を飲み込んで、ふるふると首を横に振る。
(異常を察してくれて嬉しいよ、……けれど……)
 お礼も言えないのはつらくて。俯いているセイジの肩に、ランスが優しく手を置いた。
「セイジが辛いと、俺も辛い……」
 セイジは、そんなランスの目を見て頷いた。
「大丈夫だ。言葉がなくても気持ちは伝わるから、な?」
 その言葉に、セイジは大きく頷く。
 ランスの温かい言葉が、嬉しい。先ほどの紅潮とは違う意味で頬を染め、何度も頷いた。
 ランスが急に立ち上がり、自分が座っていた椅子をセイジの横へ持って行く。セイジの右側に座って二カッと笑うと、セイジは小さく首を傾げた。
 ランスはレアチーズケーキをフォークで掬って、セイジの前に差し出す。
「ほら。あーん」
「!?」
 にまにましているランスに促されるまま、セイジは少し照れくさそうに頷いて口を開く。
 こっちも食うか? といいながら抹茶のババロアを差し出すランスに、素直に頷いて口を開けるとランスは安心したように笑う。
「美味いか?」
 答えると美味しくない、と言ってしまいそうだから、セイジはただ笑顔で頷く。
「家でも作ってくれよ」
 ランスのおねだりに、セイジは慌てて首を横に振る。
「えー、セイジならできるって」
 笑って茶化してくるランスに、セイジは眉を寄せて否定の表情で告げた。
「俺が!? できるできる」
 出来ないよ、と言うセリフが逆になってしまって、なんだかおもしろい。言ってしまって、セイジは自分で吹き出した。
(お、少しは気分が和らいだか?)
「っはは、次は何食う?」
 ランスの微笑みに、セイジはチーズスフレを指さした。
「ん、次はコレな。コーヒーに合うぜこれ」
 自分で食べられるはずなのに、なぜかランスに甘えてしまう。差し出されたチーズスフレをぱくりと頬張り、セイジは満足そうに笑った。
「ほら、コーヒー飲んでみろよ」
 言われた通りにブラックコーヒーを流し込むと、チーズの甘い香りにすっきりとしたコーヒーが良い具合にマッチする。ランスの言うとおりだ。……美味しい。深く頷くと、ランスは、だろ? と笑う。
(全部あべこべになってしまって、一時は焦ったけどな……)
 セイジがフッと微笑むと、そんな彼の手をランスの手がそっと包み込んだ。
「?」
「大丈夫。俺達なら伝わる」
 言葉なんてなくても、大丈夫だ。
 そういってギュッとセイジの手を握るランスに、セイジは頷き返し、握られた手と逆の左手でランスの手をそっと解いた。
「ん?」
 ランスの手のひらを開かせ、セイジはそっとそこに自分の右手の人差し指で一文字ずつ綴る。
『あ・り・が・と・う』
 そっと目を合わせると、ランスが少しはにかんだような気がした。
「こちらこそ、な」

 フロックス・フォスターは、神人フレディ・フットマンの半歩先を歩きながら件の花屋を探していた。
(美味いケーキ屋……この辺だったよな)
 ちょっと仕事の帰りに立ち寄った花屋のカフェのケーキが美味しかったので、神人を誘ってみようと思い立ったのはつい昨日。
 自分の少し後ろを歩く神人にちらと視線を向け、そしてまた前方に視線を戻す。
(……甘いの、坊主も好きなようだしな)
 悟られぬよう、口元にほんの少しだけ薄い微笑みを浮かべ、フロックスはずんずんと花屋を目指した。
 とてとてと彼の後を続きながら、フレディは頭にクエスチョンマークをたくさん浮かべている。どこに行くのかな? 気に入った店があるからついてこいって言ったけど……。
 フロックスが足を止めたのは。
「花屋、さん? ……ケーキ、屋さん?」
 その両方を備えた店に、フロックスはここだ、と言いながら入っていく。
(なんで誘ってくれたのかな……)
 ちょっぴりデートみたい。フレディは精霊に続いて店内へ入り、奥のテラスについていく。真っ白な丸いテーブルを二人で挟んで座ると、フロックスはメニューを開いてフレディに渡した。
「ほれ」
「うん……」
 ラミネートされたページをめくり、フレディはふわっと顔を綻ばせる。
「決まったよ」
「ん」
 ひらり、と手を上げて店員に合図すると、店員がパタパタと走ってくる。
「ブラックコーヒーひとつと、お前さんは?」
「紅茶と、ショートケーキをお願いします」
「かしこまりました!」
 店員が一礼し、メニューを下げる。
 彼女が去っていくときに、フロックスの目にクリスマスカクタスが映った。
「ん、なんだこりゃ?」
 赤いギザギザの花をつけたちょっと変わった植物に、フロックスは目を奪われる。
 フレディがふわりと微笑んだ。
「クリスマスカクタス……綺麗な赤色」
 クリスマス? とフロックスが首を傾げる。
「そうだよ、本当は冬の花なんだ……」
「ほ~」
「少しだけなら知ってるよ……花言葉は……なんだっけ……」
 ん~、と考えながらフレディはカクタスから目を離した。
「冬の植物ねぇ……造花じゃないのか」
 手の届く場所にあったそれにそっと指を伸ばす。指先に触れた花は、造花の感触とは違っていて、フロックスは感心してほう、と声を漏らした。
「お待たせしましたぁ~」
 ほんわりとした声と共にブラックコーヒーと紅茶、ショートケーキが運ばれてくる。
「ん、どうも」
 席に座り直し、フロックスは店員に会釈する。
「あ、これ、この時期に咲いてるの珍しいですよね? 女神様の祝福で特別に咲いたお花なんですよ!」
「ほぉ~」
 なるほど、と頷けば、店員は悪戯っぽく笑って付け足した。
「それだけじゃ、ないですけどね、うふふ」
「?」
「ごゆっくりどうぞぉ」
 フレディが行儀よく会釈をする。
「それじゃあ、いただきます」
「ん」
 同じくフロックスも会釈をし、コーヒーに口をつけた。
 ……苦い。本当は苦いものは苦手なのだが、神人の手前我慢してブラックを頼んでしまった。砂糖は神人の紅茶の横にある。……今更砂糖下さいなんて、かっこ悪くて言えない。
 フレディは三角のショートケーキの先端をちょこっとフォークで削って口に運ぶ。
「わぁ……ふわふわで、美味しいなぁ」
 ふにゃっと安らいだ笑顔を見せると、フロックスの表情も自然と和らぐ。
 連れてきて、良かった。
(折角だし、色々聞きたい……怒られない、かな?)
 びくびくと顔色をうかがいながら、フレディはおずおずと口を開いた。
「えっと……オジさん」
「なんだ」
「この前依頼でゼリーをつまみ食いしようとしてたけど甘いの好きなの……?」
 ぶっ、と危うくコーヒーを吹くところだった。
「俺は甘いのなんざ大嫌いだぞ」
 フロックスの意に反して勝手に言葉が紡がれる。
「え、嫌なの……?」
「あの口の中にふわっと甘さが広がるのがたまらなく嫌だ」
(待て待て、俺の意志に反して口が動くぞ?)
 フロックスは自分の言葉に驚く。なんだか妙に具体的な表現をしているじゃないか。
 違和感のある言葉だ。フレディは何となく気づいた。
(なんかオジさん変……どうして?)
 じっとフロックスを見つめ、フレディは小さく唇を開く。
「……あ」
 思い出した。花言葉は……『ひねくれ者』お花に触ると話す言葉が逆転するんだ。
 フレディはふふ、と小さく笑う。
「……そうだ、そして俺は意地悪だ」
 ぽろ、とフロックスが零した言葉。つまり、――優しくしたい?
 フレディはふと思いついて尋ねる。
「オジさんブラック好き?」
 多分、苦手なんだ。先ほどからコーヒーに口をつけるたび眉間にしわが寄っているから。
「ブラックは好きだ」
 ふふ、とフレディは笑った。
「お砂糖入れようか、うふふ」
「砂糖は入れなくていい」
 そう、これは逆の意味だから、お砂糖下さい、ってことだね。スプーンに砂糖を一杯、勝手にフロックスのコーヒーに入れる。
「ケーキの苺もあげる、ここ教えてくれてありがとう」
 にこ、と笑ってケーキの苺をフォークに出して差し出した。
「苺もいらない、礼は言わないぞ」
 大好きな苺を差し出され、フロックスは断れずに苺を頬張る。
 言葉は感情と裏腹になるが、どうやら気持ちや行動は大分素直になってしまうらしい。
(苺、くれ、ありがとう……ってとこかな?)
 ふふふ、とフレディが擽ったそうに笑う。
(もしや法則性に気づいてる……?)
 フロックスは、フレディがこの花の効能に気付いていると踏んで、考えた。
(気づいてるなら言えば気づくか……?)
 徐に切り出す。
「坊主、俺はお前さんなんか心配してない」
「えっ……」
 フレディは少し不安になって胸のあたりでキュッと手を握る。
 違う。今はあべこべになってるから、それはつまり……。
 ――心配してる、ってこと?
「勝手に彷徨いたり、一人で居たいならそうしていろ」
「う、うん……」
「俺はお前なんざどうでもいい」
 極めつけの一言は傍から聞けばまるで突き放すような冷たい一言。
 本当は……?
「えと、言ってることは逆だから……えっ?!」
 フレディが、わたわたと慌てはじめた。
「当然だろう」
 ふ、と元に戻ってしまったのか。
(これじゃあまるで虐めているようだ)
 はぁ、とため息をつくフロックスに、フレディは小さな声でケーキとは別のお礼を告げた。
「オジさん、ありがとう」
 二人でカクタスの花のように頬を淡く染め、少し視線をそらす。
 まだまだぎこちないところがあるけれど、互いの事が少しわかったような、そんな気がした。


 ひねくれカクタスの悪戯に翻弄されながらも、皆が互いの距離を縮められたのでは、と花屋の店長は微笑む。
「うんうん、余計なことしてくれたね」
 カクタスを見つめながらつぶやいた言葉は。
「……あり」
 こんなところにも影響が出ちゃった。
 苦笑いを浮かべ、彼女はカクタスの葉をそっとつついた。





依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月02日
出発日 06月07日 00:00
予定納品日 06月17日

参加者

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