【祝福】花嫁、募集中!(櫻 茅子 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●ある職員の咆哮
 ミラクル・トラベル・カンパニーの女性職員は、窓から見える清々しい空に似つくわしくない、難しい表情を浮かべていた。
「こんな写真じゃ、パンフレットのメインには使えないわ……っ」
 ファイルにまとめられた写真を睨みつけながら、職員は悔しそうに手に力を込める。
「『愛の花咲く花嫁体験ツアー』は、幸せな二人を応援するプランなのに! なんでこう、こう……不自然な笑顔なの!?」
 職員が吠えた。
 その理由は彼女の言葉から察せられる通り、ツアーのパンフレットに使う写真が、納得いかないものしか届かないからである。

●彼女のプラン
 女性職員が企画したプランは、簡単にまとめると以下の通りである。

 ターゲットは愛し合うカップルで、イベリン王家直轄領にて開催中の『ウェディング・ラブ・ハーモニー』の見どころをツアー形式で楽しむ。
 夕方になったら美しい橙色に染まる教会で、女性はドレス、男性はタキシードに着替えて撮影会(着物やセットも選択可能にする予定だ)。
 夜は祝福を受けた美しい花々が煌めく高級レストランで食事をして、二人で未来を語り合う――

「『幸せなカップルに夢のようなひとときを』……ってコンセプトなのに、パンフレットに載ってる写真がこれじゃ、説得力がないじゃない!」
 ……こう言っているが、写真の完成度は相当なものだ。職員もいくつかの写真は「あ、これいいな」と思ったし、実際に使用すると決めている。ただ、メインに使う写真だけは――ドレスを来た女性と笑いあうタキシードの男性という写真だけは、現状で満足するわけにはいかなかった。
 職員は、お互いを心から想っているとわかる男女の写真を使いたいのだ。目の前の写真は、何かが違う。
 ふう、とため息をつきながら、職員は何が悪いのかを考える。顎に手をあて、数分、沈黙した後。
「強いつながりのない二人だから、不自然に感じるのかしら?」
 言い方は悪いが、その場限りの相手とだから、心からの笑顔ではないのではないか。
 そんな結論に至った。同時に、頭にある考えが浮かぶ。
「だったら、強いつながりで、絆で結ばれた男女に出てもらえばいいんじゃない?」
 いろいろな人を呼び、いい表情(カオ)が撮ることができたら。
 撮影だけじゃなくて、楽しめる何かをセットにして……。

 こうしちゃいられないと、職員は大急ぎで企画書作成にとりかかるのだった。

●花嫁、募集中!
「『幸せな二人の姿を写真にしませんか?』……」
 ハルモニアホールの完成、ウェディング・ラブ・ハーモニーの開催と、連日賑わうイベリン王家直轄領の一角で、神人はそんな宣伝チラシを見つけ足を止めた。
 そこには、笑いあう男女の写真を撮らせてほしい、よく撮れた写真は『愛の花咲く花嫁体験ツアー』のパンフレットに使用させてほしいという旨が書かれていた。
 要するに、モデルをやってみませんか? というお誘いだ。
「ドレスを着て写真を撮って……へえ、ご飯も食べれるんだ。楽しそう! でも、カップル限定だよね、きっと。って、あ、『男女ペアであれば恋人でなくても可』かぁ」
「ずいぶん楽しそうだな。参加するのか?」
「え!? えーっと……。そうね、きみが嫌じゃなければ、参加したい、かも」
「……二人の写真が載るかもしれないんだぞ」
「そんな、私なんかが載る可能性なんてないよ。でも、もしそうなったら……ちょっと恥ずかしいけど、きみとだったらいい記念になると思う」
 だんだん小さくなる声に、精霊はため息をつく。神人は精霊が怒ったのかと思い、慌てて訂正しようとしたものの――
「行くぞ」
「へ?」
「これ」
 宣伝チラシを指さすと、精霊は早足に受付会場へと向かいはじめた。
 神人はその反応にぽかんとしたものの、すぐに笑顔を浮かべると
「ま、待って!」
 置いていかれないよう、その背中を追いかけるのだった。

解説

●目的
『愛の花咲く花嫁体験ツアー』のパンフレットに使用する写真を撮る。
 お互いの自然で幸せそうな表情を引き出せるかがポイントになります。

●参加条件
 男女ペアであること
 ※神人のみ、精霊のみの参加はNGです。必ず二人で参加するようお願いいたします。

●当日の流れ
 受付で参加費『500ジェール』をいただいた後、写真撮影に移ります。
 写真撮影を終えたら、レストラン『リリー・フェアリー』でディナーとなります。

●撮影について
・衣装は和装か洋装を選べます。
 さまざまな形、色、装飾のドレスや着物が用意されています。
 
・撮影場所について
以下3通りから選べます。
 ・花園
  祝福を受けたバラが咲く庭園で撮影ができます。
  ここに咲くバラの香りは、好意を伝えたくなると言われています。

 ・教会風セット
  ステンドグラスと射しこむ光が美しい、人気No.1のセットです。
  ユリの花が飾られており、その香りはいたずらをしたいという気持ちを強くするそうです。 

 ・神社風セット
  しっとりと落ち着いた雰囲気が魅力的な神社風セットです。
  和傘や周辺に飾られたアジサイを活かした写真が撮影できます。
  神社風セットにあるアジサイは、相手の身体に触れたいという気持ちを強くするようです。

●プランについて
以下の記載をお願いいたします。
・撮影時の衣装と撮影場所
 衣装の装飾や形に指定がありましたらあわせてご記入ください。
※記載がない場合、スタッフが選んだ衣装を着ることになります。

・衣装に着替えた精霊(神人)への感想

・撮影の時、どんなポーズをとるか(希望がある場合のみ)
 緊張してハプニングがあった等ありましたら、そちらもご記入ください。
※記載がない場合、スタッフが指示したポーズをとることになります。

・撮影を終えての感想

●余談
親密度によってはアクションが不成功となる可能性もあります。ご了承ください。
また、EXとなりますので、アドリブが入る予定です。苦手な方はご注意ください。

ゲームマスターより

閲覧ありがとうございます。櫻 茅子(さくら かやこ)です。

素敵なカップル見てみたい! ということで、花嫁・花婿姿を撮らせてくださるウィンクルムを募集です。
「必ず二人で参加する」という条件上、二人の距離が縮まったり、二人の幸せなワンシーンを残せたり、そんなリザルトノベルを書けたら幸いです。

また、「撮影からディナーまで」と長めの時間をいただく関係上、EXとなります。
精いっぱい、心を込めて書かせていただきますので、興味を持っていただけた際はどうぞよろしくお願いいたします。

では、よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  ドレスは憧れるけど、男女ペアでの参加…。

彼からやってみないかと言われ、うなずく。
少しドキッとした。

夜のディナーも楽しみだね。

花園で撮影する。
(衣装やポーズはおまかせします)

タキシードを着た彼に「とても似合ってる。かっこいいよ」と微笑む。
ドキドキするが、一緒にこういう写真を撮るのは嬉しい。
いい写真になりますように。

撮影後、「どんな写真になるか、楽しみだね」と言う。


告白されて驚き、なぜか涙が出る。
彼に嫌だったのかと聞かれ、首を横に振る。

彼に素直な気持ちを伝える。

初めて会ったあの時から、あなたの笑顔を見ると嬉しく思っていた。
あなたを笑顔にできるような存在になりたい。



ねぇ、この気持ちの名前、教えて…?



ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  白のプリンセスライン
教会セットで撮影

見て下さい、綺麗なドレス選んで貰っちゃいました!
少しでも早く見せたかったので…
少しは大人っぽく見えますか?

グレンもいつもと違う格好でちょっと不思議な感じ…
でも目とか、撫でてくれる手とか、
そこはいつもと同じですね、安心しました。

失くしたら嫌ですし、
身に付けていた方が安心するので…
去年同じやり取りした気がしますけど減りますってば!
本当にその時を迎えた時の感動とか色々…

撮影は緊張するけど
大好きな人とこうやって一緒に…って憧れだったから、
嬉しい気持ちのほうが大きいかもです

いつかまたこうやって隣に立てる日が
来たら…なんて思ったり。
お料理裁縫、もっと頑張ろうかな?



出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  場所:神社
衣装:金地に七宝柄の色打掛

あたしに白は似合わないし、いいのがあってよかった
ほ、本当に似合わないし!
でも『相手の色に染まる』のは合ってるかもしれない
今まで付き合ってきた相手にはそうだったから
レムの前では、もっと自分を出してもいいのかしら
えっ、何この体勢!?
固まったまま撮影される
…キスでもされるのかと思った

撮影を思い出して少々赤くなりつつディナーへ
今日はありがとう、いい気分転換になったわ

…それは嫌、あたしは自分のことが知りたい
うちのめされて、ボロボロになるかもしれない
それでもレムがいてくれれば、きっと乗り越えられると思うから
一生とは言わない、自分の心にけりがつくまで…傍にいて、お願い



アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  場所:花園
衣装:赤いドレス(形はお任せ)

いつものようにユークに連れ出された。
今回はウェディングドレスを着て、写真撮影をして、ご飯を食べる。
そう、いつもならなんだかんだ言って楽しむところだけど、今回は気が沈んでる。
これは多分、この間のユークの過去を見てしまったせい。
女性を口説き、そっくりな奴に脅される、らしくないアイツ。
そのことを気になりつつも、あたし達は写真を撮った。
途中ユークが甘く囁いたりしたけど、ときめきは無かった。

食事の時、あたしは気になってることを聞いた。

「女を口説く台詞とか、いつも良く思いつくわね。」

それに対してユークはいつもの感じの答え。
その態度にあたしは怒りを抑えきれず怒った。



哀川カオル(カール三世)
  …カールちゃん、静かにしぃや。
絶対喜ぶとは思ったけど、テンション高すぎやで。

●場所
教会風

●衣装
プリンセスラインの白いドレスにティアラ
髪は巻き、ハーフアップでいつもより大人っぽく

●カールへの感想
はいはい、おおきに。

カールちゃんもかっこえぇで…喋らなければ。
写真でほんまよかったなぁ

●ポーズ
(カールのポーズに戸惑う)
カールちゃん、ウチどんなポーズしたらえぇねん…
普通にポーズしよ、スタッフさんの言う通りに、な。
って、ひゃあっ。
(抱っこされ)
あはは、珍し。
(自然な笑顔)


●撮影を終えて
ふぁー、緊張したわぁ。
ご飯!ご飯!(うっきうき)
…カールちゃんもうえぇやろ。ほら、ご飯やでー。
聞いとるん?江頭さーん?


●あなたの色
 強い絆で結ばれた二人の写真を撮らせてほしい。
そんな宣伝文句に惹かれ、『出石香奈』と『レムレース・エーヴィヒカイト』は会場の受付へとやってきた。
「どこで撮影しようかしらね」
「選べるのは花園、教会、神社の三種類だったな」
 香奈は上機嫌に頬を緩ませながら、セットのポイントがまとめられたパンフレットを眺めている。
 花園はバラが咲き誇り、教会風セットはステンドグラスとユリが美しく、神社風セットはアジサイや和傘等の小物が魅力的。ポイントを元に話し合った結果、二人は『神社風セット』を選んだ。
 ハキハキとした女性スタッフに促され、それぞれ衣装部屋へと通される。
「出石様の髪は艶やかで、とても美しいですね! 細身でいらっしゃるうえに胸もしっかりあって、スタイルも抜群ですし……うふふ、腕がなりますわ!」
 スタッフの笑顔は心からのもので、香奈も自然と頬が緩むのがわかった。
「こちらが衣装部屋です」
「わあ、すてき!」
 案内された先には、たくさんの着物が並んでいた。どれも美しく、華やかだ。見て、選んでいるだけでもなんだか楽しくなってくる。
何を着ようか、うきうきと選んでいた香奈の目をひいたのは、金地に七宝柄の打掛だった。
「これがいいわ」
「かしこまりました」
 スタッフの力を借りて着替えながら、香奈は同じように着替えているだろうレムのことを思い浮かべた。彼は、きっとどんな衣装でも着こなすだろう。
(私も負けない出来になればいいんだけど)
 わくわくとする気持ちと、少しの緊張を胸に、香奈は鮮やかな色打掛に腕を通すのだった。

「レム!」
「香奈? 思ったより早かったな」
 着替えを終えた香奈は、スタッフに案内され神社風セットへやって来た。すでに着替え終わっていたらしいレムレースの元へ、香奈は小走りに近寄っていく。
 レムレースが着ているのは、黒五つ紋付き羽織袴だ。緑青の髪に漆黒の瞳、落ち着いた雰囲気を持ち、普段から和服を着ることもある彼によく似合っている。
「色打掛か」
「うん。あたしに白は似合わないし、いいのがあってよかった」
 香奈がそう言うと、レムレースは「そんなことはない」と首を振る。
「白には『相手の色に染まる』と言う意味があるらしい。似合うとは思うが、香奈には染まらないでいてほしい」
「ほ、本当に似合わないし!」
 レムレースらしい真っ直ぐな言葉に、香奈は頬を赤くしながらぱたぱたと手を振った。
 しかし、すぐに「……でも」と続ける。
「『相手の色に染まる』のは合ってるかもしれない」
 今まで付き合ってきた相手にはそうだったから。
 言葉を飲み込み、そして思う。
(レムの前では、もっと自分を出してもいいのかしら)
「お二人とも揃いましたね。うひゃあ、すごくステキです! ではでは、早速撮影にはいりますので、準備をお願いしまーす!」
 物思いにふけりそうだった香奈だが、スタッフの明るい声にハッとする。
 スタッフは、撮影される側である香奈とレムレースより楽しそうだった。二人はくすりと笑いあうと、セットへと足を踏み入れる。

「こういう時って、どんなポーズをとればいいのかしら?」
「さあ……?」
 セットに入ったのはいいものの、こういった撮影に慣れていない二人は、どんなポーズをとるべきか悩んでいた。すると、スタッフはにこやかに「二人でセットを見て回ってもらっていいですか?」「男性の方、傘を彼女にさしだして……そう! そんな感じです!」と、サポートしてくれる。
そのおかげもあり、アジサイに囲まれた撮影に少しずつ慣れ、肩の力もほどよく抜けてきた。
 そんな時。「さっき、言い忘れたのだが」レムレースは、ふ、と香奈へ手を伸ばした。
「この色打掛もいいな、髪もまとめてあって……」
 レムレースは香奈のあらわになった項へ手を伸ばしながら、不思議に思っていた。
 ――無性に触れたくなったのは、なぜだろう。
「えっ、何この体勢!?」
 首の後ろを支えるように抱き寄せられた香奈は、頬を染めながらレムレースを見た。と、スタッフの嬉々とした声が響く。
「――いいですね! そのまま!!」
「!? この格好で撮影するのか……分かった」
 突然の指示に驚きながらも、それらしく見えるよう、レムレースは香奈の瞳をじっと見つめた。
 カシャ、カシャ。
 シャッターを切る音が、どこか遠くのように聞こえる。香奈はそう思いながら、少し高い位置にある漆黒の瞳を見つめていた。固まったまま、時が過ぎる。
「はーい、オッケーです!! 最高でしたよー!!」
 スタッフの声とともに、項から手が離れる。
(……キスでもされるのかと思った)
 彼に限って、そんなことあるわけがない。だけど、どうしてもそう思えて……。
この後の説明を聞きながら、香奈は先ほどまでの……近づいたレムレースの顔を思い出し、指を頬へと滑らせた。熱が、指先へと伝わってくる。

リリー・フェアリーは、高いビルの中にあるレストランだった。案内された席で、香奈は窓に映った自分の顔を見る。
頬はまだ、うっすらと赤く染まっていた。どうしても、撮影のことが頭から離れなかったのだ。だが、彼とぎくしゃくしたいわけではない。
「今日はありがとう、いい気分転換になったわ」
 料理が運ばれるまでの間、香奈はそう切り出した。
 そんな彼女を見て、レムレースは眉をひそめる。どうしたのだろう。香奈は不思議に思ったけれど、続いた彼の言葉ですぐに納得した。
「香奈の父親はマントゥール教団員だったのかもしれない。このまま両親について調べ続けてもいいのか」
 レムレースは、その事実が浮かび上がってから、ひどく悩んでいた。
 聞いていいものかわからず、今まで曖昧にしてきたが……彼女と組んでいく上で、はっきりさせたいと思ったのだ。今、このタイミングを逃すわけにはいかないとも。
「もし真実を知って香奈が傷つくことがあれば、俺は後悔するかもしれん」
「……それは嫌、あたしは自分のことが知りたい。うちのめされて、ボロボロになるかもしれない。それでもレムがいてくれれば、きっと乗り越えられると思うから」
 香奈の決意は本物のようだ。だとしたら、自分が言えることは一つしかない。
「分かった、それならパートナーとして最後まで付き合おう」
 レムレースの言葉に、香奈は眉を下げて笑う。
「一生とは言わない、自分の心にけりがつくまで……傍にいて、お願い」
(一生とは言わない、か……)
 その言葉が、香奈なりの気づかいだとはわかる。けれどなぜか、レムレースにはそれが悲しいことのように思えてならなかった。

●心の在処
「エイミーさーん結婚しましょー♪」
「帰れ変態」
『アメリア・ジョーンズ』はにこにこと、いっそ胡散臭いほどの笑顔を浮かべた『ユークレース』にそう言われ、にべもなく言い返した。だが、ユークレースはあきらめない。
「見てください、こんなの見つけたんですよ! エイミーさん、こういうの好きじゃないですか?」
 そう言う彼の手には、なにやらパンフレットのようなものが握られていた。
 ウェディングドレスを着て、写真撮影をして、ご飯を食べる。
 概要を説明されたアメリアだが、乗り気にはなれなかった。
 いつもなら、なんだかんだ言って楽しむところだけど、今回は気が沈んでいる。楽しめるとは思えなかった。
 けれど、ユークレースが諦める様子もない。彼は自分がどう断ろうと連れていく気なのだろう。
「はあ……」
 アメリアは大きくため息をつき、仕方なく、ユークレースの後を追う。
 いつもと変わらないユークレースの背中を見ながら、アメリアは思う。
 気が沈んでいるのは多分、この間のユークの過去を見てしまったせい。
(女性を口説き、そっくりな奴に脅される、らしくないアイツ)
 あのときの姿が、不意にアメリアの頭に浮かんだ。目の前にいるこいつとは、似ても似つかない姿が。
 アメリアはもやもやとした想いを吐き出すように、もう一度、大きなため息をついた。

 受付を済ませ、撮影場所や衣装を選ぶ段階になっても、アメリアの気持ちは変わらなかった。 
「撮影場所、どこがいいとかありますか? 特にないなら、僕が決めちゃいますよ」
「それでいいよ」
 そっけなく返すも、ユークレースに気にした様子はなかった。「じゃあ花園で撮影しましょ。衣装はスタッフさんに見立ててもらって」とさくさく進めていく。
「じゃあ、エイミーさん。また後で。ドレス姿、楽しみにしてますね!」
「はいはい」
 笑顔を浮かべ、男性用の衣装部屋へと足を進めるユークレース。
「では、アメリア様も着替えましょうか。ふふ、腕が鳴ります」
 衣装を一任されたスタッフに促され、アメリアも衣装部屋へと入った。
 さまざまな色、形のドレスがそこにはあった。花びらのようにレースが重なったもの、体のラインを美しく見せるもの……。いつもであればわくわくするような光景だったけれど、あの日の彼がちらついている今は、どうしてもそんな気持ちになれない。
 スタッフさんも、自分たちの様子に気づいているに違いない。だけど、そのことに触れないでくれている。それがありがたくて、でも気を使わせている事実がちょっと申し訳なくて。
(こんな気持ちになるのは、全部あいつのせいだ)
 ユークレースへの苛立ちを募らせながらも、アメリアはスタッフが選んだドレスへと着替えはじめるのだった。

「あ、パートナーさん、来ましたね。すっごくキレイ!」
 燕尾服へと着替えたユークレースは、現れたアメリアを見て息を呑んだ。
 朝に交わした会話も、連れ出し方も、全部がいつも通りだと思っていた。だけど、予想外だった。
「綺麗だ……」
 無意識のうちにそんな呟きがもれてしまうほど。赤いドレスに身を包んだアメリアは、可愛くて、美しくて……見惚れてしまった。話をしていたスタッフが、むふ、と笑みをもらしていたが――そんなことも気にならないくらい、彼女の姿に目を、心を奪われた。
 そして、自覚する。彼女のことが、『女』として気になりはじめているということを。
(でも、僕が誰かを好きになったりしたら、弟が黙ってない。エイミーさんに対して、なにか危険なことをするかもしれない)
 そんなの、僕が許さない。
 だから僕は……。
 ユークレースはぎゅ、と拳を握りしめた。そして大きく息を吐いて力を抜くと、いつもの笑顔を浮かべ、アメリアの元へ向かうのだった。

 アメリアは、ふんわりとした女性らしいシルエットが可愛らしいプリンセスラインの赤いドレスを身に纏い、燕尾服を着たユークレースとともに撮影へと入った。
 大きくあいた胸元から腰にかけて飾られたバラの花。そしてフリルやレースが幾重にも重なった、華やかなドレス。
「エイミーさん自身がバラみたいですね。本当に綺麗です」
 びっくりしました。そう言って笑うユークレースに、アメリアは目を伏せた。甘い囁き。けれど、ときめきはない。
 どうしても、彼の過去が気になってしまうのだ。ユークレースが何を抱えているのかわからないから、囁かれたって本気とは思えない。
 カシャ、カシャ、とシャッターをきる音が響く。
 途中、アメリアは花の中で座るように指示された。言われた通りに座ると、今度はユークレースに声がとぶ。アメリアの前に立ち、手を差し伸べて、と。
「お手をどうぞ、お姫様?」
 冗談めかしてそう言うユークレースを、アメリアはじっと見つめた。
 ――あんたの心は、どこにあるの?
 結局、その手をとることはなかったけれど。

 無事に撮影を終え、リリー・フェアリーへとやってきたアメリアは、ちらりと目の前に座るユークレースを伺った。
 運ばれてきた料理はキレイでおいしそうだったけれど、どうしても手が伸びなかった。
 朝からずっともやもやとした気持ちを抱えていたアメリアは、意を決して口を開く。
「女を口説く台詞とか、いつも良く思いつくわね」
「女の子なら誰でも口説きたくなっちゃうんですよ。癖みたいなもんですね~!」
 ユークレースの、いつもの感じの答え。
「――バカにすんのもいい加減にしてよ!」
 その態度に、アメリアはカッと、自分の頭に血が上るのがわかった。そして、抑えきれずに怒った。
「帰る」
 これ以上、ここにいたくない。アメリアは荷物をまとめると、さっと席を後にした。残されたユークレースは、額に手をあて、ため息をつく。
あんな言い方をしたら、怒るのはわかりきっていたのに。僕はエイミーさんを傷付けた。
「本当、最低だ……僕は……」
 ユークレースの弱きりきった呟きは、誰に聞かれることもなく、宙にとけていくのだった。

●愉快な君と一緒なら
「はーーっはっはっは! 美の貴公子カール三世だよ! さぁ、僕のこの美しい新郎姿を好きなだけ収めるといい! はーっはっはっは!」
「……カールちゃん、静かにしぃや。絶対喜ぶとは思ったけど、テンション高すぎやで」
『哀川カオル』は隣で笑い声をあげる『カール三世』の脇腹に手刀を入れる。「ウッ」と苦しげな声が漏れたものの、カールはすぐに「嫉妬かい、カオルくん!」と笑顔に戻る。
 二人がなぜこんなことになっているのか。それは数時間前へとさかのぼる。

「ん?」
 イベリンの地を歩いていたカオルは、あるチラシを前に足をとめた。
 純白のウェディングドレスに身を包んだ女性と、タキシードを着た男性を撮影するカメラマンの写真が載っているそのチラシには、大きな文字で『幸せな二人の姿を写真にしませんか?』と書いてある。説明にはこうあった。
 ドレスを着て写真撮影。その後は『リリー・フェアリー』で食事。参加費はなんと500jr!!
「むっちゃお得やん!!」
 興味をひかれたカオルが更に読み進めると、参加条件に『男女ペアであること』と書かれているのを発見した。
「男女ペアか~。あ、カールちゃんなら喜んで参加してくれるやろな」
 そうと決まればさくっと行動! と、カオルはうきうきとカールの元へ向かった。
 チラシを見たカールはきらきらと瞳を輝かせ、「よくやったねカオルくん!」とカオルのことを褒めちぎった。
「これは、僕のための企画に違いない!」
「あーはいはい、そうかもしれへんねー」
 そんなやりとりをして、カオルとカールは二人、受付の場所へと向かったのだった。

(あれからカールちゃんのテンションむっちゃ高かったなぁ。ここに来るまでに疲れるとこやったわ)
 高笑いをしていたカールと別れ、着替えへとやってきたカオルは、目の前に広がる布の海をきらきらとした瞳で見つめた。
「わーっ、わーっ! すごいですねぇ!」
「うふふ、そんなに喜んでもらえてうれしいわ」
 にこにこと上品な笑みを浮かべるスタッフと相談しながら、カオルはドレスを、そして髪型を決めていく。
(やっぱうちも女の子やねんなぁ。めっちゃ楽しいわ)
 そんな感動を覚えながら準備を済ませると、カオルはカールが待つ場所へと案内された。
 撮影場所に選んだのは、教会風セットだ。カールいわく、「僕をより美しく彩るのはここだろうからね!」らしい。「どこを選んでも僕が輝くことに変わりはないけれども!」とも言っていた。
 またテンション上がってるんやろな、とカオルはくすりと笑う。
「カールちゃん、お待たせー」
「はっはっは、カオルくんはどんな――。……!?」
「なんや、変な顔して」
 目を丸くするカールを見て、もしかして似合ってないのでは、とカオルは不安になった。
 スタッフさんに協力してもらって選んだのは、プリンセスラインの白いドレスだ。髪型はハーフアップにしてもらった。頭の上には銀色に輝くティアラがちょこんと鎮座しており、いつもより大人っぽくなったのではと自負している。のだが……。
「似合っとらんかな?」
「いや、そんなことはないさ!」
 カールはいつもの調子を取り戻すと、満面の笑みを浮かべる。
「はっはっは、僕の隣でも全く遜色ないね!」
「はいはい、おおきに」
「なんだい? カオルくんに送る最高の褒め言葉じゃないか!」
「カールちゃんもかっこえぇで……喋らなければ。写真でほんまよかったなぁ」
 ほっと胸を撫でおろしながら、カオルはカールをまじまじと見た。
 カールが着ているのは、黒いタキシードだ。
「にしても、シンプルなん選んだんやな。ちょっと意外やわ」
「僕ほど美しいと逆にシンプルが映えるのさ!」
「そーですか」
「ふふ、二人とも本当に似合ってるわ。じゃあ、早速撮影に移りましょうか」
 スタッフの一声で、二人はセットへと足を踏み入れるのだった。

「さあ、どんどん撮ってくれたまえ!」
 カールは張り切って次々とポーズを決めるが、それがすべて……こう、「ナルシストです!」というようなものばかりで、カオルは戸惑った。
「カールちゃん、ウチどんなポーズしたらえぇねん……。普通にポーズしよ、スタッフさんの言う通りに、な」
「ふむ。そうだね、プロに任せよう!」
 プロであれば、僕の美しさを存分に引き出してくれるだろうし。そう言ってあっさり納得すると、カールは早速、スタッフに指示を仰ぎ始めた。
 それから。
 いくつかのポーズを撮影してもらううちに、カールは自身にある欲求がうまれてくるのがわかった。
(カオルくんはまだ緊張しているようだし、ここは一つ、悪戯でもしかけて笑顔を引き出してあげようじゃないか!)
 そうと決まれば。
「カオルくん」
「ん?」
 カールはカオルの背とひざ裏に腕をまわすと、そのまま持ち上げようとして――
「って、ひゃあっ」
「むっ!? カオルくん、暴れないでくれたまえ!」
「暴れてへん! けどバランスが! どうすればええのん!?」
 ――お姫様抱っこに挑戦したものの、うまくバランスがとれず、ぐらりと傾いてしまった。
 結局、二人は座り込む形になってしまったが、カールは気にしてないようだ。
「さぁ、カオルくん。笑って?」
 彼の行動、そして言葉に、カオルはふっと肩から力が抜けたのがわかった。失敗したのにかっこつけるカールがおもしろかったのも相まって、自然と笑顔がこぼれる。
「あはは、珍し」
 正直に言うと、お姫様抱っこをかっこよく成功させたかったカールだが……。
(きちんと笑顔が見られたからね、よしとしようじゃないか!)
 どこまでも前向きなのであった。

「ふぁー、緊張したわぁ。ご飯! ご飯!」
 撮影を終えた二人は着替えを済ませると、リリー・フェアリーへと案内される。
……のだが。
「もっともっと僕の美しさを撮影してくれて構わないんだよ?」
 そう言ってポージングを続けるカールに、カオルは冷めた視線を向ける。
「……カールちゃんもうえぇやろ。ほら、ご飯やでー。聞いとるん? 江頭さーん?」
「って、その名前で呼ばないでくれたまえっ」
「ほらほらエガちゃん、はよ行くで!」
「僕はカール三世だ、江頭などという名前ではないぞ!」
「えーがーちゃんー!」
「わ、わかった。すぐにご飯へ行こう、だからこれ以上その名前で呼ばないでくれ!」
 カールの懇願に、カオルは「あははっ」と明るい笑い声をあげると、二人並んでリリー・フェアリーへの道につく。
 その横顔は、心からの笑顔で彩られていた。

●隣に立つ日を夢見る
 二人の写真を撮らせてほしい。そんなチラシに興味をひかれ、会場へとやって来た『ニーナ・ルアルディ』は純白のドレスに身を包み、『グレン・カーヴェル』の待つ場所へと急いでいた。
「あっ……」
 ニーナはグレンの姿を見つけ、ぱっと瞳を輝かせる。上質な布をふんだんに使ったドレスは、いつもの服と違い重いけれど、そんなことは気にならなかった。パタパタと、大切な人のそばへと走り寄る。
「見てください、綺麗なドレス選んで貰っちゃいました!」
 そう言って笑うニーナに、グレンはふっと笑みをもらした。
「どんな服着てもお前、そうやって走って見せに来るのは変わらないのな」
「少しでも早く見せたかったので……。少しは大人っぽく見えますか?」
 ドレスの裾を両手で持ち上げながら、ニーナはそう尋ねる。
 撮影に臨む彼女が選んだのは、白のプリンセスラインのドレスだ。ふんわりと広がるシルエットと腰についた大きなリボンは甘い印象を与え、ニーナの金色の髪とあいまって本物のお姫様のようだ。
 グレンの返事を待つニーナの表情は、不安と期待、半々といったところだろうか。
「……ばーか、お前は別に背伸びしなくていいんだって。お前いつものままでいろ、その方が俺も安心する」
 だが、とグレンは思う。
「その……何にせよ似合ってる、とは、思う」
 その言葉に、ニーナは頬を桃色に染めた。嬉しそうにはにかむ彼女の頭を撫でながら、グレンはどきりと跳ねた心臓を落ち着けようと試みる。
(グレンもいつもと違う格好でちょっと不思議な感じ……)
 グレンが身を包むのは、白のタキシードだ。飾り気のないシンプルなものだが、それが逆にグレンの魅力を引き出している、とニーナは思う。
(でも目とか、撫でてくれる手とか、そこはいつもと同じですね、安心しました)
 くすりと笑うと、グレンは不思議そうな顔をした。そしてふと首元に目をやって、口を開く。
「いつもの指輪、いつも通り鎖につけたまま来たのか」
「失くしたら嫌ですし、身に付けていた方が安心するので……」
 せっかくドレスを着ているのに、と思ったグレンは、「そうだ」と笑う。
「お前ちょっとそれ貸してみ。んでもって手出せよ。やっぱこういう場所での指輪つったらこっちの指だろ。何だよ、減るもんじゃねーし別にいいだろ?」
「去年同じやり取りした気がしますけど減りますってば! 本当にその時を迎えた時の感動とか色々……」
 グレンの提案に、ニーナはむうと頬を膨らませた。
「ふーん……じゃあやめとくか、今は」
 どこかつまらなさそうに言うグレンに、ニーナはほっと胸をなでおろした。ドレスを着て、指輪を薬指にはめる――憧れないわけはないけれど、でも、それでも『その時』にとっておきたいと思う。
 と、ふいに控えめな笑い声が耳に届いた。
「仲がいいんですね」
 声の主は、撮影を手伝ってくれるスタッフだ。
 ニーナはちょっと恥ずかしがりながらも、こくりと肯定する。
「ふふ。では、早速撮影に入りましょうか」

 二人が撮影場所にと選んだのは、教会風セットだった。
 白で統一された空間。ステンドグラスから光が射しこみ、飾られたユリの花は上品に場を彩っていて……。
「きれい……」
 思わず、そう呟いてしまうほどだった。
 それから、撮影はどんどん進んでいく。
「とりたいポーズがあったらやっていいですよ!」と言われた二人だったが、あいにくどちらもポージングに詳しくない。そのため、スタッフの指示を受けて、それにこたえる形でポーズをとっていた。
(撮影は緊張するけど大好きな人とこうやって一緒に……って憧れだったから、嬉しい気持ちのほうが大きいかもです)
 隣に立つグレンを見上げると、ぱちりと目が合った。なんだか嬉しくなって、ニーナはとろけるような笑みを浮かべる。ニーナの笑顔に応えるように、グレンも目元を優しく緩ませる。
 ステンドグラスの下、華やかな光に包まれながら、愛しい人の隣に立つ。
(いつかまたこうやって隣に立てる日が来たら……なんて思ったり。お料理裁縫、もっと頑張ろうかな?)
 何やら考え込んだ様子のニーナを見て、グレンは撮影前に考えていたことを実行するチャンスでは、とにやりと笑う。
「ニーナ」
「はい、なんでしょう? って、きゃあ!?」
 ニーナは自分の身体ふわりと浮いたことに気付き、慌ててグレンの首元に抱き付いた。
 おおっ、と周囲から声が上がる。
 ――ひざ裏と背中に回された手。浮いた身体。見上げると、楽しげに笑うグレンの顔が近くにあって。
「何だよ、妙に嬉しそうにして……ま、笑顔ならいいか」
 面白い反応をしそうだ、と思っていたグレンは、心から嬉しそうに笑うニーナに面食らった。悪い気はしないが、違う顔も見たいという気持ちが湧いてくる。
「ニーナ」
 グレンは腕に収まる彼女にぐっと顔を近づけた。ニーナの顔が、みるみるうちに赤くなる。カシャ、とシャッターをきる音が聞こえたが、彼女は気付いていないだろう。
「……くくっ」
 反応に満足したと同時に、撮影終了の声があがる。
 グレンは赤面したままのニーナを下ろし、優しく頭を撫でると、上機嫌に着替えへ行くのだった。

 撮影と着替えを無事に終えた二人は、リリー・フェアリーへとやって来た。夜景が綺麗なそのレストランの料理は見目も美しく、ニーナはにこにこと嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「うまいか?」
「はいっ!」
 撮影の時はどこか緊張しているように見えたけれど、今はリラックスできているようだ。
 ドレス姿も悪くはなかったが、とグレンは思う。
(こうやって、いつも通りの姿が一番だな)
「グレン? どうしました?」
「いや? なんでもねーよ」
 きょとんとするニーナにグレンはほほえみを返し、彼女と過ごす明日に想いを馳せるのだった。

●花々に祝福され
 神の祝福をうけたイベリンの地は賑やかで、歩いているだけで楽しくなる。
『リーリア=エスペリット』は口元を緩ませながら、『ジャスティ=カレック』とともに歩いていた。
「なんだろう、これ?」
 と、ふと目についたポスターが気になり、リーリアは足を止める。
 ポスターには、『写真を撮らせてくれませんか?』『すてきな写真が撮れた暁には、パンフレットに使用させていただきます』『撮影後はレストランリリー・フェアリーで優しいひとときを』と、企画の説明が書かれている。
(ドレスは憧れるけど、男女ペアでの参加……)
「リーリア?」
 じっとポスターを見つめるリーリアを、そしてポスターに書かれた企画を見て、ジャスティは察した。企画は気になるけれど、参加条件にためらっているのだろう、と。
「男女ペアなら大丈夫のようですし、やってみませんか?」
 ジャスティにそう提案され、リーリアはどきりとした。
「いいの?」
「ええ」
 穏やかに返され、リーリアはこくりと頷く。
「ありがとう、嬉しいよ。夜のディナーも楽しみだね」
 そうほほ笑むと、ジャスティもわずかに頬を緩ませた。
「そうですね。では、早速行ってみましょうか」

「リーリア様とジャスティ様ですね。希望セットは花園、と。承りました! では早速、着替えに移りましょうか!」
 受付へとやってきた二人は、さくさくと進む話に少々驚きながらも、素直に従った。
 ジャスティと別れ、衣装部屋とやって来たリーリアだが、どんなドレスを着ようか迷いに迷っていた。「うーん」と考え込んでいると、スタッフに話しかけられる。
「お悩みですか?」
「えっと、はい。どれも素敵で、全然決められなくて」
「でしたら、この私にお任せしてみませんか? 絶対絶対、世界一かわいくいたしますから!」
 ぎゅっと両手で手を握られたリーリアはきょとんとしたものの、すぐに「お願いします」と頭を下げた。
 世界一かわいく、なんていうのは言い過ぎだと思うけれど、自分が選ぶよりもずっといい。
「リーリア様はとてもお可愛らしくていらっしゃるから、腕がなりますわ! まずは色ですね! 好きな色は? あ、形も各種揃えておりますから、気に入ったものがありましたらいつでもなんでも仰ってくださいね!」
 急に勢いを増したスタッフに押されながらも、リーリアは着飾られていく。

 ――それから。
「お待たせ、ジャスティ」
「いえ、待ってなんて……!?」
 先に着替え終わっていたジャスティは、やって来たリーリアを見て思わず息を呑んだ。
 恥ずかしそうなリーリアは、パステルピンクのベルラインドレスを着ていた。その名の通りベルのような形をしたドレスは裾に向かってふわりと上品に膨らんでおり、腰の大きなリボンがリーリアのかわいらしさを引き立てている。
「どう?」
 恥ずかしそうに尋ねるリーリアの声に、ジャスティはハッとする。
「とても綺麗です」
 そう言うと、リーリアは嬉しそうにはにかんだ。
 ジャスティは高鳴る鼓動を落ち着けようと、そっと深呼吸をする。
(平常心でいなければ……)
 そう思った直後。
「ジャスティもタキシード姿、とても似合ってる。かっこいいよ」
 と、口にされ、ジャスティはもう一度、深く深呼吸をする羽目になった。
「ふっふっふ……」
 ふいにそんな不気味な笑い声が聞こえて、リーリアとジャスティは振り返る。そこには、リーリアをサポートしてくれたスタッフの姿があった。
「仲が良いようで何よりです! ではでは、早速撮影に移りましょうか!」
 どこか迫力を感じさせる笑みで迫るスタッフに二人は頷くと、バラが咲き誇る花園へと足を踏み入れるのだった。

「お二人とも、すっごくいい感じです! 次は向かい合ってみましょうか。はい、そんな感じで!」
 スタッフの指示に従いながら、リーリアとジャスティは次々とポーズを決めていた。
 ドキドキするけれど、一緒にこういう写真を撮るのは嬉しい。
 真剣に撮影に臨むジャスティを見て、リーリアは思う。
「いいですねー! 次は、向かい合ったまま……こう、お互いのおでこをくっつける感じってできます?」
「お、おでこ……!?」
 戸惑ったリーリアだが――こつん、と。額に、暖かなものが触れたことに気付き、頬を染める。おそるおそる、上目づかいに暖かなものの正体へ目を向けると、そこには予想通り、ジャスティの整った顔があって。
 リーリアは一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまった。
 彼を、こんなに近くに感じている。けれど、嫌ではない。むしろ……。
「はい、オッケーでーす! お疲れさまでした!」
 スタッフの声で、リーリアは夢から覚めたような心地になった。
 撮影が終わり、ジャスティがゆっくりと距離をとる。とくとくと鳴る胸に手をあて、リーリアはふうと肩の力を抜いた。
(びっくりしたけど……いい写真になりますように)
 見返すのは、少し緊張するけれど。
「きみとこうして一緒に写真を撮れて嬉しいです」
「どんな写真になるか、楽しみだね」
 ほぼ同時に、お互いが口を開いた。そして、ふっと笑いあう。
 ドレスに身を包み、屈託なく笑うリーリアを見て、ジャスティは自分の想いがあふれてくるのがわかった。
「リーリア、聞いてください」
「なあに?」
 言っていいものだろうか。ジャスティは一瞬ためらった。けれど、鼻孔をくすぐるバラの香りが、覚悟を決めろと言っているような気がして。
「僕は……初めて会ったあの時からずっときみが、『リーリア』が好きです」
 気付けば、ずっと秘めてきた想いを告げていた。
 思いがけない言葉に、リーリアは目を見開く。
 初めて会ったあの時。それは、九年も前の出来事だ。
 ウィンクルムになって、何度も衝突した。それでも、『今』の私も好きになってくれたのかと理解して……熱いものがこみあげてくる。リーリアは頬に冷たいものが伝ったことに気付き、そして自分が泣いているのだとわかった。
「リーリア? ……泣くほど嫌だったのですか?」
 焦ったようなジャスティの言葉に、首を横に振る。そして、自分も素直な気持ちを彼に伝えなければと口を開いた。
「初めて会ったあの時から、あなたの笑顔を見ると嬉しく思っていた。あなたを笑顔にできるような存在になりたい」
(僕の、笑顔……)
 リーリアの返事を聞いて、ジャスティは思わず赤面した。
 そして、たまらずに抱きしめる。
「ねぇ、この気持ちの名前、教えて……?」
「リーリア……。その気持ちが、僕と同じ『恋』だったら嬉しいです。僕も、きみを笑顔にしたい……」
 腕の中で言葉を続けたリーリアに、ジャスティはそう返した。
 ――こんなに、幸せだと思える日が来るなんて。
 言葉にはしないものの、二人はまったく同じ気持ちだった。だが――
「……すてきっ!!!」
 突如響いた大声に、体を強張らせた。直後、ここが人前であることを思い出し、リーリアとジャスティはつい数秒前とは違う意味で赤面する。

 そして――
 逃げるように、けれど楽しそうにリリー・フェアリーへと急ぐ二人の姿を、まるで祝福するように、バラの花々が見守っていた。

●撮影後の闘い
 撮影が終わった後、手伝いをしていたスタッフをはじめ、パンフレット作成の関係者は一つの部屋に集まっていた。人数は十人前後だろうか。皆険しい顔をしており、まるで戦いに臨むかのようだった。
「どのお二人が一番だったかを決める会、はじめましょうか」
 あるスタッフの言葉をきっかけに、全員が口ぐちに意見をぶつけあいはじめる。
「絶対、香奈様とレムレース様です! 大人の色香が漂うこの二人こそ至高でした! 異論は認めませんわ!」
「いーえ、カオルさんとカールさんも素敵でした! お姫様抱っこに失敗しても笑いあえる関係ですよ!? 写真だって最高にかわいかったじゃないですか!」
「アメリアさんとユークレースさんの写真も素敵でしたね。バラの妖精に手を差し伸べる王子様。だけど信じていいのかわからなくて――みたいな! そんなストーリーが見えましたよ!」
「ニーナさんとグレンさんもよかったですね~。お姫様抱っこですよ! いいなぁ、憧れちゃいます……」
「リーリア様とジャスティ様もすてきでした。というかあんな! あんなに熱くて幸せそうな光景を見せつけられたんですよ!? 一番はこのお二人に決まってるでしょう!」
 それぞれ押したいペアを口にする彼女たちに、ひく気は一切見られない。

 話し合いは白熱し――どの写真を使うことにするのか、決まったのはそれから数日後のことだったとか。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月01日
出発日 06月10日 00:00
予定納品日 06月20日

参加者

会議室

  • [7]ニーナ・ルアルディ

    2015/06/09-23:53 

  • [6]哀川カオル

    2015/06/09-11:48 

    無事にプラン提出完了やで。
    結局場所は教会風にさせてもろたんだけど…
    考えたらまだウィンクルム歴浅いウチらに良い写真撮れるか不安、やな。
    でも、まぁ楽しむのが一番と思って頑張りますー。

    皆さんのドレス姿、新郎姿楽しみにしとります。よろしゅーおねがいしますー!(ぺこり)

  • [5]ニーナ・ルアルディ

    2015/06/06-00:19 

  • おはよう。
    今回はよろしくね。

    やっぱり、ドレスって憧れるな…。
    男女ペア…。
    思い切ってジャスティに声をかけてみるかな…。

  • どうも、ユークレースと申します。
    皆さんよろしくおねがいしまーす!
    なんか最近エイミーさんが元気ないので、参加してみることにしましたー。
    これで元気出てくれれば、いいんですけどね~。
    (ウェディングドレス着たら婚期が遅れるとか言って怒られそうですけど)

  • [2]哀川カオル

    2015/06/04-11:17 

    はじめましてー(ペコり)
    ウチは哀川カオルと申しますー。よろしゅうお願いしますー。

    隣におるんは精霊の江頭…ちゃう、カール三世さんですー。

    カール
    「はーーーーっはっはっは!美の化身ことカール三世だよ!
     この僕の美しさを存分に写真に収めていただきたいね!楽しみだよ、はーーっはっはっは!!」

    カールちゃん五月蠅いで。
    どの場所での撮影にしようか悩ましいねんなぁ。
    皆さん、よろしゅうー(ぺこ)

  • [1]出石 香奈

    2015/06/04-05:27 


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