プロローグ
タブロス市近郊にある、小さな町『ケスケソル村』。
『恋虹華(れんこうか)』と呼ばれる虹色の花の里として、知られています。
この町に、『恋虹華』の伝説の他に……もう一つ、密やかに伝わる伝説がありました。
「虹色の林檎のなる木が、あるそうなんですよ」
A.R.O.A.本部にやってきたケスケソル村の村長は、穏やかな顔でそう言いました。
村長は、まだ若干28歳の青年で、名前はシリル。
普段は村でカフェを経営し、自らウェイターをしているそうです。
そんな彼がA.R.O.A.本部に足を運んだ理由。
それは『幻の虹色リンゴ』でした。
昔々、村にとても美しい青年が居りました。
青年の瞳は、空の青よりも深く、その髪の金色は、太陽にも負けないくらいに輝き、
一声、彼の声を聴いたものは、その心地よさに思わず眠りに誘われるくらいでした。
ある時、村に一人の旅の魔法使いがやって来ました。
魔法使いは、青年の美しさを讃え、虹色のリンゴを彼に差し出しました。
このリンゴを食べれば、永遠にその若さと美しさを保てると、甘い声が囁きます。
青年は、こう言いました。
「この実が、永遠に若さと美しさを与えるものならば、私は私にではなく、この村の農作物にこれを与えたい」
この時、村は度重なる悪天候のため農作物が不作となり、食べるものにも困る状態でした。
青年の言葉に、魔法使いが微笑んだ瞬間、その手の林檎が光りました。
キラキラキラと。
魔法使いの手から落とされた林檎が地面に飲み込まれると、辺り一面の草花が、農作物が、一斉に息を吹き返したのです。
「そなたの願い、確かに叶えた」
いつの間にか姿の見えなくなった魔法使いの声だけが、空気を震わせました。
「その代わり、その美しさを頂戴しよう」
そう告げられた言葉が終わるや否や、青年から輝くような美しさが失われました。
しかし、青年の心に後悔は微塵もありません。
これで、村は救われたのですから。
「そんな昔話なんですけどね。その虹色のリンゴが、村の近くの森の中でなっているって言うんですよ」
シリルは、悪戯っ子のように瞳を輝かせ、そう言います。
「時々、虹色のリンゴがなったという話は出るんです。ほとんどが勘違いとか偽物なので、今回も眉唾ものなのですが……」
シリルの話によると、リンゴを目撃したのは、村の猟師数人。
狩猟に入った森の奥で、虹色に光るリンゴを見たと言うのです。
漁師たちはリンゴを採りに行こうとしたのですが、その時、上空から鳥に襲われます。
その鳥達は、デミオーガ化した野鳥で、猟師達は命からがら村に逃げ帰ったそうです。
「虹色のリンゴの事はさておき、村の近くの森にデミオーガが出て、村人は怯えています。
そこで、問題の森へ出向いて、デミオーガを退治して頂きたいのです」
かくして、デミオーガ討伐が依頼されたのでした。
解説
ケスケソル村近くの森へ出向き、デミオーガを退治することが今回の依頼です。
予め、村の猟師が記した地図を借りる事が出来ます。
また、プロローグでシリルが話した昔話も、皆様に伝わっております。
森では、デミオーガ化した野鳥と狼が彷徨いています。
野鳥は、嘴と爪で攻撃してきます。
上空へどのように攻撃をするか、工夫が必要です。
狼は爪での引っ掻き、牙での噛み付きが攻撃手段です。
木々の生い茂る森の中、どのように立ち回るかが重要となります。
無事依頼を達成し帰還した皆様には、村長のシリルの経営するカフェで、美味しいティータイムをご用意させていただきます。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、林檎だいすき!雪花菜 凛(きらず りん)です。
今回は、以前公開の『【バレンタイン】虹色の花びらに願いを込め』でも登場した、ケスケソル村を舞台にしたエピソードとなりますが、以前のリザルトなどを読んでいなくても、全く問題ありません!
村の安全を守りつつ、虹色リンゴは本当にあるのか……是非、確かめて頂けたらと思います。
※アイテムの配布などはございませんので、予めご了承ください。
皆様の素敵なアクションをお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
もしかしたら青年の優しい願いが恋虹華にも繋がっているのかもしれませんわね 村にはそのお花のお祭りでお世話になりましたの 村の皆様の為にも昔話の青年の為にも デミオーガ退治頑張りますわっ リンゴの近くで襲われたという事ですから 事前に猟師さんにその場所を分かる範囲で聞いておきましょう それと森の中に開けた場所があるかどうかも 密集した場所で襲われた時にそこへ誘導出来れば戦いやすいかもしれません 移動中は地面に足跡がついていないか見ながら 音や茂みに注意して進みますわ ○戦闘 飛び道具や遠い場所を攻撃出来る仲間のサポート 地面近くまで落ちた野鳥のデミオーガは手持ちの武器で攻撃します 戦闘中、周囲に他の敵がいないかにも注意 |
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
村の人達の為にも頑張らなきゃ もしかして野鳥達は幻の林檎を守ってるんじゃないかな? もしそうなら林檎を探していけば遭遇するよね、猟師さん達が光る林檎を見た場所に行ってみよう 迷わないように目印をつけながら進もう 敵への妨害・攻撃はエミリオさん達に任せて私は仲間のフォローに徹するね 敵がサフランさんの詠唱を妨害しようとしたら阻止したり、前衛が取り逃がした敵を相手したりするよ 大切な仲間を守ってみせる! 林檎を発見してももぎ取らないようにしよう 貴重な林檎だもの、そっとしておいた方がいいよね 紅茶とお菓子が大好きだから、ティータイム楽しみ 皆と沢山お喋りしたいな ☆持ち物 仲間全員分の通信機(インカム)を用意、事前に配る |
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
虹色の林檎ですかぁ… 見た目は勿論、個人的にはどんな味かなんて考えたり… だって、アップルパイおいしいじゃないですか! 木が沢山あるので、木の枝に服を引っ掛けたり しないようにしないと… 動きが取れなくなっちゃいますし、 第一あれ直すの結構大変なんですよ! 一応裁縫セットは持参しておきます。 あと皆とはぐれない様に注意しないとです。 グレンと狼の相手をします。 ダメージ分散しないよう、 なるべく手負いの狼を狙います。 野鳥がこちらに向かってきているのが分かったら、 攻撃県内に入ってから攻撃します。 飛ばれていては残念ながら反撃体制しか取れません… 無事戦闘を切り抜けたら林檎探し。 無事見つかったら、多分暫く見とれてそうです… |
あみ(ヴォルフガング)
準備 まず予め村の猟師さんから地図を借ります~。 道に迷うと大変ですもんね。 行動 デミオーガの討伐優先ですが、出来たら虹色リンゴも探してみたいです。 戦闘 私は戦闘では邪魔にならないように自分の身を守りつつ、ヴォルフガングさんと離れないように慎重に行動します!無理せず、確実に攻撃出来るように頑張りますっ! ヴォルフガングさんにはマリーゴールドさん・悠夜さんウィンクルムの遠距離攻撃組を援護しつつ、ミサさん・ニーナさんウィンクルムの近距離攻撃組と協力して攻撃してもらいます。 終了後 デミオーガ討伐終了後は、是非皆さんとまったりお茶出来たら嬉しです。ヴォルフガングさんともお話できたらいいな~。 |
日向 悠夜(降矢 弓弦)
未知なるものをこの目で見たいと思うのは旅人のサガ! 冒険の為にも、頑張ってデミオーガを退治しよっか! ミサさんが通信機を持ってきてくれたらありがたく使わせてもらおうかな 迷子は大変だからねぇ 乱戦になれば攻撃を一度に対処しつつ攻撃も仕掛けるのは大変だからね… 野鳥の動きを制限できるまでサポートに回るよ 怪我をしない事が一番! 無事に討伐できたら虹色のリンゴを探したいな リンゴがあっても無くても、素敵な物語を知れて良かったと思うよ…ちょっと残念だけれどね? 本当に、あったら…上手じゃないけれど写真に納めたいな 絵を描くのは時間が懸るし …そっとしておくのが一番の様な気がするからね カフェではゆっくり紅茶を頂きたいな |
●1.
その森は、何所か暗く湿った印象を放ち、木々は威圧するように一行を見下ろしていたようだった。
森の入り口まで見送りに来た、ケスケソル村の村長シリルと猟師達は、A.R.O.A.本部からやって来た一行を少し心配そうに見つめている。
「普段はこんなに暗い森じゃないんだよ」
老齢の猟師が、眉根を寄せながらそう言った。
「デミオーガの影響、なのかもしれないね」
降矢 弓弦が瞳を細め辺りを観察しながら、小さく呟く
「じゃあ……デミオーガを倒せば、元の森の戻るね!」
キラリと瞳を輝かせ、日向 悠夜が掌に拳を当て、気合を入れるように明るく言った。
「そうですわね! きっと元に戻りますわ!」
マリーゴールド=エンデは同意してぐっと拳を握り締める。
「皆で力を合わせて、頑張りましょう!」
ミサの言葉に一同は大きく頷いて、安心させるようにシリルと猟師達に笑顔を向けた。
「では、最終確認をしておきましょうか~」
朗らかに微笑んで、あみが大事に持っていた地図を広げる。
この日のために、猟師達が作ってくれた手作り感が溢れる地図だ。
「猟師さん達が、辿った道を進むんですよね~」
「虹色のリンゴを目指す事になりますね!」
地図を覗き込みながら、ニーナ・ルアルディがほんわりとした笑顔を見せる。
「そうだね。ちょっと考えたんだけど……もしかして野鳥達は幻のリンゴを守ってるんじゃないかな?
もしそうなら……リンゴを探していけば遭遇するよね」
ミサが口元に指を当て考える表情で、そう意見を述べた。
「リンゴの近くで襲われたという事ですから、私(わたくし)もその意見に賛成ですわ」
マリーゴールドは同意すると、地図の印を指で指す。
「リンゴを見かけたのは、この位置……ですわよね?」
「そう、この位置だ。森の奥に開けた場所があって、そこに大樹があるんだが……そこに、虹色に光るリンゴが見えたんだ」
若い猟師が少し興奮気味にそう言い、地図の印をトントンと指先で示した。
「そこ以外に、開けた場所はあるでしょうか?」
マリーゴールドがそう尋ねると、老齢の猟師が地図を指差す。
「開けた場所はさっき若いモンが示した奥と、そこまでの丁度中間地点のココ、かのう」
「印を付けておきますね」
あみがペンを取り出し、地図にその情報を書き込んだ。
「有難う御座います。密集した場所で襲われた時は、出来るだけここへ誘導するようにしましょう」
マリーゴールドの言葉に、皆で地図を注視する。
「その方が戦いやすいだろーしな」
マリーゴールドの隣から地図を覗いて、サフラン=アンファングがそう補足した。
「地図は大丈夫かな? それじゃ、皆、これをどうぞ」
ミサは通信機(インカム)を鞄から取り出すと、全員に配って回る。
「森は迷うと怖いから、逸れた時のために持っていた方がいいと思って」
「目を離すと直ぐに居なくなるミサの為のものだな」
「エ、エミリオさんてば…!」
パートナーであるエミリオの辛口なコメントに、ミサは赤くなってから、
「迷わないように目印を付けながら進むから、大丈夫だよ。頑張る!」
そう決意を込めて拳を握ると、エミリオは小さく口の端で笑った。
「グレン、あんまり森の木の枝を折らないようにして下さいね? 林檎の木の枝を折っちゃったりしたら大変ですから」
インカムを装着しながら、ニーナはパートナーにそう釘を刺す。
「そんなの、戦闘になっちまったら構ってられねーだろ」
しかし、グレン・カーヴェルはそっけなくそう言い切った。
「んな事より、コレ、どー付けるんだ?」
暗に『お前が付けろ』というオーラを感じて、ニーナは『もう』と小さく頬を膨らますも、彼にインカムを付けてやるのだった。
「ヴォルフガングさん、インカム、ちゃんと付けました?」
「……大丈夫だ」
あみが確認するようにパートナーを振り返ると、ヴォルフガングは小さく頷く。
「デミオーガの討伐優先ですが、出来たら虹色リンゴも探してみたいですね~」
地図を眺めあみがそう呟くと、ヴォルフガングは少しの間の後、また小さく頷いた。
「あみがそうするなら……付き合う」
「ありがとう、ヴォルフガングさん!」
あみはパァッと明るく笑顔を見せる。
「サフランも、ちゃんとインカムを付けました?」
マリーゴールドがインカムを付け、パートナーを見やると、サフランはすでに装着し終えて森を見上げていた。
「サフランは虹色のリンゴに興味ありますの?」
「まぁ……見てみたい、かな」
「私はそっとしておきたい気もありますの」
マリーゴールドはサフランの隣に並ぶと、彼と同じように森を見つめる。
「でも、見てみたい気持ちもあるんです。
だから、報告するかは置いておいて……もし見つけたら、教えてくださいねっ」
「見つけたら、ね」
サフランはマリーゴールドを見やると、瞳を細めて笑った。
「インカム……機械は悠夜さんの領分だ」
弓弦はしげしげとインカムを眺めてから、悠夜に視線を移す。
「降矢さんは、本当に機械が苦手なんだね~」
悠夜は微笑ましげに弓弦を見返し、
「私に任せておいて!」
そう言うと、手慣れた手つきで弓弦にインカムを装着する。
「慣れてるね、悠夜さん」
「一人旅をしてると、色々とね」
感心した表情の弓弦に、悠夜は明るくウインクを返してから、自らもインカムを装着した。
「さぁ、頑張ってデミオーガを退治しよっか!」
●2.
村長と猟師たちに見送られて、一行は森の中へと足を踏み入れた。
「まずはこのまま真っ直ぐです」
ナビゲート役は、地図を持つあみだ。
ヴォルフガングがあみを守るようにして、周囲に気を配りながら前へ進む。
森の中は、外以上に暗かった。
鬱蒼と木々が辺りを囲み、風で木々が揺れる度、その音が不気味に響く。
(木の枝に服を引っ掛けないようにしないと……)
ニーナは慎重に歩を進めていた。
万一動きが取れなくなってしまうと困るし、第一、直すのが結構大変なのだ、アレは。
「キャ……!」
ビリィ!
小さな悲鳴と共に、何かが破れる音が響いた。
「は、はわわ……!」
見ると、真っ赤になったミサの服の袖が枝に引っかかり破れている。
「……このドジ!」
「あいた!」
エミリオのツッコミチョップがミサの頭にポコンと炸裂した。
「私、裁縫セット持ってます。ちょっとじっとしててください!」
ニーナは持参していた裁縫道具を手にリサに走り寄ると、敗れた服の修復作業に掛かった。
「ニーナ、準備いいね」
悠夜が感心した表情でニーナを見つめる。
「こんな事もあるかなと思って……」
ニーナは照れ笑いを浮かべながら、器用に布を縫い合わせた。
「はい、応急処置ですけど、出来ました!」
「ニーナちゃん、ありがとう!」
ミサは笑顔でお礼を言い、ペコリと頭を下げる。
「よし、じゃあ、木の枝には気を付けながら行こう」
エミリオがそう皆を促し、再度歩みを再開した。
それから暫くが経った。
特に異常はなく、一同は順調に森の奥へと歩いている。
「あみさん、現在位置はどれくらいですの?」
マリーゴールドは地面に足跡が残っていないか見ながら、あみに尋ねた。
「丁度半分を過ぎた所ですね~あと少しで、開けた場所に着く筈です」
あみは地図と辺りを見比べながら答える。
「ここまでは、まだ異常はないな……ん?」
茂みを注意深く観察していたサフランがふと足を止めた。
「……獣の声がした」
グレンも前へ出ると、瞳を閉じて耳を澄ます。
耳を欹てると、確かに微かに何かの唸り声のようなものが、風に乗って聞こえてきた。
「……狼、か?」
瞳を開くと、グレンの表情が険しいものへと変わる。
「……鳥、だけでは無いのかもしれない」
「警戒する必要があるね」
ヴォルフガングの言葉に、弓弦が頷いて同意した。
「……段々こっちへ近付いて来てる」
サフランが眉根を寄せそう言うと、グレンは口元をニッと上げる。
「迎え撃ってやろうじゃねーか!」
「ここじゃ狭いですよっ」
ニーナが慌ててグレンの服の袖を引いた。
「打ち合わせ通り、開けた場所へ誘い出そう。行くよ!」
エミリオの声に一同は頷くと、開けた場所を目指して走り出す。
●3.
タッタッタッと。
茂みの向こうから、獣の走ってくる足音が響く。
段々と近くなるそれと共に、血走った獣の瞳が光るのが視界に入った。
「ミサ、恥ずかしがってないでトランス、いくよ」
「うん!」
エミリオの言葉にミサは頷くと、彼へ近付く。
『絆を繋ぎ、想いを紡ごう』
その頬への口付けで、二人はトランス状態に入った。
デミオーガ化した狼達が茂みから飛び出す。
エミリオはダブルダガー「ハイ&ロー」を手に、舞うような動きで狼達を迎え撃った。
『アルペシオ』
加速化して切り付けで、狼達の足の腱を狙って斬り裂く。
「オラオラオラァ!!」
「……!」
足の腱を斬り裂かれた狼を、グレンのロングソード「ギル」と、ヴォルフガングのモールが確実に仕留めていった。
サフランと弓弦が、マジックブックと銃の遠距離攻撃でこれをサポートする。
狼の数は少なくはないが、開けた場所に来れたお陰で一行は有利に戦闘を進めている。
そう思った時だ。
「……鳥だ!」
弓弦の鋭い声がすると共に、バサバサと上空から鳥の羽撃きが聞こえてきた。
ギィー!
鋭い声と共に、近距離で狼達を攻撃するエミリオとグレン、ヴォルフガングへデミオーガ化した野鳥達が向かっていく。
「サフラン、お願いしますわ!」
「任せなさいっ……と!」
マリーゴールドの言葉に、サフランのマジックブック「目眩」に魔力が漲る。
放たれた困惑と錯乱の魔力が、野鳥達を包み込んだ。
混乱状態となった鳥達は、上空でフラフラと旋回を始める。
「悠夜さん!」
「えぇ、降矢さん!」
『友よ、共に進もうぞ。』
悠夜と弓弦の身体がオーラに包まれた。
弓弦は銃を構え、野鳥達の翼へ狙いを定める。
『ダブルシューター』
連続射撃された弾丸が、両脇から野鳥の翼を射抜いた。
力を無くして落ちてくる野鳥を、確実にサフランのマジックブックがとどめを刺す。
それを見た狼達の一部が、弓弦とサフランに向けて駆け出そうとするが、
「ヴォルフガングさん!」
「……行かせない!」
あみの声に応えたヴォルフガングが立ち塞がり、狼達を引き付けた。
「……狼達は、任せて欲しい。鳥は、任せた……」
ヴォルフガングの言葉に、弓弦とサフランは力強く頷き、野鳥達への攻撃に集中する。
「よそ見してるヒマ、無いんじゃねーの!」
グレンの剣が唸りを上げ、逃げる事は許さないと狼達をなぎ払う。
「お前達の相手は、こっちだ!」
エミリオのダガーが、次々と狼達の素早さを奪っていった。
●4.
「これで、終わりだ!」
グレンが最後の狼を倒し、戦闘は終わった。
デミオーガ達が倒れると共に、暗い影は身を潜め、気が付けば明るい陽の光が辺りを照らしていた。
「……倒し切ったようだな」
空を見上げエミリオがダガーを収めると、一同も同様に武器を収める。
「怪我してる人はいませんか?」
心配げに尋ねたあみの言葉に、手を挙げるものは居なかった。
「皆、無事でよかった~!」
ミサは安堵の笑みを浮かべる。
「野鳥が現れた時は、肝が冷えましたわ」
マリーゴールドはほーっと息を吐き出し、汗ばんだ手をハンカチで拭いた。
「皆さん、見事な連携でしたよね!」
ニーナがぎゅっと拳を握り、ニコニコと皆を見渡す。
「うん、連携の勝利だね!」
悠夜がその言葉にウンウンと頷き、一同は顔を見合わせると自然とハイタッチをし合った。
これで、森の安全は守れたのだ。
「さて、これからだが……」
「虹色のリンゴ、見に行かない?」
エミリオの問い掛けに、悠夜が小さく挙手して微笑む。
それに反対する者は居なかった。
●5.
森の奥に、虹色に光るリンゴは確かにあった。
陽の光を受けて輝く様は、神々しくさえ見える。
「綺麗……」
ニーナの呟きが、皆の言葉を代弁していた。
時を忘れたように、一行はリンゴに釘付けとなる。
悠夜はカメラを構えると、その姿を写真に収めた。
もう一枚と思った時、
「……え?」
ファインダー越しに不思議な光景を見て、悠夜はカメラを下ろす。
マリーゴールドの呟くような声が響いた。
「誰、ですの……?」
そこには、虹色のリンゴを囲むようにして、一組の男女が居た。
男性はこの世のものとは思えない美しさを讃え、
女性はこの上なく優しい眼差しで一行を見ている。
「……青年の瞳は、空の青よりも深く、その髪の金色は、太陽にも負けないくらいに輝き……」
本で読んだ昔話を思い出し、弓弦の唇からその一節が零れ落ちた。
男女の唇が動く。
声は聞こえない。
けれど、何と言ったかは伝わった。
『あ・り・が・と・う』
次の瞬間、男女の姿は煙のように消え、虹色のリンゴが強い輝きを放った。
思わず瞳を閉じ、目を開くと、
「恋虹華(れんこうか)……?」
辺りに、虹色に輝く花々が咲き誇ってきたのだ。
そして、虹色のリンゴはその姿を消していた。
あの男女と共に。
虹色の光る花々に囲まれて、一行は暫くその場所を動けなかったのだった。
●6.
「もしかしたら、森の危険を知らせてくれたのかもしれませんね」
村に戻った一行から話を聞いたシリルは、穏やかにそう言った。
「猟師達は、虹色の光に惹かれ、あの森の奥へ出向きました。そしてデミオーガに出会ったんです」
「なるほど……森の奥にデミオーガが居ると、知らせてくれた……という事ですか」
弓弦の言葉にシリルは小さく頷く。
「私がお話しした昔話、続きがあるんですよ」
輝くような美しさを失った青年は、別人のようでした。
そのため、村の誰もが『彼』であると気付いてくれなかったのです。
実の両親ですら、家に彼を入れてくれない始末でした。
青年は孤独でした。
両親にすら拒まれ……どうすればいいのか。
途方に暮れていた彼に、名前を呼び語りかけて来たのは、幼馴染の少女でした。
『君には、私が分かるのですか?』
『勿論、分かりますとも。間違える筈がありません』
青年は少女を抱き締めて、声を上げて泣きました。
嬉しくて、嬉しくて、泣きました。
その涙が地面に落ちると、不思議な事にそこに虹色の花が咲いたのです。
青年はその花を彼女に捧げて、言いました。
『真実の私を見失わないでくれた貴方を……私は何よりも大切に思います。
どうか、私の一生のパートナーとなってください』
こうして二人は夫婦となり、末永く幸せに暮らしました。
「この虹色の花が、恋虹華ではないかと言われています。
だから、『四つの花びらを持つ恋虹華を見つけたカップルは、永久に結ばれる』との言い伝えもあるのかもしれません」
カフェで、マリーゴールドはそわそわと落ち着かない様子で紅茶を飲みつつ、隣に居るサフランを見ていた。
サフランは涼しい顔でアップルパイを切り分けている。
(恋花祭りの時、サフランが私の質問に惚けたのは……どうしてだったのでしょうか)
照れ臭かったから?
それが一番しっくり来るような、そうでないような。
ぐるぐると思考が回っていると、刺すような視線を感じてマリーゴールドは我に返った。
こちらをじっと見ているのはサフランだ。
「マリーゴールド」
「な、ななななななんですのッ?」
不審さ100パーセントと思いながらも、マリーゴールドは吃らずにはいられない。
「アップルパイ、切り分けたけど? 要らないワケ?」
「も、勿論、いただきますわ!」
「じゃ、ドーゾ」
サフランからアップルパイのお皿を受け取り、一口。
「美味しいですわ……!」
思わずふにゃりと蕩けてしまうと、サフランが隣で吹き出した。
「サフラン?」
「……いやぁ……マリーゴールドは、本当に面白いなぁって……」
肩を震わせながら、サフランは暫く笑っていたのだった。
「アップルパイ、美味しそうですね、グレン!」
ニーナは瞳をキラキラさせて、パートナーを見た。
「沢山動いたから、お腹が空きましたし」
「だな。早く寄越せ」
グレンは顎でアップルパイを示す。
「ちょっと待っててくださいね」
ニーナは、サフランが切り分けたパイを一片皿に載せてグレンへ差し出した。
「はい、どうぞ」
「ご苦労」
早速グレンはパイを口に運ぶ。
ニーナも自分のアップルパイを確保して一口食べると、ほぅっと幸せの吐息を吐き出す。
「美味しいですね♪」
「美味いな。……そういや、お前はあの虹色のリンゴ、食べてみたかったか?」
次々とパイを消費しながら、グレンが不意に尋ねて来た。
「虹色のリンゴを食べると、永遠に若さと美しさを保てる、でしたっけ?
うーん、若く美しいままでいるよりも、年老いていった方が……今まで色んな事を沢山頑張ってきたんだなって思えて、素敵だと思います」
アップルパイを眺めて考えつつ、ニーナは素直な気持ちを伝える。
「……って、ちゃんと話聞いてます?」
返事がないためニーナが彼へ視線を戻すと、彼は二皿目へと手を伸ばしていた。
「もう、がっつきすぎですよ!」
「ヴォルフガングさん、紅茶のお代わり、如何ですか?」
あみがティーポットを手に尋ねると、パートナーは小さく頷いた。
「……頂こう」
カップに紅茶を注いでから、あみはヴォルフガングの様子を伺う。
(話し掛けても、大丈夫だよね?)
そう判断して、あみは口を開いた。
「虹色のリンゴも、恋虹華もとっても綺麗でしたよね~」
「……そうだな。……美しい光景だった……」
微かにヴォルフガングの口元に笑みが見え、あみは嬉しくなる。
「後で悠夜さんに、写真を焼き増しして貰いましょう~!」
こっくり。
あみの提案に、頷いたヴォルフガングの顔が更に微笑んだ気がした。
「ヴォルフガングさん、アップルパイの他に、苺のショートケーキもあるみたいですよ~」
丁度シリルが運んできたケーキを見て、あみは立ち上がる。
「折角だから、色んなケーキを分け合いっこして、沢山食べましょう~!」
嬉しそうなあみを眺め、ヴォルフガングの口元が更に緩んだのだった。
「エミリオさん、ケーキが選り取り見取りだよっ」
シリルが運んできたケーキの数々を眺め、ミサはエミリオを振り返った。
「……まぁ、悪くはないよ」
心なしかソワソワした様子のエミリオは、そっけない口調でそう言うと紅茶を飲む。
「わぁ、マカロンもあるっ♪ エミリオさん、ケーキはまずどれにする?」
エミリオが甘い物が好きな事は知っている。
ミサは笑顔で首を傾けた。
「……チョコレートケーキ」
周囲に聞こえないよう、極力小さな声でエミリオがそう答えると、ミサは直ぐにケーキを皿に装って彼へ渡す。
「有難う」
これまた小さい声でのお礼だったが、ミサは輝くような笑顔を返した。
「……提案がある」
エミリオは少しバツが悪そうに視線を逸らしてから、ミサに視線を合わせる。
「俺、一人だと限度があるから……」
そう言いつつ向ける視線の先では、あみがヴォルフガングとケーキを分けあっている光景があった。
要するに、彼もまた多くの種類のケーキを食べたいらしい。
(本当に甘い物が好きなんだね)
ミサはそんな彼を微笑ましく思いながら、大きく頷いた。
「うん、分け合いっこしよう、エミリオさん!」
「綺麗に撮れてるといいな」
悠夜はカメラを撫でながら、あの光景を思い出し笑みを浮かべた。
「悠夜さんが、カメラを持って来てくれてて……よかったよ」
紅茶を飲みながら、弓弦は悠夜の手元のカメラを見つめる。
悠夜と弓弦の脳裏に、消えた男女と虹色のリンゴ、その後に残った恋虹華の花畑が浮かんだ。
「単なる良くあるお伽話と思っていたけれど……本当に不思議な体験だったね」
弓弦がゆったりとした口調で、口元に笑みを見せる。
「僕は思うんだけど……あの恋虹華は、彼らの僕達に対するお礼、だったんじゃないかな」
「恋虹華がお礼? だとしたら……凄く粋なお礼ね」
弓弦の言葉に悠夜は微笑む。
あの時、彼らは確かに『ありがとう』と言った。
「うん、凄く素敵なお礼だ」
「また、会えるかしら?」
「……うーん、どうだろう。けど、根拠は無いけど……また、会えるような気がしているよ」
弓弦が窓の外へ視線を向ける。
空がゆっくりと夕暮れの色へ変わろうとしていた。
Fin
依頼結果:大成功
MVP:
名前:ミサ・フルール 呼び名:ミサ |
名前:エミリオ・シュトルツ 呼び名:エミリオ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 冒険 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 03月26日 |
出発日 | 03月31日 00:00 |
予定納品日 | 04月10日 |
参加者
- マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
- ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
- ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
- あみ(ヴォルフガング)
- 日向 悠夜(降矢 弓弦)
会議室
-
2014/03/30-22:28
ミサさんまとめと作戦ありがとう!
特別な事は出来ないけれど、精一杯野鳥を相手に頑張るね。
…まあ、頑張るのは降矢さんなんだけれど。
通信機と地図はありがとうね。場所の情報も助かるよ。 -
2014/03/30-22:01
こんばんは、遅くなってごめんなさいっ(息を切らせて駆け込む)
一応自分のプラン書き終えたよ
『接近戦頑張ってね』って、エミリオさんにもプラン渡しといた
あみさん、地図有り難う~
乱戦になったら私の方も注意しながら動きますね!
特殊な敵がいる時魔法の手助けがあると本当助かるよ
マリーゴールドさん、前回も今回もどうも有り難うです -
2014/03/30-18:08
ミサさん、まとめと作戦、ありがとうございます!
作戦、私も賛成ですわっ
パートナーのサフランは魔法のかく乱と、武器(マジックブック)も飛ばせる事が出来るので状況によってはそちらでも攻撃して貰いますね。
通信機と、地図もありがとうございます!
動き辛い場所での戦闘になりそうですから、念の為、森の中に開けた場所がないかも猟師さんに聞いてみますわねっ -
2014/03/30-08:13
ミサさん、作戦ありがとうございます!
その作戦賛成です~。
私のパートナーのヴォルフガングさんは接近戦組かつ素早さもあまりないので、もし鳥と狼との乱戦になったら、飛び道具のある人達の攻撃を邪魔されにように援護しつつ、攻撃可能範囲に敵が近づいたら攻撃をしてもらうようにします。
通信機もあると安心ですよね。ありがとうございます~!
私、前もって村の猟師さん達から地図借りてきますね~。 -
2014/03/30-06:19
鳥対策として、サフランさんの魔法でかく乱したり、降矢さんの銃で翼狙ってもらって敵が怯んだらすかさず接近戦組が総攻撃!はどう?
狼はまず足の腱狙いで素早さをダウンさせようかな
森って迷うと怖いよね、はぐれた時用に通信機(インカム型)を皆の分用意しようと思ってるよ -
2014/03/30-05:57
ニーナちゃん、ショコラの教室以来だね
どうぞよろしくね!
実は今日仕事があって、9時~20時まで会議に参加できないです、ごめんなさい
私の考えをばばっと言うよ
策があったり、間違ってる所があったら提案・指摘してくれると嬉しいな -
2014/03/30-00:47
ああああ遅くなってごめんなさい!
ニーナ・ルアルディです、よろしくお願いしますね!
飛んでる敵は相性が悪いのでつらいですね…
飛び道具がないので、野鳥と戦う場合はこちらに向かってきた鳥を
迎え撃つという形になりそうです…
あと森の中ということで、あんまり激しく動き回れそうにないのが心配です。 -
2014/03/29-22:48
(連投失礼)
今回の敵は野鳥と狼か
特に野鳥は仲間との連携が必要だね
とりあえず各相方さんの職をまとめたよ(敬称略)
サフラン:トリックスター
降矢:プレストガンナー
ヴォルフガング:ハードブレイカー
グレン:ハードブレイカー
エミリオ:テンペストダンサー -
2014/03/29-22:25
マリーゴールドさんだ♪
前の任務ではどうもです
日向さんは任務ではお初ですね
ご一緒できて嬉しい
あみさん、初めまして
そうですね、任務 頑張りましょう!
そして皆で楽しくティータイムを! -
2014/03/29-20:39
こんばんは。あみと言います。
パートナーはハードブレイカーのヴォルフガングさんです。
よろしくお願いします~。
皆でデミオーガ討伐頑張って、虹色の林檎を探しましょ~! -
2014/03/29-18:40
日向 悠夜って言います。
パートナーはプレストガンナーの降矢 弓弦さんです。
どうぞよろしくね。
虹色の不思議な花が咲く村だから、虹色のリンゴがあっても不思議じゃないなぁ。
虹色のリンゴに思いを馳せつつ、デミオーガを退治頑張ろうか! -
2014/03/29-17:47
マリーゴールド・エンデと申します。
パートナーはトリックスターのサフランと言うマキナですわっ
皆様、どうぞよろしくお願いします。
虹色のリンゴ、あると良いですわね。見てみたいですわ…!
その為にも、何よりもケスケソル村の人の為にも、デミオーガ退治頑張りましょうっ -
2014/03/29-08:49
ミサです、皆さんどうぞよろしくお願いします!(ぺこり)
パートナーはテンペストダンサーのエミリオさんです
虹色のリンゴ、ほんとにあるといいなあ(目をキラキラ輝かせる)