【祝福】きみとたべたい(上澤そら マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●職員のお誘い
「ちょっとちょっと、見てください聞いてくださいっ!イベリン領でウェディングフェアがあるんですよぅっ!!」
 A.R.O.Aの本部で過ごしているウィンクルムに声をかけてきたのは、ポニーテールの女性職員。
 手にはチラシを持ち、いささか興奮気味にまくし立てて来た。
「音楽堂が再建されたイベリン領が『ウェディング・ラブ・ハーモニー』というイベントを開催するそうでして、その一環でイベリン領にある結婚式場のレストランで試食会があるんですよぅー!」
 渡されたチラシを見れば、試食会がメインではあるもののウェディングドレスの展示やウェディングケーキの展示、また挙式場に入場し雰囲気を味わえるオプションがある模様。
「挙式も出来るレストラン!ということで有名なお店でして、普通に食べに行ったら目が飛び出ちゃう!!位の金額を取られちゃうようなお店なのですが……なな、なんと!今回はウィンクルムの功績もあって、無料招待券いただいちゃいましたぁっ!!」
 ない胸を張る職員のポニーテールが揺れる。
「……って、あたしがドヤ顔してる場合じゃないですねっ。とにかくウィンクルムさん五組ご招待!なのでよかったらぜひ美味しいご飯食べてきてくださいねっ」
 明るい笑顔でウィンクする職員。
「……あ、でも食事は無料なんですけど……交通費はこちらで出せませんのでご負担お願いしまぁす!」
 ペコリ、と頭を下げる職員だった。

 ウェディングフェア。
 精霊は喜んで着いてきてくれるだろうか。
 何と言って誘おうか。
 ただただ美味しいご飯食べに行こう!と言えばいいものか……
 悩みながらもチケットを受け取る貴女だった。

解説

●流れ
レストランに到着したあたりからになる予定です……が、プランによりけりです。

1:式場見学
2:ウェディングドレス&タキシード見学
3:ウェディングケーキ見学
4;お食事
の、流れです。

お食事、またお食事中の会話などがメインとなります。
1~3に関しては興味あるもののプラン記載のみで結構です。


●場所
1:式場見学
祭壇があり、女神ジェンマが祀られています。現代で言うところの教会イメージです。

2:ドレスやタキシード
様々な種類があります。「こういうの似合いそう!」とか「こういうの好き!」とか
精霊や他の参加者様と盛り上がるもよし!
試着は出来ませんのでご了承ください

3:ウェディングケーキ展示
豪華なケーキからキャラケーキなど、様々なウェディングケーキが展示されております。
偽物でありますが、こんなケーキ食べたい、など盛り上がるもよし!


●食事
現代で言うところのフランス料理のコースがボリュームは軽めにて提供されます。
お酒は出ませんです、ソフトドリンクのみです。
プチケーキ的なデザートも出ます。

苦手な食材、また好きな食材の記載あらば考慮いたしまする。

●会話
今回はお食事中がメインとなります。
恋愛や結婚などに関する想いを語り合うもよし、
まったく関係なく食べ物談義するもよし、
先日のネタ合わせのダメ出しをするもよし、フリートークでOK!

また。料理に「祝福された花」が少量使用されておりますため
いつもより「素直な気持ち」が現れる…とか?そうでもないとか?


●他
EXということもありアドリブ過多、また他参加者様との絡みが増える予定にございます。
好きなだけ絡ませいや!アドリブ入れぃや!な方はプラン文頭に『★』を。
あんまり他者と絡みたくないょ… な方はプラン文頭に『×』を入れていただけると
仰せのままに…!


●交通費
食事代は無料ですが、交通費として一組様『400Jr』いただきます。
ご了承くださいまし

ゲームマスターより

お世話になっております、上澤そらです。
相変わらずのヘナチョコヘッポコですが何卒よろしくお願いいたします。

お食事メインのジューンブライドものでございます。
結婚を題材にお話するもよし、まったく関係ないノリでも大歓迎です!
美味しく食べられればいーじゃなぁーーい。

EXのためアドリブやら他者様との絡みとか出てくる可能性がございまする。
ドレス談義に花を咲かせたり、新郎のタキシードは何色派なのか、などなど
妄想繰り広げていただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたしますっ。いぇあ!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

 

「イベリン、の、祭壇…!」
考古大好き人、遺跡見る感覚で興味津々

〇食事
式場のレストランと聞いていたので、気持ちいつもより身なりきちっとしつつ
料理の綺麗さや雰囲気に緊張
「ヒューリ…慣れ、る?」
「うん。好き嫌い、は、無いかな」
次第に緊張解け楽しく雑談

「ごっふ!?」
…していたら、思わぬ質問にむせた
「ぼ、僕は…まだそういう、こと、考えたこと…ない、よっ」
「ヒューリこそ…あ、れ?そういえ、ば、ヒューリ…いくつ?」←

●素直効果
「あ、の…誰、か…気になる、人、いるなら…」もご
「でででも…出来たら、僕と、の、ウィンクルム、は続けてもらえる、と…」もごもご

「そ、そっか」
心から安堵
お料理、一段と美味しく感じる



リゼット(アンリ)
 
どのドレスも素敵ね
でも私の背じゃ着こなせない…
「ほんと、それならかわいいかも…って、あんたには関係ないでしょ!
何で見透かしたみたいにいつもいつも…!

前は畏まった場での食事の時はアンリの心配をしたものだけど
意外と行儀いいのよね。様になってるというか

「さっきのドレスの話。なんだか女性の服を慣れてるみたいだったわね

「し、食事が冷めてしまうわよ!さっさと食べなさいよね!

深い意味なんてないんでしょうけどいつもいつも…!

「あんたは結婚…しないの?もうしててもいい年頃でしょ?

タキシード、似合うんでしょうね
それこそ王子様みたいに。隣には素敵な…
って聞いた私がバカだった!

「言われなくてもするわよ!このバカ犬!


藍玉(セリング)
 
チケット貰った事教えないと後でばれた時煩いと思って仕方なく誘った
「ご機嫌ですね」

精霊にケーキ展示のところへ引っ張られる
「ちょっ…祭壇とか見たいんですけど!」
興奮気味の精霊に「人いますから!」「もう少し静かにして下さい!」と小声で注意するも、精霊は聞いていない様子。仕方なく周囲に頭を下げる
(何で私が……もう嫌ですこの精霊)
溜息ついて放置、たまに適当に相槌

食事時には疲れてるが、一口食べ感動
「美味しいです……」
素直にポロッと感想が出るが無意識
精霊の薀蓄も知らない事には素直に感心
美味しそうに食べる精霊を見て(こんなに喜ぶなら、また食べ物関係なら誘うとしますか)
と思ったつもりが、ポロッと口に出してる



アンダンテ(サフィール)
 

無料…、いい響きね!
ぜひ行きましょう

ドレスって一口にいっても色々と種類があるのね、どれも素敵だわ
流石にプロは見てる所が違うわね(感心

食事中
マナーは見よう見まねだが美味しく頂く

あんな感じの祭壇で、結婚式を挙げられたら素敵よね
私だって女だもの、結婚式やドレスはいくつになっても憧れよ
…年齢は、まあ、気づいたら重ねているものよ(目逸らし

じゃあ私が結婚する時にはサフィールさんにドレスを仕立てて欲しいわ
きっと私に似合う素敵なものを作ってくれそうだもの

……
いえ、想像してみたんだけど隣にいるのがサフィールさんだったのよね
あっ、なんか言葉にしてみたらすごく恥ずかしいわねこれ
いえ、嫌な訳じゃないんだけれども…



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
 
『挙式もできるレストラン』という事は。
「世間の評価的には、式場よりもレストランがメインと認識されているって言う事なのでしょうか」
とうっかり呟いたら。
ミュラーさんがじーっと私を見つめて。
……あ。
「そうですね、式場も素敵です」(あせあせ)。
そんな超評判のレストラン。とっても楽しみです。

ドレスも見ますね。
これはバストサイズが大切かも(しょんぼり。
つるぺたんだと寂しいです。
もっと牛乳を飲まなくては!と心に強く誓います。
ミュラーさんは軍服礼装っぽいのがとても似合いそうです。

お料理はフォアグラ以外で。
フィレ肉のグリルがとても柔らかく美味しいです。
将来こんな所で…(将来の結婚式とか色々妄想し我に返り赤面。



●結婚式場なの?レストランなの?
 ここはイベリン領にある一つの結婚式場『ル・ソイル』
 愛の女神ジェンマを奉るこの式場の祭壇で愛を誓えば、愛に溢れた人生を送れる……という噂が立つ程人気の結婚式場の一つだ。
 だが、人気の秘密はそれだけではない。
 披露宴用に併設されたレストラン『アヴニール』
 此方の料理が絶品だ、と式場参加者の口コミが広がったのだ。
 元々閑散期にはレストランとして一般客も利用が出来たが、今や『式場は空いているけどアヴニールが利用できないから式を延期する!』等、逆転現象も起こる始末だったりもする。

 そんな式場施設に、五組のウィンクルムが案内をされた。
 レストランに向かうよりも先に案内されたのは結婚式場の肝、愛を誓う場所であるチャペルだ。
 白を基調にした内装、そして細かな彫刻が施された柱や壁。正面の窓は壮大なステンドグラスとなっており、外の光により厳かな雰囲気を醸し出している。
 中央の祭壇には愛の女神、ジェンマを模した大理石の像が祀られている。その優美な微笑みは見る者に柔らかな印象を与える。
 音楽の都でもあるイベリン領らしく、大きなパイプオルガンが設置され、会場には様々な花が溢れていた。
「この後、順にケーキの展示場とドレスの展示場を開放いたします。それまで少々、こちらでチャペルの雰囲気をお楽しみください」
 同行していたコンシェルジュが皆へ流れを説明する。
「定刻になりましたらレストランにて試食会を行わせていただきます。まだ時間はありますので、ゆっくりお楽しみくださいませ」
 そう言うと、上品な女性は微笑みながら一礼し。ウィンクルム達の元を離れた。

 自由時間となると、すぐに式場内をキラキラした瞳で動き回るのは篠宮潤。
 場所を考え、いつもよりキッチリとした服装に着飾った潤は新鮮に見える。
 が、未知のモノや遺跡などが大好き!史学科の大学生である彼女にとって、初めて見るイベリン領の祭壇は新鮮で興味深くて仕方がない模様。
「イ、イベリン、の、祭壇……!!」
 大きな瞳を輝かせ、ジィッと見入ったかと思えば、他の柱と見比べるためにせわしなく動く姿。その姿はまるで反復横跳びのよう。紫色のショートカットがサラリと揺れる。
(ウル、楽しんでいるな)
 そんな潤を一歩引いた場所から見守るのは、彼女の精霊である狼型テイルスのヒュリアス。
 着飾っていても、中身はいつもの潤。楽しそうな彼女に口を挟まず、金色の瞳をやや細め。
 己も潤と同様に祭壇の装飾を見て楽しむのであった。

 ウキウキとした気持ちを全面に、楽しそうな笑みを見せるのはアンダンテも同じ。
 占い師モードではあるが、そのヴェールやエキゾチックな衣装がチャペルの厳かな雰囲気とマッチし、更に神秘的に見える。濃淡のある藤色の髪を揺らし、祭壇を眺める様はいつも以上に美しく見える、が。
(無料……いい響きね!)
 ……試食会が無料なことに喜びを現しているとは誰も思わないだろう。
 アンダンテの隣に居る無表情系イケメンポブルスのサフィールも『無料は確かにいいものだ』と同行を決めたクチである。
 しかしそうは言うものの、仕立て屋に努めるサフィールに取って他の地域の装飾等を見るのは刺激にもなるようで。
 表情筋こそ動かないものの、いつものローテンションよりは気持ち高めなのであった。
 
 チャペルの雰囲気に息を飲むのはリゼット。
 裕福な家庭で育ったお嬢様、いくらか結婚式に出席をした経験はあれども、何度味わってもこの雰囲気は特別で、女子の憧れであり、胸をトキメかせるわけで。
 隣で周りを見渡しているリゼットの精霊であるアンリ。見た目は王子様な彼がこの場所に立つのはとても似合う、とリゼットは思う。不本意ながら、性格はともかくアンリの顔や容姿は彼女にとってはドストライクなのだ。
 そんな彼はチャペルの装飾等よりも、設置されたパイプオルガンに心を奪われている模様。
 残念ながら触れることは叶わないが
(こーいった場所でライブってのも新鮮で面白そうだよなぁ)
 とこっそり妄想を繰り広げていたのだった。

 そんなウィンクルム達を、瀬谷 瑞希は真剣な表情で見ては、静かに考察を繰り広げていた。
 周りの様子を伺いつつ、思う。
(挙式もできるレストラン……ということは)
 瑞希が小首を傾げれば、彼女のサラサラな黒髪ポニーテールが揺れ。
「世間の評価的には、式場よりもレストランがメインと認識されているって言う事なのでしょうか」
 ついついうっかりと思いが唇から洩れる。
 そんな何気ない呟きに、瑞希の精霊であるフェルン・ミュラーも
「そうだね、式場メインなら『料理の美味しい結婚式場』って評判に……」
 そこでミュラーはハッとした表情を見せた。
 ついつい感じたままを口に出してしまうのはこの土地柄のせいなのか、彼女の元々の性格か。一つ、咳払いをし瑞希へと視線を送る。
「……あ。」
 その視線に気付いた瑞希が慌てて口を抑えた。彼は己の唇の前に人差し指を添え『しーっ』とした仕草を見せれば、近くを従業員が会釈をし通り過ぎて行くのが見えた。
「そ、そうですね、式場も素敵です」
 会話が聞かれていた模様はないが、瑞希は慌ててキョロキョロと周りを見渡し式場の装飾を褒め称える。
「ここ、結婚式場のレストランだし。式場としても遜色ないよ」
 ミュラーがにっこりとした笑みを見せる。だがその表情は瑞希に対する『わかってるよね?』という意を含め。
(ミズキは時々思った事をウッカリ正直に言っちゃうね)
 内心苦笑するミュラーであった。

 一際大柄なディアボロの青年、セリングはそれはそれは上機嫌だった。
 普段はダルそうな表情を見せる彼だが、今日はウキウキとした雰囲気を隠せていないし、隠そうともしない。
 珍しいセリングの表情に、彼の神人である藍玉はやや面食らった表情を見せた。
 チケットを貰ったことを教えなかった!となれば後で煩いだろう……と仕方なく誘った今回のイベント。
 面倒なことは嫌いな彼、断られる可能性もあるかも……とさえ考えていたが、蓋を開けてみれば二つ返事で「行く」との返答。
「ご機嫌ですね」
 鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気のセリングに、つい言葉が出る。
「当たり前じゃん、ここ前から行きたいと思っていた店だし」
(意外……) 
 そう思いつつ、藍玉は周りを見渡すセリングと共に祭壇を眺める。
 図書館の司書をする彼女は本でイベリンの祭壇を見ることはあっても、やはり写真と間近で見るのとは印象が違う。
 柱に刻まれた細かな花の彫刻も繊細で美しい。
(タブロスでは見かけない花の彫刻……実際に咲く花も見たいですね) 
 いつの間にか、藍玉の隣で潤も同じ彫刻を観察していた。
「こ、れ……凄い、ね。細かく、て、丁寧、だ……」
 潤の呟きに藍玉も思わず同意する。
「そうですね。こんな小さな彫刻の動物の瞳にまでしっかりと気を遣ってるのは驚きです」
 2人が顔を見合わせる。会議室で会ったことはあっても、きっとしっかりと話すのは初めてだろう。人見知り系神人同士、どこか馬が合うのかもしれない。
 ジックリと細部まで見る藍玉と潤の背に、突然声がかかる。
「おい、ケーキ展示が始まったぞ」
「あぁ、そうですか」
 そう返事をする藍玉に、セリングは苛立ちを見せた。
「そんな腹の足しにならないもの見ても意味ないじゃん、いいからこっち!」
 動く気配のない彼女の手をググッと掴むセリング。
「ちょっ……祭壇とか見たいんですけど!」
「食事後にでもゆっくり見ればいいだろ?ほら、行くぞっ」
 突っ張ってみるが、女性にしては身長高めな藍玉ではあるものの、2メートル近い身長を持ち細マッチョなセリングにとっては藍玉を連れ出すことは簡単なことで。
「ケーキィ~ウェディング~」
 ご機嫌な謎の鼻歌と共に、二人はウェディングケーキの展示室へと向かって行った。
「ウル。俺達も行くか」
 神人同士の交流を微笑ましく見ていたヒュリアスも、潤に声をかければ。
「う、ん……!」
 と大きく頷くのだった。


●ケーキ!ケーキ!ケーキ!
 ウェディングケーキの展示室が開かれれば、自然と皆が其方へと移動していく。いやむしろセリングの鼻歌に連られて、だろうか。
「うっわ、すっごい!!」
 部屋に入るなりセリングが思わず声をあげた。
 まず視界に入るのは、クリスマスツリーか!?と思う程に背丈の高いウェディングケーキ。天井に届くのでは!?と思えるほどのそのケーキはオーソドックスな白を基調に、苺やフルーツ、マジパンで作られたピンクのリボンで華やかに飾られている。
 イベリン領の有名貴族の結婚式に使用されたもののレプリカ、と記載がされている。
 1、2、3、4…と潤が段数を数えて行けば……10、という言葉と
「10段もありますね」
 と藍玉の呟きが重なる。
「これ、食べきれ、る……かな?」
「どうだろうな。こんな大きなケーキを作る位だから参列者も多いだろうし……消費できるのではないか?」
 そんな潤とヒュリアスの会話に、傍に居たセリングが応えた。
 テンション高めなセリングにハラハラする藍玉だが。
「流石にこの大きさだと全部が生ケーキってことは少ないだろうな。新郎新婦の入刀部分だけ本物のケーキ、後は恐らく似せたものだろう」
 ジト目、猫背、高身長!と潤にとってはビクビク対象であろうが、楽しそうに語るセリングの姿はどこか子供のような純粋さも見えて。潤は自然に口の端に笑みが出来た。
「そう、なん……だ……」
「へぇえ。ねぇねぇ、じゃあこっちのケーキの場合は?」
 会話を聞いていたアンダンテは、セリングに声をかけ四角いタイプのケーキを指さす。
 高さがなく、プレゼントボックスのような長方形のウェディングケーキ。こちらもマジパンのリボンやマカロンでデコレーションされ、まるで宝石箱のようだ。
「おおっ!このケーキも綺麗だなぁっ!この大きさだと全て生ケーキでイケそうだな。切り分けるのも難しくないし、そのまま参加者に振舞えるはずだ」
 へぇえ、とアンダンテがその言葉を聞けば、サフィールも頷く。
「菓子でもこういった細工ができるのは凄いな」
 シアン色の瞳はジィッとチョコレートで作られた薔薇細工に見入る。
「これは大理石で出来たテーブルにチョコを薄く延ばして、だな……」
 グルメエッセイスト兼グルメアドバイザーであるセリングの本領発揮!とばかりにそこに居る皆へ解りやすく伝える。
 その姿にリゼットやアンリも興味深く聞き入った。
「うぅ……美味そう。見てると腹減ってくるぜ」
 そんなアンリに『ムードがないわね』といった表情を見せるリゼットではあったが
「そう!こういうケーキでちゃんと『美味しそう』って思わせるのが大事なんだよな!見た目は『楽しい』と『美味しそう』を両立させて、味は美味しいのは勿論驚きもある!ってのが一番だよねぇ」
 段々とヒートアップして行くセリングだったが、食べもの大好き!なアンリは「そうそう!」と同意する。
「セリングさん、もう少し静かに話してくださいっ。人がいるんですからっ」
 藍玉が小声でセリングに注意を促すも。
「大丈夫ですよ。私達しかいませんし、不快な思いなんてしていませんから。むしろ知識が深くて聞いていて楽しいです」
 リゼットが優雅な笑みを浮かべ藍玉に伝えれば、スイーツ大好き!な瑞希もコクコクと頷いた。
 気づけば、セリングの周りにはヒュリアスや精霊達が集まりケーキ談義やケーキの文化、流行の流れ等、ケーキ自体に興味のない者にもわかりやすく伝えていた。
 女性陣は見目麗しいケーキにうっとりとした表情を見せ、その味は勿論、ケーキ入刀する場面などを想像し楽しむのであった。
「……皆さん、女子力が高いです」
 そんなことを瑞希が考えていれば、ドレスの展示場が開放された旨が皆に伝えられるのだった。


●ドレス!ドレス!ドレス!
 ウェディングドレスの展示室へと足を踏み入れれば女性陣が『はわわぁあ☆』と声に出さない声を上げ、瞳がキラキラと輝いた。
 目に入る白、フリル、レース。
 女性が好む要素たっぷり詰まり、窓から差す太陽の光がレースを透かし、ラメを輝かせている。
「ドレスって一口にいっても色々と種類があるのね。……どれも素敵だわ」
 うっとりとした表情でアンダンテがほふぅ、と息をつく。視力は低めではあるが、その美しさはしっかりと心に伝わってくる。
 瑞希やリゼット、藍玉も同様にうっとりとした表情を見せ、様々なドレスに目を向け心を躍らせる。
 そして各々が自由にドレスの展示を見て回った。

(どのドレスも素敵ね……)
 見るからに楽しそうなリゼット。
 男性用の衣装も展示されているのだが、それ以上にリゼットの反応を見ている方が有意義な時間を過ごせそうだ、と判断したアンリは一歩引いて彼女の同行を見守った。
(ドレスが見たいだなんてリズも女の子だったんだな)
 くく、と笑えば彼女がやや小首を傾げ、考え込む姿が目に入る。
 彼女の見上げる視線は、目の前にあるスラリとしたマネキンが着用するウェディングドレス。スマートなマーメイドラインのそのドレスは大人っぽく、身体のラインが出るドレスだった。
(でも、私の背じゃ着こなせない……)
 リゼットが周りの女性陣と己を見比べ……肩を落とす。
(あ、凹んだ)
 付き合いの長さからか、彼女の考えていることがなんとなくわかってくるようになったアンリ。
 彼女の視線と動きから
(……マネキンも、一緒に来た神人もみんなスラッとしてんもんな……)
 一瞬思案し、アンリは一つのドレスを見つけた。
 今尚肩を落としているリゼットをチョイチョイっと呼べば、リゼットは「何よ?」と言いながらも着いてきた。
「ほら。こんなチュールのふわっとしたドレスに長いヴェールを合わせたらリゼットに似合うんじゃね?」
 目の前にはお姫様が着るような下半身にボリュームのあるタイプのウェディングドレス。
 可愛くなりすぎる感があるプリンセスドレスだが、そのドレスのデザインにより可愛くも清楚な雰囲気を醸し出している。
 わぁ、とリゼットの目がドレスに奪われる。
「下にボリュームを出して、胸のほうはむしろシンプルに。ブーケ持つんだし過剰の装飾は要らないと思う。リズの場合髪おろしても纏めてもどっちもイケると思う」
「ほんと、それなら可愛いかも……って!あんたには関係ないでしょ!」
 一瞬、アンリが言う通りの自分の姿が脳裏に浮かぶも、頭を振って現実に戻るリゼット。
「えー、似合うと思うぜー」
 リゼットの抗議にもへラリと笑い。リゼットは口ではそう言いつつも、気を悪くした風に思っていないのが易々とわかる。
「なんで見透かしたようにいつもいつも……!」
 ぐぐ、と怒りとも恥ずかしさともつかない表情を見せるリゼットに、アンリはまたも笑むのだった。

 さてもう1人、己の体形に悩む者がここにも。
 開いた胸のドレスを見て、己の胸元と見比べる。
 ……しょんもり、といった表情があからさまなのは瑞希だ。
(……うぅ、これはバストサイズが大切かも……。つるぺたんだと寂しいです)
 なぜにマネキンはそんな良いバストなのか。平均を知っているのか、と問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。
 そんな瑞希の様子に気づいていないようなミュラーはのんびりとドレスに見入っている。
「ドレスは華やかなデザインが多くて良いね」
「そうですね……」
 若干生返事に聞こえるのは、瑞希が心の中で
(もっと牛乳飲まなくては!もっと牛乳飲まなくては!)
 と心に強く誓っているせいもある。
「ミズキは可愛らしいデザインのものが似合いそう。ほら、これみたいな」
 ミュラーの言葉に瑞希が顔を上げれば、それはフリルやレースがふんだんに使われたお姫様のようなドレス。
「可愛い……!」
 たっぷりのフリルに、思わず自分の瞳が輝く。胸元は派手に花が飾られ。これなら寂しい胸元でも大丈夫!とまで彼が考えているとは到底思えないが。
 思わぬ所でミュラーが見立ててくれたのも、凄く嬉しくて。
「ありがとうございます。それじゃあ……」
 瑞希は周りをキョロキョロし、新郎用の服装を見つけた。
「ミュラーさんはこんな、軍服礼装っぽいのがとても似合いそうです」
 瑞希が指したのは、カッチリとした軍服風衣装。
 刺繍が入り、肩からは飾緒。ミュラーの騎士的な雰囲気が瑞希にこの衣装を選ばせたのだろう。
「結婚式では花嫁さんが主役……新郎の衣装はそれに合わせて、程度で良いとおもうけど」
 そう言いつつも、やはり自分に合うものを勧めてもらえるのは嬉しく思え、ターコイズブルーの瞳が柔らかく細まった。
「でも、選んでくれてありがとう」
 そうかミズキは制服系が好きなのか……と新たな一面を発見できたことも何だか嬉しく感じるミュラーだった。

 そして、誰よりも真剣な眼差しをドレスに注ぐのはサフィール。
 真剣に、またじっくりとドレスを見比べるのはプロの目線だ、とアンダンテは思う。
「ウェディングドレスは白……と言っても、白も色んな白があるものなのね」
 ドレスを見比べ、アンダンテがポソリと呟けば。
「そうなんです。一口に白と言っても、アイボリー寄りだったり、乳白色でしたり……肌の色との合わせもありますからね」
 ドレスだけでなく、しっかり彼女の様子も把握していたようで、アンダンテの問いにサラリと答える。
「へぇ……選ぶのって難しそう」
「そうですね……でも個人的には着たいものを着るのが一番だと思います。仕立て屋としては、そこから着る人により似合うように調整するのも仕事だと思っています」
 ふむふむ、と頷くアンダンテ。サフィールが一つのドレスの前に立つ。
「このようなAラインのドレスは足を長く見せる効果があります。切り替え部分に大きな花飾りがあるのも特徴ですね。視線がここに集まりやすくなります」
「へぇ……確かにそうね」
「着る人によって胸下の切り替え位置を調整できれば、どんな方にも似合うタイプのドレスですね。あとは意外と大事なのが肩のラインです。ビスチェ型にして肩を出すのか、Vネックやハイネック……合わせるアクセサリーによっても印象が変わります」
 熱のこもった説明を続けるサフィールに、アンダンテもうんうんと頷く。
「ねぇ、こっちのドレスだったらアクセサリーはどういうものがいいの?」
「そうですね、それでしたら……」
 アンダンテの素朴な疑問にも真剣に答えてくれるサフィール。いつもクールな印象が強い彼だが、いつも以上に生き生きとした表情を見せているように思える。
 サフィールもまた、様々な質問を投げかけてくれるのは興味を持ってくれているという証拠だろう、とこの時間を大いに楽しんでいた。
「凄いわ、流石にプロは見てることが違うわね」
 感心した表情を見せるアンダンテに、ほんの少しだけはにかむサフィールだった。

 そんなサフィールとは逆に、気持ちは食事に行きっぱなしなのはセリング。
「もう、そんなあからさまな顔しないでくださいっ」
 頬を膨らませる藍玉に
「だって、腹膨れないし……」
 と、意識は既に試食会へ。そんなセリングを見て、サフィールは
「あの位背が高いとフロックコートが決まりそうですね」
 と呟いた。
「上着の長いタイプの礼服です。オーソドックスな黒よりはシルバー系が似合いそうです」
 その言葉に、セリングが興味を示した。服飾を専門する者に見繕ってもらって嬉しいやら気恥ずかしいやら。
「藍玉さんはスレンダーで背も高くていらっしゃるから……私はマーメイドドレスを推しますね。勿論、可愛いものでも似合うと思いますが、フロックコートの隣となるとやはりマーメイドが……」
「ちょっ!ちょっと、素敵なドレスを教えてくれて嬉しいけれど、隣をこの人で想像するのは勘弁してくださいっ」
 赤面しつつ藍玉が応えれば、負けじとセリングも
「俺だってこんな女嫌だっ」
「まーまーまーまー」
 そんな2人に割って入ってきたのはアンリ。にこやかな笑みを浮かべ
「相手が誰だっていいじゃん。せっかく似合うの教えてくれてるんだし、晴れの場所に喧嘩は野暮だぜ?」
 気さくな彼に場が和む。そして
「なぁサフィール、俺だったらどんなの似合う?」
「そうですね……」
 アンリを見て思案するサフィールの脳裏に可愛いホルターネックの白いドレスを着た少女の姿が何故か浮かんだがそれは幻覚です。
「個人的には白が映えると思います。中は暗色系の小物で引き締めて……オーソドックスなタキシードタイプが似合いそうですね」
 でも、どんなものでも似合うと思いますが、と付け加えれば
「な、な、リズ。やっぱり俺、どんな衣装も似合うってー!」
 ご機嫌なアンリに
「うるさいわよ、喜びすぎよこのバカ犬!」
 リゼットが小突けば、周りに笑みが浮かんだ。

 そんな女性陣が多い中、潤は。
(この、文様……タブロス、では……見かけない、です。珍し、い……!)
 ドレスのレースの一部分をじーーっくりと見て、動かない。
 そんな潤の姿を眺め
(……なんだろう?)
 ドレスの一点を見つめる潤の姿に、何故か違和感を感じるヒュリアス。
 確かに潤も他の神人と同じく、楽しそうだ。だが、こう……なんだろう。
 ドレスを楽しそうに見ている姿は一緒のハズだが……そんなヒュリアスの視線に気付いた潤が彼に声をかけた。
「…ヒューリ、見、て?」
 そこにあったのは、いつか見たルビーのティアラ。同じものではないかもしれないが、同タイプに思える。
「…また…会えた、ね」
 そう笑う潤に、ヒュリアスもいつかの撮影を思い出し笑みを浮かべるのだった。
 相変わらず違和感の正体には気づけないものの……それはそれでいいではないか、と思いながら。

 こうして、思い思いの時間を過ごすうちに試食会開始の時間となった。
 ウィンクルム達は試食会場であるレストランに呼ばれ、それぞれの席へと腰かけた。


●アミューズ
 食事が提供される頃には、藍玉はすっかり疲れ切っていた。
 ケーキ展示でのセリング無双。まさか彼がここまで饒舌に、また子供のように瞳を輝かせる姿などまったくもって想像していなかったからだ。
 周りは良しとしていてはくれたが、見ている方は気が気でない。
 
 そんな2人に供されたのは、前菜。
「ズッキーニのグラチネ・ミルフィーユ仕立てでございます」
 コトリ、と置かれた皿の上には藍玉から見れば『これはなんだろう……』と思う代物で。
 お洒落な皿の上には香ばしく焼き目の付いたズッキーニと思わしきもの。それがミルフィーユのようにクリームを挟み、重なりを見せている。
 更にオレンジ色のソースがハート形に添えられているのがなんとも可愛い。
「ふぅん」

 その料理を前に、セリングはマジマジと料理に見入る。
「よし、冷めないうちに食べよう」
 慣れた手つきで外側からナイフとフォークを取り、ズッキーニを捉える彼の所作。藍玉も見様見真似しつつ、ズッキーニを頬張った。
「……美味しいです……!」
 一口食べ、無意識に感想が零れた。
 食べたことない味に感動し頬を綻ばせる。
 今までの疲労感が飛んでいきそうです、と思いながら黙々とフォークとナイフを動かす。
 一口一口を大事に、じっくりと味わう藍玉の表情を見、セリングも満足そうな表情を浮かべた。
「あぁ、美味い。これは丁寧な仕事してるな」
「色んな味がするのに……ちゃんと味が纏まっていて凄いです」
 ズッキーニの野菜の甘み、そして間に挟まれているのはチーズ系のクリームだろうか。
 上部のクリームは焼き目が付き、香ばしさを高めている。
「そうだな。この周りのソースで更にガラリと印象が変わる」
 このオレンジ色のソースはなんでしょう?と思うもそれがわからず藍玉は首を捻る。
「あぁ、多分それはアメリケーヌソースがベースだな」
「アメリケーヌ?」
「んー、簡単に言えば海老とか蟹とかの殻を煮込んで濃縮した出汁を生クリームで伸ばしたソース、かな。海老のコクが感じられるんだ」
 あぁ、確かに!と藍玉が頷きつつモグモグと食べれば。
「それじゃあ、さっき店員が言ってた『グラチネ』ってわかるか?」
 フルフルと藍玉が首を振れば、長めのボブカットが揺れ。
「焼き色を付けることを言うんだ。ほら、グラタンってあるだろ?あれみたいな感じで、オーブンで焼き色を付けるんだ」
「そうなんですね。料理用語、難しそうですが知ると面白いものですね」
 決して自慢げでも押しつけでもなく。ただ知識を伝えたい、という思いのセリングの言葉。藍玉は素直に感心した表情を見せる。
 様々な素材を使い、しかし調和させ素材以上の美味しさを引き出す。
 きっと藍玉とセリングも異なるタイプではあるけれど、これから進む道によってしっかり調和できる日が来るかもしれない。
 そんな風に思う藍玉だった。
 
 
●オードブル
 たくさん珍しいものが見られた、と潤はホクホクとした表情を見せていた。
 しかし改まった場所でのお食事、となればやや緊張を隠せずにいる。
 前菜の次に供されたのはオードブル。
「サーモンの柚子胡椒マリネでございます」
 柚子胡椒入りのビネガーで〆られたサーモンに、ボイルして甘みが出されたカブ。
 ピックが刺さり一口サイズで食べやすそうな一皿だ。
 潤がそれをパクリ、と食べる。
「ん……美味し、い……」
 緊張していた心も、食べ慣れた和テイストの味にほっこりとした気持ちとなる。
 ヒュリアスもパクリと食べては満足そうな表情を見せた。
 自分よりはだいぶ落ち着いて料理を楽しむヒュリアスに
「ヒューリ……慣れて、る?」
「慣れているわけではない。曖昧に知識として知っていただけだ。それに」
 周りを見渡せば、顔馴染みとなったウィンクルム達の姿。
 当たり前に周囲を観察し、合わせるだけ。
 合わせるのは得意だ……というのは過去を語った今、自嘲になってしまいそうで言葉は胸に仕舞った。
 潤はヒュリアスが周りを見る視線を受け、そう緊張するものでもない、と悟る。
 誰かに何かを叱られるわけでもない。それに、此処には共に戦う仲間やヒュリアスが居る。
 そう思うと緊張がほぐれて行くのが自分でもわかった。
「ウルは好き嫌いなどはないのかね?」
 ヒュリアスの問いに潤は一呼吸考えながらも
「……うん。好き嫌い、は、無いかな」
 笑んでそう返せば、二人は好きな食べ物の話題で盛り上がった。
「そういえば」
 ヒュリアスがはた、と思い出したように声を上げた。
 その声に潤が小首を傾げながら炭酸水で喉を潤せば。
「ウルの年齢は、女性の結婚適齢期、というものではないのかね?」
「ごっふっ!?」
 予想外のヒュリアスの問いかけに潤は思わずむせてしまう。
 が、あくまでもヒュリアスに他意はなく「どうした?喉に詰まったのか?」と真剣に心配な表情。
 確かに22歳なら結婚を意識してもおかしくないお年頃。
「ぼ、僕は……まだそういう、こと、考えたこと……なうい、よっ」
 そう紡がれる潤の言葉に、ヒュリアスはそうなのか、と頷いた。
「そう、言う、ヒューリこそ……」
 同じ言葉を返そう、と思った潤だったが、ハタと気付いた。
「あ、れ?そういえば、ヒューリ……いくつ?」
 一瞬の沈黙。
 そう言えば、知らなかったと潤は思う。
 そして
「さて……正確さに欠けるが……30前後だろうかね」
 不確定な年齢に潤は驚くも。
「な、ら。ヒューリも、結婚、適齢、期……だね」
 彼の言葉に微笑んだ。少しだけ、曖昧な色を残しながら。


●スープ
 オードブルの次に出てきたのは、スープ。
「グリーンアスパラガスのポタージュスープでございます」
 アンダンテとサフィールの前に鮮やかな緑色のスープが供された。
「わぁ、綺麗……」
 鮮やかな緑のスープの上には生クリームで柔らかな曲線が描かれ、ボイルしたアスパラガス、また色味としてトマトが飾られている。
 アンダンテは見様見真似でスープをいただけば、その自然な甘みに「美味しい……」と呟いた。
 サフィールは相変わらず表情は崩さないものの、食べ進める姿から満足している様子が伝わってくるようだった。
「それにしても……」
 アンダンテは先程まで見ていた光景を思い返す。
「あんな感じの祭壇で、結婚式を挙げられたら素敵よね」
 その言葉にナフキンで口を拭っていたサフィールが首を傾げた。
「アンダンテも憧れがあるんですか?」
 やや驚いたように目を見開き、アンダンテに問う。正直、今までの行動から彼女に結婚願望があるように思えなかったらだ。
「私だって女だもの、結婚式やドレスはいくつになっても憧れよ?」
 拗ねたような表情を見せるアンダンテ。
「いくつになっても?」 
 そう言えば彼女の実年齢を知らない、と思う。
 見た目だけなら二十代前半位だろうか。しかし時折見せる大人っぽさ、そして子供のような可愛らしさに『年齢不詳』という言葉がここまで似合う女性もなかなかいない。
「……年齢は、まぁ、気づいていたら重ねているものよ」
 露骨に目を逸らすアンダンテにそれ以上サフィールは突っ込まなかった。
(……本当に、いくつなんだろうな)
 そう思い、シアンの瞳がアンダンテを見つめる。
 その視線を感じ取り、アンダンテが明るく声を上げた。
「ねぇ。じゃあ私が結婚する時にはサフィールさんに仕立てて欲しいわ。きっと私に似合う素敵なものを作ってくれそうだもの!それで……」
 先程の衣装に対する熱意、そして厳かなチャペルを思い出しアンダンテは目を閉じる。
 ウェディングドレスを着用し、大事な旅芸人の仲間達に祝福され……静々と進み出て行けば、そこで待ち受けているのは……

 ……………。


「どうしましたか?」
 不自然に訪れた間にサフィールが声をかける。
 ややアンダンテの頬が朱に染まっているようにも見える。少し口籠りながらも
「いえ、想像してみたんだけど……隣にいるのが」
 いつもだったら言えないようなセリフ。しかしその想いは胸の中に留めるだけには出来なかった。これは、イベリンの花の効果だろうか。
「隣に居るのが、サフィールさんだったのよね」
 その言葉にサフィールは面食らい、徐々に己の頬が熱くなっていくのを感じた。
 みるみる彼の頬が朱に染まるのを見て、アンダンテが慌てて手をパタパタと振る。
「あっ。なんか言葉にしてみたら凄く恥ずかしいわね、これ。あ、いえ、嫌な訳じゃないんだけれども……」
 2人してお酒を嗜んだかの如く頬が染まる。少しの沈黙の後、口を開いたのはサフィールで。
「俺も、嫌な訳ではないですが……」
 そう小さな声で呟くが、果たしてアンダンテは聞き取れたのだろうか。
「あ、すみません。お水を二ついただけますか」
 彼女の顔を見れず、サフィールはウェイターを呼び熱を収めるための水を頼むのだった。


●魚料理
「帆立貝と真鯛の蒸し煮 タプナードソース 温野菜添えです」
 スープの次に現れたのは魚料理。
 彩りよく飾られた皿は見た目にも美しい。
 食事が始まる前は「メシだメシ!」とはしゃぐアンリであったが、一度着席すればすっかりと紳士モード。
(本当ならガツガツかぶりつきたいところだけれど……リズに文句言われんようにマナー遵守でいただくぞ)
 その決意をしっかりと実行していたわけで。
 紳士的にナイフとフォークを取り、優雅な手つきで帆立貝にナイフを入れ、口に運ぶアンリ。
(前は畏まった場所での食事の時はアンリの心配をしたものだけど……意外と行儀いいのよね)
 アンリ同じく食事を口に運びつつ、彼の姿をチラリと見れば。普段共に食事をする位の高い者達と遜色は無い、とリゼットは思う。
 様になっている、というか……。
「しかし、量が少ないのが残念だ。もっと多くてもいいのにな。帰りラーメン食おう」
 様になっていたのに、この発言。リゼットは肩を落とした。
「仕方ないでしょ、試食会なんだから。ライトコースとしては十分な量よ?」
「じゃあリズの分も食わせろよ」
 そう言いリゼットの更にフォークを向けようとするアンリに
「バカ犬っ。待て」
 まるで飼い主の如き物言いにアンリがビクリと一瞬止まり、唇を尖らせた。彼の耳はペタリ、と伏せられる。
 はぁ、とリゼットがため息をつき。そして先程、ふと思ったことを口に出した。
「ねぇ、さっきのドレスの話。なんだか女性の服を慣れてるみたいだったわね」
「ん?」
 彼のフォークが一瞬止まる。どこかリゼットの表情は挑戦的というか、なんというか……
(妬いてんのか?可愛い奴)
「あー。慣れてるっつーか……いっつもリズのこと見てたら何が似合うかくらいわかるだろ」
 そう彼女をチラリと見ながら言えば、リゼットの表情がみるみる赤く染まっていき
「しょ、食事が冷めてしまうわよ!さっさと食べなさいよね!」
 ぷい、と顔を背け黙々と魚を頬張るリゼット。
(深い意味なんてないんでしょうけど、いつもいつも……!)
 悔しい。余裕で大人なアンリの姿と行動に、悔しさや複雑な思いが絡み合うリゼットだった。


●肉料理
「牛フィレ肉のグリル ハニーマスタードソースです」
 いよいよ、メインの肉料理が瑞希とミュラーに提供された。
 2人が肉にナイフを入れれば、肉は力を入れずともスンナリと刃が食い込む。
 その柔らかさに期待しつつ、口に運べば…
「「美味しい……!」」
 2人の声が見事に合わさった。
 ホロホロと口の中でとろけていくような柔らかな肉。そして甘酸っぱくコクのあるマスタードソースが喉に心地良い。
「メインがフォアグラだったらどうしよう、と思ったんですが……フィレ肉のグリルがとても柔らかく美味しいです」
 ニッコリと笑む瑞希。
「それはよかった」
 実は、瑞希がフォアグラが苦手と知り、事前に問い合わせをしていたのだが、フォアグラは今回のメニューにはないと聞いていたのだった。
 また、フォアグラに近い味のものも避けるように手配をしてくれた。
「さすが、評判のレストラン。凄く美味しい」
 2人で美味しいものを味わえば、自然と会話は増える。
「ミュラーさんは苦手な食べ物とかってありますか?」
「嫌いな食べ物?俺は……」
 2人の会話は美味しいお肉と共に弾むのだった。


●デザート
 食事の提供が終わり、最後はデザートとカフェが提供された。
 各々の好みの飲み物と共に、各テーブルに可愛らしいフルーツタルトが置かれる。
 ハート形のタルト生地の中にはたっぷりシロップの打たれたビスキュイと、甘さ控えめだがバニラの香りが高いカスタードクリーム。
 その上には苺やブルーベリー。丸くくり抜かれたメロンなどがカラフルに飾り付けられていた。

「ねぇ」
 リゼットがタルトに舌鼓を打つも、アンリに問いかける。
「あんたは結婚……しないの?もうしてもいい年頃でしょ?」
 リゼットの脳裏に浮かぶ、アンリのタキシード姿。アイドル姿同様、きっと王子様のようにキラキラとして似合うだろう。
 隣には素敵な……
「結婚?しねぇよ」
 何を言ってるんだ?とばりにアンリが笑う。そして
「知ってるか、リズ。結婚は人生の墓場だっつー話だ。俺はまだ生きていたい!人生を!青春を!謳歌したい!」
 何言ってんのよ、このバカ犬!聞いた私がバカだった!とリゼットはタルトに乗った苺を頬張る。
「別に負け惜しみじゃないぞ?……あ、でも。リズの花嫁姿は見てみたいから、お前は結婚しろよ?」
「言われなくてもするわよ!このバカ犬!」
 べーっと舌を出すリゼットの表情にアンリは笑う。
(こいつと結婚する奴は退屈しなそうだ)
(ホント……バカ)
 アンリの言葉に、なぜだか苺がさっきよりも酸っぱく感じるリゼットだった。

 デザートを幸せそうに食べる瑞希にミュラーは笑顔を見せた
(とても嬉しそう……素敵だよ)
 常日頃、ミズキの笑顔を増やしたい!と思うミュラーにとって今回の試食会は有意義な時間が過ごせた、と思う。 
 そして微笑むミュラーを見れば、更に瑞希にも笑顔が溢れる。
(将来、こんな所で……)
 沢山の人に祝福され、綺麗なウェディングドレスを着て。
 そして隣には、軍服礼装の旦那様……
 と、そこまで考え瑞希は己の顔が真っ赤に染まるのを感じた。
 ブンブンと頭を振り、冷静な私よ戻ってこい!とばかりに冷たい紅茶で喉を冷やす。
「大丈夫?」
 そう心配するミュラーに
「問題ありません」
 必要以上に冷静に振舞う瑞希だった。

 料理中は勿論、デザートにも目を輝かせ美味しそうに食べるセリング。
 その姿は見ていてとても気持ちの良いものだった。
 こんなに喜んでくれるなら……
(誘ってくれてありがとう)
 と、思わず言いかけそうになったのはセリングの方で。
 料理やデザートに飾られた花のせいか、それともイベリンの花の蜜を使ったハチミツのせいか。
 いつもより素直な気持ちが出やすい雰囲気であったが、セリングはその言葉をグッと飲み込んだ。だが
「こんなに喜ぶなら、また食べ物関係なら誘うとしますか」
 そう考えたのは事実だが、気づけばその言葉は唇から紡がれていた。
 ハッとし、口を覆う藍玉だったが言った言葉はもう戻せない。しかし……口から出た言葉は偽りではない。
「……ありがと」
 そっぽを向き、小声で呟く彼の声。だがしかしハッキリと聞こえたその言葉に藍玉は僅かに笑みを見せるのだった。

 デザートを食べている途中、潤は意を決したように口を開いた。
「ヒュ……ヒューリ。あ、あの、ね……」
 どうした?と潤を見れば、彼女はやや俯き、声を絞り出すところだった。
「あ、の……誰、か……気になる、人、いるなら……」
 もごもご、まごまごと言葉を懸命に考える彼女。ヒュリアスはその次に出てくる言葉を優しい表情で待つ。
「でででも……できたら、僕と、の、ウィンクルム、は……続けてもらえる、と……」
 潤の言葉の意味するところを知り、ヒュリアスはやや驚いた。
 潤はガシッと己の纏う衣服の裾をギュッと掴んでいる。そんな姿がなんともいじらしく、ヒュリアスは笑みが零れた。
「俺も……今はウルで手一杯なのだよ」
 柔らかい声色に潤は頭を上げれば、笑んだヒュリアスと視線が絡まって。
 もごもごしつつも
「そ、そっ、か……」
 胸いっぱいに安堵の気持ちが満ちて行くのを感じた。
「ウル、良かったら食べないかね?」
「え、でも、ヒューリ、の……」
「もう満腹なものでな」
「あ、りがと、う……!」
 嬉しそうにタルトを食べる潤。今日一番の彼女の笑顔を見てヒュリアスの胸も柔らかな暖かさに包まれるのを感じた。

 スープでの会話から、どこか緊張が走り始めたアンダンテとサフィール。
 勿論料理は美味しく、幸せな時間を過ごしていたのだが……お互いに、真っ向からパートナーの顔を見るのは気恥ずかしく。
(言わなきゃよかったかしら……)
 決して悪い雰囲気ではないのだけれど、意識しすぎたかしら……そう思うアンダンテ。
 元々口数が少なく、クールなポーカーフェイサーなサフィール。顔の赤みは取れたようだが何を思っているかはイマイチ掴めないでいた。
 アンダンテはタルトに乗ったブルーベリーをパクリ、と食べる。
「あ」
 不意にサフィールが声を出す。
「ど、どうしたの?」
「忘れていた」
「え?何を?」
「アンダンテのお願い」
 今尚キョトンとするアンダンテに
「素敵なドレスを作って、って言いましたよね。作っても構わないです。約束します」
 自分のお願いの事を覚えていてくれた嬉しさにアンダンテの目が細まった。
「ありがとう、サフィールさん。私に似合う最っっ高のドレスをお願いね」
「かしこまりました」
 茶目っ気のある物言いのアンダンテに、わざと職務的に返すサフィール。
 2人の間に自然な空気が戻るのだった。


●イベリンの愛の鐘
 どこからか、リン、ゴーンと鐘の音が響く。
 心地よいその音と美味しい料理、そして幸せな時間に包まれたウィンクルム達。
「本日はご来店、誠にありがとうございました」
 祭壇の女神像が少し微笑んだ、とか。 



依頼結果:大成功
MVP
名前:藍玉
呼び名:あんた、藍玉
  名前:セリング
呼び名:セリングさん

 

名前:アンダンテ
呼び名:アンダンテ
  名前:サフィール
呼び名:サフィールさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 上澤そら
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月26日
出発日 06月01日 00:00
予定納品日 06月11日

参加者

会議室

  • [6]瀬谷 瑞希

    2015/05/31-23:16 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    挨拶が遅くなりましてごめんなさい。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    プラン提出、出来ました。
    デザートがとても楽しみです!

  • [5]リゼット

    2015/05/31-21:21 

    ご挨拶が遅くなってごめんなさい。
    無料でということだったから、招待券を無駄にしてしまうのももったいないし…
    でもドレスは見てみたいかな…なんて…
    と、とにかく、よろしくお願いね!

  • [4]アンダンテ

    2015/05/31-00:05 

  • [3]藍玉

    2015/05/30-16:26 

    初めまして、藍玉といいます。
    精霊はディアボロのセリングさんです。

    セリングさんが食べ物関係のお仕事してるので、教会もドレスもそっちのけでケーキと食事にまっしぐらになってると思います。
    私も篠宮さんと同じく、教会の方に興味があったんですが……。

    やたらとでかい精霊がうるさくしてたらすみません。
    もし見学中にお会い出来たら、その時はよろしくお願い致します。

  • [2]篠宮潤

    2015/05/29-23:20 

  • [1]篠宮潤

    2015/05/29-23:20 

    篠宮 潤、と、パートナーのヒュリアス、参加させてもらう、よ。
    イベリン領、の…教会の祭壇が、見れる、って聞いて……!
    (やや目的が斜めっている模様)

    あっ。も、もちろん!お料理、も、楽しみにしてる、よっ。
    見学中に、会ったら、どうぞよろしく、だ。


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