【祝福】花飴はいかが?(櫻 茅子 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●イベリン王家直轄領、その片隅にて
 青い空とほどよく冷たい風が心地よい、ある日のこと。
 タブロス北方の地にあるイベリン王家直轄領では、『ウェディング・ラブ・ハーモニー』と呼ばれるイベントが開催されていた。つい先日、イベリン王家音楽堂・ハルモニアホールが完成したことに加え、初恋宮の甕星香々屋姫の祝福をうけたこともあり、大変な盛り上がりを見せている。
「『花飴』?」
 誘拐事件が頻発していることもあり、状況の確認に来たA.R.O.A.の女性職員は、楽し気に笑みを浮かべる人々の中を歩いている途中、ふと目に入った看板に興味をひかれ足を止めた。
「なになに? 花詠亭(はなよみてい)より、期間限定『花飴』発売のお知らせ……?」
 さまざまな花が品よく描かれた看板は、そんな言葉から始まっていた。

●花飴のご案内

<花詠亭より、期間限定『花飴』発売のお知らせ>

ウェディング・ラブ・ハーモニー開催に伴い、花詠亭では新商品『花飴』を期間限定で発売することを決定しました。
花飴は、祝福された花を使用した特別な飴。芳醇な香りとさわやかな味だけでなく、花の形を模した目にも楽しい飴でございます。

もちろん、祝福を受けた花を使用しておりますので、あなた、もしくは気になる誰かが、気持ちを伝えたくなるかも……?

※ただし、効力には個人差があります。お望みの言葉がもらえなくても、当店は責任を負うことができません。

●花詠亭へ
「『素直になれないあなたの味方』『彼から愛の言葉を聞きたいあなたに』……。あはは、そんな相手がいたらよかったんだけどねえ」
 近くに設置されたチラシはいくつか種類があるようで、それぞれにそんな言葉がつづられていた。
 独り身の自分には辛い、と職員は脱力する。
 が、チラシにある花飴は、目にも楽しい飴という宣伝文句があるように、たしかに美しかった。
「あ、私でも食べられそうなの発見。……ちょっとくらい楽しんでも、バチはあたらないよね」
 職員は楽しそうにほほ笑むと、地図に記された花詠亭を目指して、歩き出すのだった。

解説

●目的
花詠亭の新商品・花飴を食べる。


●花詠亭(はなよみてい)
花をモチーフにしたお菓子を扱っている小さなお店です。
お店のまわりにはバラの花が植えられており、夜になる、または雨(水)に濡れるとうっすらと光を帯び幻想的な雰囲気になります。


●花詠亭・花飴一覧
・花飴・ローズ
 バラを使用した飴です。豊かな香りと豪華な形で一番人気を誇ります。
 口にすると、愛を伝えたくなるようです。
 想いを伝えたい人がいる方におすすめの一品です。

・花飴・ジャスミン
 ジャスミンを使用した飴で、さわやかな味とかわいらしい形が特徴です。
 口にすると、相手にしてもらいたいこと、やってもらいたいことを伝えたくなるようです。
 普段なかなか素直になれない、という方は、力を借りてみるのはいかがでしょう?

・花飴・サクラ
 桜の花を使用した、優しい甘さと柔らかな桃色が愛らしい飴です。
 口にすると、感謝の気持ちを伝えたくなるようです。
 つい先延ばしにしてしまいがちな感謝の気持ちを、この機会に伝えてみては?

※料金は一律『200ジェール』となっています。


●プランについて
以下を明記してくださいますよう、お願いします。

・何時頃に花詠亭に訪れたのか
 お昼頃、夕方……など、おおざっぱなくくりで問題ありません。
 お店の前で誰かとはちあわせた場合は、そちらも書いていただければと思います。

・どの花飴を購入し、神人と精霊のどちらが食べるのか
 神人が食べた場合:飴の効果でどんなことを伝える(伝えたいと思う)のか
 精霊が食べた場合:どんなことを伝えられたのか
 を書いてください。
 ※親密度によってはアクションが不成功になる可能性もあります。ご了承くださいませ。

●余談
花詠亭の周りにも、バラが植えられています。何を買うか迷い、時間が経った場合、そちらの影響を受けるかも?

ゲームマスターより

照れたり、言うタイミングを逃したり、つい伝えずに終わってしまう気持ちってありますよね。今回はそんな気持ちを伝えたい・伝えられたいと思っている人の背中を押すようなエピソードを、と思い、用意してみました。
ジューンブライドに乗っかって、少しでも皆様の笑顔のお手伝いができればと思っております!

では、よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リヴィエラ(ロジェ)

  リヴィエラ:

(花詠亭には夕方訪れる。鉢合わせはお任せ。飴をこっそり買うのは精霊)

(ロジェの花に対する恐怖心が薄れたようで良かった…)

(ロジェにして欲しい事について聞かれ)
えっ、して欲しい事ですか? (真っ赤になり)わ、私は特には…はぐっ!?
(ロジェにジャスミン飴を放り込まれ、真っ赤になってモジモジ)

あ、あの、ロジェさま…ひ、膝枕をしてくださいますか…?
(はわわわ…男性の太腿って堅くてこんなに逞しいんだわ…)

ひゃうっ、耳の中は見ないでください~!

(太腿に横たわり、うっとりしながら)
あ、あの、ロジェ…私、貴方を愛しています…。大好き、です。



エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
美しい飴細工です。

時間


行動
ガーン! 伝えられた言葉はある意味残酷!
……ずっと友達だなんてお断りです、と力なく返事。

ラダさんの言葉をかなり自己流前向きに解釈。
戦う仲間、親友、恋人、新婚さんの間柄へと進展しても、それまで築いてきた二人のピュアな友情はそのままで! ということですね、うふふふふ! 理解しました。

ギャグのノリから、少し真面目な雰囲気に。
でも友情を大事にしたいという思いは私も同じです。
笑って受け流してもらえるなら、まだ良いのです。恋する思いが暴走した結果、今までの友情や信頼関係さえも崩れ去る時が怖い。
そもそもアッシェン家に産まれた者は代々……。いえ、この話はまだやめておきましょう。


リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  おお、これは・・・まるで宝石の様ではないか・・・!(キラキラ)
花畑に来たみたいだな!

<行動>
・たまたまチラシを目にして興味を持った
・訪れる時間は夕方
・花飴・サクラを食べる
「もったいない気がするが・・・」
・アモンに感謝を述べる
「コホンッ・・・だ、だからキミには本当に感謝している。私の様なつまらない人間に付き合ってくれて・・・」
「できれば・・・これからもよろしく頼む。あくまでパートナーとして」(照れ)
・アモンにばれて、
「い、いや・・・そうでもしないとこの先ずっと言えないだろうし」(わたわた)
・本当はローズにも興味があった様子
(だって、口にしたらばれるじゃないか!)

※アドリブOK!




アンダンテ(サフィール)
  お昼頃の明るい内に訪問

祝福を受けた花を使ってるなんて縁起がよさそうよね
ぜひ試してみたいわ

あら、どうかしら?
女は色々と秘密を抱えていたりするものよ(ウィンクしたつもり
そういえばそうね
でも、サフィールさんにならいいかもしれないわ

感謝はいつも伝えているし
愛も…伝えているわよね
じゃあここはジャスミンかしら

口の中で転がしつつ何か変化はないか待ってみる

私ね、自分では結構節度はある方だと思っていたの
だけど、結構我侭だったのね

手を繋ぎにいく
いつもみんな私の前からいなくなってしまうから
あまり思い入れしないようにしていたの
でも、サフィールさんとはもっと仲良くなりたいの
これからも、色んな思い出を作りたいわ



アンジェローゼ(エー)
  エーと二人で夕方のお散歩

エーから綺麗な薔薇の花飴を渡されたので何の疑いもなく口へ運び(神人が食べる)
甘くてとっても美味しいわ…何だか今なら胸の内を明かせそうな気がする
「…私、最近変なの。エーと一緒にいるとドキドキするし、どうしても落ち着かない…でも安らいだ幸せな気持ちになるの。エーは私のお兄ちゃんみたいな存在なのに、変だよね?」

エーの顔を見ればやはり心臓が爆発しそう
この感情は…?
……恋?
「確かに、エーのことは好きだけど…よく遊んでくれるお兄ちゃんみたいな、好きで…でも…」
エーの哀しそうな顔を見ると心が痛む…そんな顔しないで。笑ってほしい
この想いが恋…ならば、私はこれからどう彼に接すればいいの?




●素直な気持ちを
 青い空と暖かな太陽の光が心地よい昼下がり。
「あら?」
『ウェディング・ラブ・ハーモニー』が開催されるイベリン王家直轄領を歩いていた『アンダンテ』は、バラに囲まれた小さな店を見つけて足を止めた。一緒に歩いていた『サフィール』も、アンダンテにあわせ一時停止する。
 看板には、花詠亭と描かれていた。店の壁には祝福を受けた花を使用した新商品・花飴を紹介したポスターが貼られていて、アンダンテはそれに興味をひかれたらしい。
「祝福を受けた花を使ってるなんて縁起がよさそうよね。ぜひ試してみたいわ」
 アンダンテは弾んだ声でそう言うと、サフィールを連れ店内へと入る。
「縁起はよさそうですが、この効果を見ても食べたいと思うのがすごいです」
 花飴には、自分の気持ちを伝えたくなる効果があると書いてあった。どんな気持ちを伝えたくなるのかは、材料によって違うようだが……。
 そこまで考えて、「だけど」とサフィールは思う。
「まあ、アンダンテは直球な人ですし、食べても変わらないかもしれませんね」
 普段から突拍子もない人ですし。
 言葉を飲み込んだサフィールに、アンダンテは意味深にウィンクを――失敗して両目を瞑っていたが――してみせる。
「あら、どうかしら? 女は色々と秘密を抱えていたりするものよ」
 しまらないのが彼女らしい。そう思いつつ、同時に一つ、小さな不安が湧き上がる。
「その秘密を自分に話してしまうかもしれないのに?」
「そういえばそうね。でも、サフィールさんにならいいかもしれないわ」
 アンダンテはにこりと笑顔を浮かべると、どの花飴を買おうか悩みはじめた。
 売り出されている花飴は、愛を伝えたくなる『ローズ』、相手にしてもらいたいことを伝えたくなる『ジャスミン』、感謝の気持ちを伝えたくなる『サクラ』の三種類だ。
「感謝はいつも伝えているし、愛も……伝えているわよね。じゃあここはジャスミンかしら」
(愛も伝えている……?)
 サフィールは首を傾げた。だが、愛といっても色々ある。深い意味はないだろう。普段のアンダンテの行動を思いうかべたサフィールは、さらりと聞き流した。
 店を出ると、ふわりとバラの香りが鼻孔をくすぐる。
 購入した飴は、淡い桃色の袋と緑のリボンでラッピングされていた。アンダンテは早速リボンをほどくと、細くしなやかな指先で飴をつまむ。
 ジャスミンの形を象った飴は見事なもので、サフィールは感心した。――だが、アンダンテにとって形はそれほど重要なものではないようだった。ぽいと口の中へ入れると、ころころと転がしはじめる。
「……何か変わりましたか?」
 サフィールが尋ねると、アンダンテは数秒の間の後、静かに口を開いた。
「私ね、自分では結構節度はある方だと思っていたの。だけど、結構我侭だったのね」
 アンダンテは呟くと、サフィールをじっと見つめた。神秘的な色合いの瞳に射抜かれ、サフィールはどきりとする。そして……自分の手に彼女の手が重なったことにも、心臓が跳ねた。
「いつもみんな私の前からいなくなってしまうから、あまり思い入れしないようにしていたの。でも、サフィールさんとはもっと仲良くなりたいの。これからも、もっと色んな場所に出かけたりして、一緒に色んな思い出を作りたいわ」
「そんな事でいいのなら」
 サフィールが頷くと、アンダンテは嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 花のような、という例えが浮かんだのは、あたりに咲き誇るバラのせいだろうか。
「じゃあ、そろそろ移動しましょうか」
 アンダンテの提案に頷きながら、サフィールは先ほどの言葉を思い出す。
(もっと仲良くなりたいと思った初めての人、か)
 何か、むずむずする。落ち着かない心地になりながら、サフィールも歩き出した。

 ――繋がれたままの手にサフィールが気づくのは、それから数秒後のことである。


●愛を告げるにはまだ早い
「素直になれないあなたへ……?」
 手にしたチラシに気になる言葉を見つけ、『リオ・クライン』はぱちりとまばたきをした。
 チラシの隅には、花詠亭と店名が載っている。花をモチーフにしたお菓子を売っているお店だそうだ。それがどうしてこんな宣伝文句をうっているかというと、祝福をうけた花を使用した新商品・花飴の中に、感謝を伝えたくなる効果を持ったものがあるから、らしい。
「花飴か。……」

 青空が橙色に覆われはじめた、夕暮れ時。
 リオは『アモン・イシュタール』を連れ、花詠亭を訪れていた。バラに囲まれた店を見て、リオは「花畑に来たみたいだな!」と笑顔を浮かべる。
「えらく、こじんまりとした花畑だな」
「まったく、その様な言い方は失礼だぞ?」
 アモンの言葉に呆れたように肩を落とすと、リオは店内へと入る。ちらりと後ろを盗み見ると、アモンが落ち着かなさそうにしているのが見えた。理由を教えず、しかも女性が多いところへ来ているので、少し申し訳なくも思うが……理由を知られたら、からかわれるのが目に見えている。もう少しだけ我慢してほしい。
 リオは小さくたたみ、ポケットにしまっていたチラシをこっそり確認する。そして、買うと決めていたものを店員に注文した。商品はすぐに届けられる。
「おお、これは……まるで宝石の様ではないか……!」
 白いリボンと淡い桃色の袋でラッピングされたそれは、花飴・サクラである。飴は桜の花を模しており、その見事な出来栄えは宝石に勝るとも劣らないとリオは思う。
 きらきらと輝かせるリオを見ながら、アモンは頭をガシガシとかいた。
(何でこういう乙女チックな所にオレを連れてくるかねぇ……)
 リオはアモンを促し外へ出ると、飴をとりだした。しばらく頬を緩ませながらじっと見入っていたが、
「もったいない気がするが……」
 そう言うと、意を決したように飴を口に含んだ。
 飴をなめていると、リオの中にむくむくと、ある欲求が育ってくる。
「キミとウィンクルムになって結構経ったな」
「あー……そうだな。月日が経つのは早えーな」
「まあ、最初の頃はどうなる事かと思っていたが……不本意だがキミには何度か助けられたな」
「それ、遠回しに褒めてんの? 馬鹿にしてんの?」
 突然、いつになく素直に感謝の気持ちを伝えられ、アモンは内心動揺していた。しかし、悪い気はしない。
(デレ期突入か?)
「コホンッ」
 リオはわざとらしく咳をすると、アモンを上目づかいに見つめる。
「だ、だからキミには本当に感謝している。私の様なつまらない人間に付き合ってくれて……。できれば……これからもよろしく頼む。あくまでパートナーとして」
 パートナーとして。そう強調したリオの頬は、恥ずかしさからかふんわりと染まっていた。心なしか、瞳も潤んでいるように見える。
「そんなの当然だろ」
 アモンは当たり前のように返事をしながら、なぜリオが急にこんなことを言い出したのかが気になっていた。
(さっきお嬢様が見てた、あの紙になんかあるのか?)
 飴を買う時、リオは何かを見ていた。アモンは隙を見て、彼女がポケットに入れていたチラシをさっと奪い取ると、ざっと目を通す。
「なっ、何をする!? か、か、かえしてくれ!」
「なーるほど。そういうことか」
「い、いや……そうでもしないとこの先ずっと言えないだろうし」
 ニヤニヤと口元を緩め、おもしろそうに自分を見るアモンに、リオはあわあわと両手をせわしなく動かしながら言い訳を試みる。それからなんとかチラシを奪い返すと、慌てて帰路へとついた。
(気付かれてない、よな?)
 ――花飴・ローズに、印を入れかけた跡があることに。
 実を言うと、ローズにも興味があったのだ。けれど、買うわけにはいかなかった。
(だって、口にしたらばれるじゃないか!)
 空はすっかり橙色に染まっていた。
 リオの頬が色づいて見えるのは、空の光のせいなのか。それとも――なんて、理由はリオ自身が一番よく知っていた。


●これから、はじまる
『アンジェローゼ』は『エー』とともに、夕陽の下を散歩をしていた。
「あ」
 と、エーが何かに気付いたように足を止める。
 アンジェローゼがエーの視線を追うと、花詠亭と描かれた看板が下げられた、バラに囲まれた小さな店が目に入った。ふんわりと漂ってくるお菓子のにおいも相まって、おとぎ話に出てきそうな雰囲気だ。
「かわいいお店ね。エー、寄っていかない?」
「はい、ぜひ」
 興味津々といった様子のアンジェローゼにエーはくすりと微笑むと、店内へと足を踏み入れる。
(お嬢様が興味を持ってくれて助かりました)
 エーは花詠亭のチラシを目にしてから、あるものを購入しようと考えていた。今日通りかかったのは本当に偶然だが、よかったと思う。
 きょろきょろと楽しそうに周囲を見回すアンジェローゼを見失わないよう注意しながら――といっても、店内はそう広くないのだが――エーはその「あるもの」を購入した。
 二人で店の外へ出ると、バラの甘く豊かな香りが鼻孔をくすぐる。
「きれいなバラね。花畑に来たみたい」
 夕陽に照らされるバラをうれしそうに眺める彼女に、エーは先ほど購入したもの……食べると愛を伝えたくなるという、花飴・ローズを差し出した。
「これは?」
「とても美味しい飴ですよ」
「私に? いいの?」
「はい。ロゼ様に食べていただきたいんです」
「ふふ。ありがとう、いただくわ」
 エーは自分の声が震えていないか気になったが、彼女の反応を見る限り、うまく隠せたようだ。
 アンジェローゼは、早速飴をとりだした。直後、「すごい!」と満面の笑みを浮かべる。「本物のバラみたい。食べるのがもったいないわ」
 花を模した飴を、大層気に入ったらしい。いろんな角度から見て、その精巧な作りを堪能すると、そっと口へと含んだ。
「甘くてとっても美味しいわ」
 とろけるように笑うアンジェローゼを、エーは祈るような気持ちで見つめる。
 ――エーは、アンジェローゼのことが好きだ。
 頼られるのはうれしい。けれど、彼女への気持ちが募っていくたびに、『兄のように』慕われるのが苦しくなっていた。だから花飴を知ったとき、彼女に食べてほしいと思った。
(貴女の心の中をのぞかせてください……。僕の事、どう思っているのか……僕は貴女の何?)
 アンジェローゼは飴をころころと転がしながら、自分の中にある気持ちが湧き上がって来ることに気が付いた。
 ……何だか今なら胸の内を明かせそうな気がする。
「……私、最近変なの。エーと一緒にいるとドキドキするし、どうしても落ち着かない……でも安らいだ、幸せな気持ちになるの。エーは私のお兄ちゃんみたいな存在なのに、変だよね?」
 彼女の言葉は親愛にあふれていて……だからこそ、ひどく残酷なものだった。
(ああ、やっぱり『お兄ちゃん』で、男としては見られていなかったんだ……)
 僕は今、笑えているだろうか?
「お兄ちゃんですか……。でもいいです。貴女に嫌われていない。好かれている……今はそれだけで十分です」
 エーはアンジェローゼを見つめ、静かに笑う。その瞳には悲しみと、同時に決意の色が浮かんでいた。
(僕はロゼ様を……アンジェローゼを愛しているから、いくらでも待ちます。お兄ちゃんではなく男として意識してもらえるように頑張ります)
 エーに見つめられたアンジェローゼは、息苦しさを覚えて胸をおさえた。
 エーの顔は見慣れているのに。なのに――心臓が、早鐘をうつ。
(この感情は……?)
 ……恋?
(確かに、エーのことは好きだけど……。よく遊んでくれるお兄ちゃんみたいな、好きで……でも……)
 目の前には、いつもと変わらない笑顔を浮かべるエーがいる。だが、その瞳には様々感情が入りまじったような……どこか悲しそうな光があった。そんな彼を見ていると、ツキリと心が痛む。
(そんな顔しないで。笑ってほしい)
 そう考えて、アンジェローゼはハッとした。自分が抱く気持ちの正体を確信してしまった。

 この想いが恋……。
 ならば、私はこれからどう彼に接すればいいの?

 アンジェローゼはエーの顔を直視できなくなり、たまらずにうつむいた。頬が熱い。赤くなっているに違いなかった。
 そんな彼女の反応に、エーは希望を見る。
 もしかしたら。
 エーはうつむくアンジェローゼの手をとり、微笑みかける。その微笑みは先ほどまでの悲しげなものと違い、喜色のにじんだものだった。
「ロゼ様、これからもずっと一緒にいましょうね」
 覚悟してね。


●優しい時間
 夕陽の橙と夜の闇が絶妙に入りまじる時間。
『リヴィエラ』は『ロジェ』を誘い、花詠亭を訪れていた。
「はわわ、すごいです。どのお菓子もかわいくて」
 リヴィエラはお菓子を前に、子供のようにはしゃいでいた。ロジェが一緒に出かけることに強い拒絶を示さなくなったこともあり、心からの笑みがもれる。
 そんなリヴィエラに、ロジェは優しい眼差しを向ける。そして彼女にばれないよう、チラシで見たあるものを購入すると、二人並んで帰路へ着くのだった。

「最近は、ダリアを見ても以前ほど恐怖は感じなくなった」
 自宅へと戻ったロジェは、ふいにそうこぼした。その言葉に、リヴィエラは柔らかく微笑む。
(ロジェの花に対する恐怖心が薄れたようで良かった……)
 今までの行動は、無駄ではなかった。そう思えて、リヴィエラはほっと肩から力が抜けるのがわかった。
「リヴィー、君のお陰だ。何か礼ができれば良いんだが……そうだ、何か俺にして欲しい事はないか?」
「えっ、して欲しい事ですか?」
 突然の申し出。リヴィエラは一瞬の間にいろいろな――そう、いろいろなことがよぎった。ぼっ、と。リンゴのように赤くなったリヴィエラは、ふるふると必死に首を振る。
「わ、私は特には……」
 言葉とは裏腹に、彼女の顔には「やってほしいこと、あります」と書かれていた。ロジェは悪戯っぽく笑うと、「そうか、飽く迄シラを切る心算なんだな」と言って、あるものを取り出した。
 かわいらしい、淡い色合いの包みはリヴィエラにも見覚えがあった。花詠亭の新商品に使われていた――
 正体を察したリヴィエラを遮り、ロジェはにやりと笑うと、
「それならこうだ」
 花を象った可愛らしい飴……花詠亭の新商品、花飴をリヴィエラの口に放り込む。
「はぐっ!?」
 舌の上に広がるさわやかな味と香りは、ジャスミン特有のものだ。
 不意打ちに混乱しながら、リヴィエラは花飴・ジャスミンの効果を思い出そうと思考を巡らせた。だがそれよりも早くある欲求がうまれ、言いたくてたまらなくなってしまう。
 リヴィエラは真っ赤になりながら、もじもじとうまれた欲求を口にした。
「あ、あの、ロジェさま……ひ、膝枕をしてくださいますか……?」
「それくらいお安い御用だ」
 リヴィエラの頭が、ためらいながらもロジェのふとももへ乗せられる。
「そうだ、それで良い」
 心地よい重みだ。伝わる体温は少し熱く、身体が緊張からか固くなっている。
(はわわわ……男性の太腿って堅くてこんなに逞しいんだわ……)
 自分のふとももに頭を預けて横たわるリヴィエラを見て、ロジェは優しく目を細めた。
 目は口ほどにものを言う、と言葉がある。今まさに、ロジェは口には出さないものの、リヴィエラに「愛しい」と告げていた。――ロジェの瞳を見つめ返す余裕は、残念なことに、いや幸いというべきか、リヴィエラにはなかったが。
「ひゃっ!?」
 と、小さな悲鳴があがる。リヴィエラの髪を、ロジェが撫ではじめたのだ。
「ろ、ロジェ? いったい……」
 身をすくませながらも動く気配のないリヴィエラに笑みをこぼしつつ、ロジェは手を耳、頬へと滑らせる。そして、手の軌跡を追うように、己の唇を落としていく。
「ひゃうっ、耳の中は見ないでください~!」
 ……だが、リヴィエラのそんなお願いに、ロジェは思わず動きをとめた。続いて、くっと噴き出す。
「わ、笑わないでください……」
 そう言うリヴィエラの声には、隠しきれない喜びであふれていた。うっとりしながら、夢を見ているような心地で心からの言葉を口にする。
「あ、あの、ロジェ……私、貴方を愛しています……。大好き、です」
「俺も愛してるよ、リヴィー」
 なんて幸せな時間なのだろう。
 もう、リヴィエラに照れや羞恥といったものはなくなっていた。ただただ、この幸せなひとときを堪能する。
 そっと体の力を抜いたリヴィエラを撫でながら、ロジェは「フッ」と小さく息を吐く。
(絶対に彼女を、彼女の父親などに返すものか。リヴィエラを……神人を『忌み子』扱いするような、あんな家には返さない)
 やっと手にした、幸せな時間を奪わせない。
 誓いをたてたロジェを、姿を現しはじめた星たちが静かに見守っている。


●月光の下で
 月明かりの下、『エリー・アッシェン』と『ラダ・ブッチャー』は花詠亭へと向かっていた。チラシを見たラダが「ウヒャァ! おいしそうな飴だねぇ」とはしゃぎ、その様子を見たエリーが「行ってみましょうか」と提案し、今に至る。
 しばらく歩くと、ぼんやりと輝くバラに囲まれた店が見えた。
「ヒャハ! ここが花詠亭だねぇ」
「バラに囲まれたお菓子屋さんだなんて、おとぎ話に出てきそうですね」
 月の光をうけぼんやりと光るバラは、とても幻想的だ。だが、ラダの興味は飴にしか向いていないようで、どんどん先へ進んでいく。
 店内に入ると、甘い香りに包まれた。飴を見つけたエリーは、頬を緩ませる。
「美しい飴細工です」
「ウヒャァ、ボクは飴をガリゴリ噛み砕くのが好き!」
 ラダらしい反応に、エリーはくすりと微笑む。
 ラダは花飴・ジャスミンを購入すると、早速食べ始めた。
(ジャスミンの効果は、してもらいたいことを伝えたくなる、でしたか)
 ガリガリ、と飴を砕く特有の音を聞きながら、エリーはどんなことを言われるのだろうと待っていた。
 食べ終わったらしいラダの顔が、エリーへと向かう。自然と鼓動は高鳴るが、表情には出さないよう務める。
「エリー」
 さあラダさん、私に何をしてほしいんです!?
「これからも、ずっと友達でいてね!」
 満面の笑みで告げられた言葉に、エリーはガン! と頭を殴られたような衝撃を覚えた。
 ずっと「友達」で、それ以上の関係にならないでくれだなんて!
 喜んでいい言葉のはずだった。しかし、それ以上を望むエリーにとって、ラダの願いはある意味で残酷なものだった。
「……ずっと友達だなんてお断りです」
(ああーっ! ど、どうしよう? そんなつもりじゃないんだけど、エリーの心をえぐる言葉だったかもぉ!)
 エリーの力ない返事を聞いて、ラダはあたふたと慌てはじめた。 
「えっと、どんな関係になっても友情を大切にしていこうね、ってニュアンスだよぉ」
 ラダのフォローを聞いても、エリーの顔はなかなか晴れない。……なんてことはなく、数秒後にはイキイキと輝きはじめる。
「戦う仲間、親友、恋人、新婚さんの間柄へと進展しても、それまで築いてきた二人のピュアな友情はそのままで! ということですね、うふふふふ! 理解しました」
「新婚!? ちょ、そこまでは言ってない! ボクたち、まだ恋人同士でさえないよねぇ!?」
 ラダのつっこみは気にしない。
 上機嫌なエリーに促され、ラダは彼女とともに花詠亭を出る。
 今日は月がやけに明るく見える。
「でも友情を大事にしたいという思いは私も同じです」
 静かなエリーの声に、ラダは彼女の横顔を振り返る。
 夜の闇の中、月の、バラの淡い光を受けたエリーはどこか非現実的だ。
 出会った当初のことを思い出しかけ――しかし、続いた言葉に意識を戻す。
「笑って受け流してもらえるなら、まだ良いのです。恋する思いが暴走した結果、今までの友情や信頼関係さえも崩れ去る時が怖い」
 先ほどまでの楽しげな雰囲気はない。
「そもそもアッシェン家に産まれた者は代々……。いえ、この話はまだやめておきましょう」
「アッシェンってエリーの一族? 何かあるの?」
 ラダの質問に、エリーはうっすらと微笑むだけで何も答えない。
 エリーが纏う独特の空気に、ラダは怖さを、そして好奇心を覚えながら、花詠亭の周りに咲くバラを眺めるのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:エリー・アッシェン
呼び名:エリー
  名前:ラダ・ブッチャー
呼び名:ラダさん

 

名前:リオ・クライン
呼び名:リオ、お嬢様
  名前:アモン・イシュタール
呼び名:アモン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月28日
出発日 06月06日 00:00
予定納品日 06月16日

参加者

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