【奪還】 In the mirror(あご マスター) 【難易度:難しい】

プロローグ

 「ウィンクルムたちが帰ってこないんです。
連絡も取れないままで……依頼放棄、というわけではないと思うのですが」

 受付嬢は、心配そうに呟くと、進行中の依頼の資料が入っている書類入れから一束の書類を取り出した。
二人は、受け取ったそれにざっと目を通す。

 依頼の内容自体は特に複雑なものではない。
オーガに浚われた女性を救い出す、ただそれだけだった。
先発したウィンクルムの情報も参照したが、特段目立って強いわけではないが、さりとて弱いわけでもない。
このレベルなら十分に解決できそうな依頼だと思えたが、なぜだか連絡が途絶えたという。

「そこで、増援として他のウィンクルムを派遣することに決まりました。
……お願い、できますか」

 受付嬢の言葉に、二人は力強く頷いた。




 依頼の資料では、敵はオーガだと聞いていた。
蓋を開けてみれば、確かに相手はDスケールオーガで、俺たちの敵ではない。
問題は、そのオーガの使う技がひどく厄介な事だった。
ソーマはツバキを背に庇い、目の前の敵を睨みつけたまま、ジリ、と後ずさる。
敵はソーマと全く同じ顔をしていた。

 村の女性を浚ったオーガが、何を思ったか障害物も何もない荒地へと逃げ込み、
追い詰めたと言わんばかりに足を進めたソーマは
不意に地面の下から音を立ててせり出してきた鏡に行く手を阻まれた。
 慌てて退避しようと後ろを振り返るが、いつのまにか後ろにも鏡の壁ができている。
ツバキと背を合わせるようにして周囲を警戒するソーマの目の前に、
鏡の中からもう一人の自分が姿を現した。
驚いて振り向けば、ツバキの目の前では鏡の中にいたはずのツバキがにやにやと嗤っている。

 鏡像のウィンクルムは、背格好こそまるで同一人物のようにそっくりだが
よく見れば、武器を持っている手と髪の分け目が本物とは左右逆になっているようだ。
さらに、額には鏡の欠片のようなものが埋まっているのが見える。
どう攻めたものかと考えあぐねている間に、鏡像の二人が武器を構えて襲い掛かってきた。

解説

●敵
Dスケールオーガ一体
鏡像のウィンクルム×参加組数

●目的
鏡像ウィンクルムとオーガを倒し
浚われた女性を奪還する。

●補足
開始早々、鏡によって他の仲間と分断されてしまいます。
よって、自ウィンクルムVSそのコピーの2対2の個別バトルとなります。

オーガは弱いです。倒せます。なので、鏡像対策をメインにプランをお書きください。
鏡像ウィンクルムは、左右が違う以外の能力値(レベル、ステータス、スキル等)は
そのまま自分たちと同じと思ってください。
鏡像の額にある鏡の欠片を砕けば鏡像は消えます。




ゲームマスターより

おひさしぶりです!のアドエピです!
新しい方も増えているようなので、レベルに依存しないエピソードにしてみました。
難しいだからと遠慮はいりません、敵は自分と同レベルです!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  (神人、精霊:右利き)

まずはトランスしましょう。

鏡像カガヤの高火力…鏡像笹の射撃…
こちらから無闇に攻撃を仕掛けず
相手の攻撃後の隙を狙いましょう。

可能な限りわたくしと鏡像笹で
鏡像カガヤを間に挟むように位置取ります。

・鏡像カガヤに接近された場合
後ろに下がって距離を取り
カガヤが戻るまで相手の動きを見て回避に努める。

・鏡像カガヤがカガヤを追った場合
カガヤの攻撃を邪魔されぬよう
距離を取ってライフルを構え鏡像カガヤの足等を
よく狙って射撃します。
「貴方の相手はこちらです!」と声掛け。

鏡像カガヤ一人になったら
わたくしも距離を取りよく狙い鏡像カガヤを射撃します。

オーガも討伐、先発ウィンクルム、女性救出します。



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ●心情
私たちの鏡像…厄介だね
でも…超えるべき相手、だね
弓弦さんと二人、新しい力で乗り越えよう!

オーガ視認後トランスして接近

鏡像ウィンクルムと対面したらハイトランスを試みるよ
予想では相手もハイトランス状態になると思うけれど…やるしかないね
無事ハイトランスしたら弓弦さんの前に出て盾と剣での防御と回避に専念して機会を待つよ

鏡像の動きが鈍くなったと感じたら弓弦さんに合図を送るね
タイミングを合わせ、目の前の相手に攻撃を仕掛け、横に飛び退き射線を開けるよ

片方を倒せたら即前進して距離を詰め攻撃するね

オーガ討伐と女性達の救出も忘れずに、ね
ウィンクルムや救出した女性に怪我が目立つ場合は手当をするよ
●道具
救急道具



クロス(オルクス)
  ☆心情
「なっ!?
俺達、だと…!?
例え自分自身が相手でも絶対に勝つ!」

☆戦闘
・遭遇後トランス
・基本的には偽オルク担当
・偶に偽クロスにも攻撃
・相手の懐に入り素早く大鎌で切り裂く
・間髪入れず大鎌の柄を軸にして回し蹴り等の蹴り技
・敵の銃弾には大鎌の刃で銃弾を弾き飛ばしたり大鎌の柄を軸に使いアクロバットな技で交わす
・偽クロスにはクナイ等の飛び具にてかく乱
・受身も取る
・本物のオルクスへのフォローも忘れずに
・フォローの際は声をかけたり大鎌の刃で相手の攻撃
を相殺
・フェイクスキルも使用し攻撃を仕掛けると見せかけたりワザと隙を見せたりする
・オルクスが偽オルクに隙を作ったと同時に額目掛けて飛び具を放ち直ぐに大鎌攻撃



ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  トランス

連絡が途絶えたって、こういう事だったのね
先行した人達は無事かしら?
鏡像の敵を倒した後にオーガ討伐し女性を保護
必要なら応急手当

吃驚するが状況把握
額の欠片と左右違う事に気づく?
全く同じってわけじゃないのが救いね、どっちか分らなくなったら困るもの

覚悟を決め自分の偽物と向き合う
こっちは私が引き受けないと…ね
偽物の攻撃が精霊にいかないように進路を塞ぐ

斬撃は盾の表面を滑らすように防ぎ威力を緩和させる
偽物と分ってても人型には躊躇しつつ
防御重視で狙えれば攻撃を試みる

■戦闘後
自分の肩に精霊が頭を乗せてきて吃驚
ど…うしたの?大丈夫!?

いつも助けてもらって…ごめんなさい
触れて良いのか分らず手のやり場に困る



アマリリス(ヴェルナー)
  自分同士で戦え、と

トランス→ハイトランス・ジェミニ
唯一違う額の欠片が怪しいと踏み狙定める

姿が一緒なら能力も一緒かもしれません
トランスだけではお互い決定打がないかしら
自分達の偽者は自分達の手で倒しましょう
思考レベルが同じ事も懸念しておき臨機応変に対応

精霊の少し後方に立ち相手の出方伺う
無理に攻め入りはせず確実に当てられる時を狙う

敵がアプローチの効果に掛かっている場合は
側面に回り死角から攻撃
当てた後はすぐに下がり体勢立て直し
偽精霊は盾持つ腕狙い行動阻害

接近できたら鞭で拘束し動き止め
反撃があったら盾突き出して防御

鏡像撃破後オーガ退治
趣味の悪いオーガさん、おしおきの時間ですわ
仲間と合流し浚われた女性救助


ミオン・キャロルが足を踏み出すと、足元からせり出してきた鏡が行く手を阻む。咄嗟にアルヴィン・ブラッドローがミオンの腕を掴み引き寄せたが、二人は高く聳える鏡に囲まれてしまっていた。
「連絡が途絶えたって、こういう事だったのね……先行した人達は無事かしら?」
 初めて見る敵の技にミオンは手にしたブリザートデビルとラトメクを油断なく構える。周囲を見回した先の鏡の中、自分と同じ姿の鏡像がにたりと嗤う。鏡像が鏡の境界を越えて土を踏む音が聞こえ、ミオンは一瞬目を見張った。よく見れば、彼女は利き手が逆だ。それから、額に鏡の欠片。
「ミオン」
「わかってるわ」
 注意を促すように声をかけたアルヴィンの視線の先では、もう一人のアルヴィンがサクリフィキウムを構えていた。
「大分サマになってるじゃないか」
 勇ましい自分の姿に自嘲気味に呟き、アルヴィンは攻撃に備えブラッディローズを展開する。鏡像のアルヴィンの攻撃を警戒しながら、まずは鏡像のミオンを倒そうとアルヴィンは気合と共に振りかぶった剣を振り下した。
一瞬かちあった黒曜石の瞳にアルヴィンの気持ちが僅かに乱れ、振り下ろした剣は鏡像のミオンの髪を一筋切り落とすに留まった。攻撃直後で隙だらけになったアルヴィンを鏡像のミオンの剣が狙う。咄嗟にアルヴィンを庇ったミオンの盾が、アルヴィンに向けられた切っ先を逸らした。
「悪い」
「気にしないで」
 短く言葉を交わし、アルヴィンが標的を自身の鏡像に変更したのを見て、ミオンもまた自分と同じ顔に向き合った。
(全く同じってわけじゃないのが救いね。どっちか分からなくなったら困るもの)
 自分と同じ顔、同じ力量、同じ武器。言い知れぬプレッシャーに慄く手足を心の内で叱咤する。
(こっちは私が引き受けないと、ね)
ミオンが剣の柄を握り直す。人型をした相手は鏡像とわかっていても戦いづらい。
 アルヴィンの方に鏡像が行かないよう進路を断ち隙を見て攻撃を繰り出すが、躊躇いを捨てきれない。戦況は膠着状態に陥った。
ミオンが鏡像のミオンの相手をしている間に、アルヴィンは鏡像のアルヴィンに刃を向けた。”彼”も、全く同じ構えでアルヴィンを睨みつける。
(一撃を食らったら負けだ。あまり時間をかけたくない、冷静になれ)
 敵の攻撃の威力の高さはアルヴィン自身がよくわかっている。自分なら後方へ跳んで避けると読み、強く踏み込んで手にした剣を大きく振った。神人を攻撃に巻き込まないように距離を取ったのだ。思惑通りに一歩後ろに飛び退った鏡像に間髪入れずに肉薄して剣を叩きこむが、鏡像はそれを同じ剣でいなしてアルヴィンを切るべく刃を返す。
 単調な打ち合いを繰り返し埒が明かないと業を煮やしたアルヴィンは、打ち込まれた剣を柄で受け止め鍔迫り合いへと持ち込んでテンポを変えた。そのまま敵の隙を突こうと考えたが、相手は自分、考えることは同じだ。拳を繰り出すより僅かに早く、鏡像の足払いを受け地面に片手を着いた。まずい、と顔を上げたアルヴィンの頭上に、鏡像の持つ紅い剣が落ちてくる。
 せめて少しでも衝撃を軽減しようと腕を顔の前に出すアルヴィンを敵の剣が傷つけることはなかった。
 ブラッディローズだ。
 茨の反撃で額の鏡を砕かれ粉々に砕ける鏡像を後目に、アルヴィンは立ち上がってミオンの方へと駆け出す。アルヴィンの戦いを横目で見ていたミオンは、狙いを鏡像の額の欠片のみに定めていた。
「ミオンは手を出さなくていい!」
 アルヴィンが声を上げ、ミオンの鏡像との距離を一気に縮めながらウルフファングを繰り出す。側面からウルフファングの一撃を食らい倒れこんだ鏡像の額にアルヴィンはサクリフィキウムの切っ先を宛てがった。
 見上げる黒曜石と再度瞳がかちあうが、今度は揺らがない。
息を詰め鏡像のミオンが苦しまぬよう、その額を一気に貫く。その嫌な感触に、背筋が凍る。
 鏡像のミオンが粉々に砕けた後には地面に突き立てられた血の色の刃だけが残った。
 聳えていた鏡が粉々になって降り注ぐ中、詰めていた息を吐き出しその場に座り込むアルヴィンにミオンが駆け寄る。ミオンに気づくと、まるで何かに縋るようにアルヴィンはその肩に額を預けた。
「ど……うしたの?大丈夫!?」
 呻くような声で、ちょっと疲れたと呟くだけのアルヴィンにミオンは大人しく肩を貸す。触れても良いものか迷った手だけは不自然に宙に浮いたままだ。
「いつも助けてもらって……ごめんなさい」
 ミオンの言葉に、アルヴィンはそんなことはないと返す。そのままでいい、とも付け足し深く息を吐いて立ち上がる。
「さあ、次はオーガだ」
 告げたアルヴィンはすっかりいつもの彼に戻っていたが、その鳶色の瞳は僅かに嫌悪を滲ませていた。



「なっ!?俺達、だと……!?」
 目の前に現れた自分自身と同じ姿をした敵に、クロスは驚きを隠せずにいた。隣に立つオルクスも苦虫を噛み潰したような顔で敵を睨んだが、直ぐに不敵な笑みを浮かべホルスターに収めたマグナブレイクを引き抜いた。
「まさか、自分自身と戦うとは、な……偽物は本物には勝てねぇ事を教えてやるよ……!」
 オルクスの言葉にクロスも我に返り、手にした斬月を構え表情を引き締めた。
「例え自分自身が相手でも絶対に勝つ!」
 クロスの声を合図に、二組のウィンクルムは勢いよく地を蹴った。
鏡像のオルクスと対峙したのはクロスだ。大鎌を下段に構え素早く鏡像の懐に入り込み、思い切り切り上げる。だが、大振りなその動きをいち早く察した鏡像はぎりぎりで横に跳躍し致命傷を避ける。後を追うように大鎌の柄を軸にしたクロスの鋭い蹴りが放たれるが、鏡像はその蹴りをがっしりと掴むとそのままクロスを放り投げる。クロスはたまらず地面に転がった。
「くっ!」
 すぐに身を起こすが、眼前には鏡像が迫っている。いくら偽物とはいえ相手はよく知る相手、オルクスだ。クロスの戦い方の癖まで知り尽くしていると言っても過言ではない。銃を向けられ咄嗟に飛び道具で注意を惹こうと考えたが、装備するのを忘れてきてしまった。
クロスの眉間に照準を合わせ、にやりと嗤った鏡像が彼と同じ顔で躊躇いなく引き金を引く寸前、轟音とともに鏡像が手にした銃が吹き飛んだ。
オルクスだ。
「クーに手は出させねぇぜ」
 硝煙の上がる銃口を鏡像に向けながら、オルクスが吐き捨てた。その背後に的確にオルクスの首を狙った鏡像のクロスの大鎌が迫る。
「オルクっ!」
 気を付けろ、とクロスが声を上げる前に鏡像の大鎌が振り抜かれ、地に伏せるほど姿勢を低くしたオルクスの頭上で大鎌が空を切った。大鎌は武器の性質上、振り抜いた後に大きな隙が生まれる。屈んでやり過ごした大鎌を振り返りざまに足で踏みつけて動きを止めると、オルクスは手にした銃口を鏡像のクロスの額へと向けた。
「クーの戦い方は、俺が一番よく知ってんだよ」
 オルクスが引き金を引くと、放たれた高圧高温の魔法弾が鏡像の額へと吸い込まれ、額の鏡を撃ち砕いた。
 鏡像のクロスが粉々に砕けたのを確認し、オルクスはクロスたちへと視線を向ける。クロスは鏡像のオルクスと互角の戦いを繰り広げていたが、鏡像の反撃を警戒してか思い切り大鎌を振ることを躊躇しているようだ。戦いにくそうな様子のクロスに、鏡像は厭らしい笑みを深めて銃口を向ける。自分の心臓に狙いが定まっていることに気づいたクロスが大鎌の平の部分で胸部を守った瞬間、鏡像の銃口が僅かに上へと動いた。狙い眉間だ。
大鎌を顔の前に動かすより鏡像が引き金を引く方が早いと判断したクロスは、先ほどのオルクスの戦い方を真似て膝を曲げて屈みこむ。予想外の動きで標的を突如見失い、一瞬隙を見せた鏡像の鳩尾をクロスが大鎌の柄の先で思い切り突くと、鏡像は堪らず鳩尾を抑えて前屈みになった。チャンスとばかりに鏡像の額の鏡にクロスが大鎌の刃先を突き立てれば、鏡像のオルクスは額の鏡と共に粉々になり、荒野の風の中に消えていった。



 手屋 笹とカガヤ・アクショアは戦況を冷静に分析していた。鏡像たちが自分たちと同程度の能力を持っているとすれば、脅威となるのは二点。
「鏡像カガヤの高火力と、鏡像のわたくしの射撃ですね」
「相手が互角で来るんじゃ厳しいね……」
 話している間にも二人の鏡像はじりじりと間合いを詰めてきている。カガヤは決断した。
「笹ちゃん、敵を倒す優先順位はライフルを持って離れて攻撃できる鏡像の笹ちゃん、そして次に鏡像の俺だ。鏡像笹ちゃんを狙っている間に、鏡像の俺に倒されないように注意してね」
 カガヤはそれだけ笹に告げ、先手必勝とばかりに一気に駆けて鏡像笹との間合いを詰めた。一方残った笹は二人から距離を取り、鏡像の笹と自分の間に鏡像のカガヤを挟むように意識して位置取る。鏡像の笹が倒れるまでカガヤの方に鏡像のカガヤが向かわないようにするためだ。
(こちらから無闇に攻撃を仕掛けず、相手の攻撃後の隙を狙いましょう)
 自身の戦闘能力で鏡像のカガヤを攻撃しても、返り討ちに合う可能性が高いことを笹は良くわかっている。挑発、防御、回避に専念して、カガヤが鏡像の笹を倒してしまうのを待つのが良策と思えた。
 鏡像のカガヤがぎろりと笹を睨んだ。見た目はカガヤと同じ顔なのに、その表情の凶悪さに驚く。カガヤがあんな顔をしたところなんて見たことがない。どうやら、二人の鏡像は思考回路までもコピーになっているらしく、鏡像のカガヤは迷う素振りも見せず、まっすぐに笹との距離を詰めてきた。ライフルの弾が当たらないよう、ジグザグに走ってくるところまで一緒だ。カガヤが戻ってくるまでなんとしても立っていようと決め、笹は鏡像のカガヤの動きに集中した。
 鏡像の笹も、考えていることは本物の笹と同じだ。距離を詰めるカガヤに積極的に攻撃を加えるのではなく、舞うように攻撃を躱しながら虎視眈々と反撃の機会を伺っている鏡像に、カガヤは振り下ろしたゴシックチャペルを急いで引き戻しながら、ライフルの餌食にならないよう射線から外れる。思ったよりも時間がかかりそうだが、早く決着をつけなければ笹が危ない。考えた末に、カガヤは攻撃を繰り出す速度を上げた。先ほどまでよりも速いカガヤの攻撃に、鏡像も負けじと素早く回避する。それがカガヤの狙いだった。
素早く動けば、比例してスタミナの消耗速度も早くなる。鏡像の体力が笹と同程度ならば、カガヤよりも先に鏡像に限界が来るはずだと踏んだのだ。
予想は当たっていた。何度目かの斬撃を避けた鏡像の足元がふらついたのをカガヤは見逃さず、すかさず二撃目を足元に放つ。無理に避けようとした鏡像の笹は足を縺れさせて転倒した。立ち上がろうとしたその額の鏡の欠片に向かって思い切り斧を振り下ろせば、鏡像の笹は粉々に砕け散る。いくら笹の姿とはいえ、遠慮するわけにはいかなかった。
鏡像の消滅と引き換えにカガヤの体力も消耗していたが休んでいる暇はない。ずっと鏡像カガヤの攻撃を避け続けている笹の体力も限界のはずだ。笹ちゃん、と心の内で呼びながら見回せば、笹が聳え立つ鏡の前に追い込まれたところだった。
 笹はネイビーライフルを構え鏡像のカガヤを牽制する。額を狙い撃つには距離が近すぎるが、鏡像の斧は届かない絶妙な距離で二人は膠着状態に陥っていた。鏡像があと一歩でも間合いを詰めれば、笹のライフルが火を噴くだろう。そこに、息を切らせたカガヤが駆け付けた。
「笹ちゃん!大丈夫?」
 カガヤの声に、鏡像は分が悪いと判断したのか一旦二人から距離を置き、斧を構えてカガヤへと向き直った。笹より先にカガヤを倒すことに決めたようだ。斧を構えてがむしゃらに切りかかってくる鏡像の攻撃をなんとか避けるカガヤだが、先ほどの鏡像の笹との戦いで消耗した体力が未だ回復しきっていない。体すれすれを斧が通過したことも幾度かあった。反撃に移りたいカガヤだが、攻撃を避けるのに精一杯で体制を立て直す暇がない。
 攻めあぐねているカガヤを見かねて笹がライフルを構えた。鏡像の意識が完全にカガヤに向いている隙に鏡像を狙って笹が引き金を引くと、轟音と共に鏡像の腿に聖なる弾丸が炸裂した。足を撃たれ鏡像の動きが止まった瞬間カガヤがここぞとばかりに斧を振りかぶる。力いっぱい打ち下ろした刃が鏡に当たり、鏡像のカガヤは姿を消した。
「はあ、はあ……」
 カガヤは肩で息をしながら頬を伝う汗を服の袖でぐいと拭う。心配そうな笹を安心させるように笑いかけると、行こう、とだけ言い、二人は急いでオーガを倒しに向かった。



 「私たちの鏡像……厄介だね」
目の前に出現した、自身とそのパートナーにそっくりな敵に、日向 悠夜はごくりと喉を鳴らした。隣では降矢 弓弦もじっと鏡像たちを見据えている。
 自身に剣を向ける鏡像の彼女の姿に一瞬戸惑う弓弦だが、すぐに思い直して表情を引き締める。ここで自分が躊躇えば、隣に立つ本物の彼女が危険に晒されることになるのだ。一切手心を加えるつもりはなかった。
「弓弦さん、新しい力で乗り越えよう!」
 悠夜の声に励まされハイトランス・ジェミニをしようとしたが、この状況で鏡像から目を離せば忽ち二人とも攻撃を受けるだろう。どうすれば、と迷う弓弦だが、悠夜の決断は早かった。
「弓弦さん、視線はそのままで手を貸して」
 悠夜に言われるままに弓弦が手だけを悠夜のほうへ伸ばすと、悠夜の華奢な手が弓弦の手を摑まえ引き寄せた。
「君よ、共に歩もうぞ」
 悠夜がインスパイアスペルと共に弓弦の手の甲へとその唇を寄せる。弓弦がその柔らかな感触を感じると同時に、二人を取り巻くオーラがより一層輝きを増したのを感じ、一瞬戦いの最中だということも忘れて思考を奪われそうになる。だが、目の前鏡像たちもまた強い光に包まれたのを見て気を取り直す。その月色の瞳がすっと細められた。
 相手は二人の鏡像だ。二人がハイトランスをすれば、それを映して鏡像もハイトランスするであろうことは想像に難くなかった。
「さあ、二人で超えてみようか、悠夜さん」
「よろしく、弓弦さん」
 声を掛け合い、食いしん坊なお化けとコネクト・タクトを構えた悠夜が一歩前に、弓弦は迅雷のグリューンに矢を番えて一歩後ろに下がる。鏡像たちも考えることは同じだ。剣と盾を構える鏡像の悠夜の背後に弓に矢を番えた鏡像の弓弦が立ち、両者が同じタイミングでダブルシューターを射ち合うと、放たれた矢はまるで雨のように前線で戦う悠夜とその鏡像に降り注ぐ。巻き込まれて軽い傷を負いながらも悠夜はうまく回避と防御を繰り返し、矢の雨の真っ只中に鏡像の悠夜を誘い込むことに成功した。鏡像の悠夜が矢の雨を防ごうと盾を頭上に構えた瞬間を、悠夜は見逃さなかった。
「今だよ、弓弦さん!」
 悠夜の合図で弓弦が一層集中力を高めて弓を引き絞る。ひょうと矢が放たれた音を合図に、悠夜が横に飛び退くと、スナイピングで放たれた矢が真っ直ぐに鏡像の額に刺さる。そこにあった鏡の欠片ごと鏡像の悠夜が粉々になって砕けると同時に、本物の悠夜は再度前進を開始し鏡像の弓弦との距離を縮めていった。矢を射て悠夜を迎え撃とうとする鏡像の手を弓弦が射抜いて援護する。有効な反撃も許されぬまま、鏡像の弓弦の額の鏡を悠夜のコネクト・タクトが貫いた。粉々に砕ける鏡像に胸を撫で下ろすと、弓を持ったままの弓弦が悠夜のほうへと駆け寄って来ると同時に、二人の周囲を囲んでいた鏡が砕け散る。目標まで、あと少し。


「自分同士で戦え、と」
 目の前の二体の鏡像をアマリリスはじっと見つめた。
「どう攻めます?ヴェルナー」
 一瞬視線を走らせ隣を見れば、ヴェルナーの手には随分と力が入っているようだ。原因は、アマリリスと同じ姿の鏡像に剣を向けることのプレッシャーか。
「大丈夫ですわ、ヴェルナー。……汝、誠実たれ」
 アマリリスはそっとヴェルナーの手を取り紋章に口づける。その瞬間、二人が纏うオーラが輝きを増した。ハイトランス・ジェミニだ。アマリリスが立ち上がる頃には、鏡像たちのオーラも輝きを増し、嘲笑うような笑みがより深くなっていた。
「思うに、私たちには無くて彼らにはあるあの額の欠片。あれが、彼らの弱点ではないかと思いますの。自分たちの偽物は自分たちの手で倒しましょう」
 アマリリスに言われ額の欠片を見ればヴェルナーの手に籠っていた力が少し緩む。ヴェルナーの中で彼らがはっきり偽物と分かる決定打となったのだろう。
「アマリリス、その、申し訳ないのですが、あちらの」
 ヴェルナーの瞳が鏡像のアマリリスを示す。
「貴方の偽物から倒してしまいましょう。そのほうが倒しやすいはずです」
「わかりましたわ」
 アマリリスはヴェルナーの一歩後ろに下がり、ローズオブマッハを構える。ヴェルナーがプロテクションで防御力を高めれば、鏡像のヴェルナーも同じくプロテクションを発動させる。
「やはり、姿が一緒なだけではなく能力も一緒。ならば思考レベルも一緒かもしれませんわ」
 アマリリスが言葉にするが早いか、鏡像のアマリリスの鞭が飛んできた。ぎりぎりで避けはしたが、明らかに動きを止めることを狙っていた。やはり思考レベルも同じらしい。ヴェルナーは盾を構えてゆっくりと距離を詰めていき、鏡像たちを効果範囲内に捉えた瞬間アプローチⅡを発動する。鏡像のヴェルナーもアプローチを狙っていたようだが、僅かにヴェルナーのほうが早かった。二体の鏡像はすぐにヴェルナーの方に向きなおって攻撃を開始した。
 鏡像たちを一手に引き受けたヴェルナーはディアモンテスクードで攻撃を受け流しながら反撃のチャンスを伺う。鏡像たちの興味がヴェルナーに向いているうちに、アマリリスが彼らの死角からローズオブマッハで攻撃を加える。事前に相談していた通り、まずは鏡像のアマリリスを鞭で拘束する。鏡像は鞭から逃れようともがくが、もがけばもがくほど鞭はその体に絡みついていく。
「ヴェルナー!今ですわ!」
 拘束されている鏡像のアマリリスの額にある鏡に、ヴェルナーの斧が叩きつけられ、鏡像は粉々になって砕ける。そのまま鏡像のヴェルナーも倒してしまおうとしたが、彼もアマリリスのほうが倒しやすいと踏んだようだ。アプローチの効果を振り切ってアマリリスめがけて思い切り斧を振り下ろしてきた。鏡像の攻撃をアマリリスはロサレイナを突き出して防御する。再度攻撃しようと斧を振りかぶった瞬間、鏡像の腕はアマリリスの鞭で拘束される。身動きが取れなくなった鏡像の額に、ヴェルナーの斧の一撃が食い込んだ。


 鏡像たちを倒した後の勝負はあっという間だった。何せ、相手は歴戦の強者揃いだ。
女性を浚ったDスケールオーガは瞬く間に倒され、先行していたウィンクルムたちも自身の鏡像を何とか倒して自由を取り戻した。お互いに無事を喜び合い女性を連れて本部に報告に戻るウィンクルムたちを遠くから苦々しげに睨みつけている存在には気づかないまま、一行は荒野を後にしたのだった。



依頼結果:成功
MVP
名前:手屋 笹
呼び名:笹ちゃん
  名前:カガヤ・アクショア
呼び名:カガヤ

 

名前:アマリリス
呼び名:アマリリス
  名前:ヴェルナー
呼び名:ヴェルナー

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 難しい
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 06月02日
出発日 06月08日 00:00
予定納品日 06月18日

参加者

会議室

  • [5]ミオン・キャロル

    2015/06/06-21:52 

    皆さん、よろしくお願いします。

    今回は相談する事は特にないわよ…ね?
    皆さんのご武運を祈って。

  • [4]アマリリス

    2015/06/06-00:24 

  • [3]クロス

    2015/06/05-22:44 

  • [2]日向 悠夜

    2015/06/05-20:17 

    日向 悠夜です。皆さんよろしくね!
    うーん…鏡像のウィンクルム、かぁ…。難敵だね。
    ハイトランスをすれば相手もハイトランス状態になるだろうから怖い所だね。

  • [1]手屋 笹

    2015/06/05-00:21 


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