隠れて咲いたその花は(櫻 茅子 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 穏やかな風が吹く、ある日のこと。
 タブロス市の片隅で、ある神人は目の前に広がる見慣れない風景を前に、情けなくも眉尻を下げていた。
「迷っちゃった……」
 あたりを見回しても、出かける時に目印にしているものは何一つ見当たらない。
 困った、と心の中でつぶやく。ふと、いつもと違う道を行きたくなった。それだけの理由で、親しんだ道をそれたことを後悔する。
 しかし、落ち込んだままでいるわけにもいかない。気持ちを切りかえ、神人は隣に立つ精霊へと視線を向けた。
「ここまでの道、覚えてる?」
 だが、精霊も困ったように首を振るだけだ。
 さて、どうしたものか。とりあえず、タブロス市内にいることはたしかだから、このあたりの地理に詳しい人が見つかればいいのだけれど。
 と。ふわりと吹いた風に乗って、一枚の花びらが神人の前を横切った。興味をひかれた神人は、花びらがとんできた方へと足を進める。精霊は焦ったような声をあげたが、止まる気配を見せない神人にあきらめたのか、素直に後ろをついてきた。
「わあっ……!」
 神人はとびこんできた風景に、思わず感嘆の声をあげる。
 鮮やかな花が咲き誇る、広場を見つけたのだ。その見事さは、花園と言っても過言ではないほどである。先ほどの花びらは、ここから飛んできたに違いない。
「すごい。こんなにきれいな場所があるなんて」
 無意識のうちに、そんなつぶやきがこぼれる。それくらい、美しいところだった。
(そういえば)
 花々の甘い香りで胸をいっぱいにしながら、神人はある噂を思い出していた。
 ある噂――それは、タブロス市のどこかに妖精の加護をうけた花園があり、特別な花が咲くことがある、というものだ。この広場が噂の花園かはわからないが、これだけ見事に花を咲かせているのだから、なんとなく、『特別』な花が咲いていそうな気がする。……『特別』がどういうものなのかは知らないが。
「ねえ、『特別な花』、探してみない?」
 また、この広場に来れるかわからない。そう考えた神人は、そんな提案をしていた。偶然だが、それらしいところを見つけたのだ。せっかくだから、探してみたいと思う。
 神人の提案に、精霊は不安そうに眉をひそめた。花を探すのに反対しているわけではない。風に雨のにおいがかすかだが混ざっているから、早く帰らないと濡れてしまうのではと心配しているようだ。
 だが、せっかく見つけた噂になるほどの花園――確証はないが――を見つけたのだ。特別な花を探してみたいという気持ちは、押さえられそうにない。
 ……理由は、それだけではないけれど。
 話し合って、『特別な花は探す。けれど、雨の気配が今以上に濃くなったら急いで人を探しに行く』という結論に落ち着いた。

 精霊は早速、花々へと足を向けた。神人はその背を追いながら、ばれないように小さくほほ笑む。
 これから過ごすふたりきりの時間を、大切にしようと心に決めながら。

解説

●目的
迷いこんだ広場で、それぞれが思う『特別な花』を探す。
雨の気配が濃くなっても見つからなかったら、花を諦めて帰り道を探しに戻らなければなりません。


●消費ジェールについて
お出かけの際の交通費として『300ジェール』消費します。


●プランについて
以下を明記してくださいますよう、お願いします。

・何時頃に広場に来たのか
 お昼頃、夕方……など、おおざっぱなくくりで問題ありません。
 また、どんな目的(お散歩とか買い物とか)で出かけたのかもあるといいかもしれません。
 広場で誰かとはちあわせた場合は、そちらも書いていただければと思います。

・神人もしくは精霊が予想する『特別な花』の正体
 特別な花がどんなものか、神人と精霊は知りません。
 特別な花の正体を予想してみてください。

・どのように探すのか
 二人で同じところを探すのか、それとも別々のところを探すのか……。
 どのように花を探すかを書いてください。

・誰がどんな花を見つけたか
 神人と精霊がそれぞれどんな花を見つけたのか(見つけるのはどちらか片方のみでも問題ありません)、もしくは見つけられなかったかをを教えてください。
 例:花びらがハート型、珍しい模様がついている、等

・探している途中にあったハプニング
 ハプニングと書きましたが、ちょっとした出来事でも構いません。
 手が触れ合ったのような初々しいものから二人で転んで唇が……なんていう展開まで、喜んで書かせていただきます。ただ、親密度によってはアクションが不成功になる可能性もあります。ご了承くださいませ。


●余談
ジャンルはハートフルとなっていますが、コメディに寄せてほしい、ロマンスに寄せてほしい等ある場合、そちらもいただけたらご期待に添えるようがんばって執筆させていただきます。

ゲームマスターより

はじめまして、櫻茅子(さくらかやこ)と申します。
このページを開いていただき、ありがとうございます!

迷子になった先で見つけたすてきな花咲く広場で、『特別な花』を探すというエピソードです。
『特別な花』の正体は、あっと驚くようなものかもしれませんし、こんなものかと思うようなものかもしれません。そもそも彼らがいる広場に咲いているのかもはっきりしていません。それぞれが思う『特別な花』を探してみてください。

皆さまに楽しんでいただけるよう精いっぱいがんばりますので、よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆何時頃に広場に来たのか
夕方頃
精霊とのデートの帰り、いつもと違う道を通って広場に迷い込んだ

☆『特別な花』の正体
私ね特別な花の正体は妖精さん自身じゃないかなと思うの
姿を花に変えて、この広場を見守ってるんじゃないかなーって

☆どのように探すのか
別々に探さない?
ふふ、秘密だよ♪

☆誰がどんな花を見つけたか+ハプニング
エミリオさんに幸せになってほしくて『四葉のクローバーの形をした花』があったらいいなと思って探してみたけど…ないや(しゅん)
エミリオさん、ごめんなさい
私見つけられなかったの
え、マカロンみたいな花!?
どこっ!?みた・・きゃあああっ!?(慌てて駆け寄った為に盛大に転ぶ→精霊を押し倒しそのままキス)



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

あの出来事から、ロジェは私と目を合わせてくださらない…
今日こそはお出かけに誘うわ(午前中、ロジェを無理やり連れだす)

この花畑、特別な花が咲くようなのです。
ロジェも一緒に探すのを手伝ってくださいますか?
(探している最中、ロジェと手が触れあい恥ずかしそうに微笑む)

(ロジェが白いダリアを見つけたのを見て、彼を真っ直ぐに見つめ、
彼の右手にキスをする)

ロジェはこのダリアが怖いのですか?
私を殺しかけたから? 私を傷つけた原因になった花だから?
私は怖くありません。白いダリアの花言葉は『感謝』。
ロジェ、待って…!

(どうしたらロジェの心の傷を癒せるのでしょう…)



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  時刻:17時頃

神人予想『特別な花』の正体
:見たことない綺麗な色の花

探し方
:羽純と別れて探す。乙女の勘で、花畑右側から順番に花を楽しみながら

どんな花を見つけたか
:歌菜が星空のように煌めく色を持つ花を見つける

ハプニング
:うっかり葉で手を切る

『特別な花』を羽純くんに贈りたい
特別を、特別な羽純くんにあげたい
なんて、気障な事を羽純くんには言えないけれど…

絶対彼より先に見つける!
と張り切ってたのに指をすぱーっと

ご、ごめんね!有り難う…

あれ?これ…凄く綺麗な色じゃない?
(羽純くんの瞳の色に似てる)
これが特別な花なのかな

…羽純くん、ごめんね
贈りたくて探してたけど採るのは勿体無くて
代わりに記念写真を撮らない?


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  時間:
ミュラーさんとお買い物に出かけたの。
夕方にそろそろ帰ろうとなった時に迷ってしまって。
不思議な事もあるのね。

考える特別な花:
この時期ここでは見られない花かしら。
高山植物のメコノプシスとか。
高く澄んだ空色の綺麗な花。
画像でしか見た事が無いわ。
ミュラーさんと一緒に捜します。
捜しながら花の話をします。
(全然詳しくないけれど)
色々なお話をしながら捜した方が楽しいし。
別々に捜して、更に迷子になったら困るから。

青色の花達が集まっている区画に
ケシの花もあって。
それが本当に澄んだ空の色だったからとても感動したわ。
他にも青色の花が沢山。
ミュラーさんが言っていた花もあって。
他にもチューリップの青い花とか綺麗。



エセル・クレッセン(ラウル・ユーイスト)
  「こういう所に着くなら、道に迷うのも悪くないな」

・何時頃?
昼頃。
タブロスに来て間が無いから、見物というか散歩というかなつもりで出てきたけど。

・『特別な花』の予想
妖精の加護をうけた花園なんだろう?いや、ここがそうかは分からないけど。
でも、だとするとその妖精が大事にしている花が『特別な花』だったりしないか?

・どのように探すか
大事にしてるなら奥の方?とりあえず、あっちに行ってみるか。
ん、ラルも一緒に行くのか?

・どんな花を見つけたか
…どれがそうか分からなくなってくるな。
ラル?その花が気になるのか?
うん、ちょっと変わってて、綺麗だな。ラルはこういう花が好きなのか?

・ハプニング
…歩くの疲れた。



●夜空のように煌めく
 空に橙が混ざりはじめた、17時頃のこと。
『桜倉歌菜』と『月成羽純』は、迷いこんだ先で見つけたさまざまな花が咲き誇る広場を眺めていた。
「ここって広場だよね?」
「多分。でも、これだけ花が咲いていると、花園と言われてもしっくりくるな」
 風に揺れる花々を見ていた歌菜は、ある噂を思い出した。
 タブロス市のどこかに妖精の加護をうけた花園があり、特別な花が咲いている。そんな噂だ。
「ねえ、羽純くん。もしかしたらなんだけどね」
 そう前置きをして羽純に噂を教える。そして、こんな提案をした。
「特別な花、探していかない? またここに来られるかわからないし、噂になるくらい素敵な花を見てみたいな、と思って。……この広場が噂の花園かは、わからないけど」
 歌菜は、この広場を見つけられたのはチャンスだと感じていた。
(特別な花を羽純くんに贈りたい。特別を、特別な羽純くんにあげたい。……なんて、気障な事を羽純くんには言えないけれど……)
 だが、羽純は心配そうに空を見上げる。灰色の雲が浮かぶ空と湿気を含んだ風は、もうすぐ雨が降るかもしれないと伝えていた。
 不安になる歌菜だったが、「わかった」と頷いた羽純に顔をぱっと輝かせる。
「いいの?」
「雨に濡れて風邪でもひかれたら困るんだが……歌菜はこうと決めたら結構頑固だからな。それに、歌菜がそんなに見たいと思う特別な花、俺も見たくなった。ただ、本格的に雨が降りそうになったら帰るぞ」
「うん、ありがとう!」
「で、その特別な花は一体どんな花なんだ?」
「噂には、特別な花が咲いているとしか。見たことない綺麗な色の花、だと思うんだけど」
「変わった形の花、って可能性もあるな。例えば猫に見えるとか……」
 羽純のかわいらしい予想に、歌菜はくすっと微笑み、こう言った。
「とにかく探してみよう。見つけたらきっと『これだ!』って思うよ!」
 歌菜の前向きな言葉に、今度は羽純が噴き出した。
「それもそうだな」
「よーし! じゃあ、別々に探そうか。その方が見つかる可能性も高いだろうし」
「わかった」


 方針を決めた二人は、早速花探しをはじめた。
 広場の左に来た羽純だが、目は歌菜ばかりを追っていた。
 おっちょこちょいな歌菜は、いつどこで何を起こすかわからない。
(歌菜から目を離さないようにしよう)

 乙女の勘が右側を探せと告げている! と、歌菜は広場に右側で、羽純の視線に気づかないまま花々に目を光らせる。
(わあ、いい香り。それに、どの花もすごく綺麗。……って、目的を忘れちゃだめだよ、私! 絶対、羽純くんより先に見つけてみせる!)
 歌菜は傷つけないよう注意しながら花へ手を伸ばした。しかし、葉で指先を切ってしまう。
「いたっ!」
「歌菜? どうした?」
 異変を察知した羽純が、歌菜の元へやってくる。そして指先の傷に気付くと、眉をひそめた。
「じっとしてろ」
 羽純はそう言うと、ハンカチを取り出し手際よく止血した。
「ご、ごめんね! 有り難う……へっ?」
 それだけでなく、羽純はハンカチを巻いた歌菜の指先に――そっ、と。優しく唇を落とす。
 歌菜が身体を強張らせたことで、羽純は自分のしたことを認識する。母にしてもらったおまじないを、無意識のうちにやってしまった!
 目を丸くして固まる歌菜に、羽純は頬を染めながら口を開く。
「……早く治る、おまじないだ」
 羽純の言葉に、歌菜は一気に顔を赤く染めた。
「あ、あああ、ありがとう! うん、すぐよくなるよ! 絶対!」
 そう言いながらも羽純を直視できず、視線をずらした歌菜の目に、まるで星空のように煌めく花がとびこんできた。
「あれ? これ……凄く綺麗な色じゃない?」
 ――羽純くんの瞳の色に似てる。
「これが特別な花なのかな」
「綺麗な色だ……夜空みたいな」
「……羽純くん、ごめんね。贈りたくて探してたけど採るのは勿体無くて」
「そうだな、摘んでしまうのは勿体無い。こうして見れただけでも嬉しいさ」
 静かに笑う羽純に、歌菜はどきまぎしながらこう提案した。
「代わりに記念写真を撮らない?」
 彼の返事は――広場を去った二人の笑顔を見れば、一目瞭然だろう。


●舞い降りた天使
 夕暮れ時に夜の優しい気配が近寄ってきた頃。
 買い物に出かけていた『瀬谷瑞希』と『フェルン・ミュラー』は、そろそろ帰ろうかとなった時に迷ってしまい、色とりどりの花が咲く広場へとたどりついた。
「不思議な事もあるのね」
 瑞希の言葉に、ミュラーは柔らかな笑みを浮かべる。
「こんなに綺麗な場所に着くなんて。何か素敵な巡り合わせがあるかもしれないよ」
「素敵な巡り合わせ……」
 瑞希はそうつぶやいたかと思うと、ぽん、と両手の平をあわせる。
「そうだわ。買い物の時に小耳に挟んだのだけど、タブロスのどこかに、妖精の加護をうけた花園があるんですって。その花園には、特別な花が咲くのだとか」
 ミュラーは改めて広場を見回した。広場は沢山の花であふれていて、妖精の加護を受けた花園かも、という彼女の話も頷ける。
「ねえ、探してみない?」
 瑞希の提案を、ミュラーは「いい考えだ」と了承する。
「だけど、雨が降らないかちょっと心配だね。降りそうになったら、すぐに帰り道を探そう」
 ミュラーの言葉にミズキはこくりと頷くと、一緒に広場の中へと踏み出すのだった。


 二人は並んで広場の花を見て回る。
 別々に探す、という候補もあった。だけど更に迷子になったら困るし、何よりいろいろな話をしながら探した方が楽しい。
「それにしても、特別な花はいったいどんなものなんだろうね」
「この時期ここでは見られない花かしら。高山植物のメコノプシスとか。高く澄んだ空色の綺麗な花。画像でしか見た事が無いわ」
「ミズキは青色の花が好きなのかな? 青色で特別なら、青い薔薇とかどうだろう。綺麗な青色、空色の薔薇はあるのかな」
「素敵! ぜひ見てみたいわ」
「妖精の導きで見られるといいね」
 ミュラーと瑞希は穏やかに会話をしながら、しゃんと背を伸ばし花びらを広げる愛らしい花を見て回る。
「この花もきれいだね。特別な花というには物足りないかもしれないけれど」
「なかなか、それらしい花は見つかりませんね。……あら?」
 瑞希の視線が、ある場所にくぎ付けになる。ミュラーがその視線を追うと、青い花が咲く区画が飛び込んできた。
「空色の薔薇に、カーネーション……」
 話していた花が目の前に広がる。
 夜が近付いた橙の空の下、花々が青空のように広がっている。幻想的な光景に、二人は数秒、呼吸も忘れて見入っていた。
「すごい……空の上にいるみたい」
 瑞希はふんわりと頬を染め、空色の花たちに駆け寄る。
 澄んだ青色に染まったその場所は、瑞希の言う通り、まるで空の上のようだった。
「こんなに澄んだ空色のケシの花は初めて見たわ。こっちはチューリップとパンジーね。それに、あ、あそこにあるのはユリの花かしら? 本当に綺麗……」
「ああ。いろいろな花が咲いているのに、色は青一色だ」
 感動に声を震わせる瑞希の気持ちが、よくわかる。
 青が一面に広がる花々の中を歩く瑞希を、ミュラーはまぶしげに見つめる。
(ここを歩くミズキは空の上に居るようで……とても幻想的だ)
「ミュラーさん、こっち来てみて」
 はしゃぐ瑞希に、ミュラーは優しくほほ笑みかける。
 ――君が天使のようだよ。
 思わずもれたその言葉は、想い人の耳には届いてはいないようだった。だが、それでも構わないとミュラーは思う。
 彼女と紡ぐ時間は、まだまだあるのだから。
 とめどなくあふれる瑞希への気持ちを、いつかすべて、彼女に伝えられたらと思う。
 ミュラーは瑞希の隣に立ち、その愛しい横顔を眺めるのだった。


●幸せのパステルカラー
『ミサ・フルール』と『エミリオ・シュトルツ』が花咲く広場へと迷いこんだのは、デートの帰り道のことだった。いつもと違う道を通ったところ、迷子になってしまったのだ。
 だが、悲壮感はない。むしろ花々の見事さにミサはとろけるような笑みを浮かべている。
「すごいね、エミリオさん!」
「ふふ、そうだね」
 無邪気にはしゃぐミサに、エミリオの顔にも笑顔が浮かぶ。迷子になったとは考えられないほど、穏やかなやりとりだった。
「もしかして、ここが特別な花が咲く、妖精の加護をうけた花園なのかな?」
「妖精の加護をうけた花園?」
 エミリオが聞き返すと、ミサは花園についての噂を語って聞かせた。
「ねえ、エミリオさん。せっかくだし、特別な花を探してみない?」
 きらきらと輝くミサの瞳を前にして、断れるわけがない。
「もちろんいいよ。だけど、また雨の気配が濃くなったら、すぐに帰り道を探すからね」
「うん! ありがとう、エミリオさん!」
 ミサの満面の笑みに、エミリオはそっと目を細める。彼女の笑顔は、広場に咲き誇る花々よりも可憐で、魅力的だ。
「私ね、特別な花の正体は妖精さん自身じゃないかなと思うの。姿を花に変えて、この広場を見守ってるんじゃないかなーって」
「ふっ、ミサらしい考えだね。もしそうだとしたら素敵だね」
 彼女の予想も、とてもかわいらしい。だが、続いた「別々に探さない?」という提案には首をかしげる。
「べつにいいけど、なんで?」
「ふふ、秘密だよ♪」
「『秘密』って……いいけど」
 いたずらを企む子供のような表情を浮かべるミサに、エミリオは可愛いなと微笑み、一つ、注意をした。
「くれぐれも転んで花を踏まないように、いいね?」
 エミリオのそんな忠告を皮切りに、二人は広場を歩き始める。


 ――それから、しばらくして。
(エミリオさんに幸せになってほしくて『四葉のクローバーの形をした花』があったらいいなと思って探してみたけど……ないや)
 ミサは探していた花が一向に見つからず、しょんぼりと肩を落としていた。
「ミサ、俺の為に特別な花を探してくれていたの?」
「えっ? ……あれ、私、口に出していたの!? というか、なんでこっちに!?」
 ミサを呼びに来たエミリオは、彼女の真意を知り嬉しさからふわりと頬を赤く染める。
「あの……エミリオさん、ごめんなさい。私見つけられなかったの」
「いいんだよ、見つからなくてもミサのその気持ちが嬉しい。それよりお前の好きそうな花を見つけたよ。『マカロンみたいなパステルカラーのピンクで甘い香りがする花』なんだ」
「え、マカロンみたいな花!? どこっ!? みた……きゃあああっ!?」
「って、あぶな…っ!?」
 ミサの悲鳴と、エミリオの困惑の声が重なる。
 続きは――お互いの唇にふさがれて、音にならなかった。
「……」
「……」
 転びそうになったミサを支えるために動いたエミリオだが、バランスを崩しそのまま二人で倒れこんでしまったのだ。
 唇には、柔らかな感触が残っていて……。
「……ミサ?」
「……はっ! え、エミリオさん、ごめんなさい~!!」
 ミサは混乱しながらも、いわゆる事故チューをしてしまったと理解した。押し倒してしまったエミリオから慌ててどこうとしたものの、ほかならぬ彼に手首を掴まれ、阻まれる。
「あの、エミリオさん、私重いので、早くどかないと……っ」
「まさか、軽すぎるくらいだ。それに……すぐ離れるのはもったいない」
「ひゃえっ!?」
 頬を真っ赤に染めるミサの耳を、エミリオの吐息がくすぐる。
 二人を祝福するように、パステルカラーの花が揺れていた――。


●ダリアが告げる
 朝陽の下、かすかに雨のにおいが混ざる風を受けながら、『リヴィエラ』は『ロジェ』のことを考えていた。
(あの一件から、ロジェは私と目を合わせてくださらない……)
 ロジェはリヴィエラを殺しかけたその日から、リヴィエラのことを避けている。部屋にこもりがちなうえ、目も虚ろで生気がない。
 だが、ともにオーガと戦う人に――大切な人に、避けられているままでいいわけがない。
「今日こそはお出かけに誘うわ」
 気合いを入れてロジェの元へ行くと、こうお誘いをした。
「ロジェ、今日は暇ですか? 暇ですよね、あの、わ、私とお出かけしましょう!」
「お、俺は……出かけるのは……おい、リヴィー!」
 ロジェは拒否したものの、諦めないリヴィエラに折れ、しぶしぶではあるが出かけることを了承した。
 ロジェを連れ出すという第一関門は(多少強引だったが)クリアだ。
 そして、二人はタブロス市へと向かったのだが――


「……ここはどこでしょう……?」
「……知らん」
 気付くと、二人はさまざまな花が咲く、花園と言っても過言ではない広場へと辿り着いていた。
 風に揺れる花々に目を奪われたリヴィエラは、『妖精の加護をうけた花園と、花園に咲く特別な花』の噂を思い出す。
(もしかしたら、仲直りのきっかけになるかも……)
 リヴィエラは淡い期待を胸に、ロジェに花園の噂を話し、こう提案した。
「この花園、特別な花が咲くようなのです。ロジェも一緒に探すのを手伝ってくださいますか?」
「特別な花……俺はあれから、花を見るのが怖いんだ」
 ロジェの気持ちはわかる。だが、だからこそとリヴィエラは思う。
 花には本来、癒しの力があると知っているから。

 結局、リヴィエラの説得に折れたロジェも、花を探すことになった。
「……あ」
 花を探している途中、ふと、リヴィエラとロジェの手が触れあった。恥ずかしそうに微笑むリヴィエラを見て、ロジェは気まずそうに手と、目を逸らす。そして、まるで逃げるように、近くに咲いていた花へと手を伸ばした。
 だが次の瞬間、ロジェは小さな悲鳴をあげ、驚いたように手をひっこめる。
「ひっ、この花は……ダリア……!?」
「ロジェ!?」
 尋常じゃないロジェの様子に、リヴィエラは声をかける。
 そして、座り込んでしまったロジェが凝視していた花を見て、気付く。
白いダリアが、大輪の花を咲かせていたのだ。
 リヴィエラはロジェと視線をあわせるようにかがみこみ、深く息を吸うと、ゆっくりと口を開いた。
「ロジェはこのダリアが怖いのですか? 私を殺しかけたから? 私を傷つけた原因になった花だから?」
「……ああ、俺はあれからというもの、花が怖いんだ……! 君を殺しかけたから、怖い」
 苦しげに気持ちを吐露したロジェの右手を、リヴィエラは優しく包んだ。
 手のひらの中で、彼の手がびくりと、怯えるように震えた。だが、リヴィエラは離さない。優しく、強く包み込む。
 リヴィエラは、ロジェの深い紫の瞳を真っ直ぐに見つめる。
 そして――そっと。震える指先に、ふわりと唇を落とした。
「なっ……!?」
「私は怖くありません。白いダリアの花言葉は『感謝』」
 ロジェへの気持ちを、花園の妖精が伝えに来てくれたみたい。
 自分の気持ちが、少しでも彼に届くよう、リヴィエラは手に力を込める。
 その時、雨粒が二人の身体を濡らした。
 雨粒はリヴィエラの、そしてロジェの頬を伝う。涙のようだと思ったのは、果たしてどちらだっただろう。
 流れた沈黙を断ち切ったのは、ロジェだった。
「リヴィー……雨が降ってきた。そろそろ帰ろう」
「ロジェ、待って……!」
 ロジェはリヴィエラの手をひき立ち上がる。リヴィエラも、ロジェに引っ張られる形で腰を上げた。
 つながれた手とは裏腹に、心はこんなにも離れている。
(どうしたらロジェの心の傷を癒せるのでしょう……)
 小雨が降る中、リヴィエラはロジェの背中を追うのだった。


●見るたびに変わる君
 雨上がり、けれどまだ雨の気配が消えない微妙な空の下、『エセル・クラッセン』は『ラウル・ユーイスト』とともに、タブロス市内を歩いていた。
(タブロスに来て間が無いから、見物というか散歩というかなつもりで出てきたけど)
 迷子になってしまったな、とエセルは冷静に自分たちの状況を確認する。
 と、ヒュウと一陣の風が吹いた。そして、風に乗ってきたのだろう、一枚の花びらが視界の隅に映る。
 興味をひかれ、花びらが飛んできた方へと足を進めようとするエセルに、ラウルが声をかけた。
「どこへ行く?」
「さっき、花びらがとんできただろう? ちょっと気になってな」
 エセルが足を速めると、色とりどりの花が咲き乱れる広場へと辿り着いた。
(いや、花園か?)
わからないが、エセルはほうと息をつく。
「こういう所に着くなら、道に迷うのも悪くないな」
 そしてふと、『タブロス市のどこかに、妖精の加護を受けた花園がある』という噂があることを思い出した。その花園には、特別な花が咲いていると。
「なあ、ラルはこんな噂を知っているか?」
 後を追ってきたラウルは、己のことを「ラル」と呼ぶエセルに目を向ける。
 興味がなさそうなラウルを気にせず、エセルは花園の話を聞かせ、こう提案した。
「せっかくだ、特別な花を探していかないか?」
 ラウルは数秒思案した後、口を開く。
「雨に濡れて風邪を引いても知らんぞ」
 遠回しなラウルの了承に、エセルは軽く微笑んだ。雨の気配が濃くなったら帰ると約束して、広場へと足を踏み入れる。
「……特別な花は、どんなものなんだ」
「そこまでは知らない。いや、正確に言えば『そこまで詳しい説明がなかった』、だな」
「は? だとしたら、どうやって探すんだ」
「妖精の加護をうけた花園なんだろう? いや、ここがそうかは分からないけど。でも、だとするとその妖精が大事にしている花が特別な花だったりしないか?」
「さあな。そもそも花の事はよく分からん。……どんな花を特別だと思うかは人それぞれだろう。それを見た者が特別だと思えば、それが特別な花かもな」
「なるほど。そういう考え方もあるか」
「で、この広場のどこを探すんだ」
「大事にしてるなら奥の方? とりあえず、あっちに行ってみるか。ん、ラルも一緒に行くのか?」
「道に迷った先でさらに別行動するのは得策じゃない」
 ラウルの言い分は正しい。エセルは了承すると、広場の奥へと足を向けるのだった。


 ――花を探し始めてから、どれくらいの時間が経っただろう。
「……どれがそうか分からなくなってくるな」
 やはりそう簡単には見つからないか。
ラウルの方へ目を向ける。彼は、ある花に目を奪われているようだった。

(……昔、家の周りの花壇に植えてあったのは、何だったか……、確か、……キンセンカ、とかなんとか……? ……ああ、あそこの、あの花みたいな……)
 熱心に花々を眺めるエセルの近くで、ラウルはかつての家を思い出していた。 
「……いや、あれは似ているが、違う? 花の色がグラデーション? 光の加減で色が変わって見えるのか?」
 つぶやき、それは確信に変わる。その花はきらきらと、光の加減によって姿を変えていた。
「ラル? その花が気になるのか?」
 エセルはラウルの視線の先にある花を見て、頬をゆるませる。
「うん、ちょっと変わってて、綺麗だな。ラルはこういう花が好きなのか?」
 エセルの問いに、ラウルはゆるく首をふる。
「気になっただけだ」
 エセルはそうかとだけ返事をすると、先ほどの彼の言葉を思い出す。
「……『それを見た者が特別だと思えば、それが特別な花かもな』だったか」
「何か言ったか?」
「いや? それより、そろそろ帰り道を探そうか。もういつ天気が崩れてもおかしくない」
「やっとか」と広場の出口を目指し歩き始めたラウルの背に、エセルの小さなつぶやきが届く。
「……歩くの疲れた」
「雨に濡れたくなかったら歩け。担がれたくなかったらな」
 ラウルの返答に、エセルは思わず噴き出した。
「そうだな、担がれないようがんばろう」
 楽しげに返事をして、ラウルの背を追う。
 タブロス市の片隅で、和やかな時間は過ぎて行く。


●どこかで様子を見ていた誰かの独り言
 寄り添うように咲いた、桃と青、二色二輪の花。その隙間で、『誰か』は連日の訪問者を思い出し、そっと瞳を閉じる。美しい心を持つ皆の未来を祈る。幸多いものであれ、と。
 一陣の風が吹く。
 誰かの姿は消え、強い風にあおられた二輪の花はお互いを支えあうようにゆらゆらと揺れていた。
 その姿はどこか、どんな困難にも二人で乗り越える、儚くも強いウィンクルムを連想させた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月21日
出発日 05月28日 00:00
予定納品日 06月07日

参加者

会議室

  • [9]桜倉 歌菜

    2015/05/27-20:19 

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/05/27-20:19 

  • [7]桜倉 歌菜

    2015/05/27-20:19 

    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです!

    私も特別な花を是非見つけたいなって思ってます。
    いつもお世話になってる羽純くんに、格好良くプレゼントできたらいいな…!

    がんばりましょうねっ♪

  • [6]ミサ・フルール

    2015/05/26-13:04 

  • [5]ミサ・フルール

    2015/05/26-13:03 

    ミサ・フルールです!
    よろしくねー(ふにゃりと微笑む)
    私エミリオさんの為に特別な花を見つけたいと思っているの。
    お互いがんばろうねっ

  • [4]エセル・クレッセン

    2015/05/26-01:14 

    私はエセル・クレッセン。パートナーはラウル・ユーイスト。
    どうぞ、よろしく。
    どんな花が見つかるかな。

  • [3]瀬谷 瑞希

    2015/05/26-00:12 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。
    素敵な花が見つかると良いですね!

  • [2]桜倉 歌菜

    2015/05/25-00:05 

  • [1]リヴィエラ

    2015/05/24-07:56 


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